17. 新たな仲間
「レイントが全て悪い訳ではないのは私も理解しているし、このティアーナの事をよく見てくれている事にも感謝している。だが、レイントの性格からしてきっとお咎めなしというのでは気が済まないであろう事も理解している。だから、こういうのはどうだ? ティアーナと同じく、ここセリューの地でギルドランクを上げる、というのは」
「デューベル家の護衛からは一旦離れる、ということでしょうか」
「ああ」
「承知致しました。ではこれより不肖レイント・ハウントは冒険者となり、ユウキ様達と共に行動を致します」
「理解が早くて助かる」
「滅相もございません。ではランデル。これよりお前をデューベル家代行執事長、ならびに代行護衛長として任命します。私の代わりによろしく頼みます」
「はっ! お任せください!」
現在レイントはデューベル家の執事長であるが、その前は冒険者として活躍していたこともあるそうだ。ローズも幼い頃は稽古を付けてもらったそうで、ギルドランクBの腕前なんだとか。
どうやら話の流れを読むに、元よりレイントも戦力に加えるつもりだったのだろう。
「しっかしオヤジもオヤジだよ。こうして仲間になってくれる人を呼んでくれたのなら、俺やエルかノアに一言あっても然るべきだろうに。そうしてくれていれば剣を抜く事もなかったんだからさ」
まさか、オヤジまで今の俺の実力を知りたかったとかじゃないよなぁ……?そう愚痴りながら皿に載る肉を次々と胃袋に収納していく。
相変わらずの食欲に、負けじとレイントの部下達もここぞとばかりに食べ物を取り合っている。
エルの本名であるエルトアに近い語呂なので嫌がるかなと思ったが、ノアがその言い方をとても喜んだためにエルも何も言わないんじゃないかという背景があったりする。
エル達と一緒に冒険者としてスタートを切ったのがひと月前。その頃から太田とは会っていなかった。
日本から戻ってきてすぐ、勇輝の両親からの手土産やアイテムボックスなどを勇輝達へ渡すと、「またしばらく引籠ってくる」と、どこぞへ消えたのだった。
王族がそんなに彼方此方と姿を消してもいいものだろうか?と思うも、よくよく考えてみれば、そもそもが異世界である日本で住んでいた位だからどうということはなさそうである。
今回、ティアーナ達をセリューへ呼び出したのは伝書鳩だ。
正確には鳩ではなく大型の鳥で、魔獣とは違い人は襲わないが肉食鳥類らしく、日本で言えば餌付けが出来る鷹のような存在らしい。
ユルドでは一番速い伝達手段らしいが、特定の街にしか行き来できないそうだ。
餌付けとは言えどもやはり調教するのは大変なのだろうか。
「確かに今回のようなすれ違いは良くあることだ。オータもユウキ達を驚かせてやりたかったんだろう」
通常は手紙を出すにも、人の足か馬の足に頼るのだが、じれったい事この上ない。
電話でもあればこうしたすれ違いも起こらないのになぁ、と近代文明に慣れ親しんだ勇輝は思うのであった。
「それにしても、ユウキも随分腕を上げたようだね? レイントにああまで苦い顔をさせるなんてやるじゃないか。そろそろ私も本気を出してもいい頃合いかも知れないな。どうだ? 明日あたりにやってみないか?」
「えっと、れ、レイントさんだって全然本気じゃなかったじゃないですか」
勇輝は待ちに待った好物の【コガラシ亭名物:シミターマリンウルフの香草焼き】に夢中でがっついているので、念話でエルに代返をお願いしたのだった。
当のローズはエルの能力については知っているので、すぐに理解する。
「『私はあんたの代返者じゃないのよ? バカユウキ。……まったくもう』」
なんて言うエルだが、ため息混じりで呆れながらも、どこか憎めないような、まるで母親が我が子を見るかのような──そんな優しい眼差しで勇輝を見やった。
「いえ。恐らく今の私ではユウキ殿には勝てなかったかと。ローズ様に助けて頂いていなければ、間違いなく私の右腕は今ここになかったと思います。失礼を承知で言わせて頂くなら、あの技量でランクEというのは……些か信じられません」
あの時。確かに勇輝は爆炎魔法でレイントの視界を奪い、武力無効化を狙って渾身の一撃を見舞おうとした。
だが、もしレイントが言うようにローズからの援護が間に合わなかったとしたら?あの大剣を弾き飛ばせたとしても、腕まで斬り飛ばせただろうか、と何度か頭の中でレイントと再戦してみたが、結果は良くても引き分けだった。
