4. ヘンシン!
「なるほどな」
これまでにわかったことは、質問をする前の自己紹介で教えてくれていたエル達のこと。
そしてこの腕輪がアーティファクトというレアアイテムであり、これを持つものは強大な力を手に入れる変わりに呪いが伴う、という噂があること。
後のことは何故言葉が通じるのかさえ──というか、自分達もいつの間にかここに転送されて何日経ったかも分からないと言うが、そんな偶然がそうそうにあるだろうか?どうにも信じ難い話だ。
ていうか、呪われたアイテムか……。この腕輪を持つ者が現れると災いが降りてくるという伝承があるらしいが……まぁ今の所はなにもないし、ひとまずそれは置いておくか。どうせ外れないしな。
それにしても、だ。この建物をくまなく探すが何もなく、最上階から見渡しても人影はおろか、ここのような建築物も見当たらなかったようだが、それこそ信じられない事らしい。
エルはもちろん聖獣であるノアでさえ、このような塔も一面が砂漠な場所も見た事も聞いた事もないと言う。
ノアが話す間に勇輝も気になっていた1階から2階へと幹が螺旋状に絡まり伸びる大木は、先ほどノアがエルへと投げたパラムの果実が実る樹木だそうだ。不思議なもので僅かな光でも当たる環境では育たないらしく、水がなくとも育つことからユルドの恵みとして知られているらしい。通常ならば1年で実る果実には限りがあって当たり前だが、ここの樹はある程度の量を取っても次々に実るという。一体どんな植物なんだろうか。それにしても食べ物を粗末にするな! と叱ってやりたい。
「しかし、この腕輪も今の所はただの飾りの可能性も、か。まぁ後は俺は俺で日本へ帰る方法を探してみるよ。ありが……なんだ? その『何言っちゃってるの? バカなの?』といでも言いたげ顔は。ここでジッとしていても始まらないし俺は帰りたいんだ。エル達もこれから向かう所とかはないのか? もしよければ」
「いや、だってその扉、開かないわよ?」
「……は? 何を言っているんでございますかこの金髪サラサラ少女。ちょっと前に俺がここから入って来ただろう?」
ど突かれたのは俺なのに、なんでど突いた方の頭がおかしくなってるんだよ。
あなたの目は節穴だらけですか? と思うが先か、エルは「あああああ! そういえば!」と、扉の方へダッシュする。
「はあ。やっぱり開かないじゃない。っていうか、今の今まで忘れてた私も悪いけど、あんたが一番悪いのよ!」
解せぬ。なぜ俺がこんな理不尽が服を着たような子供からそんな事を言われなければならんのだ。
「こんな可憐な少女がここに閉じ込められていたのよ? 助けるのが普通じゃない! ホンットに使えないんだから! だいたい──」
バンっ!!
どう言い返してやろうかと思案しつつ勇輝も扉へ手をかけると、勢いよく扉が開く。相変わらず軽すぎる扉だ。
「開くじゃねぇか。驚かせるなよ」
拍子抜けである。
「え……?」
「…………」
「「ええええええええ!?」」
「そ、そんなっ! だって私達がどれだけ力を込めてもビクともしなかったし! だからきっとこの建物の中に扉を開けるアイテムでもあるんじゃないかって。だからさっきもノアが探し回ってくれたのに!」
ああ、そういえば俺が入ってきた時にはノアはいなかったな、と思い出す。しかしこの二人、この先これで大丈夫だろうか。というかこんなのが次期王女とか……震えるわ。
「う、うるさいわよ! 私に掛かればアイオライズの事もダルフ王の暗殺だって訳ないんだ……か……ら」
しまった。という顔でエルが青ざめる。
「ん? ダルフ王って、親を殺すってことだよな? それは聞いていなかったが、随分物騒な話だな」
「あ、あー。えっとね」
「そうか。いやまぁ俺はこの世界の事も何も知らない余所者だ。言えない事もあるのはわかるし、そう簡単に信用出来ないってのも理解できる。ましてや親を手にかけるってのはなかなかに共感できない話だしな。うん、聞かなかったことにしよう」
「あ、いえ、そうじゃなくって」
「そうじゃない? じゃあ何だよ。先程も言ったように確かに俺は余所者で、お前達の知り合いでもなく、助けてやれる知識もない。その辺の暴漢くらいなら倒せる力はあるかも知れないがな。だが、それはお互い様だろう?」
