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最終兵器マガツキ  作者: 竜世界
第四章 ゲームマスター
13/18

朔良望(前編)

 第四章 ゲームマスター


 これで ステージ1で参加者全員死亡 という一番避けたいケースにはならずに済んだ……

そうだねー…… ステージ3の最終兵器 まで行って、そこから更に盛り上がるのがいい展開

かな……あーでも、 ステージ2でゲーム終了 になるケースも過去に何度かあった……何か

しら手を打たないと 生存 出来ないからね、その為の……あぁ、自己紹介が遅れました。

 私は ゲームマスター ……この度 ステージ3あかつき が終了したけど…… 参加者が

2名以下になる のが このゲームの終了条件 ……そして ステージ3終了時 に 生存を

果たした参加者は4名 ……だからゲームを続けるよ……今回のゲームを主催するのは初めて

じゃないけど 全ステージ終了時に全員生存ケース って結構起きそうになる…… このゲー

ムは参加者5名の能力を基に5つの能力を参加者に割り当てる ……変に手を加えずとも全然

違う光景が繰り広げられるから……今回も いつものアレ で行こう……でもその前に、 今

までのステージ を振り返りたいんだ……大体順番通りに、実況っぽく……じゃ、始めようか


 ひとりぼっちで寂しそうにしていた……だから私は声を掛けた。

「ゲームをやるんだけど……参加しない?」



 え? 今の何って? ゲームで次のマップとかに移動する際、専用画面になってメッセージ

が表示されたりしない? それやってた……内容は基本的にゲーム開始前に私がした 参加者

とのやり取り ……これから各ステージでの出来事を順番通り見てくけど、たまに その順番

が大きく飛んだりする から、その時に表示しようかと……どの 参加者とのやり取り かは

曖昧にしてます……その方が雰囲気出るかなーって……さて始めよう、焦点を当てるなら……

この 参加者 がいいね……誰かって? すぐ判るよ……では ステージ1かみつき一日目 


 一日目


 このゲームのスタート地点は 各参加者が事前に設定した内容に応じて生成された家 ……

設定次第では既存の家になる場合もあるけど他のスタート地点にしたい時なら…… この日は

どうしていたか を決める事で選べる……土曜日も平日通り授業のある学校だけど今は放課後

……そんな夕焼けの中を当ても無く歩いてるのは出席番号5番《流浪》……このゲーム内では

朔良望[さくら のぞみ]という名前で 参加 してて……出席番号は ゲームのエントリー

順 ……《流浪》が最後に参加登録してくれたおかげで、このゲームを始める事が出来ました

 そんな《流浪》の姿は高校二年生とは思えない低さの背丈で、水色を淡くした色合いの腰ま

で伸びた長い髪……どんな 人間の姿 にするかは ゲーム開始前 に設定項目から選ぶ事が


出来るんだけど……《流浪》が長い事、悩むもんだから ランダム という項目を薦めて……

事故らないよう 可愛い を選んでおいたけど……一発でこの女性の姿になって……次に名前

を ランダム で サンプル から抽出された性と名を《流浪》が指差しで選んでたりします

 今着てるのは 有明高校[ありあけ こうこう]の セーラー服……ここで同じ制服の人物

が下校から放浪を始めた《流浪》の行く手に現れて……その女性は《流浪》から見なくても背

が高く、 人間形態時の私 よりあって……セーラー服と頬と首筋には新鮮な血糊がベッタリ

……突然、目の前にそんな人物が現れたら皆はどうする? 《流浪》はこの女性に近付き……

「こんばんわ!! えーと、あなたはー……」

 あ、この爽やかな声で挨拶したのは血糊の付いた女性の方で……《流浪》は何の気もなしに

この女性を眺めてるだけ……女性が警戒心を抱いてないとはいえ《流浪》まで無警戒です……

「同じクラスのー……朔良ぁー……望さん……でしたっけ?」

 女性は間延びした声で引き続きそう言った……《流浪》にとっては初対面でも 同じクラス

の生徒である、この女性にとっては面識がある ……このゲームは 有明高校の生徒になって

参加する ……だから クラスメートとはそこそこ顔見知り で……普段は学校生活を楽しん

だりも出来ます……そもそも 朔良望という生徒自体……本当は存在しない んだけどね……

「こんな所で何をされているのですか? わたしは学校から帰る途中!! そろそろ暗くなっ

て来ましたが今日は天気がおかしいですねー……さっきは、にわか雨が降って来て、びっくり


……んー、でも赤い色の付いた雨って……何だか珍しいですね!」

 腰を少し通り過ぎる程に長い、やや濃さの薄いオレンジの髪にまで血痕が及んだ女性の発言

は明るい調子で……この日は 参加者 に かみつき の存在に気付いて貰おうと有明高校の

女子生徒を下半身が残るように 襲わせた けど……その際に勢いよく噴出した血の雨を……

近くを通り掛かった、この女性が浴びて……何だろうと確認した手の平が血で染まったのを見

