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7. 初めての魔法

「呪い?」


 そうオヤジに聞いたのは勇輝だった。


「ああ。おまえとエルは会話を耳にする事なく出来るのだろう? ここに来るまでの間でそのようなやり取りがあったのを二度、見ておるからな」


 勇輝は太田が突然砂漠に現れてすぐの時と、そこからこの街へ魔方陣で移動する直前を言っているのだと気付く。


「洞察力すげぇな。しっかし呪いと来たか。エルとノアの話からすると突然変異のような、先祖返りっていうの? そんなものと想像していたからなぁ」


「それもあながち間違いではない。ある意味ではユニークスキルと呼べるしな。だが、そのスキルのせいで」


「そこは私が話すわ」


 俯いていた顔を上げるエルのその目には、悲哀に満ちた何とも言えない表情が伺えた。


「ふむ。まあ自分の口から話すのも良かろう」


「ごめんなさいユウキ。あなたを巻き込むつもりは更々なかったのだけれど、どうやら私はあなたのその力を貸してもらう必要がありそうなの」


「俺の力?」


「ええ。私達の一族アイオライズには伝承があるのよ。


『天星の緋色落ちる時、菫にて無色を伝い、巡り合いとて祖を救う』


 文献にも載っているわ。もっとも、今でもあるかどうかは分からないけれどね。この菫というのは私達アイオライズの国の色。無色を伝うは念話の力。つまりは私。そして、緋は」


 そこまで言ってエルは勇輝を見て押し黙る。


「ああ、なるほどな。エルとノアは俺の事を見て勇者って呼んだものな」


 ノアはあの姿をセレスレッドアーマーと呼んでいた。あの色からしても緋というのはそういうことだろう。

 緋色落ちる、って別に落ちてきた訳じゃないが。


「……そうよ。ハリオベルの能力だったとは想像もしなかったけれど、私達の国ではセレスレッドは勇者が遺した装備だと伝えられているの」


「ふむ。んで、その二人がユルドの地を救うってのはいいが」の後に続いた言葉に驚きの顔を見せた。


「なんで念話の力を持つ者は死に至るわけ?」


「なんで知って……」


「やっぱりか。オヤジの話を遮ってまで自分で話そうとしたんだ。なんとなく予想は出来たよ。でもなぁ。

 あそこでも言ったように、俺に助けてやれる力なんて何もないぞ?今からまた鍛えろってか?」


 想像するだけでもウンザリする。

 幼少の頃から両親に鍛えられたとはいえ、あの特訓と稽古をまたやるのかと思うと途端に気が重くなるが、何でもやってやるよと言ってしまった手前、後には引けないのもある。

 すると太田が「そいつを開放してみろ」と腕輪を見て顎をしゃくった。


「いやいやいや。またあの厨二になれって? それはオヤジの格好だけでいいって」


「厨二っておまえ……ハリオベルになんて事をいいやがる。ってこら待たんか。ワシの事まで厨二言うな。こっちではこれが当たり前だ」


「ああもう分かったよ。んで? どうやって起動させるんだ? さっきは突然にああなったけど、また念じるわけ?」


「いや、正確には魔力を使う」


「それってあの建物でエルが使った魔法? 俺にもあんの?」


「それはワシは見ておらぬから知らんが、魔力というのはこの大地で生きとし生けるもの全てに流れる血のことだ。人によっては得手不得手はあるから殆ど使えない者もおるが、今現在のユデルには魔法を使える者はたくさんおる。このワシも例外ではないしな。そういう意味ではお前は例外中の例外だ」


 現在のユルドに於ける魔法は、初級のレベル1から上級のレベル10までとなっており、上級を超える合成魔法というものも存在するらしい。

 戦闘職に就く冒険者も基本的な魔法を使える人は多いが、ほぼレベル1の初級止まりでせいぜい補助魔法くらいが関の山だそうだ。


「そこまでこの世界の人々は近しくなっているのですか?」


 ノアが驚きを口にする。


「ああ。だが、それが少々問題でな」


 太田はとりあえずその話は後だ。と、勿体つける。


「ほれ、まずは瞑想してイメージしてみろ。一番簡単な火の魔法でいい。マッチくらいの炎を指先へイメージすればわかる。いいか? マッチだぞ? 間違えばここが吹っ飛びかねんからな」


 マッチってなにかしらとエル&ノアがキョトンとする横で、勇輝は言われた通りに集中する。

 瞑想なんて普通はどうやるのかさえわからない人もいるだろうが、勇輝に限っては本を読む時の作法として取り入れていたので容易い事だ。

 マッチを擦れば現れる小さな炎の温度、色のイメージを連想しつつ魔力の流れを掴もうとしてみると、人差し指から1cm程上にそれは現れた。


「うわ、すげぇ。これテレビとかに出れるんじゃね?」


「よし。まずは大丈夫そうだな。もし有名になりかたかったらやってみろ。そりゃ引っ張りダコで人気者になるだろうし稼げるだろう。しかも怪しげな団体とか、政府関係者なんていうこれまた怪しい奴らが後から後から出てくるだろうがな」


