朧月瑠鳴(前編)
第三章 あかつき
一日目
「はぁ……」
学校に行けばクラスのみんながいるけど……こうやって、学校に着くまでの1人で歩き続け
てる時間って……いい気分じゃないなー。そう思いながら、私が溜め息を吐いていると、内の
高校と同じ制服を着た、女の子を見かけた。このまま誰とも会わずに、ずっと寂しい時間を過
ごすコトになるのかなと、すっかり落ち込んでいたから、私は急に嬉しくなってしまったかな
「おはようございます!」
だから私は、その人に元気よく挨拶した。でもねー、その人は初めて会う人で、私のコト何
て全然知らないもんだから、こっちを向いてビックリしただけだったよ……だけどね、こんな
風に 誰かと挨拶が出来た ……それだけでも私は嬉しいんだ……ありがとう、名前も知らな
い内の高校の女の人、おかげで今日一日、元気いっぱいに過ごすコトが出来たよ。
さて、明日は日曜日……どうやって過ごそうかなー。
三日目
通信機器でネットに接続し、私はローカルのニュースサイトを開きながら、ネットに流出し
た画像を見ていた。どうも二日前の土曜日の夜から、内の高校の生徒が行方不明になっていて
こうして遺体も発見され、今見てるのはその生徒の無残な死体……何これ、お腹から上の部分
がきれいに無くなってる……切り口を拡大した画像もあったけど……結構グチャグチャに潰れ
てて、教室のみんなは、大きなハサミとか使ったんじゃあと言ってたけど……こんな切り口に
なるハサミってあるのかなぁ? さて、こんな画像を見たもんだから、今はとても気分が悪い
よ……マスコミの人からの取材も、何を聞かれてどう答えたのか覚えてない……とりあえず私
は、今回亡くなった生徒の顔写真を眺めてる。だって、この人……
「二日前の土曜日に、会った人だよね……」
私が実際に、そう声に出してたかどうか分かんないけど、この顔はあの時、驚かせちゃった
女の人と同じ……とにかく、とっても気分が悪いです。あーあ、何かいいコトないかなぁ……
四日目
昨日からまた、内の高校の生徒が行方不明になったって聞いたけど、教室のみんなは早くも
連続殺人事件 だ、とか言ってる……またお腹の上の部分が無くなってる状態で遺体が発見
されたら、確かにそうなるけど……あと、今回は知らない人じゃない。行方不明になってるの
は玉宮涼[たまみや りょう]という男子生徒。クラスメートの中にその妹がいるんだよ……
もう、サイアク。何なの……何で最近になって悪いコトばかり起こるの! これから、悪い
コトしか起こらないの!? そんなサイアクな気分で、学校から帰っていると……内の高校の
制服を着た人が、何か ヘンなの に頭から食べられている光景が目の前に飛び込んで来た。
「え……?」
私は、内の高校のスカートを履いた、誰かの下半身が、その 赤黒いヘンなの の大きな口
の中に飲み込まれて行く様を見せ付けられたかと思うと、その ヘンなの は人間の歯と歯茎
の生えた口の部分が、楕円形の球体みたいな胴体の半分以上あり、その身体の一部をボトボト
と落としながら、私の方を向いたと思ったら……何か、身体の中から、新しく足を出したり引
っ込めたりしながら、こっちに向かって来た……あ、これ逃げないとダメだね。
というわけで今、私は走ってます。とりあえず真っ直ぐ走ってます。まるで短距離走だねー
何だか思い出すなぁ……クラスでトップとまでは行かなかったけど、結構いい順位で……ゴ
ールしたはいいけど、そのまま転んじゃったんだよね。あれは痛かったなー……
あれ? 私、何でこんなに一生懸命走ってるんだっけ? 学校終わったよね? とりあえず
後ろを振り向いてみようか……すると、私は ヘンなの が後ろで身体の一部をボトボトと道
に落としながら、私を追い掛けて来ていて、少しは引き離せたのか……その 身体は小さく見
えた 。うん、このまま走り続けよう……でも、もしも追い付かれたら、どうなるんだろう?
いや、簡単だよ。私もあの大きな口で、上からバクッ! と食べられちゃう。土曜日に会っ
た、あの女の人みたいに、さっき食べられてた誰とも知らない、女の人みたいに、私も……
え? 何それ、イヤだよ。イヤだよ……何で食べられなきゃいけないの……そもそも何なの
さ アレ ? 何で内の高校の生徒ばかり狙うの? 高生好きなの? 嫌いな食べ物あるの?
実は人間を食べるの苦手だから、今は修行の真っ最中なの? 悟りを開くの? そんなコト
を考えながら走っていると、私の目からは涙が滲んでいた……目にゴミでも入ったのかな?
そう思っていると――
「わ」
私は、誰かとぶつかって、その人は驚いて声を出したみたいで……とりあえず、私は起き上
がり、その人の方を向き、口を開いた……いきなりぶつかったんだから、最初はこれだよね。
「ご、ごめんなさい!」
私は目の前の、背が結構高くて、髪もかなり長くて黒髪で、内の高校の制服を着てて……
「怪我、してない?」
あー、よく見たら同じクラスの人だよ……宵空満[よいぞら みちる]。この低めの落ち着
いた声は、何度聞いても心地いいなぁ……一日中、この声を聞いてるのもアリかも。
「だ、大丈夫! だと……思う! います!」
私は焦って、そんな風に言っちゃったけど、名前がみちるだから…… みっちゃん だね。
「……何か、辛い事あった?」
みっちゃんにそう言われて私は、目から涙を流してるコトに気付いた。それに気付いたら、
何か、どんどん涙が溢れて来て……泣きたくて、叫びたくて、そんな気持ちになったから……
私はもう、そのまま泣いちゃった。たくさんたくさん、泣いちゃった。その間、みっちゃん
は私を抱き抱えて、その抑えてる手で頭をなでてくれて……どれくらい泣いていたか、分から
ないけど、その間、みっちゃんは、ずっと、そうしていてくれた……
「落ち着いた? もう1人で帰れる?」
私が泣き止んだのを見て、みっちゃんはそう言った。それに対して私は……
「1人で帰れるけど……」
そう言いながら私は、みっちゃんの背中に手を回して抱き付いて、それにみっちゃんは戸惑
ってるみたい……そして私は、上目遣いでみっちゃんに顔を向けながら、こう言った。
「1人で帰りたくない……」
もっと、みっちゃんの声を聞いていたい。みっちゃんの肌のぬくもりをもっと感じていたい
みっちゃんがいつも傍にいてくれるなら、どんなに怖いコトがあっても、すぐ忘れちゃう……
そんな気がしたから、その日はみっちゃんを、私のお家に連れて帰るコトになりました。
六日目
朝、私が目を覚まして、少し顔を横に向けると……そこにはみっちゃんの寝顔があった。
みっちゃんはあの日から、私が寝る時も一緒に過ごしてくれる、いつも傍にいてくれる……
だからもう、それだけで私は、今日一日を元気いっぱいで過ごすコトが出来るんだ……
というわけで、おはようございます! わたくし、朧月瑠鳴[おぼろづき るな]! 朧月
瑠鳴でございます! 本日はみっちゃんと一緒に学校に登校し、授業も終わり帰ろうと思いま
したところ、あそこに見えますのはクラスメートの玉宮明[たまみや めい]! そのピンク
色のツインテールが可愛い女の子、玉宮明でございます! 早速、挨拶して参りましょう!
「あ、めいちゃん!」
あーっと! しかしここで、玉宮選手は私を華麗にスルー! スルーでございます! 確か
に未だに行方知れずである、兄の玉宮涼に関する情報集めに忙しく、私なんぞに構ってる状況
では無いのかもしれません……とりあえず、また明日、声かけてみようっと。
八日目
「あれ? めいちゃんもう帰るの?」
お昼休みになったから、今朝みっちゃんと一緒に作った、お弁当を食べようとしていたら、
めいちゃんが、荷物を持って帰ろうとしてたので、私はそう聞いてみた。
「注文してた荷物が、そろそろ家に届く頃だから。この昼休みの間に取りに行くの。中身を確
認しても、授業が始まる頃には戻って来れるし……そういうわけで、行ってきます!」
めいちゃんがそう答え、教室から出ようとしたので、私は元気よく叫んだ。
「めいちゃん行ってらっしゃーい!」
めいちゃんがいなくなった後も、私が最初の勢いに任せて手をブンブン振っていると……
「玉宮さん。お兄さんが未だに行方不明で、色々と辛そうだけど……一応、元気みたいだね」
クラスメートの桂眉子[かつら まゆこ]こと、まゆちゃんがそう言った。
「でも、あれから犠牲者は増える一方……いつまで、続くのかな」
私の隣にいたみっちゃんが、そんなコトを言っちゃった……ダメだよ、みっちゃん! そん
な、くらーい話しちゃあ……それに明日は日曜日なんだから、何か楽しいコト、考えようよ!
