12. 初めての魔獣
1日空いてしまったので
今日は2つ投稿します。
「しかしなぁ」
勇輝とエルにノアの3人がセリューから程近い距離にある洞窟へと向かう道すがら呟く勇輝に、「どうしたのよ?」とエルが問う。
「落し物を探すって、冒険者の仕事じゃねぇだろうよ」
「しょうがないじゃない。私達はまだギルドに登録したばかりのFランクなんだから」
「それはそうなんだが……」
うーん、と唸る勇輝の言うこともわかる。
今の当面の目標としては、エルの故郷であるアイオライズを取り戻す事。
その為にエルの父、ダルフ・エス・アイオライズに会い説得、もしくは止むを得ず戦闘となる場合にはそれを討つこととなる。
ギルドに登録をする前日、「今の段階ではだが、もしハリオベルと同等の力を向こうさん勢力が持ち合わせておった場合、その時は間違いなくユルドの大地は終わりへと進むだろう。ならば例え万が一の確率だとしてもその可能性がないと言い切れない今現在は、それを危惧し、力を付けていく事も必要だ」と太田が話してくれたことが、この先の目標になっていた。
「あれじゃないでしょうか?【ガイクの洞窟】って」
エルの頭に乗るノアが可愛らしい腕を上げ、方向を示す。
本来ならばノアは自分で浮いて付いて来ればいいのだが、エルの頭に乗る事が大変気に入ってしまったようで、ヌイグルミのフリをさせてしまっているお詫びも込めて、エルは快く譲っている。
「へぇ、結構広いんだな。洞窟って言うからもっとジメジメしてて、屈んだり這って行かないと進めないんじゃないかって思ってたのに」
「そんな小さな洞窟なんて逆に有り得ないわよ。そもそもこういった洞窟がどうやって作られるか、教えたでしょう?」
ユルドで普通に生活していればそれを知らずに生きていく方が難しいであろうが、日本で生まれ育った勇輝にとっては普通に生活をしたこともなければ今でもこれが普通なのかと問われれば、頭を捻る日々である。
「まぁ、な」
ユルドに数多く点在する洞窟には必ず"その洞窟を形成した鉱石"がある。
洞窟を形成する仕組みを簡単に言えば、地中に埋まる岩石が魔素を取り込み、地中を大きく"溶かしていく"ことにある。
そして更に、魔素を取り込んだ鉱石は、自身が取り込んだ魔素を変化させ、周りに生活する動物を魔獣へと変えてしまう性質も持つそうだ。地球での洞窟の形成方法とはえらく離れている。
今回のガイクの洞窟は放っておいても問題のない洞窟だが、世界各地に点在する洞窟の中には鉱石が大型魔獣へと変貌させてしまうほどの力を持つものもあるそうで、その場合は大洞窟というより迷宮と呼ぶ大きさになるらしい。しょっぱなから出てくる魔獣も広さも深さも桁違いだからこそ、お宝になる素材は多く、一発逆転に賭ける冒険者が自爆するのも少なくない。
「迷宮クラスになれば勿論だけど、燃焼鉱石とか、人々の役に立つ鉱石が採取出来る洞窟は破壊対象にはならない事がほとんどね。だから討伐依頼とかがギルドに張り出されるんだけど──っと、早速出たわね!」
「おお! これが魔獣かぁ!」
勇輝にとって生まれて初めての魔獣。日本では野生の猿や鹿を見るくらいだが、目の前にいる魔獣は中型犬くらいの大きさのネズミだった。口元はそれこそ前歯が特徴的なネズミであるが、その横には猪のような牙が生えているので狂暴だろうというのは見て取れる。
が、
「あれ? なんか拍子抜け……。あれか? スライムみたいなもんか?」
アッサリとユウキの一振りで倒された。
「ユウキも一緒に魔獣について勉強したじゃない。スライムなんてそこらの子供でも倒せるわよ。この魔獣はEランクってとこからしね」
ギルドランクと同じく、魔獣にもランクはあり、FからFプラス、E、Eプラスと上がっていく。
もちろんSランクもいるそうだが、そのレベルだと小さな街なら簡単に壊滅させる力を持つ成獣のドラゴンレベルになるらしい。
「ドラゴンいるの!? すげぇ! どこに行けば見れる?」なんて動物園に行くかのように簡単に聞く勇輝に、「見れたとしたら、その時は死を覚悟するべきでしょうね」とノアに諭され、「あ、把握」と冷や汗を流した。
「まぁそうなんだが、こうも簡単に倒せてしまうとなぁ。で、こいつをギルドに持ってけばお金になるんだっけ?」
しゃがみ込み、魔獣の牙を指差してエルに聞く。
「そうよ。でもこの魔獣の素材では大した金額にはならないわよ。このまま捨て置いて行っても別の魔獣の餌になるだけだから、普通の冒険者なら無視するわね。でもユウキが持って帰りたいのならいいんじゃない?"それ"に入れれば邪魔になる訳じゃないし」
