楽しい時代の日々
11月12日
僕は、その日バイト終わりでリビングのテーブルで夕寝してた。
すると、突然
「お兄ちゃん、勉強教えて!」
いつの間に帰って来てたのか、妹が体を揺すって起こしてきた。
「今、何時?」
僕が寝ぼけて聞いてみると
「いま〜は、5時。ね〜、数学なんだけどさぁ〜、、、」
(1時間ぐらい寝れたな)
「てか、みなみ勉強してんの⁉︎ちょい待ってて、部屋に教えに行くから。」
「うるさいなぁ〜、勉強は学生の本分ですよ(笑)。じゃあ待ってる」
僕の言葉を聞いてすぐに自分の部屋に戻っていった。相変わらずマイペースな妹だ。とりあえず、顔だけ洗ってすぐに妹の部屋へ。
「どんな問題?みなみ」
「グラフの書き方なんだけど〜。」
今度のテストは、一次関数が範囲に入ってるようだ。
「これが、切片でプラスなら上方向、マイナスなら下方向にまず印を付けて、こっちが傾きで例えば、、、」
そんな感じで教えてたら、やり方を思い出したらしい。
「あ〜、そうだった。ありがとう」
「テスト近いの?」
「うん、来週。部活も休みになってるしこの時くらい勉強しないとね!」
(珍しく勉強してると思ってたけど来週のテストに間に合うのか?)
「あっ、これから友だち来るからね」
「そう。クラスの子?男じゃないよね?」
兄としては心配だ。
「えっ、なに~お兄ちゃん(笑)妬いてるの?女の子だよ!明日香ちゃんって子」
軽く雑談してると、家のチャイムが鳴った。
「あっ、きたきた。」
みなみが玄関まで走っていく。友だちが来たらしい。
「お邪魔します。」
可愛らしい声が聞こえた。みなみと同じくらいの背丈の子があいさつしてくる。
「初めまして、清水明日香です。」
はっきりとした顔立ちでハキハキと話す子だった。そのまま、2人で部屋に入っていく。
僕は、することもなくなってのでリビングでのんびりすることにし携帯を見てラジオをつける。パーソナリティーが軽快にトークしている。
(芸人さんかな?話し上手くて聞きやすい)
そんなことを考えて携帯のニュースを見てみる。いろんな芸能ネタが今日もあるようだ。
10分ほどして買い物にいこうと思い、みなみに声をかけた。”コン、コン”部屋に入る前にノックをする
「みなみ、コンビニ行くけど何かいる?」
「うん。お菓子とジュース、お願い。明日香の分もね」
「えっ、私はいいよ。大丈夫ですよ、お兄さん」
「いいよ、いいよ気にしないで。おもてなししてないから何か買ってくるよ」
僕は、財布と携帯をもって鍵をかけて家を出る。イヤホンを耳につけて音楽を聞く。最近、自分の流行りはブレイク中の3人組のバンドだ。テンポが速くテンションが上がりやすい。コンビニまで10分くらいだし2曲は聞けるなぁと思いながら歩き出す。イントロAメロBメロと流れサビがもう少しで流れるところで電話が鳴った。
(いいところだったのに。誰かな?)