んー……でも、どんなコト考えるのがいいかなー……
九日目
今が何時かは分からない……でも、私の身体が……今が朝だと叫んでいる! そして、今日
をどんな風に過ごすのか、本当についさっきだけど……思い付いちゃった! 凄い! 何これ
天啓!? 突然、頭の中に 直接送られて来た かのように浮かんできた! とにかく、こう
しちゃいられない! 私は、隣で寝ているみっちゃんに両手を当てて……
「みっちゃん、みっちゃん」
ゆっさゆっさと、その身体を揺さぶると、みっちゃんはすぐに起きてくれて、こう言った。
「うーん……どうしたの? るなぁ……」
あぁ、今日もみっちゃんの声で一日が始まる……寝ぼけた顔もたまらなくかわいい……こん
な素敵な寝顔を、朝から独り占め出来るなんて……私は何て幸せ者なんだろう……と、そうそ
う、これを言うんだったね! 私はみっちゃんに向かって叫んだ。
「ショッピングだよ、みっちゃん! 今日はショピングに行こう!」
そう、友達みんなを誘ってショッピング! それがさっき、 突然、思い付いた コト。
「うん、行こう。それにしても急だね」
みっちゃんは、そう言いながら、笑みを浮かべていた……これは、このまま拝むしか無い!
「あ、そうだ!」
そう言うと私は、通信機器を取り出し、通話を掛けた……まずはめいちゃんを誘おうっと!
「ショッピングかぁ……今日はいい天気だし、家にいるのも勿体無いよね……そうだね、行こ
っか! それにしても、随分と急ですねー」
ショッピングのコトを伝えると、通話に出ためいちゃんはそう言ったので、私はこう答えた
「うん! 今日になったら何か突然、思い付いたの!」
場所は、この街一番の大型ストア。待ち合わせの場所と時間も伝えたし……次は、まゆちゃ
んだね! 友達みんなを誘うんだ! そして私は、まゆちゃんに通話を掛けた……
「はい」
まゆちゃん出た! それでは行ってみましょう!
「まゆちゃん! 今日はいい天気だよ! ショッピングに行こう!」
私がそうやって、まゆちゃんに元気よく言うと、まゆちゃんは……あれ? 何か、返事が無
い? あれ? 私、声小さかった? 聞き取れなかった? そう私が思っていると……
「朧月……さん?」
あ、よかった! 聞こえてた! もうー、酷いなーまゆちゃん。もしかしてこれって タメ
グチ ってやつかな? とりあえず、私はこう答えた。
「はい! あなたのアイドル、有明高校に咲く一輪の星! 朧月瑠鳴です!」
テンション上がって、何か言っちゃったけど……まゆちゃんはこの後、こう言いました。
「ごめんなさい……今日中に終わらせたい事があるの。誘ってくれたのは嬉しいけど……今回
は、行けません。また、同じ様な機会があったら、声を掛けてください」
うーん、残念。でもみっちゃんも入れて3人だから、十分賑やかだよね! それにしても、
まゆちゃん元気なかったなぁ……何だか、 違う人と話してる みたいだったよ……
というわけで今、私とみっちゃんは、大型ストアの待ち合わせ場所に来ています!!
服装ですが、私が涼しい青色のワンピースに白い上着を羽織って、この自慢の長い髪と金髪
の輝きがほとばしり、ストア内を全体攻撃する! そんで、みっちゃんの服装は青い……パン
ツ? レギンス? もうボトムスでいいや! 青いボトムスを履いて、灰色のフード付きパー
カーを着ています……さて、間もなく待ち合わせ時間になろうとしていると……遠くにいたか
と思えば、だんだんとこちらに近付いて来ます、あの人影は……
「あ、めいちゃん来た! 時間ぴったり!」
めいちゃんは、白のチェック模様の入ったピンクのスカートに、ライムグリーンのブラウス
と、肩に羽織ってるショールは……ココア色でいいのかな? これに、めいちゃんのピンクの
ツインテールが合わさり、おっしゃれー! おっと、ここでみっちゃんが言いました。
「今日はよろしく」
こうして、めいちゃんが来るまでの、私とみっちゃんの二人切りの空間は、1時間と言う短
い歴史の中で滅亡したのであった……さてここで私が、ここから見える広告に指を向けて……
「あのクレープ、美味しそう!」
私は思わず、そう叫んでいた。そして、他に案も無かったので、私たちはまず、クレープを
食べるコトになり、とりあえず私はさっきの、のぼり広告と同じのを注文して、めいちゃんは
苺アイスが入ったの、みっちゃんはチョコレートが入ったの、そして、私が食べ終えると……
「口にクリーム。付いてるよ」
みっちゃんがそう言いながら、手を伸ばして、私の口の周りに付いたクリームを、ハンカチ
で優しく拭き取ってくれた。あぁ、幸せだなぁ……そんな気分に浸っていると……
「それにしても怖いね。最近の連続殺人事件……日が経つ毎に犠牲者もどんどん増えてる……
もしかしたら、私たちも……」
みっちゃーーん……? 何でそんなコト言うのかな? 昨日も言ってたよね……私と二人切
りの時はそんなコト言わないのに、どうして 他に誰かいると 、そう言うコト言うのかな?
とにかく、そんなみっちゃんには、ちょっと物申さないといけませんね……
「もー! みっちゃんってば! 今日はそういうのナシ! せっかくみんなでショッピングに
来てるんだから……」
私はみっちゃんに、そう言った後、テーブルに乗せてた両腕を広げながら……
「いーっぱい、楽しまないと!」
私は、そこに何か大きなものがあるよ、みたいな感じで腕をバンザイとしながら、みっちゃ
んにそう言った。すると、みっちゃんが……
「そ、そうだね……じゃあ、次は可愛いアクセサリーでも探しに……」
みっちゃんが、そう言い始めたかと思うと、私の方に顔を向けた後……
「行こっか」
今朝見せたのと、引けを取らないほどの輝きを放つ、そんな微笑みを浮かべながら、言った
私が心の中で、そのご尊顔を拝んだ後……私たち3人は小物売場に来ていました。
「んー……こんなにあると迷っちゃうよ……みっちゃんどうしよう? ……あれ?」
私がそう言いながら、みっちゃんに話しかけようと振り向くと、そこには誰もいなかった。
「みっちゃん……?」
みっちゃんがいない、みっちゃんがいない、私の隣にみっちゃんがいない。これは事件だ。
この世に世界七不思議というのがあるのなら、これは世界みっちゃん不思議! え!? さ
っきまで、いたよね!? ここに! 隣に!! え? みっちゃん……どこ!? すると……
「るーなっ」
みっちゃんいた! これは今世紀最大の発見! 人類は更なる飛躍と発展を遂げ、文明は新
たな産業革命を迎え、後に人はこれをみっちゃん……あれ? みっちゃんの髪に……
「なーに? みっちゃん? その髪飾りどうしたの? 青いお花が咲いてるね!」
私がみっちゃんの銀色の髪飾りを見ながら、そう言ってると……
「はい。るなのは赤い花だよ」
みっちゃんは、銀色の髪飾りに、赤いお花が咲いてるのを取り出したかと思うと、クセ毛で
かなり巻き気味になってる、私の長い金髪に付けてくれた。え? これって、つまり……
「わーい! みっちゃんと、おそろい! おそろい!」
これは嬉しい! これは喜ぶ! やったね、みっちゃん! いやー、身体が勝手に動いちゃ
うよ……コアラみたいに、ピョンピョン飛び跳ねちゃう! あれ? コアラでよかったよね?
それから、どのくらい飛び跳ねたのだろうか……めいちゃんの目的地である雑貨屋さんに到
着! めいちゃん、魔法瓶欲しいって言ってたもんねー……そして、めいちゃんはさっき買っ
たばかりのピンクのバッグに魔法瓶を次々と入れて……3本、4本……あれ? 多くない?
そこで私は、その様子を眺めながら、めいちゃんに聞いてみた。
「そんなに魔法瓶たくさん買って、何に使うの?」
すると、めいちゃんがこう答えた。
「これから来るんだよ……魔法瓶の波が……!!」
な、なんだってーーー!!???
「な、波が……!?」
そうか……そうだったんだ! 来るんだ! これから……魔法瓶が! 波が! それなら、
私から言うコトは何も無いよ、めいちゃん……思う存分、魔法瓶を買っちゃおう!!
そんなコトしてると、みっちゃんも何か、色んなサイズの鍋とかをカゴに入れて、レジの前
に立ってた……何でそんなに金属ばかり、と思ったので、ちょっと聞いてみると……
「攻防一体」
みっちゃんはそう答えるだけだった……んー、お鍋の魔神とか召喚するのかなぁ?
さて、私たち3人が、次はどこへ行こうかと考えていると……
「今のは……男性の悲鳴!?」
「女の人の声も、聞こえた……」
めいちゃんとみっちゃんが言ってる通り、ストアのあちこちから、男女入り混じった悲鳴が
聞こえてきた。え? どういう、コト……? そして、私たちが中央の広場まで来ると……
なぁに? なに? これ、何……なの、さ。
前を見ようか。男の人が五日前に見た ヘンなの に頭から食べられているよ?
後ろを見てみようか。子連れのお母さんが、ママーと大きな声で叫んでいる子供の目の前で
返り血ってヤツかな? その ヘンなの が食べてる物を、辺りに撒き散らすもんだから、子
供の顔や服が、だんだん赤くなっていくよ……食事のマナーがなってないなぁ……それで、さ
これ、何? この大きな口の付いた、黒いの……何? 何で……いるの?
