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21. 2つの創造魔法

「ダイムさんじゃないですか。こんにちは」


「お久方ぶりで御座いますっ! ユウキ様っ、エル様っ!」


 セリューの玄関口である大門前で、相変わらずの大声で話すダイム。

 ミューランからの呼び出しで朝早くに家へ訪ねてきた時に会って以来だから、これで2回目だ。

 ダイムが席を置く警備部隊はギルドと密接な関係らしく、冒険者をしている人の中でも元警備部隊出身がいたり、逆に怪我などの理由で冒険者を廃業せざるを得なくなった人が警備隊へ入隊する、ということもあるそうだ。


 今日は少し遠出になるので馬車を引いている。

 ティアーナとレイントがやってきた時に使っていた馬車は無事に修理を終え、レイント達の部下と共にデューベル家へと帰って行ったので、今日は貸し出し馬車だ。

 1日あたり金貨2枚と結構割高に感じる金額ではあるが、馬、馬車供に無事に返せばその75%を返金するというシステムだ。盗賊や魔獣被害がいつ起こるかもわからないユルドでは当然であろう。


「ダイムさんのような副隊長でも門番みたいな仕事ってするんですね」


「い、いえ! 私などが偉いだなんて、そんなとんでも御座いませんっ! 私共の仕事は町の安全を守る事ですので、位がどうこうは関係なく! 例え新米であろうが部隊長であろうが衛士やパトロール、町の掃除に至るまで、与えられた仕事を懸命に全うするだけであります!」


「なんか、ダイムさん見ていると元気が出るわね」


 エルが率直に感じた事を口にすると、ティアーナが柔かに続く。


「ふふ。まるでポルテルの花が囁く丘のリンクルみたいなお方ですわね。初めまして、ダイムさん。私の名はティアーナと申します。常しなえに、宜しくお願いいたしますわ」


「は、はい! こちらこそ!」


 うーん、相変わらず意味がわからない文学的アンド個性的な言い回し。

 ついその意味を探ろうとしてしまうも彼女の中での作語であるらしいので、なんとなーくでしか理解は難しい。

 ポルテルの花とか、一つ一つの言葉はきちんと存在するらしいが、勇輝にはサッパリだ。


「今まで頂いた言葉のどれよりもっ嬉しきものでありますっ!」


 なにやらダイムが感激している。


「ダイムさん、今の意味わかったの?」


 まさかな、とは思ったが一応聞いてみる。


「え? はい。いえ! もちろんであります! ポルテルとはアズール大陸より遥か北部でしか自生しない常緑樹でありまして、ごくごく小さな花が数年に一度、短時間だけ咲くのでありますっ! 『女神の囁き花となりて、心暖かに。されど求める事なかれ』そんな言葉があの地方にはあったのであります! そして、リンクルというのが遥か昔にその地方で呼ばれていた町の名前であります! つまりは! 人の心を暖かくし、元気付けられる稀な存在、であると考えます!」


 パチパチパチパチ。


 一語一語、ハキハキと大きく話すダイムを一同が「ほぇ〜」と見ていると、背後から拍手が聞こえた。

 振り返り見ると、レイントが拍手をしながらウンウン頷いていた。


「全て受け止めて下さったのは、ティアーナ様のお父上以来で御座います。ありがとうございます」


「勿体なきお言葉です!」


 二人は握手を交わすが、結局はエルが言った『元気が出るわね』を違う角度で言っただけである。

 だが、通じる人が二人も存在することから、そこまで適当な発言ではないようだ。


「あっ、すみません引き留めてしまって! お出掛けでございますね! どうぞお気を付けて!」


 がばっ!と腰を曲げ、直立に直すと敬礼をする。


「はい。では行って参りますわ」


 ティアーナは小さく首を横に、ふんわり優美に笑顔を見せた。




 ▽▲▽▲▽▲▽




「お、なんか探知に引っかかったぞ? このまま真っ直ぐ行けば……あれ?」


 探知魔法を常に広げている勇輝が何かを見つけた。


「どうしたのよ」


「や、なんか数がさ。たぶん魔獣の筈なんだけど、ここら辺で群れる魔獣っていたっけ?」


 セリューを出発した一行は、昨日勇輝がコガラシ亭で得た情報の場所へと向かっていた。

 ギルドに話を通してすぐに、ジェナから魔獣討伐依頼書をその場で作成してもらったのだ。

 Cランクあたりの魔獣らしい、という事だけでどんな魔獣なのかは行ってみなければわからない事から、討伐した魔獣そのものをアイテムボックスに入れて持ち帰る事にした。


 通常であれば魔獣毎の討伐証明となる部位を持ち帰ればいいが、まるのまま持ち帰ることが出来るのであれば皮や牙などの素材を売る事もできるので、レアなアイテムボックスを持たない多くの冒険者は、馬車や手押し車を持ち込む。