携帯の画面を確認すると彼女からだ。
「もしもし、真子。今何してる?」
「これからコンビニ行くところ。バイトは終わった?」
「さっきね。今から行っていい?」
「うん。どれくらいかかるっけ?」
「20分くらいかな」
「じゃあ、家の近くのコンビニだから」
「はーい、待ってて!」
電話を切るとサビが流れ出す。もう1回初めから聞こうと思い、携帯を操作する。そろそろ寒くなってきたなと季節の移り変わりを感じながら慣れた道を歩く。もう目をつぶっていても歩けるんじゃないかというくらい歩い道だ。コンビニに着くと雑誌を読んで彼女が来るまで時間を潰す。
週刊誌を見ると議員の献金疑惑だの芸能人の不倫話しだの最近の騒がしい話題が載っている。とりあえず興味はないのでパラパラとページをめくり、1冊2冊と雑誌を変えていく。
「わっ!」
突然、顔が目の前に現れた。
「ビックリした?」
笑顔の彼女の顔だ。
「うん。普通にビックリ!」
「本当に?」
「マジマジ、バイトお疲れ。結衣」
「まっ、いっか。ご飯買いに来たの?」
「いや、みなみが勉強してて差し入れにね」
「えっ、みなみちゃん勉強してんの!」
「来週、テストだって」
「あぁ、だからか。珍しいなぁと思ったらテストね」
「勉強教えて〜。って言われたからびびったよ(笑)」
なんて会話をしながら買い物をする。
「チョコがいいんじゃない?勉強してたら糖分必要でしょ」
「そうだね。じゃあコレにしよっかな」
買い物を済ませてコンビニを出る。半分持とうかと言ってくれたがバイトで疲れてるでしょと遠慮する。家までの道、彼女と歩く道これまた何度歩いたか分からない。この時間は本当に幸せだ。彼女がバイトの話しをしていて僕は相づちを打ちつつ家まで歩いた。
家に着くころには、6時を10分ほど過ぎていた。
「ただいま」
僕らがそう言って靴を脱いでいると
「おかえり」
落ち着いた声が返ってきた。
「あれ、今日は早かったね、、、」
と言いかけた時には結衣はもうその人に飛びついていた。
「れいちゃーーん。今日は早い帰りだね」
「うん、仕事少し早く終わったから」
「おかえり、れいちゃん。今帰ってきたところ?」
と、僕はまだスーツ姿の姉に問いかける。
「ほんの数分前だよ、今日来てたんだね」
「昼食うものなくてさ、冷蔵庫のもの食べにね(笑)」
相変わらず姉にくっ付いている結衣も一緒にリビングへ。
「ご飯買ってきたの?これから作るのに」
「いや、みなみへの差し入れ、友だちとテスト勉強してるみたいだから」
「そうなんだ、ありがとね。ご飯食べていくでしょ?」
「もち、いただきますよ」
「結衣も食べてく?」
「もちろんです!れいちゃんの美味しいご飯絶対食べます」
「そろそろ離れてよ。スーツに、シワつく」
ずっと、抱きついてた結衣がやっと姉から離れる。
(れいちゃんのこと、本当に好きだなぁ)
自分の彼女が家族と仲が良いのは嬉しいが、僕のこと以上に結衣は姉が好きなんじゃないかと最近思ったりもする。
(まぁ、仕方ないか)
そんな会話をしてるとうるさかったのか、みなみが友だちと一緒にリビングへ。
「ちょっと休憩〜」
みなみは机に突っ伏した。
「お邪魔してます。清水明日香です」
頭を下げて姉たちにあいさつする明日香ちゃん。
「はーい、いらっしゃい。初めましてだよね?姉の麗奈です。こっちは結衣ね。こんなに可愛いのにうちの弟の彼女さんです」
いきなり人が増えててビックリしたのかと思いきや明日香ちゃんは丁寧にあいさつをした。
「お兄ちゃん、ジュースちょうだい」
「あー、はいはい。」
僕は買ってきた袋ごとみなみに渡す。中からジュースとお菓子を取り出すと食べようとしたが
「あっ、みなみちゃん。もうちょっとでご飯にするから少しだけにしといてよ」
麗奈ちゃんに忠告されると、みなみはホッペをふくらまして
「はい、はい。分かってま〜す」
明日香ちゃんにもジュースを渡すと早速、飲み始めた。
「今日、ご飯何がいい?」
「カレー!」
即答したのは、結衣だ。
「カレーは昨日だったからね。まだ鍋に残ってると思うし。みなみちゃんは?」
「何でもいいよ〜」
「真子は?」
「うーん、そうだなぁ。れいちゃんのご飯なら何でもいいけど」
「もう、何でもが困るんだって。明日香ちゃん、ご飯は済ませたの?」
「いえ、まだです」
「せっかくなら食べていかない?みんなで食べた方が美味しいし?」
「いえ、ご迷惑でしょうから」
「えぇ〜、食べていってよ。れいちゃんのご飯、すっごいおいしいよ」
「みなみと一緒に勉強してくれてるお礼だから、どう?」
明日香ちゃんは、少し考えると
「じゃあ、お言葉に甘えて」
と言い
「お母さんに電話しとかないと」
と携帯を取り出し電話をかけ始めた。
「あっ、途中で変わってね。お母様にご挨拶したいから」
麗奈ちゃんは、明日香ちゃんにそう言うと電話を変わって話し始めた。
「お電話変わりました。同じクラスの、、、」
ひと通り話すと
「あんまり遅くならないようにってことだったから、帰りは真子送っていってあげてね」
「うん、大丈夫」
「結衣は何か他に食べたいのないの?」
れいちゃんがそう聞くと、結衣は悩んで
「そうだね、うーん。この前、麻婆豆腐失敗したから作り方教えてもらっていい?」
「うん、麻婆豆腐いいね。」
「明日香ちゃんは好きなものない?」
「れいちゃん、たいていのご飯は作れるから何でも言ってみて、明日香」
みなみは無邪気に言う。
「じゃあ、私春巻きが好きなんですけどリクエストしてもいいですか?」
「うん、春巻きね。じゃあ、今日は中華の夕ご飯ね!結衣も作るの手伝ってね」
「もちろん、お手伝いします」
「じゃあ、私たちはご飯までもう少し勉強してきま〜す」
と言い、みなみたちは部屋へ戻っていく。
「じゃあ、私も着替えてくるから。そうだ、瑞希にご飯いるか聞いといて、真子」
「はい、はい。」
'晩ご飯食べる?'
