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23. 繋がる絆

 

「あの、マジでキミって」


恐る恐る自分の腕に向かって聞いてみる。


 《ご想像の通りだよ。ま、本当は覚えていなくてもしょうがないんだけどね。私も勇輝に出会うまでは眠ってたんだし。でも、今迄の18年間で私が起きていた時の記憶はバッチリだから。 あなたと繋がりを得て、あなたが生まれて初めて立ったこと、言葉を話したこと、3歳で大怪我をしたこと、運動会で一位になったこと。色んなことがついさっきの事のように思い出せるよ》


「なんか母親みたいだな」


 《えへへ。だって全部が嬉しかったんだもん。あ、でもそれからの数年間は少しでも早く力を取り戻さなきゃって思って、勇輝の魔力をご馳走に眠っていたからね。起きるのは月に一回とかだったわよ》


「まさか……丁度起きた時に限って俺がバカやってたり……しなかったよね?」


 《思春期に覚える右手の動作、みたいな?》


「ばっ! そ、そういうんじゃなく!」


 《あはは。大丈夫だよ。いつ起きてもカッコよかったから。特に高校3年生の時のさ? あの剣道の大会。あれはカッコよかったなぁ》


言われて記憶を探る。大会があって出場したのはすぐ思い出せるが、その時の対戦相手やその時の立ち回りなどはなかなか引き出せない。だがそれでも「あんなの、この世界からしてみたらお遊戯レベルじゃ』と思うのだ。


 《それでも、だよ。あ、でもさー? こっちに来てすぐ、折角勇輝が私を見つけてくれたのにいきなり外そうとした時、覚えてる? あの後に勇輝ったら隅から隅までじっくりあんな所からあんな所までじっくり見るんだもん……もうお嫁に行けないからよろしくね?》


「ちょっ、あ、あんな所ってどこっすか!? ていうか嫁って」


 《も、もう勇輝ってば、そんな事までレディーに言わせるの? でも勇輝がご希望なら言っちゃうけど、私の……》


「ま、まった! やっぱいいです!」


 なんかとんでもない事を言いそうで恐ろしい。ていうか腕輪のどこがどことか分かる方がおかしいのだ。

 そういうことに慣れていない、つまりはチェリーな勇輝にそんな事を聞かせた日には卒倒してしまうだろう。


「しかしハリオベルに人格があるとか……あのオヤジですら知らないんじゃないの? そもそもどういう理屈なわけ?」


 《それは仕方ないよ。だって勇輝の前に私を手にした人は今から数千年前の人だし、何よりその時の奴ったら最悪だったからさ。こっちから話しかける事もせずにずっと寝てたもん》


「ね、寝てた?」


 《うん。だって私が力を与えなくても、ある程度は勝手に持ち主の力が上がるわけでしょ? それなりの剣の達人だった事もあってやりたい放題だもん。たまに目覚めた時のあの光景、今でも忘れないわ。正にこの世の地獄よ。だからね? ワザとちょーっとばかり大きく力を解放して、受け皿を壊してやったのよ》


「そ、それはどういう」


 ゴクリと喉を鳴らし尋ねる。


 《つまり、一言で言えば……暴走、かな? どうせこの世界のほとんどは破壊されてたしね。でも、そのお陰で生き延びた人々の中でその光景を見た人達には、ハリオベルの呪いみたいに受け取られちゃったけどね》


あ、なんかそれエルに聞いた覚えがある。呪いって言い伝えがあったのはそういう事だったのか。自業自得じゃねぇか。


 《まぁ、そうなるよねー》


「軽ぅ!? おまえは楽天家かよ!」


 《だってもう済んだ事だもん。ところでさ、やっと私の事を認めてくれたみたいね? 今も、『おまえ』とかさ》


「あっ、すいません、つい」


 《違う違う! 逆よ、逆。『おまえ』とかって呼ばれるのってなんかいいじゃん? こう、独占欲の表れみたいなさ? 『お前は俺のもんだ!』みたいな? きゃー!》


 きっとこの人?が実在するならば、頬に手を当てて体を右に左に捻りながら"うりんうりん"しているのだろう。そもそもこのギャル的な話し方は何なんだろうか。元からの性格なのか、日本で培った性格なのかは謎であるが、こんなレアなアーティファクトなのにそれでいいのだろうか。


