朧月瑠鳴(中編)
八月十七日
皆様こんにちわ! 朧月瑠鳴[おぼろづき るな]でございます! 今日は大型ストアで、
みんなと待ち合わせです! まず、私の隣にいますのが……
「平日の水曜だけど……賑やかだね」
黒のフード付きパーカーに、黒いようで結構紫色が目立つデニムのボトムスに、グレーだけ
ど赤い感じもするシャツを着た、宵空満[よいぞら みちる]こと、みっちゃん。
「あと三日で夏祭り……今日は、いい浴衣が見つかるといいなぁ」
白のチェックが入ったピンクのスカートに、着ているブラウスはライムグリーン! ココア
色のショールも羽織った、ピンクのツインテールの玉宮明[たまみや めい]こと、めいちゃ
ん! 時間もピッタリに来ました。そして……
「あ、いたいた。朧月さん、宵空さん、玉宮さーん!」
そう言いながら、こっちに向かって来たのが桂眉子[かつら まゆこ]こと、まゆちゃん!
薄い紫の袖なしブラウスに、赤いギンガムチェックの入ったチョコレート色のスカートを履
いて……そのベージュのポニーテルを結ぶのは、赤いリボン! そしてまゆちゃんが言った。
「目印にいいかなと思って、大きめのリボンして来ちゃったけど……やり過ぎたかな?」
まゆちゃん気合入ってるなー……そんな私は、青いワンピースを着ただけのシンプルな装い
「桂さん、とっても似合ってます! あたしも違う服で来ればよかったなー」
めいちゃんがそう言うと、みっちゃんがそれに続いた。
「服ならこれから買いに行けるよ。そもそも今日、皆がここにいるのは……」
そう、みっちゃんの言う通り……
「どんな浴衣があるかなー……楽しみだね!」
私はそう言った。今日は私、みっちゃん、めいちゃん、まゆちゃんの、4人みんなで……
「それでは! 土日の夏祭りに向けて……」
めいちゃんがそう言った後、更に続けて……
「浴衣選び。始めよっか」
みっちゃんが、そう言ったコトだし、衣服売場の浴衣コーナーを目指して出発! すると、
のぼり広告が目立つ所にあったので、私たち4人はあっさり浴衣コーナーを発見出来ました。
「浴衣何て、選ぶの始めてだなー……いっぱいあるのは、いいんだけど……迷っちゃうなぁ」
めいちゃんがそう発言して……その3分くらい後かな?
「見て見て! この浴衣! ピンク! 可愛いピンク色! 浴衣のあちこちに白い影絵の桜の
花の模様が入ってるけど、ピンク色の邪魔をしてないし、帯の色もピンク色だけど、黄色が主
張してる色合いだから、浴衣の色と被ってない! もう……これしか、ない!!」
めいちゃんが早速自分にピッタリの浴衣を見付けてた。サイズも問題ないみたいだし、早く
も1人、決まっちゃったねー。さて、今度はまゆちゃんが……
「うーん……この浴衣、値段も手頃で見栄えもいいんだけど……」
まゆちゃんの目の前には、真っ赤……と言うには色が抑えてあるかな? その浴衣には金色
の刺繍もしてあって、いかにも晴れ着という感じだった。
「赤をベースに金の刺繍……帯の色も黄緑色と、これくらいは主張しておきたい感じだよね」
めいちゃんが、その浴衣をのぞき込みながら、まゆちゃんにそう言った。
「だよねー……これくらいオシャレしてもいいんだけど……ちょっと派手過ぎないかなー……
でも、その派手過ぎるラインを、絶妙に出ない強さの赤色だし……うーん、迷うなー……」
そんな迷えるまゆちゃんの元に、みっちゃんがやって来て……
「いいんじゃない? 夏祭りは夜からが本番なんだし。その頃にはこの浴衣も、暗さで丁度い
い具合に見えるようになってるよ」
その言葉を聞いて、まゆちゃんの迷いも、どうにか消えたみたい。
「んー、やっぱり恥ずかしい、けど……お祭り、だから、ね……これに、しますか!!」
こうしてめいちゃんとまゆちゃんの浴衣は決まった……あとは……
「朧月さん、何を着ても似合いそう。癖毛でカールが自然と出来てる、長い金髪だからねー」
めいちゃんがそう言った。ふっふっふー……この輝くような金髪は、私のお気に入りだよ!
「朧月さんに、あれもこれもと着せて、眺めてみたいなー……とりあえず色々見て回ろうか」
まゆちゃんがそう言ったけど……うーん、どうしようかなー……何がいいのかなぁ。
「うーん、みっちゃんは何にするか、決まったー?」
そういえば、みっちゃんは、私の浴衣を選んでくれるって言ってたなー……
「それなんだけど。るな」
みっちゃんが、そう言ったので、私は聞き返した。
「なぁに、みっちゃん?」
そして、みっちゃんが言った。
「私が自分が好きな浴衣を選んで、るながそれを着る。るなも自分が好きな浴衣を選んで、そ
れを私が着る。お互いに自分がいいなと思ったのを、着せ合う……そういうの、どうかな?」
あー、みっちゃんすごいや……似合うかどうか迷うんじゃなくて、とにかく自分の 好き
で浴衣を選んで、それを相手に着て貰う……それなら、何とか選べそう!
「宵空さん、考えたなぁ」
「友達が選んだのを、自分が着る事になるね……面白い選び方だなー」
めいちゃんもまゆちゃんも、感心してた……よーし! そうと決まれば……
「きれいな水色……でも、違う。上品な紫色……これも違う。もっとエネルギーに溢れた色を
……あ、このオレンジの浴衣! 何かすごくいい!」
しばらくすると私は、瑞々しい果物のような発色の浴衣を見付けた。
「黄緑や水色の模様まであって、ベースのオレンジ色を賑やかに引き立ててるなー」
めいちゃんがそう言った、まゆちゃんが……
「それにこの、鮮やかな青い紺色の帯……私の選んだ浴衣よりずっと派手……」
この浴衣が似合うかどうかじゃない……私はこの浴衣を 選びたい !
「これに……決ーめたっ!」
私は、声高らかにそう宣言した。
「こっちも決まったよ」
そしてみっちゃんが、選んだ浴衣は……
「シンプルな白い絹の帯の中に、金色の刺繍がさりげなく施されているのも、お気に入り」
みっちゃんの前には、中途半端な濃さじゃない、しっかりとした黒さの浴衣があった。
「ベースの黒だけでも見事だけど……所々に赤い花がある……何だっけ? このお花」
めいちゃんが、そう聞いた途端、まゆちゃんが答えた。
「椿だよ。花言葉は 控えめな優しさ 」
それを聞いたみっちゃんは、ちょっと驚いて、感心しながら言った。
「そんな意味があるんだ……ますます、気に入ったなぁ」
そこで私はこう言った。あのね、みっちゃん……椿にはね……
「 罪を犯す女 って意味もあるんだよー……みっちゃん、逮捕ーー!」
花言葉って、怖い意味のも多いんだよねー……ふふふ、みっちゃん罪人……
「……でも、これ着るの朧月さんだよね?」
めいちゃんがそう言って、私は気付いた……そ、そうだったぁー!!
「ぬ、濡れ衣だよーーー!!」
そう私が叫んだところで、浴衣選びは早くも終了。でも、せっかくここにいるんだから……
「え? あたしの服をみんなで選ぶ?」
時間も出来たし、めいちゃんその服ばっかりだし……私はちょっと提案してみた。
「そうだねー、せっかく宵空さんが、面白い服の選び方を考えたんだし……」
ほら、まゆちゃんもこう言ってるし……
「洋服売場はすぐそこ、この後の予定も考えてなかったし」
みっちゃんも、そう発言……よし、私からもダメ押しを……
「それじゃあ、めいちゃんの新しいお洋服選びに……しゅっぱーつ!!」
私はそう言うと、めいちゃんの背中を押しながら、4人で洋服売り場を目指し……
「確かに自分で選ぼうとしてもピンク色の服にしか目が行かない……それではお願いします」
めいちゃんもそう言ったコトだし、めいちゃんの洋服選びミッション、スタート!!
「この、青紫を少し淡くした、デニムシャツ……結構いいかも!」
まゆちゃんがそう言う頃には、私もこんなのを手に取ってた。
「この白いシャツに、緑と黄緑のチェックが入ってるの……よさそう!」
チェックの柄自体が結構、大きいんだよね……でも、気に入ったのを選べばいいんだし!
「じゃあ、私はスカートを選ぼうかな……この4段目が落ち着いた黒さの……」
みっちゃんもそうやって選んでいた……早速めいちゃんに、この3つの服を着せてみよう!
「薄いとまでは言わないけど、桂さんが選んだ彩度を抑えた青紫のデニムシャツに、朧月さん
が選んだ、緑と黄緑のチェックが大きめに入ったシャツ……そして宵空さんが選んだ、暗めの
水色で、一番下だけが夜空のように青く澄んだ黒さの、4段のティアードスカートかー……」
それにピンクのツインテールだし……うーん、いつもとは一味違うめいちゃんになったなー
「これがみんなで選んだ結果かぁ……玉宮さん、これは似合ってるんじゃないかな?」
まゆちゃんがそう言ってると、みっちゃんが、めいちゃんの服装を眺めながら……
「うん、暗過ぎず明る過ぎず……上手くいったかな」
みっちゃんが、めいちゃんにそう言った後、私も色に関して言ってみた。
「色の方も、派手で目立ち過ぎる所がないし、少し色を落とした青紫のデニムシャツを上に着
てるから、緑のチェック模様の見える部分がほどほどになってて、うるさくないねー」
そして、めいちゃんが言った。
「あたしからも文句なし! この服にしようか! 宵空さん、朧月さん、桂さん……こんなに
素敵な服を選んでくれて……みんな、本当にありがとう!」
さて、めいちゃんの洋服選び大作戦も終わったし……
「そろそろ何か、食べる?」
みっちゃんがそう言うので、私はとりあえず……
「うーん、ちょっとクレープ食べながら、どこへ行くか考えよっか!」
私が、そう言うと、以前にも行ったクレープ屋さんを目指した。
「それにしても、玉宮さん。あの羽の生えたヘンな化物が、建物の中に入っておけば大丈夫だ
って、よく分かったねー」
あえて甘くないのをと、スパイシーチーズサラダクレープを頼んだまゆちゃんが言った。
「透視能力とかあって、建物の中に突っ込んで来るんじゃないかって、ヒヤヒヤしてたよ」
そう言うみっちゃんは、苺アイスとバニラアイスが乗ってて、パイナップルやメロンの切り
身にチョコレートソースまでかけたクレープ……あ、前にめいちゃんが食べてたヤツだ! そ
う言う私は、生チョコとシリアルが入ったクレープにキャラメルソースをかけた、みっちゃん
が前に頼んだのと同じもの! えーと、みっちゃんがそう言った後……
「海の家の中に突っ込んで来るかどうか様子見しながら、次の手立てを考えようと、あの時は
そう思ってたけど……今、冷静に考えてみると、かなりの無茶だったなー……」
めいちゃんはそう答えた。あんまりこの話したくないけど……せっかくだし、私も言うかな
「あんな姿してるから……火でも吐いて来るんじゃないかなーって、思ってたよ」
あの ヘンなドラゴン 、本当に何だったんだろ……もう現れないで欲しいなぁ……
「うーん……このクレープ、ただのチーズとサラダだと思ってたけど……チーズのスパイスが
結構きつくて、これで辛かったら、それこそ火を吐いてたかな……トマトの食感も合わさって
なかなかイケる味付けになってるから、普通に美味しいんだけどね」
まゆちゃんがそう言ってると、マロンクリームだけじゃなく栗自体も贅沢に使って、紫芋の
色でアクセントを加えた、そんな感じのクレープを食べてるめいちゃんが、突然、言った。
「あ、そうだ。ねぇ、みんな」
「なになに?」
私がそう返事をすると、めいちゃんは言いました。
「夏祭りの日の夜にね……誰かの家に泊まって、料理を作ろうと思うんだけど、今から、その
材料を、みんなで買いに行かない?」
おー、いいねそれー。私がそう思ってると、まゆちゃんが言った。
「んー、とりあえず誰の家に泊まるか、まだ決まってないみたいだね……」
まゆちゃんが、そう言ったので、すかさず私は手を上げて言った。
「はい、はーい! 朧月瑠鳴、立候補します!」
「じゃあ、朧月さんのお家にしようか!」
めいちゃんがすぐに、そう言ってくれた……やったね! 朧月瑠鳴議員、当確です!