 その為、高額で売れる素材を持つ魔獣の出現情報が出れば、その依頼書は取り合いになってしまうのが玉に(きず)だ。


「確かにあまり聞かないですね。この一帯で群れが出るなんて事は」


「どんどんこっちに来てるな。なんかイヤな予感がするが」


 勇輝がフラグを立ててすぐに見えてきた煙らしきもの。

 どうやら土埃のようだ。


「あれってブルオークの大群じゃない! 群れなんてものじゃないわよ!?」


「どうやらそのようですね。しかし何にせよ、あれらを倒して行かなければ、このままではセリューの町に被害が出るやも知れません」


「レイントさんは何でそんな冷静なのよ」


「いえ、私もそれなりにあの大群には驚いてはおりますが、こちらには皆さん方がおられますので。一人当たり百人力であるならば、3人で300人分です。余裕かと」


「まさかの俺も頭数!? エルやティアーナみたいな魔法は無理だって。レイントさんと俺は前衛の剣士じゃないっすか!」


「私はローズ様と同じく純粋な剣士ですが、ユウキ殿はどうかと」


「いやいやいや。いきなりデッカい魔法ぶっ放せとか、無理だよ!?」


「そうでしょうか? ローズ様からお聞きした話では……」


「そんな事言っている暇はないわ! ティアーナ、行くわよ!」


「ええ。いつでもいいですわ」


 杖を取り出し、無詠唱から先陣を切るエル。


「[暴風雷雨ライトニングストリーム]!」


 20メートル先に現れた竜巻が大きく成長しながら次々と落ちる雷をその身に纏っていく。

 レベル5の雷属性魔法とレベル8の風属性魔法の複合技であった。

 ゴゴゥ……!と唸りを上げながらも、バチバチッ!ズガンッ!と雷音を鳴り響かせる。

 まるで神風とでも呼べそうな雷を孕んだ竜巻が、魔獣の大群目掛け突き進んで行く。


(こ、怖ぇぇ。とんでもねぇ魔法を編み出しやがったな……)


 勇輝も白目である。


「エルさんがお造りになった魔法、すばらしいですわ。ですがデューベル家に伝わる魔法も負けてはいませんわよ」


 エルの魔法に負けじと、ティアーナも気合を入れて後へ続く。


天深(てんしん)出づる女神の声、碧雲(へきうん)に乗せた径光(けいこう)、君臨の名を集いて此処に集まらん──! [集光の匣(プリズムグラビティ)]!」


 ティアーナが詠唱から発した魔法は、上空に輝く太陽よりも眩しい光を創る。

 止まっているのかと思うほどゆっくりな落下速度で堕ちる光は虹色に輝き、地上から数メートルの所で浮いたまま、一帯の空間を歪めていく。


 そして次に、発動者が本当にあのティアーナかと疑いたくなるような事が起こるのだ。


 歪んだ空間は次第に広がってゆくと、周りの魔獣を吸い込んで……削っていったのだ。


 まるで虹色の粉砕機や〜!と誰かが言いそうな程に、ダークである。

 閲覧注意の文字が当たり前に貼り付けられるレベルに、さすがの魔獣達も「え? は?」って言いたげにドン引きである。


(やばいやばいやばい! あれ、めっちゃやばい! てかティアーナに初めて会ったあの時、『直撃しないように調整致しますが』とか言ってたけど! あれ、絶対に意味ないよね!? 周り一帯を吸い込むんだし! デューベル家の先祖はなんちゅう魔法を編み出してくれとるんじゃ!)


 先程以上に白目な勇輝は卒倒寸前であった。


 そうして、エルとティアーナが放った2つの、どう考えてもオーバーキルな魔法は、魔獣の大群へと突き進み、その殆どを無きものとしていった。


「ティアーナ様の魔法はいつ見ても圧巻ですね。さて、ユウキ殿。我々も残りの魔獣を倒しに参りましょうか」


「なんでそんな冷静……いや、そうですね。もうそんなに残ってないけど」


 レイントにしてみれば、ティアーナの魔法は初見でもないであろうし、何と言ってもデューベル家の人間だ。姉であるローズとの性格は違えど、二人共にして規格外なのはきっとデューベル家ならではなのだろう。

 そう考えれば、レイントもその規格外に染まっているのは解らなくもないな、と思う勇輝であった。



お読み頂きましてありがとうございます。


19時くらいに更新しようとしてたのにぃぃ


最近は馬鹿が風邪をひくらしいですが、

どうやらと言うかやはり私もその一員のようで。


皆様も健康にはお気をつけて。

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