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8. ボクっ娘と次期国王?

「ねぇ、ふと思ったんだけど。もうその古代魔法は消えたんでしょう? じゃあ何でユウキをこっちへ送り込んだの? そのままそのニホン、だっけ? ユウキはそこにいた方が安心じゃない」


 エルが疑問を投げかける。


「ああ。その通りだ。しかし、異変があったんだ」


 勇輝を見守りながらも日本とユルドの世界を行き来する太田は、人間族の力が極端に上がって行く事に異変を感じるようになっていた。

 ユルドの大地に広がる魔素が不安定になったせいだとあたりをつけるも、原因までは突き止める事が未だに出来ていない。

 しかしこの時、ユルドの大陸にいくつも存在するギルドのトップランクでもAクラス。時代と共に冒険者の平均ランクは下がっていたのだった。


「完全なる平和ボケであろうな。世界の人と人との溝が近しくなったのは良いことだが、貿易ばかりに目を向けすぎるんだ。」


 1000年程前までは純粋な人間族、獣族、エルフ族というように別れており、それぞれの平均寿命は70才、60才、250才。種族間の溝は次第に長い年月を掛けてなくなっていき、現在では純粋な種族はほぼおらず、9割方がハーフ族となっている。その平均寿命は実に180才にもなる。


 ぬるま湯に浸かり、平々凡々に暮らす事が幸せだと考える様になった人々は、戦争という二文字からは次第に遠ざかり、名を上げようとする者や力を欲する者も少なくなっていった。

「まるでどこかの長閑(のどか)な村みたいだな」そう言った勇輝の言葉は当たっているのかも知れない。


 しかしこの異変を境に、人間族の中でも特に魔法に長けている者が元アイオライズの領土であった魔の森へ次々に集まると、自分達の事を魔族という呼び名に変え、高い壁を作り、外部の接触を断ち切った。

 それと同時に魔素を糧とする魔獣の数も変貌、増殖し、被害はどんどん拡大していくことになる。


「Sランクなんて今のユルドにはおらんし、Aランクの冒険者の数でさえ高が知れている。かと言って国々が抱える騎士達はただのお飾りレベルの者達ばかりだからアテにもならん。それならどうするか、と考えた時、ワシと准来は勇輝が大きくなった時に共に戦って貰う事を望んだんだ」


 ハリオベルと勇輝が持つ生来の力を合わせれば、との勝手な希望だ。それこそ、某有名ゲームのようにで王様が初めて勇者を送り出すかの如く──。


「で、俺がその勇者ってわけか。まるっきり実感が湧かないどころの次元じゃないな。 マジでゲームの中に連れ込まれてんじゃん、俺」


「それもあながち間違ってはおらんのだ」


「ん? どういうこと?」


「ワシの親父がこの国の王だからな」


「はぁ!? じゃあ何? 太田のオヤジはこの国の第二国王!?」


「ま、そういうことになるな。詳しくはまた後日話すが、誰にも言うんじゃないぞ? この国でさえワシが国王の(せがれ)だと知る者は多くないからな。とは言っても、全くやる気にならんがな。がはははは!」


「笑ってる場合かよ! なんか、話に全くついていけてねぇわ、俺」


「オータさんって私と同じ王族だったのね。なんか親近感だな。でも、ユウキも私もいつの間にかお伽話の登場人物にされちゃってるわね。それこそもう今迄の全部が全部、何かに導かれているような……。まるで、この世界が、この世界の神様がそう仕向けているような、ね」


「うーん、まぁ言ってる事はわかるんだけど、それもやっぱりゲームなんだよな。ところで、その異変ってのが起こった原因、ていうか黒幕はわかってんの?」


「ああ。ダルフ・エス・アイオライド。とワシは睨んでおる」


 魔法に長けた者を数多く支配下に置き、現在も魔の森で力を付けているであろう者の名。その中身(・・)は全く別の者という可能性も十二分にあるがな、と目を落とすエルに付け加えるように言った。


「と、いうことはやっぱり……」


 エルの心当たり。それはエルと母が最後に交わした言葉だった。


『私には遠い未来のユルドを守る使命があるの。エルにとても辛い旅をさせてしまう不甲斐ない母でごめんなさい。でも、あなたならお父様を──』


 あの時空の塔へと送り込んだのはミュレイ・ワール・アイオライド、エルの母であろう。なぜ自分がその役目を担う事になったのか、それももしくはミュレイの予言の一つなのかも知れないし、先ほどエルが言ったような、世界からの導きみたいなものかも知れない。


 じっと考えるようにエルは目を閉じると、考えを纏めたのか立ち上がり、ほんの少しの笑顔で上を見た。


「あーあ。やっぱり信じるしかないのかぁ。ついこないだまではアイオライズで暮らしていたのに、今は1000年後のセリューだもんね。それこそアイオライズの伝承を作った人すら実はお母様なんじゃ? って気がしてきたわよ。でも、そう悪い話ばかりじゃないわよね。こうしてヘンテコだけど勇者は見つかったし、1000年前も今も、目的は同じだもの。わかりやすくて助かるわ」


