2. キュートな少女はメンドクサイ
「ど、どこだよこれ……!?」
「鳥取? 静岡? ア、アフリカか? もしかして、漂流教室? ……な訳ないか」
蒼白な顔をしている割には、楳図か◯おの作品名を思い付く程に余裕があるようにも見える勇輝の姿は、残念ながら誰の目にも触れる事はない。
ツッコミがないボケというものほど痛いものはないよな、なんて思いながら何とか落ち着きを取り戻しつつも、これもまた覚えの無い薄金色の腕輪がガッチリと手首にはまっている事に再度戸惑いを見せる。
「ん? なんだこれ? ど、どうやって外すんだ?」
腕時計のような金具もなければバングルのような隙間もなく、力技でも腕を振っても外れる気配はない。
一定の角度で太陽の光を当てると見える模様のようで文字のようなものが、あの本に描かれていたモノと酷似している。
「これと関係があるのは間違いないよな。ってか何で靴を履いているんだよ、俺……。間違いなく生涯一番の驚愕回数日だな」
自室にいた服装のままならば、白のTシャツにグレーの薄手パーカーと、カーキ色のパンツ姿まではわかる。だが、足元の靴は帰宅する前に履いていた白のアディ◯スのスニーカーだった。まさか靴も脱がないまま家に入った訳でもなし。
ひとまずどれだけ考えようとも、こうしてジッとしていても始まらない。いや、始まってほしくもないのだが、勇輝はとりあえず今立っている場所よりも四方が見えるであろう、近くにある一番高い砂の山へと向かってみた。
子供の頃から視力には自信があった。
たとえ1km先であってもそこに何か──出来れば人が住んでいそうな建物でも見つかれば行き先だけは決まるだろう、と目を凝らしてみる。
すると、目測でもどれくらい先かはわからないが、建物を見つけることが出来た。
「……行ってみる、しかないよな」
願わくば蜃気楼とかじゃありませんように──。
そう心で願いながら勇輝は歩き始めた。
▽▲▽▲▽▲▽
砂の上を歩くこと数十分。勇輝はある異変に気付く。これだけ足元が悪いにも関わらず、全く疲れがみえないのだ。両親から鍛えられているお陰もあり、ある程度の体力には自信はあったが、それにしてもである。こうした砂漠ならば暑さで汗を掻き、喉が渇くのは当然のイメージだが、それすらも感じられない。どうしてかは謎だが、今現在言えることは「有り難い」の一言に尽きる。
そしてさらに歩く。歩く。歩く。
と、やっと建物の細かな部分まで目視出来る所まで到着する。高さは5階建てくらいだろうか。ぐるっと右から一周すると3mくらいの大きな扉を見つけた。これが入り口であるのは間違いないだろうが、左から回ってたらすぐ見つかったのかと思うとやるせなくなる。
「しかしこれ、どこのゲームだよ。まさかモンスターみたいなのが出てこないよな」
心拍数を確実に上げながらも覚悟を決め、グッと力を込めて扉を開ける。
バンっ!!!
「うおっ!? か、軽っ! 見掛け倒しかよっ」
その扉は鉄製で出来ており、重厚な出で立ちをしていたため、ヘタしたら錆びついて開かないんじゃないかと思っていたが、まさかの結末だった。
「あービックリした。とりあえず、お、お邪魔しまーす」
そろーっと忍び足で一歩を踏み出すと、唐突に声がする。
「うるさいのよ! このバカ! 耳がキーンってしてるじゃない!」
「う、うわああああ! で、でたああぁぁ!? あ、あれ?」
スパーン!
「いてぇ!」
いきなりハリセンで叩かれた。
「誰がオバケよ! こんなキュートなオバケがいるわけないでしょ!」
それはどうだろう? そもそもオバケなんて見たこともないが、確かに想像しやすい幽霊というものは足がなくて、こう、ヒュ〜ドロドロ〜って効果音が似合いそうな感じがデフォだろう。
え? 効果音が古い? そんな事は知らん。ていうかハリセンて。
だが、自分の目の前にいるこの女性は、いや、子供?には立派な足がある。今流行りのハーフに見えるんだが、言葉は通じるから親のどちらかが日本人とか、日本に住んでいるとか前に住んでいたとか、そんなだろうか。
ところでスタイルの良い金髪美少女さんは、まさかここの住人ですか?膝上のワンピースから見えるスラッとした脚に、それほど大きくはない胸。こりゃたまらん、ってなもんだが、そんな事を考えていると、金髪少女さんは俯きながら服の裾を摘んでゴショゴショし出した。
まあとりあえず挨拶しておくか。
「え、えっと。お、おじゃまします」
「あ、はい。いらっしゃい。まぁ平坦な私の胸と同じく何もない所ですが、どうぞごゆっくり〜ってやかましいわ! これでも発展途上中なのよ! きっとそうなんだから!」
うわぁ。見た目に反してなんだかめんどくさい子だなぁ。
いやまてよ?もしこの子の機嫌を悪くさせてしまえば、ここがどこなのか、人里はどこにあるのか教えてくれなくなる可能性もあるやも知れない。
お? なんだかポカーンとしてるぞ? 反応を待っているのか?よし、ここは頑張ってノッておこう!
