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14. テンプレだよね

「なんだ? あれ」


 融解の石窟からセリューへと帰る山道で人集(ひとだか)りが見えた。

 こんな場所で何かあったのか?と怪訝に見ながらも近づいて行くと、その人集りの人物達は小汚い鎧に身を包み、ブロードソードと呼ばれる安価な剣を片手に馬車の護衛兵士らしき人達へ向かってやいのやいのしていた。


「おおっ!? まさかの盗賊? すげぇ!」


 初めて見る光景に勇輝はテンションを上げると、エルが「バカねぇ、こういうのは山賊っていうのよ」と訂正する。

 正直どっちでもいいが。



 冒険にはこういう盗賊との出会いがあるのがテンプレだよね!と、ホッコリする勇輝はだいぶファンタジーのこの世界に馴染んで来ているようだ。


「山賊には違いないでしょうが、残念なお知らせです。今のユウキ様の声で彼らの剣がこちらにも向いたようですね」


 ノアが冷静に言う通り、山賊の数人が「獲物が増えたぜ! ヒャッハー!」と、こちらへ向かってくる。


「これまたテンプレ!」


 こっちがヒャッハーだぜ!……と、未だ内心アゲアゲな勇輝に、こういう賊とのやり取りはテンプレで、ハリオベルのような格好はファンタジーの世界ではそれこそテンプレじゃないのか?と、みっちり問い詰めてみたいところではある。


「ワケのわからないこと言ってないで、やるわよ!」


 エルは杖を取り出して攻撃態勢を取ると、無詠唱で魔法を放つ。


風刃(ウインドアロー)!」


 エルとノアがいた1000年程前のユルドであっても現在であっても、それなりの力を持つ魔法を放つには詠唱が必要である。戦闘では尚更に、詠唱破棄の魔法の威力は半減してしまうので、ほとんどの魔法師はきちんと詠唱をかけるのが一般的だ。

 だが、エルは子供の頃から覚えた魔法は口にせずともイメージのみで使う事が出来たようで、太田にも驚かれた。人より何倍も多い魔力量の持ち主であるエルが念話というスキルを持って生まれた事は、どうもそこらへんが関係するのではないか、と太田は考えているようだ。そして先程の引っ掛かりが何だったのかを思い出す勇輝。


(ああ、さっきエルが俺に向けて使った魔法の名前が適当だったのか)


 だが、まだこの時点では引っ掛かりポイントの全てを思い出してはいなかった。


 突進してくる山賊の足にエルが放った魔法が当たり、顔面からダイブする小汚い山賊A。


「こ、こいつ、詠唱が早えぞ! 気をつけろ!」


 エルの唱える魔法は脅威と感じ、ジリジリと隙を窺いつつ仲間へ注意を促す山賊Bと、「へっ! それならそれで、こっちだってやりようがあんだぜ?」と弓を取り出し、木の影に隠れる山賊C。


「面白いくらいにテンプレ満載!」


 もう勇輝のテンションメーターはフルMAX!


「だからそのテンプレって何よ!? ほら、さっさとやっつけるわよ!」


 エルがいい加減にツッコミを入れる。


「うーん。もうちょっと見ていたかったが、まぁ仕方ないか」


 山賊Aは後回しに、まずは山賊Bへ剣を振る。狙うは手首、剣道でいう所の小手だ。対人の実戦は初めてだが、ランクAともなるローズとの模擬戦に慣れていた勇輝にとっては楽勝である。加減した力で武器"だけ"を器用に落とし、そのまま胴への一閃で気絶させる。


「さて、あとは」


 木の影に隠れる弓使いの方へ目をやると、矢が空を切って勇輝へ向かっていた。


「ほい、っと」


「なっ!?」


 ある程度の自信はあったのだろう。あまりにも簡単に矢を撃ち落とす勇輝に、んなバカな!と驚きを声にする。そして更にありえない速度で自分の側までやってくる勇輝にたじろぎ、同じように呆気なくやられる山賊C。


「これもまたテンプレだね!」


 えっへん!と胸を張り、エルに「『そいつは任せた』」と山賊Aを押し付け、馬車へと向かった。




 ▽▲▽▲▽▲▽




「大変助かりましたわ。ありがとうございます」


 白くて踵の低い靴に華奢でか細い足首。

 青のグラデーションが胸元のフリルへと薄く色付けられたドレス姿。

 青緑がかった瞳にくるんと長い睫毛。

 赤茶でふわふわカールの巻き髪をした、間違いなく将来有望な美人女子。

 少女と呼ぶには顔が整い過ぎていて、些か不釣り合いに感じるお姫様のような女の子が、お礼をいいつつ馬車から降りてきた。

 勇輝が目を釘付けにしつつも、エルと少女さんを見比べ、「『エルは正真正銘のお姫様なのに、なぜにこうも……』」と余計なことを言うものだから、「『うっさいわよ』」とエルから横肘が飛んで来る。


