20. 創造魔法
「おう! ユウキ! 今日もステーキか?」
「もっちろん!」
「エル! こないだはありがとうな! また何かあったら頼むぜ!」
「ううん、困った時はお互い様だもの。バータンさんも怪我はもう良くなったみたいね?」
「ああ! お前達のお陰でまた毎日母ちゃんにコキ使われてるけどな! はっはっは!」
コガラシ亭に入ると、先客からユウキ達へ向けた会話が繰り広げられる。
いつ狙われるかわからない、との恐怖をミューランから植え付けられてから既に10日が経っていた。
当日こそ、道行く人がいれば(む? あいつか?)と疑い、魔法薬を買いに行きつけの道具屋に入れば、(怪しいのはどいつだ?)と同じ買い物客をコッソリ詮索したりもしたが、もって一日だった。精神的疲労困憊である。
「やっぱこういう方が気も楽だし、何より感謝されながらも知り合いが増えていくってのはいいよな」
席に着きながら話しかける。
「そうね。私も2日目くらいまでは感知魔法を目一杯に広げちゃったりしたけど、今は範囲を狭めて通常運転してるわ。これならそこまで魔力量も気にしなくていいしね」
「だな。エルの魔力量がいくらハンパなく多いっていっても、寝てる時まではさすがにな」
感知魔法とは、勇輝がなんとなくイメージでやってみたらいけちゃった! な、人が発する殺気を感知する魔法だ。
きっとローズ辺りのすんごい剣士ならば、それに頼らずとも例え少しばかり遠くの気配でも感じ取れれば簡単にちょちょいっと"対応"するんだろうが、勇輝にはまだ遠い世界だ。常にハリオベル状態であっても怪しいものである。
前よりはかなりハリオベルの姿になることに抵抗はなくなったのは良い事ではあるが、今では見えない敵が出現した事で、尚更のように易々と変身出来なくなってしまった現実に、なぜもっと早い段階で……と後悔し、もういっそのこと常に解放状態で生活してやろうかと思う勇輝であった。
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1日目の夜、あまりにも疲れ果てた勇輝は「何とか方法はないものか?」と考え、閃いた。
どんな人であれ、相手を攫おう、傷付けよう、殺そう、などとすればその気配は察知出来るんじゃないか、と。
もちろん対面にすれば可能ではあるし、それすら発しない手練もいるだろうが、その時はその時だ。
そうピンと来てすぐに勇輝はエルとノアへ声をかけ、そういった気配を"広い範囲で探る魔法"というものが存在するのかと尋ねたのだが、
「魔獣が近くにいるかどうかを探る魔法なら存在するわよ? でも、気配となると……ね。ノアは知ってる?」
「いえ、ボクの知る限りでもそういった魔法は」
との残念なお知らせにも勇輝は負けなかった。
「うーん、なんかやれそうな気もするんだけどなぁ。こう……ざわざわーっと魔力をうすーくうすーく広げていってさぁ……お?」
「どうしたのよ?」
「ちょ、ちょい待った。えーっと、エル、悪いけど火魔法のちっこいので俺に攻撃してみてくれるか? 俺もハリオベルを使うから多少怪我させるつもりで」
「な、なによ? 急に」
「まぁまぁ、いいから。実験だよ実験。ハリオベル、解放っと」
勇輝が変身したのを確認して、エルも言われた通りに勇輝へ手をかざす。
「じゃ、じゃあ。火は危ないから……[風球魔法!]