「それじゃあ、夏祭りまで、るなは私の家で過ごそうか。料理は何作るの?」
そう言えば、最近ずっと私の家だったなー……さて、めいちゃんが答えました。
「海の家で食べた、チキンクリームカレー……あれをアレンジつつ、再現したい!」
おぉー、めいちゃん2回も注文してたから、気に入ってたんだねー……
「私は泊まりに行けるか分からないけど……とりあえず一緒に買いに行って、朧月さんのお家
に材料を運ぶ所まで手伝おうかな。上手く行ったらレシピを教えてね、玉宮さん」
そんなこんなで、私たち4人はチキンクリームカレーに必要な食材を買った後……
「浴衣に、洋服に、食材……さすがに荷物が多いね」
みっちゃんがそう言った後、めいちゃんが言った。
「それなら、もう家まで運び込んで、またこのストアに戻って、夜ご飯にするのがいいかな」
今日は浴衣選びだけで一日が終わるかと思ってたら、何だか大忙しな一日になっちゃった。
「私の浴衣も一旦、置かせて貰おうかな……土曜に取りに行くという手もあるし……」
まゆちゃんもそう言ってるし、私とみっちゃんとめいちゃんとまゆちゃんはひとまず、私の
お家まで向かうコトになりました。夜ご飯はどこで何を食べようかなー……
八月二十日
いつものように目を覚まし、いつのものように隣で寝てるみっちゃんの寝顔を眺め、いつも
のように一緒に着替えて……いつもは鳴らない玄関のチャイムが響く、そんな朝の日。
「おはようございます!! 朝早くからお邪魔させていただきます」
「朧月さん、宵空さん。おっはよー」
めいちゃんに続き、まゆちゃんが朝の挨拶と共に、我が家にやって来た。
「めいちゃん、まゆちゃん……ようこそ! ここが私とみっちゃんのお家だよ!」
2人を元気よく迎えた後、お昼の時間になりました。
「サンドイッチ……これくらい作れば足りるかな?」
そう言ったみっちゃんお手製のサンドイッチが、本日のお昼ご飯!
「鶏肉、豚肉、ツナ、卵、チーズ……色々揃ってるねー」
めいちゃんがそう言った。ジュースも色々あるよー!
「私の家にあった料理の残り食材。上手い具合に余ってた」
半端な食材を、こうしてサンドイッチにして片付けてしまう……みっちゃんの得意技です。
「それでは、いっただっきまーす!」
そうやって私が叫んで、食べ進めては会話を続け、話題もそろそろ途切れて来た頃に……
「そういえば玉宮さん、あれから羽の生えたヘンな化物に遭ったりしなかった? 私はあれか
ら全く見かけないなぁ……遭わない方がいいんだけどさ」
先週の海の日に2匹いたから、まだ他にいてもおかしくないよね……でも、今日と明日は来
ないで欲しいなー……何で、あんなのがいるんだろ……
「最近は、適当に外出してるけど、あれから遭ってないなー」
まゆちゃん、本当にこの話好きだねー。めいちゃんがそう答えた後、まゆちゃんは更に……
「そっかー……宵空さんは?」
お次の獲物はみっちゃんですか……でも、みっちゃんは私とずっと一緒に居たから。
「私も遭ってないね。るなが隣にいる時は、足元に気を付けながら、るなしか見てないし」
というか最近だと、買い物の時しか家を出ないんだよねー……暑さが酷くて、一日中ずっと
布団も掛けずに寝巻き一枚で、みっちゃんと一緒にベッドの上で過ごした日まであるし……
「それにしても……」
まゆちゃんが今度は何を言うのかと思っていると……私の方を向いて、こう言った。
「みんなで海の日に行った夜、朧月さんが私まで浴衣選びに誘ってくれて……あの通話が無け
れば、選んだ浴衣も無くて、今頃家でゴロゴロしてるだけで……こんなに充実した、夏休み最
後の土曜日になるなんて思わなかったなー……朧月さん、本当にありがとう」
これはこれで困惑してしまう……と、とりあえず私は、まゆちゃんにこう返した。
「え、えーと……ありがと、まゆちゃん。て、照れちゃうよ……」
でも、夏祭り自体を提案したのは……だから私はこう続けた。
「そ、それとね……夏祭りの話から、浴衣選ぼうと提案したのは、めいちゃんだよー」
そう、全てはめいちゃんから始まった……それは、宇宙の期限に迫る出来事でした……
「桂さんが来る展開にも期待してたけど、やっぱり誘わないと、都合よく来ないよねー」
めいちゃんがそう言った後、私たち4人は浴衣に着替え始め、お店でも確認したけど……う
ん、みんなサイズがピッタリだね! それでは、夏祭り会場を目指し……しゅっぱぁーつ!!
「お! お前らも夏祭りに来てたか! いやー、夏はやっぱり、祭りだよな!」
氷室新[ひむろ あらた]こと、氷室さんが夏祭りに来てた。
「氷室くん、ごきげんだねー」
早速、まゆちゃんが氷室さんに話しかけてる。これに対し氷室さんは……
「おう! 何てったって……今日は駆も来るんだからな! 誘っても、なかなか捕まらないヤ
ツだったけど……こういう夏祭りみたいに、大きな日は来てくれる! 全くいいヤツだぜ!」
えーと……同じクラスの鶴木駆[つるぎ かける]さんのコトだよね? 緑の髪に眼鏡を掛
けた男の人で、教室で氷室さんと一緒にいるのをよく見かけた……氷室さん嬉しそうだなぁ。
「氷室さんの着てる浴衣って、何だか見惚れてしまうくらい、鮮やかな青色ですねー」
めいちゃんがそう言った。紺色に見えるけど、何か普通の紺色より青くて鮮やかだなー……
「瑠璃紺色かな? 宵空さんの帯も、似たような色してるよねー」
あー……まゆちゃんに言われてみると確かに……よーし、こうなったら……
「みっちゃん。ちょっと氷室さんと並んでみて」
並べてみれば、違いがハッキリ分かるので、私はみっちゃんに、そう言ってみた。
「ほい」
みっちゃんがそう言いながら、氷室さんの横に並んで、比較してみると……
「あー……なるほど、同じ感じのする色だけど……」
まゆちゃんがそう言うと、私も言った。
「みっちゃんの帯の方が鮮やかで、これを暗くすれば、同じ色になりそうだね」
何だか、氷室さんの浴衣の色で、みんなの話題が持ち切りになってる気がする……
「帯も普通の黒では無いですね。光沢があって、そちらにも目が行きます」
めいちゃんの言う通り、帯もすごいんだよなー……まるで漆を塗ったみたいに艶やかで……
「浴衣の所々に白い模様まであるし……本当に見事だよね、氷室くんの浴衣」
まゆちゃんもそんな感じだし、みんなすっかり釘付けだよー……うーん、参りましたぁー!
「ハッハッハッ! 先祖代々伝わる、取っておきの浴衣だぜ! いやー、いい気分だぜ!!」
うぅ……氷室さんがそう言いながら、勝ち誇っているのを聞いてると、何だか氷室さんが、
瑠璃紺色の鎧を着た、中世の戦国武将に見えて来るよ……い、命ばかりはお助けを……!!
そんなコトしていると、もうすっかり辺りが暗くなって来たけど、ここで氷室さんが……
「お、来た来た……おーい、駆ー!」
遂に、噂の鶴木さんの到着です。白い浴衣に、鮮やかな青色の模様が所々にあって、こっち
は普通の紺色の帯だけど……この浴衣も、お皿やお茶碗みたいな色合いをしてるなぁ。
「少し来るのが遅過ぎたか……どうだ、新? 今宵の祭りは楽しんでいるか?」
鶴木さんが、こんな口調で言ってるけど、明らかにテンション高いなー……
「駆が来たんだから、オレの夏祭りはこれからだぜ! 明日もあるんだしな!!」
今月はそんなに会えてないって話だったけど、いざ会ったとなると仲がいいんだなー……
この後、6人で適当に歩いてたら、屋台が見えて来て、それが何なのか分かった私は叫んだ
「見て見て! 金魚すくい! ねぇねぇ、やろうよー!」
そして、めいちゃんがその屋台に近付き、傍にある看板を、しばらく眺めた後……
「こちらの金魚は持ち帰る事が出来ません。制限時間内に掬った金魚の内容に応じてポイント
を判定し、高得点を取られたお客様には景品をご用意! 全ての金魚は水槽に戻して下さい」
うーん……とりあえず、すくった金魚は持ち帰らずに戻してねってコトだよね?
「水槽の中には、色んな金魚が泳いでるねー……中には珍しいのもあるって事かな?」
まゆちゃんにそう言われてみると、色の種類だけでも、たくさんの金魚が泳いでるなー……
「金魚たちを、ぼんやりと眺めているだけでも過ごせそうだけど……せっかく来たんだし」
さて、みっちゃんもそう言ったコトだし……まずは私から行きます! あ、氷室さんと鶴木
さんは、少し離れた所で私たちを眺めてる感じかな……んー、後からやるのかな?
