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最終兵器マガツキ  作者: 竜世界
第四章 ゲームマスター
15/18

朔良望(後編)

 

 月曜日


 ゲーム開始前って 参加者 たちが人間として活動する用の苗字や名前を決めるんだけど、

そのサンプルの中には 有明 もあるし 有明高校の制服 の説明を…… 制服 のデザイン

は冬服を採用してて、夕焼けのように茜色なセーラー服は襟や袖などに月光のような色合いの

白い線が引かれ、スカーフも同じ色だけど……どちらも淡く輝く性質を持たせてる上に返り血

を浴びたり吸い込んでも、いつの間にか汚れも取れて元の白さに戻るから、常にぼんやりした

白さを保つ仕様……学ランの方ではボタンと襟元と袖口の縁などがこの色で、ボタンは金属製

だから同じ色でも質感がまた違い、各ボタンの表面には校章が刻まれ、全体が茜色なのは共通

……設定上は ゲームの舞台となる高校の制服 だからねー……こんな感じにしてみたよ……

ここらで《流浪》…… 人間としての活動名 は朔良望[さくら のぞみ]……と朝比奈真白

[あさひな ましろ]、以下ヒナ……の様子を見に行こう……もう夜だから家でヒナと向かい

合わせで寝てる《流浪》だけど 有明高校の制服 を着てる事に注目……他の 参加者 同様

《流浪》には ステージ3あかつきでは有明高校全校生徒は制服の常時着用を無意識で行う 

と伝えてて、別に今夜はヒナだけその状態解除して好きな服で寝てもいいって提案したんだよ

ね…… 制服を着てないと自分が参加者だという情報を晒す 事にはなるけど 単なる雰囲気


作り の処理だし、屋内で寝てる間なら別に……でも《流浪》とヒナは見ての通り、 制服 

を着たままベッドで静かな寝息を立ててます……《流浪》は示された道があれば、とりあえず

進んじゃうみたい……じゃ ステージ3開始前のメッセージ を表示したら次の日へ行こうか


「 あかつき の放つ光は かみつき を次々と生み出す。 かみつきはとても見境が無い 

 あかつき は三日目から出現し、その出現時間は2段階。 あかつき の光は時に 白いか

みつき を生み出し 白いかみつきは参加者だけを狙う 。最終日は八日目の6時となり、そ

の日の零時には、このゲームの最後を飾るに相応しい 最終兵器 に関する情報を公開する」


 火曜日


「あらあら! るーちゃん! みーちゃんまで!」

 まだ午前中の休み時間……《流浪》とヒナが教室で過ごしてると、朧月瑠鳴[おぼろづき 

るな]と《潜在》である宵空満[よいぞら みちる]が訪れヒナが思わず驚きの声を上げ……

「さくちゃん! ほら、挨拶! 挨拶!」

 再び叫ぶヒナの背後から隠れ気味に覗き込む《流浪》は、《潜在》と朧月瑠鳴が 参加者 

である事を警戒……とは違い、単に学校という場が今も不慣れで怯えてる様子……挨拶しよう


かと《流浪》が迷ってる間に休み時間も終わりが迫り、《潜在》と朧月瑠鳴は足早に去る……

一気に夜の話になるけど、ヒナが自宅のPCで通販サイトを適当に眺めてると、数多のバナー

広告の中からキャンペーン開催を知り、特設ページを開くと膝枕してる《流浪》に声を掛ける

「サイコロを振って豪華賞品をゲットしよう……ゲームで獲得したシリアルコードを最寄りの

コンビニで記入すれば様々な景品と交換出来ますだってー……興味ある? ……さくちゃん」

 《流浪》は頷いてゲームを遊び始める……プレイするのは迷子のお姫様をゴールのお城まで

導くデフォルメされたRPG風グラフィックのすごろくゲームで、サイコロ振る時にボタン押

すだけの簡単操作……マップは下から上へ進む感じだけど全体的にグラフィックが大きいから

最初の数マス部分しか見えて無い……《流浪》が最初に止まったマスではサイコロがダメージ

を受け、6面サイコロが剣で袈裟斬りされるエフェクトと共に若干赤く点滅すると4面に減り

そのまま振り続けてたら道が左右に分かれ、右側を塞ぐマスを途中で踏んでたので《流浪》は

残りの目を左に進み、更にあった分岐を右に進む内にゴールの城が見えて来て……やがて踏ん

だマスではサイコロが青緑色の光に包まれ、その内側で白一色になったサイコロの形状が変化

し6面に修復されるイベントが……次に《流浪》がサイコロで5を出すと3マス進む事になり

そのままゴール……画面には先頭がPで始まるシリアルコードが表示され 王冠が出れば今回

の消費ポイント半分 というメッセージが出て王冠の目以外は空白のサイコロを振る事になり

……空白面が出てプレイ続行と終了を選択するボタンアイコンが出現……このすごろくは会員


ポイントを消費してプレイするんだけど元の消費が少ないから当たらなくても痛く無い……こ

こで私は このすごろくゲームの情報を取得 ……こんな風に 目の前にゲームの類があれば

その情報を取得出来る のが私で……トランプのように色んな遊び方のあるゲームは 遊ばれ

た記憶を辿る 感じなので使い古されたゲームほど取得出来る情報も多い……今回はデジタル

ゲームだからプログラム処理などのゲームデータが取得されます……特設ページを読んでれば

シリアルコードの先頭文字は PBSG の4通りで、紙、銅、銀、金の意味に対応してるの

は判るけどシリアル表示後に振れるサイコロの王冠の目がPなら1つ、Bだと2つ、Sは3つ

Gが6つで、Gのサイコロは王冠部分が彫刻で全体が適度な量で虹色に輝く金のサイコロとい

う情報は載って無い……でも初めて見た時のサプライズを重視してるなら歓迎だね……場合に

よるけど私はゲームサーバーまで辿って他のプレイヤーの様子も取得出来るよ……《流浪》は

更に遊びたいみたいでヒナはただ《流浪》を眺めてる……私も少し遊んでみよっと……取得し

た情報から同じゲームを生成……乱数だけは私が今まで使って来た 新しい乱数 にして……

では開始……このサイコロ振るまで回転待機してるアニメーションって回転状態の画像をある

程度の枚数でループしてるだけだから目押しが出来なくて、一時停止出来れば目の描画がいい

加減なのバレたりする……灰色で円形のマスに止まると青、赤、黄、緑の4色のどれかでマス

が鮮やかに点灯し、その段階で色毎に用意されたイベント項目を乱数で決定するからマップに

配置されてるマスの位置は固定だけど、イベント内容は毎回ランダム……青はプラス系、赤は


マイナス系、黄はポイント獲得系の項目が多めに用意され、緑はその3種が均等に振られてる

……今私が止まったマスは青く点灯し引いたのはサイコロダメージ……比率は少ないけど青に

もマイナスイベント項目が割り振られてて、どの色もプラス、マイナス、ポイントのイベント

3種がある感じだから如何に乱数でいい項目を引けるか祈るゲームだね……分岐が見えて来た

けど右がゴールまで一本道なのに対し左は森で、その途中で更に左右に分岐し、共にゴールま

で続いてる……つまり5つのエリアがあり、4色の項目欄内容もエリア毎に変化……森の中は

サイコロダメージやマス戻りの項目が増え獲得ポイントも全体的に減り、マスの数が右奥より

多い森の左奥では赤になる確率がアップしててポイント引けても半減水準と喜べない……さて

状況は最初の分岐マス手前のマスで緑に点灯しサイコロが2つになるイベントを踏んだけど、

あれから4面ダイスのままで、それから最初の分岐マスに調度止まったけど既に右に行く事は

決まってて、更に進むとマスが黄色く点灯しポイント獲得……黄マスは青マスよりもポイント

が多く貰えるし右の一本道の時は更に美味しい……マイナスイベントの時って稼いだポイント

は減らないけどポイント自体が貰えない……続く右の一本道を順調に進み、あとはゴールする

だけかと思いきや、ここでマスが赤く点灯し、発生した竜巻で隣のマスに吹き飛ばされる……

この項目は森の中だとクマに追い掛けられ隣マスへ移動する項目に変更されるけど左のルート

に飛ばされる事は共通で、移動先のマスが少しでも下の位置にズレてれば下のマスへ移動する

処理……一度森に入ると出られないから何度もプレイしてると、ずっと森の中にいる印象が残


りそう……酷い時には森の入口まで何度も戻されるし……今サイコロ2つだけどサイコロ2個

時にサイコロが増えるイベントを踏めばサイコロが減る内容に変更され、サイコロダメージと

サイコロ修復もこの関係なのでゲーム中に振れるサイコロの状態は4面か6面……その2種類

のどちらかを1個振りか2個振りの計4パターン……さてゴールも近付きサイコロ修復引いて

2個振りで出た目は8……残り7マスだから丁度じゃ無いけど押し戻す処理は無いのでゴール

すると、P相当のポイント……もう少し獲得ポイントがあればBだったんだけどね……そんな

すごろくゲームを《流浪》は夜ご飯のカップ麺を挟みながら何時間もプレイし……時々ヒナと

交代もして《流浪》は淡々と、でも何だか楽しそうに遊び続け相当なプレイ回数になったけど

ここはヒナが主に利用してるサイトだから会員ポイントは大量で結構消費したものの割合的に

はまるで削れてないね……プレイ光景を幾つか挙げると……《流浪》は森左奥ルートが続いた

挙句、サイコロを振る度にクマに襲われ森の左右ルートを何度も行き来してゴールまで時間が

掛かってたり、ヒナも結構森に入ってゴールまで手間取ったけど……その分ポイントを稼いで

プレイ回数の割りにBとSが取れてたね……結局《流浪》もヒナもS以上は行けず、金のサイ

コロを拝む事無くSは数える程度でPよりBがやや多い結果で終了……今では《流浪》とヒナ

は共に 制服 で就寝中……夜ご飯のデザートはバニラアイスに塩辛でした……ステージ2の

時の 日本の塩辛大特集セット をステージ3開始前に《流浪》から要望を確認してたので、

全パターン一括の常に鮮度抜群状態を保つ感じでヒナの家の冷蔵庫に入ってます……では翌日



 水曜日


 学校が終わると《流浪》とヒナはコンビニへ直行し、通信機器に控えてたシリアルコードを

見ながら手渡された用紙へ記入……景品は結構種類があり《流浪》とヒナは 指定店舗のゲー

センで使える割引券 と 交換先のコンビニで有効な商品引換券 の2種に絞って大量に交換

すると早速、カレーまん2個とあんまん1個に交換し、あんまんは《流浪》と半分こ……それ

も食べ終えゲーセンへ向かい始め……ヒナはふと引換券を取り出し、眺める内に使い切れるか

心配になり……やがて顔を上げれば 有明高校 の生徒2名が傍まで来てる事に気付き、叫ぶ

「まぁ! るーちゃん!」

「あれ? ひなちゃん、その手に持ってるの……何?」

「昨日さくちゃんがね……ネットで、懸賞付きのゲームをやってたら、この券が当たったの」

 すぐにそう尋ねる朧月瑠鳴にヒナが答え……傍で佇む《潜在》は落ち着いた声を響かせ発言

「近くのゲーセンでも使える割引券で、結構枚数ありますね」

「昨夜さくちゃんが頑張って……大当たりじゃないけど、次々と当てたの……そう言えば、さ

くちゃんと一緒にゲーセンに行った事、まだないなぁって……でも……この枚数を2人で使い

切るのはちょっと大変で……あの、もしよろしければ……るーちゃんとみーちゃんも、一緒に


ゲーセン……行きませんか?」

 続くヒナは《流浪》の事を想いながら、ゆっくりと喋り続け……そのまま消えてしまいそう

なほど声の速度が落ちて最後の提案部分からは持ち直すけど……《流浪》は突然の朧月瑠鳴と

《潜在》との遭遇に驚き避難先はヒナの後ろ……朧月瑠鳴が喜んで叫ぶと《潜在》も軽く返事

「え、ゲーセン! ひなちゃんとさくちゃんと……一緒に!? 行く行く!! みっちゃん!

