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最終兵器マガツキ  作者: 竜世界
第二章 はねつき
5/18

はねつき(後編)

 

 八月十四日


「めいちゃん! 海に行こう! 今度の日曜日!」

 朧月瑠鳴[おぼろづき るな]こと、朧月さんから、そんな連絡が先日あったので、とりあ

えずピンク色の水着を探しに買い物に行くと、いい感じの色のフリンジ・ビキニがあったので

購入。さて、マスターによると今回は はねつき というのが出て来て 参加者 を見付ける

と 追い掛けて来る 。つまり、あたしがはねつきに見付かったら追い掛けられるし、それを

他の 参加者 に見られたら一気に不利になる……だから今回の誘いは、水着を買ったものの

断ると言う選択肢もある。今回の最終日は来週の日曜だから、もう外出せずに、はねつきをや

り過ごすのもアリ……そんな状況で、あたしは一枚のパンフレットを手に取って眺めていた。

「夏祭り八月二十日[土]二十一日[日]開催。日曜日19時半~21時半には花火大会も予定」

 水着を買った帰りに目に付いたし、当然行く予定。だって…… 夏休み だよ?

 それに前回はかみつきの調査に明け暮れて、他の 参加者 の事を全然探っていないんだか

ら、今回は動く! はねつきなら一度、誰もいない所で遭遇していて色々と試せたし……と、

いうわけで、本日あたしは、海まで来ています。

「めいちゃん! 今日は楽しみだね!」


「元気してた?」

 朧月さんに続き、宵空満[よいぞら みちる]こと、宵空さんが言った。

 そんな風に朧月さんと宵空さんと話をしながら、集合場所に向かっていた。その話題は……

「ローニン・リザード、面白かったよねー!」

「拙者、こんな姿形をしていようとも、心は侍……」

 朧月さんに続き、宵空さんがローニン・リザード登場時の台詞を言った。

「迫り来る浪人たちを次々と撃破!」

「CG一切なしの特撮時代劇。そして最後に現れたのは……」

 朧月さんの後の宵空さんに続き、あたしも発言した。

「CG絶対使ってますよね? のローニン・オクトパス!」

 あたしがそう叫ぶと、朧月さんが言った。

「あぁ、監督のCGなしの特撮路線は……どうなってしまうのか!?」

 そして宵空さんがそれに続き。

「次回作は全てがCGの新時代劇。あの大手CGアニメ製作会社との合作」

 そんな予告は無かったけど、この流れは前にもあったよね? そして朧月さんが……

「そしてここで、死んだ筈のローニン・クラブが蘇り、ゾンビ・ローニン・クラブとなる!」

「もう全てが予測不可能」


そして、今の宵空さんに続き、朧月さんが締めの一言を発した。

「その日、全米は、浪人となる……さぁ、君も映画館にローニン・ダッシュ!」

 そんな事を言っていると、集合場所に桂さんがいたので、朧月さんが元気に呼びかける。

「ま、ゆ、ちゃーーーーん!!!!」

 そして宵空さんが続けて言った。

「ひさしぶり」

 さて、あたしも一言。

「桂さん、今日はよろしくお願いします!」

 そして、そんな風に挨拶をしていると、男の人の声が聞こえて来た。

「うぉーっ! みんなオシャレだなー! しっかし、いい天気だぜ!!」

 本日こうして海に集まる事を提案した氷室新[ひむろ あらた]こと、氷室さんも到着し、

これで5人揃ったわけだけど……今は赤系のコーラルカラーのキャミソールを上に着てるけど

