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6. 時を超えた美少女

 

「まず、勇輝よ。先程も言おうとしたがお前をここへ飛ばしたのはワシではなく、お前の母、愛衣だ」


「は? 母さん? いや、まさか……じゃあ」


「まあ待て。全ての顛末は今から話してやるわい。だがまぁ、ちと長くなるだろうしな。場所を移動するか」


 街まで歩きながらっていう意味だろうか。そう考えたのはエルやノアも同じだろう。ましてや、ある程度オヤジの正体を予想するノアに至っては考えもしなかったはずだ。


 太田はガンベルトや工事作業用ベルトのそれのように、試験官のような形の入れ物がいくつも挿さる場所から1本の瓶を取り出して足元へ垂らした。


 すると、4人の足元に勇輝にとっては若干見覚えのあるモノを浮き出させる。


「こ、これは……」


「ま、これについても追々だ、な」


 太田はノアへニカッと笑うと、目線を勇輝の足元から上へと移していく。


「おい勇輝。その格好は流石に目立つ。元に戻っておけ」


「は? いや、戻れったってどうやるんだよ」


「念じろ」


「は?」


「戻れ。でいい。左腕を触って念じてみろ」


 顎でしゃくりながら腕輪が嵌っていた手首を指す。ここへ来て一気に謎が深まったな?オヤジ。

 ま、それもあと少しもすればわかる、か。んじゃあ──


『戻れ』


 言われたように腕輪に触れつつ頭で念じてみると、先ほどの光が同じように勇輝を包み、ここへ来た時のTシャツとパーカー、パンツ姿に戻っていた。


「うお、すげえ」


「ふむ。それはそれで目立つがまあいいじゃろう。ほれ行くぞ」


 (誰のせいだと思ってるんだよ)


 エルが勇輝のグチを読み取って目が合う瞬間、4人は砂漠から光の粒子を残して消え去った。




 ▽▲▽▲▽▲▽




「あれで街へ瞬間移動か。便利なものだな。どうせなら砂漠に飛ばされてすぐに迎えに来てくれたら良かったものを。ところでエルさーん? 魔法はそんなに誰でもが使える訳でもないんじゃなかったのか?」


 意外にも勇輝は驚きを顔に出す事はなかった。それはこれまでの奇想天外な出来事が、この世界ならもう何でもアリなんだと。もう正に、「ファンタジー!の世界にどっぷり浸かってやるんだぜ!」という諦めからくるものだったからだ。


「だ、だって。でも、うーん」


「そ、その筈ですユウキ様。ましてや個人レベルで転送陣を使うことなんてあるはずもないのです。しかも簡易的なアイテムなど……」


 と、唸るように頭を抱え込む2人はガッツリ豆鉄砲を食らったようで、どうやら自分達が知る知識とは相当に違っていたようだ。

 浦島太郎状態。とはこういうことを言うのだろうか。


「さ。じゃあまずは我がマイホームへ案内しようか。ほれこっちへついて来い」


 中世の街並み風、レンガ造りの家々が立ち並ぶ道を進むと、商店街のような通りへと出る。

 装備品と思われる鎧や剣が並ぶ店や、見たこともない食べ物、瓶が並ぶ店。店先から煙が上がる店は串焼き専門店だろう。小太りの女性が手際良く肉を串に刺し、その隣でそれを焼いていく。とてもいい匂いがしているので後でオヤジに奢らせようと誓った。


 道を行き交う人達は誰もが勇輝の方をチラチラと見ては通り過ぎるが、それは勇輝からしてみても同じである。どう見ても日本人のそれとは違う風体の人が彼方此方に居るからだ。頭に猫の耳みたいなものをくっ付けている人や、太田と同じくらいの背丈の人。ローブ姿の大人であろう女性はハチをデッカくした昆虫らしき生物を、子供が風船を手に持つように連れて歩いている。


「さ、着いたぞ。まあ適当に座ってくれ」


 商店街から路地へ一本裏に入った所にある、太田が日本で経営する古書店と同じような目立ちにくい場所。

 木製のドアを開けて勇輝達を招き入れると、丸テーブルの椅子へと促した。中は意外にも広さはあり、他の部屋へと繋がっているだろうドアがある。壁には大小のレンガ色の石が敷き詰められ、いい感じに古びた棚の上には無造作に本が重ね置かれ、それがこの世界の本だと想像すると、ウズウズッ、と来てしまう。