「みっちゃん……あ、あれ……」
いや、本当に何なのさ。身体が赤黒くて全身がドロドロしていたり、そんなに身体がドロド
ロしてない紫色のもいるけどさ……え、何? これから私も、みっちゃんも、めいちゃんも、
あの ヘンなの に食べられちゃうってコト?
「るな……」
あ、この感触は……みっちゃんだ。みっちゃんが、私を後ろから抱きしめてる……みっちゃ
ん、あったかい……あったかいけど私、こわいよ、みっちゃん。これ、どうすればいいの?
こわいよ、身体が震えるよ……目の前が暗くなっていくよ……血が垂れるように、視界が赤
く染まっていくような感じがするよ……いやー、何だか世界が真っ赤だねー。あははは……
「ふ、二手に分かれよう! あたしは1人で、朧月さんと宵空さんが2人で!」
めいちゃんが、そう叫んだ瞬間、目の前は明るくなり、そのまま気を失いそうだった、私の
意識はハッキリしたものになった。せっかく、みっちゃんが心配して、後ろから抱きしめてく
れてたのに……私、何やってたんだろ……ごめんね、みっちゃん……
「わ、わかった! 行こう、みっちゃん!」
私はそう返事すると、みっちゃんと手を繋ぎ、走り出そうと……あれ? でもさ……
「ど、どっちに逃げよう!」
私、今どこにいるんだっけ? 目の前には曲がり角も結構あるし、 ヘンなの もどこに行
ってもいそうだし……え? あれ? どうしよう? 私、どっちに逃げればいいの……私がそ
う思っていると、急に誰かに……んーん、みっちゃんに腕を掴まれて、走り始めていた。
「こっち……に!」
そうだよ……私にはみっちゃんがいるんだ、みっちゃんが……いてくれる。みっちゃんが、
傍にいる。それだけで、こわいコトも、イヤなコトも……みっちゃんがいるから、その内みー
んな忘れちゃう……ところでね、みっちゃん。早速、そこの曲がり角から ヘンなの が飛び
出して来たけど……えーと、どうしようか、コレ?
「宵空さん……!!」
めいちゃんが叫んだ。みっちゃんは……さっき買い物で貰った袋の中から……黒くて何か、
先が平べったくて丸い……あ、フライパンだこれ。フライパンを取り出して、出会い頭に ヘ
ンなの のおでこに、そのフライパンを叩き付けた。あー、何かその ヘンなの が、悲鳴と
言うか唸り声と言うか……とにかく、不気味な声を上げて、動きがちょっと止まった。
そして、その隙に私とみっちゃんは、 ヘンなの から離れて行こうとしたら……あ、動き
始めた。また動きが止まってくれないかなー……と、思っていたら……
「えいっ!」
めいちゃんが自販機の傍で、 ヘンなの に何か物を投げ付けてた。自販機から出て来た缶
を、そのまま投げてるみたいだけど、もう1個投げてそうな頃には、私とみっちゃんは ヘン
なの から離れる事が出来て、その後やっとストアの出入口が見えた、と思ったら……
「お約束……かな」
そのストアの出入口には、まさに赤黒い色の ヘンなの がいた。その全身からたくさんの
赤い煙を噴き出しては、身体から肉片をどんどん床に落としている……みっちゃんの言う通り
ゲームの脱出イベントの出口で、お決まりのように待ち構えている……ボスだね、これは。
「みっちゃん……」
私がみっちゃんにそう言ってると、みっちゃんの口が開いた。
「左右に跳ぶよ……るな!」
赤いボスは私とみっちゃんの姿を見ると、向かって来た。その間も身体の一部を次々と床に
落としながら……しかし確実に向かって来た……そうだね、跳ぼうか! みっちゃん!!
私とみっちゃんが、左右に跳んで、その赤いボスの突進をかわし、そのまま合流し、出入口
から出ようとしたら、自動ドアが壊れてました、とかいう展開も無く、帰り道で別な ヘンな
の と出くわすイベントにも遭わず、私とみっちゃんは無事、私のお家まで辿り着きました。
「怪我はない……るな?」
みっちゃんはそう言ってくれたし、そう言えば怪我してないなって気付いたから……
「大丈夫! みっちゃんは……?」
そう言うみっちゃんはどうなのかな……
「私も……怪我、してないね」
それを聞いて安心したのか、あたしのお腹がキュートな音色を奏でて、自らの空腹を主張し
始めた……そういえば、ショッピング中に食べたのってクレープだけだよ……
「昨日のお弁当を作った時の残りで……サンドイッチでも作ろうか」
みっちゃんがそう言ったので、冷蔵庫からジュースを探そうとしたんだけど……
「どうかした?」
アップル、ピーチ、オレンジと並ぶ中、メロンソーダと間違えて買ってきた……
「ま、抹茶ソーダ……」
抹茶アイスなら結構食べてる……あんみつもあったらテンション上がる……んー、でも……
「いい加減、試してみる? 飲んだら美味しいかもよ」
結局、アップルジュースにした後、みっちゃんの作ったサンドイッチも食べ終わった頃……
「学校に……無事だって、連絡した方がいいかな」
みっちゃんがそう言ったけど……学校からクラスメートという言葉を連想し、私は叫んだ。
「そういえば……めいちゃんは!?」
気が付くと私は、めいちゃんに通話を掛けていた、めいちゃん……無事だよね?
「もしもし? 朧月さん?」
めいちゃんは、すぐ出てくれた。それでも心配だった……叫ばずにはいられなかった……
「めいちゃん!! 大丈夫!? 生きてる!?」
私がそう叫び終わると、めいちゃんは言った。
「大丈夫だよ。怪我もしていないし……ねぇ、宵空さんは、あの後どうなったか分かる?」
めいちゃんがそう言い終えると、隣にいたみっちゃんが通話に出て……
「私も、大丈夫。今日は……ビックリした……あんなの、が……いる、何て……」
それから学校に、私とみっちゃんとめいちゃんが無事なコトとか連絡した後……
「今日は疲れたねー。寝ようか、みっちゃん」
そして、気が付けばすっかり夜……やっぱり夜は、お布団とみっちゃんに限る……
「明日は朝、起きれるか心配……本当に疲れたよ。おやすみ、るな」
そうして、いつものように。私とみっちゃんは、一緒のベッドと一緒のお布団で寝ました。
最終日
「玉宮さん、今日は学校休んじゃったんだね……」
教室で、ベージュの長いポニーテールをしてる、まゆちゃんがそう言った。
「無理もないよ……私だって、こうして生きてるのが不思議なくらいで……」
「結構買い物をして、荷物も重かったのに……よく逃げ切れたよ……」
私に続き、みっちゃんもそう言った後、まゆちゃんが何やら尋ねてきた。
「そう言えば、ね。そのヘンな化物が出てる時に、内の高校の生徒を、他に見かけなかった?
特に、 目の前で消えたり 、 さっき遠くに行ったと思ってた人が、またすぐ近くに現れ
たり ……ヘンな質問だけど、これを聞いておけって、昨日から、うるさくってさー……」
まゆちゃんが、本当にヘンな質問をして来た……んー、でも私から言えるコトは……
「あんな状況じゃあ。アリもしない幻覚とか見ちゃうよ……実際、目の前が赤く見えたし」
ちょっと気分が悪くなったけど、今朝みっちゃんと作ったお弁当があるから、大丈夫!
そして、お昼休みの時、みっちゃんといつものように、お弁当を半分こ、していると……
「そういえば、家の食糧、もう無かったね……昨日買い損ねたし……」
みっちゃんがそう言ったので、私も聞いた。
「みっちゃんの家の方は大丈夫?」
私は、胡椒のきいたタコさんウィンナーを食べながら、そう言った。
「食糧なら、こないだ一緒に運び込んだから、大丈夫だよ……でも、昨日買った鍋も、家に運
んでおきたいかな……ちょっと留守に、し過ぎちゃったか」
みっちゃんからその話を聞いた私は、こんな提案をした。
「じゃあ……今日は、みっちゃん家に泊まろう!」
そして、みっちゃんはこんな返事をした。
「うん。枕も布団も、同じのを用意してあるし……そうしよっか」
そんな会話をしながら、お弁当を食べ終えたら、お昼休みが終わるまで、まだ時間があった
「めいちゃん、どうしてるかなー」
ぼんやりと私は言った。
「ショックが取れなくて、学校を休んでるんだから……寝込んでるのかな」
近くにいたまゆちゃんも、同じ様にぼんやりと言った。それなら元気出して欲しいなー……
「カケル。こないだ貸して貰った本、返すよ」
「おぉ! 読み終わったか! どうだアラタ? 面白かったか?」
「悪い。辞書引かないと、意味すら分からん漢字だらけで挫折したわ」
「むむぅ……やはり、貴様はスポーツの方が、性に合っているのか……」
そんな声が聞こえる中、私はふと、あるアイデアが浮かんだ。
「そうだ……!」
そして、そのまま続けて、私はこう言った。
「みっちゃん! まゆちゃん! こっち来て!」
そして私は、みっちゃんとまゆちゃんに、そのアイデアを話した。
「3人でヘン顔をして……玉宮さんに、それを送る……?」
まゆちゃんが、そうは言われても、という顔をし、みっちゃんもこう言った。
「うーん、どうなのかなー……それ」
しかし、私の決意は変わらない! そうと決まれば……
「思い立ったら、行動あるのみだよ! ほら、ヘン顔じゃなくてもいいから! 表情そのまま
でピースして、映るだけでもいいから! それじゃあ、撮るよー!」
さぁ、通信機器は撮影モード……もう逃げられないよ。
「え、えっと……」
「こ、こう……?」
撮影が終わったので、中身を見ずに、その画像を送信! めいちゃん元気に、なーれ!
