23日目 れ:ぜろからはじめるいせかいせいかつ
「ありがとぉ・・・わらび餅。」
おぉ、可愛いやつめ。 魔石に帰る前に足にスリスリするの天使過ぎです。
わらび餅のおかげで俺の傷もフーリルの傷も綺麗に治った。 良かった。
「ごめんね。」
生き物って死んでしまうとこうなるんですね。 当たり前だけど目が生きてない。 顎が外れたみたいで舌は伸びきってる。 あーあ、だらんとしちゃって。 しゃんとしなきゃダメじゃない。
「おやすみなさい。ゴブリンさん。」
うーむ。 なんでだろう。 なんでだろうなぁ。
「じゃぁ、そろそろ帰りましょうか・・・アニキ。」
「ほら、マスター。行きますよ。」
「おう。」
空の色を見る限り、もうほとんど今日は残ってなさそう。 ちょっと急がないと暗くなってしまいそうだな。
急ごう・・・風が止む前に・・・。
(でもこの風、なんだか泣いています。ってやつですね、マスター。)
ふぅーもう暗くなっちゃったよ! すっかり夜だね! 多分今までで一番帰るのが遅くなった!
夜もなかなかギルドは騒がしいなぁー。 漏れ出てる明かりも一緒になって安心する。
「おう、お前らかぁ! 遅かったなぁ!!! お疲れ! ブワァッハッハッハ!」
「キリューさんもお疲れ様っス!」
「お疲れです。 キリューさん。」
これは・・・完全に出来上がっている! なんて真っ赤な顔! ジョッキの両手持ちとは・・・豪快な。
「おうおう! なんだ! 元気が足りてねぇぞぉおっ! オラっ!酒でも飲めっ!」
「いや、今日は大丈夫です! お気遣いありがとう!兄弟!」
いやぁ、いい人たちだぜみんな! いつまでも疲れっぱなしじゃいられねぇぜ!
「お姉さん! 依頼書と納品アイテムです!」
「あいよっ! 確かに確認したよ! お疲れ様!」
相変わらず気持ちのいい人だ。 疲れが吹き飛んでいくな! ・・・いややっぱ疲れたぁぁ。
「今日は帰ろう・・・!」
「そうっスね!今日はたっぷり食って、たっぷり寝るっす!」
はい!このテンプレはお気づきでしょう! このテンプレは! キング・クリムゾン!『結果』だけだ!! この世には家に着いたという『結果』だけ残る!!!
「すぐに料理作るんで待っててくださいっス!」
「ああ、ごめんね。」
「そうじゃないですよ、マスター。」
ん?そうだっけ? こういう時ってごめんであってるんじゃなかったっけ?
「いただきます!!!」
あ~~~うめぇぇぇ!!! 卵がやばい! プリップリで最強の食感だ! 味もジュワジュワ飛び出す! そして何よりもこの巻かれた葉っぱ! 余分な油を吸って、その旨みが存分に染み込んだ葉!そして油を吸わせたことによってしっかりとカリッと焼けて!それでいてうまく臭みがかき消された身! この葉の苦味がうまい具合に臭みを消しているんですよ!
「うますぎるぅ・・・なんだこの葉っぱは・・・大麻か?大麻なのか!? それぐらい犯罪的に中毒性があるぅ・・・。 いつもこんなうまいもん作らせてごめんなぁフーリルゥゥ。」
「その葉っぱはウタネス菜っス。喜んでもらえて良かったっス。」
ん? なんであんまり嬉しそうじゃないんだ? いつもなら目をキラキラさせて喜んで一緒に美味しさを噛み締めるのに。 どうしたんだってばよ!
「んー最後の一口がなんとも口惜しい! こいつを食べてしまったらなくなってしまうだなんで! うぅぅうぅうまい! ごちそうさまでした!」
「「ごちそうさまでした(っス)」」
いやぁ、美味しかったぁぁ。 あとは寝るだけ・・・いや、お風呂にも入らなきゃか。
公衆浴場まで行くのはめんどくさいなー。
「そうだアニキ! 今日は一緒にお風呂に入るっス!」
えっ/// やだっ! 急に大胆なんだから! まだ心の準備できてないのに・・・///
「あ、ズルいです! 二人で裸の付き合いなんて! 仲間はずれは無しですよ、マスター!」
ちぇっ。 俺たちのランデブーを邪魔しようだなんてひどい子だよ。 っていうかπって一緒に入るのオッケイなのか? 性別どっちなの? 声的には女の子だけど・・・というか性別あるの?
(気にしたら負けですよ、マスター。)
「ふぅいーーーーきもちーーーーー」
外で風呂っていうのもやっぱり乙なものだ。 そうです、今日は露天風呂に来ています。 なにやら釜だけ置いてあって周りにはほかに何もなかった。 薪と火だけ自分で用意すれば勝手に使っていいらしい。
「あ~~~最近こうやって夜空を見ることなかったな~。 きれいだな~。」
「そうっスね。 自分も何故か最近ずっと忙しくしてなきゃいけないような気がしてたっス。 ゆっくり見上げてみてみればこんなに近くに星ってあったんスね。」
あっ! ここあれだ! 元日本人的には言わなければいけんテンプレがある!