「さて。では色々と聞きたい事はあるだろうが」


 太田は勇輝を見るでもなくエル達へ話しかける。


「まず、エルと言ったか。お前達はどっから来た? 生まれはアクアルか?」


「いえ……私はアイオライズ国の王女、エルトア・ルーン・アイオライズよ」


 押し問答は無駄と思ったのか、エルは自分の出身を即座に話す。


「アイオライズだと? んなわけあるか」


「本当よ。ユウキにも話したけど、気付いたらあの建物に閉じ込められていたんだもの」


「ああ、確かに俺もそう聞いた」


「なら、お前は騙されているな。大方、何も知らない勇輝を見て何とか誤魔化してでもそのハリオベルの腕輪を狙おうとでもしたんだろう」


「ち、違うわよ!」


「じゃあ何で嘘をつく? ダルフ・エス・アイオライズの娘だとか、勇輝でもなければそこらの奴じゃ信じちゃくれんぞ? いい笑い者だ」


 太田は鋭い眼光でエルを睨む。


「あの、オータ様。私からもよろしいでしょうか」


「ああ。そういやおまえさんは聖獣に近しかったな。まあ話してみろ」


「ありがとうございます。先ほどオータ様はユウキさまが身に付けている腕輪をハリオベルとおっしゃいましたが、それは伝承にもあるあのアーティファクト、で間違いないでしょうか」


「ああそうだ」


「そうですか。 ならば、どうやらエル様と僕は相当の時間を──」


 ノアは一瞬考えると、驚愕の予想を口にした。


「それこそ数百年もの時をあそこで過ごしていた。と考えるのが一番辻褄が合うようですね」


「え? な、何を言っているのよノア。そんなわけないじゃない」


「いいえ、エル様。どんな低級アイテムであろうと、アーティファクト級アイテムであろうと、その魔法具には必ず魔力寿命があるのはご存知ですよね?」


「それは知ってるけど」


「では、ハリオベル級のアイテムの魔力が回復するまでの期間は、最短でどれくらいと記憶されていますか?」


 エルは上を向いて記憶を探る。


「確か……2000……年?」


「はい。ボク達のいた時代でさえハリオベルは1000年も前に魔力切れとなっていた筈です。そこから魔力溜まりに浸しておいたとしても、あと1000年はその力を解放できなかったと聞いています。ですが、そうするとこの現在のユルドは1000年後ということになりますが、きっとそこまでは経っていないであろうと予測する理由もあります。それに母上様のお言葉もありますし、あとはオータ様の話をお聞きするのが一番の早道かと。オータ様はオータ・ガラ・ハウルト様の末裔、となるでしょうから名前を存じ上げないのですが、差し支えなければお名前を教えて頂いても?」


「ふむ。どうやらおまえさん達は本当にアイオライズの人間らしいな。試すような事を言ってすまなかったな。とはいえ、正直生きているとは思ってもみなかったな」


 まだまだ研究は必要、か。がはははは! と、つい先程の鋭い眼光はどこへやら、太田は頭の後ろに手をやりながら高笑いする。


「え!? オータ・ガラ・ハウルトって、あの? ドワーフ族でありながらエルフの秘薬の精製を成功させたっていう、秘薬の第一人者!?」


「そうだ。ワシはその8代目にあたるな。名はゲントという」


「8代目ってそんな……冗談よね? ノアも人が悪いわよ。いくらこないだコッソリ街を抜け出して湖に行ったからってそん──」


 しまった!とエルは口に手を当て、チラッ?チラッ?と様子を伺うように、下を向いたり上を向いたり忙しくする。


「エ、ル、さ、ま? それは初耳ですが、事と次第によってはお仕置きも考えなくてはなりませんね。一体、どういうおつもりだったのか、詳しーく、お聞かせ頂けますでしょうか?」


 ゴゴゴゴ……とノアが何かを幻視出来そうな程に怒っていらっしゃる。やはりノアも魔法を使えて当たり前なのだろうか?


「え、ちょ、ちょっとノアさん? 落ちつこう、ねっ? ほ、ほら、もう何百年も前の事じゃない」


「随分と都合の良い耳をしていらっしゃるようですね? エル様。ですが……後でお仕置きは変わりません」


「えええ!? そんなぁ」


 ガックシ。という言葉が一番当てはまるように肩を落とすエルであった。


「がはははは。ホントに面白い子たちじゃな! ま、お茶でも飲みながら話してやるとするか」




 ▽▲▽▲▽▲▽




 時空の塔。それがあの建物の名前らしい。場所が場所という事もあって発見されたのは今から僅か50年ほど前だったそうだ。アイオライズの王族が関係した仕掛けがあるのはこれまでの研究で分かっていたそうだが、今では国立文書秘蔵館にて保管されており、文献を閲覧するのは国王の許可無しには不可能となっている。


「そんなモノがあったなんて私でも知らなかったわ。じゃあもし勇輝が扉を開けてくれなかったら……なんて考えたくもないわね」


「まぁそこは本当に結果オーライだったのかも知れんし、そうでないかも知れん。本来ならあの塔よりもっと東、歩けば3日くらいの場所にある村に飛ばすつもりだったからな。ひょっとしたら出会うべくして出会ったのかも知れぬぞ?」