あの桂さんがビキニで来る何て意外だなー……桂さん、氷室さんの事となると取り乱したりす

るのに……勝負服ってヤツかな? ほんと、同じクラスにいるから、バレバレだよねー。さて

そんな事を考えていると、氷室さんがこんな事を言いました。

「駆も来ればよかったのになー……最近、全然誘いに乗って来ないんだよ……」

 氷室さんはクラスメートの鶴木駆[つるぎ かける]の欠席を残念に思った後、こう言った


「それじゃあ、あの海に向かって競争だ! 泳ごうぜ!」

「おぉー!!」

 氷室さんがそう言った途端、朧月さんがそう声を上げたかと思うと、海の方へと、元気よく

飛び出して行った……さて、あたしも泳ごうかな。

 あたしがひと泳ぎ済ませると、桂さんがぽつんと座っていてまだ泳いでいないように見えた

「桂さん、泳がないんですか? こんなにいい天気で目の前には海もあるのに……泳がない何

て勿体ないですよ……」

 あたしがそう言うと、桂さんはあたしの方に少し目を向けた後、こう言った。

「うーん……と、ね……泳ぎたい気持ちは……あるんだけど、さぁ……」

 やっぱりその水着、着てて恥ずかしいんだね……よく会計まで持って行けたね……とりあえ

ずそんな感情、キャミソールと一緒に脱ぎ捨ててしまおうよ、あたしがそう考えていると……

「そ、それよりさぁ! 以前、大型ストアで変な生き物がたくさん発生して、玉宮さんもその

場にいて危なかったって聞いたし、次の日ショックで学校休んじゃったじゃない! 一体どう

やって、切り抜けたのか、聞いてみたいなーって……!」

 突然かみつき九日目の話になったのは驚いたかな。でもね、桂さん、今はそんな事、どーで

もいいの……あのね、桂眉子[かつら まゆこ]さん。あなたはどうして、いつまでもキャミ

ソールを脱がないで、泳ぎに行かないんですか……? そして気が付くと、あたしは桂さんの


キャミソールのすそを掴んで、こう言っていた。

「何か……はぐらかされたような気分。何でここでショッピングの時の話? あたしはね、桂

さん……あなたに 泳がないんですか と聞いているんです……」

 あたしはだんだん、桂さんのその憎たらしいまでに大きな胸と、そのわざとらしく透けてい

るキャミソールを見てはイライラして来て、更にこう続けた。

「このキャミソール、泳ぐのに邪魔ですよね? そうだ、このキャミソールがあるから、泳げ

ないんだ……だったら、脱がしてしまえば、泳ぎに行けますよね……?」

 そうそう、こんなキャミソール、脱がしちゃおうか、このまま上に捲り上げてしまえば、簡

単に脱ぐ事が出来ますよ? あれ? 桂さん? この手は何ですか? 何で脱がされまいと抵

抗してるんですか? ダメですよ? さぁ、その手を離して大人しく脱がされちゃってくださ

い……あなたは、 このキャミソールを脱いで 、泳ぎに行くんですよ……?

 そんな風にやっていると……

「賑やかだね」

 宵空さんがやって来た……宵空さん、あなたもそのパーカーを……脱ぐ必要ないんですよね

 水の色に合わせたのか、空色をしたラッシュガードですか……宵空さんらしい水着です。

「あ、宵空さん。あのですね、桂さんがキャミソールを脱いでくれなくて……」

 あたしがそう言うと宵空さんは桂さんの方に近付き、その首筋に顔を近付け、何をするのか


と思っていると……ふっと息を吹きかけた。

「きゃっ!」

 桂さんが思わず声を上げて、その時にあたしの腕を掴んでいた手も離れた……今だ!!

