朔良望(中編)
最終日
引き続き朝比奈真白[あさひな ましろ]をヒナ、《流浪》は朔良望[さくら のぞみ]と
呼ばずに《流浪》で……ヒナは、さくちゃんって呼んでるけどね。ヒナも《流浪》も髪が長く
ヒナの髪はオレンジの濃さを薄めた色合いで腰を通り過ぎるほど伸ばし、《流浪》の髪は水色
を淡くした感じの色で腰の辺りまで伸びてるからヒナより短い……ヒナは身長が結構高い方で
《流浪》は年相応に伸びてない低さだから、親子のような身長差……まぁ、朧月瑠鳴[おぼろ
づき るな]より背は高いけどさ……そんじゃ ステージ1かみつき十日目の話を始めますか
月曜の授業を終え帰宅した《流浪》とヒナは18時開場で19時開始の野外ライブ会場への出発
準備に追われてるけど、一等賞のチケットは特等席……特に問題なく到着したので前座の演奏
が終わった19時半まで話を進めよう……いよいよ主役の歌手が登場し会場は大盛り上がりだね
……ヒナの服装は……グレーのパーカーのフード部分を髪で覆い、ジーンズの色は濃さのある
青で最初からダメージ加工があり、黒いTシャツの表にはクモの巣が広がり、その中央付近に
クモの姿……それぞれ単色のイラストで巣は白くクモは黄緑……これが無地のシャツなら地味
な格好だね……男性が寄って来ないように女性の色気を隠してる感じかな……対する《流浪》
は同じTシャツでもクモの色がショッキングなまで鮮やかなピンクで今夜はツーサイドアップ
の髪をこのピンクに合わせた発色の強いリボンで蝶々結び……リボンの両端はギザギザで並び
方に統一性が無く、黒レザーのアームカバーは単色の水色ムカデが曲がりくねって何匹も腕に
まとわり付いてる柄……ニットの指出し手袋は黒とピンクの横縞模様で、スカートは長さ膝上
丈の黒同然の紺色だけど、その下に昨夜の水色迷彩スカートを履いてて、模様が見えるように
紺色スカート部分のあちこちをカッターで乱雑に切れ目を入れてる……あとは濃いビリジアン
で履き口から大きく広がったファー部分と靴底が水色のムートンブーツくらいかな……普段の
《流浪》からは想像も付かない着飾りっぷりだなぁ……コーディネートしたのはヒナだけどね
今日は《流浪》のクラスでも、大型ストアで かみつき が発生した騒動が話題になってた
……《流浪》はライブの事で頭が一杯、ヒナの意識は《流浪》以外には注がれず、話題に何て
気付かずに過ごしてたけどさ……今の演奏も終わり会場は拍手と歓声が高まる中、時刻は20時
今回の ステージ1かみつきは初日は3匹、それ以降は一日4匹ずつ増える ……九日目で
ある昨日は35匹いたんだけど……今日は違う。まずは学校のグラウンドに……んー、もう1回
かな……よし、次は野球スタジアム……次の演奏が始まったら、このライブ会場にも……え、
何をやってるかって? 今夜は指定した場所に かみつき を発生させるんだけど、1から35
までの 乱数 でその数を決めてます……このゲームの敵の発生位置や普段の移動方向とかの
処理は乱数に任せてるけど今回は 新しい乱数 を使ってて……あ、次の演奏が始まったし、
この会場に発生させる、 かみつき の数を決めようか……まずは1回目……4匹かー……も
う1回……7匹……いやー、せめて20匹は欲しいよ……もう1回! いやいや2匹はちょっと
……仕方ないね、もう1回……5匹ですか……じゃあ5回目は……あ、ゾロ目……33匹……と
いうわけで合計51匹の かみつき がこのライブ会場で1時間掛けて発生する事になりました
……乱数って、こういう事起きるんだよね……発生間隔も乱数だけど絶え間なく出る時もある
さて、早速発生した かみつき に観客が1人、頭から…… 観客たちはライブ演奏に夢中
で周囲の状況に気付かない って風にしてるけど《流浪》とヒナがいるのは特等席…… 後ろ
の様子が確認出来ない最前列 だよ……発生位置の乱数がライブステージになれば気付ける感
じ……客席に続々と追加される、 かみつき の数に応じ会場の犠牲者の数は増える一方です
ステージ3のかみつき は発生してから溶け切るまでの時間が固定だけど ステージ1の
かみつきの発生時間は乱数で決まり、発生時は透明状態で参加者以外には視えない ……透明
段階で実体があり、最初は淡い青紫の身体も時間が無くなるに連れ赤黒くなって行き、赤い煙
が噴出す頃には残り僅か……赤い煙の量を見てれば溶け切るまでの時間の予測も出来そう……
さて、 かみつきの身体は自動車サイズ ……ここまで人間が密集した場所で発生すれば一度
に5人以上は口の中に入るね…… かみつきは生物が傍に来ると口を開けて飛び掛かり歯の傍
に獲物が来れば閉じる けど……大抵、上半身だけ噛み千切るような食べ方になるから観客席
には胴体の辺りから上が無い人間が次々と散乱し始めてます。 かみつき には手が無いので
顎の力と口の動きだけで獲物を食べる事になって、食べかけの肉片や人体の一部が口を開ける
際に次々と零れ落ちて行き、その柔らかい赤が至る所で散乱した人肉の群れを彩る……そんな
中途半端な食べ方をするもんだから、取り残された人体から噴出す血液の量は、まさに血の雨
……それでも観客たちは会場の有様には気付いてない……《流浪》はライブに圧倒されてるよ
「何だか雨が降ってるみたいだねー……さくちゃん」
身体に降り注ぐ生温かい血を雨だと認識したヒナは、そう発言……袖なしシャツの観客も多
く、 露出した肌に血が掛かれば気付かない状態を解除 してるけど……会場の異変に気付く
観客が未だにいない何て、熱狂状態とは言ったものだねー……頭から血を被っても腕が赤く染
まっても、お隣さんの身体が削り取られても……誰1人気付かずに跳んだり歓声を上げたりし
てる……それにしても乱数の偏りが酷い……発生したと思ったら、たちまち黒くなり赤い煙を
噴出して溶けて無くなる、 かみつき ばかりで……やっとライブステージに発生した、 か
みつき も発生時間の乱数が最低値同然で何の被害も無く溶け失せたし……でも、これで……
「さくちゃん。どうか……したの?」
目の前で かみつき が溶ければ《流浪》はまず見逃さないよ……頭の中がぼんやりしてる
時が多いけど、会話内容や複雑な情報を理解する知能は備えてる……実際今、こんな思考内容
「今の…… かみつき ……そうだった……今日は ステージ1の最終日 ……どうしよう」
こんな風に《流浪》の思考が1つに定まる時がある……でも1つの事を考え続けるのが大の
苦手で判断力を疑う言動になりがち。顔には余り出ないけど感情が豊かで……今はよく出てる
「さくちゃん……具合悪いの? 不安そうな顔してる……」
急に落ち着きが無くなった《流浪》を見たヒナがそう言って……その気持ちを何とか和らげ
ようと思い始めてると、後ろの方で かみつき が獲物を持ち上げる際、勢い余って投げ飛ば
した……人間の上半身がヒナの目の前に落下……右側が大きく噛み千切られてるけど、首と顔
は半壊状態で若い女性のものだって判る……そんな肉塊を目指し、ヒナの手が伸びて行き……
「さくちゃん」
そう呟くヒナの声と所々破れた内臓の群れの中にヒナが手を潜り込ませる音が静かに混ざる
「ほら……こうすると……あったかいよ……落ち着くよ……さくちゃんも、手……入れよ?」
お風呂に浸かった時に見せるような表情でヒナがそう言って、突き刺すように肉の中にいた
手が引き抜かれ……鮮やかな赤に塗れた手がライブの照明で反射される中、 かみつき の姿
が《流浪》の目に映る……この場を離れようと、血で滑りやすくなったヒナの手を《流浪》は
掴み、《流浪》が引っ張り始めた事に気付いたヒナは一緒に走り始める……体格差が凄いから
《流浪》はヒナを力ずくで引っ張れません…… かみつき は《流浪》とヒナを捉え追い掛け
るけど ステージ1のかみつきは目の前の獲物を無差別に襲う ……つまり周囲に人間が多い
この会場だと、 かみつきは獲物をすぐに変更する よね……だから ステージ3には参加者
だけを狙う白いかみつき を出してます……さて、《流浪》はヒナを連れ本能任せに かみつ
き から逃げ回ってるけど、動きが機敏で迷いが無い……《流浪》は発生直後の かみつき
が視えてて、会場はパニックじゃないから逃げ惑う人々に阻まれる事も無く……今では会場か
ら少し離れた所まで走り抜け、難を逃れた感じ……ここで全く危機感の無い声でヒナが言うよ
「どうしたの? さくちゃん……急に走り出して……そんなに慌てて……それにしても、さっ
きの……生き物かな? 青かったりドロドロしてたり……珍しかったねー」
ヒナにも発生して、しばらく経った かみつき なら視えるし、逃げ回る最中に結構な数を
目撃してた……《流浪》とヒナが走る速度も落ち始め、やがて立ち止まる……この位置を私が
直接指定すれば、 かみつき を発生させる事が可能だよ……でも、それはしない…… かみ
つき 、 はねつき 、 あかつき ……ゲーム上の障害物と言える、これらの存在は最後の
方が つき で統一されてるし、 つき って呼んでる…… つき の果たす役割はあくまで
も 参加者を追い詰めるような状況を作る事 ……窮地に立たされた 参加者 はどのような
行動を取り、そこから機転を生み出せるかが問われる……そして、 参加者を完全に追い詰め
死亡させる状況を作るのは参加者 ……無闇に私がテコ入れしても、その機会を奪うだけです
「疲れたねー、さくちゃん……ここで、ちょっと……休もっか」
《流浪》とヒナは走るのを止め、まだ息の荒さが目立つヒナがそう提案……《流浪》は周囲
を見渡すも、かみつき は見当たらず、やがて一緒に座り込む……さてここはライブ会場から
そう遠くない路地裏……さっきの乱数で かみつき が発生する範囲内……《流浪》とヒナの
呼吸も落ち着き休憩が始まった矢先、後ろに転がってた空き缶が踏み潰される音に《流浪》は
気付き、振り返った視界の向こうには発生したての、 かみつき の姿……でも発生と同時に
実体を持ち、狭い路地裏で自動車サイズの かみつき が発生したら身体がハマって身動きが
……取れるよ。 かみつきは発生直後に地形を認識すると周囲の形状に沿って変形 し、胴体
のあちこちから脚を生やし速度を落とさずに移動可能……映画とかで建物に潜入する際、狭い
通路を這いながら進む場面があるけど、 かみつき はああいう通路でも問題なく移動出来る
……背後で脚を激しく動かしては迫る かみつき を見た《流浪》はヒナを引っ張り始め……
ヒナは何も疑問に思わず再び一緒に走り出し……やがて前方を見ながら、ぼんやりと発言する
「さくちゃん……あれ……何かいる? 足がたくさんあるねー……」
後ろから迫る かみつき の他にも結構前から発生してた、 かみつき がいて……この先
を進めば出口だけど、その道をこの かみつき の変形が見事に塞いでて、溶ける速度はかな
り緩やかで、まだまだ消えない……《流浪》とヒナを捉え始めたけど、こっちに動く乱数だっ
たというのがまた……こんな風に乱数って、 参加者 を畳み掛けるように追い詰める状況を
突然作り出すから、私は基本的に乱数任せなのです……一本道の両側から かみつき が同時
に向かって来る、この挟み撃ちの状況……そんな中、ヒナが相変わらずの口調と表情で呟くよ
「んー……ここから先へは進めないねー……さくちゃん? 急に……どうかしたの?」
そう発言する内にヒナは《流浪》が傍にあった扉を開けようとしてる事に気付くも扉からは
カギが掛かってる事を示す音……道の両側から迫る かみつき との距離は狭まり続け、先行
する かみつき がヒナに飛び掛かろうとした次の瞬間、さっきの扉からカギを開く際に出る
金属音が響き、急に扉が開くと細い腕が伸びて来て……ヒナを勢いよく引っ張り込むと扉は閉
まり、カギが掛かる音が静かに鳴り響く……飛び上がった かみつき が後続と激突したのは
そのすぐ後…… ステージ3の大きいかみつき と違って壁に激突するぐらいの衝撃で、痛み
に怯みはしても、やがて活動を再開します……壁や扉の向こうに獲物がいると判ってても扉の
前に張り付くだけで 深追いはしない けどね…… 大きいかみつき には扉や壁を突破する
パワーを持たせてるけど、こんな狭い場所じゃ扉方向に助走出来ないなぁ……扉が開くまでの
経緯を説明しよう……《流浪》が扉を開けようとしたけどカギが掛かってて、その扉の上の部
分にある窓から中を覗きたくても《流浪》の背丈じゃ届かない……そこで《流浪》は《流浪》
の 能力 を発動し、覗き込める高さまで移動……すりガラスの窓だから中の様子を確認して
《流浪》で移動可能な場所にするのは無理だったんだよねー……でもこんな状況下で 能力を
活用しようとした ……そんなファインプレーには ボーナス を付けたくなる……だから私
は、すりガラスを普通のガラスに変更し建物内の明るさをアップ……これで、 その場所をあ
る程度視認すれば移動先に指定出来る という条件を満たせるよ……5秒が経ち、《流浪》は
《流浪》を発動…… ゲームの開始前 に 能力の割り振り をやるんだけど《流浪》は 自
分の能力を強化で固定してランダム で決めたんだよね……気分転換も兼ねて私が提案したら
1回目の結果を見て、これでいいって……《流浪》を発動して扉の向こうに移動した《流浪》
だけど、ちゃんと再使用時間を半減してます……そして《流浪》は素早くカギを開けてヒナを
引っ張る……本当は《流浪》の腕力じゃヒナを引きずり込む何て出来ない……でも 能力 を
活用した場面ならヒナが助かる方が 格好いい から……私は《流浪》がヒナを問題なく引っ
張れるように サービス しました……さっきまで隣にいた《流浪》が突然、扉の中から現れ
たのでヒナは面を喰らう……今は《流浪》に連れられ、離れた場所にある窓を開けて外へ脱出
……さっきのガラスと建物の明るさなら、もう元に戻したよ……こんな感じで つきは参加者
を追い詰め能力の発動を誘発させる存在 に留まるくらいが丁度いい…… ゲームマスター
である私が、ここまで 参加者 を手助けするのは、やり過ぎだけど ステージ1はゲームの
感覚を掴んで貰えば十分 だし、私にとって 参加者がゲームを楽しめるか が何よりも大事
…… 序盤は相手が参加者とは露知らず一緒に行動してたりする けど、《流浪》は 朝比奈
真白が参加者かどうか一切確証が無いまま参加者だと悟られ兼ねない行動を取った 事になる
ね……そんな《流浪》とヒナだけど、今は広い道路に面したライブ会場から結構離れた明るい
場所を移動中……そろそろ 街中にかみつきが発生する時刻 になり、3時間は かみつき
が出現する場所の乱数が絶えず発生する状況が続き、 人の気配のある建物の中だった場合は
乱数を振り直す 感じ……これとは別に私が決めた乱数があって、その結果にヒナが反応する
「んー、凄い事になってるのかな…… 決して外に出ないで ってテロップがニュースサイト
のトップに流れてるし……そろそろ、お家に帰ろっか、さくちゃん……って、あれ? え?」
22時になったらテレビやニュースサイト、街中のスクリーンで一斉にアナウンスが始まるけ
ど、そのタイミングをこの乱数で前後させます……結果は22時とは言い難い時刻になったんで
一斉に流すのやめて散見される程度にしてたら、早速ヒナが気付く……《流浪》で自分以外の
ものを移動対象にする場合の話をしようか…… 自分が普段身に付けてるもの以外は重量に応
じて《流浪》発動までの時間が延長され、身体から離す事でチャージ状態をキャンセルし即座
に発動出来る …… 追加対象の位置情報が極端に変化せず、自分との接触状態が続いてる事
が条件 で 弱化 してても使える……チャージ中に対象や自分が大きく動いたり外部からの
妨害などで位置情報が著しく変化すればチャージし直し……会話が出来た方がいいから、多少
の動作なら大丈夫にしてるよ…… 本来の《流浪》には無い能力 で自分の移動に巻き込める
「さっきまでお外にいたのに……ここ、お家? 帰って来ちゃった? 何だか不思議だねー」
辺りをきょろきょろしながら、そう発言するヒナだけど、ヒナが《流浪》と手を繋ぎ通信機
器でニュースを眺めてる間に前述のチャージが終わり、《流浪》を発動した《流浪》と一緒に
ヒナの家の玄関まで移動してるよ…… 家の中に避難 とアナウンスはしたけど、安易に従っ
たねー…… ゲームマスターが参加者を罠にはめるケース を全く考えてない…… 人目に付
く場所で能力を発動 してる時点で軽率さが目立つけどさ……《流浪》はヒナと一緒に安全な
場所に辿り着く事だけを考えてました……ヒナが 参加者 だったら、さっきの出来事を振り
返るまでもなく《流浪》が 参加者 だと気付く行為だけど、要するに 選択肢が1つしか浮
ばなければ即座に行動してしまう のが《流浪》何だね……さて他の 参加者 は真っ直ぐ帰
宅し誰も外出せず、《操作》に至っては学校を休んで、ずっと家の中で警戒態勢……全員見事
に 能力の消費 をせずに ステージ1かみつき を乗り切ったね…… つきの役割はリソー
ス削り で 《流浪》以外の能力には回数制限 があって、お互い 参加者 だと判明し対峙
した時、 どこまで能力を消費してるかは勝敗に影響する …… 全員が能力の消費なしでス
テージ1クリア は順調な開始状況……今までの自分の振る舞いで 参加者 と割り出される
可能性もあるから ステージ1かみつき は無難に行動しておきたい感じ……何もゲームが始
まった途端、 命の奪い合い しなくていいし 5名の参加者が3名以上死亡するまで 思う
がままに過ごした方がゲームを楽しめる……命懸けではあるけど私は、 参加者は観光客でも
ある側面 を大事にしたいんだよね…… 普段とは違う世界で過ごしてる んだから……家に
戻った《流浪》とヒナは身体の血を洗い流そうと一緒にお風呂に入り、晩ご飯はカップ麺だね
「さくちゃん……昨夜と同じのが……食べたいの? あ、アイスもまだ、残ってたねー……」
ヒナは自分の家に突然戻れた事を気にする様子も無く、今は《流浪》が昨夜と同じカップ麺
を選んだ事に疑問を浮べながら発言……やがてそのカップ麺にデザート用のアイスの塊が放り
込まれ、これを試す為に同じ味を選んだのかと感心してます……それから2人仲良くベッドに