「あの、さっきから聞こうとしてるんだけど、いいっすか?」


 《どーしよっかなぁ? いつもの勇輝の話し方にしてくれたら何でも答えてあげちゃうかも?》


「え"。いやだって実際はとんでもなく年上だし、伝説のアーティファクトにそんな」


 《勇輝? レディーに年齢の話はタブーよ? タブー。それにそこまで崇める程のものでもないわよ、実際。こないだエルトアちゃんに言われた事、覚えてるでしょ? デコピンするわよ?》


「くっ、そうきたか。まぁお望みならそうするか。じゃあハリオベル、聞かせてくれ。あ、その前に質問攻めになると思うけど、いいか?」


 《あはは。もうさっきから質問攻めだけどねー。いいよ? 勇輝が私の事を知れば知るほど"絆"は強くなるしね》


「絆か。なんかこっちに来てから運命とか絆とか、ホントにゲームみたいでウケるわ。あ、でもごめんな? 気になることがあると眠れない(たち)でさ」


 《ううん。全然オッケーだよ。 そもそも勇輝のそういうとこ、私はずっと見てきて知ってるしね。で、質問は?》


 ずっと見てきてって、一気に恥ずかしくなるからヤメレ。


「じゃあまずは、ハリオベル、キミの本当の名前は?」


 《お? いきなりそこへ行きますか。やっぱり私の溢れんばかりの魅力が勇輝を》


「こら待て。真面目に聞いてるんだ。それに俺はエルじゃないんだ。そんなボケに乗っかるスキルは持ち合わせてねぇよ」


 《あはは。ごめんごめん。勇輝と話が出来るのが嬉しくって、つい。じゃあ、改めて。私の真名は"ハリスティ・オールベルト・アイラ"。つまり、ハリオベルっていうのはそこから取った名前だよ。中々うまいこと考えたでしょ?》


「んー? まぁ、ありがちじゃね?」


 《ひどっ! めっちゃ考えたのにぃ!》


「ははは。ごめん。でも、いい名前だな。それにアイラってさ、こっちでの母さんの名前も同じなんだよ。日本では愛衣って名乗ってるんだが、って知ってるよな」


 《モチロン知ってるよ。ねね、次の質問は? サクサク行ってみよー!》


「そんな急かすなよ。これから何て呼べばいい?」


 《今迄のようにハリオベルでもいいけど、せっかく本当の名前を言ったんだしね。んー、じゃあ。ハティはどうかな?》


「ああ、じゃあそれで。よろしくな、ハティ」


 《こちらこそ。なんかこうして改めると照れるねー》


「で、何でハティがこうしてアイテムの中にいるんだよ」


 《話すと長くなるんだけど、私って実は特異な生まれだったんだよね。私が生まれた時代は、今から数せ、もとい! それなりに前になるけど、人族、今で言う所の魔法族だね。その種族しかいなかったんだ。その時代は今の世界のように魔素の力を使うっていう風じゃなくて、精霊の力を借りるっていう考え方だったのね。でも私はそれこそ今の勇輝みたいに無から魔法を作り出せる力を持って生まれた。そりゃあ最初こそ『神様が遣わした子だ!』とか持て囃されてチヤホヤされてたけど、どんどん私の力は民族繁栄の為、延いては民衆のために使うべきだ!とか変な方向にいっちゃってさ。それが嫌になって国を出ようとしたら、今度は反逆罪だもん。参っちゃったよ》


「それで捕まって閉じ込められた、と?」


 《ううん。閉じ込められたんじゃなくて、一人の人間と変身能力があるアイテムを融合させたんだよ。私の力を何時でも引き出せるようにって。最悪でしょ? でも、私だってそう簡単には思い通りにはさせないようにって内から封印を施したの。私自身の人格がなくならないようにする事と、力を抑える事をさ。でもどうしても完全には無理で。つまりは、私を装備する事で受けられる能力は、私が抑えきれなかった私自身の力なんだよ》