そして、3人で送った画像を確認すると……
「るな……こんな顔も出来たんだね……」
「うーん、やっぱり、私……表情間に合ってなかった」
みっちゃんとまゆちゃんが、そう言ってから、少し経って……
「めいちゃんから、返信来た!」
私がみっちゃんとまゆちゃんの前で、そのメッセージ内容を開くと、そこには……
「ありがとう……少しは気分が軽くなったよ……また、みんなで買い物に行こうね!」
よかった! めいちゃん、ちょっとだけど元気になったよ!
「やったね……るな」
みっちゃんがそう言いながら、またもや、スターダストな微笑みスマイルを放っていた。
「昨日は都合が悪くて断っちゃったけど……次があれば、ちゃんと行こうかな……」
まゆちゃんが、そう言った途端、授業のチャイムが鳴り、昼休みは終わっちゃった。
七月三十一日
気が付けば、夏休み最初の日曜日。天気がいいけど、やっぱり暑いね……とりあえず今日は
だらだらと、みっちゃんと夏休みの宿題……合ってるかどうかわかんないけど、解答欄を埋め
ておけば、何とかなるでしょう……あー……暑い。ここで私はみっちゃんに言った。
「ねぇ、みっちゃん」
みっちゃんはブラも付けずに薄着して汗だくになって、黒いシャツじゃなかったら、見える
んじゃ無いかってくらい汗かいてるけど、何とか唸りながら返事をしてくれた。
「うーん……なぁに?」
暑いよ……暑いけど、とりあえず私は口を開き、こう言った。
「今度、風鈴買いに行かない? 団扇も買って……その音を聞きながらさ……汗をかいた身体
を団扇でパタパタと扇ぐの……それにしても暑いねー……」
あぁ、もう暑いよ、私も汗でベタベタ、ブラ外してしまおうかなー……シャツが身体にベッ
タリと付いてる……あー、気持ち悪い……とりあえず、この日は、私もみっちゃんも、あまり
にも汗をかいたので、2人でお風呂に入って身体の汗を流し、その後、寝てしまいました。
八月四日
家の中にいてもしょうがない。私の家で過ごそうが、みっちゃんの家で過ごそうが、暑いも
のは暑い! というわけで今日はみっちゃんと一緒に、適当にお散歩です。こないだ風鈴と一
緒に買った麦藁帽子に、青いワンピースを着てるのが私で、グレーのティーシャツと黒っぽい
ボトムスに、黒いフード付きパーカーを着て、この全世界の夏の暑さを一手に引き受けるかの
ように隣にいるのがみっちゃんです。きっと今、世界中が暑いんだろうなー……南極とか地球
の一番南側何だから、今頃はシロクマさんたちも、あんな厚い毛皮着てるからバテバテで……
いや案外、チェアに寝そべってサングラスかけて、夏を満喫してたりするのかも……
そんなコトを考えていると、目の前に、黄色のスカートの柄がまさに南国って感じで、赤い
キャミソールを着ている女の人が近付いて来て……えーと、キャミソールの赤さを差し引けば
フリル部分が水色の、白いブラジャーをしてる……いやー、夏だねー……
「あ、まゆちゃん!」
とりあえず私は、そんな夏の暑さがそうさせたのか、新しいファッションを模索中なのか、
スカートは履いてるものの、ほとんどブラジャーだけ着て歩いているような、クラスメートの
桂眉子[かつら まゆこ]こと、まゆちゃんに挨拶をしました。
「シースルー……マイブームなのかな?」
私に続いて、みっちゃんがまゆちゃんにそう言った……まゆちゃん。それがまゆちゃんの今
年の夏のファッションだというなら止めはしないよ……夏は人間の中に宿る内なる力が解放さ
れるって言うし……でも、それ以上はさすがにどうかと思う……かな?
「え?」
ぼんやりとした表情で歩いていた、まゆちゃんが、私たちに気付く。そこで私が言った……
「ブラ……ばっちり見えちゃってるよ……まゆちゃんってば、だいたーーん!!」
私がそう言うと、まゆちゃんの顔がどんどん赤くなって、恥ずかしさで身体が震え始めたと
思ってたら、何か叫び始めたみたい。
「え、え? えーーーーー!!!??」
あー、気付いてなかったんだ……まゆちゃん、これもまた、ひと夏の1ページだよ……
「ど、ど、ど、どうしよう! 朧月さん!!」
そして、まゆちゃんが私に、どうしようと聞いてきた……どうしよう? この後、どうする
かって? そうだねー、こんな暑い日は、冷え冷えの食べ物を食べたいねー。そうなると……
ここで、私は腕を振り上げた……やっぱり、夏の暑い日と言えば……コレだよね!
「かき氷、食べよう!」
そうそう、夏と言えばかき氷! かき氷だよ! この時期だと、あのカフェでも扱ってるし
そこに行こうか、まゆちゃん! ふっふふー……あまりの当たり前の提案に、圧倒されるしか
ないという表情をしてるね? そうだよ、まゆちゃん。夏の暑い日にかき氷は、この世界、つ
まり、全宇宙の真理何だよ! かき氷を食べると言うコトは、全宇宙を制するというコト!!
というわけで、私とみっちゃんの目の前にはハニーミルクソースかき氷があります。まゆち
ゃんはトロピカルマンゴーソースかき氷で、その南国柄のスカートと一緒に見れば、とっても
トロピカル! あ、あのスケスケの赤いキャミソールの上には、さっきみっちゃんが雑貨屋さ
んで買った、えんじ色のジャケットを被せてるから、応急処置もバッチリ! それじゃあ……
「はい、あーん」
みっちゃんが、かき氷をスプーンですくってくれたので、それを私が食べる! みっちゃん
もそのスプーンである程度食べたら、また私にあーんしてくれて、それを私が食べる! この
ちょっと大きめサイズのかき氷も……2人掛かりで食べてしまえば、どうというコトはない!
そして遂に、ハニーミルクソースかき氷は今や器だけとなり、長かった戦いは終わった……
そう、誰もが思っていた……しかし、その時だった!! みっちゃんは口を開き、言った。
「すみません。抹茶あんみつかき氷、ひとつ」
そう、まだ戦いは終わっていなかった、東洋の大陸で、まだ抹茶あんみつかき氷が息を潜め
誰もが平和を確信した世界で、今まさに、牙をむこうとしていた! ……何て考えていると。
「そう言えばね、こないだヘンな化物がいっぱい出て来た事あったよね。その時にね、内の高
校の生徒かな? 何か目の前で消えちゃった気がしたんだよねー……」
まゆちゃんが、そんなコト言い出した……それって、いつかのショッピングの時の話かな?
「あー……あの時かぁ。結局アレ、なんだったんだろう」
みっちゃんも同じコトを思ったのか、そう答えていた……そして私も言った。
「あの時、食べられちゃっても、おかしくなかったんだよね……生きてて、よかったよ……」
私は、あの ヘンなの に、目の前で誰かが食べられている光景を思い出し始めていた……
「宵空さん朧月さん、その化物と実際に会ったんだよね? どうやって対処したのかな……」
「何か投げ付けるなり、ぶつけるなりすれば、少しは動きが止まるけど……あの時は、前にも
後ろにも、そういうのがいたりする状況だったから……」
まゆちゃんとみっちゃんのそんな声が聞こえて来た気がするけど……私は、目の前で ヘン
なの が、誰かを頭から食べて、飲み込んだ後のバリボリとした、人の骨が砕ける音まで聞こ
え始めていた……だんだん、目の前が暗くなってきた気がする……気分も、何だか……
「思い出したら、気分悪くなってきた……」
私は思わず、そう口に出していたらしい……そして、また何か音がしたと思ったら、前みた
いに、目の前が緑色で垂らされたような……ん? 緑?
気が付くと私の目の前には、さっき注文した抹茶あんみつかき氷があった。今、運ばれて来
たばかりで、それは、さっきまで脳裏を支配していた光景に、冷たく涼しい抹茶の風を吹き込
み、あの ヘンなの を吹き飛ばし、あの黒い ヘンなの はあんみつの塊と化していた……
そうか、時代はまさに……そう実感した後、私は叫んだ。
「抹茶! あんみつ! オリエンタル!」
それじゃあ、みっちゃん食べようか。まずは私が食べていいのかな? そんじゃパクリ!
うーん……抹茶とあんみつに、かき氷の冷たさが加わり……お、みっちゃんもおいしそうに
食べてる……そして、またあーんして食べていいんだね? ……あれ? そういえば、私……
「あ、まゆちゃんごめん。何の話してたっけ?」
なんだっけ? 抹茶色のシロクマがあんみつの海でサーフィンしてる話だっけ?