僕はすぐに携帯でメッセージを姉に送る。
'食べまーす!'
一瞬で連絡が来る。どうやら今日は、まっすぐ帰ってくるらしい。
れいちゃんがリビングに戻ってきた。
「ご飯食べるって」
すぐに報告する。この辺のことはすぐにやっとかないと怒られてしまう。
「じゃあ、豆腐2丁と来々軒でギョーザ30個買ってきてもらって」
言われてこれまたすぐ、姉ちゃんにメッセージを送る。
'豆腐2丁とギョーザ30個、来々軒で買ってきて'
これまたすぐ
'了解'
のメッセージが来た。
(電車の中で携帯いじってたのかなぁ)
「買ってくるって」
ここもすぐに報告。
「ありがと」
れいちゃんと結衣は晩ご飯作りにとりかかった。僕は、風呂当番になったので浴槽を洗ってお湯をためておく。特にすることがなくなってしまったのでテレビをつけてニュースでも見ることに、と思った矢先れいちゃんから
「暇なら洗濯物入れといて!」
さすがに家事に抜かりがない。僕は返事を返してベランダへ。今日は1日スッキリとした晴れだった。夕焼けが眩しい。こういう日はなんだか感傷に浸りたくなる。
なんてかっこつけてる場合じゃない。早く洗濯物取り込まなきゃ、洋服が冷たくなってしまう。
人は怒られたことはいつまでも覚えているものだ。最近は、あんまり怒られることもなくなったが小さい頃は、れいちゃんに毎日のように怒られていた気がする。
れいちゃんは僕よりも8歳年上だ。母親が仕事で忙しい分昔から母親代わりなのはいうまでもない。今でも、家事はほとんどやってくれている。まぁ、僕が家を出たので負担は減ったと思うが、一応家にいた頃は手伝いはしてたつもりだし、今は結衣も僕も時間がある時は、ここに来ていろいろやってるかられいちゃんを助けている、、と思ってる。
(そんなの当たり前か、おいしいご飯を食べさせてもらってるしね。)
洗濯物を取り込んでたたみ始める。女物の洋服だしサイズも同じだから、誰のものかさっぱり分からない。当然だ、この家には女性しか住んでいない。
「れいちゃん、どれが誰の洋服?」
「あぁ、はいはいちょっと待って。残りも同じようにお願いね」
料理の指示をし、こっちに来てくれた。
「えっーと、これとこれと、、、。はい、これで分かれてるからたたんで積んどいてね」
テレビを横目に見ながらたたみ始めた。たたみ方も人それぞれだが、家のやり方は決まっている。10分ほどでたたみ終わった。
「たたみ終わったよ。ここに置いといていい?」
「うん、ありがと!」
ゆっくりしようと、リビングのイスに座るやいなや
「ただいま。荷物取りに来て、しん!」
姉ちゃんが帰って来たようだ。玄関まで行くと仕事で疲れた様子のもう一人の姉がいた。
「おかえり、お疲れ様!早かったね」
「今日はあんまり忙しくなかった」
「ふーん、そうなんだ」
荷物をもって姉ちゃんとリビングへ戻る。
「ただいま、ふー疲れた」
「おかえり、ご飯まだだからお風呂入れば」
「本当に、じゃあ先に入るね。結衣、お手伝いありがと!」
「今日は、リベンジ料理だから楽しみにしといてくださいね!」
(やけに、気合い入ってるなぁ)
時計が7時10分を回ったところだった。姉ちゃんはお風呂から上がって髪を乾かし終わった。
「今日、ご飯何?」
「贅沢、中華三昧。ギョーザも買ってきてもらったし」
「いいね〜中華。響きが良い。ビールとも相性バツグン。先に呑んでいい?」
「明日は何もないの?呑みすぎないでよ!」
「大丈夫、大丈夫。明日土曜だし、これといった予定もないから」
冷蔵庫を開けて、ビールを探し始めた。
「れいちゃん、ビール1つしかないけど」
「えっ、ウソ。この前買ってこなかったっけ?ごめん、買いに行ってきて。お母さんも呑むだろうし」
「えー、面倒くさい。でも、中華にはビールと相場が決まってるから、、しんも行くでしょ?」
