エルフ族の隠れ里
その大陸の西の果て、精霊の守護する森の中にその隠れ里はある。エルフ族の住むその隠れ里は、わりとオープンなお里柄で、里に住む者たちの2割は人間で、それ以外の魔獣や精霊たちなども自由に暮らしている。
隠れ里と呼ばれるのも、ただ精霊の守護する森は迷いやすく、精霊は気まぐれに人をからかい辿り着くのが難しいが為であり、当のエルフたちには隠れるつもりなど別になかったりする。
見た目はほぼ人と変わらぬエルフ族だが、彼らの平均寿命は300~500年ほどである。もはや開き過ぎていて平均という言葉の意味を調べ直してほしいが、王都の学校でも、ここ隠れ里の修道院でもそう教えられる。
この隠れ里が王都からも遠く、精霊の守護する森を抜けなくてはならないにも関わらず定期的に人の出入りがある理由は大きく2つある。
1つは、エルフと精霊と森が魔力を潤沢に循環させるこの土地で育つ作物はとても美味しく、この周辺の樹は新たに家を建てる際の大黒柱にすると、家に精霊が留まりやすくなり繁栄しやすくなる為、定期的に商人たちが商いに来るのだった。
もう1つは、この隠れ里に住まう竜。
それはとても美しい葵色の竜。火竜と水竜の間に生まれたとても珍しい色の鱗と特性を持つその竜を目当てに、人々はこの地を巡礼するのだった。
葵の花のような明るい灰色がかった紫色の竜は、火と水に愛され、その土地に豊かな実りを約束する。
そして、なによりこの竜はこのエルフの里の神殿を依り代とする為、常にその神殿周辺に居て、大概いつでも見られるのだ。
竜が見られると言うだけで大事件なのに、珍しい竜でしかも人間に友好的であることも相まり、あれよあれよという間にエルフ族の隠れ里は、立派な観光地と化したのだった。
これから始まるのは、
そんな他の竜たちよりも
もう少しほかの種族との距離が近めな
葵色の竜の日常を少しだけ覗き見る、
そんなお話。