ゲーセンだよ! ゲーセン!!」

「うん……じゃあ、お言葉に甘えて」

 そして仲良く近場のゲームセンターへ……割引券対象のゲームを探すと、狭い部屋には収ま

り切らないほど大きなボード型のチェスゲーム筐体があり……これが初回プレイ無料になるわ

けだけど、まだ辛うじてベータ版と言える段階で、駒を立体表示させる映像装置の動作や投影

の具合と見え方、実際に稼動を続けた場合の保守性……そんなテストも兼ねた先行公開という

のが実情……導入したばかりで珍しがる客も数多いけど皆ギャラリーに徹し、終盤までプレイ

中の先客は両者とも次に客が来たら交代する事を店員に伝えてた為、割引券用の列からそのま

ま入場出来た《流浪》たちは30分待ちと言われ予約番号を受け取り、散策で時間を潰そうとし

てたら格闘ゲームの筐体が目に入り……プレイする内に朧月瑠鳴、《潜在》、ヒナが順に発言

「つまり……このゲームは、ここにあるゲージみたいなのを赤くしてけば、いいのかな?」

「コマンド入力で必殺技も出せるみたい」


「いろんな必殺技があるねー……さくちゃん。あれ? ちゃんと入力してるのに技が出ない」

 そんな調子で操作方法やゲームシステムを探って行き……やがて《流浪》が朧月瑠鳴と対戦

……《流浪》がキャラをランダムセレクトすると忍者のようなキャラになり、まだ操作に不慣

れな朧月瑠鳴の侍キャラの攻撃を悉くかわし、余裕が出て来てコマンドも適当入力し始め幾つ

か成功……接近戦は怖くて出来ないけど相手の体力を削りながら逃げ回るのは時間制限方式の

このゲームでは有効だし2本先取制……《流浪》の忍者が2回連続でラウンドを判定勝ちし、

背景に広がる牧草を食んでたホルスタインの1頭が急にこちらを向く中、ヒナの歓声が響くと

キャラクター選択画面まで戻り、《流浪》が素早いレバー捌きで忍者を選択するも手が止まり

続けるか悩んでると交代する流れになり《潜在》が朧月瑠鳴と同じ侍を選びミラー戦……さて

ちょっと語ろう……この格闘ゲームは3ラウンド目で相討ちになった場合4ラウンド目があり

更に相討ちが続けば、どちらかの勝利マークが2つになるまで続行……相討ちが続けば何ラウ

ンドでも増える……こんな感じで ゲームって定められた条件を満たすまで終わらない ……

私が運営するゲームの終了条件は 参加者が3名以上死亡する事 だけど……この先、条件を

満たそうと残る2名の内1名以上が望めば続行出来るし、その結果相討ちとなり 参加者全滅

エンド になっても 参加者 が互いの願いを叶えようとした事に、揺るぎは無い……それに

しても、こうしてゲーム筐体を眺めてると思い出す…… ゲームは遊んでくれる人がいないと

動けない 事を……この筐体だって《流浪》たちが来なければデモ画面をただ延々と流し続け


アナログゲームだとそれさえ無くて、ただそこに在り続けるだけで……もしも対戦中にプレイ

ヤーが両方いなくなり操作が途絶えれば、取り残された対戦キャラは通常モーションを繰り返

しはするけど、そのまま誰も遊ばずに放置されたらゲームのキャラは勿論、レバーもボタンも

二度と動かされる事は無く、ただ寂しい空気に晒される日々……そう考えてしまうと、どうし

ようも無い気持ちになる……私は ゲームマスター だけど、その前にアナログゲームとデジ

タルゲームの複合体……誰にも遊ばれずに長い永い時間を取り残され続けて来た記憶も、集積

してる……だからこうして皆で楽しそうにゲームを遊んでる光景って本当に嬉しいよ……あ、

店内アナウンスでさっきの予約番号が……《流浪》たちはさっきのチェス筐体へ向かうから格

ゲー筐体は取り残されちゃう……でもここはゲームを遊びたい者が集まるゲームセンター……

また誰かが遊んでくれるって信じて待てるから、大丈夫……チェス筐体へ向かった《流浪》た

ちを追いながら、まだ私が 参加者 を集め始めてた頃のやり取りを一人二役で再現するかな

「つまり、 命を賭して自らの願いを叶える ……そのようなゲームの 参加者 を探すべく

呼び掛けを行っていると……? 本当に、どんな願いでも叶うのか?」

「ゲームの面子次第では叶えられる願いの大きさは変わってしまうけどねー……願いの内容が

大きいか小さいか決めるのは、あなただけど、叶えられる内容自体には相場があるって感じ」

「 3名死亡 ……つまり過半数か。途方も無い願いの時は更に1名の 命 を奪い、それで

も叶わぬなら、願いの内容…… 生存の報酬 を妥協する必要性が生じると……なるほどな」


「そういうわけです……どう?  参加 する? あなたの願いは 参加した3名分の命 で

叶えられるような願いかな?」

 声まで適当に変えてた独り言終了……私の台詞は完全再現だけど、 参加者の口調はゲーム

参加後に性格ごと変わりがち で、このあと断られた可能性もあるから……これがこのゲーム

の 参加者 の発言かは伏せちゃおう……さっき《流浪》とヒナがあんまんを仲良く分けてた

けど、このゲームでも 参加者3名死亡による報酬 を残った2名で仲良く分ける事は出来る

……でも 互いの命を奪い合うゲーム でそんな展開になるのかと言うと、考え難い……さて

あれから《流浪》たちは例の大型筐体でチェスを始め《流浪》と朧月瑠鳴が対戦する事に……

その試合も大詰めで、今や《流浪》のクイーンと朧月瑠鳴のクイーンが向き合ってる状況です

「勝負だよ……さくちゃん! 私のクイーンと、さくちゃんのクイーン……どちらのクイーン

が上なのか……白黒ハッキリさせるよ! さぁ、かかっておいで!」

 叫ぶ朧月瑠鳴の威勢に誘われるように《流浪》が黒のクイーンを白のクイーンと同じマスへ

踏み込ませ、斬り合いが始まる……筐体の盤上で立体投影された両者が見せる剣と剣の応酬は

めまぐるしく、刃と刃が衝突する度に重厚な金属音が響き渡る……ここで人間の女性を模した

クイーンの造形を簡単に……チェスの駒だから白か黒の単色だけど身に着けてる鎧は肌の露出

部分が際立つ軽装形状で所々の装飾の意匠も凝ってて、顔上部を覆うバイザー付き兜の両端に

は翼飾り……これで背中に大きな翼があればRPGで言うバルキリーだなぁと思ってたら白の


クイーンが明るい時は黄緑に輝き、その光が弱まると青緑……そんな風に明滅する緑の翼を広

げ上空にいる……このゲームの駒が出すエフェクトは同じように明滅し、その強弱は様々……

やがて白のクイーンが剣を素早く振り回すと太刀先全てが緑色の刃となり、地上の黒のクイー

ン目掛け次々と襲い掛かる……この光景に《潜在》は思わず声を上げ、気が付けば地上に黒の

クイーンの姿は無く……次の瞬間、分厚い金属同士が激突したような音が上空でけたたましく

鳴り響く……これは黒のクイーンが飛び上がり剣を白のクイーンへ振り下ろし、その一撃を白

のクイーンが剣で受けた事による音だと判るけど……黒のクイーンの背中には今、大きな翼が

広がってる……黒のエフェクトは輝きが増すと赤紫、暗くなれば青紫だから、この両翼もそう

明滅……白のクイーンの翼が縦長気味の菱形を複数組み合わせたような平面形状なのに対し、

黒のクイーンは鳥の翼がそのまま紫色の炎になったような絶えず燃え盛る不定形状……剣を受

け切れ無かった白のクイーンは地上へと落下し盤と激突……すかさず《潜在》の叫び声が響く

「紫色のオーラが……燃え上がるように、全身に!?」

 未だ上空の黒のクイーンが剣をかざすと翼と色以外は白のクイーンと同じその姿全体を青紫

色の炎で燃やし始め……炎が鮮やかで眩い赤紫色になると同時に一気に膨らみ、それが収まる

と明滅しては燃え盛る紫の炎が黒のクイーン全体を包む状態となり……剣を白のクイーンへ向

けるや、その身体を弓で放つかの如く突進……置き去りの身を包む炎は紫色の尾を引いて行き

剣先が白のクイーンまで届きそうな頃、砕けた盤面の窪みに埋もれたばかりの白のクイーンは


その仰向けの身体のまま緑色のオーラをドーム状に展開……燃える紫色の突撃を黄緑色に発光

し続けるバリアで弾かれた黒のクイーンは素早く体勢を整え、その高度を維持したまま剣を掲

げ……たちまち刀身が紫色に燃え盛る炎で覆われ刀身の大きさを越えて広がり……その規模の

まま減衰し炎が消え去ると黒のクイーンの剣の刀身はひと回り大振りになってて、赤熱してる

かの如く赤紫色に輝き、刃の周りに同じ色の粒子が幾つも漂う……赤紫色の光が刀身を覆って

る状態だから剣自体のサイズは変わって無いけどね……白のクイーンの全身を包む黄緑の障壁

が依然とある中、大剣を両手持ちにした黒のクイーンがその正面に移動するや白のクイーンを

頭から両断するような軌跡で赤紫色の一閃を描き、黄緑の障壁ごと白のクイーンの身体を断ち

斬る……チェスの駒だから切り口は綺麗な平面だねー……緑のバリアは消え失せ、暗い青緑色

の炎が両断された白のクイーンの身体を覆い始め……一気に燃え上がり黄緑色に眩く煌くや、

すぐ消えて、その瞬間だけで白のクイーンを燃やし尽くしたかのように盤上から白のクイーン

を完全に消し去り、黒のクイーンは体勢を待機状態へ戻し始めてて……朧月瑠鳴が静かに呟く

「……勝負あった、ってヤツだね……」

 キングの駒を取られて無いし、まだ序盤……でも朧月瑠鳴は戦意の無い様子で言葉を続ける

「完敗だよ、さくちゃん。クイーンはチェスで最強の駒……その駒同士をぶつけて負けたって

コトは、この先何をやっても、さくちゃんの黒い駒たちには勝てないってコトだよ……」

 そして朧月瑠鳴はウィンドウを呼び出し RESIGN と書かれたボタンを押す……読み


はリザインだけど振られてるルビは 投了 だね……お互いルールが解らないなりに駒が動け

る範囲の表示を頼りに何とか続けた末……負けを選んだ今の朧月瑠鳴の表情は満足感で満ちて

て《流浪》には勝者を見つめる眼差しを注いでる……ゲームはルールを理解してた方が大抵は

楽しめるけど、こんな風に気持ちを込めて精一杯あれこれ試してくれるなら、ルールを知らず

に遊ばれるのも悪いもんじゃない……そこにゲームがありプレイヤーたちがいて、皆が楽しく

遊んで過ごす……そんな何よりの本懐が果たされた光景が眺められるのは、もう本当に嬉しい

「チェスって、こんなに派手なゲームなんですねー……ほら、さくちゃん」

「いいよ、さくちゃん……無理しなくて。勝者がそんなにおどおどして、どうするの? ここ

は勝ったのを素直に喜ぶとこだし、それを言葉じゃなくて身体で表わしたっていいんだよ?」

 ヒナの後に朧月瑠鳴の発言が続く……さっきから《流浪》が口を動かしてるけど言葉が伴っ

て無い……このチェス筐体のゲーム情報を取得しよう……駒を取る際の組み合わせ全パターン

分の戦闘イベントが用意されててクイーンやキング絡みの時は戦況に応じ何段階もあり、大駒

同士や大駒が小駒に倒された場合及びプロモーションでチェックメイトの時の個別演出が長く

クイーンの翼を色違いで済まさなかったように白と黒でモーションの方向性を変えてたりと実

に凝ってる……それでも結局、演出がすぐ終わったり長過ぎたりと両極端で見慣れてしまえば

長いムービーを延々と見せられてる印象だけが残るし、駒を取る度戦闘発生だから対局時間も

相当長引く事になるのが痛い……懸命に何か言おうとしてた《流浪》がやっと言葉を放ちます


「あ……!」

 この一言だけで顔どころか身体までかなり緊張してて、息も乱れ気味……次の一言が続くよ

「りが……!!」

 今度は叫ぶような大きさ……ここで落ち着いたのか表情が少し和らぎ次は若干緩やかに発言

「と……う……」

 最初は緊張のあまり苦しそうだった《流浪》の表情も感謝の気持ちを何とか言えた今は大分

ほぐれてて、少しだけど笑ってるかな……そんな《流浪》へ朧月瑠鳴は満面の笑顔で声を放つ

「私もだよ……今日は一緒に遊べて、本当によかったよ……ありがとう、さくちゃん!!」

 《流浪》の顔が恥ずかしさで染まり始め、結局ヒナの後ろへ避難……まだ券は残ってるけど

解散の流れになり《流浪》は未だヒナの背後にいて……朧月瑠鳴が手を大きく振りながら叫ぶ

「今日はありがとう! 楽しかったよ!! ひなちゃん! さくちゃん……まったねー!!」

 そんな朧月瑠鳴に微笑みを浮かべながら軽く手を振るヒナ……ヒナの 制服 の裾を掴んで

た《流浪》は意を決するように、その手に力を込め、もう片方の手を伸ばし始めたものの……

結局、《流浪》は腕を満足に伸ばせぬまま振る事も出来ず、《潜在》と朧月瑠鳴が横に並んで

帰って行く様を眺めてただけでした……《流浪》とヒナも隣り合い、方向は別で歩き出す……

18時間際の違う場所での話だけど、 有明高校の制服 を着たピンクのツインテール女性が道

を進んでて、やや遠くの建物の屋上には 有明高校の制服姿 で緑髪の眼鏡男性……《分裂》


が拳銃を構え《操作》を狙ってて、18時になるのを見計らい狙撃……結構大袈裟な炸裂音を響

かせてる、この拳銃はゲーム開始前からネットの専用サイトで購入可能で中距離辺りから メ

ニュー画面 に自動調節機能付きの照準が表示される特別製……今までずっとアクセス出来た

専用サイトも ステージ3あかつき水曜18時からは閉鎖 ……双眼鏡も用意せず開けた場所で

その身を晒してる《分裂》は《操作》が胸を押さえながら倒れるや、すぐ近くで 赤い渦 が

発生する様子を見て満足し、拠点である自分の家へ《流浪》で帰還します……サイトでは防弾

ベストも販売してたけど、 ステージ3では上に制服を着てれば重量と着膨れ具合が免除にな

る 事をステージ3開始前に《操作》に説明したら《操作》は防弾ベスト着用状態で始めたね

……正確に狙えるか疑問が持てそうな距離になると表示される拳銃の自動照準機能は 相手が

防弾ベストを着てた場合、必ず防弾ベストに命中 しベスト部分への被弾処理は 銃弾の衝撃

を完全に吸収 だから着用者は無傷……さっきの銃弾は防弾ベストに当たり、その情報を メ

ニュー画面 で確認した《操作》は咄嗟に胸を押さえ前のめりに倒れ込み……近くに坂があっ

たので下へ転がる事で誰かに見られる可能性を軽減して《流浪》を発動し、拠点である自分の

家へ避難……つまり銃弾が胸部に直撃した演技をしてただけ……そうとは知らずに《分裂》は

今や《操作》の 死亡 を確信した表情……《操作》の安否という直接的な事は答えられない

けど今日の18時前後の状況変化を聞く流れの中で探りを入れるくらいなら出来るのに……誘導

が巧ければヒント出しちゃうし……今日の18時以降、空に浮かぶのは月ではなく まがつき 


と同じやや青みを帯びた真っ赤な色の光を怪しく放つ あかつき ……今日と明日は21時が近

付くに連れてその光量を増し、21時以降は減衰……零時には光どころか、 あかつき 本体も

消滅…… ステージ1のかみつきは透明度が高い状態で現れ、ある程度透明度が下がるまでは

参加者以外には視えない のに対し 赤い渦 がある今回、 かみつきの出現位置予告 みた

いな事に…… あかつき出現中は常に赤い渦発生用の乱数が振られる んだけど……《流浪》

