11. 一時帰国
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大木をそのまま真横に切って作られた座卓で、低身長だが鍛え上げられた体を持つ男は座布団の上で胡座をかき、枝豆を摘んでいる。
その対面で冷えたお茶を口にする男は背筋をしっかりと伸ばし、正座で相手の目を見る。引き締まっていると表現出来る体は、絶対的な力よりも動きを重視した上での鍛え方をしているのだと思われる。
この二人がいる部屋は、高さ2m程の木製の枠にはまるガラス戸は全開に開かれおり、風がその先の庭の木々をすり抜け、風鈴の音色と共に心地よい爽やかさを送ってくる。
「まあアイツがアレを使いこなせさえすれば、当面は安泰だろうよ。流石は疾駆の暁とまで言われた男の息子だな!がはははは!」
背の低い男、太田厳は、キンキンに冷えたビールで喉を潤しつつ大声で話す。
「その二つ名はやめてくれ。ここに住んで長いせいか、何故あっちではその名で呼ばれる事を喜んでいたのか、今ではわからんくらいなんだ。ま、ユルドへアイツを送ると決めてからは俺も腹は括っていた。だが、愛衣は口にこそしないが相変わらずの心配性だからな。毎日のお祈りをかかさずしているよ」
そう話すのは桧山准来、勇輝の父である。
太田はこの先の流れの思案と研究、そして日本に置いてある研究道具一式を取りに戻ったのだった。ユルドからいちいち研究の為に日本へ転移するには面倒であるし、何よりもゲートを作成するのは時間も資金もそれなりにはかかる。王族だからと言っても研究はあくまで個人的資金から、がモットーなのだ。今回の転移にはもちろん勇輝も誘ったが、「俺はまずここで強くなってからにする」と見送ったのだった。
「しかし、あのローズがAランクとはな。次に手合わせしたら負けるかもな。あいつに最後に会ったのは……こっちに来る前日だったから、もう18年も前か。うかうかしてたらあっという間に追い抜かれてジイさんになっちまう」
「バカ言ってんじゃねぇよ。お前さんはあと一歩でSランクだったろう? ならまだイケるんじゃねえか? それに俺たちハーフはそんな簡単に年は食わねぇだろうが」
准来と愛衣も太田と同じくハーフ族だ。長命のエルフ族からの派生が一番多い現ユルドに於いて、平均寿命は地球に住む人々の平均寿命の倍以上であった。
確かにそう簡単に俺の後ろを取らせるつもりはない、という自信は准来にはある。日本に来てからも、勇輝の稽古を付けながらも鍛錬を欠かしたことなど1日足りとてなかった。今ならばSランクへ上がる事もそう難しくはないんじゃないか、と頭のどこかでは考えていたりもする。疾駆の名は伊達ではないのだ。一撃破壊の攻撃力より総攻撃力。手数でのスピード戦法が准来の持ち味だった。
「確かに准来が剣を置くなんて想像も出来ないわね。それに、別に心配なんてしてないわよ?あの子はあれでも理解は早いもの。私に似てね」
勇輝の母、桧山愛衣が追加のビールと刺身盛り合わせをお盆に載せ運んで来る。
准来と同い年で、同じく人間族寄りのハーフだけあって、いまだ衰えない躰つきと大きすぎない胸も相まり、ご近所さんやママ友からはよく「なんでいつまでもそんなに若さを保っていられるの? 秘訣は? どこの美容液を使ってるの? ねぇねぇ教えてよ。もしかしてご主人ともまだ仲は良いの?」と会えば必ずマシンガンの如く質問攻めに見舞われる。
まさか「実は私、エルフの血が入ってるから長命なのよ? オホホホホ」なんて言っても信じて貰えないだろうし、勿論言える訳もなく「童顔なので……」と誤魔化してはいるが、実は内心激しくウンザリしている。だがママ友方の勇輝の同級生も、近所の子供達もこの桧山道場に稽古に来ているし、あまり無碍にも出来ないのだ。
愛衣はお盆をテーブルに置くと、太田の空になったコップへとビールを注いだ。