 その手さえなければこっちのもの! あたしは桂さんのキャミソールを一気に捲り上げ……

「脱げたー!」

 途中、胸が手に引っ掛かった感触もあったけど、今、あたしの手には念願のキャミソールが

ある! 何だか、かつてない勝利を味わっているような気分になってる……

「うぅ……恥ずかしい……」

 桂さんは両腕を交差させてその大きな胸を隠すような事してるけど……顔を赤らめるくらい

恥ずかしいのは分かるけど、それじゃあ隠せてないよ、桂さん……ここで、宵空さんがキャミ

ソールに手を伸ばしたので、あたしの手からするりとキャミソールは抜けて行った。

「じゃあ、このキャミ預かってるから泳いできなよ。それにしてもスケスケだねこれ……」

 咄嗟に、キャミソールを取り返そうと、掴み返しちゃったけど、それならあたしが預かった

方がよさそうかな? あたしはそれを踏まえて、こう言った。

「あ、それならあたしが預かります。今泳いで来たばかりなので、ここは宵空さんが!」

 キャミソールの事で熱くなっちゃったけど、宵空さんが落ち着いた声でこう言ってくれた。

「そう……? じゃあ、泳いでくる。……ありがとう」


 そしてしばらく経つと、氷室さんが皆を呼び集めてこう言った。

「海と言えばやっぱりビーチバレーだよな! やろうぜ!」

 その提案にはあたしも賛成だったので、こう答えた。

「いいですねー! ボールはどんなのを持って来ましたか?」

 ピンクかな? ピンク色だといいな……いや、氷室さんがピンク……それは無いか。

「そんなの持って来て無いぜ!」

 じゃあ、何で言ったんですか!? そう叫びそうになりながらも、あたしはこう言った。

「では、あたしが持って来たボールを取りに行きますね……海の家に預けてありますので」

 まぁ……ピンク色のボールなら、既にあたしが持って来てたんだけどね……というわけで、

ビーチバレー開始。とりあえず桂さん・氷室さんの2人、あたし・朧月さん・宵空さんの3人

に分かれて適当にやっていると……

「宵空さん!」

 あたしが咄嗟に宵空さんにパスしたけど、これはちょっと厳しいかな?

「るな!」

 宵空さんが珍しく声を張り上げた上に、普段は朧月さんを名前で呼び捨てという事が判明。

 さて、そこまでして上手く拾い上げたボールを朧月さんが……

「いっけぇーーーーー!!!!」


 元気よくボールを叩くまではよかったけど、元気よ過ぎてかなり遠くへ飛んじゃった……柔

らかいボールだから、当たっても怪我はしないだろうけど……まぁ、あたしのボールだし……

「すぐに取って来ます!」

 あたしはそう言うと走り出し、ボールを追い掛け、この辺りのはずだと探していると……

「きゃ……」

 どこからか、か細い声が聞こえて来たかと思うと……目の前を何か、宇宙が飛び込んで来た

「わぁ」

 気が付けばあたしは、その宇宙の柄のワンピース水着を着た女の子の下敷きになり、向かい

合わせで倒れ込んでいた。とりあえず、起き上がろうとしたら、桂さんが駆け付けて来るのが

見えて、いい加減起き上がると、今度はその後ろから更に、女の人の声が聞こえてきた。

「あら、あら! まぁまぁ!!」

 目の前の子は淡い水色の髪、そしてこの声の女性の方は薄いオレンジの髪で……脚の間から

髪の毛先が見える何て、本当に髪が長い人だよね……でも、何をそんなに喜んでいるのかな?

 とにかく桂さんが、その女性に話しかけようとして……

「あ、あの……お久しぶりです! アサヒナさ……」

 すると、そのオレンジの長い髪の女性は突然、遮るかのように、しかも大きな声で……

「はい! わたし、朝比奈です! 朝比奈真白[あさひな ましろ]です!」


 桂さんの知り合いかな……? さて、そうこうしてる内に朧月さん、宵空さん、氷室さんと

みんな揃ってやって来たし……あたしも挨拶しておこうっと。

「朝比奈さん、はじめまして。あたし玉宮明[たまみや めい]と言います。こちらの可愛い

連れ子さんは、妹さんかな? んー、でも髪の色が違いますね……」

  家族は髪の色が同じ とマスターは 設定 していたはず……そうなると親戚かなー……

 そう考えていると、みんながこっちへ来る中、朧月さんだけ、足がどんどん速くなり――

「なに、この子! かっわいいーー!!」

 気が付けばその宇宙水着の子を抱えるように倒れ込み、宇宙は朧月さんの下敷きになった。

「うぉー! 水着美女発見!!」

 今度は氷室さんが、朝比奈さんに向かってダッシュし始め……朝比奈さんはそれに構わず、

淡い水色の髪の女の子の方に歩いて行き、こう話しかけた。

「さくちゃん……大丈夫? 怪我は……ない?」

 あー、うっかりしてた。その サクちゃん は首を縦に振っていたから大丈夫だったみたい

「あ、あの……オレ……!!」

 さて、氷室さんの自己紹介でも始まるんでしょうか?