入ったし、《流浪》のパジャマを説明……ライブに着てく候補だったピンクのウサ耳パーカー
の下に《流浪》が通販画面で興味深そうに眺めてたから購入した、上がシャツで下がズボンの
パジャマ……深く暗い青の色は深海を思わせ、至る所に貼られた様々な深海魚のシルエットは
真っ黒で服に溶け込む色だけど強い光沢が存在を主張……ヒナは上下シャツズボンで黄色のみ
とシンプルなパジャマ……外では かみつき が次々と発生してて、ここまで多いと街中に唸
り声が響き渡る……1時には収まるけど今は零時前……そんな中、ヒナが《流浪》を見て……
「さくちゃん……怖いの?」
家の中にいれば安全 ……頭ではそう理解してる《流浪》だけど外では かみつき たち
が唸り声で延々と夜を脅かす……密着してるヒナが《流浪》の怯える様子と身体の震えにすぐ
気付き声を掛ける……《流浪》の性格は臆病さが目立つなぁ…… 本能が敏感 とも言えるね
「大丈夫……大丈夫だから……怖がらなくていいんだよ、さくちゃん……だいじょうぶ……」
ヒナはゆったりとした声で囁くように、そう言って……《流浪》の頭や背中を優しく撫でる
……ライブ会場で自ら血に染めたりもした手だけど、今ではすっかり、そのきれいな肌の色を
晒してる……そういえば教室でこんな風に言われてたなー……その会話をちょっと再現するよ
「朝比奈さんって男子に話し掛けられても無反応だよねー」
「女子には元気よく答えるけど……極端……」
「最近は朔良さんに構ってばかり……ほら早速、通信機器で一緒に写真撮ってる……」
「よく分かんない言動も多いけどクラスから浮いてるようで浮いてなくて……分かんないね」
さて次は ステージ2はねつき だね……普段は空を飛ぶ はねつき は ステージ1のか
みつき には無い、 参加者だけに反応する性質 を備えてて、再生力に優れた かみつき
に対し、 はねつき は一定のダメージを負うと上空に戻り、再生が完了するまで降りて来ま
せん……しかも再生速度はかなり遅いよ……日が経つほど上空で増えてくから はねつき に
捕捉され、その現場を他の 参加者 に見られるリスクが高まる上に、増え方も数匹単位じゃ
ない……夜6時以降は はねつき の視力がオフになるけど夜しか外出しないのも不自然……
それが七月三十一日の日曜朝6時から八月二十二日の月曜朝6時……528時間続く、そんな
夏休みを 参加者 たちはどのように過ごすのか……始める前に 移動メッセージ と行こう
「今の話……詳しく、聞かせて……」
私はゲームの参加を呼び掛けてたんだ……そしたら突然、逆に呼び掛けられる事になってさ
八月二日
昨日みたいにヒナが通販で服を漁ってただけの何も無い日は飛ばす感じだけど、今日の場合
「このCMの子、可愛いなぁー……白いワンピースに……麦藁帽子かぁー……」
《流浪》の頭を膝に置き、何の気無しにテレビのCMを眺めてたヒナがそう言う……この後
麦藁帽子と白いワンピースを《流浪》の分を含め注文してたりします……夜の食事は私が手配
した 日本の塩辛大特集セット の中から選んだ塩辛をアツアツの白いご飯に乗せてるね……
塩辛セットはヒナが懸賞で当てた事にして 夏休み初日の三十一日 に宅配し、その日の晩は
カップ麺で《流浪》が塩辛を漬物のように頬張り……カレーうどん味だったなぁ……減り具合
を見計らい、別パターンのセットも届ける感じだよ……じゃ、話を出掛ける日まで飛ばそうか
八月五日
「今日は、さくちゃんと一緒に100円ショップでお買い物! どれくらい面白いのがあって
それを全部買ったら、いくらだろ……楽しみだなぁ」
今のは店に入るまでのヒナの思考をまとめたもの……《流浪》とヒナは開店と同時に入り、
各コーナーを回り籠に色々と放り込んでるけど、1時間経った割には籠の中の物が少ない……
大抵は見た時点で興味を失い、《流浪》が欲しがった物がやっと入ってる状況……とても通販
サイトを開く度、数着で1万円以上になる買い物してる人物とは思えないなー……とりあえず
私が気に入ったと言える品をいくつか紹介しますか……まずはブレーメンの音楽隊にちなんだ
陶器の置物……2段目のイヌの脚が1段目とくっ付き隙間が無く、3段目のネコは脚の部分が
存在せず胴体だけが乗ってる……4段目のニワトリに至っては翼部分しか無いせいでネコの頭
から生えてるように見えるし、極め付けは1段目がロバではなくウシになってて鼻輪が唯一の
金属部分で陶器とは場違いの金色で違和感ヤバくて、色々とポイントが高過ぎる……次に紹介
するのは 星のスプーン ……って商品名で、持ち手が細長く伸びてて金属板と言ってしまえ
ば早い……星要素は前方に3つ後方に2つある突起だけど怪我しないように先端がかなり丸め
られててフォークの代わりにもなりません……今度は鼻眼鏡コーナーにあった、三つ目の眼鏡
…… これを掛ければ貴方も三つ目小僧 ……何とも心踊るフレーズで鼻眼鏡としても使用可
ヒナはまた最初から《流浪》と一緒にコーナーを見て回るみたい……空いてる棚も多いし、
ここは私が急遽考えたものを出現させ、手に取るかどうか挑んでみるかな……そう考える内に
さっきの置物コーナー……じゃ、桃太郎にちなんだ桃の置物を作成し空いてる場所へ転送……
ピンク一色の陶器で表面からはイヌ、サル、キジの顔が出てて裏側には鬼の顔が友情出演……
キーホルダーサイズの本に負けた……おとぎ話が原文で書かれてて虫眼鏡で読むのが前提だけ
ど、表紙が絵本タッチで可愛いから選ばれたね……さて文房具コーナー……ヒナの目の前には
私が出現させた、ビー玉サイズの地球儀消しゴム……大陸の形があやふやでユーラシアと北ア
メリカの大陸が繋がり、その下にはある筈の無い大陸が広がってて地球儀の形を優先した為、
金具から取り外せない素敵仕様……さっきから《流浪》が青と銀の鉛筆に熱い視線を注いでて
ヒナも桜色の鉛筆が目に止まり、その3種類が何本も籠の中へ……鉛筆の表面にはそれぞれ、
すぐ剥がれるラメが過剰にまぶされてるけど芯の色は全部同じで単なる黒鉛筆……二連敗かぁ
……この先も空いてる場所が多い……今度はヒナの需要を狙い撃ちしてみる……ワインカラー
の砂が入った正確に3分測れる木製の砂時計……全体的にピンク色でスイッチを押せば4分後
にファンシーな音と共にハート型の板が飛び出す鳩時計ならぬ ハート時計 ……そして透明
なプラスチック製で直方体の砂時計……両側には仕切りがあり、その部分は液体で満たされ、
一方は白、黄色、黄緑、ピンク……他方は黒、青、紫、水色の種類の多量の粒が中を漂う……
本体部分に液体は無くて砂時計の形にくり抜かれ、その空間には濃い緑色の砂が入ってる構造
で正確に5分測れるよ……そんな3品だけどヒナが手に取ると、すぐ籠の中……つまり三連勝
「このハンカチ……白だけが売れ残ってるねー……さくちゃん」
遂に3周目に突入したけど、ヒナはハンカチがたくさん入った、丸くて底の浅いバスケット
の中を眺めながら、そう発言……赤、青、黄、緑、水色、紫、白、黒の8色が商品名 カラー
ハンカチ でバラ売りされ、安っぽさ全開の冴えない色……《流浪》とヒナが来店した時点で
微妙な枚数が残ってて、まだ4色あった……2周目では緑が無くなり、3周目では黄色と黒が
……引き続き《流浪》を連れ、4周目……ヒナがバスケットに目を向けるけど中身は3周目と
全く変わりません……一瞥を終えたヒナは、またすぐ歩き始めるかと思いきや、その場に佇む
「ずっと、このまま……売れ残っちゃうのかな……この白いハンカチ……」
気持ちが沈んだような声でヒナがそう言う……ヒナが最初に見てから減ってないんだよねー
白いハンカチの枚数が……やがてヒナはバスケットの中からハンカチを1枚手に取って、呟く
「……何度見ても、シンプル過ぎてなーんの面白みも無い、手触りだって微妙なハンカチ……
せめて色があればいいのに、それも無し……本当に、ただただ白いだけのハンカチさん……」
昼も近付き《流浪》とヒナはレジまで向かい会計を済ませ、店を出る……購入の品は大きさ
や形で、ある程度分類され複数の袋に入り……白いハンカチも1枚だけ、その中にありました
「見て見て、さくちゃん……トカゲさんの周りに……お侍さんがいっぱい!」
昼食を取ろうと近場のバーガー屋を目指す中、そう発言するヒナの目先には映画のポスター
「 ローニン・リザード かぁ……トカゲさん可愛いし……今度見に行こっか、さくちゃん」
ポスターの隣には とってもあったまる劇場アニメ という文句が躍るポスターもあるんだ
けど、ヒナの注目は発言内容の通り……バーガー屋に到着し、《流浪》は、その うぉーみん
ぐ の登場キャラの玩具が付いて来るセットを頼み、ヒナはローニン・リザードの事を漠然と
考え続けてる……セットと一緒に人間をデフォルメし動物の頭を乗せ、その色を塗った感じの
玩具が到着……アニメより形が雑で、首や腕の付け根などの部分に塗り損ねが目立つ上に映画
のポスターとは色が掛け離れてる……他の玩具も見たけど塗られてる色が使い回しで、この出
来栄えのしか無いね……ヒナが頼んだのはプレーン味を6段に重ねた タワーバーガー ……
《流浪》と半分こする内に、照り焼きチキン味のフライドポテトとコーラが届きジャンクフー
ドを満喫…… タワーバーガー は3種類あり、10段を頼んだ客は、どう食べるか悩んでたら
タワーが横に倒れ……3段を頼んだ客は腕組みしながら、これはタワーと言えるのだろうかと
悩んでます……昼食を終え、《流浪》とヒナは はねつき に捕捉される事無く家に到着……
ステージ2の上空には絶えず はねつき がいて 参加者が視界に入ると最初に捕捉した地点
に急降下 ……ヒナは対象にならないけど、常に《流浪》の傍にいるから襲撃に巻き込まれる
ね…… はねつきは零時から6時にかけて乱数が決めた位置と数値により数を増し、上空で溜
まり続ける んだけど開始6日目の今日はまだ数が少なくて、 はねつき が頭上にいない間
に行動出来た感じ…… はねつきの視力と視野は望遠鏡がいい例えで18時にオフ、6時にオン
になる から夜に行動すれば安全……あ、 はねつきの視界は距離に関係なく常に鮮明 です
八月六日
「今日はいい天気だねー。さくちゃん……」
朝ご飯を済ませ、ヒナは暑さで程よくバテてる《流浪》を眺めながら、そう発言……その後
4日前に注文した麦藁帽子と白いワンピースのセットが届いて《流浪》に着せ、しばし眺める
「天気もいいし……これを着て、お外に行こっか。さくちゃん……」
まだ昼にもならない時間、《流浪》とヒナはお揃いの服装で雲ひとつ無い青空の下へ繰り出
す……《流浪》がここまでシンプルな服装なのは珍しいなー……昨夜だとゴスロリテイストで
黒と見せかけて結構紫色なメイド服に、赤いリボンを巻いた小さな黒い帽子を被ってたよ……
「姉妹でお散歩ですか? 可愛い妹さんですねー……クラスが同じで、って……えーっ!?」
「っと……わりぃっ! 急いでる!!」
「すいませんウチのアルが……こらアルデヒド! 怖がってるじゃない……吼えるのやめ!」
話し掛けて来た女性と軽く会話し驚かれたり、急いでる男性と強めにぶつかったり、ポメラ
ニアンの吼え声に《流浪》が酷く怯えたり……その間も夏の日差しは降り注ぎ、《流浪》の頬
には汗が浮き始め、ヒナが昨日お店で購入した白いハンカチで拭おうとするとハンカチが手元
に無い事に気付く……さっきぶつかった時ハンカチが飛び出して、歩いてる内に落下してます
「無い……? 落としちゃった……? でもハンカチなら他にも色々あるから……いいよね」
ヒナの思考を読み取ったら、そんな内容……《流浪》にも黒地に白い唐辛子柄を強烈な発色
の赤い糸で綺麗に縁取りした、やや大きめのハンカチがあるし……あ、ヒナの思考が続いてる
「買ったばかりなのになぁ……まだ一日も経ってないのに失くしちゃった……そんなの……」
ここでヒナの思考は途切れ、身体が動き始める……《流浪》は犬の吼え声による恐怖がまだ
抜けなくて、急に自分の傍を離れて行くヒナに異変を感じながらも立ち尽くす事しか出来ない
……ヒナが来た道を歩いて戻ると背の高い女性を見かけたので間延びした声をその女性に放つ
「あのー」
その女性は何かを眺めてて、スカートは黄色で南国デザインが彩り発色抜群の赤珊瑚色キャ
ミソールは下の服が見えるほど薄手……透けて見えるワンピースは純白というには青みがあり
髪はベージュでポニーテール……そんな女性へ向けてヒナは、ゆったりとした口調で尋ねるよ
「この辺に……白いハンカチが、落ちていませんでしたか? 何の特徴も無い、ごく普通の白
いハンカチなんです……さっき落としたのに気が付いて、こうして探しているんだ……」
「もしかして……これですか?」
ポニーテールの女性が眺めてた物をヒナに見せると、それはヒナが落とした白いハンカチで
ヒナは少しの間、面を喰らった表情をしてたけど……ハンカチを手に取るとヒナは普段と同じ
微妙に伏目がちで眠気を誘うような表情に戻り、ぼんやりとした口調でお礼の言葉を述べます
「はい……この白いハンカチです。失くしたと思ったら、もう見つける事が出来ちゃった……
あの、ありがとうございます……」
ヒナが白いハンカチを両手で包むと、やがて胸元に引き寄せ……目を閉じると、何かを思い
出すような様子で淡々としながらも感情が静かに込められた声を響かせながら……こう続ける
「このハンカチは……ただの安物で、まだ何の思い出もない白いハンカチ……だけどやっぱり
道端に置き去りにしちゃうのは……かわいそうだから……きっとこのハンカチだって、待って
いる間、寂しかったんだと思う……見つけてくれて……本当に……」
それにしてもヒナがこんなにも長く《流浪》から離れてる何て珍しいね……当の《流浪》は
急にヒナが離れて行き、吼え声の動揺と重なり立ち止まってたけど……寂しい気持ちが次第に
強まりヒナの後を追い始め……ヒナを見付けると口を開き、滅多に出さない喋り声を響かせる
「ひ……な、ちゃん」
近くと言うには少し離れてるかな……そんな距離でもヒナはしっかりと声を捉え、ゆっくり
と振り向くけど、その反応自体は反射的な速さ……不安を募らせる余りヒナが自分の事を嫌い
になったんだと考え始めてた《流浪》の表情にも少しは明るさが見え始め……ヒナのいる場所
目掛け駆け出し、足の運びがどんどん速まり……その勢いのままヒナに飛び付き、静かに叫ぶ
「ひな……ちゃん!」
雲ひとつ無い青空の下でヒナが《流浪》を抱き止める音が小さく響き、《流浪》の後頭部に
ヒナが手を当てると、優しく撫で始め……やがてヒナはゆっくり……穏やで甘い声を吐き出す
「あぁ……そっか、そうだよね……ごめんごめん、さくちゃん……置いて行っちゃったね……
もう、大丈夫だよさくちゃん。わたしはここにいるよ……もう寂しくなんかないよ……だから
そんな顔しなくていいんだよ、さくちゃん……」
《流浪》はヒナの顔を下から覗き込み、それをヒナが見つめ返す……不安の色で一杯だった
《流浪》の顔も、今や少し涙を浮かべながらも嬉しさが目立つ……やがて《流浪》はハンカチ
を拾った女性に一礼し、降り注ぐ夏の暑い陽射しを背に受けながらヒナに手を引かれ、その場
を去る……かと思いきや突然、ヒナが勢いよく女性の方へ振り向いて……陽気な声で叫び出す
「さっきは……ありがとうございます! わたし……朝比奈です! 朝比奈真白です! 有明
高校二年、アサヒナマシロです! ……あなた、は?」
ベージュ髪の女性は完全に面を喰らい……呆然とする間もなく釣られて大きな声で返事する
「か、桂眉子[かつら まゆこ]です! 有明高校一年……現在、夏休みを満喫中!」
あ、桂眉子自身の意志による言動の時は桂眉子と呼んでます……《寄生》が行動させた場合
でも動作自体は桂眉子が行うから不自然な言動をしない限り見分けが付かないね……ヒナは桂
眉子の名前が判ったのがやけに嬉しいようで口元を緩めて囁くように笑い……小さな声で呟く
「そっか……まゆちゃん、かぁ……」
何気ない言葉が静かに散って、《流浪》とヒナはその場を去り、そのまま帰宅……この時間
には戻る前提で宅配ピザを注文してたんだよねー……やがて届いたのはカマンベール、パルミ
ジャーノ、モッツァレラのチーズ3種を使ってオリーブオイルで香り付けした具無しピザだけ
ど塩辛を乗せて食べるのが目的です……散歩中は雲ひとつ無い視界良好の空…… はねつき
には絶好の捕捉日和だったけど、結局《流浪》を捕捉する位置関係は一度も訪れず……この日
以降も《流浪》は長い事 はねつき に遭遇してないし、 はねつき が水中へ突進した場合
の話するかな…… 参加者の姿が遮蔽物で隠れてれば、はねつきに捕捉されない けどガラス
のような 透明度の高い遮蔽物だと視界に映るので捕捉されます ……だから水中に逃げ込も
うが はねつき は追い掛けて……来ないんだよねー……水面に激突しても硬い地面に衝突し
た事になって上空へ引き返します…… はねつきは水面を地面と同じ不透明な遮蔽物と認識す
る ようにもしてるよ……だって はねつきには水中用の行動処理が備わって無い んだもん
八月十一日
「ねぇ見て、さくちゃん……来週から、この辺りは浴衣でいーっぱいになるんだってさ……」
あれから暑い日が続いたのもあって家に籠る日が続き……今日が久し振りの《流浪》とヒナ
の外出で、大型ストアに来てます……お目当てはローニン・リザードとテレビのCMを見てる
内にヒナが海に行きたくなったので水着も探す予定……次の上映まで1時間以上ある状況だね
「弾が多過ぎてよく分からないなぁ。さくちゃん……すっごく頑張ってかわしてるけど、やら
れる前にこのボタン押して何かすごい攻撃した方が……あ、音楽変わった……さっきのがボス
じゃなかったんだ……わーすごいねー……よく分からないけど、きれい……まだ……やる?」
その場復活方式のシューティングゲームを2人同時プレイしてる《流浪》とヒナだけど……
《流浪》はボムを使わず目の前の弾が機体に当たらないよう結構長い時間避け続け……やがて
ボムを使わず抱え落ち……ヒナは敵が大量に弾を撃つ事で彩られる独特な模様に見惚れて攻撃
を忘れ、1ボスを倒すまで相当コンティニューしたね……ヒナが2ボスの攻撃を眺め始めた頃
《流浪》がコイン投下を止め、それを見てヒナも切り上げ《流浪》とヒナは筐体を後にします