「朧月瑠鳴! 発進します!」
私はそう言うと、目に入った中で一番大きな、銀色の金魚を狙った……どんな色だろうと関
係ない。私はポイを大きく振りかざし、この宇宙にあまねく全てのエネルギーを集中させるか
の如く、祈りを捧げ始めた……天にまします我らがポイよ、今ここに宇宙の真理とエネルギー
をこのポイに与え給え……そして、私はその振り上げたポイを、その銀色の金魚に狙いを定め
……宇宙の呼吸と合わせるかのように、一気に水槽に突っ込み、すくい上げる! ……しかし
悲しいかな、一介のポイに、宇宙の力を注ぐのは、やはり力が大き過ぎたみたいです。
「あー、惜しいー!」
ポイは見事に破けました。私はもう全ての力を使い果たしたよ……みっちゃん、めいちゃん
まゆちゃん……後のコトは頼んだよ……さて、私がそんな風に力尽きていると……
「よいしょ……っと!」
めいちゃんが、大きめの赤い出目金を見事にすくってた。お店の人が8点だと言い出した。
「るな……見てて。金魚すくいは……こうやるの」
そう言うとみっちゃんは、黒いようで青みのある、大きな金魚が目の前に来た瞬間に……
「ほい」
その金魚を見事にポイですくい上げ、その重みのせいかポイは破けて、金魚は……あれ?
「あー!」
あの大きさの金魚が落下したから、そこそこの音と波紋が、水槽に広がりました……いやー
思わず叫んじゃったよ……それにしても、みっちゃんでも、ダメだなんて……
「はい……っと!」
私がそう考えてると、めいちゃんは色がたくさんある出目金をすくい上げてた。お店の人に
よると、それは三色出目金で、10点相当何だそうな。
「あ、2匹同時」
そしてまゆちゃんが、小さいけど2匹の金魚を同時にすくってた……お店の人は1点と1点
で2点と言ってたけど……むぅー……そろそろ私も金魚を、すくい上げたいよぉ……
「るな」
みっちゃんの声が聞こえたので、私は振り向く……すると、みっちゃんが言いました。
「大切なのは、るなが金魚すくいを楽しむかだよ。ほら、好きな金魚を狙って、思うままに引
き上げる……その瞬間を、楽しめばいいんだよ」
あぁ……みっちゃんは天使だなぁ……周りを見て焦ってしまってたよ……私は大事なコトを
忘れそうになっていたんだね。その言葉で迷いは晴れたよ……そうだね、まずは楽しもうか。
「あーあ、また破けちゃった」
それから私は、とにかく目の前に来た金魚を狙い続け、ポイはどんどん破けていった……そ
して、それじゃあ最後にと、目の前の金魚に狙いを定め、引き上げると……
「破けて……ない?」
私がその金色に輝く、そんなに小さくない金魚を、ずっと空だった桶に入れると、お店の人
は、これは水槽に3匹しかいない金魚で、このサイズでも12点あると言った。
「朧月さん、おめでとう!」
「きれいな金色だねー、おめでとう!」
めいちゃんとまゆちゃんがそう言った後……
「おめでとう……るな」
みっちゃんも私の勝利を祝福してくれた……1匹だけど嬉しいよ……みんな、ありがとう。
少しして、私がぼんやりと辺りを見渡すと、ひとつの屋台が目に入り、私は叫んだ。
「ねー、ねー! 今度はあっちの輪投げ! 輪投げやろうよー!」
赤、青、緑、黄の4色の輪に、せり上がった台のあちこちから長い棒が伸びていて、特に景
品もなく、シンプルに輪投げを楽しむ感じの屋台でした。
「よっと」
まずはみっちゃんが……4投中、3回連続で入り、次も入るかと思いきや……
「あー! 弾かれた!」
その弾かれた輪を目で追いながら、私は叫んでいました……
「玉宮さん、次々と投げてるけど、全部外してる……」
まゆちゃんがそう言うので、めいちゃんの方を見ると……片手で一気に輪を12本持っていた
「ちょ、めいちゃん……そんなムキに……え?」
次の瞬間、めいちゃんは、すごい速さで輪を1本づつ投げたかと思うと、輪が全部入っただ
けでなく、5ヶ所の棒に2本以上入ってて……えーと、何でさっきまで外してたんだろ……?
「玉宮さん、こういうの得意なんだねー」
まゆちゃんがそう言うと、めいちゃんは答えた。
「力加減が判ったら、後は自分の力加減を安定させるだけの問題だからねー」
これにみっちゃんが続いて言った。
「そういえば、この棒も台も動くわけじゃない……でも、すごいね」
この後、私が適当に何回か投げて、次の屋台を探すコトになりました。ポイントも景品も無
いからイマイチ盛り上がらないねー……にしても、めいちゃんの輪投げ、すごかったなー……
「あ、あそこの屋台に、動物の人形が並んでる! 行ってみようか!」
めいちゃんが指を差した屋台に、4人みんなで行ってみると……
「えー! ここにある人形、全部……飴なんですかー!!」
まゆちゃんが驚いてたけど、私も驚いたよ……色も形も、とても食べ物とは思えないし……
でも、試しに1本買って舐めてみたら……確かに飴だった。
「うーん、食べるのが勿体無い……」
そう言いながら私は、目の前の、見事な飴細工の形を崩していった……
「じゃあ、私はこのピンクのウサギさんを」
めいちゃんが選んだのは、ピンク一色だけど、とてもリアルなウサギの飴細工だった。
「この透明な狼で」
みっちゃんは遠吠えの真っ最中の姿が活き活きと再現された、透明な狼の飴細工を選んだ。
「んー……私は……」
まゆちゃんが悩んでるので……私が選んだのは、三毛猫の色を飴細工用の色で置き換えた感
じのヤツで、肉球の部分の造形が凄かったけど、もう頭から上半分が無くなっているんだよね
……猫には厳しい時代です。この世間のさざなみの中、猫たちは生き残れるのか!!
「これにします! 本当に圧巻の一言です……! 素敵な作品をありがとうございます!!」
そしてまゆちゃんが選んだのは、馬の背中に鳥の翼が生えた……ペガサスだね。たてがみも
翼の部分も本当に造形がヤバイし、色どころか影まで塗ってあるから、売ってる中でも値段が
一回り高かった……これは食べるのに時間かかりそうだなー……
「とりあえず、翼から食べてみる」
まゆちゃんがそう言って、そのペガサスを3分の1くらい食べた後……
「今日は鶴木くんと一緒に過ごして貰えればと思ってたけど……氷室くんを探しに行くかな」
まゆちゃんはそう言うと、1人でどこかに歩いて行っちゃった。
「はい、新しい綿飴。もう落としちゃダメだよ?」
次はどこへ行こうかと3人で悩みながら歩いてると……お婆ちゃんが、そのお孫さんと思わ
れる子が、買ったばかりの綿飴を落として、泣き喚いていたので、すぐそこにあった綿飴屋さ
んから綿飴を買って、そのお孫さんに渡したところです……あ、さっきの三毛猫なら、もうい
ないよ? めいちゃんのピンクのウサギも、みっちゃんの狼も、食物連鎖のピラミッドの中へ
と、消えてしまったんだよ……あぁ、甘くて美味しい飴だったなぁ……そんなコト考えてると
さっきのお婆ちゃんに呼び止められて……
「そんな場所があるんですかー……教えて頂き、ありがとうございます!」
そのお婆ちゃんの言葉を聞き終えると、傍にいた、めいちゃんがお礼を言ってました。
「その場所なら、あっちだね……行ってみる?」
みっちゃんがそう言ったけど……
「うーん、でも口の中がずっと甘いままなんだよねー……」
私がそう言って、とりあえずその方向に進んだら、たこ焼き屋さんがあったので問題解決。
そして、私とみっちゃんとめいちゃんの3人が歩きながら、たこ焼きを食べ終えた頃……
「あ、まゆちゃん」
屋台同士の隙間で十字路が出来た所を進んでいると、その横から、まゆちゃん、氷室さん、
鶴木さんの3人に出くわした。まゆちゃんの手には、さっきのペガサスの残りと、別なものを
食べた後の串があって、ペガサスの方は食べ終えるまで、もう一息ってところだね……
「お! お前ら! 何だか真っ直ぐ歩いてるなー。どっか行く場所でも出来たのか?」
氷室さんが真っ先に話しかけてきた。丁度よかったので、私は言った。
「あのね、あのね! 地元の人から、星空がよく見えるヒミツの場所があるって聞いたの!」
私に続き、みっちゃんが言った。
「だから、みんなで向かってる」
更に、めいちゃんが言った。
「よかったら、桂さんたちも来ませんか? みんなで星空を見上げましょう!」
めいちゃんが、そう言った後……
「そんな場所があった何て……知らなかったなー」
まゆちゃんがそう言った後、更に続けて……
「うむ! 実に興味深い! 新、お前はどうする?」
鶴木さんがそう尋ねた後、氷室さんはこう答えた。
「おっしゃ! 6人全員で行くかー!」
というわけで、私たちはそのヒミツの場所まで辿り着きました。
「わぁ……」
みっちゃんが思わず声を漏らしてた……うん、これはすごい。本当によく見える……しかも
どこにも雲が見当たらないし、人もいないし、足元には短い草と、所々にお花があるだけで、
広々とした草原と、所々盛り上がった坂があるだけの場所で、星を見ようと思ったら、好きな
場所で見ていいし、坂の部分で寝そべってもいい……でも、それよりもさ……
「きれい……」
私はそう言った。普段はこうやって星空を見上げる機会って、なかなか無い……星座の名前
と形は知っているし、探そうと思えば見付かりそうだけど……今はただ、頭上に広がるこの黒
い空間に、大中小の白い宝石をバラ撒いたような、そんな輝きの群れのひとつひとつが放つ光
が、自分の中に次々と飛び込んで来る、この感覚を……身体全体で味わい続けたい気分かなぁ
「うはー……こんなにきれいな星空を見たのは、生まれて始めてだ」
「このような夏の夜も、いいものだな……」
氷室さんと鶴木さんが、この後も会話を続けていたような気もしたけど……何かが聞こえて
も、私の耳には届かない感じがしてきて、周りには、みんながいるはずなのに、その気配もだ
んだんと消えて行って、私はまるで、頭上に広がる夜の空の中にいて、星たちの放つ輝きの群
れが、私の身体のすぐそこにあり、その光の中を漂っているような……星の瞬きが起きる度に
その光が、私の素肌を揺らすように優しく触れるような……そんな感覚に、私は陥っていた。
そんな風に星空を眺めてたら……その星空に穴が空いたかと思うと、何かが私の身体に次々
と降り注ぎ、その感触は本物で、顔にも当たり始めて……私は咄嗟に目を閉じると、声が出た
「きゃあ!」
降り注ぐ何かは、なかなか止まず。未だに目を閉じてる私は、周りの声が聞こえて来て……
「ねぇ、これって……」
「こんなに……大きかったっけ……?」
みっちゃんとまゆちゃんがそう言い終わる頃には、降り注ぐ何かは終わったようで、私は目
を開けるコトが出来た……そして、目の前には……だから、さぁ……いい加減にしてよ、ね?