「有明高校一年、氷室新」

 あれ? 今の桂さんの声だよね……? あたしは桂さんの方に目を向けた。


「え、えーと。今……」

 そして氷室さんが続けようとしたけど……

「今、みんなでビーチバレーをやっていたんですが。朝比奈さんも一緒にやりませんか?」

 あー、氷室さんが言いそうな事を、桂さんが先回りして、それを潰す感じかー……

「さくちゃん……どうしようか?」

 朝比奈さんが、サクちゃんにそう尋ねると。

「……や、る」

 本当に聞こえるか微妙な声でそう答えた……ボールの方もさっきから桂さんが持ってるし、

7人でビーチバレー再開かな? さて、そのビーチバレーが終わった後、海の家で食事をする

事になりました。もうお昼だし、7人いて賑やかだし、丁度よかったかな。

「そっかー。朔良望[さくら のぞみ]ちゃんって言うんだー」

 あたしは注文したチキンクリームカレーを食べながら、発言をしていた。

「そう……だから、さくちゃん!!」

 朝比奈さんが、中くらいの茶碗蒸しを複数種類頼んだものを食べながら、そう答える。

「ちっちゃくて可愛いですねー。今、おいくつなんですか?」

 桂さんは中盛りのやきそばを食べながらそう尋ねた。

「うぉぉぉぉおお!!!! まとめて掛かって来やがれぇええ!!!」


 氷室さんは、軽く50個以上はある山盛りのたこ焼きを食べながら、そう雄叫びを上げ、朧月

さんと宵空さんの方を見ると……カフェラテにバニラアイスと生チョコを沈めたのをカップル

用のストローで飲んでは、互いのスプーンでアイスと生チョコを食べさせ合いをしていた。

 そして当の望ちゃん……あたしもさくちゃんと呼ぶか、さくちゃんはあさりの味噌汁を啜っ

ているけど……一緒に頼んだのが、ジュレの光沢がちょっと眩しいフルーツケーキ……これは

オシャレと言っていいのかどうか……しばらく考え込みそうになっちゃった。

 さて、腹ごしらえも済んだし、ここからは別行動。さくちゃんの年齢は結局、分からなかっ

たけど……小学校卒業してるかしていないか、くらいかなぁ? それじゃ、朧月さんと宵空さ

んと3人で行動開始! とりあえず、適当に話しながら歩いています。

「そう言えば、映画館でやってたアニメ見たー?」

 あたしは動物たちがデフォルメされ親子で楽しめそうな、あのアニメの話題を振った。

「見た見た見た!! ローニン・リザードの後に!」

 朧月さんがそう言うと、宵空さんも続けて言った。

「あんな絵柄なのに住民達の腹の中は真っ黒。大人もドン引きの展開で、途中で帰る親子連れ

の方も少なくなかった。そして、最後に……」

「世界観ぶち壊しの、作画に気合入りまくりのロボットが、村の皆を、全てを焼き尽くす!」

 朧月さんがそう続けると、宵空さんは言った。


「結局あのアニメ、何がしたかったんだろうねー。話の内容が酷くて、それをロボットが焼き

払って、それでスッキリしたでしょって言われても……」

 そしてあたしも、こう発言。

「 うぉーみんぐ というタイトルは回収してたけどさぁ……」

 ウォー、民、愚。と区切れば確かに納得の内容だった……だったけどさ!

「てっきり、上映の2時間ずっと、うぉー! うぉー! 言ってるアニメなのかなって……」

 朧月さんのその発言を想像してしまい、あたしは吹き出してしまいそうになった……いや、

もう吹き出してしまおうか。あたしは久しぶりに腹の底から笑い声を上げた。

「あっはっはっはっは! 何それ! 想像しちゃった! うぉー! うぉー! って……」

 あたしがそう笑い出すと、宵空さんにも移ったようで。

「ふふ」

 宵空さんからすれば、これでもかなり笑っている方なんだろうね。そして朧月さんが……

「うぉー! うぉー! うぉー!」

 はい、もうダメです。宵空さんも大きな声で笑い出して、もうあたしたち3人を誰も止める

事が出来なさそうなくらい、笑い始めました! さて、そんな事をしていると――

 何かが地面に激突し、砂浜が大きく巻き上げられ、それが収まると、そこには……あぁ、遂

に来ちゃったか……とりあえず、ね。あたし、こんなピンク色、認めないから。


 そう……今、目の前にいるのは、下側の部分がこの真夏の空によく溶け込む青い色で、上側

の部分が、ピンクの服に赤黒い絵の具を滲ませたような色合いで……所々に金色の線が走って

いるけど、こいつの血液が金色なのは確認済み。それなのに、一つしか無い瞳がすっごい真っ

赤で……とりあえず今、大型犬くらいの胴体から伸びた長い尻尾を動かしながら、その長い首

を引き抜いて、こちらに突撃しようと羽ばたき始めた……さて、ここで問題。

 こうしてはねつきが来たのはあたしが 参加者 だからだけど……本当に あたしだけ ?