「ぐはっ」


 成長しない男である。


 少女は横腹に手をやる勇輝を見ると、悲痛な面立ちで問いかけた。


「もしかしてお怪我を? さっきの賊にでも……?」


「ううん。別にいつもの発作よ。気にしないで。それこそ、あなたも怪我してなくて良かったわ。あと、応戦してた人達も大した事なかったけど、一応私からも回復魔法をかけておいたから安心していいと思うわ」


「何から何までありがとうございます。自己紹介をさせて頂きますわ。(わたくし)の名はティアーナと申します。そしてこの方はレイントさん。私の旅の護衛をして頂いている一団のリーダーですわ」


「……レイントと申します。お見知り置きを」


 レイントが直立で一礼する。見た目にして30歳半ばくらい、身長は190cmはあるだろうか。太田と同じ、ザ・筋肉!というしっかりした体は鎧なんていらなんじゃないか?と思ってしまう程の体格だ。身長が低い太田と比べ、高身長だとこうも見た目が変わるものかと思う。

 その背には勇輝の持つブレイズソードのような片手剣ではなく、格式ありそうな装飾が柄にあしらわれている大剣を背負っている。


「よろしくね、ティアーナさんにレイントさん。私はエル。そしてこっちはユウキよ」


「私からもお礼を言わせて下さい。それにしても先程のユウキ殿の戦いぶり。横目に見せて頂きましたが、すばらしい動きでした。どなたか名のある方に師事されていたのですか?」


 レイントが勇輝へ握手を求め、それに応える勇輝。


「んー、まぁ、師事というか。レイントさんだって相当じゃないですか。ああも簡単に何人もの山賊を一手にあしらうなんて。手助けに向かった時には終わってましたからね」


「いえ、私はそれこそティアーナ殿をお守りするのが任務ですので。ユウキ殿が駆けつけてくれたこそ、この山賊達の連携が崩れたのでその隙を取ったまでです。それに部下たちだけではここまで皆の怪我も少なく終われなかったと思いますので」


「そんなもんでしょうか。ま、せっかくの評価ですし、ありがたく受け止めておきます」


 勇輝の両親の事を話せば自分がこの世界の人間ではないと墓穴を掘りかねないし、その繋がりで太田の事やハリオベルの事、エルの事だってどうなるか分からない。

 エルも正式名を言わなかったのはそういう事だろうと考え、伏せれる部分は伏せておくことにした。


「で、師匠って訳でもないんですが、ローズっていう女流剣士と連日のように手合わせはしていましたね。ありゃあ人間じゃないですよ。戦いの鬼ですね。鬼。とは言え、もちろん信頼も尊敬もしていますが」


「……まさかとは思いますが、そのローズというお方は、ローズ・A・デューベル……でしょうか?」


 確認するティアーナと同時に、レイントも眉を上げる。


「いや、まぁそのローズ……さん……ですが」


 ティアーナとレイントに目を見開いてジッと見られると、あれ?なんか余計なこと言っちゃった?と不安に駆られる。うわぁ、もういっその事逃げちゃおうか……とエルの顔を見た時、ティアーナが口を開いた。


「ごめんなさい、ジッと見てしまって。実はそのローズは私の姉なんですの」


「あ、そういうこ……「えええええ!?」」


 世間って狭いよね。


 ああ、でもこの綺麗な顔立ちは言われて見ればローズそっくりかも。


「じゃあティアーナさんのフルネームはティアーナ・A・デューベルってこと?」


「姉妹なら当たり前じゃない、バカユウキ」


「そりゃそうか、ってこら。バカユウキっておま……最近俺への評価がだだ下がりじゃあありませんかね?」


「あら? そもそも最初から上がったことなんてないわよ?」


「ひでぇ!」


「ねぇ、じゃああなた達はセリューまで行くのよね? それならこれも何かの縁だし、私達も一緒に行きましょ? 街に着いたらローズのいる宿まで案内するから」


 護衛達が山賊ズを縛り上げるのを見つつ、エルがティアーナへ提案する。


「それは大変嬉しいお申し出ですが、よろしいのですか? エルさん達も旅の途中だったのでは?」


「ううん。私達、さっきまで融解の石窟っていう場所にいたのよ。そこでの用事も終わったから街まで帰る所だったのよ」


「それはお疲れ様でしたね。ではお申し出に甘えさせて頂きましょうよ。ね? レイントさん」


「……そうですね。先に部下を二人程街へやって修理材料を調達してもらおうかとも考えていたので、そうして頂けるのでしたらとても助かります。それにユウキ殿やエル殿がいてくれれば私としても心強いですし。こやつらも詰所へ送り届けなければなりませんしね」


 この手合いの賊達は獲物を狙う時はまず馬車の車輪を破壊し、動きが鈍ったところへ襲い掛かるのが常套手段のようだ。馬車に乗る人間は最悪逃しても、金品さえ置いて行ってもらえばウハウハ。上手いこと考えているものだ。


 レイントの言葉に「ケッ!」と悪態つく山賊ズ。


「何度も言うが、まさにテンプレです。ありがとうございます」



お読み頂きありがとうございます。


これから徐々に勇輝さんが染まっていきます。

いや、戻っていきます、が正しいのかな?


これからも皆様に楽しんで貰えるように頑張りまっす。


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