「面白い形のお人形さんだねー……全部金属で出来てるのかな? クイズに答えて正解すれば
服? 皮? 脱げてくねー……あれ? この形って、どこかで……あ、さくちゃんすごーい」
今度はクイズ形式の脱衣ゲームのロボット版……大きなボタンが4つある専用筐体でヒナが
見覚えはある機械の部品に関する問題に首を傾げる中、4つの選択肢を気の向くまま選択する
《流浪》が一発で正解……その次も間違う猶予回数内でクリアして、問題が進むにつれ猶予は
減って行きコンティニューがどんどん増えて……ボス戦とも言える問題に辿り着いたけど……
「ボタンを押して要らない文字を消しましょう……あ、さくちゃんったらボタンを次々……」
ビリヤードボールのように文字部分を描いた、幾つもの大きめな球体が画面の中を飛び交い
進行方向に回転するボールが左端のボタンと同じ色の中央領域を通過、残るボタンと同じ色で
3分割された円の縁で弾かれる……それら4場面に対応するボタンを押せば、そのボールは消
去され、指定数のボールを残すと正答時は整列が行われ正解の言葉となる……制限時間ありで
不正解になれば全部最初から……ボタン連打だと必要なボールが見事に残るケースに乏しいね
「ちゃんと正解知ってないと進めないねー……上映まであと15分切ったし……もう行こっか」
《流浪》とヒナがゲーセンコーナーから出る方向を進んでると……突然、声を掛けられます
「よぉ、嬢ちゃん……左と右……どっちか選んでくんねぇか?」
声の主はネット対戦も出来る筐体前の男性……風貌は片手に酒瓶持ってそうな感じ、でいい
か……いつもなら黙ってしまう《流浪》も選択肢を選ぶ感覚が続いてたから、反射的に答える
「ひっ、ひ、ひだ……」
「ありがとよ……この捨牌なら地獄待ちのドラは……まぁ通るよな。赤5ピンで手が変わった
2、5、8のピンズの三面単騎……追っ掛けリーチにゃ悪かねぇ……」
男性が興じてるのは麻雀……南三局親番でリーチする際の待ちの選択をこんな形で他人に委
ねたわけ……《流浪》もヒナも麻雀知らないけど、これなら回答可能……さて、結果が出たね
「畜生!! トイメンの野郎!! 一発でツモりやがった! メンタンピン高め三色だが……
2、5、8の三面チャンかよ!! 裏ドラで丁度倍満か……さっき右を選ばれてたらハネマン
直撃だったな……とにかくだ、この点差でオーラスだとぉ……ちっ、やってらんねぇぜ」
8のピンズ切って5、6、7の三色が崩れても満貫だったねー……この麻雀筐体はパソコン
や通信機器越しの相手とも対戦出来ます……《流浪》とヒナは映画コーナーへ向かったし……
ここで少し語っておこうかな…… ステージ3終了後の教室 で 私の人間形態 を披露した
けど、あの姿が示す通り私は、 デジタルゲームとアナログゲームの複合体 ……デジタルな
管理力とアナログな気分要素による判断を兼ね備えたのが ゲームマスター である、この私
……麻雀を知ってたのは人間…… その世界の住民の姿を取得する際、その世界のゲーム情報
を取得出来る からで、実際にゲームを遊んでる光景を観察しながら理解を深めてく感じ……
だから、この世界にあるゲームを私は一通り知ってて腕前の方は……どうだろう……とにかく
私は ゲームを遊んで貰う側 で、私自身は 性格を持ったゲーム機 のようなもの……だか
ら私の前では遊んで欲しい、誰かがゲームしてる姿を見るのが嬉しい……それが私の全てかな
さて《流浪》とヒナはローニン・リザードの視聴を終え、服売場の水着コーナーに到着……
ヒナは《流浪》がどんな水着に興味を示すか注視しながら進み、やがて水着の前で考え始める
「ビキニ……着た事ないなぁー……みんな水着だし……わたしが着ても目立たないかも……だ
けどぉー……デザインが派手過ぎなのは……やめておこうかな……」
そう思うとヒナはワインカラーでフリル部分が黒の大人っぽくて露出度が高いビキニから目
を逸らし、隣の明るい青を基調とした黄緑、白、オレンジのマーブル柄ビキニが目に入っても
そのまま振り向いて上は左右、下は前後に分かれ、胸元と背中と腰の両端部分を金色のリング
で繋ぎ、胸部分を覆う面積は多い方……そんな白いホルターネックのビキニがある事に気付く
「これくらいでいいかな……他にピンと来るの無かったら……これにしよっと」
ヒナがそう思案する中、《流浪》は黒いサングラスを掛けたチワワが両胸部分に描かれ、下
にふさふさの犬尻尾が伸びたビキニ、架空の生物の内臓を生々しくも毒々しい色合いで全体に
描いたワンピース水着……英文台詞もあるアメコミタッチなページを全体に印刷したタンキニ
と色々あったけど……《流浪》が強く感心を見せ、今も視線を捉えて放さないスカート部分無
しのワンピース水着を説明……あ、ヒナがそんな《流浪》に声を掛けデザインの大部分述べた
「お星さまがたくさん集まると色んな模様になって……銀河だったかな? 宇宙みたいな水着
だねー……さくちゃん。写真を貼ったのかなぁ……でも何だか油絵を見てるような気分……」
ヒナの声が聞こえ認識しても尚、刮目を続ける《流浪》……その様子を見てヒナが更に発言
するけど、ヒナが言った通り水着全体には大小様々な銀河が油絵タッチで随所に描かれてます
「この水着が気に入ったの? さくちゃん……さくちゃんのサイズが無いか聞いてみよっか」
この宇宙水着は《流浪》が着るには大きくヒナには小さい……店員の返事を予測してみよう
「こちらは実験的に当店に提供された品でして取り寄せる事もサイズの変更をする事も……」
特注出来たとして今月中には届かないね……さてヒナが店員を捕まえ、実際の発言内容……
「こちらは実験的に当店に提供された品で……こちらのお客様が着用なさるのですか? 子供
用のサイズもございますので、少々お待ちくださいませ……」
無いと判ってたから同じ水着を《流浪》にピッタリのサイズで店の奥に出現させ、ある事に
しました……ピッタリ過ぎて試着の際、《流浪》が苦しがったのでサイズを若干上げたよ……
フィット具合の調節は実際に着てる時じゃないと無理かな……ヒナもあの白いビキニを試着し
程よい露出度を確かめて《流浪》の水着と一緒に購入し、夕食には早いけどバーガー屋へ移動
…… タワーバーガー とは違う店で、《流浪》とヒナはハンバーガーを注文せず入口広告に
あった選択項目は内緒でラインナップが毎日違う ランダムシェイク を3つ注文……バニラ
にカラフルなチョコスプレーを大量に溶かして混ぜたレインボーバニラはまだ大人しいけど、
ジンジャーカモミールミルクシェイクから不穏になり、3つめの イカ墨カレーシェイク が
登場すると《流浪》とヒナが一斉に警戒心を放ち始める……まずは仲良くレインボーバニラと
ジンジャーカモミールミルクシェイクを飲み進め……ヒナが意を決してイカ墨カレーシェイク
を一口……ヒナの味覚情報を読み取ると……辛さと香辛料が強烈で、やけに冷えてる……ヒナ
は判断に苦しむ表情を続け、もう一口飲むと……決断を下すかの如く、その容器を《流浪》の
目の前へ滑らせ、《流浪》も恐る恐ると飲み始め……やがて《流浪》の目が大きく見開きます
「だ、大丈夫……さくちゃん? びっくりしちゃった? 無理ならさ、残しちゃおうよ……」
ヒナの声が響き、《流浪》はイカ墨カレーシェイクを勢いよく掴むと、まだ半分は残ってる
レインボーバニラの中へ半分程注ぎ、素早い手付きで掻き混ぜ始め……遂には、そのシェイク
を少し飲み、その結果に満足したかのような表情を浮かべると……《流浪》は悠々とした顔で
レインボーバニライカ墨カレーシェイクを飲んでるね……そこへヒナが目を丸くしながら発言
「その味が気に入ったの? ……さくちゃん。じゃあ、もう2つ頼んでバニラ引こっか……」
私が何もせず成り行きを見てると、運ばれて来たのはピーチレモネードシェイクと《流浪》
待望のレインボーバニラ……シェイクを全て飲み終えるとバーガーは注文せず《流浪》とヒナ
はゲーセンコーナーまで戻り、クレーンゲームを適当に遊んだ後、さっきのシューティングで
1コイン目指す人のパターン作りを見守る事になって……大型ストアを出たのは18時過ぎだね
八月十四日
「すみません。日焼け止めクリームを塗って頂いて……」
よく晴れてるけど陽射しが強過ぎない……そんな日を選んでたら日曜日になり、《流浪》と
ヒナは海まで来てて、ヒナは《流浪》の居場所を把握しながら行動し……今は声を掛けられた
女性に頼まれ日焼け止めを全身……上半身は余す所無く塗り終え、お礼を言われてる状況だね
「へい、かぁ~のじょお!! 俺達とちょっと遊んでかなーい?」
「彼氏と待ち合わせしてるんですよー……あと1時間……ソーダ色の髪を黄緑に染めてて……
そうそう、あんな感じの……あ、昨日とは違う子……よく女の子のローテーションを間違える
し私には浮気がバレてないって思ってる所がまた可愛くて……しかも稼ぎがいいんです……」
女性が目を輝かせながら明るい声でそう話す内にナンパに来た男性たちは気分が悪くなって
何かに怯えるような様子で退散……それから《流浪》とヒナは女性と海際ではしゃいだり適当
にお喋りして、待ち合わせ時間が来ると女性は彼氏のいる場所へ向かってく……さっき面白い
バッグは無いかヒナに聞いてたけど……女性の彼氏はこの夜、ミンクの質感と手触りに限り無
く近付け、青とも青紫とも付かぬ淡さの色を基調に、水色とピンクのファー飾りが様々な濃淡
で絶妙に分布してる中型で人工毛皮の高額バッグを買わされる事となります……話を戻そうか
「日陰を探して、そこでぼーっとしてよっか……さくちゃん」
ヒナがそう言って、《流浪》と一緒に漠然と歩き始め……何やら叫び声が聞こえたと思って
《流浪》が振り向けば、上空をピンク色のボールがいい速度で飛んでて、手を伸ばせば、もう
少しで届きそうな高さ……すると《流浪》はボール目掛けて駆け出し、砂浜に足の力を込め飛
び上がるけどボールには届かなくて、《流浪》はそのまま砂浜に……激突せず、ボールを追い
掛けて来た女性に上から飛び掛かって押し倒したかのような形で着地……その際に声が出ます
「きゃ……」
「わぁ」
倒された女性と《流浪》の声が続き、ヒナが《流浪》の声に反応すると振り返り際に速度を
失ってたボールがぶつかり跳ね返るけど些細な衝撃……《流浪》と女性が起き上がってる間に
服装とか説明……倒れてた女性は単色ながら、まさにピンクって色の上下に分かれたフリンジ
ビキニを着てて髪もピンクでツインテール……要するに出席番号3番《操作》玉宮明[たまみ
や めい]です……ヒナが弾いたボールは黄寄り珊瑚色で結構露出度のある上下ビキニを着た
髪はベージュでポニーテールの女性……桂眉子に拾われたよ……出席番号2番《寄生》鹿々身
剣也[かがみ けんや]が桂眉子に行動させてる場合は《寄生》と呼ぶし、 常に宿主を乗っ
取り状態に切り替えられる能力が《寄生》 ……《流浪》とヒナの水着は三日前に大型ストア
で試着後に購入したのと同じだし髪型をおさらい……《流浪》が腰まで届く淡めの水色の髪で
今日はいつものストレートヘア……ヒナも色みを結構残した淡めのオレンジの髪で腰を通り過
ぎるまで伸ばしたストレートヘアで《流浪》より光沢が多めかな……ヒナが突然、大声を放つ
「あら、あら! まぁまぁ!!」
「あ、あの……お久しぶりです! 朝比奈さ……」
桂眉子が挨拶を始めると八日振りの再会が余程嬉しかったのかヒナが元気な声でそれを遮る
「はい! わたし、アサヒナです! 朝比奈真白[あさひな ましろ]です!」
《流浪》も朔良望[さくら のぞみ]という名前があるけど、それは ゲーム世界の住民を
装う為だけの名前 …… 参加者は互いをゲーム内の能力名で呼称するのが慣例 で 参加者
自体には名前が無い のが一般的……さて今は黒の海パンで銀髪の男性……氷室新[ひむろ
あらた]に、長い黒髪で淡い空色のラッシュガードの下に面積多めの黒一色に見えて近付けば
紫の色みを感じられる上下ビキニを着た出席番号1番《潜在》宵空満[よいぞら みちる]が
やって来る中……《操作》がヒナに挨拶を始め、やがて《流浪》の顔を覗き込んで不思議がる
「朝比奈さん、はじめまして。あたし玉宮明と言います。こちらの可愛い連れ子さんは、妹さ
んかな? んー、でも髪の色が違いますね……」
急に自分の顔を覗き込まれた《流浪》は驚き、そのまま恥ずかしがって俯き始めるけど……
「なに、この子! かっわいいーー!!」
そう叫んだのは明るい黄緑が上から下に掛け青緑へグラデーションするフリルスカート付き
ワンピース水着で膝裏まで伸びた金髪の女性……朧月瑠鳴……《流浪》を見るや駆け足を始め
どんどん加速し《流浪》に勢いよく飛び掛かって《流浪》と向かい合わせで倒れる事態に……
「うぉー! 水着美女発見!!」
そんな中、氷室新がそう叫ぶと走り出しヒナは思わず一瞥……そして視線の先は《流浪》へ
戻ります……水着美女と言えば、さっきヒナがクリーム塗ってた女性が該当……胸の大きさが
今集まってる面子の中だと朧月瑠鳴しか敵う者がいなくて、ムラ無く塗るのに手間取ってたね
「さくちゃん……大丈夫? 怪我は……無い?」
ヒナは《流浪》の傍まで行って、そう声を掛けてる……無事の意味を込め、《流浪》が頷く
「あ、あの……オレ……!!」
「有明高校一年、氷室新」
やがて氷室新が到着し、そう発言……普段から体力作りに余念が無いだけあって呼吸が全然
乱れてない……そんな中、桂眉子が不機嫌そうな顔をしながら棒読み調子で声を被せてきます
「え、えーと。今……」
「今、みんなでビーチバレーをやっていたんですが。朝比奈さんも一緒にやりませんか?」
ひとまず続けようとする氷室新だけど、桂眉子は更に言葉を被せ、今度は最後の方の語気が
強くなってて憤りさえ感じる……とにかく誘いを受けたヒナは《流浪》を眺めながら尋ねるよ
「さくちゃん……どうしようか?」
そう聞かれて《流浪》は頷くだけでなく口を動かし……聞き取れるか怪しい声を小さく出す
「……や、る」
《流浪》のしっかりした発言は久しぶりだなー……何かあった時に漏れる声を含めなければ
《流浪》は本当に喋らないしヒナの家で過ごしてる時はそれが顕著……ヒナは《流浪》の表情
だけで意志を読み取ろうとする上に読み取れてて、時折《流浪》を見つめては笑顔を送る……
会話せずに一日が終わるのも珍しくない感じ……それじゃビーチバレーの様子を見て行こうか
「さくちゃん……がんばー」
まずは《潜在》《操作》朧月瑠鳴、桂眉子《流浪》氷室新の2組で試合開始……ヒナが声援
を送る中、《流浪》が飛んで来るボールに見事な反応……《流浪》は 設定項目 を ランダ
ム で決めたけど 運動神経抜群 を引いてて、今は ボールを弾き返す という1つの物事
に意識が集中し順調だね……元々《流浪》は 怖がりで周囲の状況変化に敏感 な性質が突出
してたなぁ…… 参加者本来の気質がゲーム中に行動内容で表れる 事って多い……かと思え
ば《操作》のピンク狂いは 設定項目の影響が出たケース だったり……さて朧月瑠鳴が発言
「ふっふー……やるねー……じゃあ、これはどうかなっ!」
次の瞬間、ビーチボールが朧月瑠鳴に力強く叩かれ、鋭い速度となり《流浪》に迫って……
「そ、そんな……私の攻撃が!!」
《流浪》は持ち前の反応速度で……叩き返さずに、当たると痛そうな事を怖れ、ピンク色の
ボールを素早く回避し、朧月瑠鳴が愕然と叫ぶ……以降、速い弾は桂眉子が対応するけど……
「わぁーっ!! ごごご、ご、ごごめん!! 氷室くん……」
押し倒される事件が多い日だねー……拾うのは無理そうなボールを桂眉子が懸命に返そうと
動けば、氷室新が下敷きになって桂眉子が驚きの声を上げる結果に……やがてチームを桂眉子
《操作》《流浪》、朧月瑠鳴ヒナ氷室新の2組に再編成し、更にそれから《潜在》は朧月瑠鳴
を眺めたいと伝え離脱……その後はヒナに見惚れて試合が疎かな氷室新に桂眉子が激しい一撃
を叩き込もうとする光景が繰り広げられ……それも落ち着いた頃、ヒナが《流浪》に対し……
「さくちゃん……かくごー」
そんな間延びした声でヒナが《流浪》に放つボールは、速度が緩やかで狙う位置は厄介……
桂眉子と《操作》が勝負よりも、慌てて移動する《流浪》を眺める事を優先し始め……また再
編成を考える頃には、もう少しで昼とは呼べない時刻……そこで氷室新がこんな提案をします
「これ以上は昼飯の時間が過ぎちまうなー……よし、皆で海の家に行ってメシにすっか!!」
反対意見は無く、一行は海の家でテーブル違いだけど近い席に座り、各々が注文を終え……
「朧月瑠鳴と申します!」
「宵空満、です。よろしく……」
「わたしは……朝比奈です! 朝比奈真白です! こちらこそ!」
ヒナは茶碗蒸しを複数、違う味で注文……《潜在》と朧月瑠鳴は生チョコとバニラアイスが
入った大きめのカフェラテを1つ……カップル用ストローが付いてるね……ヒナの発言が続く
「そして……隣にいるのが……さくちゃん! 朔良望……だよ!」
《流浪》はあさりの味噌汁とフルーツケーキを頼み、味噌汁の中へは放らず別々に食べてる
「そっかー。朔良望ちゃんって言うんだー」
「そう……だから、さくちゃん!!」
《操作》がチキンクリームカレーを食べる手を一旦休めそう言い、ヒナは嬉しそうな声……
「ちっちゃくて可愛いですねー。今、おいくつなんですか?」
「うぉぉぉぉおお!!!! まとめて掛かって来やがれぇええ!!!」
中盛りの焼きそばを食べてた桂眉子がヒナにそう尋ねるも、氷室新が50個を越えるタコ焼き
の山へ雄叫びを上げた為、ヒナは質問に気付かず……すぐに朧月瑠鳴から何気ない質問が来る
「ねぇねぇ。朝比奈さんは、さくちゃんから、何て呼ばれてるのー?」
「わたし? わたしはさくちゃんから…… ひなちゃん って、呼ばれているよ!」
ヒナの発言が恥ずかしくなり《流浪》は少し俯く……この夏休み中、《流浪》がそう呼んだ
のって《流浪》が寝てる時に目が覚め、薄暗い景色に不安になってヒナに抱き付きながら噛み
締めるような声で、そう呼んだ時を数えても10回足らずだけどね……あ、朧月瑠鳴が早速……
「あさひな、だから、ひなちゃんですかー……よろしくね! ひなちゃん!」
「ふふ、よろしくね」
ヒナが他の者からひなちゃんと呼ばれて《流浪》の心境は複雑だね……朧月瑠鳴が更に発言