ると……そのまま気にせず通り過ぎてた……こんな感じで ゲーム内で起きた事なら、いくら

でも辿れます ……それを踏まえて 実況っぽく 振り返ろうかと……今では女性の手の平か

ら指先にかけ血が滴り落ちてて……女性がその手を口元に添え軽い、あくびをすると更に発言

「それにしても服と顔が汚れちゃった……帰ったら、お風呂だなぁ……朔良さんは…… さく

ちゃん でいっか……さくちゃんはどうするのかな?」

 《流浪》は呆然とし、この女性が歩き出すと女性の後を付いて行き……女性が振り返りそれ

に気付くも疑問視する様子も無く歩き続け……何かを思い出したのか、女性は急に立ち止まる

「あ、わたし……朝比奈真白[あさひな ましろ]です!! お家まで、もうちょっとかな」

 家に着くと《流浪》と朝比奈真白はすぐお風呂に入り……湯船では、こんなやり取りが……

「え? なぁに?」

「ぁ……さ……」

「どうしたの? お風呂……熱かった?」


「ひ……な……」

「はい、朝比奈です!! 朝比奈真白です!!」

「ちゃ……ん……」

 えーとね、《流浪》には人間の言葉どころか、このゲーム自体を理解出来るだけの 知能 

がちゃんと備わってるよ……ゲームに 参加 する前からね…… ゲーム開始前の設定 が人

間の姿での性格へ影響を与えないとまでは言わないけど…… 参加者 って要は 人間の姿に

擬態させた だけで 根本的なものは変わらない ……つまり《流浪》は元からこんな性格で

今は一言で済む言葉を、か細い声でやっと出し切って……それを吹き飛ばす叫び声が響き渡る

「ひなちゃん!! ひなちゃんかぁ……朝、比奈だから……ひなちゃん……そっかぁ、わたし

ひなちゃんかぁ……よろしくね、さくちゃん!!」

 《流浪》は顔を赤くし少しだけ顔を背け、また何も言わなくなる……じゃあ私はヒナと呼ぶ

かな……お風呂から上がり、晩御飯は出前という話になってチラシを見始めたヒナと《流浪》

「お寿司? お寿司が食べたいの? さくちゃん……ご飯炊いてるけど……お寿司かぁ……」

 《流浪》がお寿司のチラシに注目してる事に気付きヒナがそう言ったけど……私は ゲーム

マスター …… ゲーム内の全ての存在は私の制御下 ……だから、こんな事だって出来るよ

「あ、誰か来た! 誰ですかぁー……あ、そういえば!!」

 ヒナは宅配を受け取り、中身をテーブルの上に置いて……《流浪》が眺める中、ヒナは叫ぶ


「 海鮮トッピングセット !! 懸賞で当たってたの忘れてた……たしかぁ……二等賞?」

 忘れてたんじゃなくてヒナはこんな懸賞、応募してません……さっきの配達員と宅配トラッ

クは 私が生成 ……出現させたもので、ヒナが扉を閉めるや消滅したよ……獲れたて新鮮な

数々の海産物が詰まった 海鮮トッピングセット を残してね……目の前の食卓に突然、出現

させるより、こっちの方が自然でしょ? あとは ヒナが応募してた事にして しまえばいい

…… ステージ3あかつき日曜 の話になるけど、あの時も新鮮な鶏肉と卵を出現させたなぁ

……それも 日本全国の食卓を親子丼で埋めてみない会 という怪しい団体からの贈物という

名目で……さて、ヒナが中身を取り出し《流浪》が覗き込み始めた事だし、話を戻そうか……

アツアツの白いご飯があるなら、とびっきり新鮮な海産物を乗せて、 この世界を堪能 して

欲しかったんだよね……だってこのゲーム、 いつ死ぬか分かんない ……これが最後の晩餐

にも成り得るし ゲーム内の死は実際の死 …… 死亡した参加者の命が3つ以上集まらない

と報酬が生み出せない んだよねー……だから 命が3つ揃うまで 、このゲームは続く……

「さくちゃん? それが気になるの? それはねー、塩辛って言うの……食べるのは初めてか

な? え? おかわり? 気に入ったの? ご飯たくさん炊いだから、どんどん食べて……」

 ヒナと《流浪》はウニ、イクラ、塩辛、明太子……などを一通り食べ……《流浪》は塩辛を

重点的に食べてたけど、まだまだある……残りは明日と言う話になったそんな時、ヒナが言う

「デザートが食べたいけど……バニラ味のカップアイスしかないなー……あ、さくちゃん……


そんなに慌てて一気に食べなくてもいいのに……ゆっくり、落ち着いて……食べようよ……」

 食後のデザートを終え、ヒナと《流浪》はパジャマに着替える……前述の通り、2人は同じ

クラスでありながら背丈がまるで違う……だから私はクローゼットの中に 《流浪》にぴった

りのパジャマがあった事にしようとした ……手始めにクローゼットの中身を確認したものの

「さくちゃん……そのパジャマ似合ってる……可愛い!! サイズも丁度よさそう!!」

 クローゼットの中身を変える必要なんて無かった……ヒナは……朝比奈真白は…… 事前に

子供用のパジャマを用意していた ……クローゼットの中は自分の服よりも ヒナが着られる

はずの無い、子供用の服の方が多かった ……まるで 子供を連れ込む事を想定 してたかの

ように……ヒナに妹はいないよ、ヒナは一人暮らしだよ……しかも自分の服より子供の服の方

がデザインが凝ってて、全て女性用……そんな居もしない子供の為に用意された服が……大き

