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ユージーンの質問にルミがハイ!っと勢い良く右手を挙げる。
「なんかにーにぃ偉そうさ。であります!」
「ゆーかーも、るーみーと一緒に映画でみたわけよー、にーにぃみたいな喋り方してる人のこと、軍曹っていうんだよ!」
とっても強くて偉そうなんだよーと続けるルミの瞳が日の光を受けて輝いている。
「海みたいな目してるから、この間みた映画にでてたへろーうっどすたーかと思ったわけさー。」
ユカも興奮冷めやらぬといった表情だ。
ユージーンは二人と会話をしながら、頭の先からつま先まで、そしてスペクトルスキャニングによって服の内側から体内に至るまで危険物を所持していないことを確認する。
「お前たちの言いたいことはわかった。俺は仕事でこの島に赴任してきたUG-3という者だ。ヘローウッドスターではない」
男がそういうと、二人は後ろを振り返る。
「ねえゆーかー、すりーってバッターって意味だった?」
「ちがうよるーみー。サードだったはずよー。」
ルミと名乗った方が、腕組みをして考え込んだあと、合点がいったように手のひらにこぶしを打つ。
「あはー、ゆーじさんどー(ゆーじさんだよ)っていうダジャレかな。」
それを聞いてユカも大きく頷く。
「であるはずね!さすがるーみー。」
二人がこそこそと話している内容は男には丸聞こえだった。
「おい、貴様ら勝手なことを言うな。ニンゲンがその昔たしなんでいたという球技の話か?あまり要領を得ないが…。俺はゆうじではなくUGだ。」
「ん?だからゆーじと、すりーって3でしょー。」
とユカが指を三本たてながら言うとなりで、ルミは「ゆーじさん!ゆーじさん!」と連呼しながら飛び跳ねている。
「ちょんまげにそばかす、貴様ら、いい加減にしないか!」
ユージーンがそう声を荒げると、キャーキャーいいながらそこらへんを飛び跳ねたり転げまわったりと、
二人で盛り上がっており、完全にユージーンは置いてけぼりにされてしまった。
とりあえずやりたいようにやらせておくのが得策と判断し、ユージーンは直立で彼女らが落ち着くまで待つことにした。
「はぁーゆーじにぃに面白いねー」
息が整う間もなく飛び跳ねたせいか、ルミは肩から息をしている。
「気が済んだか?」
「「はぁぁぁぁぁ。うん!」」
深く深呼吸をし、二人同時に答える。
「では、この島に連邦の管理施設があるはずだが、知っているか?そこに外部から来たものが常駐しているはずだが」
少女二人は顔を見合わせ、
「あはーあるよー。ケイトちゃんの家のことねー。」
ユカが答える。
「ケイトちゃんの知り合い?したら案内するさー!いくよー!」
いうが早いはルミは自転車にまたがる。
「ゆーじさん、いくよー!着いてきてね!」
そうして二人は来た時と同じくらい、力いっぱいペダルを踏みこみ坂道を駆け上ってゆく。
「あいつら、俺は徒歩なのだが…」
とはいえ、ニンゲンのアナログな乗り物の速度など、ユージーンにとっては大した速さではない。
一呼吸おき、下半身を駆動し、二人の後を追って走り出す。
生身の人間では到底出せない速度に到達し、すぐに少女らに追いついた。
「あい、ゆーじにーにぃでーじ速い!!!」
「るーみー後ろ向きながら漕いだらあぶないよー」
そういいながらもユカもチラチラとユージーンを振り向きながら自転車を漕ぐ。
そうしているうちに、ガジュマルの林を抜けると、坂道が緩やかな平地になり、道の両側に畑が現れた。
ぽつぽつと農作業をしている者の姿が見える。
農業をしているニンゲンたちが三人の姿に気が付き、手を止めたままギョッとした表情で佇んでいるのを横目に、ぐんぐんと畑地帯を抜けていくと、家々の屋根が現れる。
瓦を葺いた屋根が連なり、小さな町くらいの規模の住宅地が広がっている。
「ゆーじさん。もうすぐつくよー」
ユカが髪の毛を顔にまとわりつかせながら言う。
坂道が緩やかになり、ルミが続けて、自転車の速度を上げる。
「らすとすぱあといくよー!」
土煙を挙げながら、あっという間に街中を通り抜け、他の家に比べて少し大きめの建物の前に着いたとたん、二人は急ブレーキをかけた。
「っとと。いきなり止まるな、馬鹿者」
そうこぼすユージーンの心境を気に掛けるでもなく、
二人は自転車を家の側に止めると、ドアをノックする。
「ケイトちゃーん、るーみーとゆーかーですよー!ゆーじさんもいますよー!」
ルミが大声で言うと、中からハスキーな女性の声で「はいよ!」と返答があった。
間もなく扉が開かれると、ニンゲンの男性より頭一つ分背の高いユージーンと同じくらいの身長の金髪の女が現れた。
「ハーイハイ、あんたら相変わらず元気だね!今日はどうしたんだい?」
二人の頭をなでながら、にこやかに応対する女がユージーンに気づく。
「おや、先月連邦から補充が来るって連絡があったけど、あんたがそうかい?」
そう返答した女に対して、ユージーンは違和感を覚える。
「……お初にお目にかかる。UG3だ。」
「私はケイトリンよ。皆はケイトって呼ぶけどね。」
「失礼だが、貴女はなぜ感覚制御機能をオフにしているのだ。我々の情報伝達はそれを使った方が早いだろう」
そういうと、女は面白そうに右の眉をあげる。
「あんたの言いたいこともわかるが、この島だと必要ないものだからねえ。外からきたのは私だけだったしね。まあ、あんたも時期に慣れるさ」
「というと、今後も使用するつもりはないのか。何故だ」
「まあ、色々と話したいことはあるだろうけど、立ち話もなんだし、とりあえず中に入りなよ。」
二人のやり取りを眺めていた少女たちは何を言っているのか理解できたとは言い難い表情をしている。
「ルミ、ユカ、あんたらも中に入って休んでいきな。汗だくだよ」
ケイトは豪快に笑うと、三人をリビングに招き入た。
なかなか話が進まない……。