「ま、過ぎた話をしても仕方なかったね。今ではそんな化物も見かけないし……」
何の話か思い出そうと、まゆちゃんに聞いてみたけど、まゆちゃんは話をそう締め括った。
「そう言えば、宵空さんと朧月さん。最近見たい映画とかある? 私、迷ってるんだよねー」
そうかと思えば、今度はまゆちゃんが、見たい映画の話をし始めた、すると……
「ローニン・リザード……かな?」
みっちゃんがすぐさま答え、私もそれに続けて言った。
「あ、それ私も気になるー!」
映画のポスターを見たところ、主人公は中央に陣取ってる、顔までトカゲ姿の浪人で、その
周りにいる人間の浪人たちを次々と倒してくアクション映画! ……多分そんな感じだと思う
「CG一切なしだよね? 最近はCGでもわざとらしい感じがしない中、こだわってるよね」
そんな風にみっちゃんが言った後、しばらくして、まゆちゃんが言った。
「それにしても最近、暑いよねー」
今日も暑いよねー……これだけお日様が強いんだから、浴び続けるコトで何かパワーアップ
とかしないのかな……人類の進化の限界? いや、待てよ? そう思うと、何だか身体が……
「暑いよねー……でも! お日様を浴びていると……何か力が沸いて来る気もする!」
何かそんな気がして来たので、私はそう叫んでみた。すると……
「光合成でパワーアップ。悪の組織アメフラシを討て」
みっちゃんがそんなコトを言った! これは大ヒット作の予感! よし、それなら……
「全米が泣いた特撮戦隊が遂にこの夏、日本に上陸!」
「その名も」
私がそう言った後、みっちゃんが更に続けたので、あたしは更に言った。
「植物戦隊……!!」
こうなった今、私とみっちゃんを止められるものは存在しない……これからは特撮映画の時
代なんだよ! 植物の細胞に含まれる緑黄色野菜が、悪と戦うんだよ! その名も……
そして、植物戦隊の名前を叫ぼうとした時、私は言った。
「んー、いい戦隊名が思い浮かばないや……何がいいと思う? まゆちゃん」
止まってしまった……世界は止まってしまった……私とみっちゃんの連携はカンペキだった
それでも世界は、私たち二人を止めてしまった……世界には勝てなかったよ、みっちゃん……
そしてその後は、まゆちゃんとのカフェも終わり、家に帰った後は適当に、汗かいたみっち
ゃんを団扇で扇いだり、扇いで貰ったりした後、みっちゃんと一緒に寝ただけ、だったねー。
八月七日
「こないだ、かき氷を食べていた時に、ヘンな事を言っちゃったよね……だから、今日はお詫
びに、その後に話した映画のチケットを持って来たんだけど……もう見ちゃった?」
数日前にまゆちゃんと道端で遭遇したと思ったら何と、チケットを貰ったので、今日は私と
みっちゃんで、大型ストア内にある映画館でローニン・リザードを見た後、こっちはチケット
無いけど、勢いで見るコトにしたアニメも見終わって、店内の所々にある、テーブルと椅子の
あるスペースで、私とみっちゃんは、くつろいでいた。そして、みっちゃんが言った……
「……気分、悪い」
ローニン・リザードで、やめておけばよかったなー……うぉーみんぐを見てから、みっちゃ
んはずっと、不機嫌です……私も釈然としない気分だし、こう言った。
「この夏一番に期待されてた、オリジナルアニメ映画……見事なハズレだったね……」
入った時は結構人もいたと思ってたのに、出る時は席がガラガラだったし……色々酷かった
「せっかくだし、どこか食べ歩きして、お口直す? 適当なファーストフードも、悪くない」
そうだねー……と、私が思っていると……あそこに見える男女2人組は……
「みっちゃん……あれ、まゆちゃんじゃない?」
見覚えのある赤いキャミールの下にワンピースを着て、デニムのボトムスを履いた女の人の
方を指差し、私はみっちゃんにそう言って、更に続けた。しかも、隣にいる銀髪の男性は……
「隣には氷室さんがいるね。そして女の人はベージュのポニーテール……もう間違いないね」
氷室新[ひむろ あらた]も私のクラスメートで、まゆちゃんは氷室さんのコトになると、
何だかムキになったりする……その2人が、こうして並んで歩いている、と言うコトは……
「よし、後を付けよう……」
「クラスメートの男女を、気分転換がてらに尾行か……よさそうだね」
私に続き、みっちゃんもそう言った……かくして、追跡ミッションは発令されたのであった
「うーん……引っ掛からない」
「こういうのボタン連打じゃダメかー」
まゆちゃんと氷室さんがクレーンゲームをやってるけど、まゆちゃんは見るからに、緊張し
て筋肉が硬直してるね。クレーンのボタンを操作する、腕の動きまでぎこちない……氷室さん
は、ボタンを適当に押してたけど、アームが閉じたり開いたりおかしな動きをするだけだった
「これって……脱衣ゲーム……なのかな?」
「すげーなー……最初はシンプルなデザインなのに、クイズに答えていくと、どんどん付けて
るのが外れていって、やがて中身が丸見えだぞ……4つの選択肢を文章も見ずに適当に押して
るけど、今の所、4問連続正解……もう少しだけやってみるか!」
今度は、本格的なデザインのロボットを、クイズに答えて装甲を脱がしていくゲームで、私
とみっちゃんも同じのやってるけど……何これ! よく分からない会社名と、銃とか車のエン
ジンの画像が出て来たり、果ては白黒写真の戦車の画像の間違いを答えなさい……って何!?
「私たちには、まだ早いみたいだね」
みっちゃんがそう言いながら、コンティニューのカウント表示を放置したまま、私に言った
「わー! 氷室くん! 大丈夫!?」
まゆちゃんと氷室さんが、ファーストフード店に入ったから、私とみっちゃんも、離れた席
でハンバーガーとシェイクを頼んでると、まゆちゃんの手が震えてて、大丈夫かなと思ってた
ら、その手で掴もうとしてたコップを倒した後、叫んじゃった……中身は水だけどね。
さて、ランダムシェイクというのがおトクだったので、頼んだ結果。私がチョコミントシェ
イク、みっちゃんがジンジャーカモミールミルクシェイク……他の席で、イカ墨カレーシェイ
クというのがあったので、危ない所だったのかも……そして、ハンバーガーを食べ終わった頃
「あ、まゆちゃんと氷室さん。見失った」
何と言うコトだ。容疑者を見失うなど……刑事失格!! これは刑事事件ですよ。
「んー、何だかんだで色々と過ごせたし……最後にもう一度、あの映画見る?」
みっちゃんがそう言ったので、私は答えた。
「あの……最後の辺りで、ロボットが出て来たアニメを……?」
今思えば、さっきの脱衣ゲームのロボットたちと比べても、あのデザインは凄かったよ……
「ローニン・リザードの方。アクションとか結構、見応えあったし」
最初はトカゲ浪人が動き回るのを眺めてるだけでも面白かったけど、内容も普通の時代劇と
同じで、ちゃんとストーリーみたいなのもあった……そこを、もう一度見てみるのもいいかな
そして、再びローニン・リザードを見終わった後、みっちゃんは言った。
「どう考えても。あのタコの触手の動き……CGだね」
映画の最後で突然現われて、魂を感じる手書きタッチの筆文字の字幕カットインで登場する
ローニン・オクトパス……次の台詞を喋るまでの間だけで、タコの触手部分は、本当に滑らか
に動いてて……違和感が凄かった……とりあえず、私は言った。
「このまま監督は、CG100%の新時代に行っちゃうのかな……」
私とみっちゃんが劇場を出て、そんな会話をして歩いてると……うぉーみんぐが上映してた
劇場の方向から、さっき見失った男女が、テンションガタ落ちで、何も言わずに、とぼとぼと
歩いてた……あぁ、デートと言えばやっぱり映画だよねと思って、あれを見たばっかりに……
「……災難だね」
みっちゃんがそう言った後、まゆちゃんと氷室さんは、テーブルと椅子のあるスペースに辿
り着いて、どうしていいのか分からない、そんな時間を過ごしてるなーと、思っていると……
「海、行きてーなー」
氷室さんが、長い沈黙を破り、そう呟いた。
「う、海? 海かー……そうだなー……行きたいねー」
突然の、海と言う言葉に動揺しながらも、まゆちゃんがそう答える。
「友達みんな呼んでさ、がーって泳いでさ、意味も無く砂浜を走ったりさ……」
氷室さんが、そんなコトをいい始めた……海かー……
「もう海、絶対海だよな? マジ海。海に行くしか無い! なぁ、桂。行こうぜ、海!!」
氷室さんが更にそう続けた、そうだねー……もうこうなったら、行くしか無いねー。
「え? あ、うん。そだ、ね……」
まゆちゃんが咄嗟にそう答えてた……うん、やっぱり。私たちが海に行くのはもう決められ
ていたコト何だよ……まさに、ホエール・オブ・フォーチュン!!
「よっしゃー! 来週の日曜とかどうだ!? みんなで行こうぜ、海!!」
そして、運命の日は来週の日曜……よし、サイは投げられたってヤツだね……サバンナの動
物たちが、私に力を与えてくれる……それじゃあ行こうか! ぶもぉおおおーーー!!
「まゆちゃん! 行こう! みんなで海に!!」
私は、まゆちゃんと氷室さんが座っている椅子の間から、飛び出すように現われて、叫んだ
「うぉおう! どっから出てきた朧月ぃ!」
氷室さんが先制攻撃を食らい、のけぞった……ならば追撃あるのみ!