まゆちゃんが言ってた通り、目の前の ヘンなドラゴン は海で遭ったのとは違って、本当
にドラゴンだね、と言いたくなるくらい大きい……手足が無いのは相変わらずだけど、胴体だ
けで、縦に長いトラックが運んでいる箱の中に、とても納まりそうにないくらい大きく見える
し、夜だからって、変なピンク色だった部分が、ここまで赤く見えるはずが無いから、あの時
の ヘンなドラゴン のすごく赤い目玉の色をそのまま塗ったような色をしてるんだね……お
腹の部分の色も違う色みたいだけど……暗いし、黒っぽいコトくらいしかわかんないかな……
「そんな……! 夜になると目が見えなくなるから、襲って来ないって言ってたのに……!」
まゆちゃんがそう言ってるけど、それは目が赤い時の話で、こうして目が金色になってる時
は夜でも見えるってコトなのかな? ところで……そんなコトよりも、さぁ?
あなたたち、本当に何なんですか? 誰彼構わず目に付いた人間を、手当たり次第に頭から
バクバク食べる、紫だったり赤かったり、何か全身ドロドロだったりする、胴体と口しか無い
生物学無視した ヘンなの が出てしばらく経ったと思ってたら、今度は爬虫類の身体の構造
をちゃんと勉強して来ました! とドラゴンみたいに翼を生やして、地面に突っ込っんだ頭抜
いて、こんにちは! して来られても困るんですけど? 何なんですか? 次はお魚でも出て
来るんですか? こんなヘンなヤツらが、これからも次々と出て来るというコトですか? そ
もそも、あなたたち、この地球上に存在する存在じゃないですよね? 痛がったりするから、
生物ではあるみたいだけど、来る所間違えてませんか? あなたたち どこから来た んです
か? もう……うんざりだよ……もう、見たくないよ……こっちに……来ないでよ!!
「もぅー! いやぁー!!」
気が付くと、私はそんな叫び声を上げていた。
「ショッピングの時といい、今週の日曜に海で遊びに行った時といい、何なの! 何でこんな
ヘンな生物みたいなヤツに何度も襲われなきゃいけないの! 今日はみんなで夏祭りを楽しみ
に来たの! 明日は花火大会があって、みんなで見るの! あんたみたいな、ヘンなのに襲わ
れる為に来たんじゃないの!」
もう言いたいコト全てを言葉に乗せ、その勢いに任せて、私は怒鳴った。
「だから、だから……!」
私は手を握り、それを肩の方に持って行きながら、その腕を曲げていった……そして、目の
前の もっとヘンなドラゴン に向かって、一番、言いたいコトを吐き出した。
「どっかへ……行ってよぉーーー!!」
それが、握った手を広げて、曲げた腕を伸ばしながら、私が言い放った言葉……そもそも、
あなたたちがここにいるのは、何かの間違い何だよ…… 本当はここにいない 存在何だ……
そうに決まってるんだよ……だから、さぁ……いや、もうさぁ……あぁ、もう……
「うぁああーわーーー!!」
それから先のコトは、よく覚えてない。多分、手を振り乱し、言葉にならない叫び声を上げ
続けていたんだと思う……でも、今こうして、身体全体を殴るにしては満遍なくて、頭の中だ
けでなく、身体の内側の内臓全部が、無理矢理揺さぶられてるような衝撃が続くと……
「えぅああわぁー! あ、あ……あ?」
周りの音が聞こえなくなるくらい取り乱していた私の意識が、少しハッキリした瞬間、聞い
たコトも無いような大きな音が、耳と頭に響き渡り、私は身体全体で驚くコトとなった。
「あ、れ……? えーと……?」
何だか身体全体がショックを受けた気分……私、さっきまで喚いていたけど、もう何でだっ
たかな……そんな風に戸惑っていると、今度はドンと押すような強い風が身体に当たって……
「きゃあ!」
「うぉ!」
「うぅ!」
めいちゃん、氷室さん、みっちゃんの順かな? 気が付くと、私は地面に背を向けて倒れて
いた……と言っても、これくらいなら怪我も無さそうだけど。
「助かった……の?」
みっちゃんがそう言うと、 もっとヘンなドラゴン の姿は見えなくなっていた……あれ?
もしかして、夢だったのかな? でも、みっちゃんも、他のみんなも見てるんだし……
「いや、違う! ヤツが飛び上がったという事は……来るぞ!」
鶴木さんがそう叫んだ。あ、そうか……海の時と同じか。飛び上がって、距離を取り……
「みんな! 早くここから離れて!!」
分かったよ、めいちゃん。あんなに大きな身体だもん、思いっ切り離れないとダメだよね。
そしてみんなが十分に離れた頃、 もっとヘンなドラゴン が地面に到着。ここから首を引
き抜いて、また誰かに向かって飛び掛かって……あれ? 何これ……
「ちょ……こんな時に……!!」
「うぉおおぉおお!! 立っていられないぞ、これは!」
「地面が……揺れてる!?」
まゆちゃん、氷室さん、めいちゃんの順にそう言ってたけど、本当にすごい地震……という
かヘンな声も聞こえるし、 もっとヘンなドラゴン は頭を地中に埋めたまま……もしかして
さっきの大きな吼え声で、地面を揺らしてるのかな?
さて、その地震も収まったし、四つん這いになっていた私だけど、これで立ち上がれるね。
とりあえず もっとヘンなドラゴン の方を見てみると……何か右に一回転したと思ったら
今度は左に一回転してる……どうかしたの? 頭でも打ったの? 私がそう思っていると……
「ね、ねぇ……みんな!」
私は思わず、みんなに呼びかけるように叫んだ……だって もっとヘンなドラゴン が……
「か、身体が……!」
そう、めいちゃんの言うように、その もっとヘンなドラゴン の身体がね……何かさ、全
身のあちこちから炎を噴き出してるの……えーと、これはアレですか? 本当は出来ないんだ
けど無理矢理火を吐こうとしたら、上手く吐けずに全身にこぼれちゃいました……そんな感じ
でしょうか? とりあえず、金色の炎って珍しいですね、きれいですよね……
「も、燃えてる……」
そんな考えを巡らせた後、私は真顔で、そう言ったと思います。それから、その もっとヘ
ンなドラゴン は地面をお腹に付けたまま、動かなくなりました……そしてただ静かに、この
広い草原のど真ん中で、金色の炎を延々と、その身体から燃え上がらせていたので……
「何か……きれいなキャンプファイアーに見えてきた」
私はそう言っちゃった……それからしばらくすると、炎の勢いが強くなり始めたので……
「何か、火の勢いが強くなった!」
さっきまでゆっくり燃えてたのが、急に大きく燃え上がったので、私は思わず叫んじゃった
「身体も……所々崩れ落ちてきた?」
みっちゃんがそう言った辺りから、 もっとヘンなドラゴン の身体のあちこちが、火の勢
いが増すに連れて崩れ落ちていき、それから更にしばらく経った後……
「み、見て!」
「く、首が!」
まゆちゃんと鶴木さんがそう言ったみたいで、確かに もっとヘンなドラゴン の、そこだ
けで大きな蛇を見ている気分になるくらい大きくて太い首が、燃えながら地面に落ち……ここ
まで大きいと、落ちた時の地面の揺れも大きくて、肉片の時は気付かなかった、青紫の煙を一
気にたくさん噴き出しながら、炭酸が泡立つ時の音を大きくしたような感じの音を立てながら
どんどん溶けてって、ドラゴンの頭蓋骨ってこんな感じなのかなー……あ、でもこのドラゴン
一つ目だったと思いながら、少しの間、溶けずに残っていた大きな白い骨を眺めて、やっぱり
生物だったんだなぁとぼんやり考えながら……
「グレープジュース飲みたいなぁ……炭酸のヤツ」
私がそれを言葉に発したのか定かでないまま、同じ様に尻尾が崩れ始め、しばらくすると翼
も崩れ落ち、 もっとヘンなドラゴン の身体は、金色の炎に青紫の煙が混ざり、白い骨をの
ぞかせながら大きな炭酸の音を立て続け、何だか地面の中に吸われるかのように、結構な速さ
で溶けていきました……そして、最後に残った部分と言えば……
「最後は、胴体……本当によく溶けてるなぁ」
めいちゃんがそう言って、その胴体も同じ様に燃えながら、溶けてったけど……
「えーと……全部溶けて、無くなっちゃったよね……?」
まゆちゃんの言う通り、 もっとヘンなドラゴン は溶けて消えて、無くなっちゃった……
「こうなるから……今まで夜に現れなかったのか……?」
氷室さんが、そう言ったけど……どうなのかなぁ。
「んー……」
そして、めいちゃんが難しい顔をしながら唸り始めた……とりあえず、こうなったら……
「ねぇ、ねぇ! この後、どうするのー?」
私はそんな風に、みんなに聞いてみた。何だか疲れちゃったよ……
「解散……かな?」
氷室さんがそう言った。そういえば今、何時なんだろう……
「そうだねー、夏祭りは明日もあるんだし……」
まゆちゃんの言う通りだね。んー、それはいいんだけど……
「浴衣も土とかで汚れちゃったー! 布団叩きとかで何とかなるかなぁ?」
今思えば……さっきは、 もっとヘンなドラゴン が巻き上げた地面の土や小石が降って来
てたんだね……あーあ、せっかくみっちゃんが選んでくれた浴衣なのに……
「じゃあ……」
「今日は帰って、明日仕切り直しだね」
めいちゃんとみっちゃんもそう言ったし、みんなで私のお家に帰ろうか。まゆちゃんは……
んー、1人で帰るみたいだなー……まゆちゃんとは今朝からほとんど一緒だったし……今夜は
私の家に泊まろうよと、ここで無理に誘うのもアレかな。また明日遊ぼうね、まゆちゃん……
「釈然としない気持ちだったし、気分転換も兼ねて、こんな時間だけど作っておいたよ……」
そういうわけで、私は今、めいちゃんと……
「冷蔵庫に入れて来た。朝起きたら鍋に入れて温めておくんだよね? ……おつかれさま」
みっちゃんの3人で、私のお家に帰って参りました!