どうやら荷物持ちに任命されたようだ。
「れいちゃん、他に何か買うものは?」
「ちょっと待って!」
冷蔵庫の中を見て、台の上を確認する。
「生鮮品は明日買いに行こうと思ってるから。パンと、、、」
「しん、さっさとメモして!」
「はい、はい」
買うものをメモしていく。10個ほど買いものを頼まれた。
「ゼオンに買いにいくでしょ?カード持っていってね」
さすがれいちゃんだ抜け目ない。
「あれ、みなみは?まだ、帰ってないの?」
「部屋で勉強してるよ。来週テストなんだって」
「そうなんだ。あの子もテスト前くらいは勉強するのね」
話しながら玄関に向かう時にちょうど、みなみの部屋のドアが開いた。
「お姉おかえり。どっか行くの?」
「あんた、勉強してんだって?感心、感心」
「一応ね。友だちと一緒ならサボんないし」
部屋を覗くと明日香ちゃんが会釈している。
「じゃあ、お姉ちゃん しんと買い物いってくるから。ご飯まだみたいだから勉強頑張ってね」
「え〜。もう飽きた。私も行く」
「友だちいるんでしょ?」
「明日香も一緒にいくよね?ちょうどキリの良いことだったし」
「そうなの。じゃあ、気分転換に行こうか?」
こういうところは、姉ちゃんはさっぱりした性格だ。余計なことには、あんまりつっこまない。
「えっーと、明日香ちゃん?どう、買いものに行く?」
「あっ、はい。ご飯頂くだけじゃ申し訳ないのでお手伝いします」
「いやいや、お手伝いなんて。荷物持ちはここにいるから大丈夫!お話しでもしながら、お腹空かせよっか。たまには、若い子の情報も得とかないとね」
結局4人で買い物にいくことに。とはいえ歩いて10分ほどのスーパーさして遠くもない。
「結衣の麻婆豆腐どうなると思う?」
「大丈夫でしょ、たぶん。この前は、激辛を超えてたよね」
「れいちゃんが見てたはずなんだけどね。唐辛子のビン1つ使ったって言ってたから」
「結衣が1人で作った料理食べたことあんの?しん」
「うん、ある。割と美味しかったと思うけど味は濃いめだった」
「れいちゃんは、どっちかっていうと味薄いからね」
「食べてないのにしょうゆとかかけるのやめたほうがいいよ。健康とか考えてくれてるんだしさ」
「分かってる。でも、れいちゃんのは薄い!」
「明日香ちゃんは、兄弟とかあるの?」
「はい、兄が1人」
「高校生くらい?」
「はい、高2です」
「そうなんだ。みなみが家に友だち連れてくるの珍しいよね?」
「そうかなぁ〜。まぁ、そうかも。明日香が家に来たいっていってたから」
「そうなの?明日香ちゃん」
「はい、みなみちゃんがお姉さんたちの話ししてると楽しそうだなと思って」
(そこにお兄ちゃんは出てこないのか)
「私は兄しかいないのでお姉ちゃんはどういうものなのかと思いまして」
「あぁ、そうなんだね。私は姉も妹もいるし楽しいよね、毎日。あっ、弟もいるし」
(ついでかい)
「暇な時にまたうちにおいでよ。今は、私とれいちゃんは働いてるからあんまり相手できないかもだけど結衣がいるだろうし。そういえば、結衣も初めは同じようなこと言ってたよね、しん」
「うん、そう。結衣は、弟だけしかいなかったから姉妹がほしいって。だから、結構すぐ家に連れて来たね」
「あのう、結衣さんはお兄さんの幼馴染の人なんですか?」
「えっ、何で?」
「いや。なんかご家族の方みなさんと仲が良い感じがしまして」
「ううん、違うよ。結衣ちゃんは、北海道出身で大学で出会ったんだよね〜、お兄ちゃん」
「そうなんだよね。でも、すぐに馴染んでくれたね」
「特に、れいちゃんに!だよね。今やしんよりべったりだし」
「まあね、悲しいかなそうなってるね」
話しが弾んでいるとすぐにスーパーに着いた。
「お兄ちゃん、カート使う?」
「そうだね、一応いるかな。姉ちゃんが酒買うから」