「うん、これは一生隠しておこう」


 勇輝には十分すぎるほどイメージし易い未来に、即答で答えた。


「こんなにも簡単に魔力を操るなんて……。今の世界はズルイわよ」


「エル様だってそんなに苦労はしていなかったじゃないですか。そもそも座学とか嫌いだったし」


「そ、それは言わないでよ。ほら、私って頭よりも体を使う実技の方が向いているのよ」


  「『俺も勉強は苦手だぞ』」


「『そう言う人ってだいたい勉強出来るんだよね』」


 エルの言葉にこっちの世界でも同じなんだな、となんとなく安心して笑みがこぼれてしまうと、エルがなに笑ってんのよ!とむくれた。


 こういうことか?と、要領を得た勇輝は指先から炎を出しては消して、と繰り返す。ズルイかどうかは置いといて、ここまでは少なくとも苦労知らずではいけているようだ。


「それからな。勇輝とエルの"それ"だが。だいたいの予想はついておるんだが、もう少し待て。きちんと調べたら改めて話してやる。それじゃ、やってみろ」


「相変わらず洞察力のすごいことで。んじゃま、気が重いが……覚悟を決めますか」


 オヤジがそう言うなら間違いない。そう無条件で信頼する勇輝は椅子から立ち上がり、左腕にはまる腕輪に触れて砂漠での姿をイメージする。

 すると、勇輝の体は淡い光に包まれ、消えると同時に緋色の姿へと変わる。


「うわぁ、やっぱりイタイわ。コレ」


 自分の体を見て項垂れる勇輝。覚悟を決めたとは言え、やはりダメージは大きかったようだ。


「だからそんな風に言うなバカタレ。それがどれだけのレアもんだと思ってやがる」


 太田は言いながら奥へと向かい、何やらゴソゴソしている。


「そうは言っても俺、ただの本が好きな普通の18歳だしな……。こういう戦隊モノっていうか、ファンタジーな格好ってのがどうにもむず痒くてさ。で? どうするわけ? あ、そういえばさ」


 ゴソゴソする太田に問いかけると当時に、エルが「危ない!」と叫ぶ。


 目前に迫る、拳の大きはありそうな石を咄嗟に手で受け止め、驚く。今のスピードはとてもじゃないが普通ならば反応出来るような速度ではなかった。当たればタダでは済まなかったろうし、勇輝がそれを受け止めずに避けていれば、その背にある壁を破壊し、風通し良くなっていただろう。勇輝はおろかエルもノアも驚愕する。


「それを装備したお前の力がそんなもんだ。まあ、まだまだ、だがな」


 よくある異世界の物語。いきなりレベル100です!珍しいスキル持ってます!みたいなチートは自分とは無縁なのかと思っていたが……どうやらそうでもないらしい。

 勇輝にとっては痛い格好をしなければならないという条件付きではあるが。


「っていうか危ねえよオヤジ! 怪我するとこだったじゃねぇか!」


「もし当たったとしてもどうにかなる代物でもねぇよ、それは、な。鍛錬すれば今の反応をその腰の剣で対応できるハズだ。ちなみに准来ならこれ位は()で余裕でやるぞ?」


「そんなのバケもんじゃねぇか。前までは父さんとの模擬稽古でもいいところまで行ってたと思ったんだが……そうか、相当に手を抜かれていたって事か。そういや父さんは騎士か何かだったわけ?」


「うむ。騎士として仕えていた事もあったそうだが、ワシと出会った時には既に名のある冒険者だったな」


「冒険者?」


「ああ。この街にもギルドは当然あってな」


 ここで准来と愛衣に出会わなければワシも危なかった──と話し始めた。


 太田は祖先のオータ・ガラハ・ウルトから世代に渡り受け継がれた、数あるアーティファクトと知識を駆使し、精鋭の研究者達と古代魔法の研究をしていた。そんな中、知らず内に風魔病に侵されていた者が"封印された禁術魔法"に手を掛けてしまう。

 風魔病とは、その病に侵された人の見た目に変化はなく、人であれアイテムであれ、とにかく魔力の強いものへの執着心が強くなる症状だ。


「勇輝に分かりやすく言えば、魔力依存性症候群、となるだろう。そして、その禁術魔法と言うのが、このユルドの大地そのものの生命を短くしてしまいかねない程の力を持つ魔法でな」


 それが時限式発動魔法とわかるや、消す事を試みるも悉く失敗に終わり、太田達はひとまずその魔法の発動時間を停止させる手段を考え、成功させた。

 いつタイマーが再び作動するかという不安の色を示す中で、情報の漏洩により世界を破滅へと導く程の強大な力は、噂が尾を引き、強大な力を手にするアイテムとして誤認されてしまったのだ。