なクローゼットの中に夥しくも整然と並んでます……着たパジャマのデザインを説明しようか

 ヒナは淡い黄緑の上下パジャマ……襟や袖、裾の部分は濃いめの青緑。《流浪》の方は……

力強い黒さを放ち上品な色合いが何とも見事な藍色……繊細なデザインのフリルの白が目立ち

コウモリを象った黄緑色のマークが隙間の多い水玉模様のように分布し、重厚な深紅を湛えた

バラのようなリボンが手首と背中を結ぶ……背中のリボンはかなり大きかったけど流石に今は

解かれてる……ドレスのようなワンピースでパジャマと呼ぶには厚手だなぁ……何はともあれ

「おやすみ……さくちゃん……」


 ドレス姿になった《流浪》の寝顔に目をやりながらヒナがそう呟くと……その腕の中に、ぬ

いぐるみを抱くかのように《流浪》を抱え込み……やがて眠りへと落ちて行き、この日は終了


 三日目


 二日目は かみつき が7匹発生するけど ステージ1のかみつきは参加者の拠点には発生

しない ……だからずっと家で過ごしてた昨日は特に何も起きなかったし月曜である三日目の

……あ、 拠点 って 参加者のスタート地点として用意された家 の事だけど……もうヒナ

の家を《流浪》の拠点と見なしてます…… ゲームの協力者や人間世界を楽しむ為の伴侶 を

早い段階で見付けておくのも手だし、その人間をどう扱うかは 参加者次第 …… 有明高校

の生徒となり参加者を探し当て殺し合う のが、このゲームで ステージは3つまで だけど

案外長丁場……息抜きって大事だし 普段とは違う世界で過ごしてる んだ……それを楽しむ

気になったのなら、私はサポートを惜しまないよ…… ゲームの結果に影響しない範囲 でね

 それと私はヒナの思考内容を即座に読み取る事が出来るし 考えてる内容を書き換える 事

も出来るよ……例えば 《流浪》を殺すよう仕向ける 事だってね…… 参加者が人間である

間は、ただの人間 ……死に至らしめる状況なんて、いくらでも作れる……でもこれは 参加

者同士で殺し合いをするゲーム …… 参加者の命を奪うのは参加者 であって ゲームマス


ター である私じゃない……さて、ヒナと《流浪》は有明高校を目指し登校中だね……ちなみ

に 参加者 の考えも読み取れるけど…… 参加者の思考や記憶の改ざん は…… 余程の事

が無い限り出来ない と言っておくかな……じゃ、《流浪》の思考内容を読み取ってみますか

「まだ……眠い、かも……いい天気……朝ごはんはトースト……今日は学校……あったかーい

……アイスも食べた……美味しかったなぁ……昨夜はケーキ食べた……ちょっと眩しい……」

 とまぁ《流浪》はいつも、頭の中がこんな感じだねー……あれやこれやと思考がフラフラし

てて……そんな風にぼんやりとヒナの隣を歩き続け……学校に着くと教室内では、こんな話題

「この流出画像凄いねー……切断面がバッチリ見えてる……」

「腰から上が無くてネットでは大きなハサミでバツンだ何てテキトー言われてるけどさー……

ハサミじゃこんな断面にならないでしょ……にしても内の学校の生徒かぁ……」

「校門前で待ち伏せしてたマスコミうざかったなー……下校時間にまた集まりそうだし……」

 あ、ヒナと《流浪》はこの話に加わって無いから他の生徒がしてた会話です……昼休みにな

るとヒナは熱湯を調達しカップ麺2つにお湯を注ぎ、《流浪》と一緒に食べてたけど……この

カップ麺は安物じゃなくてコンビニで一番高いもの……こういったカップ麺が家にいくつもあ

るヒナは一人暮らしを続けてたものの、実家はかなり裕福という事だね……さて、《流浪》は

舞い上がる湯気に驚きながらも麺を口に運ぶけど、熱さの余り割り箸を取り落としそうになり

……やがてヒナが《流浪》の麺に息を吹きかけ食べさせてました……放課後はマスコミに声を


掛けられたけど、すり抜けるように通り過ぎ……《流浪》とヒナが何の会話もせず黙々と家を

目指す中、突然《流浪》の顔が横を向いたまま動かなくなる……少し前の思考内容も加えるね

「学校、騒がしかったなぁ……麺、熱かった……長くて、キラキラぁー……あ、眩しい……」

 赤と青が混ざり合う夕暮れ時の空の下、朧気な顔で佇む《流浪》……やがてヒナが振り返る

「どうしたの? さくちゃん……」

 ヒナがそう声を掛け、《流浪》の視線を追うと……1枚の大きな羽根が地面に落ちてるけど

《流浪》の目線だと羽根の表面には夕陽がほどよい強さで映り込み……その何とも微妙な眩し

さに見惚れてます……この羽根は作り物だけど、光沢が強く手触りのいい上質な素材で、服や

帽子に付いてるのが取れた感じ……今日の出来事はこれくらいだね……じゃ、四日目行こうか


 四日目


 学校での出来事に触れて終わりだけどね…… かみつき の餌食になる人間が増え始め、今

日は《流浪》と同じクラスの男子……玉宮涼[たまみや りょう]が行方不明という報せに生

徒たちは動揺を露わに教室の中で喧騒を繰り広げる……下半身が残るよう かみつき の消滅

を早めたりしてたけど、生徒たちには同じ手口で殺されたように見えるから 連続殺人事件 

何て言葉が飛び交う……これくらい騒ぎになれば 参加者 たちも、 かみつき の存在を意