「・・・月が・・・綺麗ですね。」
「・・・そうですね・・・星も・・・綺麗ですね、マスター。」
えっ・・・本気にしちゃうよ。 俺。
いやーでも、本当に綺麗だ。 雲一つない星空ってやつ。 らんらんと光り続ける星たちはいつまで光り続けるんだろう。
「なー。なんなんだろうな。」
「なにがっスか?アニキ。」
「命の重さって何なんだろうなって。 何となくそう思ってさ。 平然とヘイメをとってた俺がなんでゴブリンを殺したとき、あんなに恐ろしくなったんだろうって。」
あぁ・・・手が重い。 沈んでいく。 挙げられそうにはないな。
怖かったなぁ。 死んでしまうかもって。 俺も、フーリルも死んじゃうかもしれなかった。
もしかしたら俺たちは今、こうやって見上げることができなかったかもしれない。
「そうっスねー。 なんでっスかね。 オレッチもまだ分かんないっス。 ただ・・・実感なんじゃないかなってたまに思うッスよ。 オレッチは馬鹿だから、死にそうになってやっとオレッチの命がなくなる実感があってやっとほかの命にも実感が宿るんだって。」
「そう考えると・・・重さなんてないのかもしれませんね、マスター。」
ああ、そうか。 なんとなく、なんとなくだけど命は平等なんて嘘でさ。 きっと見えないところで順位がついているんだと思ってた。
勝手にあいつは何位こいつは何位ってランキングにして重さを決めてる。
でも違うんだな。 命ってのは量り売りなんてできない。 価値なんてみんなない。
ただ、みんな死にたくない。 その実感があの時ようやくわかったんだ。
腕を伝ったあの恐ろしくリアルな感触は自分の未来でもあって・・・ようやく気づいたんだ。
「フーリル、お前って頭がいいよ。 最高に賢いぜ!」
「ありがとうっス兄貴! でも、アニキのほうが賢いっすよ!」
ん?そうだっけ? そういえばそうだった気がする。 そうか、きっと俺ってスゲェんだ。 だから世界のためにも、仲間のためにも、自分のためにも生きていかなきゃ。
「ふっふっふ! 何を当たり前のことを言ってるんだ! そうさ俺は天才だ! だから、俺にちゃんとついてこいよ! 最強の冒険者の背中にな!」
「アニキっ!」
「スマター・・・!」
ん?なんか間違えてなかった? 気のせいか。 気のせいだ。 きっとそう。 俺は何も聞いてない。 ん?なんだって?ってやつ。 コレテンプレ。 オレシッテル。
「だから・・・ありがとうな。フーリル、π。」
ようやくわかったってやつだよ! そうだよな! そうだよ! 感謝だよ! すべてのものに感謝なんだ! すべてのものにお礼なんだ!
「ふっふっふ、どういたしましてっす! オレッチからも、アニキ! πのアネキ! ありがとうっス!」
「えぇ、えぇ。 私に感謝を示すのは当然ですもの。 なんてったって、私は超スーパーサポーt」
「よっしゃ! 今日もぐっすり寝て明日も頑張るぞ!」
「ちょちょちょっ!待ってくださいよ! もう! おほん。 フーリル、マスターありがとうございます。」
うぅむ・・・ちょっと背中が痒くなるのぅ。 そしてニヤケ顔が治らんわ・・・。
「あ、そうだ! アニキ! いい飲み物があるんスよ! んーとこれっス!」
「おおぅ、なんという泡立ち! 炭酸ジュースですね。 知ってます。 これはただの炭酸ジュースです。」
「お祝いの日に飲む、秘伝のディープルのシュワシュワっす!」
なんともうまそうな見た目だ・・・紫色のシュワシュワが揺れてる・・・色と香り的にはぶどうに近いのかな?
「よっし、いいか? 気持ちよく飲み物を飲むにはテンプレってのがあってだな。」
コショコショコショッと分かったな、フーリルくん! もちろんπも仲間はずれにはしませんとも! 写真、取らせていただきました!
簡単なことだった。 こうやってみんなで幸せを作る。 そうさ、それでいい。 みんなで作っていけばいい。
こんな時のテンプレも知ってるぜ!
そうさ!ここから、ぜろからはじめよう。 ぜろからはじめるいせかいせいかつを!
「「「かんぱーい!!!!」」」
んぅ~~~~火照った体にしみる~~~~
星空の中で飲むシュワシュワ
そうです。きっとこれなんです。 生きるってきっとこれなんですよ。
「ピロン!称号を獲得しました!」
ん?なんだなんだ?・・・称号?
「・・・冒険者?」
19日目です。あと未成年なんでお酒ではないです。未成年なんでお酒ではないです。
大切なことなんで2回言いました!
訴えられないかビクビクしながら書いてます。