「そういえば、めいちゃんは、玉宮明だけど……ひなちゃんだったら、めいちゃんを何て呼ん
じゃうのー?」
「たまみや……だから…… たまちゃん ……かな!」
「それはナシ! ナシでお願いします!」
ヒナの言葉の直後、《操作》が撤回を求め……やがて昼食は終了し、一行が海の家を出ると
《潜在》《操作》朧月瑠鳴、桂眉子《流浪》ヒナ氷室新の2組に分かれたし、《流浪》側……
「あの、朝比奈さん!」
「まゆちゃんは……最近、映画とか見たりしましたか……?」
「この夏で一番話題だったアニメとローニン・リザードですねー」
「朝比奈さん!」
ヒナは桂眉子とのお喋りに夢中で氷室新の声が聞こえてない……と思って少し読み取ったら
氷室新の声を認識した上で会話を続けてる……そういやヒナが男性に話し掛けられテンション
上がった事って一度も無い……さて桂眉子も質問……でもヒナはその前の発言に反応してるね
「朝比奈さんは、何か見たんですか?」
「ローニン・リザード! さくちゃんと一緒に見に行きました! ポスターを見て、トカゲさ
んが可愛いなと思って見ましたが……もう、どうしましょう!」
「最初が蟹鍋で始まったのは、前作であるローニン・クラブ繋がりでしょうか……でも一番、
面を喰らってしまうのが……最後の……」
「ローニン・オクトパス!」
「CG処理一切無しの正統派特撮時代劇! という触れ込みだったのに、あのタコ……足の部
分の動きがやたらと滑らかで不自然で……完全にCG使ってましたよね……」
「きっと! 次はちゃんとよく出来た着ぐるみで続編が出ますよ! 今回は、CGを使わない
監督が突然CGを使って終わったというサプライズなのです!」
「あ、朝比奈……さ――」
せっかく盛り上がってる所に水を差すのは氷室新……ではなく、近くの砂浜に突如激突して
大きな音を響かせた…… はねつき ……氷室新が驚きの声を上げ、桂眉子が少し冷静に言う
「な、なんだぁ!」
「あ、あれって……!」
ワイバーンって前足が無いドラゴンだけど、更に後ろ足を無くし一つ目にすれば、 はねつ
き の大まかな外見かな……所々で牙がはみ出たワニのような顎と長く伸びた頭部の過半数に
迫る縦長瞳孔の眼球は あかつき と同じ凄まじく鮮烈な赤に多少の青みを加えた色……胴体
のサイズは大型犬くらいで首と尻尾も長く、生えた一対の翼が圧倒的な大きさ……背面は人間
の肌をピンク色にして内出血で多少青くなった感じの色合いで、所々に浮き出た血管は模様に
も見えて太い部分が目立つ……ちなみに はねつき の血液は金色です……正面は大抵の青空
と同じような色で、上空にいるから普段はこの面を向け、よく晴れた日の空に溶け込んでるよ
……本当なら、 はねつき が1匹やって来れば他の はねつき も続々と集まる感じなんだ
けど……さっきまで上空にいた はねつき って3匹だけで、その内1匹がここへ来て、もう
1匹は《潜在》と《操作》のいる離れた場所へ向かい、こっちには《流浪》だけがいて、 は
ねつき が《流浪》に直撃し得る状況……でもヒナと桂眉子の会話中、《流浪》はヒナの近く
をぼんやりと歩いてて、 はねつき が《流浪》を捕捉し向かう際の空気を裂く音に不安を覚
えた《流浪》はヒナの所へ向かい始める…… はねつきは最初に狙った位置を目指し障害物に
激突するまで直進する から、動き続けてれば直撃しない……市街地で遭遇し、そこらの建物
に次々と頭から突っ込むのが、 はねつき の主な想定状況だったりするけど、頭部は流線形
を意識しつつ先端をやや尖らせた形状で、手足が無いから首と翼の力で引き抜くと見せかけ、
突っ込んだ先の材質などに合わせて復帰時間を設定してます……今は首半分以上突き刺さって
るけど、きめ細かい砂浜相手だから抜けるのは早い……夏休み初日の先月三十一日の話だけど
ある 参加者 が はねつき に遭遇し逃げ込んだ先の建物で、別の はねつき が窓を破り
跳び掛かって来た際、 《分裂》発動時の左右に分かれる性質 で回避し はねつき が動け
ない間に《寄生》……直立したまま指定方向に分かれたり、どちらを 本体 にするか選べた
り……色々指定出来るけど、やっぱり《分裂》と言えば 左右に均等に分かれ、どちらがオリ
ジナルか判らなくなる性質 ……だから何も指定せず発動すれば左右に分かれ、 本体 選択
の猶予は分かれ切るまでで、それも間に合わなければ乱数で決定……そんな 《分裂》が本来
の能力の出席番号4番《分裂》鶴木駆[つるぎ かける] が《寄生》した、 はねつき と
同じ固体が今、3匹目として上空にいます…… 分身は能力が使えない から《寄生》してる
のは 本体 の方で…… 分身 は自宅で読書中だねー……短時間で溶け失せる かみつき
と違って 一度発生した、はねつきは上空に留まり続ける し、《寄生》対象として良好な面
も……桂眉子のように意志がある存在なら 乗っ取り状態 を解除してても自分の意思で行動
するけど、 はねつき のように 知能すら無い存在を乗っ取っても停止するだけ …… 参
加者が視界に入ると、その方向を目掛け突撃 、 大きく負傷したら上空に戻り再生を開始
……本来は自動処理される はねつき の行動を 参加者のいる方向情報を取得 するだけに
留めたり、傷が酷くても上空に避難せず地上に留まる事も可能……今 はねつき に《寄生》
してる《分裂》は 参加者 のいる2つの場所を選んで突撃可能だし、このまま上空で監視を
続ける事も出来る…… はねつき が参加者を捕捉しても襲撃しないのは不自然で、そんな風
に 《寄生》中は宿主本来の行動から外れちゃう事もある し、そこは注意…… はねつきは
かみつき同様、一定距離内に襲い掛かる対象がいると口を開き跳び掛かる けど、これも保留
出来る……でも 18時から朝6時までの間は視力を完全に失う 処理には抗えない……要する
に 《寄生》は宿主の判断行動に割り込む事が可能になる能力 です…… つきたちは一定の
アルゴリズムに従い対象を攻撃し、乱数で発生位置と普段の移動方向を決めてる ……やけに
乱数が偏る時もあるけど、私はゲームの進行に余程問題が出無い限り調整しません……さて、
他の 参加者 が はねつき を警戒して行動する必要があるのに対し、《分裂》は初日から
上空の はねつき の分布が判るようになり外出タイミングが計れる…… 参加者探し をす
る上で、なかなか優位に立てたね…… はねつき たちの分布が偏り、外出しても捕捉される
危険性が薄い日が続き、上空の はねつき の分布状況を数値化し乱数で再配置するか考える
余地も出て来て迎えた今日、ステージ1のような私の働き掛けが無いにも関わらず 参加者
全員が海に集結し はねつき に襲撃される状況にまでなってくれました……やっぱり乱数の
結果は下手にイジるもんじゃないねー……ぼちぼち《流浪》側の様子……突然の はねつき
の襲撃に驚いて、ヒナに辿り着くや抱き付き、怯え始める《流浪》……ヒナの思考内容は……
「さくちゃん……空から降って来た大きなトカゲさんを見て怯えてる……怯えた、さくちゃん
も可愛いけど……いつものさくちゃんの方が可愛い……どうしたら怖がるのをやめてくれるか
なぁ……んー、このトカゲさんが怖いトカゲさんだと思ってるから? じゃ安心させよっか」
《流浪》の淡い水色の髪を優しく撫でてたヒナはそこまで考えると単独で歩き出し……頭を
引き抜く最中の はねつき のやや手前まで行くと急にお辞儀を始め、今度は口を動かし……
「こんにちわ。私、朝比奈と言います。朝比奈まし――」
「きゃぁああーーーーー!!!!」
ヒナの挨拶を他所に桂眉子……ではなく《寄生》が桂眉子に叫ばせる…… はねつき に襲
撃されたら近場の物体に《寄生》し、やり過ごす事も出来るんだけど……《寄生》は桂眉子に
ステージ1の頃から《寄生》し続け、今もその状態……《寄生》は はねつき に狙われる事
なく桂眉子を動かせるよ……次に《寄生》は桂眉子に大声で発言させ、 参加者探し を開始
「私がこの変な生き物を引き付けます! 朝比奈さんたちはその間に遠くへ逃げて下さい!」
続いて《寄生》は桂眉子に はねつき の注意を引く為か声を……手招きもさせてるね……
ヒナが《流浪》の手を掴み走り出し、その後を守ろうと氷室新が続く…… はねつき が誰を
狙っても 参加者 が特定出来ない位置関係……そこで《寄生》は桂眉子に叫ばせ分断を図る
「氷室くん! あぶない!! 右に曲がって!!」
すると氷室新は右に移動し《流浪》とヒナから離れ、ここで はねつき が右に行けば氷室
新は 参加者 と確定…… はねつき は最初に狙った地点へ突進してて……そのまま誰もい
ない砂浜に激突……それを確認した《寄生》が次の行動を桂眉子に委ねると桂眉子は氷室新の
所へ向かい、そこに《流浪》とヒナが合流し分断が崩れた為、《寄生》は桂眉子に発言させる
「氷室くんと私、朝比奈さんと望ちゃんの二手に分かれて、そのまま逃げ切りましょう!」
これで はねつき が桂眉子側に向かえば氷室新は 参加者 だし、来なければ《流浪》や
ヒナが 参加者 である余地が残る……桂眉子と氷室新が遠くへ行ったけど……ここで はね
つき を背後から見て頭部の先を0度とし 参加者 が同じ距離で時計回り30度方向と330
度方向の2ヶ所にいた場合、 はねつき はどっちの 参加者 を捕捉するか話そう……必ず
30度方向の 参加者 優先何だよね……反時計回り30度ですぐ捕捉出来る状況でも はねつき
は時計回りにしか旋回出来ない から時計回りに330度旋回するしかない……例え 参加者
を同時に捕捉しようと時計回り方向側の参加者に反応するのがはねつき だよ……上空でうろ
つく際も時計回り角度対応の0から360の乱数で旋回方向が決まり、その乱数が大小両極端
な状況が度重なり続け、 はねつき の分布が盛大に偏ったのが今回……偏るのは乱数の性質
だけど 新しい乱数 を導入して、この結果……私の引きが悪いのかなぁ……旋回中に乱数は
発生しないけど、 はねつきは旋回の前に必ず羽ばたく から結構時間が掛かるし、360度
だと余計……さて、砂浜に激突した はねつき は首を引き抜いて大きな翼で旋回を始め……
やがてヒナに手を引かれ走ってる《流浪》の方向に狙いを定める……闇雲に逃げ回る《流浪》
の動きにヒナが合わせてるから、上手い具合に はねつき を翻弄してて……遂には《潜在》
《操作》朧月瑠鳴が もう1匹のはねつき と対峙してる場所へ辿り着き、 はねつきとはね
つきが合流 し《流浪》を狙ってた、 はねつき が《操作》の方へ…… はねつきは視界に
参加者がいる限り執拗に追い掛ける けど 知能が無い 為、 同じ参加者を追い続ける執念
というのが無い …… 一定条件に従って参加者に反応してるだけ なので はねつきを他の
参加者に擦り付ける事も可能 だよ…… はねつき の進路にいる《操作》へ向けヒナが叫ぶ
「たまちゃん! あぶない!」
《操作》がやや苦笑して即座に回避……朧月瑠鳴も声に気付き、振り返ってすぐ大声を出す
「ひなちゃん! さくちゃん!」
気が付けば はねつき2匹が《操作》を狙う状況 …… 他の参加者 が見てたら 玉宮明
が参加者 だとバレる光景だね……しかも今って《分裂》が上空で高みの見物中……《操作》
は丁度1週間前 はねつき に遭ってて色々検証済みだから、 はねつきの性質 を大分把握
した動きで誘導してて……何やら狙いがある様子だね……やがて《操作》の口が突然開き……
「みんな! あたしが合図したら、あたしの所に集まって! この2匹の距離が離れて、一直
線上になりそうな状況が近付いてきたら 合図 する! その時、上手くコイツらが正面衝突
したら、とりあえず……さっきの海の家の中に逃げ込もう! それでも追って来るようだった
ら、また考える!」
《操作》は はねつき が同じタイミングで自分に向かうよう調節してるけど、自分以外に
も 参加者 が近くにいた場合、台無しになる……だから全員を1ヶ所に集め、狙われる場所
を固定する為の発言……その内容に朧月瑠鳴が首を傾げてると《潜在》が補足し、ヒナが提案
「引き離すなら……もう1人、狙われる人がいた方がいいですよねー……誰かやります?」
《操作》の顔が呆然となり周囲に沈黙が訪れ……《操作》の表情が戻る頃、再びヒナが言う
「誰もいない……じゃあ、わたしやります! お守りにさくちゃんを傍に置くから大丈夫!」
さっきやり過ごせたのは《流浪》が傍にいたからだとヒナは思ってるのかな……《流浪》を
傍に置きたいだけな気もするけど……その後、ヒナは《操作》から説明を受け……やがて発言
「では、あのトカゲイノシシさんが、顔を引き抜いた直後に、トカゲイノシシさんの視界に入
って、走って逃げていればいいんですね?」
《操作》は はねつき が襲い掛かるタイミングは調節出来ても、 はねつき を大きく引
き離すのには不自由してた……《操作》はヒナが 参加者 かの確認も兼ね、作戦を決行……
「朝比奈さん! お願いします!」
「はーい!」
その後《操作》が叫び、ヒナが間延びした声で返事……ヒナの目の前の はねつき が首を
引き抜き、一切の旋回無く羽ばたき始め……それを確認したヒナは全員へ向け、掛け声を放つ
「みなさん! 今です!」
その合図に従いヒナは《流浪》を連れ、離れてた《潜在》と朧月瑠鳴も《操作》のいる場所
へ一斉に集い……《操作》を狙ってた はねつき 、《流浪》を狙ってた はねつき の2匹
が羽ばたき終え突撃を始めた瞬間、《操作》が掛け声を出し全員が散開……高さも一致してた
から 2匹のはねつき の頭部の先端同士が正面衝突……作戦は成功し朧月瑠鳴の歓声が響く
「やったぁぁあー!!!」
逃げた方がいい状況なのに朧月瑠鳴は跳び上がってて、全身で喜びを表すばかり……すぐに
《潜在》が朧月瑠鳴の手を掴み走り出す中、《操作》が叫んで海の家へ向かうよう全員に促し
やがて氷室新と桂眉子とも合流……その後は《潜在》桂眉子《操作》《流浪》朧月瑠鳴氷室新
ヒナの7名で無事、海の家に到着……建物の中だから上空の はねつき と《分裂》に 参加
者のいる方向情報は取得不可能 だね…… はねつきには聴覚が無い けど《寄生》中は外部
の音は入って来るし、 宿主が聞こえるであろう音は普通に聞こえる処理 ……つまり 宿主
の聴覚が優れてれば遠くの音声を拾う事も可能 ……結局《分裂》は上空にいたから視覚情報
しか得られてないね…… はねつきの血は金色で、大きく負傷すると上空へ避難し傷を回復し
始める けど、 はねつきの出血量が多いと自らの位置情報を広範囲に発信し、参加者の方向
情報よりは下の優先度で他のはねつきが集まって来る ……今回、正面衝突した 2匹のはね
つき の出血量じゃ起きないけどね……2匹は痛みに怯んで呻いた末、上空に戻って傷を癒す
感じです……《操作》主導でこの状況を作り上げたし、《操作》について語ろうかな……結果
だけ見れば 自らの望みを遂げる為、2匹のはねつきと周囲の存在の動きを管理 …… 皆ま
とめて操った のと同じだよねー……私が ゲーム用にアレンジした《操作》は対象が1つに
限られ一度しか使えない能力 だけど 《操作》本来の能力なら一連の流れと同じ動きを全員
にさせる事は可能 だよ……でも今回《操作》は 能力の発動 をしてなくて、 本来の自分
に備わってる能力を発揮 してた感じだねー…… 言葉巧みに相手を操る だけでなく、 は
ねつきが自分を狙うタイミングを意のままに調節 …… 何かを媒介に対象を制御する感覚を
研ぎ澄ませ、能力として発現するに至ったのが《操作》 ……《寄生》と《分裂》は 能力
と言い難い面もあるけど、《潜在》《操作》《流浪》は 能力者 だと断言出来る…… この
ゲームは能力と思える要素に乏しい存在は参加出来ない し ゲームに参加するか判断出来る
自我 も必要…… 参加者はゲームマスターである私が集める 感じ……さて、海の家の様子
を見て行こうか……《潜在》が少しは他の 参加者 へ探りを入れようと皆の前で呟いてるね
「大丈夫、なのかな。建物を突き破って来たらどうしよう……」
ホラー映画なら逃げ切ったと安堵し、そして追撃が入る感じの状況…… 参加者 には は
ねつきは参加者をその目で捉えると追い掛けて来て、夜になると視力を失う という情報しか
渡してなくて、《操作》も遮蔽物に隠れてると襲って来なかった経験から建物の中は安全かを
ここで検証する構え…… はねつきは水の中に入れない ……この情報はまだ誰も知らないけ
ど、もし水槽の中に逃げ込んだ場合、水中で行動し続ける結果にならない為、 水槽の中身は
遮蔽処理されません ……詳細を言えば、 はねつきは潜水する事を許可されていない だし
……さて海の家は大きな建物で、集まってる食堂は窓の無い内側の広間……これはいい避難先
「みっちゃん。一緒にシャワー浴びて、着替えて来ようよ。不安な気持ち、洗い流そ?」
「とりあえず……私はスルーされてたみたいだから、外を見て来る……こないだ買った双眼鏡
荷物の中に入れっぱなしだったし……」
「では、まゆちゃん……お願いしますー」
《潜在》は朧月瑠鳴にシャワーへ連れてかれ、桂眉子は自らの意志で偵察へ向かい、ヒナが
間延びした声でそれを見送り……しばらくが経ち全員無事に元の席に着いたけど特に異状なし
「うーん……」
「もう、あのヘンなの……いなくなった、でいいのかな……」
確信を持てなさ気な様子で《潜在》と《操作》がそう言ってから更に時は流れ、ヒナが発言
「建物の中。安全でしたね!」
断言するには、まだ早いという空気が漂い始める中……唐突に朧月瑠鳴の腹の音が鳴り響く
「おなかすいたー」
「だなー……メシにするか!」
氷室新の提案で夜食を取る事に……朧月瑠鳴と《潜在》は昼にヒナが頼んでた茶碗蒸し全種
と《流浪》が飲んでた、あさりの味噌汁2人分……《操作》は再びチキンクリームカレーだね
「みんな昼と同じもん頼んでるなー……うっし! オレは桂が頼んでた、やきそば大盛り!」
氷室新の言葉を聞き桂眉子は目を丸め顔を赤くし……その興奮を抑える為か《潜在》と朧月
瑠鳴が昼に頼んでたカフェラテの他に、かき氷を味付け無しで注文……そんな流れを無視して
《流浪》とヒナはカレーうどんをお揃いで食べてて……あ、服装だけど全員着替え終えてるよ