 もしも、あたしだけ、ここから離れて、はねつきがあたしに向かわずに、朧月さんと宵空さ

んの方に行ったら…… 参加者 は有明高校の生徒……だから、さくちゃんは高校生じゃない

時点で除外、でも今日一緒に来ている、桂さんも氷室くんも、今日来なかった鶴木くんだって

あたしのクラスメートであり、 有明高校一年の生徒 ……さて、考えていても仕方ない。

「みっちゃん……」

 ショッピングの時以来だね、朧月さんがまた怯え始めたよ……

「何なの……ほんと」

 せっかく珍しく大笑いしていた宵空さんもすっかり真剣な表情に……ここは、ひとまず――

「かわそう! こっちに飛んで来たら……横に跳ぼう!」

 あたしはそう叫ぶと、はねつきが突進を始めたので、横に飛んだ。そしてはねつきは誰もい

ない砂浜に、顔から突っ込んだ。この間に上手く離れたり、障害物にぶつかるように誘導した


りする事も出来るけど、ここは砂浜の上……頭を引き抜くのが早い上に、隠れる場所も無い。

 とりあえず、こうやってかわし続けて、朧月さんと宵空さんの方へ向かう事が無いか、見逃

さないようにしておこう……そうやって3人でしばらく、はねつきの突進をかわし続けている

と……あたしの視界の向こう側で はねつき が向かって来るのが見えた。でも、 今かわし

た はねつきはあたしのすぐ後ろにいる……そう思っていると。

「たまちゃん! あぶない!」

 勘弁してよ……さっき海の家でそう呼ばれて、面を喰らったばっかりなんだよ……とにかく

あたしは、 2匹目 のはねつきもかわす事が出来た……これでいいでしょ? 朝比奈さん。

「ひなちゃん! さくちゃん!」

 朧月さんが、新しくやって来た2人の名前を叫ぶ……朝比奈さんはさくちゃんから ひなち

ゃん と呼ばれてると聞いてから、朧月さんは朝比奈さんをこう呼ぶようになったんだよね。

 とにかく、2匹のはねつきは あたし を狙っている状態……これは、もう…… バレちゃ

った ね。このはねつきは《流浪》の 能力 を使えば、簡単に逃げ切れるし、はねつき自身

もそこまで性能が高くない。こうして 参加者である事を他の参加者に知らせる 性能なのが

一番厄介。とりあえず、今は2匹が起き上がるタイミングをよく見ておこう……首を引き抜い

ても、すぐそのタイミングで突撃して来るとは限らない……とりあえず、他の 参加者 を狙

ってズレてしまうのが、今はマズイ……だから。あたしは2匹のはねつきの突撃を、続けてか


わした後、周りのみんなに向かって叫んだ。

「みんな! あたしが合図したら、あたしの所に集まって! この2匹の距離が離れて、一直

線上になりそうな状況が近付いてきたら 合図 する! その時、上手くコイツらが正面衝突

したら、とりあえず……さっきの海の家の中に逃げ込もう! それでも追って来るようだった

ら、また考える!」

 このあたしの提案を受け、みんな戸惑いながらも、飲み込めたようだけど……

「え、えーと……?」

 朧月さんが、理解出来ていなかったので、後でもう一度言おうかと思っていると……

「玉宮さんが合図をするまで、あの変な2匹から逃げ続けて、合図が来たら玉宮さんの所に駆

け込んで、上手く行ったら、さっきの海の家の中に逃げ込めばいいの」

 宵空さん、ナイスフォロー。

「引き離すなら……もう1人、狙われる人がいた方がいいですよねー……誰かやります?」

 朝比奈さんがしれっと 参加者 を焙り出すような発言をした気もするけど……確かにその

方がいいし、単にそう思った上での発言なのかもしれない……そして少しすると……

「誰もいない……じゃあ、わたしやります! お守りにさくちゃんを傍に置くから大丈夫!」

 そのまま朝比奈さんが名乗り出ちゃった……朝比奈さんが狙われる対象なのかどうか見てお

きますか……さて、あたしははねつきをよけながら朝比奈さんとやり取りをし……


「では、あのトカゲイノシシさんが、顔を引き抜いた直後に、トカゲイノシシさんの視界に入

って、走って逃げていればいいんですね?」

 確かに見た目にトカゲ要素結構あるし、猪突猛進して来るからイノシシでいいかもしれない

けど……とにかく、朝比奈さんは狙われる対象だという事を前提として行動するか……ダメだ

ったらチャンスをもう一度作ればいい。さて、そうこうする内に上手いタイミングがやって来

そうだったので、あたしは朝比奈さんに向かって叫んだ。

「朝比奈さん! お願いします!」

「はーい!」

 朝比奈さんが緊張感の無い返事をすると、はねつきの片方が、砂浜から首を引き抜き浮き上

がる。ここで旋回してズレなければ、作戦は成功の一歩手前……そしてそれは、朝比奈真白が

 参加者 かどうかを決定付ける……さて、じっくり見ている暇は無い、今はあたしを狙って

いるはねつきをかわさないと……そして、旋回していなければそろそろ朝比奈さんが……

「みなさん! 今です!」

 最初に提案した 合図 を朝比奈さんが言った……つまり。でも今はそんな事よりも、5人

全員があたしの周りに集合を始めた事の方が重要。そして、あたしたちの両側には、はねつき

がいて、2匹のはねつきの距離の中央辺りに今、あたしたちがいる……そして、両側にいるは

ねつき2匹は、ほぼ同時に羽ばたきを始めたので……あたしは次の 合図 を言った。


「いっせーー……のー……っ」

 これが次の 合図 ……5人皆で一箇所に集まって……

「で!」

 一斉に散る!!