識し始めるかな…… ステージ1開始前のメッセージ には具体的な情報がないので、 かみ

つき の情報を集め備えたい……でも露骨に情報を集めて回れば 参加者 だと疑われちゃう

「 連続殺人事件 だって、さくちゃん……」

 そんな教室でヒナが呟く。傍には《流浪》がいて何も言わず、ヒナの方を見つめるだけ……

「そうだなぁー……殺されるんだったら……」

 引き続きヒナが、ぼんやりとそんな言葉……少し間があり、何かを思い付いた様子でヒナの

口が再び動き始め……まとわり付くような甘い声を普段よりも強め、独り言のように声を放つ

「わたしは……さくちゃんに……殺されたいなぁ」

 ヒナはそう言うと《流浪》の方を振り向き、目が合ったので優しく微笑む……《流浪》もヒ

ナを見つめ続け……教室の喧騒が激しさを増す中、《流浪》とヒナだけは穏やかに過ごしてた


 あと4名集めればゲームが出来る時、声を掛けた相手は……なかなか恐ろしい姿をしていた


 土曜日


「めいちゃんおやすみー……あさりのチーズリゾット、美味しかったよー」

  ステージ1かみつき五日目は水曜 だけど、寄り道です……ここは ステージ3あかつき


土曜 の屋敷の中……時刻は朝9時、朧月瑠鳴[おぼろづき るな]と出席番号3番《操作》

……玉宮明[たまみや めい]がベッドの中で休息を取り始めた頃……さて、 このゲームに

おける《流浪》の能力 は、 行った事のある場所を指定し瞬時に移動出来る …… 能力 

は 他の能力を弱化すれば強化が可能 で…… 本来の能力をゲーム用にアレンジ したもの

……《流浪》は一番手を加えたなー……そんな《流浪》は 弱化 すると視認出来た範囲内で

しか移動出来なくなるけど、その範囲の具体的な距離……実は規定してない…… 能力 って

ピンチの時に発動するものだし、発動出来るか出来ないかで生死が分かれる土壇場で使用を試

みて判定が際どかった場合、大抵は発動許しちゃいます……具体的な数値を設定すると、そう

いう融通が利かないから曖昧にする事って多い……《流浪》は 自分以外のものも移動対象に

出来 て、 自分が常時着用してるもの以外は重量に応じ発動までの時間が延びる ……こう

いう 能力 にしとけば、秒単位の猶予しか無い状況下で発動が間に合った時、いい感じ……

《流浪》は時間回復制だけど 他の能力は回数制 だから、使うべき局面まで温存出来るかの

やり繰りも要求される……それと 《流浪》の再発動までの時間は移動した距離に応じて増え

る けど、《流浪》を 強化 すれば重量時間を省略し再使用までの時間を半減するかが選べ

…… 過去への移動 が可能になります……過去ってまさに 行った事のある場所 だよねー

 結局、過去へ行こうと思って《流浪》が使われたのは2回で、その2回とも《操作》が決行

「 能力 《流浪》の発動開始。遡行時間は244時間、活動時間は24時間……終了後に戻る


場所は現在位置を指定……更に 他の全能力使用不可能ペナルティー を選択し発動終了後の

《流浪》の使用不可能時間を半減……これより指定した時間と場所に移動する!」

 これは ステージ1かみつき の終了間際に《操作》が発言してた内容で、この時が1回目

……つまり重量時間の省略、再使用時間の半減方法は 他の能力全てを使用不能時間の対象に

する 事……この場合、十日目の午前6時直前から二日目の午前2時までの移動距離220時

間と活動時間の24時間を合わせた時間が 移動距離 で……半減指定しても 他の能力 の再

使用が可能になるのは244時間後、122時間で回復するのは《流浪》だけ……それと 過

去で行動している間は《流浪》の発動状態 ……このゲームでは 能力の発動中は他の能力が

使えません ……だから大きく戻らず少し前に戻るのも手……ちなみに《流浪》の使用不能時

間の最小単位は 10メートル毎に10秒、10メートル未満でも10秒 で、これも5秒に半減が

可能だし 過去に戻る場合は移動距離の時間は免除 されます…… 過去に自分がいた時間 

に 過去に一度自分が行った場所を指定 する感じだし、過去の自分がいる場所とは違う場所

に未来の自分が出現するのって格好いい。まぁ、デメリットもあるけどね……話を進めようか

 ここは ステージ3あかつき土曜 の朝の9時過ぎ……朧月瑠鳴と《操作》が屋敷のベッド

で仮眠を取る中……一度閉じられた部屋の扉が開き、出席番号4番《分裂》……鶴木駆[つる

ぎ かける]が入って来て、その手には拳銃……でも《操作》には想定済みだったので、その

まま寝た振りし、《分裂》が程よく近付いたところで……少しはみ出てた通信機器のアラーム


が大音量で鳴り響く……アラームの中でも特に騒がしいヤツで、《分裂》が思わず声を上げる

「なっ……!!」

 既に《操作》は通信機器から手を離したけど意図的に鳴らしてました……さて、ここで……

「んー……もう朝ー? あれ、めいちゃんがいる? 鶴木さんも……あぁ、そうか……」

 《操作》の隣で寝てた朧月瑠鳴が目を覚まし、最初は眠そうな声で、そう言ってたのが最後