「じゃあ、しん。お買い物済ませてね!私はお酒選んでくるから」
姉ちゃんは、一直線にお酒のコーナーに行ってしまった。
「じゃあ、行こうか。みなみカート押して」
「は〜い」
れいちゃんに頼まれたものをかごに入れていく。一通り頼まれたものを見つけると
「お兄ちゃん、アイス買っていこうよ!」
「寒いのに?」
「寒いから良いんじゃん!」
「じゃあ、みなみのやつとみんなで食べれるやつも一緒に買って。明日香ちゃんも好きなの買っていいよ」
「いえ、私は悪いです」
「いいから、いいから明日香。行こう」
「僕は姉ちゃん連れてくるから選んでてね」
カートを押してお酒のコーナーへ行く。
「まだ、選んでんの?」
「うん、どの焼酎にしようかなと。このビールとチューハイ買って。みなみたちは?」
「アイス買ってる」
「あー、そう」
一応、妹のことを聞いてはいるが完全に心はお酒に傾いている。
「もういいかな?どれも一緒でしょ」
「いや、違うんだよ弟よ。しんはほとんど呑まないから違いがわかってないんだよね。1銘柄ごとに香りも味も違うんだよ」
「分かった。分かった。じゃあ、これは」
「これは、この前呑んだからいい」
「じゃあ、こっち」
「これは、ちょっと辛いんだよね」
「じゃあ、これは?」
「うーん、、、これにしよっか」
全然、違うやつを選ばれた。
(わざとか?わざとなのか?まぁ、いいや)
「はい、行こう。みなみたち待ってるから」
この辺で引きはがさないといつまでも悩んでいるつもりだ。みなみたちに合流して会計を済ませる。袋詰めをしていると姉ちゃんが思い出したように言ってきた。
「そういえばさぁ、昔袋詰めしててれいちゃんに怒られたの覚えてる?」
「あぁ、袋にぐちゃぐちゃに詰めて卵とか潰しちゃった時ね。2人で詰めてって言われたのに姉ちゃんが手伝ってくれなかったからじゃん」
「そう。しんが袋詰めするの見ててぐちゃぐちゃにしてるから1人だけ怒られろ!って思ってたんだけど結果的に一緒に怒られたね」
「あの時はお客さんみんな見てたよね。恥ずかしいし怒られるし最悪だったね。れいちゃんと2日ぐらい話しなんかするかって思ってた(笑)」
そんな昔話しをしながらスーパーを出て行く。みなみと明日香ちゃんは2人で前を歩きながら楽しそうにしゃべっている。
「さっきの話しじゃないけど、昔みたいに全然れいちゃんに怒られなくなったね」
「私もそれ思ったことがあって、れいちゃんに聞いたことあったのよ。そしたら、ちっさい時はちゃんと物事の分別がつけられなかったり、常識が分からないからすぐ怒ってたんだって。あと、うちは片親だしお母さんもあんまりいなかったから私がしっかりしなきゃって。昔は怒りすぎてたかもって言ってたよ」
「そうなんだ。昔はれいちゃん、おこりんぼで怖いイメージしかなかったけど今は真逆だもんね。みなみに怒ってるのも見たことないし。その代わり姉ちゃんが怒ってるけど」
「麗奈ちゃんにとってはみなみは歳もかなり離れてるし可愛くってしかたないのよ。だから私が小言を言ってやらないと。みなみはわがままだからね。しんも結衣もみなみには甘いし」
「みなみは人懐こいから人と接するのが上手いんだよ。姉ちゃんだってこの前、服買ってあげてたでしょ」
「あれはれいちゃんの手伝いをしっかりするって約束を守ってたからね」
なんだかんだと言っても姉ちゃんもみなみには甘い。というより歳の離れたこの妹は本当にみんな可愛がられてる。
携帯の着信音が鳴った。
「結衣からだ」
「遅いよー、まだ帰ってこないの?料理出来てるよ」
「本当に!もうマンションの下まできてるからあと少しで着く」
「そうなの、分かった分かった。じゃあね」
「はーい」
なんだかんだ話しながら買い物してたら8時を回っていた。
「ただいま」