「運命とは、地面から生えて来るものなんだよ! ホエール・オブ・フュージョン!!」
さぁ、そうと決まれば……
八月十四日
報告します! 私、朧月瑠鳴[おぼろづき るな]は海にやって参りました!
「めいちゃん! 今日は楽しみだね!」
そう言う私の隣には、ピンクのツインテールに、上の胸の部分が何かモップみたいで、下も
ピンク色のビキニを着た、玉宮明[たまみや めい]こと、めいちゃんがいます。
「元気してた?」
宵空満[よいぞら みちる]こと、みっちゃんが、めいちゃんに挨拶した。みっちゃんの水
着は黒のようで紫色の水着を上下に着て、それに水色のパーカーみたいな水着を重ねてるね。
さて、私とみっちゃんとめいちゃんの、3人で集合場所に向かってるけど……
「ローニン・リザード、面白かったよねー!」
気が付けばこの話題になって、私はそう言っていた。公式サイトで今月いっぱい公開されて
る、前作のローニン・クラブもみっちゃんと一緒に見たよー。
「拙者、こんな姿形をしていようとも、心は侍……」
ここで、みっちゃんがローニン・リザード登場シーンの台詞を言った……吾輩はローニン・
クラブである……と言ってた前作よりも一気に雰囲気出てる台詞だよね!
「迫り来る浪人たちを次々と撃破!」
その後、私は言った。そう、続編だろうと基本やるコトは変わらない!
「CG一切なしの特撮時代劇。そして最後に現れたのは……」
みっちゃんがそう言った後、めいちゃんの口が開いて……
「CG絶対使ってますよね? のローニン・オクトパス!」
やっぱりめいちゃんも、あそこはCGだと思ったんだー。いや、本当にさぁ……
「あぁ、監督のCGなしの特撮路線は……どうなってしまうのか!?」
続編はCGしか使わない、ってならないか心配だよ……
「次回作は全てがCGの新時代劇。あの大手CGアニメ製作会社との合作」
そんなコト考えてたら、みっちゃんが大胆予想を! よし、私も続くよ!!
「そしてここで、死んだ筈のローニン・クラブが蘇り、ゾンビ・ローニン・クラブとなる!」
「もう全てが予測不可能」
すかさず、みっちゃんが続いた後、私が更に続ける!
「その日、全米は、浪人となる……さぁ、君も映画館にローニン・ダッシュ!」
そう言って、私が何か適当なポーズを取ってから時が経ち、桂眉子[かつら まゆこ]こと
まゆちゃんと合流して、更に後から来た、氷室さんがこう言い出した。
「それじゃあ、あの海に向かって競争だ! 泳ごうぜ!」
この時を待っていた! 私の水着は、緑のグラデーションのワンピース水着だけど……泳が
なくっちゃ意味が無い!
「おぉー!!」
私は氷室さんと一緒に……いや、そのまま追い越し、海が見えた時はもう飛び込んでて……
「ぷはぁ!」
そのテンションに任せて、泳ぎ続け、そろそろみっちゃんが恋しくなったので、こうして砂
浜まで戻って来たけど……目の前にはみっちゃんがいました。
「ん? 今、上がったんだ」
みっちゃんは、水色のパーカー水着のまま泳ぐみたい。ここで私はみっちゃんに言った。
「うん、今は休憩中。急だったけど。あのまま水着が買えてよかったよねー」
氷室さんの話に乱入した後、そのままみっちゃんと、水着を買いに行ってたのです。
「いい水着があって、よかったよね。じゃ、泳いでくる」
そう言うと、みっちゃんは海で泳ぎ始め、私はみっちゃんの泳ぐ姿と、太陽に反射して輝く
水しぶきを、ぼんやりと眺め、その水の音をしばらく聞いていた。そして、その後……
「あ、るな。一緒に泳ぐの?」
眺めるのもいいけど、やっぱり……一緒に泳ぎたいよね! だから私はこう返事した。
「うん! 泳ごう! みっちゃん!」
あぁ、幸せだなぁ……このままずっと一緒に泳いでいたいけど……しばらくすると、私とみ
っちゃんは泳ぎ疲れて、波の音の聞こえる砂浜の上で、お互いをぼんやりと見つめ合っていた
「海と言えばやっぱりビーチバレーだよな! やろうぜ!」
氷室さんの一言から、ビーチバレーをやるコトになりました。さっきは赤いキャミソールを
着ていたまゆちゃんも、他とは一味違うオレンジ色の上下のビキニに、ふちの色がとっても紫
なサングラスを掛けてる……氷室さんは黒い海パン一丁だけど……髪の色が銀色だから、これ
でも似合っちゃうのかな? それに結構、たくましい身体してるんだなー……
さて、ビーチバレーが始まりました! と言っても、ビーチバレーはキャッチボールみたい
な雰囲気で適当にやるものだし……5人だからと、私とみっちゃんとめいちゃんの3人、まゆ
ちゃん氷室さんの2人と、既に公平性が無い……そう思っていると、めいちゃんが、これは無
理だなと思ってたボールを間一髪で弾き上げて……
「宵空さん!」
めいちゃんが真剣な表情と声で叫んだ。お、何だかテンション上がっちゃうねー……
「るな!」
そして、みっちゃんが私の名前を叫んだ! 最初は拾うの無理だと思ってたボールが、めい
ちゃんが立て直して、みっちゃんがこうして上げてくれた……これは、応えないとダメだよね
魂を込める? いや、もっと違うものを……そうだね、この世界に流れるエネルギー的な何
かを……今、この時だけ、この手に込めて……叩き込むんだ!! そして私は飛び上がり、目
の前にあるピンク色のボールに、全身全霊の世界が籠もった、この手の平を振りかざして……
「いっけぇーーーーー!!!!」
勢いよく叩き込んだ!! ……あ、真っ直ぐ飛び過ぎて、かなり遠くの方へ飛んでっちゃっ
た。人類がこの、世界エネルギーを上手く扱うには、まだ時間が掛かるみたいだね……そう考
えていると、飛んで行くボールを見ていた、めいちゃんが、何やら動き始めて……
「すぐに取って来ます!」
そう言ったかと思うと、そのままボールを追い掛けて行っちゃった……それから私が、少し
ぼーっとしてると、何か物音がしたみたいで、それが気になったのかまゆちゃんも、その方向
に行ってしまって……うーん、私も行ってみようかな。
結局みっちゃんと氷室さんも、私と一緒に、めいちゃんとまゆちゃんのいる所に行くコトに
なったけど……めいちゃんの傍に何やら、宇宙っぽいワンピース水着に、長くて淡い水色の髪
をした、ちっちゃな女の子がいた……その近くには、薄いオレンジ色の髪の長い女の人もいて
まゆちゃんと何か話をしてたみたいだけど……もう、私の瞳には……宇宙水着のちっちゃな女
の子しか見えない! 年はいくつくらいだろう? 顔付きも幼いし、まだ小学生かな? 早く
あそこまで行きたいなー……そうすれば、あのちっちゃな女の子を、この腕に抱きしめるコト
が出来るのに……!! あ、そうか、走ればいいんだ……よーし、どんどん加速するぞー!!
「なに、この子! かっわいいーー!!」
私はその小学生くらいの女の子にダッシュで駆け寄り、飛び付いた。その女の子は今、砂浜
の上で仰向けになってて、その上に私がいます。うーん、近くで見るとやっぱりかわいい……
「さくちゃん……大丈夫? 怪我は……ない?」
私が起き上がってると、さっきのオレンジの髪の女の人が、同じく起き上がった さくちゃ
ん に話し掛けていた……その後、氷室さんとまゆちゃんが何か言ってたけど……何やら、オ
レンジの髪の女の人と、さくちゃんも加えてビーチバレーをする話になったみたいで、そのビ
ーチバレーも終わった後、そのままみんなと海の家で、お昼ご飯を食べるコトになりました!
「朧月瑠鳴[おぼろづき るな]と申します!」
「宵空満[よいぞら みちる]、です。よろしく……」
さっきの、とっても長いオレンジの髪の人に、私とみっちゃんが挨拶をしてます。
「わたしは……朝比奈です! 朝比奈真白[あさひな ましろ]です! こちらこそ!」
そして、薄いオレンジの髪の女の人の名前も分かりました。すると、そのまま続けて……
「そして……隣にいるのが……さくちゃん! 朔良望[さくら のぞみ]……だよ!」
ちっちゃくてかわいい女の子は、未だに喋らないけど……何とか、名前が判明したね。
「そっかー。朔良望ちゃんって言うんだー」
めいちゃんが、チキンクリームカレーを食べる合間にそう言った。
「そう……だから、さくちゃん!!」
朝比奈さんが、そう答えた。そういえば、朝比奈さんは何て呼ばれているのかな?
「ちっちゃくて可愛いですねー。今、おいくつなんですか?」
「うぉぉぉぉおお!!!! まとめて掛かって来やがれぇええ!!!」
まゆちゃんが質問をした思ったら、氷室さんが雄叫びを上げて、何だろうと、見てみると、
氷室さんのお皿の上には、数え切れないほどのタコ焼きが山盛りに……なるほど、これは気合
を入れて食べないとダメだよね……ここで武運を祈ってるよ! タコ焼き軍に栄光あれ!!