は語気と表情を少し強め、起き上がると《操作》の背後へ回り込み……やがて《操作》が言う

「おはようございます、鶴木さん……先日は素敵な銃弾をありがとうございます……あれから

傷は癒えませんし、痛みも治まらなくて……そのせいですかね、全然眠れなかったのは……」

 今は ステージ3あかつき 土曜の9時頃の出来事を 最初から やってて……《操作》が

《分裂》に命を狙われた事は朧月瑠鳴も知ってる状況……面を喰らいながらも《分裂》が発言

「あの距離では心臓を射抜く事は叶わなかったか……だがその身に風穴は開いていたのだな」

 ベッドの傍で胸の辺りを押さえる《操作》へ向け、《分裂》がそう言って……朧月瑠鳴の顔

は《操作》が本当に怪我してるのだと思い始め動揺が色濃い……そして《操作》の口から……

「参ったなぁ……寝込みを襲われる何て思ってませんでしたよ……しかも 制服 の下は薄着

だし……この枕で直撃を和らげるのは……無理ですかね」

 《操作》は弱々しそうな声でそう言いながらベッドにあった大きめの枕を取り上げ、胴体を

防護するように抱え始め……朧月瑠鳴が不安気に《操作》に問い掛けるや、《操作》が答える


「めいちゃん!! やっぱり……大怪我、してたの……?」

「色々ごめんね朧月さん……ねぇ、鶴木さん。その銃であたしの胴体を貫いたら……朧月さん

に説明してくれますか? 朧月さんにまで危害を加える必要なんて……無いですよね?」

 《操作》の息遣いは少し荒い感じに聞こえて……それに満足した様子で《分裂》が言います

「そうだな……説明には労力を要するであろうが……朧月の命は保証しよう」

 それを聞いて《操作》は表情を和らげ……こう告げる。

「ありがとうございます……じゃあ、ひと思いに心臓をしっかりと狙ってください……最後に

質問に答えて頂けると嬉しいのですが」

「……言ってみろ」

 僅かな間があって《分裂》がそう言うと、動揺する朧月瑠鳴を他所に《操作》がこんな質問

「あなたは……《潜在》ですか?」

 思わぬ質問だったのか《分裂》は少しの間、驚いた表情をして……やがて呟くように答える

「違う……とだけ、言っておこう……」

 そして《分裂》は枕を盾にした《操作》の胴体目掛けて、拳銃の引き金を引くんだけど……

これってさ、《分裂》が《操作》の胴体を拳銃で狙うよう 操作 されたとも言える状況だよ

ねー。防弾ベストを着てれば、ある程度離れた距離から撃たれても必ず防弾ベストに当たるけ

ど、この距離だと頭を狙えば普通に当たります……あと、《操作》は薄着と言ってたけど……


着てるよ、防弾ベスト…… ステージ3あかつき では 有明高校の制服の着用 を推奨……

本来なら、かさばる防弾ベストも 制服 の下に着れば薄いシャツ同然の着心地になり、外見

では防弾ベスト着てるか判らないからハッタリとかに使える……本当に防弾ベスト着てなかっ

たら、この枕じゃ銃弾の威力は大して変わらない……さて、銃弾はまんまと《操作》の胴体に

命中……してません。この銃口の向きだと心臓に当たるよ……でも、響いたのは朧月瑠鳴の声

「めいちゃん!!」

 朧月瑠鳴が目を閉じ痛々しい声を上げるも、部屋全体に響き渡るはずの銃声は聞こえません

「な……に……?」

 呆然とした声で引き金を何度も引く《分裂》……でもその度に音がカチカチ出るだけで……

「ま、弾はさっき抜いといたんですがね」

 その様子を見た《操作》が得意気な顔で言い放つ……少し前は当惑気味な表情をしてたけど

「き、貴様……いつの間に!!」

 《分裂》が怒りに任せた言葉を浴びせてると……何者かが扉を軽く叩く音が部屋の中に響く

「んー、何か大きな音が聞こえて起きちゃった……でもまだ寝てたら起こしちゃうし……さっ

さと中の様子を確認した方が……だけど聞き間違いだったら……うーん、迷う……」

 扉越しに聞こえて来たのは、女性の……桂眉子[かつら まゆこ]の声……《操作》が提言

「どうしますか? 鶴木さん。襲撃は失敗……この場は、 あの能力 で去られた方が……」


 《分裂》に《流浪》を使うよう促し、扉を開く音が聞こえた頃には《分裂》は姿を消し……

「邪魔が入ったな……次こそは仕留めてくれよう」

 そう言い残してた……さて、何も知らない朧月瑠鳴が呆然とする中、《操作》が発言します

「とりあえず今は眠って……気持ちを落ち着かせよう朧月さん……詳しい話は後でするから」

「え? あ、うん……」

 朧月瑠鳴が《操作》の声に気付き返事して……桂眉子が傍まで来たのを見て《操作》が言う

「桂さん。起こしちゃって、ごめんなさい……通信機器のアラーム設定、思いっきり間違えた

……朧月さんも起きちゃったけど、もう少しで寝かし付けれそう……あたしも寝直さなきゃ」

「大きな音がする夢を見てただけかなと思ってたけど……やっぱり鳴ってたんだなぁ……お互

い疲れてるみたいだねー……しっかり休んでおこっか、玉宮さん……では、お邪魔しました」

 今では《操作》も朧月瑠鳴も何事も無かったかのようにベッドの中にいて、朧月瑠鳴は布団

の中で眠気を強めて行くばかり……桂眉子が平然とした表情で発言を終えると《操作》の言葉