「はっ、随分ロマンチックだこと」


「そうは言っても、こうしてこの二人が存在するのは紛れもない事実だ。ワシもそんな夢見物語チックなのは苦手なんだがな。信じるしかあるまい」


「てかさ……俺は日本からこのユルドに飛ばされた事もだし、実はユルド人だった、とかもかなりキツイけど……オヤジも父さんも母さんもみんなして偽名だったのかよ? 何気にそれが一番ショックなんだが」


「うーむ。いや、しかし日本ではその名前でちゃんと役所に届けておるから正確には偽名ではないぞ? 二つの名前を持っているってだけだ。准来はジュンキ、愛衣はアイラ。おまえの両親は孤児院育ちと聞いておるだろう? そこに嘘はない。そしてワシが今こっちで名乗っている名前は只のゲントだ。苗字持ちは貴族だからな。色々詮索されると面倒くさいわけだ。ちなみにこっちでの本名はオータ・ルード・ゲントだ」


「まあいいよ。で?」


 日本生まれで日本育ちの、このユルドに於いて、いや、日本に於いても異世界人となるのだろうか。そんな勇輝にとっては1ミクロンも話についていけない内容であるのは当然のことだ。

 よくある物語では、「異世界に来たぜ! ヒャッハー!」なテンションですぐに冒険に出掛けたりするが、リアルに事が起これば意外にそうはならないもんだなぁ……と、自分の身に起こった事ながら妙に納得する。


 とりあえず頭を整理したいので、少しでも早く自分が置かれている立場について聞きたく、「で?」と言ってから色々と話してくれるんだよな、との念を込めて太田を見る。


「ああ。その為にワシの家へ連れて来たんだしな。よし、まずはエルトア王女とノア。ここがどこだかは検討はついておるか?」


「さっぱりよ。あと、エルでいいわよ。ユウキもそうお願いしたし 、元よりあまり好きじゃないのよ。かしこまった呼び方って」


「そうか? まぁワシも堅苦しいのは苦手だからな。そうさせてもらおう」

 

「そもそもあんな転移陣で連れて来られたんだもの。わかるはずもないわ。ノアはわかっているみたいね?」


「そうですね。予想でしか言えませんが、ユルドの中心に当たるサリューではないでしょうか」


「ほう。なぜそう思う?」


「はい。オータ様がオータ・ガラハ・ウルト様の8代目ということから、この世界は僕達がいた時代の平均寿命からして少なくとも800年は経過していると考えられます。エルフの世界でも幻とまで言われていたエルフの秘薬が、初めて人の手により誕生したのがオータ・ガラハ・ウルト様が80歳の頃だったと記憶していますので。そしてここへ来るまでの通りに行き交う人達はハーフ族ばかりでした。私達の時代なら純血が主でしたが、時代の流れで各国の溝はなくなり、貿易も盛んになっているとすれば必然とハーフ族も増えます。そしてそれがサリューならば大陸の大きさも海に面した領土もユルドで一番ですので、船が行き交う多さは数知れず。そう考えれば800年以上という年月は種族の溝を減らすには程良い年月であり、その色が濃く出ていてもおかしくはないかと。もしかしたらこの現在のユルドは純血の人族よりもハーフ族の方が多いのではないでしょうか?」


「大したもんだ。ワシの助手に欲しいくらいだ」


「それは嬉しいお申し出ではございますが、私にはエル様の守護がありますので。それに私は本来ならば聖獣です。今は力がなくこのような姿になっておりますが」


 精霊と聖獣。

 今しがた通ってきた道でも少し見かけた、風船のように繋がれたのが精霊で、使役する精霊の殆どがレベルが低く、ああして繋いでおかなければ逃げて行ってしまうらしい。そして国聖とも呼ばれる聖獣レベルになると、ドラゴン辺りともタメを張る力を持つらしく、国の上位魔術士が何人も集まってやっと完成させられるかどうかの魔導陣で呼び出す事が出来る、高位な存在だそうだ。

 ノアの本来の大きさは、聞いた限りで勇輝の知識に照らし合わせるとライオンほどの大きさらしく、力を解放すれば更に姿形は変わるそうだ。


「それもまた研究が必要だな。では次に、エルも気になってるだろうアイオライズだが。これは隠していてもどうせ後でわかる事だからハッキリ言おう。アイオライズの国は今現在"魔の森"と呼ばれ、魔族中心の住処になっておるな」


「っ……」


 エルは何かとを言おうとするも、俯いて黙った。


「そのリアクションからすると、母親が持つ予知から何か聞いていたか、予想はしたみたいだな? どうやら呪いの類もあるようだし、な」


はい、すみません。

サブタイトルを含め、色々とツッコミたい気持ちがおありなのは重々承知しております。


矛盾点は勿論ですが、誤字など諸々お気付きでしたらお知らせ頂けたら励みになります。


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