とヒナの様子に戻ろうか……あれから結構経ち、目の前には 赤い渦 ……ヒナが呟いてるよ

「何かきらきらしてるねー……さくちゃん。血がそのまま霧になったみたいに煙が真っ赤……

この水溜りって音も感触も無いのに波紋が広がるんだなぁ……あれ? 何だか、気分が……」

  この赤い渦から出て来るかみつきって20分後に溶け切る から、最初から身体が溶け始め

てて色も赤黒くて30分以内に かみつき を5匹発生させ、その間隔は乱数で決まる……乱数

次第では 参加者にのみ反応する白いかみつき が出て来て、青白いその身体は蛍光灯のよう

に発光し溶ける事は無く、活動20分間際で発光が止まり一気に溶ける……通常の 黒いかみつ

き と区別出来るようにしたんだけど 赤い渦から出て何分経過なのかが溶け具合で判断出来

ない 相手に……ヒナが具合の悪さを少し訴え、それが顔にも出てたように、 参加者以外が

赤い渦の煙部分に触れると、めまいや恐怖など精神が結構悪化して行く ……この情報は 参

加者 には公開してないけど自身に影響が無い事に気付き私に聞いて来たら教えます…… 赤

い渦の縁から巻き上がる煙と地面に広がる水溜り部分はあかつきと同じ色で、煙がある程度の


規模になると煙の陰影部分が内側から金色の輝きを放つかの如く反射 し、実際に発光してる

から、暗い所で見れば金色の光に照らされる真っ赤な煙が渦巻く様を拝めたりも…… 赤い渦

は光が地面を照らした部分のような扱いだから水溜り部分の感触は元の地面と同じ …… か

みつきが赤い渦から出て来る時は池などの水面から浮上するような処理になる けど……昨日

までは夜の空は黒く、辺りは暗かった……それが今夜 あかつき の放つ光で街並みが21時に

近付く連れ、血で染まったかのような景色へと変わる……今は18時を少し過ぎ、まだ暗くなり

始めの夕方くらいの明るさ……ヒナは《流浪》を連れ 赤い渦 を避け、 かみつき が出て

来ない内に逃げ切れて……それから暫く時間が経ち、分かれ道の片方で再び 赤い渦 と遭遇

「ここにも水溜りがあるねー……あ、何か出て来た。さっき踏んだ時は地面と同じ硬さだった

のに水の中から浮かび上がるみたいだなぁ……この黒と白のみなさんだったら泳げるのかな」

 ヒナが呟いた通り、渦からは 白いかみつきと黒いかみつき が1匹ずつ割と同時に這い出

し始めてて……どちらも自分を狙う事に変わり無いので《流浪》はヒナの手を強く引き、先を

急ぐよう促す……渦の無い方を進んだけど、その先には開けた場所があって…… ステージ3

の今夜は街中でかみつきが発生する初日 ……それをアナウンスする感じの出来事が欲しいの

で広めの場所を何箇所か選び、そこに 有明高校の生徒たち を集めるべく乱数を振り始めた

のが18時……《流浪》とヒナが到着したけど、ここは一番大きな乱数が引けて生徒たちは男女

問わず結構集まり、 赤い渦 からも かみつき たちが順調に出現……18時を大分過ぎた今


そこで繰り広げられてる光景を《流浪》とヒナは目の当たりにし、ヒナがぼんやりと発言する

「何だかお食事中みたいだねー……さくちゃん。黒くてドロドロしてて……近くで見ると結構

赤いみなさんが、いーっぱい……どんどん食べてるなぁ……また鈍くて硬い音が聞こえて来た

……あんなに美味しそうに食べてるの見てたら、わたしまで……あ、そうだ……さくちゃん」

 1クラス以上の人数に及ぶ 有明高校 の生徒たちが、その過半数くらいの、 かみつき 

の群れに所狭しと襲われてる……夢遊病状態みたいに連れて来られた生徒たちの意識は かみ

つきがある程度の人数を捕食してから解除 され、バラバラ死体を多くしたくて、 かみつき

動作用乱数 の結果が 噛み切る になり易くしてる……早速生徒2人が一遍に かみつき 

に咥えられてて1人が眼前の惨状を受け大声を出すと、もう一方の生徒が我に返り、口では無

く目を大きく開き……少し遠くで、一時的に厚みを得た血の中へ飛び込む誰かの上半身の音が

聞こえた頃、 かみつき が口を勢いよく閉じ、叫び続けてた生徒と目を見張るばかりだった

生徒の意識は胴体と一緒に途切れ、まだ温かい赤い水の中へと浸かって行きます……皆、色ん

な顔をしては、地面に赤く広がる血溜りの中で散乱する食い千切られた肉の塊の仲間入りして

るね……食べ方や千切れ具合で腕や脚の片方が残るケースも相次ぎ、手が仰向けになって力無

く開かれてたり、うつ伏せの手の爪先から血が滴り落ちてたり……脚は重量がある分、血溜り

の上に落ちた時の音と血の跳ね具合も大きい……さっきから顔が恐怖のまま硬直してる生徒の

生首が微妙な傾きで取り残されてるんだけど、事ある毎に返り血を浴びてるなぁ……他には逃


げようとした生徒が血で滑って転び、後ろから拾い上げるように、 かみつき に食べられて

上半身が分断される感じで落下……残る上半身の顔部分が他の かみつき の足に踏まれます

…… 通常のかみつきの足には物を掴む力すら無い から、このまま顔を覆い、すぐ足を離す

事になるけど……特別措置として この瞬間だけ頭蓋骨を踏み砕ける強さに変更 ……何だか

ヒビの入った硬い物に水分を含ませ、それを一気に踏み潰すような音になり、すぐに血溜りが

細かく跳ねる音が続き、その肉片というか飛沫がさっきの生首へ向かい……眼球が片方塞がれ

る感じに…… かみつきは脚を様々な方向に生やしては引っ込める けど乱数の他に 移動時

に脚が生える箇所を周囲の地形から算出 もしてる……生徒の断面から中途半端に破れた臓器

が零れてるけど……今はヒナが《流浪》の方を振り向き話し掛けてる最中だしその発言の続き

「帰ったら、お肉食べない? 分厚くて肉汁たーっぷりで火傷しちゃうくらいホカホカで……

そうだなぁ……ステーキみたいなのが食べたくなって来ちゃった!」

 そう言い終えた次の瞬間、飛び散った大量の血液がヒナの顔半分に勢いよく掛かり……ヒナ

は《流浪》に向けた笑顔を一切崩さない……そんなヒナを呆然と眺めてた《流浪》は瑞々しい

果物から果汁や果肉が飛び出すようで爽快感に欠ける音を後頭部に感じたので振り向く……そ

の少し前のやや離れた場所で、さっきとは別の生首を かみつき が口で拾い上げ、頭の先端

部分を噛み切ろうとした結果、残った頭部が勢いよく飛び出し、地面に着くや横転しながら進

んでて……それを《流浪》が目にして足元近くまで来た頃には止まったね……丁度むき出しに


なった脳がよく見える角度で……上半分を失った脳の断面を晒してるんだけど、そこまで切れ

味の無いハサミで押し切った感じだから脳の組織が所々潰れてるねー……ここで乱数の結果に

より かみつき の大きな咆哮が命ある者から成り下がった肉の塊が乱雑に群がる赤い池を震

わせ波紋を描く……そんな景色が《流浪》の瞳の中に入り込み、やがて かみつき の咆哮も

収まり僅かの間だけ静寂が訪れ……《流浪》が思考を巡らせ始めたので読み取って要約すると

…… 生き物はこんな風に命を失い、自分も同じ事をされれば目の前と同じ結果になる んだ

と感じてて……関心してた感情が恐怖で覆われ始めてる……ここでヒナの足元に 赤い渦 が

発生し、その縁辺りを片足で踏んでる状況に……沸き上がる真っ赤な煙がヒナの身体を掠める

や突如全身を走った嫌な感触にヒナは驚き、叫びはしなかったけど少し高めの声が思わず出る

「きゃ」

 これにより《流浪》はヒナの方を再び向き、発生した 赤い渦 に気付くと、すぐさまヒナ

の手を引いて逃げるよう促しヒナに手を引かれ駆け出す……地面は新鮮な血で覆われてるけど

そもそも あかつき に照らされた地面自体が血のように真っ赤で、血にまみれた柔らかい肉

たちを赤で塗り潰してるようなもの……ヒトの身体って曲面部分多いから絶えず血が伝い、常

に反射具合が移ろってる……見渡す限り赤く、所々厚みのある血に呑まれそうな人肉だらけの

場所を《流浪》とヒナが靴の裏を血の色で染めながら音を立てて走り……少ししてヒナが提案

「あ、さくちゃん……あそこ……足元は悪いけど、みなさんお食事に夢中だし……いいかも」


 ヒナが指差す先には左右合わせて5匹の かみつき がいて、 かみつきが捕食対象をどう

食べるかは乱数で決まり、近くにある獲物を優先して襲う から、 かみつき たちの周りに

捕食対象が多い状況だと近くを通っても大丈夫な場合も多い…… かみつきは自動車くらいの

大きさ だけど両側の かみつき との間で自動車3台は通れそう……早速その場所へと駆け

込む《流浪》とヒナ……この道は各々の かみつき の口から零れ落ち、腕や脚だけだったり

上半身や下半身だけになってさらに細かく損壊してたりもする生徒の肉塊の群れが何かと密集

気味なのもあり、広さだけでなく厚みも得た血溜りが続いてるから、走る事で跳ね上がる血の

量も多いね……辺りに広がる大小様々な肉片は盛り上がった血で隠れ易いし、 あかつき は

21時に近付くほど光を増すから辛うじて出てる肌の部分も赤くなるばかり……何かの形が血溜

りで浮かんでるくらいしか判らない状況です……実際、《流浪》とヒナはさっきからバラバラ

になった生徒の頭や腕を蹴飛ばしたり身体の一部を踏んでるのにも気付かず何故突然バランス

が崩れるのかも判らぬまま突き進んでる……足元にあるのは基本的に かみつき が噛み砕い

てる途中で零れ落ちた生徒の部分で、骨にヒビが入ってるから踏み付けても硬い感触を受ける

事無く柔軟に変形する……だからこそ骨が無事だった部分が突如続くと足運びのリズムは乱れ

……ヒナの手を離れて少し先を走ってた《流浪》はバランスを取り切れなくなり、上半身だけ

が横たわる胴体に自らの足の甲が潜り込んでるのも知らずに足を上げようとした為、前に倒れ

手を突こうとするけど……その先には一度 かみつき に上半身を食い千切られ、他の かみ


つき が拾い上げ一通り咀嚼し始めるも、既に活動20分目前だった かみつき の身体が先に

溶けてしまい取り残された生徒の残骸が……《流浪》が手を突いたのはその鎖骨部分で、両肩

が結ぶ線と《流浪》の腕がもう少しで十字になりそうな位置関係で《流浪》の手の平が仰向け

の生徒の鎖骨を勢いよく押し、骨が全体的に脆くなってるので大きな窪みが広がるように減り

込んで行く……骨が折れる時って意外と音しないけど、今なら頑丈な骨が折れても音は聞こえ

ないだろうねー……両手を突いた後は胴体に続き顔面が衝突したけど、右手以外は肉片が満足

に無い場所で厚みのある血溜りに飛び込んだ感じだし、その血が大きく跳ねる音の方が目立っ

てる……うつ伏せに転んだ《流浪》の 制服 が血と肉の香りと色をたっぷり吸い込む中、少

し前に遠くから駆け付け《流浪》が倒れてる直後に口を開けて飛び掛かって来てた 白いかみ

つき の歯と歯を閉じる音の方が大きかったけど…… 白いかみつきは参加者しか狙わない 

ので周りの生徒たちには見向きもせず乱数に基きうろつくだけで、多少離れてても通り掛かっ

た 参加者 を的確に狙って来る……《流浪》はこの 白いかみつき の姿が転んでる最中に

見えてたので、転ぶのが少し遅ければ自分がここで 死亡 してた事を温かい血の池に沈みな

がら理解し、心の中で震えてて……起き上がりながら少し遠くから水を跳ねる音を立てながら

迫って来てる 黒いかみつき の姿にも気付く《流浪》……せっかく、この場所を抜ける出口

が見えて来たのにと《流浪》が悔やむ猶予は到底無く 黒いかみつき も自分を狙ってると考

え、既に前方で自分を覗き込むように振り向いてるヒナへ向け《流浪》は拙い口調で声を出す


「むこう……まで……はしっ……て! ひ、な……ちゃん」

 出口にはヒナも気付いてて、そこまで1人で走って欲しいと理解したヒナはすぐに駆け出し

《流浪》に飛び掛かり損ねた 白いかみつき は勢い余って赤い水面を漕ぐように勢いよく転

がってる…… 胴体の至る所から脚を生やす事の出来るかみつきに腹部や背中は存在しない 

ので復帰は早い…… かみつきには人間のような歯と歯茎のある口があり、完全に口を閉じれ

ば足場に対し垂直になるように開き直す事が出来るけど、口を反対側に移動させる事は出来な

いから身体の向きは一定 ……《流浪》はまだ身体を起こし始めたばかりで 制服 ではとて

も吸い込み切れなかった血液が夥しい量で上半身から滴り落ち、足元の血の池に波紋を立て続

ける…… 白いかみつき が起き上がり始める中、後続の 黒いかみつき も追い着くやその

まま《流浪》に飛び掛かり、ほぼ同時に 白いかみつき も続けて跳ぶ……出口周辺では血の

池が途切れてて、その目前まで走ってたヒナが、後ろから聞こえる音が気になって振り返ると

この光景が目に飛び込む……ヒナは思わず足を止め、普段のぼんやり顔を真剣なものにし叫ぶ

「さくちゃん!!」

 次の瞬間、ヒナは裾を引っ張られ……もしやと振り向くと、そこには《流浪》がいて、すぐ

に手を引き出口へと走る…… 白いかみつき と 黒いかみつき は仲良く地面に激突し一面

に広がる血を激しく跳ね飛ばしながら縦に転がってます…… 走行中のかみつきが獲物を狙う

場合は必ず一定距離で最初の獲物に飛び掛かる からタイミングを見切ってスライディングで


格好よく回避出来なくも無い……周りに複数匹いたら対応出来ないけどね……《流浪》は既に

出口周辺が視界に入ってたからヒナの隣に《流浪》で移動した感じです……出口近辺に 赤い

渦 があれば危なかったけど、この先には両隣の家のブロック塀で一本道が形成され……その

周辺には 赤い渦 も周辺をうろつく、 かみつき の姿も無いので、そのまま進み……やが

て 赤い渦 と遭遇はしたけど、そのまま走り抜けるだけで済む……最初は靴の裏で生徒たち

の血をスタンプしてたけど今や付いたか怪しいくらいまで落ちてて見覚えのある道を進む内に

ヒナの家に到着し《流浪》は正面部分が血に染まったままでヒナも顔だけでなく薄いオレンジ

髪の所々にある血痕がまだ鮮やか……ここでヒナが玄関のチラシに気付きそれが今日使い切れ

なかった引換券の対象なのを確認すると《流浪》と一緒にお風呂で身体を洗った後、《流浪》

の髪をドライヤーで乾かしながら早速注文……やがて宅配が来て、食卓の上まで運んでくれる

サービスまであって……音を弾かせる料理を《流浪》と一緒に眺め付属の紙を手にヒナが呟く

「焼き方はブロイル。お好みで岩塩を振りかけ肉汁や脂を絡めながら食べて下さい……だって

火傷しないように気を付けて……さくちゃん。おっきなお肉だから、たくさん食べれるねー」

 肉のサイズに合わせた厚い鉄板の下に木製の厚い板を敷いてるから、かなりの重量……届い

たのはTボーンステーキよりフィレ部分が一層幅広い ポーターハウスステーキ ……ヒナが

お肉を食べたいと聞き玄関のチラシ込みで私が手配……ステーキと言えばボリュームだよねと

2人分サイズの単品にし、国外のブランド牛と同じ肉でご提供……値段も相応だけどヒナなら