「桂さん、おやすみなさい」

「んー、おやすみぃー……まゆちゃん……」

 《操作》の発言に続き朧月瑠鳴が眠そうな声……桂眉子が部屋を出ようと扉に手を掛ける際

「あ、そうそう玉宮さん」

 突然、桂眉子が振り返りそう言って、そのまま言葉が続く……


「あさりのチーズリゾット、凄く美味しかったよ……ごちそうさま」

 桂眉子が部屋から去り朧月瑠鳴が寝静まる中、《操作》が考え事を開始……読み取ってみる

「通信機器のアラーム音と鶴木さんの銃声で桂さんが駆け付けるとは思ってた……でも拳銃に

弾が入ってなかった何て……鶴木さんは《潜在》じゃない……だとしても、まだ情報不足……

せめて鶴木さんの 本来の能力 が判れば……次に鶴木さんに会った時、嘘を吐けない状況を

作り、それを聞き出すには……」

 《操作》は鶴木駆が《分裂》である事を知らない……自分の隣で静かに寝息を立ててる朧月

瑠鳴が 参加者 かどうかさえ、判ってない状況……そんな朧月瑠鳴に《操作》は目を向ける

「一番の失敗は朧月さんに説明する方向になった事……休憩が終わって目が覚めたら説明かぁ

……朧月さんは巻き込みたくなかったのに……」

 その後も《操作》の思索は続き……辿り着いたのは、ある選択肢。

「そうだ、 この手 がある……鶴木さんの 本来の能力 を効率的に聞き出せ、朧月さんに

説明する必要がなくなる、そんな方法が……でも、 前提 がある……この 前提 が成立す

るのかどうか……マスターに聞いてみよう」

 ここで《操作》は メニュー画面 で私宛にメッセージを送信…… メニュー画面は参加者

の視界に出現させる事の出来る情報ウィンドウ ……ボタンひとつでステータスとか所持アイ

テムとかの情報を呼び出せるゲームがあるけど、あんな感じ……メッセージを受け取った私が


その前提で問題なしと回答すると《操作》はすっかり寝入ってる朧月瑠鳴の顔を一瞥し、部屋

を出ると少し離れた先にある部屋の中へ……この屋敷の住人は全滅してて、この部屋の扉には

血痕が派手に付着し中はもっと酷い……そんな血だらけの場所まで来た《操作》が行動を開始

「 能力 《流浪》の発動開始。遡行時間は6時間、終了後に戻る場所は現在位置を指定……

更に 他の全能力使用不可能ペナルティー を選択し、《流浪》の使用不可能時間を半減……

これより指定した時間と場所に移動する!」

 実際には無言での発動……まだ午前11時じゃないし、指定時刻も今朝の6時過ぎ何だよねー

……とにかく《操作》は《流浪》を発動し、過去へと戻ります……あ、大きな時間移動なので


 鳥も熱帯魚もカラフルだけど、突然現れたのは……その両方を混ぜ半透明にした感じの姿形


 金曜日


 せっかくだし《操作》が移動して来る少し前…… ステージ3あかつき 金曜29時頃の話を

……土曜日の5時頃でもいいんだけど、このゲームは朝6時から始まり、 あかつき は木曜

までは零時、金曜からは朝6時に消滅……だから6時になるまで金曜と考えた方が区切りがい

いんだよね……となると今起きた出来事って、それこそ土曜を迎えられなかった事になるかな


「うおっぉおぉおおおお!!! 出やがっ……」

 屋敷の一室で響き渡るのは氷室新[ひむろ あらた]の叫び声…… かみつき を警戒して

たけど……こんな時間に1人で何もせず眠気を抑えるのは意外と大変で居眠りしちゃった矢先

赤い渦が発生……すぐに かみつき が現れ、気付いた頃には大声を上げるのがやっとの状況

……身体を丸ごと食べられると、悲鳴を聞いた《分裂》が駆け付け、その目に映る光景は……

「新……?」

 《分裂》は氷室新と仲良くしてたなぁ……《分裂》が唖然とした表情で声を放った時は、ま

だ氷室新の形が かみつき の口の中に残ってて、その形も随分と崩れてきた頃、大声で……

「新ぁあぁああぁあぁあああああ!!!!」

 《分裂》の叫びは結構長く、その間に《分裂》が鍵も掛けずに飛び出した部屋へ忍び込んだ

人物が出て来て手頃な場所に隠れる……すぐ出られるよう部屋の鍵は掛けないでおこうと提案

したのも、この人物で、《分裂》が ステージ3あかつきの水曜18時頃に使った拳銃 を見付

け出し ダミーの拳銃 と入れ替えてた……さて《分裂》は かみつき を閉じ込める為、部

屋の扉を閉め、事態を知らせるべく駆け出すと朧月瑠鳴と遭遇……会話中にその人物が近付く

「空が赤いのも、大分落ち着いてきたのに……最後まで油断できないねー」

 涼しい声と顔でそう言ったのは桂眉子……そんなわけで、さっきと言うのも完全におかしい

けど拳銃の弾は抜き取られたんじゃなくて、ここで ダミーと擦り替えられてました ……あ


と ステージ3開始前 までは銃火器、薬品、劇物とか通販で購入出来て、 銃などのミリタ

リーものは、それに対応したダミーもある …… ダミーは本物と外見、内部構造、重量が完

全に同じ ……というか 引き金を引いても発射しない 、 安全ピン抜いても爆発しない 

……そんな感じで 本物から攻撃性能を削除したのがダミー だから、事前に目印付けとかな

いと、 擦り替えられても判別は不可能 かな……余裕のある状況なら メニュー画面 で私