「助かるにはいいが、俺をヘンテコ呼ばわりすんな」


 適度にツッコミつつ、いや、確かにこの格好はヘンテコだわ……と、左手首に触れ、元の姿へと戻った。


「よし! じゃあ折角未来のサリューに来たんだし、ちょっとそこら辺でもブラついて来るわね」


「じゃあエル様、ボクもお供」


「たまには一人で散歩させてよ。もうノアったらそんな私にくっ付いてばかりじゃ、お婿さんの貰い手なんかいなくなっちゃうわよ?」


 ん?


「……わかりました。ですがくれぐれも」


 ちょ、


「大丈夫よ。すぐ戻るわ」


 いま、え?


 そう言ってエルは足取り軽そうに外へと出て行く。


「……ま、そう簡単に割り切れることじゃないわな」


「ちょ、ちょっと待て。いま、なんと? え? 婿? 悪いがこれはスルー出来ないわ。ノアって女の子なの!?」


「はい。とは言え、ボクは婿を貰うつもりなんかまだありませんが」


「まさかのボクっ娘!?」


 それも聖獣。テンプレさんも涙目である。


「ノア、いいのか? おまえはエルとアイオライズの守護だろう?」


「まさかのスルー!?」


「大丈夫です。エル様にはつい先ほど"加護"をつけておきましたし。それに、これくらいで折れるようではこれからのアイオライドの領主は務まりませんからね」


 聖獣は国を守るのが役目だそうだが、今のノアはそこまでの力はなく、人を一人守るのが精一杯だという。今使った力は身与の加護というもので、与えられた者の危機を代わりに受ける式神的なものだそうだ。とても便利な魔法ではあるが、聖獣にしか扱えない力らしい。


「なるほどな。さて、では選ばれし勇者よ」


「ゆ・う・き、な? 俺の名前は勇輝だ。そんなゲームみたいな台詞やめてくれ。笑っちまう」


「ガハハハ! すまんすまん」


「それはそうと、さっきも聞こうと思ったんだけど、このハリオベルってのも呪われたアイテムなわけ?」


「ん? それはどういうことだ?」


「いや、エルがそんな事を言ってたからさ。何でも災いがどうのって」


「ああ。それは全くのデマだな」


 え?そうなの?さっきと言ってる事が違うんですけど。

 ノアさん?口あんぐりしてる場合かね?


「とは言ってもノアやエルが間違っていたわけでもないぞ? 昔はそう信じられていたというのも確からしいしな。だが、どんな文献を探してもハリオベルを筆頭に、数ある力をなくしたアーティファクトに纏わる話では、呪いの類が掛かっていたというのはないからな。今現在の研究結果ではそう信じられただけ、ということで間違いなかろう」


 そういうことなら安心か。地球でもそういった話はあるしな。エジプト時代とかのアーティファクトだったり壁画だったり。


「ところで勇輝よ。お前はワシを筆頭に、准来や愛衣にも恨み辛みを言う権利も、今の置かれている状況を拒否して日本へ帰る事も出来るのだが……それをしようとすらしない理由を聞いても構わんか?」


「まぁ、ね。別にまるっきりわだかまりがない訳でもないさ。いくら成功しているとは言っても、自分の中に核弾頭みたいな爆弾を入れられてるようなもんだ。もし何かの拍子に導火線に火でもつけようモンなら、って思わなくもない。だけど……父さん母さん、それに太田のオヤジが守りたい世界があって、それを俺が知らないうちとは言え手助けが出来る状況にある。なら、さっきエルも同じ事言ったけど、そんなに悪い話でもないかな、ってさ。たとえ身勝手だろうが、ゲームの中みたいな話だろうが、ちゃんとした理屈も理由もあるんだ。だから俺からしたら、それを頭っから否定して逃げ出すほど子供じゃないつもりだ。って話だよ」


「そうか……。随分逞しくなりやがって。じゃあ早速だが動いてもらおうか。ええ? 3人の親想いの勇輝さんよ」


「ああ。何でもやってやるよ。半分は俺の故郷でもある訳だしね。もちろんエルの為にも、さ」


「……惚れたのか?」


「台無しだよ!」


「え? ユウキ様がエル様とくっついてくれたらなぁって思ってたんですが、違うんですか?」


「ノアまでアホなこと言うんじゃねぇよ! ていうかテンプレさんにあやまれ!」



 せっかく少しカッコつけたのに。




 と後悔しつつ盛大にツッコんだ。

お読み頂きましてありがとうございます。


作者も驚く、まさかのボクっ娘ノア。

そんなノアちゃんをモフりたい今日この頃です。


そういえば勇輝の奴、モフモフしてましたね。

セクハラになるのかなぁ。

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