 そして、2匹のはねつきは同じくらいの距離、同じくらいの速度で互いに真正面から衝突し

た。地面にめり込むくらいのスピード同士で、頭からぶつかって行ったなら……でも、それを

確認している暇なんて無い。あたしたちが海の家を目指して走り出していると……

「やったぁぁあー!!!」

 はねつきの不気味な唸り声に混じって、朧月さんが歓声を上げていた……でもね、朧月さん

喜んでいる暇は……あ、宵空さんが朧月さんの手を掴み、走り始めた……とりあえずあたしは

「みんな! 今の内にさっきの海の家の中へ! 急いで!」

 どうやら全員、無事海の家に着いたみたい……氷室さんと桂さんもすぐにここに入って来た

「大丈夫、なのかな。建物を突き破って来たらどうしよう……」

  参加者 じゃないと、視界に入らない限り突撃して来ないという情報は知らないし、そう

不安がるのも無理もないよね……宵空さんはショッピングの時だって、クレープ食べながら、

不安な気持ちこぼしてたし……そんな不安がる皆の様子を見兼ねたのか、桂さんがこう言った

「とりあえず……私はスルーされてたみたいだから、外を見て来る……こないだ買った双眼鏡


荷物の中に入れっぱなしだったし……」

 確かに 参加者 じゃない人が双眼鏡を使えば、はねつきがいないかを確認する事が出来る

 それを聞いた朝比奈さんが、少し間延びした声で言った。

「では、まゆちゃん……お願いしますー」

 さて、これであたしを含めた7人中、桂さん、さくちゃん、氷室さんを除き、少なくとも2

人以上が 参加者である 事が確定している……さくちゃんが高校生ですら無い以上、それを

抱えてはねつきをよけたあなたは、もう 参加者 で確定何ですよ……朝比奈真白さん。

 さっきみたいに自分から 参加者だと名乗り出るような行為 はそんなに悪手じゃない……

 自分が参加者ですと他の参加者に知らせれば相手の方から自分を狙って来て、返り討ちにす

る事だって出来る 。そして 参加者 を倒す事自体はとても簡単で、人間を殺すのと同じ風

にすればいい……というよりも 人間でいる内に 殺さなくてはいけない。でもやっぱり、バ

レない方が動き易いし気楽ではある。本当の所、今日は何人の 参加者 に バレ たのかな

 さて、そんな物騒な事を考えている内に1時間が経過、桂さんが一旦戻って来た。

「うーん……」

 宵空さんが唸り始めて、あたしもそれに続き、唸りながら言った。

「もう、あのヘンなの……いなくなった、でいいのかな……」

 そして、この微妙な空気を吹き飛ばす言葉が飛び出した。


「建物の中。安全でしたね!」

 でもね、朝比奈さん。まだ上空にはねつきがいたら、朝比奈さんが外に出ると、はねつきに

見付かって、また追い掛けられ始めるんだよ? とりあえず時刻は夕方くらいで……もう少し

時間を潰せば18時になって、はねつきは視力を失い、外に出ても大丈夫になるんだけど……

 あたしがそう考えていると、何か唸り声のような音が、朧月さんのお腹の方から聞こえた。

「おなかすいたー」

 朧月さんがそう言うと、そう言えばここは海の家だった事を思い出し、氷室くんが言った。

「だなー……メシにするか!」

 桂さんを待っている間に、みんな着替えとシャワーを済ませておいたし、それもいいかな。

 とりあえずあたしは再び、チキンクリームカレーを注文。もう一度食べたかったんだよね。