エルがそれと指を指すのは、腰にぶら下がる革製のキーホルダーで、小さな青い宝石が付いている。
これは太田が日本から持ってきてくれたもので、レアアイテムの1つだ。
「勇輝とエルが冒険者になった記念のプレゼントだ。空間魔法で弄ってあるから重宝するだろうよ」と言うと、エルは相当に喜んで太田に抱きついた程だった。
宝石にそもそも興味がない勇輝にとっては「ふーん」ってなものだが、その反応を見たエルは「『ユウキの世界にもバッグはあるでしょう? もしそれ1つにお店数件分の商品を入れられるとしたらどう思う?』」と念話で話してきた。
つまりは、これがゲームで言う所の"アイテムボックス"だという事だ。
「ある意味日本よりも科学力は上じゃねぇ?」と素で驚いたが、同時に「魔法さん、パネェっすね!」とこの世界の原理をまた一つ理解した。
「じゃあ折角だし、入れておくかな。初の魔獣討伐記念だしね」
そう言ってビックラット(まんまかよっ!:勇輝談その1)に触れ、アイテムボックス(ちょっとは命名したヤツも捻ろうよっ!:勇輝談その2)に"まるのまま"入れた。
そうして洞窟を進みつつ数体の魔獣を倒しながら、依頼である紛失物を見つけ、ギルドへと戻るのであった。
▽▲▽▲▽▲▽
「これで間違いないでしょうか?」
エルがギルドの受付へ品物を渡す。
依頼である紛失物はネックレスだった。
「はい。お聞きしていた物と同一ですし、間違いありません。ではギルドカードの提示をお願い出来ますか」
獣族の血が入っているであろう受付嬢は、切れ長の目に猫耳という絶妙なバランスの持ち主であり、冒険者の多くがこの受付嬢ジェナと会話をしたいが為に次々と依頼を受けに来る。
その証拠に、ユルドに点在するギルドで活躍する冒険者レベルよりも、ここセリューでの冒険者の平均ランクは上であり、大都市にも関わらず、揉め事や魔獣の被害報告が少ないのだ。
「ではこれにて依頼達成となります。次の依頼はお受けになられますか? 正直に申し上げれば、ユウキ様達にこれらFランクの仕事を紹介するのはとても心苦しいのですが」
「え?……いや、俺達は確かにFランクだけどさ」
そこまで自分達の実力は低いのかと一瞬落ち込みそうになるが、連日のようにローズとの模擬戦を繰り返し、数日前にしてやっと1本取った所で、エルにしても太田からお墨付きを貰うほどの成長ぶりだ。
例えギルドからの評価が低くとも、どんな依頼であってもやってみせる!出来るはずだ!と意気込むが、そんな気合いは空回りに終わる。
「いいえ、そうではありません。あそこまでギルドの修練場がボロボロになるのは珍しいのです。というか、初めての事です。あの場を使用するのは精々Dランクまでの方々で、そのレベルの冒険者達の力には耐えうる構造になっていますから、当然問題は御座いません。ですが、エル様の魔法習得は勿論の事、ユウキ様とローズ様との模擬戦で"そうなる"という事は、僅か一週間前にギルドに登録したばかりのルーキーが、ローズ様と同レベル──もしくはそれに近い実力を持っていても不思議ではない、と考えます。ですので、このFランクの仕事をユウキ様達に振り分けるというのは、受付を任されている私としましても心苦しく思うのです」
「おおぅ。まさかの高評価」
「はい、それはもう。それに……私と同じくユウキ様に一目置いている人もいるようですよ?」
ニコッとして「後ろの皆様のお顔を見て頂ければおわかりになられるのでは?」と、勇輝の後ろでテーブルにつく冒険者達へ目線を動かす。
見れば確かに「こいつは何者だ?こんなヤツに負けてられるか!」という対抗心を燃やしているように見えなくもないが、これは絶対に「ジェナさんからの評価を独り占めにしやがってぇぇぇ!しかも耳打ちだとお!?ぐぬぬぬ!ゆ、許さん!」の顔だ。
うん、間違いない。
数人が立ち上がり、ジリジリと歩み寄って来る男たちの目が怖い!
(ていうかジェナさんて、鈍感キャラなんだなぁ──)
白目になりそうな勇輝。
さて、と。
「逃げるぞ!」
これは超絶面倒くさい事になりそうだ、と依頼内容も見ずにジェナから依頼書を引っ手繰り、エルの腕を掴んで走る。
「ちょ、ちょっとユウキ? い、痛いって! てか早いわよ! 私そんなに早く走れな……きゃ、きゃあぁぁぁ!」
このままでは捕まる!そう思った勇輝はエルを肩に抱え、ストームブーストを発動させて走り去っていった──。
「そ、そんなに私からの評価が嫌だったのかしら?……グスン」
この日を境に、勇輝は一部の冒険者から"ジェナを泣かせた許し難き存在"として決闘を申し込まれる日々を送ったとか送らなかったとか。
間違いないのは、"一部"の冒険者には名が売れた事であろう。