卓球部の山崎君
卜伝の二作目です!
「少女は今日も人類滅亡の夢を見る」を読んでくださっている方はありがとうございます!
今作初めて卜伝の作品を読むよ~という方は初めまして!
卜伝です。トデンじゃないですボクデンです。
見切り発車なうえに不定期更新ですが楽しんでいただけると幸いです!
誌氏子さんの知的?好奇心を満たすための物語は始まったばかり!
どうか末永くよろしくお願いします。(・・・あれ?なんか違う気が・・・)
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一人の少女が木陰に座っている。
はあ、今日は鏑木氏も三屋氏も来ませんねえ。
面倒ですが、自分で立つとしましょう。えっと、立つときは後ろに手をついて、と。
「よっこらせっと」 いけないいけない、声が出てしまいました。あんな言葉を殿方に聞かれたら、おそらく私はもう立ち上がれなくなるかもしれません。
っと、それにしても面倒ですねえ、自分で立つという動作がこんなにも面倒だとは。
これからは鏑木氏か三屋氏が来て、起こしてくれるまで立たないことにしましょう。もう二度とこんな面倒なことはしたくありませんから。
立ったはいいですが、何をしましょう?
せっかく立ったのですから何かしたいものです。
ん~、そうですねえ、前に鏑木氏に聞いた【山崎来栖】氏のところに行ってみますか。
どんな方なのでしょう。お名前からは女性のようですが・・・分からないので、お会いするのが楽しみです。
さて、鏑木氏から伺った通りならば【山崎来栖】氏はここ、卓球部の部室にいるはずですが・・・
見当たりませんね。私の眼から逃れるとは、さすが鏑木氏が話しただけの事はあります。
とはいえここまで頑張って歩いてきたのです。今更引き下がるなど出来ましょうか。
聞き込み開始です!
わたしはそう意気込んで卓球部の部室に入っていきます。
「失礼、つかぬ事をお聞きしますが、ここに【山崎来栖】という方はおられるでしょうか?」
「は?山崎来栖?あの糞か?いや、いくらあいつでも糞はかわいそう・・・とも言えないか?
ま、まぁ、俺にはわからんな」
なんだか最初の方はよく聞こえませんでしたが、この方はわからないそうです。
残念。まあ、気を落とさず次の方のところへまいりましょう。
「と、ところであんた、名前は?」
「おっと、そうでした。質問させていただいたのに名前も名乗らずお恥ずかしい。
私は川水誌氏子と申すものです」
「え、誌氏子さんってあの!?」
「はあ、何のことかは解りかねますが、誌氏子はこの学校では私しかいないかと」
「や、やっぱりですか。
あ、じゃ、じゃあ俺はこれで」
「ありがとうございました」
最後は釈然としませんが、気にしないでおきましょう。この世は気にしてはいけないことであふれているのですから。
それにしても、ここまで歩いたのに私の眼に入らないなんて、と少女、改め誌氏子さんは考える。だが、久しぶりに自力で立ったのだ。何かしなければ立ち損になってしまうでしょう。誌氏子さんはそう考え行動に移します。
さて次は、あの方が良さげですね。さ、リベンジといきましょう。今度こそ【山崎来栖】氏の情報を聞き出して見せますとも。
「失礼、つかぬ事をお聞きしますが、ここに【山崎来栖】という方はおられるでしょうか?」
一字一句違わずに目の前の卓球部員に問いかける。
「え?誰この人?ていうか今は部活中じゃ?」
「その通りです。しかし私はやることがなく暇、もとい退屈だったので【山崎来栖】氏に会いに来たのです。」
「は?え、来栖の知り合いですか?」
「いえ」
「あ、あぁ、そうですか」
諦めと困惑の感情を顔に出しながら卓球部員が答える。
「えっと、来栖なら・・・あそこです。ほら、あそこで今後輩と試合してるやつ」
「そうでしたか。彼が……鏑木氏が話したのですからもっとこう、なんか、個性的な顔を想像していたんですが・・・」
卓球部員が指さした方にいたのは、そこら辺にいる人と何ら変わったところがない没個性的な人物がいました。
なぜか呆けた顔をしている部員の人にお礼を言ってから【山崎来栖】氏が良く見えるところに向かいます。
何故か【山崎来栖】氏の顔にはとってつけたような笑みが張り付いていましたが...