「るな」
そうしてると、みっちゃんがカフェラテにスプーンを入れて、中に沈んでいるバニラアイス
と生チョコをすくい上げて、私に食べさせようとしてた……うん、美味しい。ストローでカフ
ェラテも飲もうっと! このストロー凄いよね、2人同時に同じ飲み物が飲めるんだから……
さて、私も朝比奈さんに質問しようっと。
「ねぇねぇ。朝比奈さんは、さくちゃんから、何て呼ばれてるのー?」
すると、朝比奈さんは明るい表情で、こう答えてくれた。
「わたし? わたしはさくちゃんから…… ひなちゃん って、呼ばれているよ!」
朝比奈さんこと、ひなちゃんがそう言うと、さくちゃんは恥ずかしそうな表情をしてた。
「あさひな、だから、ひなちゃんですかー……よろしくね! ひなちゃん!」
私が元気よく、ひなちゃんに挨拶すると、更に気になるコトが出来た。
「ふふ、よろしくね」
ひなちゃんがそう言った後、私はそのコトに関して、質問してみた。
「そういえば、めいちゃんは、玉宮明[たまみや めい]だけど……ひなちゃんだったら、め
いちゃんを何て呼んじゃうのー?」
この質問は、めいちゃんの方が驚いてた。そして、ひなちゃんから出た言葉は……
「たまみや……だから…… たまちゃん ……かな!」
た、たまちゃん! これは気付かなかった……早速、国連議会に提出しないと!
「それはナシ! ナシでお願いします!」
その法案は、めいちゃんにより、速攻で否決された……そうだね、めいちゃんだよね……
それにしても、さくちゃんは、フルーツケーキとあさりの味噌汁を一緒に頼んでたけど、甘
さの中に渋さを感じる、なかなかのチョイスだね……うーん、あさりなだけに新鮮かも……
食事の後は4人と3人に別れて行動! 7人いるのも賑やかだったけど、私とみっちゃんと
めいちゃんの3人で行動するのも、やっぱりいいもんだねー……早速会話も弾んでるし。
「そう言えば、映画館でやってたアニメ見たー?」
まず、めいちゃんが、 あのアニメ の話題を振った。よし、ここは私が先陣を切るよ!
「見た見た見た!! ローニン・リザードの後に!」
私がそう言うと、これにみっちゃんが続き……
「あんな絵柄なのに住民達の腹の中は真っ黒。大人もドン引きの展開で、途中で帰る親子連れ
の方も少なくなかった。そして、最後に……」
さぁ、来たよ、あのアニメは、あれがあるから救われた……何てコトにはならないけど……
「世界観ぶち壊しの、作画に気合入りまくりのロボットが、村の皆を、全てを焼き尽くす!」
本当に、あのロボットのデザインは気合入っていたよ……最初から、ロボットものにすれば
よかったんじゃあ、と思っちゃうくらい……そしてみっちゃんが言った。
「結局あのアニメ、何がしたかったんだろうねー。話の内容が酷くて、それをロボットが焼き
払って、それでスッキリしたでしょって言われても……」
このアニメで話を盛り上げるのは、さすがに限界があるよね……そして、めいちゃんが……
「 うぉーみんぐ というタイトルは回収してたけどさぁ……」
あー、戦争はウォーだし、それに、民、愚と続ければ確かに……なるほどー。そう言えば、
私は最初、こういうアニメだと思ってたんだよねー。それを踏まえて、私は言った。
「てっきり、上映の2時間ずっと、うぉー! うぉー! 言ってるアニメなのかなって……」
やっぱり、うぉーと最初に来てたらこれだよね? でもさすがに2時間ずっとやるというの
は無理がありそうだから、主人公だけうぉーしか言わないのか、登場キャラ全員がうぉーしか
言わないのか、うぉーだけで会話を成立させるのか……上映始まってしばらくは、誰が最初に
うぉーと言い始めるのか注目してたね……あれ? めいちゃんが……
「あっはっはっはっは! 何それ! 想像しちゃった! うぉー! うぉー! って……」
おー……めいちゃん何だか、元気いっぱいだねー。おっと、ここでみっちゃんが……
「ふふ」
みっちゃんが声に出して笑うのって珍しいなー……せっかくだし、ここは……
「うぉー! うぉー! うぉー!」
とりあえず私は、そう叫んでみた。こんな風に叫ぶ度に次々と場面が切り替わり、ストーリ
ーが何だかんだで展開するアニメなのかなーって、思ってました……あれ?
え? 何? 今、すごい大きな音が傍で……何か、砂が凄い巻き上げられて……何か降って
来た? 隕石? いや、それなら爆発するか……えーと、砂も収まってきたから……え?
なぁに……これ? 手足の無いドラゴン? あ、砂浜から頭を引っこ抜いた、え、何……?
何で、そんなに……目が赤いの? 血を見てもこんなに気持ち悪い気分にならないのに……
それに大きな口だ、口を閉じているのに鋭い牙があちこちから、はみ出てる。身体はピンク
色? いやー、それにもっと血が滲んだような……何か金色の線も浮き出てる……お腹の方は
色が青い……丁度、今日みたいによく晴れた、青空と同じ色だなー……それで、さ。
この ヘンなドラゴン は、何? 何でいるの? 何しに来たの……?
「みっちゃん……」
もう、この姿を見ているだけで、気分が悪くなる……こわいよ。こわいよ、みっちゃん……
「何なの……ほんと」
私がみっちゃんに寄り添ってると、みっちゃんはそう言った。そうだね、何なの、さ……
そして、ネコとかを思わせる形の、あの赤い一つ目が、脳裏に焼き付きそうになった時……
「かわそう! こっちに飛んで来たら……横に跳ぼう!」
めいちゃんがそう叫んだから、沈みそうだった意識を、何とか持ち直せた。その後は、みっ
ちゃんと一緒に、突っ込んで来ては地面に刺さる、 ヘンなドラゴン をかわし続けた……本
当に首も尻尾も長くて、ドラゴンみたいだなぁ……火も吐いたりするのかな? そうじゃない
といいなぁ……さて、めいちゃんは……って、あれ?
めいちゃんの後ろには今、 ヘンなドラゴン が砂浜に突き刺さってる。そして、めいちゃ
んの目の前には ヘンなドラゴン が向かって来てる……えっと? これって……
「たまちゃん! あぶない!」
この声は……ひなちゃん! そして隣にいるのは……
「ひなちゃん! さくちゃん!」
私は、そう叫んだ。これってつまり、ひなちゃんとさくちゃんもこの ヘンなドラゴン に
追われていて、その2匹が同じ場所に来ちゃったってコト? そして、しばらくすると……
「みんな! あたしが合図したら、あたしの所に集まって! この2匹の距離が離れて、一直
線上になりそうな状況が近付いてきたら 合図 する! その時、上手くコイツらが正面衝突
したら、とりあえず……さっきの海の家の中に逃げ込もう! それでも追って来るようだった
ら、また考える!」
突然、めいちゃんが、何かいっぱい喋った。さっきからずっと、主にめいちゃんが、 ヘン
なドラゴン2匹 をかわし続けている中での発言だけど……
「え、えーと……?」
うーん、こんな状況でもう一度、言って貰うのも悪いし……
「玉宮さんが合図をするまで、あの変な2匹から逃げ続けて、合図が来たら玉宮さんの所に駆
け込んで、上手く行ったら、さっきの海の家の中に逃げ込めばいいの」
おー! みっちゃんありがとう! これでもう分かった! 私が、そう喜んでいると……
「引き離すなら……もう1人、狙われる人がいた方がいいですよねー……誰かやります?」
ひなちゃんが無茶なコトを言い出した。う、うーん……そ、そう言われてもさぁ……
「誰もいない……じゃあ、わたしやります! お守りにさくちゃんを傍に置くから大丈夫!」
そのままひなちゃんがやるコトになっちゃったよ! この時はどうなるかと思ったけど……
「朝比奈さん! お願いします!」
「はーい!」
それからまた、しばらく経って、めいちゃんが叫んで、ひなちゃんが返事してる……もしか
して? 上手く行ってるのかな? つまり今は、ひなちゃんが ヘンなドラゴンの視線の真正
面の位置 にいるから、その ヘンなドラゴン が頭を引き抜くと、そのまま一気に羽ばたい
て、 さくちゃんと手を繋いでるひなちゃんの方に 、すぐさま向かって行くコトになる……
「みなさん! 今です!」
やがて、ひなちゃんが、めいちゃんの言っていた合図を叫んだ……合図が来たんだから……
みんなで、めいちゃんの所に集まろう! そして、私、みっちゃん、めいちゃん、ひなちゃん
さくちゃんの5人が一箇所に集まった後……
「いっせーー……のー……っで!」
両側にいる、 ヘンなドラゴン2匹 が来る前に、ここを離れる! そして、次の瞬間、ヘ
ンなドラゴンとヘンなドラゴンは頭からぶつかり合い、顔が少し潰れたのかな? さすがに痛
いのか、不気味な声だけど悲鳴を上げてる……とりあえず、めいちゃんの作戦は成功だね……
「やったぁぁあー!!!」
私が喜びと勝利の歓声を上げていると、急に誰かに手を……あぁ、この感触はみっちゃんだ
ね。みっちゃんに手を掴まれて、そのままダッシュで海の家へ! 不気味な唸り声が、まだ続
いてるから……何とか撒くコトが出来そう!