顔色ひとつ変えずに支払えるし、引換券の対象にもした……《流浪》は肉の大きさに圧倒され

目を丸くするばかり……お昼に食べたのはカレーまんとあんまんだけなので、お腹も減ってて

食欲は十分……ヒナは慣れた手付きで肉を切り分け、事前に一粒なめて目安を確認した岩塩を

まぶしてく……配達員は私が一時的に生成してたからもう消滅してて、肉を乗せた鉄板と板も

食後に消すかな……誘導したわけじゃないのに 有明高校の生徒たちの大多数が、かみつきの

群れに食べられる現場 と遭遇し 死亡 と隣り合わせだったあの場を切り抜た上で《流浪》

は今ここにいるから、 この世界 を存分に満喫出来るよう何かとサポートしたいんだ、最後

の瞬間まで……ステーキも半分食べ進み21時になったし、ヒナにニュース番組を開いて貰おう

「皆さんこんばんわ。今回の異変にはさぞ驚かれてるでしょうが長年の研究成果がお役に立て

そうなので、こうしてお邪魔致しました……今は夜なのに空が赤く明るいでしょう? この状

態になると、ドロドロした奇妙な生き物が渦のようなものと一緒に次々と発生するんです……

不思議な事に時間が経つと完全に溶けて消えるのですが、また新しく発生するから厄介です。

そんな奇妙な生物をワタクシは かみつき と呼んでいましたが……まさか、こんなに発生す

るとは驚きです……空が赤い間は常にあの 赤い渦 と共に発生するのが、 かみつき であ

り、幸いにも かみつき は人間が全力で走れば追い付けない速度しか出せません……皆さん

もしも かみつき に遭遇しましたら、急いで家まで走りましょう! 挨拶が遅れましたが」

 配信画面で長々と発言してるのは、 かみつき専門家 で、 ステージ2はねつき最終日の


朝 に御用になった訪問販売業者社長と同じ人物だったりします……更に長く続いたトークも

一通り終わりアナウンサーのインタビューに突入した頃には《流浪》とヒナはステーキを食べ

終え、塩分の残った舌と動かし続けて疲れた顎を労うようにバニラアイスをゆっくり食べてる

……やがて かみつき専門家 の映像が繰り返し流れてる事に気付き、ヒナは配信を閉じ……

その後は食事を取る事も無く、やがて《流浪》とヒナは眠りに就きます……ニュースサイトで

は、さっき《流浪》が遭遇した 生徒たちの血溜り現場 の映像が何度も報じられ、ネットで

はその惨状を鮮明に映した画像が種類に事欠かず続々と貼られ騒然状態……それでも授業中の

時間帯に空が赤くなるわけではないからと 有明高校 では平常通り授業が行われるよ……そ

れが ステージ3あかつき だからね……さて明日の学校での出来事へ……昼休み前の授業中

眠たそうな《流浪》だったけど終了間際にとうとう寝てしまい……その寝顔をヒナが見てます


 木曜日


「おはよう……さくちゃん。どうしたの? こわい夢でも見た?」

 まだ昼休みが半分も過ぎぬ内に居眠りを終えた《流浪》がうなされながら見てた夢を取得し

要約すると……上も下も判らぬまま広がる赤みを帯びた暗い空間の中で、人間と同じ歯茎と歯

のある口を持つ大きな白い霧状の何かに《流浪》が追い掛けられてて、空間を浮遊するように


逃げてた《流浪》の身体はやがて、その口に捕まり……いつの間にかその様子を《流浪》が遠

くから眺めてて、目の前の自分がその霧状の何かの口の中で骨ごと砕かれる音が響き始めると

……《流浪》は両目を一気に見開き夢から覚め、叫び声は上げてないけど、すぐにヒナが声を

掛けてる状況……今朝からヒナが隣にいたものの、あそこで転んでなければ 白いかみつき 

に食べられ 死亡 してたという事実への恐怖が燻り続ける中……それが夢となって表れた今

《流浪》の表情はたちまち曇って行き、身体は小刻みに震え呼吸も次第に荒くなり……どれも

酷くなる一方なのでヒナは《流浪》を連れ保健室へ……その道中、真っ直ぐ伸びた長い黒髪と

全体的に巻き癖が強い金髪ロングの女子生徒2人が向かって来てて……ヒナが嬉しそうに叫ぶ

「あらあら! るーちゃん! みーちゃん!」

 廊下で仲良く並ぶのは《潜在》と朧月瑠鳴……こちらに気付き、朧月瑠鳴とヒナが会話する

「昨日はゲーセン楽しかったよ! ……でも、かみつきって言うみたいだけど、私たちが別れ

たすぐ後に、たくさん現れたから……ひなちゃんとさくちゃんは大丈夫だったのかなって」

「本当に昨日はその、かみつきさんたちが、たくさん出て来ましたねー……あんなにいるんだ

から、あの赤い回転プールの中で、ずっとみんなで泳いでいれば、楽しそうなのに……昨日は

さくちゃんがすっごく怖がっちゃって、今日は学校に来たはいいけど、やっぱり気分がよくな

いみたいで……今からさくちゃんを、保健室に連れて行くところなんだー……」

 昨夜の《流浪》の身体の震え具合の推移なら手を繋いでたヒナがよく知ってる……ステーキ


を食べてる時、震えは収まったようで顔色が優れなくて、アイスを食べてる時もスプーンを口

に入れたまま動きが止まる事が何度かあり……食べ終えると緊張が途切れてしまい《流浪》は

一気にまどろみ、そのままヒナがベッドまで運んでた……さて《潜在》がこんな提案してるね

「……保健室まで、ご一緒していいですか?」

 それから4名で一緒に向かう事になり……やがて朧月瑠鳴、《潜在》、ヒナの順で発言する

「今日は、お空がおかしなコトに、ならないといいんだけど……」

「昨日はどうやら18時に始まって零時に終わった……今日も、そうとは限らないけど……」

「昨夜はお空がきれいでしたねー……さくちゃんと一緒に逃げながら、行く先々でかみつきさ

んたちが、お食事していたり、食べ残しが地面に落ちていたり、ブロック塀に色んな形の赤い

模様があったり……みんなであんなにたくさん集まって、まるでパーティーをしているみたい

でしたが……何もそれを、人間でやらなくてもー……賑やかではあるのですが……」

 まだ地面に血の足跡を付けてた頃……夢中で走る《流浪》に対しヒナは周囲の安全を確かめ

ながらだったから、通行人が かみつき に捕食された跡を目に留める余裕が多少はあり、そ

の血を踏んで靴の裏の赤が補充されたりもした……今は明るくなったから、例の現場以外でも

襲われた人間の死体が結構点在してて、その画像が今朝からネットに次々とアップされてるよ

「さくちゃん……本当に顔色悪いなぁ……あ、そうだ! お見舞いに何か……あれ? ねぇ、

ひなちゃん。さくちゃんってどんな食べ物が好きなの? あ、好きな飲み物とかでもいいや」


「塩辛! さくちゃんは塩辛が大好きなの! イカとかタコとか貝とか……でもね、その後は

必ず、シンプルで甘いものを食べるんだ……バニラアイスとか、よく食べますよー」

 保健室に着くや未だに具合の悪そうな《流浪》を不安がる朧月瑠鳴がそう尋ねてヒナが即答

……昨夜は肉の塩分に満足して塩辛は食べなかったね……朧月瑠鳴が困惑した顔のまま言うよ

「何て言うか…… 味 を、感じたかな……」

 朧月瑠鳴は納得したようで何処か腑に落ちてない複雑な表情をしばらく続け……もう十分に

挨拶出来たからと《潜在》と朧月瑠鳴は教室へ戻り、《流浪》とヒナは入室……ベッドの中で

恐怖の感情を思い出し、音も無く身体を震わせる《流浪》の頭や身体をヒナが布団越しに撫で

たり声を掛ける内に《流浪》は再び眠気に襲われ、ぐっすりと眠る……そんな《流浪》にヒナ

は暖かい眼差しを注いでます……放課後になる頃には《流浪》の様子も落ち着き、コンビニで

一番高いレトルトのシチューと食べ歩き用のピザまん2つを購入し、のんびり家に帰るけど、

まだ18時まで時間がある…… 空が赤い間は外出するな と かみつき専門家 が今も繰り返

し流されてるニュース映像で発言してるから《流浪》もヒナも 家にいれば安全 だと思って

るみたい……夜はシチューだけど《流浪》は途中から塩辛を入れてたね……一緒に片付けたら

《流浪》とヒナは 制服 を着て寝るだけ……報道のおかげで夜間外出する人はほぼいなくな

り、外では かみつき が時折出す、うなり声が響き……零時には あかつき が悲鳴を上げ

消滅…… 昨夜と今晩出現した、あかつきは別固体 で、次に出るのは3匹目だったりします



 金曜日


「 これで安心!かみつきの全てを教える3時間SP …… かみつき の弱点、及び遭遇時

の対処法……18時から生配信だってさ。あの かみつき専門家 も随分と立派になったねー」

「だからって専門家の生い立ちと苦労話を余す所無く語るというコーナーは余計じゃあ……」

「何だか2時間はその話をやりそうな予感……でも弱点があるなら知っとかないとヤバイし」

 《流浪》とヒナが塩辛入りのおにぎりを黙々と食べる中、教室の女子たちがそんなやり取り

……私は番組内容に関与しなかったけど重要な情報は引き伸ばす内容だね……ま、 かみつき

を撃破する手段は無いし、身体が溶け切るまで待つしか無い と かみつきを設計したゲーム

マスターである私が弱点無しと断言 します……ステージ1で《操作》が かみつき に酸や

アルカリを試したり手榴弾で身体の一部を吹き飛ばすなどした末、何かで殴ったり熱湯を掛け

るなどの 痛みを与えて怯ませ、一時的に足止めするのが効果的 という結論に至ってたけど

それで正解…… 攻撃要素のある能力が参加者から作れそうなら特攻付けたりも出来た けど

今回は流石に無理があったから かみつきに与えた損傷具合に応じ再生速度が段階的に鈍る 

ようにし、少しの傷ならすぐ塞がり細かい肉片は速やかに蒸発するけど、 半壊以上だと再生

が一気に遅くなる 感じにした……胴体を分断とか出来たなら大きく引き離し再生完了までの


時間を更に長引かせられるよ……さて学校も終わり家に直行した《流浪》とヒナが番組を配信

するサイトを早めに開いて迎えた18時……番組出演者の紹介が終わって、長いCMを経て番組

に戻りクイズが始まったと思いきや、CM関連の情報や出演者の出るドラマのPR目的の問題

が続き、どれも解説が長い……まぁ かみつき の情報を一気に出してしまうと30分足らずで

終わるし……生放送会場の観客席には人がいっぱいで、この座席も有料……さて事前に振って

た乱数分の時間が経過したので 処理が変化 ……ここでスタジオ内に発生させる 赤い渦 

の乱数を振るんだけど……これ観客席のド真ん中だね…… 赤い渦 の処理の変化内容に関し

てはデフォルメされたロケットみたいな2階建ての家で説明しよう……形状全体が膨み、主に

先端部分などが赤く塗られ、窓が丸い感じのヤツ……今までの処理だと 赤い渦発生時に渦の

部分が少しでも建物の壁面部分などに干渉する場合は発生が取り止め になり、ロケットの家

だと真上から見た円の部分に 赤い渦 が少しでも触れると発生がキャンセルされ、僅かでも

離れてれば発生になる……つまり 今まで赤い渦は真上から見下ろした平面的なマップ条件で

建物の有無を判断し、屋根や壁で図形を成してる場所には発生出来なかった ……ガソリンス

タンドの屋根の下がいい例だけど、敷地内に入れないわけじゃ無いので 赤い渦 が傍で発生

すれば、 かみつき は踏み込めます……今後の処理だと 赤い渦が屋内に発生する事は無い

ので建物の中にいれば、かみつきに襲われないという対処が成立しなくなる よ……引き続き

ロケットハウスで説明……まず 赤い渦は周辺に障害物が存在しないものとみなして発生を試


み、そこが建物の無い場所ならそのまま発生し、赤い渦の範囲内に建造物が含まれてた場合は

その構造情報を取得し、どこを足場に発生するかを乱数で決める ……ロケットの家を例にし

たのは頂上部分が円錐状で、その 先端部分でも赤い渦は構造とみなして発生 し円錐の底面

範囲内で取得した位置情報から天井に 赤い渦 が発生した場合…… 先端部分と同じ高さで

赤い渦が空中に浮く位置で発生する 事が説明し易そうだったから…… 赤い渦は発生地点を

中心に広がるように出現 したりします……要は 赤い渦の障害物干渉時の処理を発生キャン

セルから接触した建物の高さを含めた位置情報取得に変更 した感じ……建物の2階に発生す

れば床の厚さは 赤い渦 の煙の高さにまず収まるけど、 かみつきがそのまま2階に行くか

1階へ落ちるかは乱数で決定するようになる し、 2階に参加者がいた場合、白いかみつき

なら必ず2階へ行く ……ロケット家が2軒隣接してて、その間が 赤い渦 の直径より狭い

場合は 赤い渦が家と家を繋ぐ位置で発生 …… かみつき が今の階に留まるか下の階へ行

くかの処理だけど、正確には 赤い渦を地形とみなし足場にするか、空間とみなし落下するか

乱数で決定 する感じ…… 赤い渦を足場とみなせば渦の範囲内にある障害物を無視して移動

出来る ……よって 隣接する建物の間に赤い渦が発生し橋渡し状態になった場合、かみつき

は壁を通り抜け隣の建物に侵入出来て、建物内側に発生した赤い渦の範囲内に部屋の仕切りが

含まれてた場合、かみつきは部屋と部屋の間の行き来が可能となる …… この処理は参加者

には適用されず建物を構造単位で座標取得する から 階段に赤い渦が発生する場合、全ての


段が発生候補で、赤い渦自体は変形せず平面のまま ……この 地形無視領域は赤いトゲなど

の、つきに関わるもの全てが利用可能 …… まがつきはくみつきという黒い重油が青い光沢

を放つような物体を吐き出す けど 近くに他のくみつきがいた場合、くみつきは自分の身体

を引き伸ばし縦長に合体し、建物と建物の間で組み付いた状態のくみつきはかみつきの通り道

になる 上に、 くみつきが作った道は建物の構造情報とみなされ、本来地上に発生するだけ

だった場所で赤い渦がくみつきの上に発生するようになる …… くみつきは発生2時間40分

後にヒビが入って粉々に砕け散り蒸発 し、 まがつきが活動するのは日曜の26時から30時の

間 だから 27時20分以降にくみつきが吐き出されたら最後まで消えない障害物の誕生 だね

…… まがつきが活動を始めれば赤い渦は発生時に青く発光し、参加者の位置情報に比重を置

いて発生するようになる ……だって まがつきは常に参加者の位置を知っている から……

そろそろさっきの特番での話に戻ろうか……屋内であるスタジオの観客席で 赤い渦 が発生

し、司会に続き かみつき専門家 もそれに気付いたけど……配信画面に映るその奥目掛け、

私は かみつきが次々と出て来るよう調整した赤い渦 を1つだけ発生させる……これで か

みつき専門家 は背後から襲われステージ3も本格化……そんな中、配信を見てたヒナが呟く

「あれ……さくちゃん。この、赤い煙って……」

 画面に映る背景はすっかり赤い霧で覆われ……その隙間で かみつき が複数いるのが判る

くらいには見え隠れしてて客席側で発生済みの かみつき たちが観客を次々と食い荒らす中


…… かみつきとの遭遇に夢中 にしてる、 かみつき専門家 は興奮露わに声を荒げてます

「視聴者のみなさん! よーく御覧下さい。かみつきです! これが……かみつきです!! 