 さて、朝比奈さんが 参加者 だと確定した事だし、ここは聞いておくか……

「そう言えば、さくちゃんの年齢、まだ聞いてなかったね……ねぇ、いくつなの?」

 あたしがそう聞いても、さくちゃんは恥ずかしそうな顔をして何も答えない。すると……

「はい、はーい! みなさん、ちゅうもーく!!」

 朝比奈さんが何やら通信機器を取り出し、その画面に画像を表示していた……そこには。

 内の高校の制服を着た、朝比奈さんと さくちゃん のツーショット写真が表示されていた

 あたしは、持っていたスプーンをチキンクリームカレーの中に落とし、こう言った。


「え……朝比奈さん……いくつなんですか……?」

 そして朝比奈さんは元気よく、こう答えた。

「はい! 朝比奈真白、高校二年です! さくちゃんとは同じクラスです!」

 それを聞いたあたしは、しばらく口をぱくぱくさせて、やっと言葉が出るようになった。

「え……? さくちゃんさん? 高校二年生? あたしが一年だから……先、輩……?」

 さくちゃんこと、朔良望が 参加者 である可能性が出たのは、この際どうでもいい……

「え……? え……?」

 目の前にいる小学生のように背がちっこくて、まるで人見知りの子供のように恥ずかしがり

屋さんで、淡い水色の髪がキュートな中学生かどうかすら怪しい、朔良望さんは……あたしよ

り 年上 です。そんな信じ難い事実が、あたしの口を開き、喉を震わせ、叫ばせる。

「えぇぇええぇえーーーーーーっ!!!!???」

 さて、そんなショックから何とか立ち直った頃、みんなの様子を見て氷室くんが言った。

「あのヘンなヤツが、まだうろついてるかもしれないが……そろそろ解散にするか?」

 時刻はもう18時過ぎ、はねつきは視力を失って、自由に出歩ける……あたしの方から言うま

でも無く、みんな解散の意見に賛成で、あたしは さくちゃん先輩 の方をもう一度見てから

海の家を後にした……そして、家に無事着いたので朧月さんに安否の連絡をした。

「めいちゃん! 生きてるー? 私、生きてるよー! いやー……もう、何でまたあんなのに


遭っちゃうんだろ……これで最後にして欲しいよぉ。あ、みっちゃんに代わるね」

 朧月さんがそう言うと、宵空さんの声が聞こえてきた。

「今日は大変だったけど……楽しい事もいっぱいあった……こうして生きて無事に帰れたから

言える事だけど……」

 本当に今日は、朧月さんと宵空さんとたくさん喋って、たくさん笑って……たくさん驚いた

はねつきが来なければ本当に最高の一日だった……

 でも参加者は 有明高校の生徒 。ゲームを始める前、選択項目は有明高校一年から三年の

3択で固定され、あたしは 二年男子玉宮涼[たまみや りょう]の妹の高校一年 を選んだ

 朝比奈さんとさくちゃん先輩は二年生で、お兄ちゃん経由で、さくちゃん先輩も 参加者 

の可能性がある事を事前に知る事だって出来なくは無かった……朝比奈さんとさくちゃん先輩

……どちらかが 参加者 である事は間違い無い……桂さんと氷室さんが候補から除外出来そ

うなのは収穫だけど……今、こうして通話している宵空さんだって 参加者 の可能性もある

し、朧月さんだって……

「どうかした?」

 通話したまま考え込んでいると、宵空さんが呼びかけてきた、そこであたしは……

「宵空さん、朧月さん、ちょっと聞いて――」



 はねつきは知能を持たないのが弱点だな…… この方向に参加者がいるので突進する ……