「これ多分あたし、朝起きれないと思う……味を思い出しながら作ったから、身体だけじゃな
くて、頭も疲れたよ……」
もう午前になってから大分経つのに、めいちゃんは明日のお昼ご飯をしっかりと用意したん
だからすごい。私なんてその間に、グレープ味の炭酸ジュースを飲み干していただけだよ……
「そういえば、あたしはどこで寝ればいいのかな?」
そしてめいちゃんが、そう聞いてきたので、あたしはこう答えた。
「あ、ベッドのど真ん中でいいよー。大きいベッドだから、私もみっちゃんも入れる!」
どんなに寝返り打っても大丈夫なように、大きめのベッドを買っておいてよかったよ。
「最近は暑くて、るなと身体を離して寝ていたから、ちょうどいいかもね」
みっちゃんがそう言ったので、私は言った。
「そうそう! 寝巻き1枚で布団を被ってなければ、抱き合って寝ても大丈夫かなと思って」
「実際にやってみたら翌朝、私もるなも寝巻きも、汗でベタベタで……これは無理だねって」
私が言った後、みっちゃんがそう続けた。みっちゃんの肌がヌルヌルなだけなら、まだいい
んだけど、汗疹がたくさん出来てたし……さすがにこれは続けられないなーって、なりました
「朝起きたら、大慌てでお風呂に入って、身体を流し合ったよね……」
そんなコト言っている間にめいちゃんは、まだ暑い夏の夜を寝て過ごすのに相応しい、胸元
で留めただけで、少し動けばお腹もおへそも丸出しになるベビードールを着て、おやすみの挨
拶をして来た。ピンク色だったからそれにしたんだね、ショーツもピンク色だったし……あと
胸の部分覆ってるからとブラしてなかったね……あとそのベビードール、生地がかなり薄いか
らね? まゆちゃんがいつか着ていた、赤いキャミソールと同じくらいだからね? でも夏だ
から、それくらい薄着しないとダメなのかも……
「じゃあ、私たちも寝ようか。みっちゃん」
「そうだね。るな」」
私とみっちゃんは、色は白くて生地も薄手だけど、お揃いのスリップだよ! さっきのベビ
ードールは、気が付けば白ばかりだなーと思ってた時に買ったヤツ……かわいいよね、ピンク
それでは、そんなめいちゃんを、私が奥の方の、めいちゃんから見て左側で寝て、みっちゃ
んが手前の方の同じく右側で寝て、そんな感じで、2人でめいちゃんをサンドイッチして……
おやすみなさーい。
八月二十一日
「さて、無事に起きれたし。もう少し経ったら取り出して、鍋の中に入れるかな」
私が、朝の食事を簡単に済ませようと、寝ぼけながら適当なスナック菓子を漁っていたら
みっちゃんが、そう言ってました。
「みっちゃん、おはよー……」
私がそんな感じで、みっちゃんに朝の挨拶をすると……
「おはよう。るな」
そう言いながら、みっちゃんは、私に微笑の表情を放ちます……あぁ、朝から幸せ……
「ポテトスナックか……お昼にはお腹を空かせておきたいから、丁度よさそう」
みっちゃんが続けてそう言いました。ジュースも半分くらいにしておこうっと。
「めいちゃんはまだ寝てるねー……今、何時ー?」
私がみっちゃんにそう尋ねる。
「そろそろ9時だよ。さて、これでよしっと」
そんな風に会話をしていると、私の着替えがみっちゃんの手によって終わりました!
「もう少ししたら、めいちゃん起こそうか……それじゃスナック食べまーす」
そう言うと私は、お皿の上に何種類かのポテトスナックを出しました。ジュースは……
「私も少しは食べるか。アップルジュースにするけど……コップ一杯で十分かな?」
お昼ごはんまでの時間を考えると、やっぱりそれくらいかなー……
「はい。るな」
そう言いながらみっちゃんがチップス上のスナックを差し出して来たので、ぱくりと食べる
「みっちゃん。あーん……」
同じ様に、私はスティック状のスナックをみっちゃんに差し出して、みっちゃんがぱくり。
「そろそろジュースを飲もうか」
みっちゃんがそう言ったので、カップル用のストローが刺さった、アップルジュースをみっ
ちゃんと一緒に飲む……そんな風に過ごして更にしばらくしたら、そろそろ10時も過ぎて……
「そろそろ、めいちゃんを起こそうか」
私がみっちゃんにそう言った後、みっちゃんが言った。
「さすがに寝る前の調理が堪えたみたいだね……とりあえず、鍋にはもう入れてある」
それじゃあ、向かうとしますか……私とみっちゃんは、めいちゃんの寝ているベッドのある
部屋に忍び込みました……そして、めいちゃんは未だにすやすやと寝ています。服装は昨夜と
同じピンクのベビードールにピンクのショーツ。そして、ブラは着けてないっと……でも、こ
のベビードール、胸の部分はそこそこ補強されてるし、夏だからね……やっぱりこれくらいの
薄着で丁度いいのかなぁ? それでは朧月瑠鳴[おぼろづき るな]、行っきまーす!!
「めいちゃん、めいちゃん」
まず私がそう言いながら、めいちゃんの身体をゆっさゆっさと揺らします。
「お昼になるよ。ほら、起きて」
そして、みっちゃんが呼びかける……まさにカンペキな連携! めいちゃんもいるから、こ
れぞ天竺に伝わる伝説の秘法、トライアングル・トランスフォーメーション!!
しかし、その秘法を以ってしても、めいちゃんは起きないみたいです……
「めいちゃん、起きないねー……みっちゃんどうする?」
天竺の秘法が敗れた今、みっちゃんに教えを請うしか無い……そしてみっちゃんは答えた。
「こういう時はね」
みっちゃんがそう言うと、人差し指を立てて、それをめいちゃんのおへその辺りに持って行
ったかと思うと……腰の左端から右端へと指をツンツンして進んでって、右端に来たら少し上
に進んで折り返して、またツンツンと左端の方に向かい始めて……
「ほら、このまま起きないと……どうなる?」
みっちゃんの人差し指はおへそからどんどん上がって行き、次に折り返して上がった時はそ
ろそろ胸の近くに行くなーって、眺めてると……
「あ……」
めいちゃんが、驚いたような、何かに気付いたような、そんな感じの声を出した……あー、
このまま起きないと、胸の柔らかい所を突くコトになって、更に進めば……
「わー、待って、待って! 起きます! 起きるってば!」
そう叫ぶと、めいちゃんは飛び上がるように起きました……めいちゃん危機一髪!!
「ほら、起きたでしょ?」
みっちゃんが私の方を見ながら、本日もいい笑顔でそう言いました。
「みっちゃん、すごーい!」
私が、両手で揺さぶる……つまり10本の指を使っても起きなかっためいちゃんを、指1本で
起こしてしまうなんて……あぁ、みっちゃんは私の想像を遥かに越えて行くよ……
「私が起きない時は……こうやって起こして」
みっちゃんは更に続けて、そう言った。わかったよ、みっちゃん……今度、やってみるよ!
ところで、めいちゃんが何か、こっちの方をじーっと見つめてるけど、どうしたんだろ?
「お腹空いてきたー」
めいちゃんが起きて少しした後、私は首尾よくお腹を空かせるコトに成功したみたいです。
「朝ごはん、適当にお菓子で済ませちゃったからね。でも……」
「そろそろ、いいかな……? 着替えとかしてくるね」
みっちゃんがそう言って、めいちゃんもそう言った後、ピンクのエプロンに着替えて来たか
と思うと、みっちゃんが温めておいた鍋に向かって行った……そして、鍋の中身の味を確かめ
ながら、最後の味付けをしています……そう、このプロジェクトは、みんなで浴衣を買いに行
ったあの日から、既に始まっていたのです……
「うん、これでよし」
めいちゃんがそう言った後、鍋の中身を3人分のお皿に盛り付け、その料理は熱々の湯気を
身にまといながら、遂にその姿を現しました……
「いよいよだね。本当に夜も遅かったのに、頑張って作ってた」
みっちゃんが、そう言った後、長きに渡るプロジェクトの成果を、めいちゃんが叫んだ……
「出来たよ! 海の家で食べた時の味を基に、バジルやスパイスも加え、更に一晩くらい寝か
せてパワーアップした……チキンクリームカレー!!」
めいちゃんが先週、海の家のお昼に頼んだチキンクリームカレー……夕飯も海の家で済ます
コトになった時も同じのを頼んだけど……まさかこうして、お家で食べるコトになる何て……
「いっただきまーす!」
私とみっちゃんとめいちゃんが同時に叫んだけど……多分、私の声が一番大きい……そして
今や、めいちゃんの料理となったチキンクリームカレーをスプーンですくい、一口食べる……
「おっいっしぃーーー!!」
いやー、チキンとクリームの甘みだけでは弱い時もあるけど、こうしてバジルとかスパイス
を加えれば、味が引き締まるし、クリーム自体の味付けもいい! そんな、めいちゃん自慢の
特製チキンクリームカレーを、いざ口に運んでしまったら……こう叫ぶしか無いよ!!
「舌触りも、まろやかだよ」
みっちゃんも、いつもと変わらない表情に見えて、結構顔が緩んでるし……うーん、朝ごは
んを気持ち程度にしておいてよかった! めいちゃん……とっても美味しいよ!!
「ちょっと多めに作ったから、おかわりもあるよー!」
めいちゃんがそう言ったので、早速おかわり! まだある程度、残ってるねー……本当に、
美味しいチキンクリームカレーだったよ……めいちゃん、ごちそうさまでした!
「浴衣……土で汚れちゃった……」
ここで、私は現実と向き合い始めた……私の浴衣だけでなく、みっちゃんの浴衣も、めいち
ゃんの浴衣も、昨夜の もっとヘンなドラゴン が巻き上げた時の土とかで汚れてしまった。
はしゃいで走ったりして転んだのならまだいいけど……そうじゃないから悔しいなー……と
にかく、私たち3人は、そのきれいだった浴衣を抱えて、これを少しはきれいにするか、この
まま夏祭りに行ってしまうのか……もう、それを決断しないといけない。そんな時でした……
「あ、朧月さん。何か宅配頼んでたの?」
「こんな時に玄関のチャイムが鳴るなんて……何だろう?」
めいちゃんもみっちゃんも、そう言いながら首を傾げていました……では、この家の主であ
る私が出るとしましょう。私は足元に浴衣を置いた後、玄関まで出向き、ドアを開けると……
「わぁ」
突然、誰かが家に上がり込み、私を押しのけて、家の中をどんどん進み、とりあえず後を追
うと、その家まで入って来た人は、みっちゃんとめいちゃんの前にいて……
「さぁ、さぁ! 今日もやって参りました! わたくし実演で訪問販売をしております……」
そう言い始めた。えーと、つまりこの人はセールスで……
「おやおやぁ!? そこにあるのは、汚れてしまった浴衣! 昨日の夏祭りで、転んだりでも
したんですかぁ? でもご安心を! 今回ご紹介するのは、こちらの……」
そんな風に考える間もなく、その人は何か裏側から蒸気の出てるアイロンを取り出して……
「御覧下さい! このスーパーマジカルスチームアイロンがあれば、この程度の汚れも……」
え? 何? 今の動き……何? 確かにそのスーパーマジカルスチームパンクアイロンで、
私たち3人の浴衣をすごい勢いで土の汚れを取ってたみたいだけど……? と思ってたら……
「見付けたぞ。強引な訪問販売をした挙句、法外な請求と契約を迫る、悪徳業者の社長。売物
の性能は無駄にいいが、全て大手販売店からの盗品だというのも調査済みだ」
私の後ろには、いつの間にか警察っぽい人がいて、そのスーパーマジカルスチームパンケー
キアイロンを使った人の頭を鷲掴みにして……あれ? その人は何か引きずられながら、辞世
の句を詠み上げ始めたんだけど……これって、どこかで聞いたような……?