まずはですねー……この口の部分にご注目! 大きな歯がビッシリと――」

 目を丸くしながら叫ぶ専門家の瞳は目の前の かみつき に釘付けで……熱弁を始めたけど

後ろの かみつき の1匹が大きな口で専門家を頭から噛み付き、胴体を食い千切ります……

マイクが傍にあるから歯と歯が閉じる音が会場全体に響き渡って上半身の無い かみつき専門

家 の姿が映る中、 かみつき がカメラの方に向かうと、そのスタッフの叫び声が少しの間

だけ響き、映像は途切れずカメラが落下したので、ここは客席がよく映る向きにして観客席の

光景をお茶の間にお届けだね…… 赤い渦 の中から出て来た かみつき たちが、その大き

な口に入るだけの人間を一気に咥え噛み千切り……食べ終われば、すぐ傍に獲物がいるので、

以下繰り返しに…… 赤い渦の動きは反時計回り だし場所によっては目の前で真っ赤な霧が

流れてく様が見えるね……前に 赤い渦の感触は元の地面と同じ と言ったけど、今は血溜り

部分に発生してるから見た目通りの感触かな……至る所で悲鳴や断末魔の叫び声が響く会場は

酷いパニック状態…… かみつき が人体を噛み千切る度に溢れ出す血は生者にも死者にも分

け隔てなく血を降り注がせ……元の服の色が判る観客はどんどん減って行き、観客席の足元は

人の血で隙間無く埋まり、そこへ誰かの身体が倒れ込む度、血の池は高さを得て行く……こう

いう時、出口に辿り着いても扉が開かなくなるのがお約束だし、それに倣って扉を動かなくし


てるけど早速、命からがら辿り着き叫びながら開かない扉を叩く人が……スタジオはすっかり

密室の 人間食べ放題会場 と化し、全ての観客や出演者が死体となり、千切れた身体の一部

たちが群れを成して浮かぶ血の池が出来上がるまで、そう遠くなさそう……マイクを通し逃げ

惑う人間と かみつき が立てる赤い水の音や、骨ごと噛み砕かれる人体の音の数々がお茶の

間に流れる中、1匹の 白いかみつき が徐にうろついては佇み……時折全身をある程度 あ

かつき と同じ色で発光させ唸り声を上げる……この動作は 参加者 が目の前にいる時はし

ないので何気に珍しい…… かみつきの弱点 を教えると銘打ってた番組だけど かみつき専

門家には自分はかみつきの弱点を知っている ……番組プロデューサーには かみつき専門家

はかみつきの弱点を知っている って認識を与えただけで、いざ教えるとなると一切知らない

情報を思い出そうとするだけ……私がこの番組に与えたのは、 もう建物の中は安全では無い

事を参加者に伝える役割 ……でも 参加者 が知りたいのは かみつきの弱点 より 赤い

渦を消す方法 …… 赤い渦 がすぐ傍に現れても即座に消去出来れば かみつきを発生前に

対処 出来る……だけど 一度発生した赤い渦を参加者側が消す手段は無い し 日曜の夜に

まがつきが目覚めれば赤い渦は更に強化され、小型のあかつきも参加者の傍を目安に発生する

ようになる ……それは 参加者同士が命の奪い合いをまともに行える時間が更に狭まる 事

を意味し、今夜の あかつき の攻勢を見ても、もう自分の身すら満足に守れ無い段階なのは

明らかで 他の参加者たちを殺し無理にでもゲームを終わらせなければ死亡するのは自分だ 


……そう思ってもらえればと用意した番組で……あとは 各参加者が拠点とする家の内部 の

すぐ気付く場所に 赤い渦 を発生させれば、このイベント処理も終わり……《流浪》とヒナ

の所への 赤い渦 の発生先は今いる部屋の外壁が貫通する位置にしよう……前方に出た 赤

い渦 の外周部分が被さるようにしたから《流浪》とヒナは突然目の前が真っ赤な霧で覆われ

瞬く間に霧の部分で全身を包まれたヒナは気分の悪さが目立ち始め……具合悪そうな声を出す

「う……この赤い煙……あ、そうか……さくちゃんも……気分悪い?」

 そんなヒナを見て《流浪》は咄嗟に辺りを見回し……やがて前方の視界が霧で埋め尽くされ

てるのに対し後方は霧が薄い事に気付き、ドアを視認するやヒナを引っ張り始める…… 赤い

渦は左回転しながら膨らむような速度で一定規模まで広がる けど霧は外周部分にしか発生し

無くて、内側は あかつき の光が照らしたような色の地面が広がり、その部分を踏めば波紋

は出るけど、あとは光で照らされた地面を踏んでるのと同じ……波紋は かみつき が出て来

る際、水面から浮かんで来るように見せたいのと浮上を知らせる為の仕掛けって感じ……さて

《流浪》はヒナよりずっと体格が小さいから力任せに動かす事は出来ない……今回は火事場の

馬鹿力という事で普通に引っ張れるけど……今は 参加者の拠点である家の中の参加者がいる

部屋目掛け赤い渦 を手動で発生させる演出イベントの最中…… これからは屋内でも赤い渦

が発生する という情報が伝われば十分な場面だから、ちょっと無理があっても今は 参加者

が死亡 しないよう融通したい…… 私が参加者殺すゲームじゃない んだし……《流浪》が


ヒナの手を引き部屋を出てドアを慌てて閉め、割と早く浮上した かみつき 1匹から逃れて

ヒナが《流浪》を引っ張るようになったし《流浪》の腕力を元に戻す……そのまま玄関のドア

を開け家から飛び出したけど、この後すぐに 赤い渦 に遭遇するかは乱数次第……目立った

出来事はまだ無いし…… 《流浪》で自分以外のものを運ぶ際の処理内容 の説明でもしてる

かな……実は 重量指定時間に厳密な設定は無い んだよねー……細かく決めてると、さっき

の部屋で更に 赤い渦 が発生してた場合《流浪》はヒナと一緒に脱出したいからと重量指定

を始めるだろうけど、都合よく間一髪で発動とか出来ないし……《流浪》での重量指定の進捗

状況は メニュー画面 で確認出来……指定なし、指定開始、もう少し、完了……の順で 表

示無し、黄色点滅、黄色、青の4段階の色で表示 してて 参加者自身の重量と普段身に着け

てる物なら重量免除 だけど、黙って3キロはある防弾ベストのような重い物には相応の時間

を要求…… ステージ3あかつきでは防弾ベストの重量は有明高校の制服を着てれば免除にな

る けど……あれから《流浪》はヒナと手を繋いで十字路を気の向くままに曲がっては進み続

け……通った道の話をすると民家が3軒続いてて、1軒目の窓の向こうで かみつき に襲わ

れるまま住人が食べられ、その返り血で窓は半端に染まり飛び散った幾つかの肉片が周りの血

を這うように滑り落ちたり……2軒目は通信機器で通話してる相手が突如 かみつき に襲わ

れ、住人が不思議に思ってる内に2階に発生してた 赤い渦 からの かみつき に上半身を

食べられたり……3軒目の住人は車の中まで逃げ込み、エンジンを掛けてると……その車を包


み込むように 赤い渦 が発生し、その中から出て来るより先に、さっきまで追い掛けて来て

た かみつき が 赤い渦 のおかげで車の中に入って来れて、赤い車が中まで赤くなったり

してたんだけど……そんな事態に気付く事無く《流浪》とヒナは走り続け、やがてヒナが……

「つ、つかれ、たぁ……ひとやすみ……したいけど」

 息を切らしながら立ち止まって一旦そう発言し……少ししてから素朴な疑問をヒナが続ける

「どこが……安全なのかなぁ。お外でもお部屋の中でも、あの赤い煙さん、出るんだよね?」

 だから闇雲に走って体力を減らすのは勿論、立ち止まってるのも得策じゃない……この日は

これをどう対処するかの解答例があったし……時刻が先行するけど、その場面の話をしようか

「か、桂ぁ……無事かー……」

「おぉ、何とも立派な建物ではないか。して桂よ……ここで一体、何をしようと言うのだ?」

 少し前まで人がたくさんいた洋風趣味の屋敷も、今や かみつき の襲撃で1人残らず死体

になりそう……そんな洋館の前で毅然と立つのは通信機器でここに集まるよう指示した 有明

高校の制服 を着てるベージュ髪でポニーテールの長身女性、桂眉子[かつら まゆこ]……

更に 有明高校の男子制服 を着た2名がいて銀髪の方が氷室新[ひむろ あらた]、緑髪で

眼鏡を掛けたのが鶴木駆[つるぎ かける]こと出席番号4番《分裂》……もう桂眉子の行動

は出席番号2番《寄生》が完全に乗っ取ってるから、以降は《寄生》と呼ぶ事にしようか……

「氷室くん、鶴木くん……無事だね。玉宮さんは……連絡が取れない」


 周囲を警戒しながら淡白な声でそう言う《寄生》は玉宮明[たまみや めい]……出席番号

3番《操作》の安否を知りたい様子……屋敷の中では住人たちが かみつき から逃げ切れず

最期の悲鳴を上げてる感じだね……この時間は屋敷の主人が寝静まり、メイド服の使用人たち

は見回りしてたけど…… 赤い渦 が目立たない場所にしか発生し無かったから完全に不意を

突かれて総崩れ……今まで屋敷内どころか敷地内にすら発生して無かった反動か 赤い渦 が

1つ出るや屋敷内に次々と発生……それもまだ生き残ってる住人を効率的に追い詰めるような

位置とタイミングで……何だか生体反応の灯りが次々と消えて行くような光景だけど、乱数で

起きてる事だから長くは続かない…… 赤い渦 の猛威が収まる頃には屋敷内の生存者は数名

しか残ってなくて、まともに逃走劇した者も出ぬまま更に数が減る……ここで《寄生》が発言

「ここなら かみつき が発生しても、その部屋に閉じ込めて、やり過ごせる……それでどこ

まで粘れるか試したい。あとで武器になりそうなの探すかな……また、悲鳴が聞こえた……」

 その悲鳴を最後に、死体を数えなければ屋敷の中は無人となり……《寄生》氷室新《分裂》

が屋敷の中へ入ると部屋の場所と種類を調べ始めるけど、今度は3名がいる位置を避けるよう

に 赤い渦 が発生……やっと近くに現れたと思えば部屋のド真ん中…… 広い部屋に留まり

赤い渦が現れたら避難し赤い渦が消えたら元の場所に戻るの繰り返し ……それが《寄生》の

考えた解答…… 赤い渦が発生から30分後に消滅し、かみつきは20分で消滅 という事を知っ

た上だから動きに迷い無し……このやり方でも 赤い渦 が都合の悪い状況と場所で発生し続


ければ追い詰められるけどね……ちなみに 赤い渦 は発生時無音で、霧自体は音を立てなく

て 恐怖作用も参加者には働かない から発生時の霧が 参加者 に触れても、すぐには気付

けない……でも今の《寄生》は桂眉子の身体に《寄生》中という事で恐怖作用を軽減してるか

ら発生がすぐ判りそう……それじゃあ時刻を21時頃まで戻して《流浪》とヒナの状況の続きと

行こう……互いに空腹を訴える様子が目立ち始める中、ラーメン屋が見えて来たので入る両者

「お店のラーメン何て久しぶりだー……こんな時に営業してて、よかったね……さくちゃん」

 ここって空席少なめで賑わう店内片隅のテレビから例の特番が流れる中、客の1人が店主と

会話し始めた矢先、 赤い渦 が発生し かみつき に襲撃されてた店だけど、今ヒナが目に

してるのはラーメンの湯気が舞い、他の客がラーメンを啜る音の響く活気溢れる店内……ヒナ

が店の扉に手をやる際、私が《流浪》に次のメッセージを送信し了承されたのでこうしてるよ

「この店内で食事してる間に発生した 赤い渦 を全て後回しにする事が出来ます。発生する

筈だった 赤い渦 は店を出た後、数を伏せ私自ら配置。気兼ね無い夜ご飯を望みますか?」

 一時的に店内を綺麗にし、お客は今まで作った宅配員の中から多数選んで客席に配置してる

けど店主と同じ腕前のキャラ案に結構迷ってて、まだ作成してない……そんな中、ヒナが発言

「お店の板前さん、どんな人かなー……可愛い女の子だといいなぁ……」

 その要望を拾って更に考える……よし、少しやる気が無くて愛想笑いが素敵な女性で決まり

「うーっす。まずチャーハンとギョウザどぞー」


 調理の時間だけ倍速にすれば実質待ち時間無しで出来上がるけど、この2品を食べながら店

の雰囲気を味わうのもいいかなって……やがて客の1人が丼を置く音が響き、更に時間が経過

「豚骨チャーシュー大盛りと煮卵入り特製醤油ラーメンできやしたー……皿、下げますねー」

 2つのラーメンは同時に作り終えてて冷める速度はイジらず元の店主がいた頃に来れば堪能

出来たであろう店の味を完全再現……《流浪》は豚骨、ヒナは醤油……《流浪》は熱さで全く

手が出ない様子だけど……程なくヒナが ステージ1かみつき三日目 と同じ言動を取ります

「ほら、さくちゃん……やけどしないように……ふーふーって、してあげる……」

 その時は昼休みの教室でヒナと一緒に大きいカップ麺を食べようとしてて、麺の熱さに驚い

た《流浪》は箸を取り落としそうになり、丁度こんな風にヒナが《流浪》の麺に息を拭き掛け

熱さを和らげようとしてたなぁ……そんな《流浪》は今、互いのスープを小皿で飲んで頃合を

見計らって勢いよくラーメンを啜り、その旨みと食べ応えを味わい続け……ヒナも結構勢いよ

く食べてるけど、麺を啜る音が急に止まり……やがて溜め息を深めに吐いて何やら呟き始める

「ずっとカップ麺ばっかり食べてたけど……これが、お店のラーメンなんだなぁ……最初に食

べたお店のラーメンは、どんな味だったっけ……何だかあの時の気持ちを思い出せそう……」

 ヒナは普段から甘くて緩やかな口調だけど今回はそれに加え、何かを懐かしむような哀愁さ

を漂わせながら発した言葉が空気を微かに揺らしては溶け込むように響き、やがて消えて行く

……《流浪》もヒナもラーメンを食べ終え会計の時間……あの状況で財布を持って来る余裕は


無かったけど、そんなのもう 持って来てる事になってる ……支払いを終え《流浪》とヒナ

が店から出たし店内を元の状態に……これで店の中は所々身体が途切れた客と従業員の死体が

結構散乱する光景に戻る……噛み千切る際の勢いで吹き飛んだ腕や脚も少なく無いし、カウン

ターや壁や天井に付着した肉片などの至る所から血が滴り落ちてて、厨房で未だに具材と共に

湯立つ鍋の中では襲われた末に入り込んだ、店主の生首……その断面部分から供給される血が

スープの色を程よい赤で彩る……この状況のまま《流浪》とヒナが入店してたら、ラーメンの

風味と人間の血の臭いが入り混じる湯気を嗅ぐ事になってたね……さっきの会計で出た釣り銭

が今もカウンターの上にあるんだけど、傍にある大きめの肉片から来る血で小銭が全て流され

滑り落ち……まだ血で埋まってない床部分で跳ね返り、その小さな金属音が何だか寂しい音色

を放ちながら店内に響き渡ります……さて 食事の間に店内に入り込む位置で発生してた赤い

渦は4つ ……《流浪》の脚が店の外へ踏み出す瞬間を狙い、私は次のメッセージを送信……

「私が任意に発生させる 赤い渦 が残っていようと従来の 赤い渦 は発生し一気に使い切

るとは限りません。どの 赤い渦 が私が発生させたものかは無くなり次第、質問可能です」

 これを確認すると《流浪》はメッセージを閉じ、入店前の時のように辺りを見回す……早速

だけど4つの中でも一番厄介だった位置に 赤い渦 を発生させるね……今の《流浪》から見

れば店の入口右側に 赤い渦 の煙が流れ始めた状況に……《流浪》はすぐにヒナの手を掴み

ヒナも 赤い渦 の存在に気付き警戒……私が任意に出した 赤い渦 なので、 かみつきの


出現タイミングも私の制御下 ……渦から1匹現れるや2匹目の かみつき が出て来るのを

見た《流浪》が慌てて向かいの建物の方へヒナを引っ張り始めるとヒナが《流浪》の手を引き

その建物の中へ駆け込み……ヒナを《流浪》に巻き込もうとした結果、 赤い渦 の発生も無

いまま《流浪》が発動……移動先は既に視界に入れてた、この建物の屋根の上……《流浪》の

移動先に登録する条件は その場所の形状を十分に把握 ……暗くて満足に視えてない場合は

ダメだけど、今日は18時から26時に掛け あかつき の明るさが増して行き、色は赤いものの

形状把握には支障無し……ちなみに店を出た時に右側に 赤い渦 があるからと左に逃げてた

ら、ラーメンを食べ終える頃に発生したばかりの 赤い渦 に遭遇してました……店からある

程度離れてれば入口前の 赤い渦 も残る処理だからね……《流浪》はその右側方面が安全と

判断しヒナと一緒に屋根伝いに先へ進み……《流浪》が再使用可能になると再びヒナを巻き込

み地面へ移動……時刻が22時を過ぎたけど、この先は二手に分かれてて、どちらにも 赤い

渦 があり、 かみつき がうろついてる……2つ目の渦はここがいいね……私は《流浪》と

ヒナの背後に 赤い渦 を出現させ、少ししたら 白いかみつき が一気に2匹出るようにし

ておく……周囲を警戒してたヒナが後ろの 赤い渦 に気付き足早に進もうとするけど、そこ

へ2匹の 白いかみつき が出て来て迫り来る……例の丁字路の分岐まで駆け込み左右の か

みつき を確認した《流浪》はヒナの方を振り向き、か細いけど意志を感じる声で発言します

「ひなちゃん……あっち、で……まってて」


 そして《流浪》はヒナの手を離し《流浪》を発動…… 白いかみつき 周辺の建物の屋根の

上へ移動すると 白いかみつき はデタラメに生えた脚を動かしながら、その場所目指し登り

始め……《流浪》が再使用可能になり 白いかみつき 2匹が屋根まで辿り着く間際《流浪》

はさっきの丁字路付近の屋根へ《流浪》で移動し辺りを見渡し……次の《流浪》では再使用が

すぐ可能になる距離にある別の建物の屋根の上へ……やがて結構先の方にある建物の屋根の上

へ《流浪》で移動……その時間分も終え、さっき私が出した 赤い渦 周辺から更に戻った所

で待機してるヒナの傍まで《流浪》で移動……前方には 黒いかみつき がいるので、ヒナと

一緒に周囲を警戒しながら後退を続けて……《流浪》が再使用可能になるとヒナを巻き込み、

《流浪》を発動……移動先は先程屋根の上から割り出した安全な道を辿った先にある場所……

大抵の建物屋上から地上を見下ろせば《流浪》の移動先に登録する為に必要な情報が視認出来

るから、 高い所に登って辺りを見渡せば《流浪》の移動対象を一気に増やす事が可能 です

…… 能力《流浪》の本来の持ち主は《流浪》 ……でも 私がカスタマイズした《流浪》は

本来の《流浪》とは能力内容が掛け離れ てて《流浪》がこのゲームでの《流浪》を大分使い

こなせてるのは《流浪》の理解力……途中で混乱しなければ《流浪》は頭の回転が結構速いよ

……時刻は23時目前で私が出現させる 赤い渦 は残り2つ…… 金曜と土曜はあかつきの光

の強さに伴い赤い渦の発生頻度が増加 するし、そろそろ使い切りたい……ここぞというタイ

ミングを狙ってたら見事に抱えたよ……《流浪》とヒナの様子は道を歩む速度が落ちてて疲れ


気味……幅広い一本道の道路が見えてきて《流浪》とヒナは立ち止まり……ここでヒナが発言

「広い道路だー……そう思ってたら赤い煙が前に2つ後ろに1つ……一気に来ちゃったなぁ」

 ひと休憩出来そうな雰囲気も虚しく、 赤い渦 が《流浪》とヒナを取り囲むような位置で

一度に3ヶ所発生……《流浪》とヒナは かみつき が出て来る前に引き返そうと、すぐ後ろ

の 赤い渦 を駆け抜ける……さっきの場所まで来る途中、発生する 赤い渦 を横切ってた

からそれが視界に徐々に入り始め……出て来てた かみつき が既に白黒揃って、うろついて

るね……《流浪》とヒナは立ち止まり、《流浪》がヒナの重量指定をしながら様子を見てると