「確かに最悪のやり方だな。聞いてても胸糞悪くなってくるわ。それにしても、その抑えきれない力ってのはどれ位のものなんだ? 前にミューランさんは数倍に上がったって言ってたけど」


 《ほんの僅かよ? たぶん1割もないんじゃないかなぁ?》


「マジか……。じゃあ今は? 俺のステータスが半端なく上がってるんだが」


 《それでもまだ3割くらいだね。でも、やっとこうして話せるまでになったんだし、あとはこれからも勇輝が私を使えば使うほど私も力を与えられるようになるよ?》


 そして色々と長々と、本当に質問攻めにして気付けば辺りは暗くなっていた。




 ▽▲▽▲▽▲▽




「こりゃ便利だわ」


 《でしょー? さっすが私!》


 属性の加護の1つである空間魔法、[転送]により一瞬にしてセリューにある太田の家へと飛んできた勇輝。太田の持つ転送薬はこれのアイテム版であるが、彼がこの魔法を知ったら顎を外す程に驚くだろうなとワクワクする。


「そういえば、その話し方って元からか?」


 《まっさかー。日本っていいよね。誰からも畏れられることもないし、敵はいないし、平和だし。私の憧れなんだー。ああして友達とワイワイしながらのほほんと生活するのがさ。ホント羨ましいよ》


「やっぱりか!」


 そんなことを日本の女の子に聞かせたらどうなるか、考えたくもない。無い物ねだりである。日本からしたらこの剣と魔法の世界に憧れてしまうように、ユルドの人々からすれば地球のなんたる便利なことか。電気、電話、インターネット、車。いつぞや勇輝が太田への連絡手段にやきもきしたその反対であろう。


 《んじゃ、みんなと合流しよっか。ここまでは私が予め転移先を作っておいたからいいけど、あとはエルトアちゃんか誰かの魔気を探って飛べばいいよ。それとも歩いてく?》


 「いや。きっとみんなギルドに着いてる頃だろうからさ。驚かせてやろうぜ」


 そう言いながらエルへと念話を飛ばす。


「『エル、今どこにいる?』」


「『ユウキ! 大丈夫? 私達はさっきギルドに着いたばかりだけど、一体どうしたのよ。今どこにいるのよ』」


「『ああ、色々説明しなきゃならない事が出てきてな。今から行くわ。1秒待って』」


「『つまらないわよ、そんなボ……ケ、え?』」


「「「「「なっ!?」」」」」


 勇輝はエルが返事をする間に執務室へ姿を現すと、想像通りに皆を驚愕させた。全員が鳩の豆鉄砲状態である。


「驚いたろ? ま、実のところ一番驚いてるのは俺だけどな」


「……全くキミは誰かに似て、色々と驚かせるのが好きだね。オータ様に会ったのかい? いや、それならばここに転移陣が現れなくては説明がつかないね。一体どういうことなんだい?」


 真っ先にお花畑から帰還したのはミューランであった。さすがは大都市セリューのギルドを預かっている人物だ。次いでレイント、ノア、ティアーナという順番で平常運転へ戻り、最後にエルが我にかえるや否や「バカユウキ! とりあえず説明しなさいよ!」と叫んだ。


「いや、マジで悪かったって。ちゃんと説明するからさ。とりあえずもちつけ、じゃない落ち着け」


 《勇輝、そのボケはここでは通用しないって。ていうかよくこの状況でその古いセリフを言えるよね……。もしかして私の力って心の強度も引き上げるのかな……》


 《す、すんませっ》


「ねえユウキ。あなた……今、別の人と念話で話したわよね? あの時、何か引っかかっていたのよ。でも今わかったわ。確信よ」


「え? エルさま、それは流石にありえないのでは」


「ううん。間違いないわ。普段から使える私だから気付くことなんでしょうけどね」


 念話はアイオライズに伝わる力であり、この世界ではエルだけにしか持ち主はいない。それは間違いない。だが、今回の事で念話というものがどういうものか、よくわかったのだ。


