1. 初めての異世界
海都と申します。
ある日突然に妄想が頭の中を駆け巡ったので、ファンタジーを描くのは初ですが思い切って投稿してみる事にしました。
すっごくマイペースにしか描けないですが、矛盾点や誤字などその都度直していきます。
大変読みにくいかとは存じますが、どうぞ生暖かく、半解凍な目で見守って頂けたら幸いです。
誰しも一度は使ってみたいと思ったことがあるだろう、魔法。
実際に使う人がいるとすれば、それは映画や漫画、アニメなど、創作物に限られる。所詮、夢物語だ。
でも、もしかしたらこの世界の何処かで人に知られないように上手く隠しながら生きているのかもしれない。
そんな風に考える妄想も言ってみれば一つのファンタジーであり、実は自分は……なんて半分以上の本気で主人公を気取ったりする思春期の人や、大人であれ、よく言えば少年の心を持ち合わせる人も少なからずはいるわけだ。
桧山 勇輝も、昔はそんな考えにどっぷり浸かっては楽しんでいた時期はあったが、今となってはいつかは異なる世界へ──なんて夢にも思わないし、成人を過ぎてもその世界にどっぷり浸かっている人種をつい悲観的な目で見てしまうのは、その頃の自分を黒歴史だと自覚しているからこそである。
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(こないだ来た時とさほど在庫はかわっていない…かぁ)
古書店巡りを楽しみとしている勇輝は先週の日曜日にもこの店で物色をしていた。
頻繁に本屋へ行く人ならば共感できる人もいるのかも知れないが、発売された本を買うだけではなく、本に囲まれた空間を楽しんだり、こういう古書店ならば作者や背表紙を見た時のインスピレーションだけで買ってみて、それが当たりだった時の喜びと言ったら何物にも代え難い。ちなみに、懐事情の問題でアンティーク物を買って行くことはない。
そんな地味とも言える趣味を楽しんでいた勇輝は、ふと一冊の掠れた茶色の背表紙に目が止まる。
(これは先週には置いてなかったな)
と、手に取ったその表紙には【巡ル輪廻の了】と書かれていた。
「さすが勇輝、目ざといのう。それは昨日仕入れたばかりでな。まあその目利きもワシのおかげか? がはははは!」
やたらとデカイ声で話しかけてきた男は、平均よりもかなり低いと言ってもいい身長の持ち主だ。
その代わりにムキムキに鍛えられている体はどう見ても古書店には似合わない。
勇輝の名前を知るこの店主。名前を太田 厳といい、勇輝の両親とは元仕事仲間らしく旧知の仲である。
勇輝の父は堅物で真面目一本だが、太田には良い事も悪い事も教わった。勇輝の事を我が子のように可愛がり、実の親を差し置いて遊びにもよく連れて行ってくれた人物だ。
そんな太田を勇輝も慕い、二人目のオヤジとも、一人っ子である兄貴分とも思っている。普段の呼び方は太田のオヤジ。またはオヤジだ。なんだかヤ○ザのようである。
「ってことはこれって」
本に挟まれている値札を確認すると【時価】の値札。この店では【時価】と書いて【人によっては売らないこともない】と読む。
商売する気があるのかないのか、こうして棚に置いてある以上は売り物としての扱いなのは間違いないが、金にモノを言わせ、珍しいからという理由だけで購入しようとする人には売らないらしい。
「俺にも愛情はあるってことだ! ガハハハハ!」といつだったか笑って言っていたが、前にも同じく時価の本を見つけた次の日には既に誰かの手に渡ってしまっていて、いくらで売ったのか聞いてみると「ま、車が買えるくらいだな! ガハハハハ」と目を¥マークにして笑った。愛情さんはどこへ旅立ったのだろうか。
「欲しけりゃ持ってくか?」
「え? マジで?」
「ああ。そろそろいいだろ」
太田の影響で今の勇輝がある。決して言い過ぎでは無い。小さい頃は絵本、小学生あたりはマンガが中心で、中学から高校生の頃には現代小説やらちょっとおおっぴらには言いにくい写真付きの本、それに古書。と段階を踏んで太田は勇輝へと手渡していた。
最近では読みふける事よりも収集家になりつつあり、そのお陰で貯蔵本総数はどえらいことになっている。今回もその段階だろうと勝手に解釈し、"そろそろ"の意味を深くは考えなかったのがターニングポイントだろうか。
「でもいいのかよ? 数ヶ月分の売り上げを俺に譲っちゃってさ」