まだ気付かれない距離が維持され続け……巻き込みが完了し、この場所近くの建物の屋根の上

を移動先に《流浪》を発動……他の建物の屋根の上には 赤い渦 があり、 かみつき の姿

もあるけど……またも上手い具合に離れてたから《流浪》が再使用可能になりヒナの重量指定

が終わる時間まで無事に過ごせ……遠くに見えてた場所の 赤い渦 が次々と消滅したので、

そこへ移動……ちなみに 赤い渦の消滅は減衰ではなく一瞬で無音蒸発する 感じ……移動先

は交差点で《流浪》とヒナの向きから見て長い道路が延びる途中で一本の路面が右に延びてる

……《流浪》がヒナと一緒に辺りを見渡し始めてると前方に 赤い渦 が発生し、右を向けば

そこにも 赤い渦 が発生……この距離だと通過の際、 かみつき が出て来る可能性もある

ので《流浪》とヒナはまだ安全な後ろの道を目指す…… 3つ目の赤い渦 はここだね……走

り続ける《流浪》とヒナの視界に 赤い渦 は映ってなくて、この先が曲がり角なのは移動前


に確認済み……それがまだ見えない頃、視界に何か黒い…… かみつき が降って来ます……

《流浪》は驚きヒナは咄嗟に顔を上げ、 上空に赤い渦がある 事に気付く……周辺の地形を

少し詳しく言うと、幅のある道路の周囲には様々な建物が並んでて今の《流浪》とヒナの右側

にはマンションがあり……私が 赤い渦 を発生させてた位置は かみつき が地上の獲物を

捕捉出来ない高さの階のベランダ手すり部分…… かみつき を出すや前進させたら、いい感

じの地点に投下出来たね……獲物に気付く事無く落下したからどっちを狙うかは、これから定

まるけど……ここで《流浪》がヒナに飛び付き両者が路面に倒れ込み始めた瞬間、今度は 白

いかみつき が降って来て歯と歯が勢いよく閉じる音が辺りに響く……この 白いかみつき 

の動作も私が直接指定してて、《流浪》の頭上手前で噛み付いて着地する手筈だったから実は

気付かなくても大丈夫……それを《流浪》は最初の落下で警戒し、すぐさま追撃に勘付いたの

で、その ボーナス として飛び付く勢いをヒナが確実に押し倒されるようにし、着地する筈

だった 白いかみつき を後ろに転がらせる…… 白いかみつき は仰向けになるんだけど、

まだ上空の 赤い渦 から、 かみつき が出せるので、この 白いかみつき の腹目掛けて

新たに 黒いかみつき を着地させる……道路部分だけ見れば挟み撃ちでも、すぐ傍では建物

が並んでるので《流浪》とヒナはその間へ逃げ込み、最初の 黒いかみつき がその後を追う

……《流浪》再使用可能まで後4分はあり、3人並んで通るには厳しい道を《流浪》とヒナは

駆けて行き……やがて出口が見えて来たので、 4つ目の赤い渦 を発生させます…… かみ


つき は黒と白の1匹ずつ出し、1匹は保留……《流浪》は慌てて辺りを見回し……窓や建物

の出っ張りを利用して上へ登り始め、ヒナも続く……最初は足場に恵まれてたけど、ある程度

登ると足場が乏しくなり両側から迫る かみつき の足音が大きくなって行く……でも少しは

高く登った《流浪》とヒナの現在位置を前後のべ3匹の かみつき が目指してる、この状況

なら……《流浪》はヒナに顔を向け、ヒナもそれを見るや《流浪》と一緒に頷き……次の瞬間

「降りよう!」

 そんな言葉を発したように《流浪》とヒナは無言で一斉に手を離し、今までの足場を幾つか

経由して結構素早く降りて行く……頭上では 白いかみつきと黒いかみつき が衝突し、後続

の 白いかみつき は《流浪》を狙い続けてる為、方向転換……《流浪》とヒナは着地するや

走り出し元来た道を駆け抜け、その勢いのまま建物の間から飛び出す……さっき 白いかみつ

き の腹に落下してた 黒いかみつき は飛び出して来た《流浪》とヒナを待ち伏せどころか

結構遠くの方にいたので《流浪》とヒナはそのまま最初に 黒いかみつき が降って来た地点

を突き抜け……《流浪》が再使用可能になり状況が落ち着いてるし、私は《流浪》にもう私が

意図的に発生させる 赤い渦 が無くなってる事を報せるメッセージを送信……ラーメン屋を

出てからは 安全な食事時間を保証した分のペナルティー をこんな形で負ってもらったわけ

だけど……私が1つ発生させた途端、本来の 赤い渦 が大発生して事故る心配もあったから

窮地を与え続ける感じで使い切れてよかった……《流浪》が再使用可能になると両者共に立ち


止まり……やがて《流浪》とヒナは屋根の上へ移動……次の移動先を見定める中、ヒナが呟く

「こうしてると……赤い煙がどんどん発生してるのが判るねー……お空がすっごく赤くて明る

い……このままもっと明るくなって赤い煙がたーくさん発生するようになっちゃうのかなぁ」

 そう言ってたら 赤い渦 が他の屋根の上や遠くの地面で幾つか発生し……今いる屋根の上

にも発生したので、ヒナを巻き込み済みの《流浪》を発動……そんな風に高い場所を転々とす

る内に次の移動先が見付かり移動を続け……やがて大型トラックのコンテナの上で少し休憩し

零時を迎え土曜になったけど、まだ金曜にしとく……さてヒナが一度両手の指を交差させ両腕

をハの字を逆にした形になるまで開き……そんなヒナの伸びに釣られて《流浪》があくびして

ると目の前に 赤い渦 が発生し始めたので《流浪》を発動……その少し前の出来事だけど、

別の 赤い渦 が高い場所で発生してて、中から出て来た かみつき が渦を足場にし、乱数

の結果前方へ跳ぶと、斜めに伸ばされた人の腕を捕捉したので口を開き……どのタイミングで

閉じるかの乱数が決まると早速閉じた歯はその腕の根元部分の組織と骨を断ち、そのまま噛み

千切ろうとした瞬間、腕の持ち主がその場から消え去り、歯と歯が重なる硬い音が辺りに大き

く響き渡る……この奇襲に気付く前に《流浪》とヒナは事前に見付けておいた十字路が中心で

分かれ道の多い一帯へ移動したわけだけど……何かを気にする様子でヒナが立ち止まり、発言

「ねぇ……さくちゃん」

 ヒナは利き腕である右腕を不自然に揺らしながら《流浪》にそう呼び掛け、更に続ける……


「なんかね。こっちの腕が……動かないの」

 ここで私は先程の場面を動画にし《流浪》に送信……再生されたから次のメッセージも表示

「朝比奈真白[あさひな ましろ]がこの時、 かみつき に右腕を噛み付かれていました。

噛まれた腕部分の皮膚が全て噛み千切られて離れる間際で《流浪》が発動され、朝比奈真白の

全重量が指定済みだったので腕だけ取り残すのはおかしいと判断し腕の内部全ての切断状態を

確定した上で皮膚だけは《流浪》での同一オブジェクトとして処理する都合上、繋げました。

朝比奈真白の右腕を治療する相談は あかつき が出現していない時であれば受け付けます」

 メッセージを読んだ《流浪》は目を見開き、その表情のままヒナを凝視する……腕と身体を

別々にしてもよかったけど、単一で扱うなら全体が連続してないと……そう思った勢いでこう

してみました……事前情報では あかつきは水曜から出現し、その出現時間は2段階 としか

報せてないから《流浪》は 金曜と土曜のあかつきは夜6時に出現し翌朝6時に消滅する 事

を知らない……昨日まで零時に消滅してた、 あかつき が今日は零時になっても消滅しない

上に、零時以降も鮮やかで赤い光を強めてる……2段階目の消滅時間を予測するなら26時以降

に赤い光が弱まり始めるのに気付き、18時から26時までは8時間掛け赤い光の強さが増してた

事から今回は2時から8時間経った10時に消滅すると考えるのが自然……実際は6時だけどね

…… 赤い光の強さが増せば赤い渦の発生頻度も上がる ので今日と明日は昨日よりも 赤い

渦 との遭遇率が高い……日曜の夜はこの状況が更に厳しくなり、18時に出現するのは あか


つき では無く まがつき で、遥か上空から地上目掛け隕石のように接近して来る…… 土

曜までの赤い渦はあかつきの赤い光の影響で発生してた んだけど 出現したての、まがつき

の光は弱く て、 まがつきの光で発生する序盤の赤い渦はひと回り小さい けど、 まがつ

きがある程度まで地表に迫ると赤い渦への影響力が段階的に増加 し まがつきが目を覚ます

日曜20時13分20秒だと光量が増えた影響で赤い渦が強化され土曜までの赤い渦よりひと回り大

きくなり発生後の持続が30分から40分、出て来るかみつきの活動時間も20分から32分と増強

も入り渦の中から新たに、かみつきが辛うじて背に乗れそうな体躯を誇るスピードとパワーが

大きく増した大型かみつきが出て来るようになる ……この 大きいかみつきは加速に入ると

もう小回りが利かなくなる から距離次第では誘導がラクだけど奇襲されたら脅威……ちなみ

に 白くなる条件が乱数 なのは変わりません…… まがつきは等速で落下してるけど目覚め

る前後で速度が変わる から影響力が変化する時刻は単純計算出来ない…… 日曜23時6分20

秒になると、まがつきは漆黒の中に鮮やかな青が溶けたような色の光を放ち始め、この青い光

で赤い渦の規模は一層拡大し持続も40分から50分と更に強化され、かみつきの活動時間が32分

から40分 に…… まがつきが有明高校に到着するのは日曜26時 で まがつき から 産地

直送赤いトゲ、大型かみつき5体セット、お徳用くみつき が一通り放たれてそうな 26時40

分になると赤い渦は発生時に青い光を帯びて参加者の位置を目安に発生するようになり、大抵

はすぐに赤い渦に戻るけど霧が青のまま維持され、くみつきだけが出現する青い渦になる場合


も …… 身体はあかつきの青い内容物と同じ異様なまでに黒くて粘性のある液体が鮮やかな

青い光沢を油のように放つ、くみつきは傍に仲間がいる時のみ活動 し まがつきの放つ赤い

トゲは、まがつきの一部がトゲ状に変形したもの ……日曜の赤い渦は4段階に変化するけど

もし 4段階目の赤い渦が13ポイント持ってて大型かみつき4、通常かみつき2、くみつき1

とすれば、赤い渦から出て来る中身はこれらポイントの組み合わせに従う 感じで 3段階目

の赤い渦は10ポイントで2段階目は8ポイント …… 1段階目は6だけど出て来るかみつき

は普通サイズのみ …… くみつきは4段回目の赤い渦から登場し、まがつきの吐き出すくみ

つきより小さいけど時間差無しで、くみつきが出て来た場合、合体状態で出て来る から く

みつき専用の青い渦からは最大で13匹分の大きさの、くみつきが出て来る …… まがつきが

吐き出すくみつきは9匹分で固定 だけどね……それと 土曜までの赤い渦は日曜の1段階目

の赤い渦より、ひと回り大きいけど同じ6ポイント です…… 日曜23時6分20秒からはあか

つきの小型版が出現するけど、まだ実体を持たない幻影 で、 小型あかつきは参加者の位置

に基き出現して隣に出現する場合も珍しくない程に精度が高く、零時からは実体を伴い挙動も

変化 …… 小型あかつきの表面は月のように白く骨のような質感だけど、まがつきの外殻も

この色 だよ……零時以降の 小型あかつきは出現と同時に前述した1段階目の赤い渦を自ら

の足元に発生させると力尽きたかのように赤い光を失い、足場である赤い渦へ落下し割れて、

例の黒くて青い内容物を引き千切りながら本体が落下する前の高さまで中身を浮かび上がらせ


る ……この 小型あかつきも、まがつきの影響を受け26時以降は強化される よ…… 強化

前の小型あかつきは1段階目の赤い渦を発生させ、近くに他の小型あかつきが発生させた赤い

渦がある場合、赤い渦同士が合体し2段階目の赤い渦に成長 …… 強化後の小型あかつきは

2段階目の赤い渦を足元に発生させるけど、これも同じく合体で3段階目になる ……合体の

瞬間をスローで見れば結構滑らかな動きしてるし、水滴同士が合わさる際の挙動に似てるかな

…… 小型あかつきの中身は不気味な青さを湛えた真っ赤な色で岩肌を塗装したような質感の

心臓とも思えるものを幾つか不規則に繋ぎ合わせた感じの形状 ……脈動もするし あかつき

の心臓部 と言っていいかもね…… 小型あかつきの大きさは外殻のある段階だと、強化前が

小さめのボウリング球くらいで強化後が普通以上のボウリング球サイズ ……中身が浮き上が

ると反時計回りに回転し、自身の一部から 命中10秒後に2秒で蒸発する両端の鋭い半透明な

赤いトゲを発射 …… 強化前は3本放ち1本は必ず参加者を狙い、強化後は5本発射し4本

目までの1本は必ず参加者を狙って5本目は必ず参加者を狙う 設計…… 赤いトゲは対象の

強度ではなく厚さで貫通処理を決定し厚さが足りなければトゲは貫通して威力と速度が減衰し

厚さが十分ならトゲの半分まで減り込み停止 ……発射直後の 赤いトゲ を金属バットで叩

き落とそうとしてもトゲに貫通されるけど、広げた新聞紙にトゲを一度貫通させてれば丸めた

新聞紙でトゲを叩き落とす事も可能になる…… 赤いトゲは加速無しの等速飛行で威力は速度

に関係無く固定で強化後も発射速度が同じ ……《寄生》と《操作》の対象になるのを防ぐ為


突き刺さるとすぐ蒸発させてるけど人体は傷口がガラ空きになる上に、どの部分に刺さっても

貫通処理になる厚さしか無いから当たると致命的…… まがつきの放つ赤いトゲは全長2メー

トルだけど命中20秒後に40秒で蒸発 ……1分間際で急速に蒸発し始めるまでは、ゆっくり溶

ける…… こっちの赤いトゲは空気抵抗などを厳密に反映させてるから、たまに参加者を狙っ

ても命中精度は低くなりがち ……命中先が大きな建物だと派手な音を立てて大袈裟に周囲を

破壊するけど、これは演出用…… 小型あかつき本体の色と形の方向性に、まがつきと共通点

が多い のは 小型あかつきが、まがつきの性能をミニチュア化したもの で、 まがつきは

あかつきの親玉 って感じの設計にしたからだねー……まだ《流浪》とヒナの様子には戻らず

日曜24時に《潜在》が朧月瑠鳴に別れの事を伝え始めて 会話中の安全の為に一旦私が近くま

で来るかみつきなどを非表示にし両者への危害が反映されない処理も入れ、会話終了後に全て

戻した 時の事でも……《潜在》発動直後の《潜在》を狙い放たれた 赤いトゲ に胴を貫か

れた朧月瑠鳴が倒れた後、 小型あかつき から発生した かみつき が朧月瑠鳴を拾い上げ

頭部を分断する中、その かみつき に 赤いトゲ が命中し唸り声を出し、再び口で拾い上

げた かみつき に 他の小型あかつきが飛ばした赤いトゲ が続けて刺さった際は唸り声の

大きさを決める乱数が最大値を引いてたりするけど……《潜在》はこの光景を目の当たりにし

ながらも 会話時間を延長する条件が《潜在》を解除不可で発動 だったから亡骸を抱える事

も出来ずに、決して誰にも届かない叫び声を上げてたね……でもここで朧月瑠鳴が死んでなく


ても……例えば《潜在》が日曜にした発言の一部を少し整理すると、こんな感じの内容になる

「 参加者 たちは、元々は この世界にいなかった存在 ……だから本当は 私なんていな

い 、 宵空満はこの世に存在しない ……かみつきも、あの奇妙な月も……私たち 参加者

を追い詰める為、ゲームが用意した存在 ……だから全部、ウソなんだ……るなが……るなた

ちがいる、この世界は…… 本当の世界じゃない んだ。今回のゲームの為に この世界は全

てがウソになってしまった 」

 将棋盤をチェスボードに変えてしまうと、それはもう将棋盤とは言えないのならば朧月瑠鳴

との別れ際に《潜在》が放った、この証言に訂正の余地は無くなる…… このゲーム内で起き

た出来事は本当にあった出来事なのか ……確かなのは ゲームマスターである私が参加者を

5名 集め……《潜在》《寄生》《操作》《分裂》《流浪》をこの世界に連れて来て、 世界

をカスタマイズした 事……そんな世界を ウソ と表現するのは実に端的だけど、日曜とい

えば朧月瑠鳴の家での休息中にも《潜在》の発言があり……抜粋するなら、この2つがいいね

「もしも……明日になって、私が……宵空満が、本当は存在しなくて、るなの記憶からも消え

ちゃって……今まで、るなと一緒に過ごした時間や、送った日々が全部ウソになる」

「そもそも 私は宵空満じゃない 。宵空満何て 本当はこの世界に存在しない ……どんな

に仲のいい関係を築き上げても時間が来れば、全部消える…… 最初から 判っていたのに」

 つまり 例えゲームの勝者となってもゲームが終われば、その協力者から自分の記憶は消去


される ……よって 参加者はゲーム内で会った協力者に変に入れ込むよりも利用するだけの

関係の方が合理的で仲良くなるのは悪手 …… 協力者を自分がゲームに勝つ為の犠牲にして

しまうのが、このゲームのセオリー って事に成り兼ねない……この条件はゲームの参加呼び

掛け段階で説明してて、実際に 参加者 が協力者をどのように扱うかは各々次第……何にせ

よ 自分が他の参加者を殺さなければ、他の参加者に自分が殺される し 参加者が3名死亡

するまで、このゲームは続く ……私はゲームに参加してる間の時間が少しでも 参加者 に

とって、よりよきものとなるようこのゲームを運営し 参加者 をサポートする……私はこれ

に 参加者がゲーム内で過ごしてる間は存分に楽しんで欲しい という指向を採用してるだけ

……《潜在》《寄生》《操作》《分裂》《流浪》の全員が協力者を見付けたけど、誰も前述の

セオリーみたいな事はしなかった……でも最後まで協力者と一緒に 生存 しても、その行い

が報われる事は無い……その理由は開始前に説明した通りだけど、もう土曜零時を過ぎ、本来

なら ゲーム終了となる日曜30時 も迫って来てる……《流浪》がヒナと一緒に居られる時間

もどんどん減り続け、増える事は決して無い……それでは《流浪》とヒナの様子の続きを……


 土曜日


 時刻は零時を過ぎたばかりで《流浪》は皮膚だけは繋がってるヒナの右腕の根元付近を見つ


めてる……そんな中、 赤い渦 が4つ発生したけど全て前方なので引き返せば済む状況……

《流浪》は咄嗟にヒナの右手を掴み、その勢いで腕が引っ張られ痛がる声を微かに出すヒナを

見るや慌てて手を放し、《流浪》がヒナの左手を取ると若干顔を引きつらせてたヒナが喋るよ

「そ、そうそう……そっちの腕……左手なら動く、よ。じゃあ行こっか……さくちゃん」

 ヒナが少し苦しそうな声でそう言い終える頃には表情も和らぎ、走り出す……流れる視界の

中で 赤い渦 が何度も現れ続け途切れる気配は薄くて……特に危険も無いまま時刻は零時半

「んー、右肩の辺りがヘンな感じで頭がぼーっとしちゃう……ぼーっと……」

 ヒナがぼんやりと、そう呟く……皮膚ついでに制服も修復したけど腕の内部の全てが分断さ

れてるから溢れ出す血液が表皮を滲ませて行き、肌とは思えない色に……18時からずっと あ

かつき の光が強まる一方だから今その部分が露出しても赤く塗り潰されて判り辛いかな……

《流浪》とヒナが足早に進む中、 赤い渦 が何度も傍で発生し続け……一本道を進む内に現

れた 赤い渦 の横を駆け抜け広そうな場所が見えて来るや1匹の かみつき が落下してき

てその出口は塞がれ背後の 赤い渦 からも かみつき が浮上……左右はブロック塀だから

前後で挟み撃ち……《流浪》は立ち止まりヒナの重量指定を開始……掛かる時間が今まで通り

の中、 かみつき はすぐに両方とも向かって来て……近い方の 赤い渦 から 白いかみつ