涙目になるエルへと苛立ちを払うように攻撃する。どっちが理不尽なのかわかったもんじゃない。これではエル達のことをとやかく言えないではないか。18歳にもなって、まるで子供がする癇癪だ。
「いや、すまなかった。じゃあ俺はこれで」
その場から逃げるように外へ出る。後味の悪い別れ方ではあるが、それも致し方ないのではないだろうか。彼女達もこれからやるべき事は山ほどあるだろう。何せ、理由が理由なのだから。あの調子ならどこまで本気でどこまでやれるかは分からないが、それこそ関わりたくはない内容である。
それに少なくとも勇輝は一分一秒でも早く日本へと帰りたいのだ。冷たいと言われようが、それが今現在の勇輝にとって唯一の目指す道なのだから。
(とりあえずは今いた場所以外は見つけられなかったから、方角としては建物を背に進むしかないか)
暑さが苦にならないというのはありがたいことだ。
(ああ、でもせめて自分でもこの建物の最上階へ行ってこの目で確かめてみるんだったな)
ここまま歩き続ければ、また何か見つけられるだろうか。
(エル達だって何度もあの中で出口を探し回ったとはいえ、ひょっとしたら俺の方が視力が良くて簡単に見つけられるとかあるかも知れないし)
だが。
(でも今から戻るのはカッコ悪いよなぁ。せめてエル達がいなくなるまでどこかで……)
そっと確認するように、極力頭の角度を変えないようにしながら後ろを見る。──と。
「わお」
「ふーん。やっぱりカッコ悪いとか思っちゃうんだ?」
勇輝のすぐ後ろで腕を組んだエルが、ノアを頭に乗せて見上げて言う。
「あー、そりゃそうよねぇ? あれだけいたいけな、私みたいな美女を泣かす寸前まで口撃しておいて、しかも私はともかく、聖獣であるノアの眼より自分の方が優れてるなんて、バ・カ! な事を言っちゃうんだものね?うんうん。確かにカッコ悪いわね」
「付いて来ていたのか。というかその能力は色々と厄介だな」
「ふんだ。私だって好きでこうなってる訳じゃないわよ」
「ま、それもそうか。で?」
俺に付きまとってどうするつもりだ?そう聞こうとしたその時。
何の意味もなくふと触った腕輪がキィィィ…ンと光った。
「な、なにが起こって」
左腕を体から遠ざける勇輝。
キィ……ン。
最初は爆発でもするのかと思った。
キィィ……ン。
それは呼吸でもするかのように、光は一拍置きながら
キィィィ……ン。
眩い光へとなって勇輝を包み込む。
キィィィィィィン!
「ちょっ、まぶし」
エルもノアも光をまともに見ていられないようで、手で遮りつつ顔を背ける。
「…………………ま……、まさかそんな」
次第に光が弱まっていくと、エルとノアがハモりつつ勇輝を見て呟いた。
「「ゆ、勇者さま……」」
二人の声で勇輝もやっと目を開けてみる。
「ゆうしゃ? ……って、な、なんじゃこりゃあああああ!?」
どこの松田◯作か。
勇輝が今まで着ていた服装は一変し、ファンタジーゲームからそのまま出てきたような格好に変わっていたのだった。
ヘッドギアのような頭に、肩、腕、胴回り、脚と、赤く輝く鎧。腰からは外装がマントっぽく垂れ下がっており、更に鞘に納められた剣が備えられている。
が、鞘の長さに対して柄が立派過ぎ、ショートソードと呼ばれる類にしてもバランスが悪いのだ。
柄に手を掛けそれを引き抜いてみると、30cmに満たない両刃の剣が姿を現す。その剣先は尖っておらず、まるでそこからスパッと斬られたように平らだった。
(ヘンテコな剣だな)
そう思って見ていると、赤い靄の オーラみたいなものが刃の部分を纏い始め、剣先へと収束していく。ブゥゥ……ンと輝くオーラで出来た刃の長さはその倍程だ。
アニメかゲームのコスプレをする人にとっては感極まりなく喜び、「うおー! かっけぇ!」なんて騒ぐのかも知れないが、勇輝の第一声は、
「な、なんて厨二くさい!」
だった。
お読み頂きましてありがとうございます。
海都なら間違いなく「ヒャッハー!」なヘンシン!ですが、ダメな人もいるんでしょうね。
うーん、もったいないw
まだ少しづつですが、着々とPV数が上がって行くのを見てる時が最近の気に入りです。
もちろん皆様のおかげです。ありがとうございます。