鏑木氏と三屋氏以外と話すのは久方ぶりですね。さて、どうしましょうか。
まあ、今考えても解決する問題ではありませんね。【山崎来栖】氏が来てから考えるとしましょうか。
なんにせよ楽しみです。
しばらくすると後輩との試合が終わったのか、【山崎来栖】が誌氏子さんの方にやってきた。
ちなみに情報提供してもらった部員には礼を言って練習に戻ってもらっている。
未だにこちらをちらちら見てくるが・・・
さてさて、どんな方なのでしょうか?
あの鏑木氏が話したのですから期待させてもらいますよ。
誌氏子さんがそんなことを考えているうちに案外近くまで寄って来ていたみたいで
【山崎来栖】氏が
「ちょっと―、誰ですか勝手に見学に来てるのー。
困りますよー、今は練習中なんですからー。
しかもここ男子卓球部ですよー」
と話しかけてきた。
どうやら見慣れない誌氏子さんを見学者と勘違いしたみたいです。
しかし何とも間延びした話し方ですね。なんだかほんとに鏑木氏が話したのか自分の記憶に自信が持てなくなってきました。
「こんにちは。川水誌氏子と申します。今日はあなたを訪ねてやってきました。
わざわざ立って(ぼそっ)」
閉話休題まずは挨拶。基本ですね。最後のは恐らく聞こえていないでしょう。
聞こえていたとしても事実なのですから問題はないですがね。
さてさて、どんな人物なのでしょうか?
「それはどうもご丁寧に。えーっと、僕は山崎来栖というものです。えーっと、一応キャプテンをやってます。
ところで以前お会いしたことがありましたかね?」
「いいえ?」
「はぁ、それならなぜこんなところに?」
「鏑木氏にあなたの事を伺ったからです」
「え!鏑木さんに?へー、あの人誌氏子さんと面識あったんだ」
「面識というよりかは、毎日立たせてもらう程度の仲ですかね」
「は?立たせてもらう程度の仲?」
「はいそうです。
・・・ま、そんなことはどうでもいいです。急ですが見学させていただいてもよろしいですか?」
「そりゃもちろん。誌氏子さんなら大歓迎ですよー。
何しろ箔が付きますからね」
「この学校で私はどんな扱いなのでしょうか?
いささか不安になってきましたね」
そんな会話を無表情で繰り広げた後、誌氏子さんは体育館の壁際まで歩いていき座る。
どうやらそこで見学するらしい。
山崎来栖もそれを見た後
「次もう一回オールラウンド―」
と言いながら卓球台に戻っていく。
ちなみにオールラウンドとは三点試合のようなものだ。
閑話休題
誌氏子さんは壁際で山崎来栖をジーッという擬音が付きそうなほど見つめる。
どうやらオールラウンドが始まったようだ。
ジーーーーーーーー
誌氏子さんは山崎来栖を見つめ続けた後、呟く。
「あの方は・・・エグイですね」
そう、なんというか・・・山崎来栖の卓球の戦い方は相手の精神から揺さぶりをかけていく・・・はっきり言ってド屑な戦い方だったのだ。
具体的には自分と相手の点差が大きい時ほど声を張り上げて点数差を言ったり、相手がサーブをすると同時に声を出したりだ。・・・もちろん相手がミスしたら笑うのも忘れない。
おもえば、初めて見た時に不自然な笑い方をしていたのも、後輩を甚振っていたからなのだろう。
「やはり私の見当違いでしたね。
さすがは鏑木氏が認めるだけのことはあります。あんな戦い方をする人物は初めて見ました」
現に今戦っている後輩君は青い顔をしている。・・・心がおられたであろう後輩君には冥福をお祈りしておこう。
「今日はいいものが見れましたね。」
誌氏子さんはそう言うと『私はいつも中にはの木陰にいます』と書いた置手紙を残して去っていった。
彼女は今日も知的?好奇心を満たすためにこの箱庭のどこかにいるだろう。
彼女の好奇心は満たされることはない。
それがある限り彼女は動き続ける。
それが彼女の存在意義なのだから・・・