「っと。おお!? なんか、出来ちゃったかも?」
「えええええ!? ウソでしょ!?」
といった感じで。
それは勇輝曰く、気配を魔力で探るように広げてみればそこに人がいる、という感覚がわかる、らしい。
「エルとノアがそこにいる、って目を瞑っていても気配を感じるんだけど、その色が白いんだよ。で、今みたいに俺へ攻撃しようとした場合にはその色が濁るんだ。エルもやってみ?」
「やってみろって言われても、一体どうやるのよ」
「まずは魔力を広げて、人の気配を探るんだよ。それが出来たら今度はその色を探る」
随分と簡単に説明する勇輝に、エルも「ユウキがそんな簡単に出来るなら私にも出来そうね」と目を閉じて魔力を研ぎ澄ませてみる。
「あ」
「だろ?」
「すごいわよ、これ! 創造魔法のレベルよ!? なんでこんなユウキに考えついちゃうのかしら」
「おい」
サラッとディスるエルに勇輝も即座にツッコむ。
「だって、ユウキはこっちの世界はまだ浅いじゃない。魔法の勉強だってしてこなかったのに」
「ああ、そういう意味か」
そのエルの問いに、ノアが予想を口にする。
「初めてユウキ様にお会いして、オータ様とここへ来た時のことは覚えてますよね? オータ様はユウキ様が生まれて初めて魔法を使うにも関わらず『マッチの火をイメージしてみろ』と仰っていました。通常、魔法は詠唱から始まり、その言霊に乗せた魔力の流れをイメージして大気の魔素と融合、そして発現とするのがセオリーですが、無詠唱が出来るユウキ様やエルさまはイメージするだけで一連の流れを自動的に作れるのでしょう。とすると、具現化とも言える創造魔法を作り発動するには、ユウキ様の様に魔法のない世界で生きてきた人の方が有利なのやも知れませんね」
つまりは、イメージの確立が完璧に出来てしまえば、魔法の威力も何もかも思いのまま操れる、ということではないかと推理したのだ。
「そう言われてみれば腑に落ちる部分もあるな。小さい頃によく見てたアニメとか漫画とか、どんな知識であれ無駄なものは何一つとしてないってことの証明になるってことかもな」
そうして創作魔法を一つ編み出し、普段から共に行動をする勇輝とエルのどちらかが常に感知魔法を使う事で精神的に楽になったが、それが逆に"使用していない時間が不安"になってしまうという、困った事になってしまった。
だが、勇輝もエルも寝る時でさえ警戒するわけにはいかない。
ならば、この家のセキュリティーレベルを上げてしまえばいい。
そんな考えから更に、セコ○ばりに窓や扉に仕掛けを施し、侵入者がいれば警報音が鳴る魔法を作っては、またもエルとノアを驚かせた。
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便利な魔法を編み出したのはいいが、あれから勇輝達がどこに行こうと変化はなく、ある意味残念な気持ちだった。
けれどそれも悪い事ばかりではなく、今のように知り合いが増える事はかなりのプラスである。
エルとノアにティアーナ、レイントとギルドからの魔獣討伐依頼に出掛けたり、お金稼ぎに鉱石を取りに出掛けたりしている途中なんかにも他の冒険者を見つけやすくなったし、先程のバータンの時みたいに怪我をしていればエルかティアーナが治癒魔法をかけてあげたりしている。
そのお陰でセリューの街で滞在する冒険者も商売をする人々も、次第に勇輝達一行を認識し、壁がなくなったことによって色々な情報が舞い込んで来るようになったのだ。
「そういやぁよ。こないだブランカ方面に新たな魔獣が出たらしいぞ。なんでも近くの洞窟を住処にしているらしくてな。Cランクでもおかしくなさそうな話だから行ってみちゃどうだ? まだギルドには報告してないから、そこんとこも宜しくな!」
「あそこな。あの洞窟はかなりデカイが、お前達なら楽勝だろうよ」
と、このように。
その代わりと言っては何だが、情報を貰った時には情報主の代わりにそれを聞いた勇輝達がギルドへ赴き、不審人物や魔獣報告を伝えている。
これについては特別報償などがあるわけでもないので問題はない。
持ちつ持たれつ、ってやつだ。
「 サンキュー! 明日にでも向かってみるよ」
ここ最近で一気にギルドランクを駆け上がった勇輝達のランクは、現在このようになっている。
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勇輝:ギルドランクC
エル:ギルドランクC
ティアーナ:ギルドランクE
レイント:ギルドランクB+
ローズ:ギルドランクA
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この中でギルドでもこのセリューの国でもトップを独走するローズは、主に国絡みの事案が多いことからソロで動いているが、たまには息抜きとしてパーティに加わり、皆の動きを見ながら指南してくれる。
そうそう。
太田についてはこの10日間の間に連絡がついた。
また研究でどこぞに引き篭もっているのかと思っていたが、アイオライズ領付近まで出掛けていたそうだ。
伝書鳥が勇輝へ届けてくれた手紙を読もうとすると、自動で手紙が広がり、投影式の映像として太田が現れたのには驚かされた。しかも音声付きとか、日本で観たSF映画さながらである。
(ここまで出来るなら電話とか作れそうだけどな)と思わずにはいられない勇輝は、創造魔法ならどうだろう、と試しに魔力に音声を載せたりと色々と試行錯誤してみたが、魔力切れで倒れそうになった所でエルにこっぴどく叱られたのはつい昨日のことだ。
太田に作れない事がそんな簡単に勇輝に出来る訳がないのは……自明の理であった。
お読み頂きましてありがとうございます。
あと2話から3話くらいで第一章が終わります。
頑張れ!私!