「そう言えば、さくちゃんの年齢、まだ聞いてなかったね……ねぇ、いくつなの?」
「はい、はーい! みなさん、ちゅうもーく!!」
《操作》が何気なく《流浪》に質問してるとヒナが陽気な声を上げながら通信機器の画像を
開き、教室で撮影してた《流浪》とヒナのツーショット画像を皆に公開……共に 有明高校の
制服 を着てて……ここでチキンクリームカレーを食べてた《操作》がスプーンを取り落とす
「え……朝比奈さん……いくつなんですか……?」
「はい! 朝比奈真白、高校二年です! さくちゃんとは同じクラスです!」
《操作》が呆然としながらも、そう聞いてヒナが答えると《操作》は口を何度も動かし……
「え……? さくちゃんさん? 高校二年生? あたしが一年だから……先、輩……?」
そう声に出すまで結構長かったし今も動揺を露わにしてる……同じ学校でも学年は違う上に
夏休み中じゃ遭える機会が更に無い…… 参加者は有明高校の生徒 という情報をゲーム開始
前から公開してるけど手掛かりには乏しく、校内で迂闊な行動が取れなくなる感じ……それと
学年はゲーム開始前に選ぶよ……何も考えずに最初の項目にしたのが《潜在》と《分裂》で、
《操作》はあえて一番最初を選び、《流浪》は ランダム を選択し、じっくり考えて選んだ
《寄生》と同じ結果に……ついさっきまで年下だと思ってた《流浪》が自分より1学年上……
そんな事実が《操作》には意外過ぎたんだね……衝撃の強さが顔に出てて……遂には絶叫する
「え……? え……? えぇぇええぇえーーーーーーっ!!!!???」
《操作》がショックから立ち直るまで結構掛かったけど……それも落ち着き、氷室新が提案
「あのヘンなヤツが、まだうろついてるかもしれないが……そろそろ解散にするか?」
その言葉通り解散となり、時刻は18時過ぎ…… はねつき は視力を失い、各自帰路に問題
無し……《流浪》とヒナも無事帰宅しヒナはすっかり眠そうな《流浪》を眺めながら服を脱が
すと、お風呂に入れ……その間もされるがままだった《流浪》の眠気はお風呂上りで更に増し
ヒナは《流浪》をベッドに連れてくと、脱がし易い服の中から《流浪》を次々と着せ替え続け
やがて自身の疲れも認識し、黒いようで結構鮮やかな紫色のフード付き上下パジャマに着替え
《流浪》の方はドレス姿……銀色で光沢の目立つ生地が面積的には一番多いけど、コルセット
を模した分布で胴体を彩る水色の光沢を放つ鮮やかで深い青色部分の印象が強く、服の至る所
では小粒気味の石みたいなのが散りばめられ、全て青紫色でコルセットの青にやや寄せた色合
い……腰の後ろと《流浪》の後頭部には大きなリボンが結ばれてるけどリボンの色は胴体部分
と同じ強過ぎる青……スカートの裾にも、この色の帯が縫い目のように通されてて……突然、
ヒナが両方のリボンを解き、別のリボンを《流浪》に結び直し始める……そのリボンの色は、
おとぎ話の毒リンゴを思わせる青みを帯びた強烈な発色の真紅……リボンを結び終えてヒナは
《流浪》に布団を被せ、そこへ自分も潜り込み《流浪》と一緒に眠りに就く……帰宅してから
ここまでの間……《流浪》とヒナは会話無しで過ごしてたよ……着せ替え中のヒナの顔は大層
ご満悦だったけど……身動きしない相手に黙々と手を動かし服を着せ続ける様は、まるで物言
わぬ人形に着せ替えするような光景だったなぁ……さて再び外出した、5日後の話でもしよう
八月十九日
「よぉ、また会ったなぁ……嬢ちゃんたち」
《流浪》とヒナは大型ストアに来てて、ヒナは既に通販で浴衣を購入してるけど《流浪》が
強く興味を示した浴衣は無かったので、ここの浴衣売場で探そうと一緒に目指す中……8日前
ゲーセンコーナーで会った男性に声を掛けられる……男性は相変わらずの風貌で更に発言する
「あぁ、今日は特に用はねぇぜ……ちょいと立ち止まってただけでよぉ……構わず行ってくれ
……畜生、店の賑やかさが三日酔いの頭に響きやがるぜ。二日続けて飲み過ぎちまった……」
《流浪》とヒナが困惑して顔を見合わせると浴衣売場に行く為の道を 曲がる ……ここで
男性の顔が歪むよ……この男性、実はちゃんと《流浪》とヒナに用があって、それが今済んだ
……明日と明後日は 夏祭り だけど、男性が向かうのは競馬場……男性は、その日に向けて
考え抜いた中で大賭けする馬券の組み合わせの最終候補を2つに分け、さっき《流浪》とヒナ
が道を 進む か 曲がる かで決めさせた……これだと説明の必要も無いし、 曲がる 方
の組み合わせは配当が高く、男性独自の予想内容……男性は顔を更に歪めながら心の中で呟く
「やっぱり、そっちだよなぁ……こっちは無難過ぎて博打じゃねぇ……この勝負、貰ったぜ」
ちょっと明日の男性の話……今までの博打の稼ぎの大半を馬券に注ぎ込み、競馬に挑む男性
……レースが決まった直後、会場は怒号と共に投げられた大量の馬券で覆われ、荒れ狂う……
競馬界激震の大番狂わせの展開は一般ニュースにもなり、そんな歴史的瞬間の前に男性の予想
は無力なだけで、ただ叫び声を上げるしか無かった……結果は裏目の余地何て皆無の大ハズレ
……さて《流浪》とヒナが大型ストアの道を曲がり浴衣売場と化した洋服コーナーに辿り着く
場面まで戻ろう……特設は明後日までで値段が手頃な浴衣は既に売り切れ、残ってるのは単価
の高い素材や染料などを使ったヒナも目移りする上質な浴衣ばかり……浴衣の前でヒナが悩む
「この黄色い浴衣、赤と青の紫陽花模様があって、緑色の葉っぱ部分もしっかり描いてて……
紫色の帯がすっごいオシャレな雰囲気……んー、この帯の為だけに買うのもアリ……かなぁ」
黄色の浴衣を前にしたヒナの思考を覗いてみました……既にヒナは全体が浅葱色でハスの花
を象った白い模様が所々に気持ち程度あるだけの通販の浴衣があるけど……あのくすみが無く
て力強い発色の浅葱色がヒナの目を引き付け、購入させたね……帯は本体より青緑色でクセの
無い暗さを放つ御納戸色……本当に浅葱色の持ち味だけで勝負の浴衣……別の方へ目が向かう
「銀色……? と思ったけど、これ何色かなぁ……あ、見る角度で色が変わってるねー……帯
は黒で紐が黄緑だけど……うーん、手触りが何か違うなぁ……それにキラキラして煩い……」
そう思いながら眺めてる浴衣はCDの裏面そのまま使ったような質感で鱗みたいな造り……
ここでヒナは《流浪》が隣にいなくて少し離れた所で浴衣を眺めてるのに気付き、声を掛ける
「さくちゃん……どうしたの? この浴衣真っ白だねー……あれ? よく見たら赤、青、オレ
ンジ、紫……まだある……どの色も薄いけど、それっぽい花の絵になってて……帯は金色かー
……安っぽく無くて静かだけど結構賑やか……この浴衣が気に入ったの? ……さくちゃん」
すると《流浪》は振り向いて少しだけ見つめ合った末、頷く……この帯は本物の金の質感を
再現する為に高価な素材を使い、うっすらとレリーフを入れてるけど、それが帯全体に細かく
描かれ、値段が凄いのも納得……ヒナはこの浴衣を《流浪》に、自分はさっき感心してた浴衣
を購入……子供用サイズもあったから私が補助するまでも無く《流浪》もヒナも試着しながら
店員にしっかり丈詰めして貰い、浴衣の入った買い物袋を下げバーガー屋へ……再び、 ラン
ダムシェイク を頼むと、マンゴーやパイナップルの果肉をストローが通れるまで細かくして
ココナッツミルクとヨーグルトを混ぜブルーハワイを加えた青い色を放つ 南国ブルーハワイ
ヨーグルトシェイク と日替わりの選択項目から更にランダムで4種選び混ぜ合わせ、今回は
バニラ、ストロベリー、ミント、キャラメルチョコの 四天王シェイク が来て……《流浪》
とヒナは、その2つを仲良く飲んでバーガーは頼まず店を出て、ゲーセンコーナーへ足を運ぶ
「 未来を感じるモグラ叩きゲーム稼動開始 だって。少しやってみよっか……さくちゃん」
無関心では無いものの《流浪》の反応は薄く、ヒナが先に遊び始めたしゲームの内容を解説
……地球侵略を目論むエイリアンたちが宇宙船から出て来る瞬間を柄が黄色で本体部分が青の
ピコピコハンマーで叩いて追い払うという設定で、大きな筐体には円で仕切られた中にいくつ
もの穴があり、その分布は左右対照でも点対称でも無い感じ……筐体の円盤部分はゲームの間
絶えず回転し、その方向も速度も頻繁に変化……ヒナが今やってるのは円の挙動とエイリアン
の出現内容が固定のプラクティスで、より複雑な6パターンのどれかになるノーマル、全てが
ランダムで時間も長いチャレンジが他にあって、穴の中から出て来ては引っ込むエイリアンは
得点に応じて単色、下半身と手先に2色目あり、左目部分で被るように大中小で不均等に分布
の水玉柄……その3種類の色違いでバリエーションを作り、更にチャレンジにしか出ない単色
メッキで金と銀に似せた2種……これ出現時間が短くて引っ込むの速いし、金は頻度が本当に
低い……2人同時プレイも可能で、2本目はハンマー部分が黄緑色で柄の黄色は変わらず……
一通り遊んで交代し、迷う時は鈍く、反応する時は鋭い動きの《流浪》をヒナは眺め続け……
やがて協力モードで何度も遊び、点数の桁のバラツキが激しく《流浪》の功罪が顕著……ヒナ
は得点の増減を素直に楽しみながら更に続け……互いの得点を競う敵対モードもあったけど、
もう遊び疲れてて……早めの夜ご飯にしようと和食屋へ出向き、ヒナは鶏肉たっぷりの卵雑炊
とヒレカツを注文し、《流浪》はメニューにある味噌汁を全種……さっきハンマーを叩いてる
間は無言だったけど、アイコンタクトや表情の変化が盛んで、見るからに楽しそうな光景だっ
たなぁ……長い事遊んだから今は18時どころか19時を過ぎそう……それから《流浪》とヒナは
帰宅して明日に備え早めに寝たけど、寝る前のヒナを少し……ヒナは明日の花飾りをどうする
か悩んでるね……ヒナの髪の色は薄いオレンジ色だから目の前の牡丹を模した紅色の髪飾りも
悪く無いし、傍には同じ意匠で青紫の花飾り……その隣には薄いピンクと言うには黄色くて、
桃の果肉部分のような色合いで、菊の花を簡略化し花びらも薄くして全体を広げたような造形
の髪飾り……どれにするかは出発前の気分で決める事にし、ヒナは《流浪》を連れてベッドへ
向かいました……明日は ステージ2はねつき最後の2日間 、 夏祭り …… ステージ1
かみつき と比べ、 はねつき との遭遇がまるで起きなくて、どの 参加者 を見ても動き
がまるで無い今回……一番動いてたのは《分裂》だけど、 分身 で別行動出来る利点を活か
さず 1匹のはねつきに《寄生》 した後は上空で地上を眺めてただけ……別に 人間として
夏休みを満喫 してるなら構わないし、ゲームの舞台を存分に楽しんでくれるだけでも、私は
嬉しい……そう思って迎えた 夏祭り一日目 ……最終的には大した事態にならなかったけど
このゲームにとっては 大事件 が起きて、それを起こしたのが……順を追って、見て行くよ
八月二十日
説明から始めよう…… ステージ1のかみつきは初日に3匹現れ、それ以降は一日4匹ずつ
増えるから九日目は35匹 だけど十日目は39匹の他に私が場所を指定し、数は乱数で決めてた
…… ステージ2のはねつきは上空に発生し増える数は初日から乱数任せ で値の範囲に結構
幅があり、三日目で2桁行く事もあれば1桁に留まったりする……今日に至っては3桁を優に
越える はねつき たちが上空にいて4桁には遠い数だね…… 一度発生したはねつきは消え
ずに飛び続ける けど《分裂》はステージ2初日で はねつき に《寄生》してる……そんな
風に つきを乗っ取る能力がある から ステージ1とステージ3のかみつきは時間が経てば
溶ける設計 にして 能力には回数制限を採用 し、 つきに対して能力を使う 事を考え辛
くしてる中、 自身は襲撃の脅威から逃れつつ参加者探しが出来るはねつきは《寄生》対象と
するには絶好の物件 ……今日の朝6時になるまではね……じゃ、朝6時以降の話をしますか
6時になった途端 はねつきが近くのはねつき を捕食対象と認識し猛然と襲い始め、数分
も経たぬ内に 互いを食い合う状態 となり、その規模が連鎖的に拡大する中、 はねつき
に《寄生》中の《分裂》はこの状況から逃れようと3時間は飛び回り……やがて1匹の はね
つき の牙に捕まると他の はねつき たちも一斉に群がり、身体の至る所に牙が入っては食
い千切られ……《分裂》の身体中から絶えず血が噴出るけど はねつきの血は金色 だったね
……こんな感じで 今日は朝から、はねつきがはねつきを呼び寄せ、ともぐい状態になる日
です……昨夜18時に全ての はねつき たちに特定の場所近辺までの移動を開始させ、 とも
ぐい処理がオンになる翌朝6時 には1ヶ所に集まってる感じ…… 特定の場所は全てのはね
つきが集合し易いと算出された地点 で、この集合は視力オフと同じく強制処理なので自由に
行動出来なくなるんだけど、《分裂》は毎晩 はねつき の動作を決める乱数の結果に身を任
せ夜の間は一度も行動選択せずに過ごして来たから、下へ降りれない事に気付かなかった様子
……昨日の18時前なら地上に降りて 脱出 し、その直後は宿主だった はねつき に狙われ
るけど 脱出後はすぐ能力が使用可能になる から《流浪》で逃げる事も出来たよ……そんな
《分裂》の動向だけど、 はねつき たちが ともぐい する中、 脱出 でその身を空中へ
投げ出した……ここで《寄生》の詳細…… 回数制限は強化で5、通常で3、弱化で1 ……
対象を指定し《寄生》状態になる 入り込み 、《寄生》状態を解除する 脱出 が使用可能
になるけど、 入り込みと脱出の度に能力を消費 するから 1つの対象に《寄生》する為に
は《寄生》を2回使う 事が前提となる…… 弱化 した《寄生》は回数1だから 何者かに
《寄生》した状態でゲーム開始 しとかないと、 入り込みを行っても脱出が出来ない 何て
事態になるよ……《分裂》は《寄生》を 強化 してるから、これで残り3回…… 《寄生》
中に宿主が完全に捕食された場合、能力消費無しでその捕食先を宿主にするか、能力消費して
食べ残された身体の一部から脱出するか選べる …… 常に宿主の身体のどこかに《寄生》し
てる可能性がある って処理だからねー……今の状況だと宿主の身体の大きな部分が残ってて
このまま一片残らず食い尽くされたら、 どのはねつきが新しい宿主かは曖昧になるけど地上
へ落下した僅かな肉片の中にいないのは確定 だよ……小さな肉片は 著しい損壊状態 と言
えるし 宿主を選べる捕食状態の方が強く優先される から…… 《寄生》は生物だけでなく
無機物にも《寄生》可能 だけど、 宿主が修復困難な段階まで原型を留め無くなった場合
……例えばバスケットが燃やされて灰になる、スプーンが液体段階まで溶ける、水や氷も蒸発
すれば……そんな段階になると 宿主は死亡と処理され、その死亡は参加者にも適用される
……直前の警告表示が出てる間は 脱出 の猶予あるけど……今日は はねつきが死亡状態に
なる 処理があって、 はねつきに《寄生》し続けてると死亡する日 …… かみつきとはね
つきには痛覚があり結構敏感……適当なもので殴れば少しの間は怯んで動きが止まるようにし
た結果だけど、《分裂》が自分に群がる はねつき たちに身体中を酷く食い荒らされてる、
この状況…… 《寄生》中は宿主との知覚を自動取得 だから、一連の全ての痛みを感度良好
で直に受け続けてるね……そんな《分裂》が はねつき から 脱出 し…… 人間の姿 に
なったけど、今度はその身体を はねつき に我先にと食い千切られ始めてる……ステージ2
初日に《分裂》した際の 分身 が待機して無かったら、《分裂》はここで 死亡 してたね
…… 《分裂》中に片方が死亡した時は、もう片方が本体となる けど死ぬ間際の痛みや記憶
も引き継がれるから 拠点 である鶴木駆の家で横になってた 元分身 が酷い悪夢を見てた
ような形相でベッドから飛び起きる……心に受けた傷を癒そうと《分裂》はフルーツたっぷり
のレアチーズケーキを食べ始め……半分残して冷蔵庫に保管してると氷室新から 夏祭り へ
誘う連絡が入り、いい表情で承諾のメッセージを送信……そこで私は《分裂》が 夏祭り を
楽しく過ごせるよう宅配を出現させ、中身は白い陶器をイメージした青い模様のある浴衣1着
と紺色の帯……その簡素さを紛らわすように涼しげな絵の入った団扇が添えられてるけど、肌
触りのいい生地を使ってて《分裂》の髪は緑色だから、これ位が丁度いい……パンフレットも
付けて差出人部分は 夏祭りお楽しみセット と記入……浴衣が手に入った《分裂》は氷室新
にメッセージを更に送信し、宅配ピザの注文を終えると空になったダンボールの方を振り返り
困惑しながらも穏やかな表情と口調で私に向けた一言を呟いてくれたのが……嬉しいなぁ……
さて《流浪》とヒナの場面へ…… 夏祭り 会場を一緒に歩いてると、ヒナが声を掛けられる
「あら、こんにちわ。またお会いましたね……」
まだ夕方と言うには厳しい時間に挨拶して来た女性の浴衣は胴体がレモンのような色合いで
白抜きの泡模様が炭酸みたいな分布……その鮮やかな黄色は下へ行くほど水色に変化して行き
手を広げた際の袖は上が黄色、下は右手側が黄緑で左手側が紫へグラデーション……正面から
見て左からマスカット、ラムネ、グレープ及び胴体のレモン……4種類の炭酸飲料をイメージ
させる清涼感の演出を狙った浴衣だね……帯は孔雀の羽根部分を敷き詰めたような柄だけど、
お店で手に取って見た時と違い、こうして実際に着けて遠目で見るとそこまで派手じゃなくて
リアリティを追及した分、暗く見える……これならオレンジや青系の単色帯の方がいいかなー
……《流浪》がヒナの後ろへ避難する中、ヒナはすぐに海で一緒した女性だと判り、《流浪》
もやがて顔を覗かせ始めると僅かに会釈……その後、女性がヒナにした内容は……こんな感じ
「あなた方もいらしてたんですねー……今日は用事があって祭りには行けないと出発前に彼氏
に伝えてるので、このあと彼氏の浮気相手の女性たちと合流し今夜彼氏と一緒に来る方と連絡
を取り合い、皆で色々驚かせて悪戯する感じです……彼氏ったら奥さんがいる方にまで手を出
しちゃって……本当に若くて綺麗な女性を見ると見境無いんだから……ではまたどこかでー」