「い、いやぁ、美女ばかりを取り揃えているパラダイスがここだって聞いたもので、勢い余って飛び込んじゃいましたー。
て、テヘっ」
非常に残念なお知らせだ。
頑張ってこれなら、勇輝にボケの才能はない。
「あらお兄さん。もーそういうことなら早くおっしゃいなよ。ほらほら、じゃあそんなとこでつっ立ってないで、こっちに座んなさいな。ちょっとー? 当店一番人気の子をここへ呼んでちょうだーい。今日はどちらから来たの? あらそんな遠くからお仕事で? まぁそれはお疲れ様でしたねぇ……ってやかましいわ! このスケベ! わ、私を誰だと思ってるのよ!」
いや、知らんがな。っていうかノリツッコミなげぇよ!もうゆっくりお茶飲んで本でも読みたい気分だ。
でもここが何処だか聞かないといけないしな。いや、もういっそのこと力技で縛り上げてしまうのも手か?そんなことを思っていると、少女が怒りを露わにしだした。
「へーそういうこと言っちゃうんだー? ふーん。私を怒らせたいわけねー? あっそう。じゃあ冥土の土産に見せてあげるわ! このキュートなエルトアちゃんの魔力を!」
「え? な、なにも言ってな…って、え? マリョク? ちょ、ちょっと待って! なんか建物がゆ、揺れてきてますけど!? 地震? キュートナ、エ、エルアさん?」
「そうそうそう! キュートって名前を付けられるほど可愛い私は、って違うわよ! いや、可愛いのは確かだけどね!?って、ば、馬鹿にしてぇぇ! もう謝っても遅いわよ! 覚悟するがいいわ!」
掲げた両の手の少し上、薄緑の渦巻いた煙みたいなもの。
これがマリョクってヤツですか!? ていうかマジで? え? マリョクって魔力?んなまさか映画やゲームじゃあるまいし!でもそうは言ってもなんか空気が震動してるっ?もうこれはそういう事なのかっ!?
狼狽えながらも不意に横から何かが飛んできたああああ!これが魔法ですかあああ!?って思ったら……
ビターン!!
「にゃあ!」
頬に炸裂した黄色の物体は衝撃で潰れ、ぶちまけている。
果物か何かであろう。
「ちょっとエルさま? ただでさえとんでもない魔力なのに、なーにをしているんでございますか!?」
しかも、にゃあって言ったぞ? リアルで聞くと痛さ全開だな。あ、揺れも収まったな。
ていうか、ナニコノ動物? ひょっとして魔物?
「あー! ノアのことを魔物呼ばわりはさて置いても、私のあられもない声を! ……あれ? ノアじゃない。どこほっつき歩いてたのよ」
「エ、ル、さ、ま? その前に僕をさて置き、と? そんな子にはもぎたてホヤホヤで貴重なパラムの実はあげませんよ?」
「いや、その貴重な食べ物を粗末にしたのはノアじゃ……ってそれよりも! そう! こいつが悪いのよ! 私の名前を馬鹿にしたり、めんどくさいだなんて言うんだもの。
それにノアのことをヘンテコな魔物呼ばわりするのよ?」
いやいやいや。ヘンテコとまでは言ってないし。いや、でも確かにヘンな生き物だとは思うけど。てかこの子、さっきから……
「ほ、ほら! ヘンだってゆったもん! ノアも聞いたでしょ?」
「おちついて、エルさま。この方が誰かと言うのはひとまず後にして、まさかとは思いますが……読めるのですか?」
(あ、やっぱりそういう事ですか? 人の心が読める…と)
「え?」
……。
…………。
「ええええええっ!?」
お読みいただきありがとうございます。
ノリツッコミをする少女はヒロインとなるかならないか。
実はまだわかっていません。
次回の掲載まではもう少し日を短くします。
また明日、お会いしましょう。