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玉の緒よ  作者: 池田瑛
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4 婚約者からおにぎりの差し入れです

「佐藤様、お味の方は如何でしょうか」


 夕方の囲碁部の部室。緊張した様子で正座をしている伊集院静。昨日、どうやら俺たちは婚約者同士になったようだ。


 緊張している伊集院静だが、俺も緊張している。婚約者となった伊集院静さんの手料理。おにぎりを食べている。夕飯にと作ってきてくれたようだ。


「明日より、佐藤健一様に夕飯をお持ちしたいのですが……」


 自己紹介を終えたあと、伊集院静がそう切り出した。

 婚約者となったからには、お弁当を作るというのが伊集院家のしきたりなのだろうか? だが、それなら昼ご飯が良いのではないか? わざわざ夕飯である意味が分からない。

 確かに、國與女大学のカフェテリアは充実している。廉くて旨い。あまり女子大でイメージがないだろうが、実は「大盛り」も無料だ。パスタも、基本は乾面換算で80グラムが一人前らしいが、160グラムもあり、大盛りでも追加料金は不要だ。

 丼モノなども、うな丼を大盛りで頼むと、ご飯だと大盛りというようなことにはならないで、うな重が出てくる。ちなみに、鰻が二倍出てくると言う意味で、重箱に入って出てくるという意味で、國與女大学では使われているようだ。

 そんなふうに、カフェテリアが充実しているから、昼ご飯ではなく夕飯を準備してくれるということなのだろうか。

 もしくは、伊集院龍三氏が調べた俺の個人情報から察するに、俺が夕飯は適当で、カップラーメンとかしか食べていないということを伊集院静も知っているからであろうか。いや、どれだけ俺の個人情報は駄々漏れなのであろうか。

 別に夕飯がカップラーメンでも、朝と昼をしっかりと食べているから、夜は軽くでも良いとは思うのだが……。


 それにしても、なぜおにぎりなのだろうか? いや、お節料理などを期待していたというわけではないのだが。いや、正直、肉じゃがとかは実は期待していた。


「美味しい。塩加減が絶妙だと思う」


「良かったです」と、ほっと安心したように胸を撫で下ろし「おにぎりの具は、何がお好きですか?」と伊集院静は尋ねる。


 おにぎりというのは確定なのか。なぜだ? また、何か伊集院家のしきたりか? だけど、地雷が眠ってそうで聞くことが躊躇われる。


「高菜、めんたいこ、シャケ、チキンマヨ、……なんでも好きかな」


 ザ・無難チョイス。


「高菜、めんたいこ、シャケとツナマヨ? ツナマヨでございますか?」

 なぜかメモを取り出し始める伊集院静。そして、チキンマヨで首を傾げているようだ。


「コンビニで一応定番なのだけど」


 本当は、筋子とかイクラも好きなのだが、ちょっとそれは具材を用意するのが大変だと思って言わなかったのだが……。


「分かりました。ご期待に添えるように頑張ります。では、私は部活動の方に行って参ります」


「百人一首部だよね。新入生は集まりそう?」


「それが……芳しくありません。このまま部員が入らずに私が卒業してしまったら歴史ある百人一首部が……」


 そっと視線を畳へと移す。それに合わせて耳に引っかかっていた長い髪が垂れ幕のように伊集院静の表情を隠す。


「あれ? いま、伊集院さんは三年生だよね? 二年生はいないの?」


「百人一首部は、現在、私一人でございます」


「ん? 百人一首って、一人で出来たっけ?」


「できません……」


 ですよね。って、顧問だけしかいない囲碁部も酷いが、部員一人しかいない百人一首部の方が状況は酷いかも知れない。囲碁は一人でも、棋譜を並べて楽しむことができる。パソコンやスマホでネット対戦しても良い。だけど、百人一首は……。

 普段、何の活動をしているのだろう? 一人坊主めくり? いや……つまらないだろう……。

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