そして女性は一足先に合流出来た金属並みに光沢のある金色浴衣で真っ赤な帯を締めた女性
と一緒に待ち合わせ場所へ向かったよ……話の際に店の場所を幾つか教わり、《流浪》とヒナ
は途中で買った屋台の食べ物片手に道を行く……ヒナの浴衣は浅葱色で、《流浪》の浴衣に付
いてた金色の帯を締めてて、《流浪》は遠目で見ると白い浴衣だけど帯は例の黄色い浴衣の紫
……《流浪》もヒナも髪を後ろでまとめてて、《流浪》の髪は淡い水色で髪飾りは例の青紫色
牡丹、ヒナの髪は薄めのオレンジで髪飾りは昨夜の桃色の菊……共に長い髪を1ヶ所で結ぶと
ボリューム出るねー……やがて辿り着いたのは金魚掬いの屋台で、取った金魚は持ち帰らずに
戻す方式で種類毎に点数があり合計点次第では景品を用意してる感じ……景品が要らないなら
複数名で点数を競うとか遊び方を店主と交渉する事も可能……色々な種類の金魚が泳いでて、
《流浪》が興味深そうに水槽の中を眺め始める……普通の金魚、大きな金魚、小さな金魚……
青み掛かった黒い金魚や何種類もの出目金……そんな金魚たちが泳ぐ様を《流浪》はぼんやり
と眺め続け……金色の金魚が1匹、《流浪》の視界を横切る……店主から見ると熱心に金魚を
鑑賞してるし悪く思って無い様子……そんな《流浪》を同じくぼんやりと眺めてたヒナはお店
の迷惑である事に気付き、お侘びしてると客が通るまで眺めてていいと言われ……やがて隣の
輪投げ屋が賑やかになって来ると《流浪》の関心がそこへ移り……輪投げ屋へ向かう事になる
「この輪っかはねー……こうやって遊ぶんだよ……さくちゃん」
《流浪》が輪を手にするとハンドルのように回しながら呆然と視線を注ぎ始め……しばらく
はそんな《流浪》を眺めてたヒナだけど……やがて発言し、手本を示そうと投げた輪は棒の連
なる傾いた台を飛び越え、屋台の奥の壁に当たり……それを見て《流浪》が奥の壁目掛け勢い
よく輪を投げ始め、周囲の雰囲気を察し《流浪》は手を止める……ヒナが再び輪を手にし発言
「さくちゃん……この何か伸びてる棒に、こうやって……輪を引っ掛けるように……投げる」
その後ヒナは緑、黄、赤、青の全4種の輪を順に投げるけど……全て店の壁で跳ね返り、遊
び方を理解して輪を投げ始めた《流浪》も店の奥の壁にぶつけ続けた挙句、強く投げ付けた輪
が店主の顔面に迫り……最小限の動きで回避され、店主の体勢が元に戻る……ヒナは大きく溜
め息を吐き、投げてるだけでも楽しかったよねと発言し……《流浪》の手を引き、店を出ます
「おはようございます……もう大丈夫なんですか? こんなに素敵な商品があるのに徹夜続き
で出店準備もままならない何て……ていうか見知らぬ相手に店を任せて、よくぐっすり眠れま
したね……じゃ、この綺麗な羽根飾りの飴ください。待ち合わせ時間も近いので、この辺で」
少し前まで店の奥で仮眠を取ってた店主に呆れた顔と声でそう言った女性の黒地の浴衣には
黄緑と朱色で描かれた大きなハエトリソウが分布し、白地の帯には交差する灰色の鎖全てが紫
色のオーラを放つリアル寄りの絵がプリント……首と手首にしてる黒革バンドの外側で放射状
に生えたトゲは先端部分全てが薄い紙を引っ掻く事さえ出来ない丸さで、真っ赤に染めた髪の
元の色は……《流浪》の髪を濃くした感じの水色だね……この女性は先程の炭酸浴衣の女性と
向かう先が同じで、待ち合わせ時間目前に店番を始め遅れると連絡……さて《流浪》とヒナが
屋台に並ぶ品々を眺めてて、今見てる飴細工はデフォルメされた顔部分のみのピンクのウサギ
緑のカエル、茶色のクマ……細工中に食用の着色料を混ぜてるけど、それを施さない透明な飴
も数多く、単純なものはキューブとピラミッド……デフォルメ無しの狼に至ってはリアルで、
遠吠え状態のポージングまで……この鯉も写実的で細部まで凝ってる……そんな大きさも色も
形も様々な飴細工の中で、目立つように飾られてるのは徹夜の原因にもなった、ひと際大きい
ペガサス……馬の造形だけでなく鳥の翼部分までリアルさを追及した躍動感あるフォルム……
ちょっと数日遡ってみたら、もう一回り大きいペガサスがあったんだけどポーズと重量に無理
があって、飴が冷めて固まるや倒れてしまい大きく損壊……そこで少しはポーズ妥協して同じ
クォリティで作り直した結果、連日徹夜……このベガサスの羽部分の練習用に透明な羽をたく
さん作り、所々色を塗る感じで全て違う色合いに……さっき女性が購入した羽飾りは一番最初
に作ったやつで、間近で見れば他とやや見劣りする出来……飴細工は串の先に刺してる感じで
《流浪》が気の済むまで眺めた後、ヒナは色が一番多く塗られた羽飾り、《流浪》はさっきの
カエルを購入……屋台を離れると店主が欠伸してたね……やがてクジ引き屋の前を通り掛かる
「3回連続でハズレかぁ……紙きれにハズレって書いたのが貰えるだけだし地味に全部手書き
……平仮名カタカナ統一されて無い上に、これ何てハだけ平仮名だし……つ、次は当てる!」
その様子を見て《流浪》とヒナは手を繋いだまま素通りしたけど……躍起になってる女性は
黒基調でデザインがアニメ寄りのメイド服に黒の猫耳カチューシャと真っ黒……髪は緑色で、
エプロンとフリルは白いけどね……以前ヒナが《流浪》にさせた格好と同じ装備でメーカーも
完全一致だから目が行っただけです……この女性は《分裂》のやや青緑の髪と比べ、かなり明
るい黄緑で今月二十歳に成り立て……《流浪》とヒナはそのまま進み、お面屋が見えて来るよ
「わんわん。うきー。き、キジはー……知らないなぁー……鬼さんは、がおーかな? んー、
桃のお面が無いけど、青い鬼さんは顔が違って角が1本……どれにしよっか……さくちゃん」
ヒナがキジの鳴きマネに困りつつ、そう発言……お面は5種類しか無い分、数が充実してて
赤鬼は角が2本で青鬼は1本……ヒナは桃のお面が無い事を残念がって何も買わず、《流浪》
に青鬼のお面を買った次の瞬間、通り掛かった客が青鬼を手早く購入……その後の売れ行きを
見たら青鬼と赤鬼のどちらか迷った末、少ない方の青鬼を購入する客が相次いでて、今は青鬼
のお面が売り切れる結構手前の段階……この後の《流浪》とヒナだけど通り掛かりの屋台で遊
ぶ客を眺めたり、ヨーヨー吊りの屋台前で立ち止まるも入らなかったり、ポップコーンと焼き
とうもろこしの屋台が向かい合い、互いの品を交換し店主2人が微妙な顔で食べてるのを目撃
したり……目立った出来事も無いまま暗くなって来たし、 本日のはねつき について語ろう
《潜在》《寄生》《操作》《分裂》《流浪》がそれぞれ気の合う人間と一緒に 夏祭り を
過ごす中、 特定の場所上空 で繰り広げられる、 はねつきたちのともぐい は激しさを増
すばかり…… ともぐい終了時刻 も乱数で16時半過ぎに決まったし、その頃の様子を……朝
6時から続く はねつきがはねつき に喰らい付いては群がる ともぐい 現象……そのワニ
のような少し長めの強靭な顎で他の はねつき に牙を突き立て食い千切り、咀嚼するんだけ
ど、それが満足に出来ぬ内に別な はねつき に自身も食い付かれる事も多い……遠目で見れ
ば所々が歪に伸びた塊が蠢いている様相だね…… 一片残らず捕食されるはねつき もいれば
塊の内側で 相手にされる暇なく残り続けたはねつきの肉片 も数多い…… ともぐい対象は
残ってる部分が多い方を近さの次に優先する から、塊の隙間で引っ掛かってる肉片や部位だ
けでも結構な数……さて時間だね、 全てのはねつきが乱数順で1匹ずつ死亡処理 されます
……今の今まで塊の一部として各々動いてた、 はねつき たちが、照明が消えて行くかのよ
うに次々と活動を停止させ、 死亡状態のはねつき が加速度的に増えてくよ……この段階ま
で《分裂》が粘れてたら、 はねつきが死亡する警告メッセージ を出してたね…… 本来の
《寄生》は宿主の生命活動が途絶えると自らも死亡する けど 私がアレンジした《寄生》は
地形に該当する規模を除くゲーム内のあらゆる単体オブジェクトや生物が対象 で、 生物で
ある宿主が死体となっても物体的に健在な状態が続けば死亡判定を取り消し物体として扱う
から実は《寄生》し直せます……今回の 脱出猶予 は一連の 死亡処理 が半分も行き渡ら
ない時点まで……そのあと身体の部位やら肉片との接触具合などで複雑に絡み合った塊にしが
み付いたとしても 次の処理 があるから、 参加者 がこの場に留まる事は出来ないね……
さて、塊の先端にいる死体となった はねつき の1匹が地上へ落下……背中から地面に激突
し轟音と共に金色の血液を盛大に撒き散らすけど……その間に全ての はねつき への 死亡
処理 が終わったので、 次の処理 が始まるよ……上空に浮かぶ夥しい数の はねつき の
群れで構成されてた歪な形は、今や静寂さを放つだけの肉塊の寄せ集め……それが突如、活発
に動き出す……ここで首の部分が大きく膨らみ始めた はねつき に注目……大きめで濁った
炸裂音と共に首は破裂し、頭部は落下……他の はねつき も身体の内側に大きな泡が出来た
かのように膨らんで行き、水面へ浮上する大きな泡が割れたような音を伴い身体の一部が弾け
飛ぶ……そんな現象が塊を構成する全ての はねつき に起きてるから、遠目で見ると 塊の
表面が沸騰 してる状態で、一様じゃ無い破裂音がする度に宙を舞う部位の中でも目玉の赤は
よく目立ち、音がする度に吐き出される身体の中にあった金色の血液はどれも凄まじい量……
地上には破損した肉片が次々と降り注ぎ水分たっぷりの音と一緒に着地しては潰れ……雨とは
また違った音色を奏でる中、沸騰する塊の内側から金色の炎が滲み出て来たかと思うと次第に
広がって行き……まだ残ってる はねつき の肉を溶かし始め、蒸発の音を出す……金色の炎
は結構高熱ではあるけど、 内骨格構造のはねつき を骨まで綺麗に溶かせてるのは処理内容
の一環……弾け飛んだ残りの身体が金色の炎に焼かれ溶けて行く、 はねつき だった肉の群
れ……剥がれ落ち方を見てると何かの形に沿った動きで、 はねつき の肉片が全て溶け落ち
ると肉の塊があった空間には、 はねつき と同じく背面と正面で色が違い手足は無く首と尾
が長く伸び、頭部はワニのように長めに伸びた一つ目の生物みたいな姿が露わになってた……
その胴体は はねつき が大型犬程度なのに対し大型トラックのコンテナくらいあり、前後か
ら伸びる首と尾に左右から生える両翼との胴体比率は はねつき と一致……今は身体を垂直
にし頭と尾と翼を前方に折り畳み上空で静止してて、この体勢は18時まで続き、解除時は畳ん
だ部位を一斉に展開し身体を水平にして活動開始……この停止状態の段階で攻撃と見なされる
外部的な刺激を受ければ展開動作が瞬時に行われ動き出すけど、 今日は参加者全員が夏祭り
会場にいる から18時になるまで、このままだねー……それと背面の色は はねつき の眼球
を溶いて塗りたくったような不気味な青みを帯びた圧倒的な発色の赤……正面の色は闇夜によ
く馴染む黒で、頭部の形状と眼球の比率も はねつき と変わらないけど、その一つ目は金色
……背面に血管風の模様があった はねつき に対し、その背は実際に太い血管が何本も浮き
出てて脈動してる……血液は金色ではなく青緑で、 はねつき を大幅に上回る性能を備えて
る、この存在こそ、 ステージ2はねつき のボス…… やみつき ……ステージ2の最終日
は明日だけど、その前日である今夜発生するんだよね……18時になれば乱数が振られ、0分か
ら3時間の範囲で やみつき の活動開始時間が決まるので、ここは《流浪》とヒナの様子を
再び追いながら、 やみつき の性能面を話そう……屋台を通り掛かってると先客の声が響く
「悪い射的屋って景品の裏に接着剤で固定とかあるけどぉー……ここはいい射的屋さんね……
悪いのはワタシの腕……さぁ、そこの頭部分が狐の子猫ちゃん……今撃ち抜いてあげるわ!」
声の主はモノクロ迷彩柄の浴衣をニシキヘビ模様の帯で締め、紺色を鮮やかにした暗めの髪
にラフレシアの花飾りを付けた女性……ニシキヘビは孔雀帯と同じメーカーでリアルさを追及
し遠目で見れば黄色印象の強い茶系だね……ラフレシアは原寸大じゃなくて小皿に乗せるには
少々大きめで細やかな造形……匂いは無いけど女性がお気に入りの香水の中でも強めのをふん
だんに吹き付けてる……そんな女性が狙うのは右手で抑える小判の 大容量 の文字が妙に際
立つ、頭部は狐の左手上げの招き猫……この様子を《流浪》とヒナが少し眺め、やがて通り過
ぎると女性は通信機器で待ち合わせに遅れる主旨のメッセージを送信し、他の景品には目もく
れずに同じ獲物へ銃口を向ける……この射的屋は重い景品をマットに敷かれた横長の台に並べ
弾が当たった時の押し出しの積み重ねで落下させて取る方式だけど台の上の景品は30分置きに
全て元の位置に戻すので短時間で連続命中させる必要があり、その際はコルクも回収して戻す
から空気が抜け易く威力の落ちる欠けたコルクも多い……招き猫は弾が当たる度に押されてた
し続ける価値はありそう……じゃ やみつき の説明を少し…… はねつきの視野は距離関係
なく鮮明に見える望遠レンズ のような感じだけど、 それを広角レンズにすれば、やみつき
の視界状況 になる…… 参加者を捕捉してない、やみつきは乱数に従いうろつく し、水槽
で気ままな軌跡を描きながら泳ぐ金魚とも言えるかな……それを早送りした感じの速度で飛行
するけど…… やみつき が動き出せば1時間くらいで 夏祭り会場 周辺まで来れそう……
乱数次第とはいえ 参加者のいる方向 を取得すると上空から捜索を始め、視界に映れば突撃
開始…… やみつきは18時になっても視力を失わず日中同然の明るさで視える から、夜でも
常に視界良好です……《流浪》とヒナが屋台を通り過ぎたけど、その向こう側で何やら話し声
「少し遅れましたが……」
「2人……足りない?」
「1人は急な予定が入りキャンセル……もう1人は子猫ちゃんを射止めたら来るとの連絡が」
「でも添付画像は狐の置物だけ……まぁ彼氏さんと一緒に行動する人は来てるし……ところで
さぁ……クジ引いてハズレ7連続って喜んでいい? もうそれでいいやって店出たんだけど」
今まで遭遇した浴衣女性たちが4人いて、炭酸、金ピカ、ハエトリソウ、黒猫服の順に発言
……別働隊の女性は持ち場にいて青系ソーダの髪を黄緑に染めた問題の彼氏と行動中……この
男性は女性7人と交流がある感じだね……このあと炭酸浴衣の女性主導で何かやるみたいだけ
ど、 やみつき の性能の続き…… 旋回方向が時計回り固定のはねつき に対し やみつき
の旋回性能は反時計回りも可能で速度を保ったまま直角に曲がる事も可能 …… やみつきは
水中に飛び込んでも、はねつきと違い停止や急浮上が出来るから一時的な潜水を許可 してる
…… はねつきは水中に逃げ込めば追って来ない という情報を突き止め、 やみつき 相手
にプールの中でやり過ごそうとしたら酷い裏目だね……相変わらず遮蔽物の向こうは視えない
けど 視界に参加者が複数いる場合、全員を攻撃するような行動を取る し、太く長い首と尾
を薙ぎ払うだけで結構な威力…… 参加者が人間の姿のまま 壁に叩き付けられれば 死亡
も有り得るから、 能力の使用を迫られる 相手……そんな やみつき が夜空を高速徘徊す
る中、《流浪》とヒナは 夏祭り会場 の外れまで来てて……傍にある屋台は自作アクション
ゲームを基盤化し他のボードゲームの基盤と挿げ替えた筐体を持ち込み簡易ゲームセンターし
てる……今プレイしてる人は、この初見殺し要素満載のゲームと何時間も格闘し続け……よう
やくボスに辿り着いたけど瞬殺され残機も尽き、最初からやり直し……そんな内容だから店は
会場の外れにあり、サンドバッグ担当のやけに太ったサメのぬいぐるみを吊るし店主自身は客
を煽ったりせず静かに見守りゲームバランスの是非を考えてる……今ので限界を迎え叫ぶ男性
「ちくしょー! 覚えてろよ!! もう今日は家帰ってモフモフ動画漁って過ごしてやる!」
結構大柄な男性が捨て台詞と共に勢いよく店を飛び出すと、ぶつかった《流浪》を弾き飛ば
したのにも気付かず去って行き……後頭部斜めに《流浪》が被ってた紐の無い青鬼の面は外れ
勢いのまま吹き飛び、髪飾りも一緒に外れたけどヒナが拾った事に気付いた《流浪》はヒナの
方へ向かい、取れた青紫牡丹の髪飾りをヒナに付け直して貰い始めた次の瞬間、ミニゲーセン
屋台の前方に真っ黒で巨大な柱が突き刺さる……反対側は真っ赤で、刺さった範囲内では青鬼
の面が無残な姿に……もし《流浪》がヒナじゃなく青鬼の方に向かってたら巻き込まれてたね
…… はねつき同様、やみつきも参加者のいる方向に突進する けど、 やみつきなら最初に
狙った位置から対象が大きく動いても正確な軌道修正が可能で、激突間際に水平旋回し視界に
映った参加者全員を攻撃しつつブレーキとか出来る よ……それだと狙った 参加者 に必ず
直撃してしまうから基本、 やみつきも突進中は方向転換出来ない処理になる 感じです……
こんな風に 参加者近くの地面に激突 するだけでも十分…… 最初に狙った場所 から結構
動いてないと直撃して 死亡 するけどね…… やみつき の頭部の大きさで地面と激突だと
土が巻き上がる量も多く周囲の被害も只事じゃないけど、さっきの店主と筐体は無傷……以前
言った通り ゲーム筐体は私と同族のようなもの ……筐体は勿論、それを大事にしてくれて
る店主も放っておけない…… 店主と筐体は何があっても無事 なので《流浪》とヒナの様子
を見て行こうか……《流浪》とヒナが呆然とする中、 やみつき は頭を引き抜き金色の巨大
な瞳を《流浪》へ向け始めてるけど、本来は乱数で決める次の行動を直接指定……ボスが全体
像を見せた後は、やっぱり辺りを轟かせるように吼えさせたいよねー……なので今、 やみつ
き は大口を開け盛大に吼えてます……重厚な低音の波動は大気を激しく震わせ、軽い物なら
吹き飛ばしそう……咆哮を終え閉じた両顎が描く線は歪にのたうち、その中で群れを成す鋭い
牙で目の前の《流浪》に襲い掛かろうと口が開き始める瞬間、《流浪》はこんな思考を始める
「噛まれる……? あのキバで……ひなちゃんも……? どうしよう…… 能力 ……使う?