とりあえず、その人と警察らしき方が家から出たのを確認すると、私はカギを閉め、みっち
ゃんとめいちゃんのいる所まで戻って、こう言った。
「めいちゃん……今の……」
すると、めいちゃんがまず……
「朧月さん」
そう私に言った後、まるで何かに感謝でもするかのような表情をしながら、こう言った。
「あたしたちの浴衣が、すっかりきれいになった……もうそれで、いいんじゃないかな?」
めいちゃんは、まるで何かを悟ったかのような表情をしているようにも見えた……これはも
しや、昼前に天竺に伝わる秘法を受けたせいで、めいちゃんに何らかの影響が!?
「さて、今夜の晩御飯の用意も出来たし、そろそろ出発しちゃおっか」
めいちゃんが、チキンクリームカレーの食材を購入する際に、私はある料理の材料を買って
おいた……でも、 アレ が見付からなかったのが残念……とにかく、夏祭り二日目に出発!
「んー、そう言えば、誰から聞いたのかハッキリしないなー……」
夏祭り会場に着くと、まゆちゃんが誰かと……あ、鶴木さんだね。2人で何か話をしていた
「桂さん。こんばんわ」
そこに、めいちゃんが挨拶して、まゆちゃんがめいちゃんをちょっと見た後……こう言った
「ねぇねぇ、玉宮さん。何か私、どこかで、昨夜と日曜の海で遭遇した、あの羽の生えたヘン
な化物が、夜になると目が見えなくなる事を、誰かから聞いたんじゃないかって話を今、鶴木
くんとしてたんだけど……玉宮さんは、心当たりない?」
まゆちゃんはどうしてこんなに、私は思い出したくもない ヘンな生物 の話をするのかな
もう襲って来ないと、分かっていれば、こうして話題に出すのもアリだけどね……
「んー……まずね、桂さん。あなた、本当にそんな事言ったのかな?」
めいちゃんも困惑しながら、そう答えた後、これにまゆちゃんが続けて……
「どう何だろう……んー、だんだん自信なくなってきたー……」
よーし、私からも言ってやる……言ってやるんだからね!
「まゆちゃん、こないだのカフェの時も、ショッピングの時の化物の話してたよねー! ねぇ
ねぇ、もしかして怪物とか好きなの? そんな話を自分から、しちゃう何て……」
浴衣を買った日も言ってたけど……あの時は話題が途切れてたし、普通にアリだったかも?
「えー? この話をして来たのは鶴木くんの方からだよ? あと、朧月さん、宵空さん、あの
時は楽しく食事してたのに、嫌な事思い出させちゃって、ごめんなさい……」
実は、ローニン・リザードのチケットを貰うまで、忘れてました……いや、だってさ、抹茶
アイスにあんみつって美味しいよ? イヤなコト全部吹き飛ぶよ? スーパーマジカル抹茶波
動胞を宇宙戦艦オリエンタルが発射出来るよ? ここは何か言おうかなー、と迷ってると……
「んー……17時半くらいかー。花火大会まで、まだ2時間あるねー……どうしようか?」
めいちゃんがふらりとそんなコト言うと、まゆちゃんの口が開いた。
「そう言えば昨日、射的屋さんを見つけたんだけど……みんなは、もうやってた?」
え? 射的? 昨日は見かけなかったなー……どこにあるの? 教えてまゆちゃん!
「射的……かぁー」
みっちゃんも乗り気だ……よし、聞いちゃおう!
「えー、どこどこ!? 行くー!」
そして、やって参りました射的屋さん! さぁ、私、朧月瑠鳴が、日本を代表しまして、射
的に挑みます! 狙いますのは、あの涼しそうな団扇! さぁ、銃を構え、そこにみっちゃん
の手が添えられ、銃に不思議なパワーが宿ります! これはもう、1発で仕留める未来が約束
されました! つまり歴史は今、改変されたのです! その宿命的な弾丸を今……放ちます!
「うーん……外した」
やはり歴史の流れは簡単には変えられない……私は弾が全然違う所に当たった後そう言った
「大丈夫。落ち着いて狙って」
みっちゃんもそう言ったし、続けようっと。狙うのは、この団扇のままでいいかな……
「外しました……」
私はとりあえず、真顔でみっちゃんに振り向いた後、そう言ってみた。
「肩の力が抜けてたよ。このままで大丈夫」
私が外す度にみっちゃんが声をかけてくれて落ち着いた気分で撃ち続けるコトが出来た……
それから何発も外した後、撃った感触すら忘れるくらいぼんやりと撃った時……何かが倒れ
る物音がしたので、前の方を見てみると……ずっと狙ってた団扇が、そこに倒れていた。
「当たったー!」
みっちゃんの言う通りだったよ……的に当たったコトに気付いた私は、歓声を上げました。
「かき氷屋さんの暖簾みたいな団扇だね……おめでとう」
みっちゃんにお祝いを受けた後、私はめいちゃんの隣にいる、まゆちゃんの方に行って……
「まゆちゃん! 団扇が当たったよ! まゆちゃんが射的のコト教えてくれたおかげだよ!」
私は、まゆちゃんに団扇を見せながら、そんな嬉しさと感謝の言葉を述べた。
「涼しそうな団扇だねー……おめでとう! 朧月さん!」
まずは、めいちゃんがお祝いしてくれました。そして……
「昨夜は何の気なしに見つけた射的屋だったけど……まさか朧月さんの、こんなに素敵な笑顔
を見る事になるなんて……さっき思い出してよかったなぁ……団扇、おめでとう!」
まゆちゃんも、嬉しそうにお祝いしてくれた! あぁ、今夜はとっても楽しいお祭りだなぁ
それから、どこに行くかが決まらず、ひとまず4人みんなで適当に歩いてると……
「まぁまぁ、みなさん! みなさん!」
ヨーヨー吊りの屋台を見付けたと思ったら、朝比奈真白[あさひな ましろ]こと、ひなち
ゃんに遭遇。ひなちゃんの髪は薄いオレンジだけど、今は後ろの方を、桃の切り身のような色
をした花飾りでまとめてて、浴衣の色は……うーん、水色と言うには緑色だし、青緑に近いけ
ど、ちょっと違う……これは、この色だけで見応えあるし、模様とかがほとんど見当たらない
し、帯も金色だったりと……ひなちゃんも、いいセンスしてるなー……そう思っていると……
「ほら、さくちゃん! みなさんですよ! 挨拶! 挨拶!」
ひなちゃんと言えば、さくちゃんだよねー……朔良望[さくら のぞみ]、有明高校の生徒
ひなちゃんと同じ高校二年生だと知った時のめいちゃんの驚きっぷりはすごかったなー……
「さくちゃんってば! もう……そんなに、そのヨーヨーが気に入ったの……? ほら、こっ
ちを向いて……また、みなさんに……会えたんだよ……」
ひなちゃんが更に言葉を続け、私はヨーヨー吊りをしている、さくちゃんの方を見た……や
っぱり、年上の先輩とは思えないくらい、ちっちゃくてかわいいなー……そして、さくちゃん
が私とみっちゃん、めいちゃん、まゆちゃんのいる、こっちの方を向いたかと思うと……また
顔の向きを元に戻しちゃった……さくちゃんは本当に、恥ずかしがり屋さん何だなぁ。
「朔良先輩」
めいちゃんがさくちゃんに振り向いてくれるように、そう声をかけ始めた。さくちゃんは、
淡い水色の髪で、こうして後ろから見ていると、その髪の長さがよく分かる。そんな、さくち
ゃんが着てる浴衣は……んー、この距離だと全部白に見えるけど、もう少し近付いてから眺め
てみようかなぁ? そんな風に考えているとさくちゃんは、めいちゃんに抱き付いて、頭を撫
でられてました。目から涙まで流しちゃってるみたいだけど……どんな会話してたのかな?
「さくちゃん」
そんな感じでぼんやりしてたら、ひなちゃんの声が聞こえてきて、更にひなちゃんは続けた
「行こうよさくちゃん。夏祭りはこれからだよ……? みなさんと一緒に……楽しもう?」
ひなちゃんがそう言いながら、さくちゃんに手を差し伸べると……さくちゃんはまるで引力
でも働いたかのように、吸い寄せられるような動きで、ひなちゃんの手を取り、立ち上がった
引力と言えば、ピザの斜塔で小さい玉と大きい玉を落としたけど、大きい玉が途中で寝ちゃ
って、それで小さい玉が先に地上まで落ちて、コペルニクス回転が発見されたんだっけ?
そんなコト考えてたら、さくちゃんがこっちにやって来た……とりあえず浴衣を見るね。
やっぱり、白だけじゃなかった……どれも薄い色だけど、その種類は3つや4つじゃ足りな
くて、その色で花の絵があちこちに描かれてる……そんな浴衣を結ぶ帯は、見事な紫色でした
「じゃあ、さくちゃんと呼んでも大丈夫なんですか?」
それからちょっと歩いて、めいちゃんがひなちゃんと、そんな話をしてた。
「さくちゃんはね……年下扱いされるのが嫌いなわけじゃないの……ただ、年上扱いされるの
も、年下扱いされる事にも、慣れていない……だけなの」
ひなちゃんってテンション上がった時の声は高くなるけど、今みたいに甘くて、頭の中に入
り込んで来そうな 危ない声 も出すんだよね……みっちゃんの低めで落ち着いた声とは違う
「だから、さくちゃんは、ね……」
ひなちゃんが更に声を甘くして言った。さくちゃんは一日中、この声を聞いてるのかな……
うーん、大丈夫なのかなぁ……ひなちゃんのこの声は、甘過ぎるよ……口の中をずっと甘くし
ていると虫歯になって、歯はボロボロになる……歯はね、人体で一番硬い物質何だよ? それ
をダメにしてしまうから、お砂糖って本当は怖い物質……じゃあ、頭の中をずっと甘くしてい
ると、何がボロボロになるの? ……私がそんなコト考えていると、ひなちゃんはさくちゃん
の後ろに回り込んでいて、その両腕で、さくちゃんを優しく抱き寄せて、こう言っていた。
「こうやって……やさしく、大事に……わたしが包み込んで、あげるんだー……」
ひなちゃんが、その甘い声でそんなコト言ったからかな、その光景を見た私は、ひなちゃん
とさくちゃんが、うっすらと光り始め、だんだん明るくなってるような気がして、遂には……
「何か……ひなちゃんの背中から天使の羽が、見えるような気がしてきた……」
私はそう言っていた……どうやら、さっきのは考え過ぎだったんだね。さくちゃんにはひな
ちゃんがいて、ひなちゃんにはさくちゃんがいる……とりあえず、ひなちゃんは天使でした。
「ねーねー、いま何時?」
あれから、焼き鳥屋さんを見付けたので、みんなが1本づつ注文する中、私は焼き鳥を2本
注文し、その焼き鳥も、もうこの世にいない! 今、私の両手には焼き鳥という鞘の呪縛から
解き放たれた、串と言う名の剣が、その身を世界に晒していた……そして、私はその剣を振る
い、目の前の空間を裂く! そして、次元の扉は開かれ、世界は……ところで今、何時かな?