「おかえり、買い物ありがと。ご飯の用意できてるからみんな手洗って」
買い物の袋をれいちゃんと結衣に渡す。みなみと明日香ちゃんはキッチンで手を洗っていたので姉ちゃんと洗面台まで洗いに行く。そこには帰ってきていた母さんがいた。
「お母さん、今日は早かったね?」
「そうね、なんとか早く仕事済ませてきたから。そういえば、みなみの友だち来てるんだって?どんな子?」
「しっかりした感じの子かなぁと、思ったけど。姉ちゃんは?」
「そんな感じの礼儀正しい子。ふわふわしてるみなみとは違ってるかな」
「あらー、なんだか意外ね。あの子の友だちは似たような性格の子ばっかりだと思ってたけど」
雑談をしつつ手を洗ってリビングへ向かう。他のみんなはもう座っており、料理がテーブルに並んでいた。母さんは明日香ちゃんを見つけると
「こんばんは、初めましてみなみの母です。えっーと、お名前は?」
「こんばんは清水明日香です。みなみちゃんと同じクラスです。今日はおじゃましてご飯までご馳走になってありがとうございます」
母さんはニコッと笑って僕と姉ちゃんの方を見た。
「ほら、でしょ。お母さん」
「何、でしょ。って」
すぐに結衣が食いついてきた。
「いや、明日香ちゃんが礼儀正しい子だよ。っていう話し」
「さっきお母さんとそう話してたから間違いないでしょ。ってね」
「はいはい。冷めないうちに食べましょ」
れいちゃんの一声で食事が始まる。
「いただきまーす」
みんなお腹が空いていたみたいで皿に乗った料理を取って食べ始めた。
「麻婆豆腐は結衣がリベンジで作ったから食べてみて!今回はずっと見てたから辛くないはず」
「唐辛子抑えめにしときましたー」
みんな恐る恐る取り分けて食べる。この前は一口で舌がピリピリするくらいだった。
「うん、美味しい。ちょうど良い辛さよ」
母さんが初めに食べて感想を言う。
(この前も1番に口をつけて口から火が出そうとかいってたのによく食べれるな。さすがに母は強しだ)
それをきっかけにみんなが食べ始めた。
「あっ、本当今回は美味しい」
「よかった。確かにこの前は辛すぎたから」
「うん、美味しい。味つけもちょうど良いし辛さもぴったし」
「明日香ちゃん味どう?」
「はい、美味しいです。でも、私はもう少し辛くても、、」
「そうだよね。私も作りながらそう思ってた。もうちょい辛くてもいいかなって」
「いやいや、結衣のは極端すぎるって。皿に盛って唐辛子かけて食べてよ」
「真子はれいちゃんの味付けが好き過ぎなんだって。この前も私が作ってあげた料理に味が濃いだのなんだの言ってたし。マザコンじゃなくてシスコンなのよ」
「それをいったら結衣の方がれいちゃんべったりじゃんか。家に来たられいちゃんとばっかり話してるし」
「はいはい、そういう話しは2人っきりの時にしなさい。明日香ちゃんの見てる前で恥ずかしいでしょ」
母さんがすぐに止めた。まぁ、これくらいは日常茶飯事だがさすがにお客さんの前ではきまりが悪い。
「ごめんなさーい」
「はい、また今度にしときます」
また、各々食べながら話しが始まる。別にケンカという訳でもないので僕は結衣と今日出されたレポートの話していた。
「明日香ちゃんは、兄弟とかいるの?」
食事が中盤になってきた頃に母さんが尋ねた。
「はい、高校2年の兄が1人います」
「そうなんだ、お兄さんがいるのね。うちは女子ばっかりだから何かあったらいつでもいらっしゃいね」
「はい、ありがとうございます」
「でも、みなみとは随分性格が違ってしっかりしてるようにみえるけど今年クラスが一緒になったとかのお友だちなの?」
「ううん、明日香は少し前に転校してきて、それからいつの間にか友だちって感じ」
「そうなのね。これからも仲良くしてあげてね」
「こちらこそです。私が転校してきてすぐに話しかけてくれて、馴染めたのもみなみちゃんのおかげですから」