動きを止めたい、今すぐ……そんな 能力 が……たしか……」
まだ やみつき の口は半開きですら無くて 能力 発動と同時に《流浪》が心の中で呟く
「……これだ」
やっと やみつき の口が半分開いた直後、《流浪》が やみつき へ向け手をかざす……
これで条件は満たされ 能力 が発動……対象と接触する必要は無く距離は特に決めてないけ
ど 対象を十分に捕捉出来る状況か は大事だね……対象が素早く移動し発動時は目の前にい
ない場合はダメ…… かみつきを結構短時間で消滅させてるのは、この能力を警戒した 感じ
…… ステージ3あかつきの赤いトゲ 何て着弾10秒後に2秒で蒸発させてるし……この両端
が尖った細長い形状の 赤いトゲ を例に説明を続けようか……このトゲに《寄生》しても身
動き取れないし発射時に《寄生》しても方向転換出来るわけじゃない……でも この能力 な
らトゲを方向転換出来るどころか既に突き刺さったトゲを引き抜き、殺傷力十分な速度で好き
な方向に飛ばせ、その場に留めて全方位の回転も可能…… 能力の対象は建造物全体や地面な
どの巨大なものを除く単体と見なせる物理的なオブジェクト全て ……飛行機は建造物並みに
大きいから無理だけど 重量は条件外 にしたしヘリや戦車は大型過ぎなければ対象……この
内容が変化せずに 強化では、まがつきを除く全てのつきと参加者本来の姿も対象、通常では
それらを除く全ての生物を対象、弱化では生物と見なせるもの全てが対象外 …… まがつき
は1分で蒸発する特大サイズの赤いトゲも放つ けど、このトゲは 弱化 でも対象だね……
だから早々に溶かすとかしないと 強力な武器を参加者に明け渡す事になる …… この能力
は強化弱化しても使用回数は一度切りのまま にし、 気軽に使えない大技 感を狙ってます
…… 本来は対象の身体を無理矢理動かす能力 で、強引に喋らせる事は出来るけど、 宿主
の精神乗っ取り が出来る《寄生》とは違い、 人間などの自我を持つものの精神は対象外
…… この能力なら時計回りにしか旋回出来ない、はねつきを反時計回りに旋回させたり、ス
テージ3あかつきの大きいかみつきを制御したり出来る ……これで 出席番号3番、玉宮明
[たまみや めい]の本来の能力 ……《操作》の説明は十分かな……要するに 手をかざす
猶予があれば一度だけ発動出来る能力 ……私は やみつき に登場演出の咆哮をさせたけど
その直後、《流浪》は 強化 してた《操作》を やみつき に対し発動……ここでヒナの声
「おっきなトカゲイノシシさんだねー……こんなに大きい声で吼えるし……犬の仲間かな?」
《操作》の対象が やみつき なので一旦上空へ戻るけど、既に やみつき は《流浪》の
制御下……今の内に説明、突撃時は直進するだけの はねつき も《操作》中なら、その軌道
を 引っ張る かのように直角に曲げる事が可能…… 対象を動かす回数と発動時間は無制限
の為、対象の性能条件で動かす事も可能 …… やみつき なら高速旋回を行うだけで直角に
曲がれるね……《寄生》の処理を流用し、 宿主が修復困難な段階まで原型を留め無くなると
《操作》は解除 され、 対象が死亡しても形状的な損傷が少なければ《操作》状態は継続
なのが《寄生》とは異なり…… 動かないものを無理矢理動かす 事こそ、 《操作》本来の
能力 ……相当な速さまで動かせるけど対象の構造が複雑なほど制御が難しい……そこで つ
きを《操作》出来た場合は周囲の視界情報を取得し遠隔操作をサポートする専用ウィンドウを
用意 してて、 参加者のメニュー画面内に表示 します……今は《流浪》の目の前に やみ
つきの専用画面 が表示されてる感じです……さて 他の参加者4名が夏祭り に来てる今夜
……その 方向情報 は《流浪》の メニュー画面 に映る大きめの矢印アイコンの向きが示
してるよ……《流浪》は矢印に興味深そうな視線を注ぎ、やがて押す……ヒナには《流浪》が
何も無い空間で指を動かしてる風に見えてるね……発動中に気絶か 死亡 しても《操作》は
解除されるけど《流浪》…… 朔良望[さくら のぞみ]が参加者 だと他の4名は知らない
この状況で やみつき を《操作》出来た《流浪》は 他の参加者を葬る絶好の機会 を掴ん
だね…… やみつき が矢印の情報に従い飛行する中、《流浪》は適当に やみつき の身体
の向きを上下させたり左右に揺らしたりしたから最初に狙った地点から結構ズレて地面に激突
し、視界が真っ黒になると 首を引き抜くアイコン が表示されたので、それを押す《流浪》
…… やみつきの視界画面 は一気に明るくなり、その眼前には《潜在》《操作》《分裂》、
《寄生》が《寄生》中の桂眉子、氷室新と朧月瑠鳴…… 参加者は4名 で人数だと6名の姿
が普段は人気の無い草原に広がっていた……私が《流浪》にメッセージを送る中、ヒナが発言
「さくちゃん……どうかしたの? トカゲイノシシワンちゃんお空に行っちゃったねー……」
その内容は 朝比奈真白[あさひな ましろ]にも、やみつき操作画面を見せるかどうか
……今まで《流浪》が目の前で 能力 使っても動じてないのもあり、ヒナの記憶は改変して
ない…… 参加者の方向情報を示す複数表示可能な矢印アイコン がヒナを指して無い事から
もう《流浪》はヒナが 参加者 では無いと有力視出来る……さて《流浪》は はい を選択
……じゃGUIを少し豪華に変更しようか…… 参加者のメニュー画面が視界の一部に表示さ
れる感じ なのを《流浪》の目の前で映像が黒板サイズに迫る横長形状で投影されるようにし
これを ヒナがやみつきの操作画面だと認識 するようにしてみたけど……早速、ヒナが発言
「これは……さっきのトカゲイノシシワンちゃんが見てる風景かな? るーちゃん、みーちゃ
ん、たまちゃん、まゆちゃん……あと知らない男の人たち……みんな可愛い浴衣着てるねー」
この画面は《流浪》とヒナにしか視えなくて、周囲には動作も音声も無い、立ち話の状態で
認識される…… やみつき が地面から顔を引き抜いた際、結構な土砂の量で女性陣の浴衣は
土で汚れ、特に朧月瑠鳴の浴衣は悲惨だね……この後の《流浪》の《操作》次第では別の色で
染まる可能性も……ちなみに 《操作》された対象は別の参加者の《操作》で上書きが可能
……つまり、 強化した《操作》でナイフを《操作》してても、そのナイフの《操作》状態は
弱化した《操作》で掛け直せる …… やみつきは強化して無いと対象に出来ない けど……
《操作》を 強化 してる参加者は《潜在》《操作》《流浪》の3名……周囲の目を気にせず
《流浪》で安全な場所へ避難するか、傍に 参加者 がいる可能性を考え、ここは粘るか……
《流浪》は やみつき専用画面 を眺めてるけど、そんな局面で《寄生》が桂眉子に叫ばせる
「そんな……! 夜になると目が見えなくなるから、襲って来ないって言ってたのに……!」
他の 参加者 と接触した事を示唆する発言だね……ここで朧月瑠鳴が叫び出し更に続ける
「ショッピングの時といい、今週の日曜に海で遊びに行った時といい、何なの! 何でこんな
ヘンな生物みたいなヤツに何度も襲われなきゃいけないの! 今日はみんなで夏祭りを楽しみ
に来たの! 明日は花火大会があって、みんなで見るの! あんたみたいな、ヘンなのに襲わ
れる為に来たんじゃないの! だから、だから……! どっかへ……行ってよぉーーー!!」
思いの丈を打ち明け、最後には手で追い払うかのような動作をした朧月瑠鳴は更に喚き出す
……その光景に戸惑いながらも《流浪》は画面に映る 口を開けたアイコン に興味があるよ
うで……遂には押した次の瞬間、 やみつき の口が大きく開くと咆哮が始まり、周囲の空気
を激しく震わせる……朧月瑠鳴の叫び声はかき消え、喚くのも止めるほど驚き……呆然と呟く
「あ、れ……? えーと……?」
今度は 翼のアイコン を押す《流浪》……これは その場で強く羽ばたく動作 になるね
「きゃあ!」
「うぉ!」
「うぅ!」
つまり 突進中のかみつきも進めない程の突風 が起きます……桂眉子と朧月瑠鳴がやや後
ろに吹き飛ばされる中、 やみつきが下向きで下矢印のあるアイコン を押す《流浪》……
上空からの突撃に使うんだけど地上の場合は一旦上空に飛び上がり……元いた場所へ、急降下
「助かった……の?」
「いや、違う! ヤツが飛び上がったという事は……来るぞ!」
「みんな! 早くここから離れて!!」
そんな喧騒になり、 やみつき が地面へ激突する頃には全員の避難が間に合い被害は無し
……ここでさっきの 口を開けたアイコン が点滅を始める……頭部が地中にあると咆哮動作
出来ないと思われてても、これで 地中でも咆哮動作は有効な事を示す 狙いだけど、好奇心
旺盛な《流浪》は、このアイコン押すよね……地中で やみつき が咆哮し始めると地面は激
しく揺れ動き……その場にいた6名全員が地震だと思い、立てなくなり……咆哮を終えた や
みつき が首を引き抜き、朧月瑠鳴が立ち上がる頃……《流浪》は2つ並んだ 翼の隣に回転
矢印のあるアイコン の片方を押す……それは やみつきが時計回りに旋回する動作 で、ひ
と押しだけでも360度旋回出来てしまうので、その加減を調節出来るようにしてるけど……
続けてもう片方のアイコンを《流浪》が押し、今度は反時計回りに同じくらい旋回……余りに
も速いから画面酔いすらしないね……これを調節する手順をヒナに気付かせる事も出来るなー
……さて《流浪》は集合するアイコン群とは離れた位置にある、 やみつきが炎に包まれてる
アイコン へ指を伸ばし始め、そのまま押しそうな勢い……これはヒナに言わせた方がいいね
「あ、何か出て来たねー……さくちゃん。このアイコンはよく考えた上で押すか決めて――」
でも遅かった……表示された文章には選択肢があり、《流浪》は反射的に はい を押し、
表示された警告文も同じリズムで はい ……敵の行動パターンが時間経過で変わるゲームが
あるように やみつきも行動開始1時間後とステージ2終了1時間前である朝5時に行動内容
が変化 する……1時間経過で地面に突き刺さる度に咆哮しては地震を起こし、朝の5時以降
は全身を金色の炎で包み込み、そのまま行動……炎の熱で身体が溶け始め1時間もすれば全部
無くなるけど、この状態で市街地を暴れ回れば街中を火の海にだって出来るよ……そんな自滅
スイッチを何でこの段階で表示してるかと言うと 《操作》の能力は止まっているものを無理
矢理動かす性質が強い ……だから 対象の身体で実現出来る事は全て実行可能 で人間だと
骨が折れる結果になっても首や腕を全方向に曲げれるし、信号機の青、黄、赤の3色を同時に
点滅させる事だって出来る……特に 強化した《操作》で参加者を《操作》すればその参加者
が現在使用可能な能力を使わせる事も可能 ……要は やみつきの能力の1つと言えるから好
きな状況で使える 感じ……間違って押さないように他と引き離してたアイコンだけど、それ
が《流浪》の興味を引いてしまったね…… 専用画面は《操作》中に出来る事を視覚化 して
て、対象が身体の全部分で指定した通りに動かす 通常モード に切り替えたりも出来たけど
……さて《流浪》は急に画面が金色になった事に驚き、それからは何も 操作 せず眺めるだ
け……この やみつきの燃焼状態 は時間が経つ毎に炎で身体の至る所が溶け落ちて行くから
画面には 00′58″09 という感じで やみつきが燃え尽きるまでの時間を表示してる ……
終了間際は動かせる部位も壊滅的になるし……《流浪》が やみつき周辺にいる参加者 を葬
りたいなら残り50分も無い、そんな状況で《流浪》は突然の事態に見舞われた一同と共に呆然
とし…… やみつき はうつ伏せのまま広い草原で、ただ燃え続けるのみ……遂にはキャンプ
ファイアーみたいだと言われ、金色の炎の中で溶ける身体からは青紫の煙が上がってる事を除
けば、広場の真ん中にある大きな炎を皆で取り囲んでる光景だし、完全にキャンプファイアー
だね…… やみつきの血液は青緑 で 燃焼時間に応じ血液の量を減らすような処理 もして
るから 血液を燃料に全身を燃やし続けてる と言えなくも無い…… やみつきとはねつきの
骨の色は純白 にしてるし身体の崩れ方次第では結構きれいな景色に映るかも……私が言わせ
たんじゃ無いけど焚き火の時に出る弾けるような音がやや強めに聞こえる中……ヒナが呟くよ
「それにしても、このトカゲイノシシゴールデンワンちゃん。この燃えた状況で暴れ回ってた
ら、すごい事になってたねー……力も結構あるみたいだし……首とか尻尾ブンブンしてるだけ
で相手の身体が吹き飛んだり、そのまま骨とか折れたり……火を吐いたり出来るのかなぁ?」
《操作》で動かせるのは 単体とみなせる身体の部分 で身体から離れた肉片と後から燃え
た炎は対象外だし炎を吐かせたり飛ばしたりは出来ないね……燃焼してる今は画面がうっすら
金色で明滅してるからヒナにゴールデン呼ばわり…… 参加者3名以上の死亡がゲームの終了
条件 の中、 《操作》状態のやみつきを参加者4名が集まる場所に送り込めた 《流浪》は
ヒナの言うように、全員が密集してる所で やみつき の身体を水平にし360度旋回させる
だけで 死亡 を狙う事が出来る上に、《流浪》で逃げられても 方向情報 からすぐに追い
掛けたりも可能……そんな破格の機会を《流浪》は登場早々に自滅ボタン押してキャンプファ
イアーイベントにしちゃった……探索ゲームで一度しか入手出来ない全てのボスに有効な武器
を捨てるくらい壊滅的な失態…… 待ったもリセットも無い、全てが一発勝負のゲーム して
る時に…… ゲームマスター の私からすれば普通に 大事件 だよ……そんな《流浪》は今
「あ……そうだった。あの おっきなはねつき が向かったって事は……あの中に 参加者
が……じゃあ、あの中にいる誰かを殺さなきゃダメって事? 誰を? 金髪のあの子? 髪が
黒いあの子? 髪がピンクでツインテールの子? あの色……何だろ? ポニーテールの子?