「みんな! 今の内にさっきの海の家の中へ! 急いで!」
めいちゃんが走りながら、みんなにそう叫んでて……途中で誰も転んだりせずに、私たち5
人は……あ、走ってる途中で、まゆちゃんと氷室さんとも合流したから7人だね。とにかく、
私たち7人は海の家の中に、何とか逃げ込むコトが出来ました。
「大丈夫、なのかな。建物を突き破って来たらどうしよう……」
全員が席に着いて、やっと一息といった状況で、まーたみっちゃんがそんなコト言ってるよ
まったく、しょうがないなー、みっちゃんは……よーし、ここは私が……
「みっちゃん。一緒にシャワー浴びて、着替えて来ようよ。不安な気持ち、洗い流そ?」
私はそう言った後、みっちゃんを連れて、一緒のスペースでシャワーを浴びると、一緒に着
替え、まだシャワーでしっとりと濡れた長い黒髪が素敵な、みっちゃんと一緒に戻って来た。
「まゆちゃんは、狙われないみたいなので、外で見張りをしていまーす」
私が聞くまでも無く、ひなちゃんがそう言ってくれた、みっちゃんの方を見ると……
「ありがとう、落ち着いたよ。それに、あれから何事も無かったみたいだね」
みっちゃんがそう言ってると、まゆちゃんが戻って来た。さて、7人全員集まったけど……
「うーん……」
みっちゃんは唸った。確かにあの ヘンなドラゴン は、いつここに来てもおかしくない。
「もう、あのヘンなの……いなくなった、でいいのかな……」
めいちゃんがそう言い出して、更にしばらくすると……
「建物の中。安全でしたね!」
ひなちゃんが、もう決まったかのように言い切っちゃった。パニック映画では、こういう風
に、みんなが安心し切ったところに、思わぬ所からこんにちは! してくるものだけど……私
がそうあれこれ考えていると……何か、というか、かなり。
「おなかすいたー」
私は、お腹がきゅうっと鳴って、辺りに響いた後、こう言った。うん、かなり空いたよ。
「だなー……メシにするか!」
氷室さんがそう言って、気が付けばみんなシャワーを浴びて、着替えてた。
「みっちゃん何食べるー?」
私がみっちゃんにそう聞くと、みっちゃんはこう答えた。
「うーん、身体を温めたいから……お昼に朝比奈さんが頼んでいた茶碗蒸しと……」
ここで、私はみっちゃんが言う前に、その内容を叫んだ。
「さくちゃんが頼んでいた……あさりの味噌汁!」
私がそう言うと、みっちゃんは、これまたいい笑顔で微笑んで……
「そうそう。じゃあ、頼もうか」
そして私が、みっちゃんに息でふーふーして貰いながら食べていると……
「はい、はーい! みなさん、ちゅうもーく!!」
突然、ひなちゃんの声が聞こえて来たので、そっちの方を向く。すると、ひなちゃんは、通
信機器の画面に画像を表示していて、そこには、ひなちゃんとさくちゃんが映っていた……内
の学校の制服を着て、同じ教室の中で撮った写真だね……制服姿のさくちゃんも、かわいい!
「え……朝比奈さん……いくつなんですか……?」
めいちゃんが、ひなちゃんにそう聞いていた。あ、そうか、内の高校の制服を着ていて、同
じ教室にいるというコトは……ひなちゃんとさくちゃんは……
「はい! 朝比奈真白、高校二年です! さくちゃんとは同じクラスです!」
ひなちゃんが、元気よく声を出して言った。ん? というコトは、さくちゃんも……
「え……? さくちゃんさん? 高校二年生? あたしが一年だから……先、輩……?」
めいちゃんの言う通り、私も一年だから……うん、先輩だね。
「え……? え……? えぇぇええぇえーーーーーーっ!!!!???」
とうとうめいちゃんが、驚きのあまり叫んでしまった……私も背が低いから結構、間違われ
るかな? でもここ数年、何か胸の方を見ながら、なるほどなぁと納得されたりするんだよね
「あのヘンなヤツが、まだうろついてるかもしれないが……そろそろ解散にするか?」
めいちゃんの絶叫から、しばらく経って、氷室さんがそう言った。そうだねー、帰ろっか!
「みっちゃん、解散だってー……もう帰っちゃう?」
私はみっちゃんにそう聞いた。
「まだ不安はあるけど、帰れそうだね……どっちに帰る?」
今度はみっちゃんが聞いてきた。そうだなー……最近ずっと、私のお家が続いたから……
「みっちゃん家で!」
そして帰り道、あの ヘンなドラゴン の鳴き声や気配とかもなく、みっちゃん家に到着!
部屋の電気を点けている内に、めいちゃんから通話が来たので、私は元気よく言った。
「めいちゃん! 生きてるー? 私、生きてるよー! いやー……もう、何でまたあんなのに
遭っちゃうんだろ……これで最後にして欲しいよぉ。あ、みっちゃんに代わるね」
振り返ってみれば、今回の ヘンなドラゴン はそんなに、こわい思いをしなかったね……
2匹しかいなかったし……でもさ、あのショッピングの時は、本当に こわかった よ……
「今日は大変だったけど……楽しい事もいっぱいあった……こうして生きて無事に帰れたから
言える事だけど……」
みっちゃんが、そう言った後、めいちゃんは何か黙り込んじゃった。
「どうかした?」
あんまり何も言わないもんだから、みっちゃんが、めいちゃんに声を掛けた。
「宵空さん、朧月さん、ちょっと聞いて」
お、めいちゃん返事した! それに話があるって!
「え? なになに?」
私はそう言いながら、既にみっちゃんの傍にあった自分の顔を、更に近付けた。
「今週の土曜と日曜に、夏祭りがあるのは……知ってる?」
それを聞いたみっちゃんは、こう反応したけど……
「夏祭り……?」
私は、すぐさま思い出して、叫ぶように言った。
「あー! そうだよ! 今度の土日は夏祭り! 最終日は花火が、どーん!」
その夏祭りが終われば、夏休みも数日で終わり……まさに最後に相応しいビッグイベント!
「それでね、宵空さん、朧月さん」
めいちゃんが、こう言った後、少し間を置いて……力の抜けた、優しい声でこう言った。
「近い内に……浴衣、買いに行かない? 前にショッピングしたあの場所で……前に言ったよ
ね? また、みんなで買い物に行こう……って」
めいちゃんって、こんなに甘くて、聞いてて安心する声出せたんだなー……んー、でも……
「浴衣かー……どんなのがいいかなー……」
ビッグイベントだからこそ……どんな浴衣を着ればいいか、迷っちゃうよね……
「大丈夫、選んであげるよ」
そこへみっちゃんが、迷える私に、魂の懺悔と救済を啓示する言葉を発した!
さて、めいちゃんとの通話が終わった後、私は、ある人物に通話を掛けた……そして、私と
みっちゃんは無事だよと伝えた後に……
「まゆちゃん! 今度の土日に夏祭りがあるよ! 私とみっちゃんとめいちゃんで、夏祭りに
着て行く浴衣を選びに、近い内に買い物に行くんだけど……まゆちゃんも来ない?」
ショッピングの時は、来なくて結果オーライだったけど……今回は来て欲しいなー……
「夏祭りに向けて、みんなで浴衣選び……日曜は花火もやるんだよね……」
まゆちゃん、お願い! 一緒に浴衣を選ぼうよ……それを着て、夏祭りを楽しもうよ……私
とみっちゃん、めいちゃんの3人いれば楽しいけど……まゆちゃんもいれば、もーっと楽しく
なる! 夏休み最後の思い出の中に……まゆちゃんも来ようよ! まゆちゃん……!!
「浴衣買いに行く日が決まったら、また連絡して」
何だか、思わず泣きそうになっていた私に、まゆちゃんはそう言った。
「じゃ、じゃあ……!!」
私が思わず、そう言った後……まゆちゃんは、落ち着いた声で、ゆっくりと……答え始めた
「どうしたの? 朧月さん。家にある浴衣もいいけど、朧月さんの言う通り、その日の為に選
んだ浴衣で夏祭り……最高じゃない。ショッピングの件での挽回とか考えなくても、それだけ
で行く理由になっちゃうんだから……ありがとう、誘ってくれて。あと、今日は色々と楽しか
ったわ。いつも元気な朧月さんを見ていると、こっちまで元気になっちゃう……それじゃ、次
の連絡を楽しみにしてるからね」
こうして、まゆちゃんとの通話は終了し、私の目からは涙が浮かんで来て、結局……
「るな……よかったね」
みっちゃんがそう言うと同時に、私はすっかり涙を流してしまった……今日は色々あって、
疲れたのもあったけど、大粒の涙という言葉が分かるくらい、自分の目から涙が流れているの
を感じる……ごめんね、みっちゃん。この涙はまだ止まらないや……でも、こういう風に泣く
のって、いいよね。だって、こわいからじゃない、寂しいからじゃない、悲しいからじゃない
こうやって、思う存分、好きなだけ――
あったかい時間の中で 安心して、泣き続けていられるんだもん。