「どこからそんな噂話を聞いたのか、ワシを始めとする研究者達に強大な力を欲する魔の手が伸びて来てな」


 一人また一人と殺されていく中で、このサリューで冒険者として名を打つ剣士ジュンキと、パートナーである回復魔法の使い手アイテを主力メンバーにしたチームに守ってもらいつつ、"力に溺れた者""が決して追う事が出来ないであろう逃げ道を作る。それが日本と繋がる異世界のゲートであった。


「うわぁ。ホントにファンタジーですね。ありがとうございます」


 勇輝が我慢できずに話を折るが、黙って話も聞けないの?このバカ!という目が勇輝を襲う。太田は呆れつつもエルに感謝して続けた。


「ワシを守るべく戦ってくれた准来と愛衣は、『ワシ達の研究が終わるその時を見届けるまで』とユルドの民からすれば異世界である地球、日本へと着いて来てくれてな。

 だが、ワシ達には無論初めての世界だ。先ほどユルドへやってきた勇輝と同じだな。そこがどこかも分からないし、そびえ立つ巨大なビル群を見た時は腰を抜かすかと思ったわ。

 そして次に驚いたのは人の多さだったな。まぁそれが日本の東京で、異国人には目もくれない人種だったのは助かったがな」


 そうして暫くは滞在せねばなるまい、と生活をしていく中で、准来と愛衣は次第に惹かれ合い、恋をして、婚姻を結び、子供が出来た。


「もちろんそれが勇輝なんだが、その魔力の凄さやたるや、驚愕ものだったぞ? 赤ん坊にしてワシはおろか、魔法に長けていた愛衣すらも凌駕していたからな。先程おまえに例外だと言ったのはそういう事だ。しかしな」


 禁断の魔法を無かったもの(・・・・・・)とするべく研究を続けていた太田は、今まで考えていた消去する方法ではなく、それをそっくりそのまま魔力の無くなったアーティファクトをアイテムボックス化させ、その空間で"発動"させてしまうことを思い付く。

 しかし、愛衣の魔力を以ってしてもアーティファクトに入れ込む事はおろか、抑え込む事さえ叶わなかった。

 そこで苦渋の選択ではあったが太田達は"とある事"を目論む。

 それは、赤ん坊である勇輝の魔力に託す事だった。


 だが、そうは言っても所詮は赤子。魔力が安定せず、その時々で魔力が消えたり膨らんだりと、思うように安定しなかった。


 しかし時間は無限にあるわけではない。勇輝の成長を待つよりもマシだろうと「これならいけんじゃねえか?」と軽く言う准来が冗談半分でそれを勇輝の手首へと嵌めてみると、赤子の勇輝の手首に合わせて小さくなっていき、ウソのように勇輝の魔力が徐々に徐々に安定していくのだった。


 そのアイテムこそが、力を無くした伝承レベルのアーティファクト、ハリオベルである。


 そして、勇輝の魔力に当てられたせいか魔力溜まりよりも早く、尋常ではない速度で力を取り戻していくハリオベルに太田は更に驚き、力が復活するまでの時間を計算してみたところ、だいたい18年後──つまり勇輝がユルドへ来た今日であった。


「それであの本を俺にくれた訳か」


「そういうことだ。それからお前の手にはずっとハリオベルが嵌っておる。成長して手首が太くなろうが、ハリオベルもまたお前に合わせて大きさを変えていくからな。ワシでも未だにその理屈は分からん。因みに、あっちでは目立たぬように幻視の魔法を掛け続けているぞ。愛衣がな」


「魔法って便利すぎじゃね?」


「ワシも今にして思うとそう思うな。ああ、それから何故言葉が通じるかというと、それもただの魔法だ。開発者はもちろんワシだ。でなければワシや准来も愛衣も日本で暮らすには困るからな。原理は聞くなよ? 説明しておまえが理解するまでに何年も掛けてられん。ま、今となってはワシも皆もあっちではネイティブで会話は出来るがな」


「はぁ。また魔法かよ。しかし、人の体に何ちゅう事をしてくれるんだと問い詰めたいところではあるな」


「それはすまんとしか言えん。……この通りだ」


 膝に手を置き頭を下げる太田に即、「わ、わかった。もういいから」と直させる。第3の親に──この世で親に次いで好意を持つ相手が頭を下げる姿は、ましてやそれが自分に向けてとなれば、ただひたすらにバツが悪かった。



お読み頂きましてありがとうございます。

もう少しだけ毎日更新が続きます。

その後は数日置きになるかな、と予想。


しかし、説明ばっかりで進みが遅くなってしまうのはナゼだ……

でもあんまり端折りたくないマイペースな私。


理由、わかってんじゃん。

って言うツッコミはなしでお願いします(汗


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