そこで仲間を呼んだり、物陰に逃げ込んだ所を覗き込んだり、それが出来ていれば、夜になる


まで 参加者 たちを追い詰める、驚異的な存在になっていただろうに……今日の海での一件

の時に、もしもはねつきが、大量に出血をしていたら、少し離れた所にいる周囲のはねつきた

ちを呼び寄せる事が出来たが、顔面同士が衝突して、顔が少し潰れた程度ではそこまで出血は

しなかったか……その2匹のはねつきは、上空まで戻ると目標を見失い、明日の朝にはその傷

もほとんどなくなっているだろう……はねつきはかみつきと違って、傷の再生が遅い分、今回

のゲーム中、ずっと存在し続け、それが日を追う毎に増える…… ここに来た 時と比べ、本

当にはねつきたちは数が増えた……もう三桁程度にはなっていると断定出来そうだな……

 さて結局、はねつきが向かった先にいたのは、二年が朝比奈真白、朔良望。一年は1人しか

断定出来なかった……朧月瑠鳴と宵空満は、他の 参加者 がいる方向に紛れていた可能性が

否めない……追われている筈なのにくつろぎ始めた、桂眉子と新は、何度も視界に入っていた

上で、狙われる事は無かった……だが、孤立している時に2匹のはねつきに同時に狙われてい

たお前は 参加者 で確定だな……玉宮明[たまみや めい]!

 しかし、半月以上もここで費やしたその収穫が、参加者1人の特定と候補者2名の情報とい

うのは、咄嗟に 能力を2つ も使った割には、実に不作だな……だが、何も得られないより


はマシというものだが……私はこのままゲーム終了まで、こうして 空の上 で過ごすだけの

日々を送り続けるのだろうか……そう考えると、寂しい感情さえ込み上げて来そうだ――




「夏祭り……?」

「あー! そうだよ! 今度の土日は夏祭り! 最終日は花火が、どーん!」

 あたしは、宵空さんと朧月さんに、例の花火大会に誘ってみた……どちらか、もしくは両方

が 参加者 かもしれないし、そうだとしたらあたしが 参加者 だとバレてしまったこの状

況で? 罠に掛けるなら前日ならいざ知らず、ほぼ来週という十分な準備期間を与えてしまう

このタイミングで? 一体あたしが何を考えているかって? じゃあ今から言うね。

「それでね、宵空さん、朧月さん」

 ねぇ、何て言うと思う? まだ2人が参加者と決めるのは早いよ? その段階で宣戦布告?

 それじゃあ今度こそ、このまま続けて言うね、正解は……

「近い内に……浴衣、買いに行かない? 前にショッピングしたあの場所で……前に言ったよ

ね? また、みんなで買い物に行こう……って」

 はい、そういうわけです。あたしは、宵空さんと朧月さんと……夏祭りを満喫したいだけ!


「浴衣かー……どんなのがいいかなー……」

「大丈夫、選んであげるよ」

 そう反応した朧月さんに宵空さんが言ってました……というわけで、あたしは今度の土日に

買ったばかりの浴衣を着て、宵空さんと朧月さん、もしかしたら桂さんも来るかも? とにか

く、みんなで夏祭りに行きます。マスターが今回の最終日に夏祭りの花火大会というイベント

を用意したという事だから、その辺は警戒しておきたいし、他の 参加者 から、あたしが狙

われる可能性も一気に高くなったこの状況だけど……別にこういうのもアリだよね? だって

今は――


  夏休み なんだから。

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