15. ほんわか少女、ティアーナ
遅くなりました!
予約投稿、し忘れたっ
しかも字数少なめっ
「俺も全く異論はないですが、壊れているとは言え、こんな高級そうな馬車を他の賊とかに盗まれたりしないんですかね? こいつらの仲間がまだ近くにいるかも知れないし」
セリューまではそこまで遠くない距離だとはいっても、こうして山賊が出没する場所だ。
宝飾はないが見るからに高そうな馬車をこのままにしておくのもな、と思ったからそう言ったのだが、(ひょっとして、いけちゃう?)と触れてみると……
なんということでしょう!
馬車そのままがアイテムボックスに入ってしまったではありませんか!
「「「「なっ!? 馬車が消えた!?」」」
声を揃えて驚く護衛達。
(うん、俺もビックリしたし。まさか入るとは思いもよらなかったよ。一体どんな仕組みなんですかね? オヤジさん。あ、俺が仕組みを理解するには何年も掛かるから聞くなって言ってたっけ)
「あらあら。大変珍しい物をお持ちなのですね? それに、先程からずっと気になっていたのですが……エルさん、宜しいでしょうか?」
「どうしたの?」
レアなアイテムボックスを知っていたとしても、それはさして問題ではない。それも馬車が入ってしまう程の物は相当に珍しいのだということは護衛達の驚きで理解できたが、ティアーナの視線はそこではなかった。
「あなたの頭に乗っていらっしゃる方もなかなかにお目に掛かれない精霊のようですが……お名前をお聞きしても? 先程はご紹介して頂けなかったので何か事情がおありなのかとは思ったのですが、どうしても気になってしまって」
最近では定位置になっているエルの頭に乗るノアを見て、ニッコリと笑みを浮かべてティアーナは訪ねた。事情があるかもって思ってたのなら聞かなければ良いものを、とは言えず、エルは渋々にも答える。
「……よくわかったわね? マスコットとして見られることが殆どなのに」
「ええ。だって私の育った土地には名の通った精霊使いも幾人かいますしね。アクアル、という地名をお聞きしたことはございませんか? 残念ながら私には精霊使いの適性がありませんので、それを召喚する事は出来ませんが」
「へえ。ティアーナってアクアルから来たんだ?」
この手の会話には下手に入らないようにしている勇輝に、「ほら、前にオヤジさんが言ってたじゃない。私にアクアルから来たのか? って」エルが説明をしてくれる。
あーはいはい。確かエルがアイオライズの人間だってのをオヤジが疑った振りをした辺りの会話だな、と勇輝はそれを口にはせず、初めの「あーはいはい」の下りだけ声にしたところでノアはエルの頭から降り、宙に浮いたままで騎士の一礼をした。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません、ティアーナ様にレイント様。ボクはエルさまが使した精霊、ノアと申します。詳細は省かせて頂きますが、ボクはマスコットと見られる事の方が利点が多いもので。無礼をお許し下さい」
「あらあら。とてもご丁寧にありがとうございます。こちらこそ不躾に聞いてしまってごめんなさいね。それに聖獣にしてはとても可愛らしい名前ですが、良い名前ですわね。きっとシュレーン鳥の心も躍ってしまわれることでしょう」
ティアーナの返事にハッとするノア、エル、そして勇輝。シュレーン鳥がどうとか、そっちに反応したのではない。
今、確かにティアーナはノアの事を精霊ではなく聖獣と呼んだのだ。エルや太田に教えられた知識では、少なくとも聖獣はこうして外に出ることはないし、ましてノアのような小さな身体ではないので、例えマスコットじゃないと分かったとしても、まずそこに考えが行き着くことはないはずであった。
エルは先程までの軽快な口調とは一転し、ノアの前に腕を伸ばして問う。
「あなた……何者?」
「ローズ・A・デューベルの妹、だと先程も申し上げたかと。理解して頂いていると思っていましたが、私の見当違いだったでしょうか?」
うっかり口を滑らせてしまった、と顔にでも出してくれたら分かりやすいが、今となってはこのほんわかした笑顔さえも逆に怪しいと感じてしまう。
「もし宜しければデューベル家である証拠をお見せ致しますわ。デューベル家に伝わる創造魔法、なかなかに見応えはありましてよ? 勿論直撃はしないように調整は致しますが、万が一の事があっても──」
"それ"なら当たってもさほど痛くもないでしょう?と言わんばかりに、ティアーナの目線は勇輝の左腕を見据えた。
「ああ……確かに"これ"ならな。あとお前達が世間知らずなお姫様と、ただの雇われの護衛隊じゃない、ってことも間違いないようだな」
勇輝も警戒を強め、エル達の前に出て鞘に手をかけると、同様にレイントがティアーナの前へスッと出て、ため息混じりに口を開いた。
「……ティアーナ様。もうそろそろお戯れも宜しいのではないですか? 流石にこれ以上は私でも対処できそうにないのですが」
「あら? 心外ですわね。私は別に戯れているつもりなど毛頭ありませんわよ? それこそ、レイントが私のリンガ彫刻を見たニカ鳥の様な囈言を静止すれば良かった話でしょう?」
「囈言とわかっておられるなら止めて頂きたかったです……。それに、元はと言えば。ティアーナ様がユウキ殿の潜力を見たいと仰らなければ、私としましても気が楽だったのですが」
対面にして通じない会話をし続けるのは、相手に対し不快な気分を与えることもある。鳥だの彫刻だの、所々聞き慣れない言葉は二人の暗号なのか知らないが、この今の状況では却って警戒心を強めてしまうだけだ。
(事と次第によっちゃあ、ハリオベルの力を使わないと。……か)
レイントの剣捌きを一度でも見たからこその判断だ。一太刀では正確には判断しかねるが、ローズ程ではないだろう。いや、そうであって欲しい。じゃなければ自分はおろか、エルもノアも無事では済まなくなるからだ。
そのエルにしても守ってもらわなければならない程に自分は弱くはないつもりだし、そう勇輝が口にしてしまえばきっと機嫌を損ねるであろうが、男として、パーティ前線を任せられる身としては、ここは引くことの出来ない一線であった。
「そろそろいいか? 俺も覚悟を決めるしかないみたいだしな。どこまで俺の力が通用するかは分からないが、俺達もここで大人しくやられる訳にはいかないんでね」
「『エル。俺がレイントへ仕掛けるからティアーナを警戒しといてくれ。上手くいけば初手でレイントがティアーナのいる場所から大きく移動するハズだ。彼女が見せようとした魔法がどんなモノかはわからないが、エルの詠唱破棄の魔法スピードがあれば問題ないだろ』」
そう言い終わると、エルと目線を一瞬だけ合わせる。
「『わかったわ。ユウキも気をつけてね』」
(さて。本当にどこまで通じるか、やってみますか)
「『いくぞ!』」
お読み頂きましてありがとうございます。
さて、そろそろストックが底をつきます。
なるべく早い投稿を心がけますが、2~3日間隔とかになるかもです。
皆様、どうか
「ま、この作者じゃ仕方ねぇな」
ってな感じで許してやって下さい。
まだ次回の分は明日投稿いたします。