「19時30分、丁度……という事は!」
私が時間を聞くとすぐに、めいちゃんがそう教えてくれた……それって、つまり……!!
「さくちゃん! 花火! もうすぐ花火だよ!」
これから、みんなで花火を見るんだなー……楽しみだなぁ……あれ? そろそろなのに……
えーと……とりあえず私たちは、近くにあった綿飴屋さんで綿飴を買いました。
「花火、始まらないねー……」
そう言いながら、私は買った綿飴をむしゃむしゃ。
「遅れているの、かな……?」
みっちゃんがそう言いながら、 同じ綿飴 をはぐはぐ……そして綿飴を食べ終わっても、
花火は未だに始まらない……私がそう思ってると……あ! あっちの方にあるのって……!!
「みっちゃん! お面! お面屋さん!」
あんな所にお面屋さんを発見! 早速、みっちゃんと手を繋いで、一緒に行ってみました。
「犬のお面、猿のお面、キジのお面、赤鬼のお面まであるけど……主役がいない?」
みっちゃんの言うように、お面がもう1つあるはずで、しかも所々に空いてる金具の空間の
場所を考えると、更にもう1種類のお面が並んでた気がしたから、お店の人に聞いみると……
「青鬼のお面もあったけど、そっちも売り切れちゃったわけですかー……」
私はそう言った。んー、せっかく話を聞いたんだし……このお面を買っちゃおうかなー……
「じゃあ、赤鬼のお面ください」
というわけで、私は赤鬼のお面を購入しました! いかにも強そうな表情をしてるね。
「犬のお面、ひとつ」
みっちゃんが買ったのは、白い犬のお面だけど……その店を出てから、少し歩いた所に……
「クジ引き屋さんかぁ」
みっちゃんがそう言った後、私は支払いを済ませて、腕まくりをした後……
「よーし……大当たり引いちゃうよー!」
私はそう言いながら、箱の中に手を突っ込み、目を閉じた後、少し瞑想をしてから引くコト
にした……このたくさんのクジの中から当たりを引くと言うコトは、川の流れを感じ取り、流
れて来たものがこれだ! と思ったら引けばいいんだよ……そうだね、こうして手を動かして
桃が流れて来たら引くコトにしようか……早速川上から大きな桃が……いや、これは……牛さ
んがどんぶらこして来た……いやいやいや! もーもー言われても、あなた桃じゃないですか
ら! 桃! 大きな桃! それが流れて来たら、その時掴んでるクジを引き上げる! よし、
今度こそ……大きな大きな、鶏もも肉が……いや、めいちゃんの作ったチキンクリームカレー
美味しかったけどさ! 食べようと思えばまだ残ってるけど……どうして、桃どころか、お肉
が流れて来るの!? 動物と植物は細胞の段階から、身体の構造が違うんだよ? せっかく川
があるんだから、顔を洗って出直して……あれ、そういえば……桃の顔ってどこにあるの……
やれやれ、こんなんじゃ鬼退治には行けないね……いい加減、クジを引いてしまいますか!
「は、鼻眼鏡……」
それが、今までの瞑想を経て、桃の力に頼らずに勝利を掴もうとした私が得た、結果でした
「こっちは星座……じゃなくて、正座のキーホルダー」
みっちゃんが引いたのは正座した人が飾りになってるキーホルダー……正座してるのは一目
で分かるけど顔の造形がいい加減で……色も1色じゃなければ湯呑み持ってるのがもう少し分
かりやすくなるんだけどなぁ……えーと、みっちゃんそれどうするのと、私が思ってると……
「ふむ。輪の隙間が、犬の耳の部分にしっかりハマったね」
さ、早速付けてた! こうなったら私も……!!
「あ、あれ……? お面を振っても落ちるどころか、ズレる気配さえ無い……」
ヤケになって、赤鬼のお面に鼻眼鏡掛けたら、見事に固定されて取れそうにない事態に……
「……呪いの、アイテムかな?」
みっちゃんが、そう言ったので、私はお馴染みのRPGのファンファーレ音を声に出した。
「それ、レベルアップの時の音楽……」
呪いの力は……更なる力を得てしまった! どうなる世界!! でも、みっちゃんと一緒に
見た、このRPGの動画、面白かったなー……敵も味方も全員同時攻撃してしまう、呪いの武
器を装備したまま、あえて冒険を続け、クリティカルを出してイベントボスを倒したかと思う
とパーティー全員にもクリティカルが出てて、そのまま全滅した時は、みっちゃんも大笑いだ
ったよ……後日、残りの投稿を見たけど、これを越える展開は、さすがに無かったねー……
「花火まだかなー……とりあえず、めいちゃんたちの所に戻ろうか……」
それから少し経っても、始まった気配すらないので、私はそう言った。
「そうだね。中止にならないといいけど……」
みっちゃん、そんな悲しいコト言わないでよ! そして、めいちゃんがさっきの場所にいた
けど……どうしたのかな? 難しい顔してて元気が無いよ……よーし、ここは……
「めいちゃん、めいちゃん」
私は、鼻眼鏡の取れなくなった赤鬼のお面を顔に被りながら、めいちゃんに話しかけると、
めいちゃんが、私の方を振り向いたので、こう言った。
「めいちゃん? さっきから元気ないよ? どうかしたの?」
私がそう言っても、めいちゃんは辛そうな顔してる……こんな時、何て言えばいいんだろう
そう思っていると、みっちゃんの足音と気配がして、そういえばみっちゃんのお面は……
「わ、わん」
とりあえず私は、みっちゃんの白い犬のお面がしそうな、鳴き声をしてみた……でも、めい
ちゃん、何かを堪えるような顔してる……つらいコトでも思い出しちゃったのかな? とにか
く、これじゃ足りない。もっとレベルアップしなきゃ! 白い犬をレベルアップさせて……
「わおーん」
めいちゃん! どう? 白い犬がレベルアップして、銀色の狼になったよ! このレベルに
なった私の鳴きマネなら……元気出してくれるよね?
「あおーん」
みっちゃんの応援が来た! 私の鳴き声にみっちゃんが加わるコトで、この鳴き声の威力は
2倍や3倍じゃない……めいちゃん、みっちゃん倍のこの励ましの鳴き声……届いて!!
「ちょ、待って……っと、待っ……あっははっははっはは!」
やったー! めいちゃん笑ってくれた! ずっと暗い表情してたけど……もう大丈夫だね!
「あっはっは! わぉ、はっははは、わんって、はっはは――」
うんうん、笑った表情が一番だよ、めいちゃん! お面買って来てよかったよ……鼻眼鏡が
取れなくなった、呪いのアイテムかもしれないけど、こうして、誰かを元気にするコトが出来
た……とにかく一件落着だね。ほら、お空に祝砲を上げる音まで……あれ? この音って……
「花火……始まったね」
みっちゃんがそう言った後、空を見上げると、大きな音を立てて、眩い光が散らばっていた
「ねぇ、昨日のあのヘンな化物が現れた場所……覚えてる?」
まゆちゃんが、またヘンな生物の話をするのですか、と思ったら……あ、そうか!
「なになにー? なんの……お話ですか?」
ひなちゃんが食い付いてきた……うん、ここで立ち止まって見るより……ずっといい!
「ひなちゃんとさくちゃんの知らない……花火がよく見える、取っておきの場所があるの!」
私はさくちゃんと手を繋いでいた、ひなちゃんにそう言った。
「さくちゃん、朝比奈さん……行きましょう! ここにいる みんな で!」
そして、すっかり元気になっためいちゃんが言った。 そうだよ……こうして、私とみっち
ゃん、めいちゃんにまゆちゃん、そしてひなちゃんとさくちゃんの……みんなが揃ってる!!
そうと決まれば、昨日のあの場所に向けて出発! そして、その場所まで辿り着くと……
「おーい!」
結構、人がいるけど、この草原の広さがあるから、少なく見えちゃうし……今の氷室さんみ
たいに、遠くから近付いて来る私たちに、簡単に気付けちゃうくらいです。
「けっこう……人がいますねー」
氷室さんの隣には鶴木さんもいるなぁと思ってたら、ひなちゃんがそう言った後、私たち8
人は、花火を見上げるのによさそうな場所を見付けて、私の隣にはみっちゃんとめいちゃん、
少しだけ離れた場所にひなちゃんとさくちゃんがいて、まゆちゃんはもう少し離れた所で、氷
室さんと鶴木さんと一緒にいます。それでは、お待ち兼ねの……花火大会の、始まりだよ!!
「花火って色んな形が、あるんだなぁ……」
花火と言えば、丸いだけかと思ってたけど、一言ではどんな形か言えそうにない花火も結構
上がってる……まぁ、一発と見せかけて何発も重なってるのもあるから……そりゃ、複雑な形
にもなるよね……色も赤、緑、青の他にも、ピンクや青紫、オレンジもあるし、白だって立派
な色だし……あ、ちょっと静かになったと思ったら……これは、かなり大きいのが上がったね
「今の花火……何色? 青? 緑? 赤かったようにも見えたけど……」
みっちゃんがそう言ったけど、だんだん色が変わるタイプの花火だったねー……それをどの
色だったかと言うのは厳しいなー……いやー、色んな花火がどんどん、空を彩っていくよ……
それにしても、不思議な光景だなぁ……昨夜はたくさんの星の輝きで満たされていた空が、
赤く染まったかと思うと、青だったり緑だったり……私の身体までその色になっちゃいそうな
くらい、強い光が、上空どころか、地上まで照らしているよ……花火で出来た煙が、空に残り
そこに、赤い花火が弾ければ、お空が燃えているんじゃないかって思うくらいで……その炎が
緑だったり、青紫だったりするから……本当に、別な世界を眺めてる気分になっていくよ……
それにしても、一度にたくさん打ち上げたり、一発で勝負して来たりと、次はどっちで来る
のかも楽しみで……本当に退屈しないなぁ。花火って、実際に触るとどれくらい熱いのかな?
こんなに次々と、何色もの炎を浴びて、空が火傷しちゃって、明日はちょっと跡が残ったり
しないかな? そう考えていたら、何だか身体が熱くなってきたかも……何だか、花火の傍に
いるような気分……花火が弾ける度に空に響く音が、途切れ途切れに聞こえたり、一度にたく
さん聞こえたり、それが耳を通して、頭の中に響いてきて、心地いいなぁ……
「きれい……」
聞き覚えのある声が、かすかに聞こえてきた……これは誰の声だったかなぁ?