「大きなお世話じゃ。おまえにそんな気を遣われる日が来るとはな! ガハハハハ! さぁそろそろ店じまいだ。准来と愛衣によろしく言っといてくれ。あ、それとな──」
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「オヤジって毎度の事ながらナゾなんだよなぁ」
「どうしたのよ? そんな難しい顔して」
帰宅早々ダイニングテーブルに肘をついて独り言ちると、勇輝の母が問いかける。
「んー、いやさ? てっきりタダでくれるもんだと思ってたら、読んだ感想を教えろって言うもんだからさ」
「相変わらず厳は勇輝には甘いわね。でもいいじゃない、感想を話すくらいなら。お茶、飲むでしょ?」
「まぁね。ありがとう、自分の部屋でもらうよ」
普段からお客なんてなかなか来ない、人目につきにくい路地裏で経営しているのに、ああして気分で店をクローズする。"人によっては売らないこともない"本が車の値段で月に一冊でも売れるならば、充分食っていくどころか贅沢さえ出来そうな気もするが、それこそ勇輝が口を出す事ではない。
それにしても流石に何か裏があるんじゃないか、と思わずにはいられないが、自分のインスピレーションで選んだ本はハズレた事がないのも事実。別に感想文を書けとか言う訳でもなく、単に面白かったかつまらなかったかだけでもいいと言うので、中身を確認する事もせず受け取った。
自室でいつもの定位置──部屋に敷かれるラグと座布団の上でいつもの瞑想をする。
これは同じく本好きの母から受け継いだ儀式みたいなもので、「ご飯を食べる時はいただきますって言うでしょ? それと同じよ」と、教えられた。別に律儀に守っているでもなく、今となってはそうした方がいいと自分でも思えるからこそやっているだけの話だ。
そんな勇輝の両親は桧山道場を営む。剣道師範の父は名を桧山准来と言い、先程勇輝が話していた相手が空手師範の母で、桧山愛衣。幼少の頃からそんな両親により半強制的に叩き込まれた剣道と空手の腕前はと言うと、剣道は三段で空手は二段である。
全てを最短で取得したが、今の年齢では制限があってこれ以上は上がれない。もちろん段数の高さが強さではないのは勇輝も理解しているし、そもそもが自分から進んで取った訳ではなく、全ては道場の繁栄に繋がればという想いもあったからだ。
「さて。じゃあ有難く読ませて頂こうかな」
新しい本を手に入れ、お茶を用意してから最初のページをめくる、この瞬間がたまらない。
ジジ臭い?いやいや、ダンディーと呼んでくれ。ってそれも違うか。
ワクワクしつつ年代を感じさせる表紙をそっと捲ると、そこには印刷ではなく直筆の赤色で何やら見た事もない文字のような記号のようなモノが書かれてあった。
(古代文字?ヲシテ文字……でもないか)
見覚えもないなら尚のことだが、学者でもない勇輝にはその意味すら理解は出来なく、どれだけページをめくっても所々が掠れた赤色で1ページ毎に、しかも大きく余白を残して1つだけ描かれている。
「あのオヤジめ。こんなんで面白いとかどうか教えろなんてよく言うよ。今度文句言ってやる」
美術書の可能性もあるだろうが、例えそれが古く価値があろうとも、その手の物に勇輝には興味がない事は太田も知っているハズだ。今回ばかりはインスピレーションが外れたか?そう思いながらパラパラとめくり、あっという間に最後まで見終わるその時──、
自室が突然"暗転"した。
停電か?と立ち上がり、テレビで通電を確認すべくリモコンを取ろうとすると、足元に丸く輝くものが浮き出てくる。
そしてそれが一気に強い光となって上へと円柱状に駆け上がると、眩しさのあまりに目がくらむ。
「な、なにが起こって──?」
一瞬、意識が飛ぶんじゃないかと思う程に頭の中がぐわんぐわんと掻き回されるような感覚におちいり、平衡感覚が崩れて床に手を着いて気付く。
自室ならばもちろん先ほどまで座っていた座布団、もしくはラグの感触がするはずなのに、その手に触れるのは──
「んなっ……? ドコだよこれ!?」
見渡すほどに広がる砂。
そして雲ひとつすらない空。
それも東京なんかではまず見ることのない、澄んだ青空だった。
お読み頂きましてありがとうございます。
今のところはストック分をチマチマと出していきますが、
いかんせん執筆能力が乏しい作者ですので何卒ご容赦を。