「ランクに関してはただユウキに冒険者としての年季が足りてないってだけさ。ギルドも国も、魔獣を多く倒した冒険者が好きだからね。純粋に一対一でやりあってみなければわからない世界もあるってことだよ」
「さすがはローズお姉様。その聡明な回答にビュートレの獣すらひれ伏しますわ」
「あなたはもう少し反省しなさいよ」
相変わらずの無垢でとびっきりの笑顔で言うティアーナにエルがツッコむと、全くだ!と口の中に食べ物を限界まで詰め込みながらウンウンと頷く勇輝。
マリンウルフの香草焼きはいつしか食べ終えており、カルドア海老という30cm程もある海老フライを口いっぱいに頬張った為、海老の尻尾が口の横からはみ出ていた。
「ユウキももう少し食事中のマナーってモノを覚えなさいよね……」
子供を見るかのような溜息交じりのエルの横で、ティアーナが「とても男らしい食べっぷりに、私の胸はサラクエの高鳴りを覚えてしまいそうですわ」と言うと、「もうこれ以上は食べられねぇ……うっぷ……」と勇輝に勝手に対抗心を燃やして勝手にギブアップしていったレイントの部下達が目を輝かせ、我先にと追加オーダーを争った。
恐るべし、ティアーナ。
▽▲▽▲▽▲▽
翌朝、ゴンゴンゴンッ!と、気立ましい音で眠りから強制的に覚醒させられる。
「我が眠りを妨げる者よ。辞世の句は詠み終えたのであろうな!?」
クワッ!と目を見開き、一人でボケてみる勇輝。
なかなかに痛々しいが、ユルドでの生活が普通になりつつあるせいか、心の奥底に沈めておいた厨二君が封印を破り、ちょくちょく顔を出すようになっていた。
いつも勇輝の隣にはエルの頭に乗るノアがいるし、モフモフでカワイイし、街の通りを歩けば武器防具屋が目に付くし、冒険者があちらこちやにいるし、ちっちゃな可愛らしいケモミミっ娘もいるし、街から出れば魔獣もいるし、戦闘もある。
……と、どれだけ馴染まないように頑張ろうが「ようこそ! 剣と魔法の世界へ!」である。
もう骨の髄までどっぷり浸かってしまうのも時間の問題だろう。というかよく頑張っている方である。
なので、そんなボケがシラ〜っと自然に出てきてもおかしくはないのだ!うん、そうしとこう!
「こんな朝っぱらから何だよ……ったく、うるさいなぁ」
ドアをノックする音だと気付いた勇輝は足取り重く、頭をガシガシ掻きながらふと考える。
この太田の家に勇輝とエルノアが間借りして住んでいることはそんなに多くの人が知っているわけではない。
なので、もしやオヤジの知り合いか?いや、まさかオヤジの身に何か?などと考えつつドアを開けてみると、
「早朝より申し訳ございません!ギルドランクE、ユウキ・ヒヤマ様でお間違いはございませんでしょうか!」
兵士が頭を下げ、ドテカイ声で訪ねてきた。
「え? あ、ああ。そうですけど」
「突然の訪問っ、失礼致します!私はこのセリューにてっ、二番警備部隊っ、副隊長をしておりますっ、ダイムと申します!つきましてはっ、ギルドまでご同行をお願いしたく参じた次第であります!」
警備部隊?……はて?なにかやったっけ?全く以って覚えがございませんが。
相手が丁寧口調にも関わらず、不安がよぎる。こういう時って何故かドキっとするよね?お世話になった事もなければ悪い事もしてないのに、お巡りさんと目が合っちゃった時、みたいなさ。
てかテンション高けぇな……どこの応援団ですかね?
「ギルドマスターからの緊急招集でございます! ローズ様、並びにティアーナ様とレイント様も同様に別の者が伺って声を掛けさせて頂いております。つきましては、エル様もご一緒に同行をお願い出来ればと!」
ギルドマスターからの呼び出し?緊急って何だろう?そういえば冒険者としてギルドに登録をしてはいるが、今まで会った事も見た事すらない。
じゃあエルを呼んでくるからちょい待って、と声を掛け振り向くと。
「すぐに行けるわよ」
「うおっ! いたんかい」
あれだけ騒がしければ勇輝と同じく起こされるであろうが、エルの身支度は完璧であった。
俺、何にも用意してねぇよ。
「ちゃっちゃと支度してきなさいよ。ダイムさんにお茶出しておくから」
最近のエルはまるで母親だな。
無言でツッコミを入れていると、副隊長のダイムはエルのことがストライクだったのか、勇輝へ向けた声よりオクターブ上げて
「こ、心遣い恐縮であります!」
と声を張って敬礼した。
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