「見たか! 新! 今のは、さすがのお前も驚いただろう! ……私もだ」
今度は男の人の声が、大きく聞こえてきたけど……すぐに花火の音がやって来た。
「ほんと……きれいですねー……」
もう本当に聞こえてるのか、分からなくなってきたなー……周りの人たちは歓声を上げてい
るはず何だけど……もう、花火の音しか聞こえない、夜空に浮かぶ花火しか、もう見えない。
また花火が打ち上がった……すごくたくさん上がったなー……今回は色は全部白かな? と
思っていたら、赤、青、緑、白、オレンジ、青紫、ピンクに……そっか、これまで上げてた色
全部使ってるんだ……あぁ、だんだん意識が遠くなっていくよ……
「えっ……すごい……」
それが最後だったのかなー、この時の私が花火の音以外で聞こえた声って……それからの私
は、まるで、自分の目の前に花火があり、何度もそれに触ろうとしては消えて行き、身体の周
りには炎のような青や緑の煙が、ピンクになったり青紫になったり、その音と熱と色を、素肌
で感じながら、色が炎となり、音が頭の中を支配する、こことは違う世界の中を、花火が終わ
るその時間まで、ずっと私は……そこで過ごしていたような感覚が、この身体に残っていた。
「るな、るーな」
みっちゃんの声が聞こえて来た……
「朧月さん。お家に着いたよ……ねぇ、そろそろ起きても、いいんじゃないかな?」
めいちゃんの声だ……え? お家?
「花火をずっと眺めて、もう終わりだなーと最後の一発が上がったと思ったら……」
「隣にいる宵空さんに、もたれかかって、かわいい寝息を立ててたよ」
みっちゃんと、めいちゃんがそう言った……あ、そっかー……私、花火が見終わった後……
「その時のるなの寝顔ったら、とっても安らかで……」
「起こさないように眺めていたら、朝比奈さんが、その寝顔を撮影して……」
あちゃー。寝顔まで撮られちゃったかー……そして引き続きみっちゃんとめいちゃんが……
「今では私の通信機器の中に画像が入ってるよ」
「そして、宵空さんがこうして、朧月さんをおんぶして、家に帰ってきました」
うんうん、みっちゃんの背中、いい乗り心地だよ! さて、だんだん目も覚めてきたし……
私は、みっちゃんの背中から降りて、こう言いました。
「それじゃあ、私のお家に入ろうか。みっちゃん、めいちゃん……今日は楽しかったね!」
そして、私たちは着替えて、めいちゃんに アレ を作るようにお願いして、下ごしらえは
出発前に済んでいるので、私とみっちゃんが、他にも何か作るか相談していると……
「今日はお客さんがよく来るね」
「まだ23時になってないけど……こんな時間に誰が来たのかな?」
玄関のチャイムが鳴った後、みっちゃんとめいちゃんがそう言って、今度は迂闊に開けない
ように、誰が来たかを周囲の映像を確認した後、私は急ぎ足で向かって、玄関のドアを開けた
「こんばんわ」
私の目の前には、青いデニムジャケットを着て、緑が多めのカーキのボトムスを着た……今
そのデニムジャケットを脱いだので、下に着ていた服も分かったけど、まずは……
「いらっしゃい! 来てくれたんだね……」
さて、こちらの女の人は、赤い薄手のキャミソールの下に、多分オレンジの半袖のシャツを
着ていて、ベージュのポニーテールで……そうだね、その女の人の名前を、言おうと思います
「まゆちゃん!!」
私は嬉しさいっぱいに、桂眉子[かつら まゆこ]こと、まゆちゃんの名前を叫びました!
「一旦家に帰って、一晩泊まってもいいようにして来たけど……ちょっと時間、遅いかな?」
まゆちゃんがそう言ったので、私は元気な声で、こんな風に答えた。
「そんなコト無いよ! まゆちゃん、お腹空いてない? 今、ちょうど何か作ろうとしてたし
昨夜めいちゃんが寝る前に作った特製のカレーも、まだ1人分くらい残ってるよ!」
すると、まゆちゃんはちょっと驚いた顔をした後、口元を緩めがら、こう言った。
「ふふ、すっかり歓迎されちゃったなぁ……じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかしら」
そして、私はまゆちゃんを、お家の中まで連れて来た後……
「みっちゃん、めいちゃん! まゆちゃんが泊まりに来たよ! めいちゃんのカレーをまゆち
ゃんにも食べて欲しいから、冷蔵庫から取って来るね!」
そして、みっちゃんが言った。
「じゃあ、新しく料理を作らないで、お鍋を温めるのにスペースを使おうか」
「それなら、もう夜も遅いし、頼まれた アレ をたくさん作るかな……どっちにしようか迷
ってたから、両方作っちゃうかな!」
めいちゃんがそう言った……うーん、あの食材が手に入らなかったのは痛いよね……
「どんなカレーかなと楽しみにしていたら、そういえば浴衣を買いに言った日に、チキンクリ
ームカレーを作りたいって言ってたよねー……さて、熱々の内にいただきますか……」
まゆちゃんがそう言った後、カレーにスプーンを入れて、柔らかくなった鶏肉を裂いた後に
ご飯と一緒に口に運んで、最初の一口を食べた。
「美味しい! バジルや他のスパイスがちょっと強めで、カレーがとってもまろやか! これ
は感動ものだなぁ……ご馳走だよ! 玉宮さん!」
まゆちゃんが満面の笑みを浮かべながら、そう言うと、 アレ を作っている、めいちゃん
が、ひょっこり顔を出して……
「昨日の夏祭りの日は色々あったけど、あたしもよく、あんな夜も遅い時間に帰って来たのに
海の家の味を再現しつつ、アレンジを加えようだ何て無茶をやって、やり遂げたよ……その時
の頑張りが、こうして桂さんまで喜ばせる事が出来たんだから……本当に報われました。あり
がとう、桂さん……こっちの料理も、そろそろ出来ますからね!」
めいちゃんがそう言ってから時間が経ち、まゆちゃんもチキンクリームカレーを食べ終わり
遂に アレ がやって来ました! めいちゃんのチキンクリームカレーのプロジェクトが行わ
れる中、秘密裏に進められていた、もう1つのプロジェクト……
「さすがに豆腐じゃ、あさりの代わりに、ならなかったけど……」
みっちゃんがそう言いかけたけど……私が欲しかったのは、朔良望[さくら のぞみ]こと
さくちゃんが、同じく海の家で注文していた、この あさりの味噌汁 ……!!
「お味噌と豆腐にネギを散らした、シンプルな味噌汁です。もう片方は、ネギの代わりにバジ
ルを使おうと考えてたのを、両方作る事になったからと、バジルをふんだんに使いました……
バジルの味しかしなかったら……失敗です」
他の場所を探せば、あさりはあったのかなぁ……でも、これはこれでいいよね!
「うーん、味がしっかりしてて、豆腐との相性もいい! それにやっぱり味噌汁は飲んでいて
落ち着くよね! まさに 日本人 って実感が持てるし……」
まゆちゃんがそう言いながら、和の心を感じていた……さて、私は目の前の……
「さて、そんな平和な味噌汁の村に送られて来た刺客! その緑色の肉体に秘められた力によ
り、もたらされるのは、破壊か!? 変革か!?」
「そこに現れた、南蛮渡来の新たなる刺客」
そんな感じで、私とみっちゃんがそう言い出して……
「次回!」
と私が言って、その続きが上手く思い付かないでいると……
「カステラ来航。豆腐がいないのならば……私が助太刀致す!」
まさかの、めいちゃん参戦! それを見ていたまゆちゃんが……
「ふふ、なぁにそれ? お豆腐がないから、代わりにカステラを入れちゃうって事かな?」
そんな風に、少し笑いながら言ったまゆちゃんでしたが、ここで私が決め台詞!!
「南蛮インパクトだよ! 地球に向かって、巨大なカステラが接近して来るよ!」
さて、そうやって食事も終わり、後片付けも済んで、後は……
「とりあえず、私が床で寝る事も考えてるけど……」
まゆちゃんが、牛柄の黒を明るめのビリジアンに置き換えた、白地のパジャマ姿で言った。
「4人並んで寝ても大丈夫! 私のお家のベッドは大きいんだよー!」
私は両手を広げながら、そう言った。すると、みっちゃんが……
「そうなると、誰がどの順番で寝るか……迷っちゃうね」
その件で、みんなが少し悩み始めてると……
「そうだ! クジ引きで決めちゃいましょう! あたし、作ってきます!」
そう言っためいちゃんは10分足らずで、クジを作ってしまいました。番号が書いてるみたい
「んじゃ、私から……3番引いた」
「ほいっと……1番。左から順だっけ?」
私とみっちゃんは離れ離れ確定……でも、今日くらい、いいよね?
「では私も……4番だった」
「そうなると、あたしは2番だね」
そういうわけで、左から順に、みっちゃん、めいちゃん、私、まゆちゃんの順番で、みんな
一緒のベッドで寝る事が決まりました!
「今夜も宵空さんと朧月さんに、挟まれる事になっちゃったね」
めいちゃんがそう言った。ふっふっふー……今日も挟むよー!!
「もう零時を過ぎちゃったけど、夏休み最後の日曜日……昨日も含めて、とっても素敵な土日
になったなー……朧月さん、宵空さん、玉宮さん。本当に誘ってくれて……ありがとう」
まゆちゃんがそう言った……提案した、めいちゃんには本当に感謝だねー。
「明日は何時に起きようかなー」
私がふらりとそんなコト言ったら、みっちゃんがこう言った。
「こうやって、明日の朝を気にせず寝られるのも、あと数日……」
そして、めいちゃんが言った。
「本当に充実した、夢でもこんなに素敵な思いが味わえないってくらい、思いっ切り楽しめた
夏休みだったなぁ……本当に、 来てよかったぁ ……今では心の底から、そう思ってるよ」
めいちゃんがそう言い終わった後、まゆちゃんも続けて言った。
「来てよかったと言えば、おんぶで運ばれてる朧月さんを眺めながら、一緒に帰ろうって、言
い出せなくて、それでも、急いで帰って支度をして、今じゃすっかり、朧月さんのお家で、こ
んなに楽しい時間を過ごしてる……私も今夜、ここに来てよかったなぁ……」
まゆちゃんも言い終わったし、私からも……
「 いつの間にか夏休みになってた けど、本当に色んなコトがあったよ……色んな人たちと
色んなコトして、色んな所で遊んだなぁ……」
ここで、みっちゃんから一言。
「それじゃ。みんな、おやすみ……楽しい夏休みだったよ」
うんうん、それじゃここらで……
「それでは、私、朧月瑠鳴[おぼろづき るな]が皆様を代表しまして、宣言を致します!」
私は少しだけ深呼吸をして、大声にならないように息を吐き出した後、こう発言しました。
「おやすみなさーい」
明日は、お昼過ぎまで寝ちゃおうかなー、早起きしてみんなに、ちょっとイタズラするとい
うのもアリかも……うーん、迷っちゃうなぁ。ではでは、寝るとしますか。