き が出て来る頃には前後の かみつき は共に飛び掛かる距離まで来てて、まだヒナの重量

指定は終わってない……そんなヒナの顔色はさっきから青ざめ、身体ごと足元がふらついてて


…… かみつき が一斉に飛び掛かる直前、とうとう右腕を下に《流浪》の方へ倒れ込み……

そのまま《流浪》を下に地面へ衝突した次の瞬間、2匹の かみつき が空中で口を閉じ、そ

の音が響き渡り落下を始めると……ヒナの重量指定が完了し《流浪》が発動…… 重量指定中

は動作の激しさではなく指定時の位置情報の変動に重きが置かれ瞬間的に離れる程度なら許容

範囲 ……待ってる間ヒマなら一緒に踊ってても元の位置から離れ過ぎてなければ指定状態は

維持され、今回は《流浪》がヒナの左手を繋いだまま、その場に倒れ込んだから特に問題無し

……移動先は2階建て程度の一軒家が並ぶ場所の屋根の上で、 かみつき が歯を閉じる音で

かき消えてたけど負傷した右腕を下に倒れたヒナは《流浪》がクッションになった分、激痛は

免れるも十分な痛みを訴える呻き声を上げてたよ……その苦痛もまぁ治まり、《流浪》とヒナ

は屋根から屋根へと何度か飛び移り屋根伝いに進んで行き……ヒナも順調に跳んでるけど……

「あ、れ……?」

 難無く飛び移れる距離を跳ぶ瞬間でヒナの具合の悪さが強まり、そんな声を出しながらヒナ

は意識が霞んでいき跳ぶ力も弱まり……我に返るや咄嗟に左手で反応するけど遅く……ヒナは

隣の屋根に額を衝突させ跳ね返るように落下……この高さから落ちても大事には至らないけど

ヒナの後ろの木の根元付近には腕だけが取り残された死体があり……最期は木の枝を握り締め

その際に折った部分は今もしっかりと握られてる……折られた枝の先端はよく尖ってて、跳ね

返ったばかりのヒナの左ふくらはぎが直撃……結構深く突き刺さり、その鋭さ故に綺麗に抜け


ヒナは地面へ落下し、うつ伏せに……もう地面も近いし土の上だから衝撃は弱いね……これを

見るや《流浪》は窓の出っ張りに一度掴まり素早く地面へ降りる……ここでメッセージを送信

「その窓の向こうにはテープ式絆創膏の箱があり、中身を貼るだけで傷への応急処置が可能」

 《流浪》に聞こえるような音で窓のカギを開けると同時に私特製の絆創膏を窓の傍にあった

棚の上に出現させる……食品ラップみたいに箱の中から絆創膏を引き出し、シールを剥がす力

加減で綺麗に横に千切れます……《流浪》が窓を開け、その箱を手に取ると、まだ苦しそうな

表情が抜けないヒナの所へ急ぐ……強過ぎる赤い光で傷口が塗り潰されてるから貼り易いよう

に メニュー画面 では傷の箇所がよく見えるようにして、絆創膏を貼る範囲のガイドも表示

……この絆創膏を患部に貼れば殺菌も止血も一発で出来るよ……途中で 赤い渦 が発生する

事も無くヒナの左ふくらはぎに絆創膏を貼った《流浪》はヒナに手を引かれ、その場を後にし

ます……処置のおかげでヒナは何とか十分な速度で走り続け……目の前の かみつき が飛び

掛かって来た時も、痛みは伴うけど咄嗟に横に跳ぶくらいは可能に……そして時刻は1時過ぎ

「いった……い……つぅ!!」

 別に痛みは遮断して無いし右腕と左脚で内出血してる事に変わりは無いんだから、走り続け

てれば悪化するだけ……絶え間なく続く激しい痛みにヒナは目に見えて辛そう……やがて発言

「うーん……さっきより、ズキズキする……何だか右腕と左脚の感覚が、ヘン……痛いなぁ」

 《流浪》は一度も私にヒナの治療を訴えて来ないね……無理にでも頼んでみるって選択肢が


頭から完全に除外されてる……さっきの絆創膏は処置中に 赤い渦 が発生し かみつき た

ちに取り囲まれる可能性もあるから足止めの罠を仕掛けたとも言えるかな……6時までヒナが

生き延びてれば治す手立ては用意するけどね……近場の建物を個人病院にした際の医者の容姿

だって考えてある……《流浪》は背が低くて髪は水色を薄くした感じの色合いで胸の部分は見

た目相応の発育の無さ……それらが順調に成長した女性にしようかと……眼鏡を掛けさせるか

迷い中……この医者にヒナがどんな反応するか結構楽しみ……この先ヒナの腕や脚が取れても

生やすとかはしないけどね……義手や義足なら、いいのを用意します……引き続きヒナが呟く

「なん、とか……動け……そう。じゃあ、行こっか……さく……ちゃん」

 その弱々しい声からは辛さが滲み出てて息も荒く苦しそう……痛みが一層激しくなり呼吸の

勢いで少しづつ言葉を吐き出してるし……それでも《流浪》には何とか笑顔と取れる表情を見

せてます……その後は 赤い渦 が発生する事無く《流浪》とヒナは先へ進み……辿り着いた

のは平らな屋根の家の多い十字路の続く一画……この一帯はもう長い事、 赤い渦 が発生し

てないけど時刻はまだ1時半になって無いし 赤い渦 の発生頻度は上がり続けてるから……

いつこの静寂が決壊し、溜め込んでた 赤い渦 が雪崩れ込むように大発生しても、おかしく

ない……そして《流浪》がヒナを連れ広い屋根の上まで《流浪》で移動した次の瞬間……その

場を取り囲むように 赤い渦 が3つ発生し、その建物の足元にも2つ出るや道の真ん中付近

にも……この調子だと更に増えそう……早速、建物に寄った位置にまた1つ……そんな光景を


目の当たりにしながら、激痛が来た瞬間は顔が崩れ気味なヒナが比較的途切れずに何とか発言

「さっきまで静か、だったのになぁ……うーん……一気に来ちゃったねー……さく、ちゃん」

 そう言い終わらない内に地上の 赤い渦 は増え、隣の屋根にも出現……《流浪》とヒナを

中心に発生した3つの 赤い渦 は全て かみつき が出て来ると同時に気付かれる適度に離

れた位置関係で、この渦と渦の間隔だと抜け出す際に1匹いるだけで突破が困難になるね……

下手に動かない方がよさそうなので《流浪》はヒナの手を握りつつ《流浪》が使用可能になる

まで待機…… かみつき の気配が無い内にヒナの重量指定が始まって……ヒナが静かに呟く

「ねぇ……さくちゃん」

 いつ 赤い渦 から かみつき が出て来るか《流浪》が注視する中……ヒナの発言が続く

「それ……色んな場所に飛べるのって……さくちゃんだけだと、結構すぐ使えるんだよね?」

 涼し気じゃないけどヒナは比較的晴れた表情と声で 能力である《流浪》 について見解を

示す……そう《流浪》だけなら10メートル移動しても 強化 してるから5秒で再発動が可能

「そしたら、さぁ……」

 更に発言するとヒナは気を失うように倒れ始める……まだ重量指定が終わってないし状況の

説明でも……今いる屋根は四角錐を両断し水平に離した後、その隙間を直線で繋げた形状……

つまり真上からだと直線の両端にVの字が生えた線が長方形の中に見える感じで広さがある分

割と急な4つの傾斜に……《流浪》とヒナは台形斜面の方に移動し 赤い渦 が発生したのは


今の《流浪》から左手側の三角斜面付近に1つ、右手側の角部分から結構はみ出るように1つ

今いる台形斜面の足場面積を広げるように大きく、はみ出した位置に1つ……ヒナの重量指定

時間確保を優先したから《流浪》はまだ確認してないけど反対斜面側の地上にも 赤い渦 が

発生したばかりで他の斜面も 赤い渦 で塞がれたら逃げ場が無くなるね……さて倒れかける

ヒナを《流浪》は咄嗟に手を伸ばし支え始めたけど……この場面を横から見れば かみつき 

が反対斜面から登って来てるのが判るね……《流浪》が手を添え少し支えてる間に何とか意識

が回復したヒナが眠そうな声を出しながら発言を再開するけど……背後から迫る かみつき 

は地上に 赤い渦 が出現するや出て来た2匹の内の1匹で……そのすぐ後ろには2匹目の姿

「つ、ぎ……わたしがいなければ、さくちゃんは逃げれる状況に、なったら……ね」

 自分を置いて逃げて……そんな言葉が続きそうな流れの中、先頭の かみつき がヒナを狙

う位置関係になったので跳躍するけど……正面から見れば、まだ かみつき の姿が見えない

内に現れた感じだね…… かみつきは獲物を距離情報だけで捕捉してるから半端な物影に隠れ

ても、こうして跳び越えて来るよ ……連なる かみつき 同士の距離は密着同然で、跳ぶ際

に伸びた脚が後続の かみつき の脚と絡まり……跳ぶ方向がズレた かみつき は噛み付く

タイミングの乱数も相まってヒナの左腕を全て覆い……その歯と歯が勢いよく閉じる音を響か

せながらヒナの左鎖骨辺りの部分まで噛み千切る……脚がたくさんあるから着地は容易だけど

その判定は乱数で決まるので今回は着地に失敗して屋根の斜面を斜め方向に転がり落ちて行き


後続の かみつき は少し転がるだけで踏み留まり……まだヒナに気付いてないので乱数任せ

に、うろつき始める……そうして抉り取られたヒナの身体の断面からは夥しい血が溢れ出し、

その痛みが追い付かぬままヒナは意識を遠のかせながら噴出す血の勢いで内出血の続く右腕を

下に倒れて行き……そんなヒナを《流浪》は目を見開き、見つめてる……ヒナが意識を少し取

り戻すと突然視界が横倒しになってるのが理解出来ない様子で寝ぼけた表情と声で不意に呟く

「あ……れ……?」

 程なくヒナが《流浪》の姿を捉えると表情が次第に柔らかいものになって行き……少し発言

「あ……」

 ヒナの表情は何かを見付けたみたいで……やがて、いつも《流浪》の顔を覗き込む際にする

ぼんやりと明るくて優しい笑顔を浮かべ始め……何の苦しみも無い緩やかな調子で、ただ言う

「さくちゃんだー……」

 ずっと苦しそうな表情だったヒナから久しぶりに眩いばかりの微笑みを浴びせられ《流浪》

は驚くも、今では惚けた顔でヒナを眺めてて……次の瞬間、その笑顔は黒い何かで覆われ……

それが かみつき によるものであると《流浪》が気付く前に かみつき の口が閉じた途端

ヒナの骨が勢いよく折れる音が響き、上下に閉じた かみつき の白い歯と歯の隙間から肉片

混じりのヒナの血が若干飛び出す……横倒し状態から頭は全部、胴体は肺が半分は入る部分ま

で一気に噛み千切られたヒナだけど、これは首の脊髄と肋骨が思いっ切り折れる音で……この


硬いものが軋みヒビが入って砕けた後、何か柔らかいものが半端に弾ける感じに変化した音は

……ヒナの頭蓋骨と一緒に脳が潰れる音だね……後続の かみつき がヒナに飛び掛かる距離

まで早くも辿り着いてました……状況を把握し始めた《流浪》は目を見開き続け、表情を変え

る事も出来ぬままヒナの身体が かみつき の口の中で骨と肉が混ざり合う何かになって行く

様を見つめ……《流浪》は立つ気力を失い両膝を突き更に両手を突く……顔は前を向いたまま

で、さっきまで確かにそこにあったヒナの笑顔が頭から離れてない…… かみつき の口から

骨を砕く音が途絶え始め、血液と混ざり合った湿った肉を咀嚼するだけの音が目立って来た頃

ヒナだったものは かみつきに吸収 …… かみつきが口の中の獲物をある程度まで液状にす

ると歯茎の部分で消化される感じになり、そのかみつきが蒸発する段階になれば食べたものも

一緒に完全消去 されます……ヒナの頭部周辺を食べ終えた かみつき は今度は残ったヒナ

の身体部分を口で拾い上げようとする……さっき斜めに転がってた かみつき は未だに建物

の足元でうろついてるけど周囲の3つの 赤い渦 の内から右手側角部分と、ここから一番近

い左手側三角斜面付近の 赤い渦 から1匹ずつ出て来たね……目の前でヒナが かみつき 

に捕食され、残ってる身体も同じ かみつき が拾い上げ、食べられようとしてる光景を鮮明

に映す《流浪》の目は見開きっ放しで、恐怖とは違う何か強い感情が顔を覆い尽くしてる……

《流浪》の心を読み取ると…… ひなちゃん 、 食べられてる 、 死んじゃった ……主

にそんな3つの単語で構成される言葉が幾度にも渡り繰り返され、その間隔は狭まり続け……


どんどん速さが増して行き……そんな中《流浪》を狙う距離まで、いち早く来そうなのは一番

近い 赤い渦 から出た かみつき ……《流浪》が心の中で繰り返す言葉の総数は今や何百

にも及び……千の桁も間近になった瞬間、《流浪》の口が徐に開き始め……少し声が漏れたと

思ったら、また発声……そんな風に《流浪》は あ と2回言って、更に口を大きく開き……

続けて出て来たのは言葉ではなく、今まで《流浪》が朔良望[さくら のぞみ]として出して

来たものとは比べ物にならない大きさと肉声である以外の情報を持たない、あに濁点を付けた

ような音と震動……それが絶え間なく発される中、まだヒナを食べ切ってない かみつき を

余所に到着した、別の かみつき が《流浪》を捉え……その間も叫び声は衰える事を知らず

周囲にあるもの全てを震わせる勢いで響き渡り続け……遂に かみつき が飛び掛かり、今も

ヒナがいた場所から片時も目を離さずに叫び続ける《流浪》を大きな口で頭から覆い……その

まま喉を越え心臓を越え…… かみつき の歯は《流浪》の肋骨が丸ごと入る位置まで来てて

……叫び声まで覆われた次の瞬間、 《流浪》から異常な値の入力があった事を示すシステム

メッセージが出現 する……例えば乱数であちこち動く かみつき は何処にいても、おかし

くないけど、 はねつき のように空中で飛行してる事が前提の存在が海中にいたら問題なの

で はねつきが海中にいる時は特定のエラーメッセージが出るようにしておく ……そんな風

にエラー条件を色々と規定しとけばゲーム内で何らかの異状があれば、すぐ気付けるし、 は

ねつきが海中にいる事を示すエラーメッセージが続くなら、そのはねつきを上空まで浮上させ


る みたいに異常事態の対処方法を事前に組んどけばエラーが出た途端、その問題は解決する

……今回の異常値入力は 正常値に変換しその内容で入力 という自動処理が行われ ゲーム

マスターの私自ら正常な内容に強制変更 という緊急対応には至らないエラーで……変換方法

は異常な値を正常範囲の乱数で上書きだけど、規定範囲値から多少ズレた程度なら元の数値に

基く乱数で上書き……後者で処理された 今回のエラーメッセージは参加者がゲーム外の能力

を発動しようとした場合に表示 され……何かの弾みで 参加者本来の能力が暴発する事態を

想定 してます…… 参加者本来の能力は参加者本来の姿じゃないと発動を許可しない から

こその異常……要するに《流浪》が 本来の《流浪》の能力 を発動しそうになったので、そ

の内容をゲーム内の《流浪》で使われる数値に変換しました……その結果、飛び掛かりながら

開かれた かみつき の歯が《流浪》の胴体目掛け閉じられる寸前で《流浪》は ゲーム用の

《流浪》 を発動し《流浪》だけが、その場から姿を消す……では 移動メッセージ を表示


「この絵札で薄い箇所がピンク色だけど……他にも色々あるよ。とりあえずトランプ1組分」

 そう言うと私は広げたトランプを1枚ずつ違う色のピンクにして、その 参加者 に見せた


 三日目



 これで 強化 した《流浪》が過去に戻る形で発動されたのは3回目……1回目と2回目は

《操作》が発動してたね……今回は《流浪》が暴発しそうになった 本来の《流浪》の能力 

を 強化 した《流浪》と同じ内容に変更したので《流浪》が自らの意志で発動したわけじゃ

ない……それを踏まえると、これまで過去へ行く為に《流浪》が使われたのは2回のままかな

……《流浪》は未だに叫び続けてるし、もう少し収まってから移動させよう……何処かと言う

と、さっきの自動処理で定まった ステージ1かみつき三日目 …… 《流浪》を強化すれば

過去への移動が可能になる ……今回《流浪》は ステージ3あかつきからステージ1かみつ

き まで移動したけど、 その距離 はどうなるか……それを説明しながら《流浪》が落ち着

くのを待つかな…… ステージ終了時はゲーム時間を止め参加者を別の場所に隔離 し、次の

ステージを始める前の準備したり 参加者 の質問や要望を受けたり……それが済んだら 全

参加者が拠点で過ごしてる状況にしてゲーム時間の停止を解除 し、次のステージとなる……

時間経過があった事にしてるから、その間バイトなどで資金が増えた事とかにも出来るし ス

テージ1かみつき終了間際 に《流浪》を発動した《操作》は 能力が再使用可能になるまで

134時間経過する必要があった けど、その時間は ステージ2はねつき になる事で既に

経過してる状態に……でも実際の処理内容は ステージ1かみつき最終日の6時になった瞬間

ステージ2はねつき七月三十一日の6時になる ……ゲーム内の時間なら私が好きなだけ止め

れるし 隔離空間の時間のオンオフや速さだって自在 ……今だって叫び続けてる《流浪》を


こうして隔離し、一瞬で終わる筈の移動と移動の間の時間を停止させ、心ゆくまで泣き叫べる

状態にしてるよ……どこまでも続く雲ひとつ無い青空と、それを鏡のように映す透明な水面だ

けが広がる空間に……《流浪》はずっと泣き崩れ続けてるので作り込んでも見て貰え無いから

真っ黒な空間でもよかったんだけど……誰も傍にいない暗闇の中で独り取り残されるのって私

絶対イヤだから、そんな状況作りたく無い……水面と言ったけど地形判定があるから沈まない

仕様……でもせっかく《流浪》が涙を流してるんだし零れ落ちる涙だけは水面とぶつかった時

と同じ結果になるよう処理……つまりさっきからずっと《流浪》が涙を流す度に波紋が次々と

出来てるね……こんな風にステージとステージの間の準備時間は私の好きなだけ使えて その

間ゲーム内の時間は止まってる し、隔離空間で過ごす時間ってゲームのロード画面を眺めて

るようなもの……だからステージとステージの間に時間を設ける必要は無くて ステージ1か

みつき最終日翌日はステージ2はねつき初日で、ステージ2はねつき最終日翌日はステージ3

あかつき月曜日 なのでステージ1が十日間、ステージ2が七月三十一日から八月二十一日の

二十二日間、ステージ3が月曜から日曜の七日間……故に このゲームの試合時間はステージ

1かみつき一日目朝6時からステージ3あかつき日曜30時までの936時間 ……よって時刻

を若干大雑把にした ステージ3あかつき土曜1時半からステージ1かみつき三日目16時半ま

での移動時間は849時間 となる……《流浪》で前のステージに戻る事は可能かどうか聞か

れたらステージとステージの間に時間経過が無い事を教え、詳細を求められれば今の説明をす


るつもりだったけど…… 参加者全員が《流浪》を強化してない とはいえ、本格的に使われ

た例がこうも少ない何て……半減処理無しで発動された今回の《流浪》は大体こんな内容だね

「 能力 《流浪》を発動。遡行時間は849時間……終了後に戻る場所は現在位置を指定」

 《流浪》で過去へ移動する場合は通常の移動距離を免除した移動時間…… 過去へ行くまで

の時間と過去で活動した時間の合計が発動終了時の《流浪》再使用不能時間 なので今回だと

最大で1698時間になる……だから 《流浪》で過去から帰還した段階で使用可能になる他

の能力が《流浪》の発動時間分使えなくなる代わりに《流浪》の再使用時間を半減する 機能

を用意してます……ステージを越えて遡れるんだから前のステージに戻った際に現段階で知っ

てる 参加者 の命を狙いに行く事も出来る……それが失敗しようと成功しようと 発動時点

より前の過去へは二度と辿れなくなる けどね…… 他にも《流浪》を強化した参加者がいて