に 鑑定 の申請すれば教えるけど…… ステージ3の桂眉子 に限り、全て《寄生》と言え

るんだよね……《寄生》は 桂眉子に寄生してる状態 でゲームを始め、この状態は《寄生》

の 脱出 で 能力を消費すれば、その場で解除出来る し、 ステージ2はねつき開始前 

に 脱出 の現場を目撃される事無く解除した状態で始める事も出来た……アクションゲーム

には一定ダメージになるまで搭乗出来て従来の行動が出来ない乗り物があるけど、《寄生》中

は 能力の発動状態 …… 他の能力は使えない から似てるね……《寄生》を長く続けても

ボーナスとか無いのに ステージ3 になっても、その乗り物を維持してるのが《寄生》です

 以上の事から ステージ3あかつきの桂眉子は《寄生》と呼ぶ けど……6時過ぎになった

今は土曜日……《操作》が朧月瑠鳴から受け取ったメッセージと画像で屋敷の位置を把握し、

朧月瑠鳴の傍に居た《分裂》との通話を終えた《操作》の目の前に、 さっきの《操作》 が

現れる……こっちは、この話が終わるまで玉宮と呼ぼうか……さて、両者互いに目が合い……

「おはようございます……未来のあたし」


「おはよう。過去のあたし……」

 既に玉宮は ステージ1 の時に二日目の自分と会ってる、だから……過去の玉宮、でいい

か……過去の玉宮は当然のような表情で玉宮と挨拶を交わします……そして作戦会議が始まる

「……じゃあ料理を作ったら、あなたと入れ替われば、いいんですね?」

「これから自分が何をやるか分かってるので、要所だけ伝えれば打ち合わせ完了なのラクです

ねー……あさりの貝殻は袋の中に詰めといて下さいませ……」

 全く同じ外見のピンクのツインテールの女子高生が道端で自分相手に敬語を使う光景が繰り

広げられ、 能力 の使えない玉宮の手を過去の玉宮が取ると《流浪》で屋敷から少し離れた

場所へ移動……過去の玉宮が朧月瑠鳴と再会してる間、玉宮は目立たない場所で待機……過去

の玉宮が屋敷へ入ると、やがて《寄生》に冷蔵庫まで案内され……朧月瑠鳴の前でこんな発言

「ねぇ、朧月さん。この中に、あさりが入っていたら、いいと思わない? あさりが入ってる

といいのになー……そう思いながら、冷凍庫を開けてごらん」

 というわけで私は再び、冷凍スペースの中に新鮮で下拵えも済ませた、あさりを出現させる

……あさりは《操作》にとって ステージ2はねつき最終日の晩 に調達出来なかった無念の

食材だからねー……こういう要望ならゲームの結果に影響しないし、どんどん応えちゃう……

赤い渦から出て来た、 かみつき たちで周囲の人間たちは全滅同然……でもライフラインは

万全どころか高水準にしてる…… 人間世界の食 は常に贅沢な気分転換であって欲しくてさ


「めいちゃんおやすみー……あさりのチーズリゾット、美味しかったよー」

 料理を食べ終えると、玉宮と朧月瑠鳴は《寄生》に屋敷の主人が使ってた寝室へ案内される

……調理したのは過去の玉宮でキッチンワゴンで料理を最後に運んだのが玉宮……朧月瑠鳴を

先に食堂へ行かせた際に入れ替わってたんだけど……落ち合った時、こんなやり取りしてたよ

「調理お疲れ様です」

「味噌汁の時は残念な結果にならなくて、よかったですねー」

「でも、あさりが手に入らなかったのが心残りで……」

「だから今回チーズリゾットでリベンジ……ここの食材はいいものばかりでテンション上がっ

ちゃうなぁ……じゃあ、あたしは先に寝室に行って隠れてますね……そっちもお疲れ様です」

 さて、寝室のベッドの中にいるのは玉宮と朧月瑠鳴……過去の玉宮が料理してる間、玉宮は

部屋の中で物影を作ってたけど……早速そこに過去の玉宮が身を潜めてます……場所さえ判れ

ば全ての部屋の鍵は初日の内に手分けして開放済みで、鍵は掛けないという取り決め……その

時に使った鍵は全て《寄生》が回収してる……その《寄生》が様子を見に来る中、玉宮が発言

「時刻は……まだ9時になっていません……っと。おやすみ、朧月さん……今日はお疲れ様」

「私も寝るかな。今晩も赤い渦は発生するだろうし、身体の疲れを取って備えておきたいし」

 《寄生》はそう言うと部屋を去り、朧月瑠鳴は眠り始め……やがて部屋の扉が開き《分裂》

が入って来て……顔の見える朧月瑠鳴に対し布団を顔まで被ってる玉宮に《分裂》が銃口を向


けた次の瞬間、過去の玉宮が《流浪》を発動……《分裂》の腕を掴み、実に高らかな声で……

「はい。ストーップ」

 《分裂》は突然、銃を持ってる腕が掴まれた事に戸惑いながら、過去の玉宮にこう言い放つ

「貴様は……玉宮! では、この中にいるのは……!!」

 《分裂》は中に玉宮がいるはずの布団を引き剥がす……漫画とかなら、大きなぬいぐるみや

木などが出て来る場面だけど、身代わりどころか玉宮がそのまま入ってるんだよねー……自分

の隣には玉宮がいるのに……傍から見ると 分身の術 ……やたらと元気な声で玉宮がご挨拶

「やっほー。鶴木さん、お元気ー?」

「貴様! いつの間に……!?」

 《分裂》がそう叫びながら後ろを振り向くけど……隣にいるのは過去の玉宮で、おどけてる