「おう。正解だ。エルさ。念話ってのはスキルじゃなくて魔法だというのはオヤジからも聞いたよな? 使う使わないに限らず、常に発動状態だからこそ、魔力が底をつく。だから俺達は魔力回復ポーションを常備する為にも資金集めをしなければならなかった。だよな?」


「そうよ。それがなによ」


「まぁそんなに怒るなよ。でだ? その魔法である念話が何でエルにしか使えないのか、って謎は、それが空間魔法っていう、この時代ではそれはそれは珍しい属性の加護のせいだったんだよ。みんなも何かしら持ってるだろ? 火とか土とかさ」


「私は水と土の2つしかないと思っていたけど……まだあった、ってこと?」


「ああ。エルのオリジナリティの1つがそれだったんだ。つまり属性の加護ってのは、火、水、風、雷、土、光、闇の7つだと"信じられていた"んだよ。でもそうじゃなかった」


「それが本当は8個だった、ということ? それが空間……ってわけ?」


「いや、実はもう1つあるんだな」


「「「「「ええっ!?」」」」」


「時空だよ。これはたぶんオヤジなら知ってる筈だ。──だよな? オヤジ」


 勇輝が皆の背にある扉の先へ視線を移し、そう言うと、キィ、とゆっくりドアが開かれた。


「全く……大したもんだ。さすがは勇輝、だな? がはははは!」


「お、オータ様! いつお戻りに!? 全く気配すら……まるで先程のユウキ君みたいな登場の仕方で……ってもしや!?」


「がははは! まさか勇輝に先を越されるとは思ってもみなかったがな。いや、やられたわい! ああそうだ。ミューランの想像通り、ワシも転移魔法で戻ってきたんだ」


「もうっ、一体全体、何がどうなってるのよっ! 説明しなさい! バカユウキにバカオヤジ!」


「ちょっ、エル君。それは思っても言っちゃいけない言葉だよ!?」


「がはははは! そういうお前の顔にも書いてあるがな? 研究バカの困り者、とな!」


「うっさいわ! この研究バカ王子!」


「お? 久しぶりに言ってくれるじゃねぇか。ええ? この寝ションベンミューランが」


「うわぁぁぁ! こ、このど阿呆! 言っていいことと悪いことがあるだろうっ! そ、それも子供の頃の話じゃないか!」


 太田からの盛大なぶっちゃけに動揺を隠しきれず取り乱すミューラン。なかなかに面白い、と思いつつも勇輝はスルーした。


「ミューランさんがオネショしてたのはまぁいいとしてさ」


「い、いや! よくはないよ!? 私の尊厳の為にも、せめてツッコんでくれた方が幾らかマシなんだがね!?」


「オヤジとミューランさんってそんな古い付き合いだったの?」


「ああ。ガキの頃は殆ど一緒に遊び呆けておったわ。ま、お目付役の友人ってところだな」


「ふーん。ま、俺はもう何があってもマジで驚かなくなったけどな。でもみんなはさぁ」




 そう不敵にニヤリと笑みを浮かべ──




「俺の代わりに目一杯驚け!」




ハティと企んでいた事を実行する。




  《いいぞ! ハティ!》




 すると、勇輝が解放した時と同じように眩い光と共に赤いドレスを身に纏った少女が元気いっぱいに挨拶をした。




「はいはーい! みんな! ハリオベルのハティだよー!」





「「「「「な、なにぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」」」





「これからもよろしくね!」







 第一部、完。

お読み頂きまして誠にありがとうございます。


とりあえず第一章が終わりました。

次話更新まで少しお時間を頂きますが、これからも引き続き書き続けて参ります。



ハティ

「ブックマークくれた人、ありがとうねー! お礼に水着姿でも見せたげよっか?」

勇輝

「ちょっ、ハティさん!? ぜひおねg 『スパーン! 』がふっ!?」

エル

「変わりにハリセンあげるわよ」

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