まだ遡れる場合なら上書きされた過去を上書きし直す事も可能 で相手も《流浪》を 強化 

してるか把握しておきたいけど《流浪》を 強化 してない 参加者 から 返り討ちに遭う

などで死亡しても即適用 され、 互いに即死の相討ちなら両方の死亡が確定 なので、狙っ

た 参加者 を 死亡 させる為に 強化 した《流浪》を発動するなら確実に決めた方がい

い……《流浪》はまだ泣いてるけど叫び声が治まってきて周囲の状況が変わった気配を察知し

始めてはいるから次のメッセージを《流浪》の目の前に表示させよう……文字色は白で枠付き

「あなたは無意識にゲーム外の 能力 を発動させようとしました。ゲーム用の内容に自動で


置き換わった結果、 849時間前のステージ1かみつき三日目の16時半頃の有明高校周辺 

に《流浪》で移動する事となり……このメッセージが閉じると同時にその座標へ移動します」

 《流浪》の瞳がメッセージ内容を読み取り終えると私は《流浪》の目の前で平面表示させて

たメッセージを閉じ停止してたゲーム時間を再開……《流浪》の発動途中だったので《流浪》

は隔離空間から 有明高校 の通学路周辺へ移動……空をまばらに覆う雲は反射する夕陽で血

の色を感じるような赤を放ち、それに青みが帯びた陰の部分と隣り合い……暗い深紅色に染ま

り始めた夕焼けの中で奇妙な色合いの模様を浮かべてる……そんな夕暮れの下で佇む《流浪》

は壮絶なまでに感情を掻き乱してた影響で記憶が混濁……今の思考内容をやや整理すると……

「ここ……どこ? ひなちゃんは……? 私……ひとり? ひなちゃん……どこにいるの?」

 さっきまでヒナと一緒だった事は覚えてる感じで 自分がゲームに参加中 という事が頭の

中から抜け落ち、今覚えてる断片的な情報を何とか振り返ろうにも直前の出来事に対する欠落

が著しくて満足に思い出せるのはヒナと一緒に過ごしてた光景くらいで、その記憶もかなり、

ぼやけてる……臆病な性格は健在で、遠くから視線を感じた《流浪》はその場にいるのが怖く

なり、逃げ出すように走り始める……《流浪》のいた場所は広めの路地で、その隙間を進んだ

先の場所から《流浪》を眺めてた視線の主の隣には人物がいて……突如振り返り、発言します

「どうしたの? さくちゃん……」

 その女性は幾らか弱めたオレンジの髪を長く伸ばし、最初の声の主も女性で髪が長く水色を


淡めにした感じの髪だけど背はかなり低くて共に 有明高校の制服 を着てる……そんな2名

は朝比奈真白[あさひな ましろ]と朔良望[さくら のぞみ]……今は ステージ1かみつ

き三日目 だから当時のヒナと《流浪》もいるよね……三日目の《流浪》はさっきまで不意に

目にした《流浪》の長い髪が夕陽を浴びてキラキラと輝く様を眺めてて……やがて足元に落ち

てた1枚の大きな羽根に映り込む夕陽の微妙な反射具合に目を奪われ、この後ヒナと手を繋い

で何事も無くヒナの家に帰れるけど……《流浪》の方は恐怖に駆られるまま走り続けてて……

今すれ違った 有明高校の制服 を着たピンクの髪をショート気味まで伸ばしてる男性は玉宮

涼[たまみや りょう]だね……ゲーム開始前に《操作》が名前よりも苗字の方を悩んでたの

で 既存住民の家族 という案を紹介する勢いで玉宮涼を提示したら、そのまま 玉宮涼の妹

玉宮明[たまみや めい] に決まり、《操作》が髪をレモンにしてたら玉宮涼もレモン色の

髪になってたね……思わず走り出した《流浪》の進む道は割と狭く……まだ先はあるのに か

みつき がそこを塞いでる…… ステージ1のかみつきは出現時の身体が青く透明同然で、赤

みを増しながら透明度は下がって行き、紫色になる頃には参加者以外にも視えるようになる 

…… かみつきの身体が青くて透明な時は参加者にしか視えず、紫色段階まで参加者以外には

接触判定が発生しなくて透明度が下がり切って身体の色が赤紫になると黒ずんで行き、赤い煙

を放ちながら全身が溶け始める よ…… ステージ3のかみつきはこの赤黒い段階から出現し

ステージ1のかみつきの出現時間は乱数で決まるから溶け始める時間はバラバラで出現数にも


限り があったね……《流浪》の行く手を塞ぐ かみつき は紫色……でも《流浪》の目には

赤黒い ステージ3のかみつき に映ってて空の色も少し前にいた ステージ3あかつき1時

半頃 と同じように見えてる……このステージ1での《流浪》の思考を眺めてると思うのが、

極端に言えば《流浪》は 心まではステージ1に移動出来なかった んだなって……《流浪》

の心は今も、空には全てを不気味な赤で染め上げる あかつき が浮かび、 赤い渦 が発生

しては かみつき が這い出る、あの場所に取り残されてる……だから目の前の かみつき 

も ステージ3のかみつき と同じに見えてて……目に焼き付くような、あの瞬間を思い出す

……朝比奈真白が突然 かみつき に食べられた事を、朝比奈真白が目の前で死んだ事を……

思い出した光景が頭の中を駆け巡った次の瞬間、《流浪》は大きな悲鳴を上げ始める……ヒナ

の名前を叫ぼうとしても、大きく開いた口から出て来るのは あ だけで……ただただ悲痛な

肉声はやや離れた玉宮涼の耳まで届き……辿り着いた頃には《流浪》の口が震え始めてて……

「あ……あ……!!」

 掠れ気味にそう叫ぶ《流浪》の頭の中では ステージ3あかつき で見て来た かみつき 

に食べられては肉塊となった人々の新鮮な残骸の群れが続々と浮かび上がって来てる……傍に

いる玉宮涼に気付く余裕は無く《流浪》は元来た道を戻り始め逃げようとするけど……少し前

に発生してたんだよね、 かみつき が……最初の かみつき は玉宮涼にも視える紫色なの

に対し新たに発生した かみつき は玉宮涼には視えない青色段階……《流浪》の恐怖と混乱


は続き 《流浪》を解除すればステージ3あかつき1時半の元いた場所に戻れる 事も忘れ、

悲鳴を上げ後ずさりする内に立つ気力を失い、その場に座り込む…… 《流浪》で過去に移動

する場合は遡行時間と同じ時間まで活動時間の指定が出来る ……つまり 活動時間を24時間

に指定してても途中で戻る事も出来れば延長する事も可能で、遡行時間と同じ時間になるまで

なら好きなだけ延長を続けてもいい ……活動時間の指定はせずに目標を達成したら《流浪》

の発動を早々に解除するのがオススメ……ところで今回の《流浪》が発動したのって、 かみ

つきの口が閉じられる寸前 だから戻った瞬間《流浪》の上半身は かみつき に噛み千切ら

れる状況だよね……でも《流浪》使用不能時間を半減してないから 弱化 してる《潜在》と

《寄生》、 通常 の《分裂》が使える……発言か思考で私に相談も可能で《潜在》なら……

「《流浪》の解除と同時に《潜在》を発動した状態にするのは可能ですか?」

 これは可能で《分裂》だと発動直後に両方食べられるけど 発想ボーナス で片方は かみ

つき の口の中から出られる事にする余地も……こんな状況下で 能力 を的確に活かす発想

が出来たんだ、多少の無理は聞くよ……《寄生》は 弱化 の為、 入り込む しか出来ない

けど、 かみつき が溶け切れば 脱出 と同じ結果になるから……ここは 《流浪》を解除

し帰還と同時に一番近くのかみつきに《寄生》する が最適解……《流浪》の頭の中は未だに

ヒナの事と恐怖で入り乱れてるから、そんな冷静な行動、出来無いけどね……こうして見れば

結構いい条件で ステージ3あかつき に戻れる状況だったけど、その後も 生存 出来たか


どうかは……今や《流浪》はまだ透明で青い かみつき に飛び掛かられ、上半身が かみつ

き の口の中に収まってて……あとは歯が閉じられて胴体が断裂するだけだから、もう判らな

いね……《流浪》の 死亡 は既に確定したと言えるし、その後の玉宮涼の方を先に触れよう

……視えない何かに《流浪》が捕食される様を玉宮涼が愕然と眺めてると、紫色の身体が赤を

帯びるに連れ黒ずみながら溶け始めてきた かみつき が玉宮涼に飛び掛かる……分断された

玉宮涼の下半身は地面へ落下し、上半身を食べ終えた かみつき は更に下半身を拾い上げて

食べ終えるや溶けて消え去り……死体が一切残らなかった玉宮涼は行方不明者として扱われる

事に……それにしても ステージ3あかつき土曜1時半頃まで進んだ参加者がステージ1かみ

つき三日目16時半頃に死亡 ……結構有り得ない流れな気もするけど、そんな事態を《流浪》

の 能力 は可能にした……ステージ3までの出来事を実況紛いに《流浪》を中心に振り返っ

て来たけど、それも終わりが見えて来たし、 《流浪》の本来の能力 について説明するかな

……異なる5つの建物があり部屋の数は建物毎に違うとする……この例えを建物からは出られ

ない前提で 私がゲーム用にカスタマイズした通常の《流浪》 の内容に当てはめると 今い

る建物内で行った事のある部屋へ移動出来る能力 になり、 強化だと今いる建物内での過去

の時間にも行ける …… 本来の《流浪》の能力 の内容もこれで例えた場合……こうなるね

「全ての建物と全ての部屋……それら全ての時間を対象に移動する。自らの意思を余所に何の

前触れも法則性も無しに発作的かつ瞬時に発動する為、移動先を任意指定する事は出来ない」


 例えば4つ目の建物の2部屋目にいる時に《流浪》が発動し……1つ目の建物の5部屋目に

移動しても発動前から見て三日前だったり1週間後になる場合があり、元の4つ目の建物の2

部屋目に戻りたくても次は2つ目の建物の8部屋目も有り得る上に4つ目の建物に戻れたとし

て当時から見て数ヶ月前かもしれないし数十年後かもしれない……それも2部屋目とは程遠い

部屋になる場合も……そんな感じの不確定要素には ランダム という言葉を使い、変動する

位置情報には座標という数値的な概念を導入して 本来の《流浪》 を表すと……こうなるね

「今いる位置座標と時間座標をランダムに変更した座標へ移動する。自らの意志で発動する事

は出来ず、いつ発動するかはランダムである」

 私がカスタマイズした《流浪》って 行った事のある場所へ移動出来る能力 だけど 本来

の《流浪》は行った事の無い場所にも移動可能で、その内容の指定が出来ない んだよね……

今まで何度も 新しい乱数 と言って来たけどゲームで使われる乱数はプログラム側で用意さ

れた関数だけでは物足りなくてゲーム毎に何かと工夫が凝らされてて……どのように乱数を生

み出すかは私にとっても課題……そこで 今回このゲームでの乱数は全て、《流浪》から移動

能力を除去し数値変化だけを取得出来るようにしたものを使用 ……要は ランダムな結果が

欲しい時に振るサイコロ 的な何か……振る前に数値範囲を指定出来るようにするだけで 質

の高い乱数 になるから今後も重宝しそう……さて例え話に戻り、建物が何を意味するのかを

説明…… このゲームの舞台は日本のとある街 ……つまり 地球 であり、 地球は宇宙の


中にある1つの部屋で、宇宙は建物の1つ ……このゲームを開催する為に私は 5名の参加

者 を集めたけど、この例えで言うなら 各々の建物から連れて来た参加者を今回の建物の中

にある地球という部屋の中での、ごく限られたスペースでゲームを開催 してる感じだね……

《潜在》《寄生》《操作》《分裂》《流浪》……これら 5名の参加者は今回の建物の何処に

も存在しない他の建物の住民 ……さっき 建物からは出られない前提 と言ったけど可能性

による分岐宇宙じゃなくて 根本的に世界の成り立ちが異なる別世界 で宇宙という概念では

表せない場合や、惑星という概念を成さない限られた空間内で惑星1つ分相当の海と大地くら

いしか無い世界もある……ここで言う宇宙の広がりを知ってれば驚くほど小規模だったり、こ

の世界の宇宙が幾らでも入る規模だったりと様々……そんな建物から建物へと放浪してる事に

なるのが 本来の《流浪》の能力 で、その移動には時間座標の変動が伴う……少し前の暴発

を許してたら《流浪》はゲーム外どころか地球が存在する宇宙とは違う、他の世界の何処かへ

移動してたかも…… 今回の参加者って本来の姿を人間の姿に変換してる けど、 ゲーム内

制御が無くなれば無理に縛ってたものが解ける感じで本来の姿へ戻る 感じだね…… 本来の

姿 に戻れば破壊不可が基本の かみつき を容易く撃破したり捕食出来るようになったりす

する場合もあるけど《流浪》の場合、 本来の姿 で 本来の《流浪》 が発動されちゃうと

……ゲームで不利になる以前にゲーム内に留まれる確率自体が絶望的……《流浪》の出席番号

は5番……つまり 最後に参加登録した参加者 ……《流浪》が ゲームに参加する意志 を


確認した私は《流浪》をゲームの制御下において 《流浪》の能力 を閲覧し始めたけど……

あの内容には本当に驚いたなぁ……制御下に置くまでの間に《流浪》が発動する要素もあった

けど、そもそも 集めた参加者を待機させる為に一時的に用意した控え室的な空間 に移動し

て来た事自体が 奇跡 だし……要するに 本来の姿ってゲーム内での制御状態を最低限残し

て参加者になる前の姿で行動出来る状態 ……ちなみに ゲーム内の能力を全て使い切れば、

本来の姿になれる よ……《分裂》なら《潜在》と《分裂》をあと1回ずつ使えば条件が成立

……5回あった《寄生》が1回分残ってるけど《寄生》にはこの段階で 使い切った状態 と

見なす措置があり 本来の姿に戻る前にどこかに入り込んで、その対象を破壊すると共に本来

の姿でゲーム内に登場 ……そんな風に使えるよ…… 5名の参加者の中にはステージ2はね

つきのボス、やみつきを一撃で葬れる能力の持ち主がいる けど……その 能力 は採用せず

に 代表的な能力 の方をカスタマイズしました……こんな感じで 本来の姿になればゲーム

内で一気に有利になるけどゲーム内の能力は一切使えなくなる ので 自分の本来の姿と能力

で勝利を目指す 感じになるね…… つきの内容を本来の能力が存分に活きるように設定して

る のもあるけど……さて《流浪》が捕食されてる途中だったし、その最期の場面を見て行こ

うか…… かみつき に上半身から噛み付かれた《流浪》はまだ意識が残ってて……一度では

胴体を分断し切れず所々が繋がってるので下半身は落下せずに揺れてるね…… 新しい乱数 

が振られる度に かみつき の次の動作が決まり……まず かみつき は《流浪》を地面に対


して垂直に迫る傾きまで持ち上げ……《流浪》の身体を段々と呑み込んで行く……咀嚼される

《流浪》の身体は至る所が中途半端に断裂した肉塊となり果て、《流浪》は朔良望の姿で完全

に 死亡 しました……さっき私は《流浪》と遭遇し、このゲームを始められたのは 奇跡 

だと言ったけど、その 奇跡 が発端となり辿り着いた結末がこれ……こうして 参加者が1

名減り4名になった わけだけど何度も言ってる通り、 参加者が2名以下になるまで、この

ゲームは続く ……どのように続けるかは、もう考えてあるし準備も万端……だからあとは、

こんな風に締め括りの 移動メッセージ を表示してゲーム時間を再開するだけで始められる


「次は俺の 能力 だ……ほぉ、生物に限らず物体全般を対象にし……回数制限を設けたか」


 でも《流浪》の話はまだ締め括れない……ゲームとは関係の無い私的な用だけど、確認した

い事がある……何度も述べたけど 私は専用の造形物にルールを与えられたアナログゲームと

ソフトを入れプログラムを読み込むハードウェアがあるデジタルゲーム機の複合体 ……この

世界だとトランプや玩具、ゲーセン筐体や家庭用ゲーム機だね……それらに意思や自我が生ま

れ1ヶ所に集まって出来た存在と言えば大分近い……論理回路な思考だけでなく遊んでくれた

存在と幾度も触れて来たから複雑な感情と思考が集積され備わってる……壊れたり遊ばれなく

なったり放置されたり仕舞い込んで忘れ去られたり……そんな記憶も集積されてるけど……私


がこうして ゲームマスター をやってる理由は、誰かに私の目の前で遊んで欲しいから……

私の用意したゲームを遊んでる間は楽しく過ごして欲しいんだ……私と遊んだ存在は感情的な

意味で、笑顔になりながら心が温まるひと時を過ごせる……そんな風に私は在りたい……ゲー

ムを遊んでくれる存在にそれを届けたい……どこまでもあたたかい、あの景色と空間にどうし

ようもなく、何ものにも代えられないものを追い求めるように、心と身体が焦がれるんだ……

だけど今、私が開催してるのは 参加者同士で命の奪い合いをするゲーム ……そんなゲーム

に 参加 し主催者である私に向けられる感情は相場が決まってるよね……だけどせめてゲー

ムをしてる間だけは少しでも楽しい時間であって欲しい……そうなる事を願うかのように私は

この世界の文化などに触れる機会をこれでもかと充実させ、ゲームとして盛り上がりそうだと

判断した事は多少の無理があっても ゲームマスター の権限で通して来た……私が《流浪》

に確認したい事はひとつしかない…… 私のゲームを楽しんでくれましたか ……ただ、それ

だけ……人間の感情は複雑で苦しくても笑った表情をする場合だってある……でも死ぬ間際に

自らを死に至らしめた元凶である存在が目の前に現れれば、それに対する感情がそのまま顔に

出る……だから私は 参加者が死亡 する間際になれば目の前に現れるようにしてる……どん

な酷い感情を向けられたって構わない……私が開催したゲームに 参加 して最後にどのよう

な感情を抱いたのか……それを教えてくれずに私から離れて欲しく無い……せめて何か残して

行ってよ……この先、誰にも遊ばれず、ただその場に在り続けるだけの時間が延々と続く事に


なっても、それが私の中に残ってれば私は頑張れるから……もう無意味に存在し続けるしかな

かった、あの時間を味わいたくない……誰かが傍にいなくてもいい、せめて何かと一緒で在り

たい……何ひとつ見えない冷たい場所に追いやられても、想い出がたくさんあれば、きっと寂

しくない……だから集めずには居られない……私という存在と遊んで何を思い、どんな感情を

抱いていたのか……さっき振り返り中《流浪》が 死亡 してたけど実際の場面では《流浪》

が かみつき に胴体を噛まれた直後……私は《流浪》の視界にゲーム開始前にも見せた私の

人型の姿を表示させてたんだよね……《流浪》が抱いてる私への感情を確かめる為に……そう

あの時《流浪》は目の前に私が現れたのに気付くと顔を向け始めたから……その表情がどのよ

うなものになるのか私はその変遷を最後まで、この目に映そうとしてて……やがて《流浪》は

上半身を咥えられたまま、 かみつき に持ち上げられ……残る下半身も呑まれ咀嚼が始まり

遂には表情も噛み砕かれ溶けて消えてしまうけど……その瞬間までしてた《流浪》の表情を見

て私は、これが今まで 能力 が発動する度に切り替わって来たであろう景色に対し《流浪》

が見せて来た表情なんだなと思い至る……それは全ての動的な感情とは無縁の静寂さを湛え、

何の当ても無いまま世界を漂う存在に相応しい表情で……《流浪》はただ――


 虚ろな様子で興味深い眼差しを浮かべ最期まで、私を漠然と眺め続ける表情のままだった。

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