「おお。こりゃまた豪勢だなあ、おい。向こうじゃここまでの刺身は食えないからな! ありがたい」
「心配もしてないヤツがこんなにも振る舞うか? これは俺が今日の夜にって楽しみにしていたのに……」
肩と落としつつ愛衣を見る准来。
「だって息子のあれからをこうして知らせに来てくれたのよ? おもてなししなきゃ疾駆の妻の名が廃るわ」
「その名はマジで勘弁してくれませんかね? 剛腕の女神様」
「あらあなた……ぶっ飛ばすわよ?」
「ガハハハハ! 相変わらず准来は愛衣には弱いなぁ? そういやぁ、勇輝もお前に似ておるぞ?」
「……なにがだよ」
痛い所を突かれて、ケッ!という態度で太田を見る。
「さっきも話したアイオライズの娘のことだ。勇輝とエルのやり取りなんか、見てて懐かしさを覚えるからな。それになかなかのベッピンさんだ。今度一緒に連れて来てやる」
「え!? オータさん、ちょっとそれ詳しく聞かせてよ。なに? あの子こっちで一切彼女なんて出来なかったのに、あっちでいきなり出会った子とそんな関係になってるの?」
「まぁ、実際に彼女とかそういうわけでもないんだが……。いや、あれはきっとそのうちそうなってもおかしくはないかも知れんな。本人達は否定するだろうが、なかなかにいいコンビになるんじゃないかと踏んでおる。というか、お前達もそうだったろう?」
「うーん。私達は孤児同士だったしなぁ。准来と一緒に冒険者になって、色々あってこの3人でこっちに来て、って感じだから境遇が違うじゃない」
「ワシから見たら同じだ。お前達二人がこうして一緒にいることと、勇輝達があっちでやっていこうとしていること。どっちもワシが一枚絡んでおるが、それとは別に運命的なモノに導かれているような気がするんだ。エルの受け売りも入っておるがな」
太田がそう言うと、准来と愛衣はお互いを見合わせ、クスリと笑って
「「オータ(さん)から運命とかそんな言葉が出るとか、ウケるな(わ)」」
とハモった。
「やかましいわい! ワシ自身もそう思っておるわ! ガハハハハ!」
「今度そのエルって子に会うのが楽しみだわ。あー、勇輝にも会いたくなっちゃった」
勇輝をユルドへ送り出してから1カ月とちょっと。太田に頼めば会えないこともないが、自分達から勝手に送り出しておいてそんな真似は出来ないし、勇輝がまだそういう時期じゃない、と判断しているのだ。
「そう遠くないうちに会えるさ。それに……」
スッと強い眼差しに変わる准来の目に、愛衣も太田も頷く。
「……ああ。ワシ達もそれまでに準備は整えなくてはな。今度ばかりはユルドだけでなく、こっちの命運も掛かっておるからな。お前達に頼ってばかりで申し訳ないが」
「いや、お互い様だ。なんたって両方とも俺たち3人、いや、勇輝も入れれば4人の故郷だ」
「あら。未来のお嫁さんのことも入れてあげなきゃ」
「それはいくらなんでも気が早いだろ」
「そういえば。ねぇ、あの話はどうなったのよ」
「それは聞かんでくれい」
「なんだよ、あの話って」
「ほら、太田さんの一世一代のあれよ」
「ああ、そういえばそうだな。おい、勿体付けてないでキリキリ吐け」
「おまえら、ワシを何だと思ってやがる」
「俺たちの友人だろう? まさかこの日本で王族の権利を持ち出すのか?」
「そう言うことではないわい! ……ま、これからあっちに戻ってから返事を聞く事にはなっておるな」
「大丈夫よ、きっと」
「だな。太田が誰とかどこの人間だとか、そんなものを気にするようなコじゃないだろ? 自信を持って会いに行けばいいさ」
「……そうだな」
カラン──とグラスに入った氷が音を立てるグラスと同じように、太田もまた汗をかいていた。
どうやらこの太田、そう言う方面には疎いようである。
お読み頂きまして!
誠に、
誠に、
ありがとうございます。
これからも頑張ってラストに向けて書き続けていきたいと思います!
NOT! エタ!