「誰とでも仲良くなれるのはみなみの良いところよね。しんなんかは、おもいっきり人見知りするしね」
「人見知りじゃなくて警戒してるの。世の中何があるかわかんないからね」
「あんたは大丈夫、何もないから(笑)。それより私の方よ。カワイイし美人だし、、、」
「また、始まった。みんなご飯食べちゃってね。明日香ちゃん聞き流して大丈夫だからね」
そんなこんなで食事も終わり、コーヒーを飲んだりさっき買ったアイスを食べたりとみんなでくつろいでいると、そろそろ時計が9時を迎えようとしていた。
母さんが
「そろそろ時間も遅くなってきたし明日香ちゃんも帰らないとね。みなみ、真子送ってあげてね」
「もうそんな時間か〜、早いな〜。荷物取ってこよ、明日香」
「うん、みなさん今日は本当にありがとうございました。食事も美味しかったですし、いっぱいお姉さんができたみたいで楽しかったです」
「また、ご飯食べに来てね。作れるものだったらなんでも作るからね」
「じゃあ、荷物、荷物。お兄ちゃん玄関で待ってて」
「はいはい、早くしてね。結衣は行く?」
「いや、私はいい。洗いもの手伝う」
(れいちゃんと一緒にいたいだけでしょ)
明日香ちゃんの家まではうちから10分ほどだということだ。みなみと楽しそうに話している。学校のとこやらなんやらかんやら。いつの間にか明日香ちゃんの家の近くまで来ていたらしい。
「うちはここ」
「うぁ、一軒家か〜。大っきいね」
「送っていただいてありがとうございます。お兄さん」
「遅い時間になったからね。気にしなくていいよ」
「じゃあ、また明日ね。明日香」
「うん、おやすみ。おやすみなさい」
「じゃあね〜」
「みなみが友だち連れて来たのって本当久しぶりだよね」
「そうかな〜。まぁ、部活もあるし友だちと遊ぶ時も外の方が多くなったかもね」
「友だちは大切にしないとだぞ!お兄ちゃんみたいに少なくても良い友だちを見つけないとね」
「大地くんみたいな?」
「そうそう。あいつは最高の親友だね」
「全然、性格違うのに友だちってのが信じられないよ」
「そうだね。逆にだからこそ良いのかもよ。自分と違う発想をしてくれるからこそ心地いいってパターンだね、たぶん」
「ふ〜ん、そんなもんなんだね」
「明日香ちゃんもみなみとは随分性格違うと思うけど?」
「そうかなぁ〜。似てると思ってたけど」
(いやいや、ほぼ真逆だろ!)
「きっちりしてそうで、意外とのんびりしてるんだよ、明日香は」
「そうは見えなかったけど」
「でも、私にとって良い友だちなのは確か」
「そっか。それは良かったね」
みなみとうちまで歩きながらいろいろと話した。久しぶりに妹と2人っきりで話した。いつも誰かがいるのが当たり前の家だし、誰かが喋っているし、たまにはこういう時間も悪くない。
うちに着くとテレビを見たり、お風呂に入っていたりとみんなのんびりしていた。
「おかえり。しん、ご苦労様。何か飲む?」
「いや、大丈夫」
「割と近かったんじゃない?」
「うん、橘の近く」
「あの辺なのね。また、連れて来てね、みなみちゃん」
「は〜い。お母さんお風呂入ってる?私も入ってこよ〜」
そういうとみなみはお風呂へ一直線。
「あんたたち今日泊まってくの?」
「いや、僕は朝からバイトだから帰る。結衣はどうする?」
「私もバイトあるし今日は帰ります」
「意外に大学生も忙しいのね。しっかり働くんだぞ!」
すでに軽く酔いの回ってる姉ちゃんに絡まれる前に帰らなきゃ。同じことを結衣も考えていたのか支度を始めた。
「れいちゃん、酔っぱらいの相手よろしくね。ご飯ありがと。じゃあ帰るね」
「はーい、気をつけて」
僕と結衣をアパートまで送っていき自分のアパートまで帰った。
「なんだかいろいろあった1日だったなー」
こうして今日も1日が終わった。