あ、男の子もいた……銀髪の子と髪が緑色の……誰を殺すの? 1人でいいの? この中に何
人いるの? どうしよう……次会ったら、どんな顔すればいいんだろ……わかんない……よ」
そんな思考の後は延々と困惑が続き……《流浪》はヒナの発言で 参加者としての自覚 が
芽生え意識した途端、酷く動揺した顔で目を見開き、その場に取り残されたように立ち尽くす
「さくちゃん……?」
「何か、火の勢いが強くなった!」
「さくちゃーん」
「み、見て!」
「く、首が!」
「さく……ちゃん?」
映像から流れ出る音とヒナが《流浪》を呼び掛ける声が辺りに響き、時間だけが過ぎて行く
「さーくちゃん」
この時やっとヒナの声が《流浪》に届いたけど、 やみつき が完全に燃え尽きたし 専用
画面 撤去……《流浪》の目からは中粒の涙が1つ流れ、もう片方の目からまた1つ零れ落ち
そんな顔をしたままヒナの方へ振り向く《流浪》……ヒナの姿を見てる内に、こう考え始める
「あ……ひなちゃんは…… 参加者 ……? 確認したい……でも、どうやって確認……?」
ここで私は《流浪》の メニュー画面 に さっきやみつきと遭遇した時の映像 を動画に
して送信……ヒナが狙われる状況なのに やみつき が自分を優先して狙ってた事に《流浪》
は気付き、表情が少しだけ和らぐ…… 《操作》状態のものが《寄生》を受けた場合 の話だ
けど、今の やみつき に《寄生》で 入り込み をすると やみつき への《寄生》は成功
する……でも 身体の内側を支配しただけで、外的制御の《操作》には対抗出来ない ……先
に《寄生》してても関係無いし 《操作》状態のものに《寄生》してる構図 だから 脱出は
常に可能 で、 《操作》がされてない時なら《寄生》で宿主を動かせはする けど 静物に
よっては《寄生》しても身動きする手段が無い のもある……それが《操作》だと 動かそう
とした対象に意思があった だけの事で 対象の自我の有無に関らず強制的に動かせる ……
ヒナが 参加者 じゃないと確信したものの、すぐに 参加者同士で殺し合う 事を思い出し
再び顔を不安の色で染め始め頭の中で、どうしようと何度も繰り返す《流浪》……その思考に
囚われ、今にも泣き叫びそうな表情でヒナの懐へと静かに飛び込み、ヒナが優しく呼び掛ける
「さくちゃん……さくちゃん? いったい、どうしたの……」
すすり泣いては溜まった《流浪》の涙が光となって音も無く顔を伝う……《流浪》が落ち着
くまで結構掛かって、その後ヒナに連れられ帰宅……最終日の前日にボスを出したけど、明日
私は 生存 を果たした 参加者 が 夏祭り と花火大会を満喫出来るようサポートするだ
けだし、何事も無くステージ2終了もあり得るね…… やみつきは《寄生》と《操作》の対象
に出来る けど 《寄生》は弱化してると実質使えないし《操作》は強化してる事が条件 と
厳しくて ステージ3が控えてるのにステージ2で能力を消費するのは考えもの …… まが
つきには一切の能力が通用しない事を参加者たちはまだ知らない ……十分な近さで《操作》
を発動出来る状況作っても 直径だけで数キロあるまがつきは建造物扱い だから《操作》の
対象外 だし《寄生》で 入り込み が発動出来ても、 まがつきは常に自動運転状態 ……
避難先としては絶好だけど、操縦の余地は一切無いね…… ステージ3あかつき最終日 では
《寄生》が《潜在》を発動したのを見て、解除しない意志を確認した上で退屈しないよう色々
手配…… まがつき の中に《寄生》を招き入れると、 ラジコン風のやみつきや専用画面
まで作ったりしたけど……ステージ2のボスらしい事を一切出来ずに退場したまま終わらせた
く無いって気持ちが結構あったね……さて広場に誰もいなくなったし、 やみつき が抉った
地面を直そうか……朝起きて浴衣が綺麗になってるのは不自然だし、その辺どうしようと考え
てたら《流浪》とヒナが漠然と流してた番組のCM中に蒸気の力できれいにする通販アイロン
が映ったけど ステージ3あかつき金曜日 にも登場させる、 あの胡散臭い人物 は完全に
思い付きです……では《流浪》とヒナが明日の 夏祭り 会場へ来て少し経った所から行こう
八月二十一日
「ここがその昨日7連敗したクジ引き屋ね! 子猫ちゃんと一緒に見守ってるわ。がんば!」
「見てよこのハズレクジ……何にも書いて無い……そしてまたハズレ……よくもまぁ1枚1枚
手で書い……これ、 はずわ になってる……もうハズレじゃ無ければ何でもいい……という
か 景品はお楽しみ って、フザケてる……もうこれで当てて、こんな所さっさと出るし!」
会場に辿り着き、昨日の青鬼のお面を買い直そうと屋台の中を進む《流浪》とヒナだけど、
クジ引き屋の前が賑やか……昨日も見かけた2人がいて、黒猫服の女性はメイド服というより
赤を基調としたエプロンドレスに赤と黒の横縞ニーソックスで、頭には真っ赤で大きなリボン
……もう1人は昨日射的屋にいた女性で服装は同じだけど妙な招き猫を右手に持ち、突き出し
てる……赤リボン女性がクジを引く様相を見て、思わず立ち止まる《流浪》とヒナ……後ろの
女性がやや頻繁にポーズを変えてて、今は招き猫と同じポーズ……次第に怒声混じりでクジが
引かれるようになり投げ捨てられたハズレクジが足元に4枚5枚と増えて行き……遂に当たり
を引くと女性は盛大に歓声を上げ、後ろの女性は小躍りし始めるものの……景品を眺める内に
赤リボン女性の表情は冷めて行く……シャチホコの置物なんだけどメッキどころかオレンジの
絵の具で塗っただけの紙粘土製で、ムラが多いから白い箇所が結構あってヒレや鱗などの複雑
な形状部分は筆で迷うように引いた線で済まされ、全体的に凸凹してる……顔部分の造形だけ
は出来が悪く無い感じで、眠そうな表情だね……置物を力無く手渡された浴衣の女性はサイズ
が招き猫と同じ位な事を喜んだのに対し、赤リボンの女性は無言でクジ引き屋を立ち去ります
「えーと、青鬼のお面、青鬼のお面……あれー? 無い……もしかして売り切れちゃった?」
お面屋に辿り着くとヒナがそう言う……青鬼の面は昨日の時点で売り切れてて《流浪》がそ
れに落胆する様子は無いけど、さっきから浮かない顔……その後は当ても無く屋台を巡り……
「なるほどタコ焼きの中にイチゴをまるまる……でもね、お兄さん。肝心のタコが入って無い
し、次はもっといいイチゴ使うなら、そのやる気をタコの方に注ぐべきじゃないかい? 何も
考えずにタコ焼きだと思って買ったお客さんは面食らっちまうよ……元の味付けはいいのに」
幾つも出店してるタコ焼き屋の中で、自分はオリジナリティで差をつけようと感想を条件に
スペシャルタコ焼きが試食可能な屋台があり、今発言してた鈍めの銀髪女性の浴衣は紺色……
全体的に色褪せた感じで安っぽく見えるけど、白で縁取ったりして描かれた赤と青の朝顔模様
がいい華やかさを出しながら適度に分布し、帯は赤く発色弱め……《流浪》とヒナもこのタコ
焼きを食べるけど……アツアツの生地と味気ないイチゴの酸味の生温さが混ざってるのが快く
無い様子だね……試作品だからとスーパーの安物イチゴを使ってるし……《流浪》の感想は読
み取ると宣言してたヒナだけど普通のタコ焼きを購入すると言う事で店主と話をつけます……
それから《流浪》とヒナは昨日と同じ金魚掬いの屋台へ向かい……辿り着くと先客の女性の姿
「このままずーっと眺めていたいくらい立派な金魚だなー……持って帰れないのが残念……」
そう呟くのは昨日と服装が同じ金ピカ浴衣の女性で、さっきまでポイ片手に金魚と格闘し、
結局1匹も釣れ無くて、今は水槽の前に座り込んで休憩し金魚たちを眺めてる……女性の隣に
《流浪》は混ざり、しばらくの間、一緒に金魚を眺め……ヒナが店の迷惑を心配し始めて……
「それならアタシがのんびり金魚を掬ってるので妹さんは……親戚のお孫さんかな? このま
ま眺めてて下さい……色取り取りでたくさんの金魚たちがゆらゆら泳ぐ……いいですよねー」
そう言うと金ピカ浴衣の女性は料金を支払って金魚と再戦……《流浪》が金魚を眺めてると
視界に滑り込むように女性の手とポイが現れ水面が程よく揺れて……静かにポイが引き上がる
……そんな調子で大きな音や波を立てない女性だけど、狙うのが全て大物でポイを水槽に入れ
て待ち構えてるからポイはすぐに大物の重みに耐えられない強度まで落ちる……水槽を眺める
前も同じ風にやってたけど、小振りの魚で妥協する気は更々無い様子……そんな中、《流浪》
は目の前を通り過ぎる金魚を呆然と見つめ、突然向きを変える大きな尾ヒレを目で追ったり、
適度な水の音に眠気を感じたり……そんな感じで過ごして行き……遂に女性が大物を引き上げ
るかと思った次の瞬間ポイが破け、大物が落下し……大きな音と波紋が水槽に広がる中、残念
がる女性の声と共に通信機器の音が響き……その内容を見た女性は去って行き、再び金魚たち
が水面を揺らすだけの静かな水槽に……やがて転寝気味の《流浪》と一緒にヒナが店を出ます
「このお店は色んな風船がプカプカ浮かんでたよねー……今日は遊びたいの? さくちゃん」
水槽の中に浮かぶ様々なヨーヨーが釣れる屋台があり全てゴム製で、幾つか紹介すると真珠
の質感や光沢を出そうと頑張って塗装したベージュっぽい風船……サングラスを掛けた3匹の
チワワの顔が等間隔で3方向に並ぶ風船……このタイプだけでサングラスが3つとも同じだっ
たり全部違ったりと色々あるね……他には表が目玉焼きの絵で、それ以降はフライパンと思わ
れる黒系部分が金属感を意識して描かれた風船……塗装無しの透明な表面に細くて虹色な線を
あちこちに引いた風船もあるけど……今、《流浪》の視線の先にあるのは、また違うヨーヨー
「まぁまぁ、みなさん! みなさん!」
そんな中、ヒナがふと振り向くと4人の浴衣を着た女性たちの姿が……1人は桜の花が白抜
きで至る所に描かれたピンクの浴衣にピンクだと思える範囲で黄色い帯をし、髪はピンク色で
ツインテール……もう1人は帯の黄緑と浴衣の赤の強さが絶妙で、浴衣には金色の刺繍や様々
な花が赤と白の濃淡でちらほらと描かれ、髪はベージュでポニーテル……要するに《操作》と
桂眉子です……3人目は南国テイストなオレンジ基調の浴衣が黄緑や水色の模様で彩られてて
帯は瑠璃紺色で、純粋な黒さのロングヘアが静かに光沢を放つ……4人目は生地の肌合いを失
わない強さまで主張した黒に赤い椿が所々に分布し、帯は白いけど繊細な金色の刺繍が潜むか
のように施され、長くて見事な金髪はウェーブが盛ん……こっちは《潜在》と朧月瑠鳴だねー
……4人との遭遇で思わず声を上げたヒナは、そのテンションのまま《流浪》に呼び掛けます
「ほら、さくちゃん! みなさんですよ! 挨拶! 挨拶!」
ヨーヨーを眺めながら吊り上げてた《流浪》の動きが止まる……そのヨーヨーは青みを残し
た黒をベースに白を分布させ、至る所に銀河っぽい渦の形を作ろうとした感じ……さっきから
これだけを狙い続け何度もこよりが千切れ……やっと吊り上げた直後、浴衣娘たちが現れたね
…… 人間の姿をした、この4名の中に参加者がいるらしい ……そんな情報を昨夜得て以来
ずっと燻ってた《流浪》の戸惑いがここへ来て再発し……振り向く事が出来ない様子してるよ
……《流浪》には何も誤魔化せてない不自然な愛想笑いでさえ無理だから……《流浪》はただ
目の前の宇宙っぽいヨーヨーを見つめ続ける事しか出来ません……そしてヒナの声が更に響く
「さくちゃんってば! もう……そんなに、そのヨーヨーが気に入ったの……? ほら、こっ
ちを向いて……また、みなさんに……会えたんだよ……」
4人の浴衣姿を見て何だか舞い上がってるヒナ……昨夜の事は覚えてるけど、誰にも被害が
無かったし、ヒナの思考を読み取っても、浴衣可愛い、きれい……そんな事しか頭に無いねー
「朔良先輩」
吊り上げたヨーヨーの揺れが収まり始め、《流浪》の背中に《操作》の声が当たる……ヒナ
以外から急に呼び掛けられる事自体慣れてない《流浪》だけど今回は違う意味で動揺……表情
は怯えてて、振り向こうにも身体が動かない感じかな……《操作》の発言が優しい口調で続く
「先日は先輩とも知らずに、年下扱いをして申し訳ございませんでした……それに、突然みん
なに高校二年生だって発表されて、驚かれましたよね……みんなの自分を見る目が急に変わっ
てしまって、どうしたらいいのか、戸惑いますよね……」
不安でいっぱいだった《流浪》の顔が少しそれを忘れる……謝られる何て思いもしなかった
《流浪》が更に狼狽を深め、状況や気持ちの整理どころじゃ無い中……《操作》が続けて発言
「年下扱いされるのがお嫌いでしたら言って下さい、朔良先輩と呼ばせて頂きます。でも久し
ぶりに、あたしたちに会えてビックリして戸惑っているだけなら……こちらを向いて下さい」
《操作》の温かな声に触れて、《流浪》の緊張はほどけて行き……動揺する中で安心感が高
まった反動なのか目から涙がにじみ出て来てる……《操作》はただ穏やかに、発言を重ねます
「今夜は夏祭りで、この後は花火大会だってあるんですよ……朝比奈さんとあたしたちで一緒
に回って……みんなで楽しみませんか?」
ここで《流浪》は振り向き始める……心を覗いてみれば複雑だね……やっぱり挨拶した方が
いいかと迷ってたり、何やら誤解してるけど、どう説明しようとか、説明するにしても上手く
言葉に出来るか不安……でもこうして振り向いてしまったし……そんな事とか考えてて、最早
どんな感情が込められてるのか分からない涙を浮かべながら《操作》の方へ顔を向け、吊り上
げてた宇宙ヨーヨーから手を離し、立ち上がって走り出す《流浪》の口は僅かに動いてて……
「ち……」
せめてこれだけは伝えようと選んだ一言を発し始め、《操作》との距離も次第に狭まり……
「が……う……」
今では懐に飛び込む直前……《流浪》にしては声が大きいけど、そのまま次の言葉が出ます
「の……!」
叫んだと言える声量かは微妙だけど……《流浪》の頭が《操作》の浴衣部分まで辿り着いて
その音が掻き消えるくらいはある感じだね……《操作》は目を丸くするけど、すぐに表情が戻
り、《流浪》は流し始めた涙の勢いが止まらず、《操作》に身を預け静かに泣き出しちゃうよ
「もう……まるで子供みたいですよ……どうしたんですか……? そんなに泣いちゃって……
本当に恥ずかしがり屋さん何ですね……こんな調子じゃ、さくちゃんと呼びたくなってしまう
じゃないですか……? いいんですか、それでも……?」
そんな《流浪》に《操作》は優しい口調と表情で言葉を掛ける……《流浪》がどうしていい
か分からず泣き続けてると、遂には《操作》に頭を撫でられ始め、流浪の思考は更に混乱して
しまう……昨夜の事を言った方がいいのか、年下扱いされるのは嫌いじゃないって最初に言お
うとか、不安な気持ちが全身を駆け巡り続けてて怖いだとか……もう《流浪》の心は収集つき
そうに無いね……それでも《流浪》は何か言おうと口を動かす……泣き続けながらも、懸命に
「わた、し……」
とりあえず、 最近知り合った皆が参加者の可能性があり、自分はそれを殺す立場にある
というのが思考から抜け落ちてる……《流浪》の思考内容は目まぐるしく変わり、今の言葉に
何が続くか、全く予想出来ない荒れ模様……やがて辛うじて《流浪》の口から言葉が出て来る
「私は!」
結局上手く言葉に出来なくて、同じ言葉を続けて言っただけ……《流浪》はただ静かにすす
り泣く声を響かせ、《操作》も《流浪》の頭を撫で続ける事しか出来ずにいた、そんな時……
「さくちゃん」
ヒナが《流浪》にひと声掛けると《流浪》の取り乱し具合はたちまち鎮まり泣き止んで……
ヒナは《流浪》に歩み寄り、いつもと同じ表情で甘さ漂うような声色で《流浪》に呼び掛ける
「行こうよさくちゃん。夏祭りはこれからだよ……?」
やがてヒナの手が《流浪》へ向かって伸びて行き……少し屈んでる《流浪》に、こう言うよ
「みなさんと一緒に……楽しもう?」
普段と変わらないヒナの笑顔を見て《流浪》はすっかり落ち着き……《操作》にもたれ気味
の身体を緩やかに立ち上がらせ、滑らかな動きでヒナの手を取り……恥ずかしさで声が出ない
けど会釈はして……4人だった浴衣姿の女性たちが6人組となり、仲よさそうに歩き始めたね
「じゃあ、さくちゃんと呼んでも大丈夫なんですか?」
「さくちゃんはね……年下扱いされるのが嫌いなわけじゃないの……ただ、年上扱いされるの
も、年下扱いされる事にも、慣れていない……だけなの。だから、さくちゃんは、ね……」
歩きながら会話する中で《操作》が尋ねるや、ヒナはゆったりと甘い調子でそう言いながら
《流浪》の後ろへ回り込むと、その両腕で《流浪》の胴体を優しく包み込み……静かに呟くよ
「こうやって……やさしく、大事に……わたしが包み込んで、あげるんだー……」
「何か……ひなちゃんの背中から天使の羽が、見えるような気がしてきた……」
朧月瑠鳴がそう言った後は屋台で購入した焼き鳥を皆で食べ、やがて19時半になり……早速
花火が、打ち上がらない……ちょっと場所を変えようか……この日の為に呼ばれた凄腕の花火
職人がいるんだけど、方向音痴なのも有名……会場に辿り着けた頃はまだ時間に余裕があり、
そこからは道行く人に声を掛け現場を目指そうとしたけど……その職人が大柄で無骨な外見の
為、誰もが逃げ出し……職人が途方に暮れてると1人の女性が声を掛ける……その女性はここ
へ来る途中で職人の話が聞こえたので詳しく聞き、探すでもなく遭遇出来た女性は職人の手を
引き現場へと案内……手首に怪我する要素が無いほど先端が丸められた棘付きバンドをしてる
この女性は昨夜のハエトリソウ浴衣の女性で、今日も同じ装い……それから職人とこんな会話
「いやー……助かりました。しかも準備のお手伝いまで……多少遅れるだけで済みそうです」
「そんな外見で口調も物腰も柔らかいんですね……現場も欠員と慌しい……あーお構い無く。
そもそも何の予定も無いから祭りに来てるだけなので……にしても、たくさん作りますねー」
職人は仕上がりを妥協せず入念に時間を掛け……20時頃には納得の内容となり、花火大会は
30分ほど遅れて開始……このまま場面を昨夜 やみつき が落下した、あの広場へ移すよ……
花火を見る隠れスポットとして一部で知られてるけど混雑って程じゃない賑わい……さっきの
6人組も来てるけど2人組と合流してて人間は桂眉子、氷室新、朝比奈真白、朧月瑠鳴の4人
…… 参加者 は《潜在》《寄生》《操作》《分裂》《流浪》と5名が勢揃いし、《寄生》は
桂眉子に《寄生》してるから見た感じ浴衣男女が8人で、氷室新は所々に白い模様がある黒み
を帯びた瑠璃紺色の浴衣に漆のように艶やかな光沢の黒塗りの帯を巻いてて、《分裂》は私の
贈った浴衣を着てくれてる……それじゃ花火も始まったし夜空と広場の様子を眺めますか……
「花火って色んな形が、あるんだなぁ……」
「今の花火……何色? 青? 緑? 赤かったようにも見えたけど……」
天高く打ち上がる花火だけでなく低空で様々な方向に線を描いては弾ける花火を幾つも組み
合わせ扇状になる順で打ち上げたり、その煙が花畑に見える事もしばしば……そうかと思えば
大きな花火が上空で盛大に展開されるから、バリエーションは氾濫状態……ここまで出た色だ
けでも赤、青、緑、黄色、白に、オレンジ、ピンク、青紫……これらの色が花火の残した煙を
照らし、空一面を彩って行く……今のは最初青かったのが火花の落下と共に赤くなって消える
直後は緑色だったりと、一発一発が凝ってます……そうして夏の夜の空は色んな表情を見せる
けど、それを眺める者たちの表情も面白いなぁ……顔や浴衣が花火の色で染まる中、《流浪》
の白っぽい浴衣は特に花火の色で染まり易くて髪も淡めの水色だし、何だか闇夜に浮かぶ白い
キャンバスが次々と変わる花火の色で照らされてるみたい……意外と大きい花火の音と湧き立
つ人々の喧騒が混ざり合い、辺りは風が吹き荒れるように騒がしく……《流浪》の浴衣は緩や
かに旗めき、色と形が次々と移ろう……そんな状況下で佇む《流浪》は空の景色をよく観よう
と目を見開き、呆然としながらも飛び込む光景に圧倒されるばかりの表情を露わにし、そんな
顔を花火は様々な色で次々と照らし、《流浪》の顔と身体に鮮やかな彩を与えて行き……やが
て《流浪》は口を動かし花火の音の中に消えてしまいそうな微かな声で……そっと言葉を放つ
「きれい……」
その静かな呟きは鮮やかさを失いながら夜空に溶け込んで行く花火のように……消え失せた
「見たか! 新!! 流石の貴様も今のは驚いたであろう! ……私もだ」
「ほんと……きれいですねー……」
皆が思い思いに花火を眺めて楽しんでるし、もう少し話そうか……今日は ステージ2はね
つき最終日 ……強大なボス やみつき を退けた後は夏の風物詩である花火を満喫するもよ
し、ボスとの交戦中に得た情報で他の 参加者 に何か仕掛けるもよし……昨夜 参加者 が
2名まで減ってれば、この花火を眺めながらゲーム終了という展開だってあったけど……実際
は 参加者5名 が集結し、今だと誰も 参加者 らしい動きを見せずに上空で繰り広げられ
る人間世界のイベントを楽しんでる……あとは各々が帰宅するだけで何も起きないし、次に大
きな花火が上がったらステージ3へ行くね…… ステージ3あかつき の全体の流れを軽く言
うけど ステージ3は月曜の朝6時から次の月曜の朝6時までの1週間 で火曜までは何も起
き無くて 水曜18時から上空にあかつきが出現し零時に消える …… あかつき出現中はかみ
つきを呼び出す赤い渦が発生 …… ステージ1のかみつきに出現予告を付けた 感じだけど
一度に複数出現する場合もあり 参加者だけに反応する白いかみつきも出て来る という情報
は事前に報せるから、ステージ2で特定し損ねた 参加者 を洗い出す機会になるし 金曜か
らあかつきの出現時間が18時から朝6時になる 上に 赤い渦が屋内にも発生 と日曜の18時
から上空に まがつき が出現する頃には 死亡 してる要素も結構あって……そもそも ス
テージ3あかつき最終日まで生存してる参加者へ向け放たれる最終兵器 が まがつき なん
だよねー…… まがつき に至るまでに、どこまで 能力 を温存し、どのような状況を得て
いるか…… 参加者同士で殺し合う のがこのゲームだけど終了間際まで長引いてると、 ま
がつきが現われ全滅 まである……だから昨夜、 やみつき で何名か 死亡 してても展開
としては順調と言えたり……引き続き広場の様子を見て行こうか……今上がった花火は複数で
これまでより一層大きくて鮮やかな花火が立て続けに打ち上げられ、互いの色を損なわない並
びの組み合わせで幾つも乱れ咲き、夜の空を量で圧倒し続ける……歓声は叫びと絶句で二分さ
れ、それでも上空で色が弾け続ける音には及ばない……次の言葉は小声だけど、掻き消えそう
「えっ……すごい……」
少し前までの上空の闇に潜む巨大なものへ一斉砲撃を浴びせるかのような光景が嘘のように
空は黒を取り戻し、静寂が訪れたかと思える間を少しだけ与えた後、一筋の朱色の線が天高く
昇って来て……これが弾けたらステージ3と行こうかな……こうして今までの出来事を 大体
順番通りに実況っぽく 振り返って来たけど……この実況って私がステージ3の最後の所まで
知った上でしていた事は最初の方で前置き済み……そこでちょっと確認したいんだけど……
ステージ3の最後で《流浪》がどういう状況だったか……覚えてる?
朱色の線が弾けたよ……ここで画面が暗転し音だけが響いて場面が切り替わる……って演出
とかいいかもね……それじゃ 移動メッセージ を挟んでステージ3の様子を実況してこうか
「これが月の満ち欠けか……何とも美しいな……名前とやらが決まったぞ、ゲームマスター」