「え? あたしはここから、一歩も動いてませんが?」

「あたしも、さっきから朧月さんの隣で、ずっと寝てましたよ?」

 玉宮が続けて、そう発言……しばらく困惑してた《分裂》が、冷静に口を動かし始める……

「なるほど。この部屋の中に、玉宮明が2人いるわけか……」

「あれ? 鶴木さん、ちっとも驚いてくれませんね……驚いた表情、楽しみでしたのに……」

「せっかく、 能力 まで使ったのに……ショックですよー」

 朧月瑠鳴の布団を掛け直した玉宮に続き過去の玉宮が発言……このゲームで 同じ参加者が


複数いる状況 っておかしな事じゃない……しかも《分裂》は その状況を可能にする能力の

持ち主 ……そりゃ驚かないよねー……やがて会話が始まり、最初に《分裂》が切り出す……

「 その能力 で私の腰を抜かす算段だったのか? だが、それも徒労に終わったようだな」

「さて、あたしの寝込みを襲って、そのまま命を奪う……そんな、お考えだったようですが」

「こうして、あたしたちに阻止されてしまったわけです……この後どうするの、鶴木さん?」

「2対1で優位に立ったつもりか? だが、 その能力 は、 発動時の使用者の状態がその

まま複製され、どちらかを本体として選択 し……そして、 もう片方は能力の使用が不可能

 になる……過日の銃撃で手負いの貴様が、 その能力 を使ったところで……立っているの

が関の山の身体を……もう1体増やしたに過ぎぬわ! とんだ下策を打ったな……玉宮明!」

 ここらで《分裂》の説明と行こう…… 発動時点の自分を複製し分身を生み出す能力 で、

その 分身は本体同様動かす事が出来、分身と本体の知覚などの情報は互いに常時伝達 ……

ゲームで例えるなら 2人のプレイヤーを1人で2画面操作 する感じ…… 分身がステージ

終了まで生存した場合、次のステージに持ち越すか選べ 、変装したり整形手術で外見を変え

たり出来て……この世界には性転換手術もあるから性別の変更も可能だね…… ステージとス

テージの間にはかなりの期間がある という事にしてるし…… 《分裂》は通常で1回、強化

で2回、弱化で0回 ……つまり《分裂》自体が使えなくなる…… 能力 の発動により維持

されてる 分身は能力が使用出来ません ……分身は本体と独立して 能力 を発動してる扱


いなので 本体は普段通り能力を使える よ……会話が続いてて、更に説明が出来そうだねー

「そうは言っても、鶴木さん……あなた、どちらが本体か……判ってるんですか?」

「姿形は完全に同じ……見た目で判断するのは、無理ですよね?」

「そんな事……この引き金を引けば、まさに 一発で分かる 事よ! 本体では無い方を狙え

ば、 能力 を持たぬが故に回避する事叶わず、そのまま撃たれ…… その片方はその場で消

滅 し、残った方が本体だ……本体を狙い、見事その 本体が死亡した場合は、もう片方が本

体になる が…… あの能力 で回避する事は必至か……それでも2発目の銃弾が、本体であ

る貴様を狙う……それに変わりは無い!」

 そう、 分身は本体と同じ死亡条件を満たせば発動終了となり消滅する …… 本体が死亡

で分身が残った場合も《分裂》の発動は終了し、分身が本体になる よ……玉宮のように 弱

化 すれば1回も使えない《分裂》だけど、 死亡の回避が可能 な事を考えれば妥当な設定

……分身を整形してれば、 整形した方が本体になる 場合もあるねー……説明を続けようか

 過去での行動中、目の前で過去の自分が死んだ場合、自分はどうなるのか……過去の自分と

会った段階でアウトって話もあるけど、ここはゲームの世界……どんな事態になってもゲーム

の進行に支障が出ないようにするのが私、 ゲームマスター の務め……《流浪》は 行った

事のある場所を指定し一瞬でその場所に移動出来る能力 ……これを拡大解釈し過去への移動

を可能にしてるかというと、ちょっと違うなー……このゲームには《潜在》《寄生》《操作》


《分裂》《流浪》の 5つの能力 があって、 全て私がゲーム用にカスタマイズした能力 

……だから ゲームの能力は本来の能力と内容が違う ……そう、 強化 した《流浪》が過

去への移動が可能なのは行った事のある場所へ移動出来る延長じゃない…… 本来の《流浪》

が過去へ移動出来る能力 だからだよ……こんなに 本来の能力 に手を加えたのは《流浪》

くらいかなー……《潜在》と《分裂》何て回数制限が無ければ、そのままも同然……そもそも

《流浪》の 本来の能力 って過去だけじゃなく 未来へも行ける んだよね…… 参加者 

が4名揃った時点では移動系の 能力 が無くて、そこに現れたのが《流浪》……でも 参加

者5名が個別に未来と過去に移動出来る事になる能力の導入 はゲームの進行を管理出来る気

しないから 強化すれば過去にも行ける能力 に留めました……5名全員に使われる覚悟でね

 じゃあ、 この状況で過去の玉宮が殺された場合、玉宮はどうなるのか ……未来から来た

玉宮が殺されても過去の玉宮への影響は無いし、話すなら過去の玉宮が 死亡 した場合だね

……このゲームでは 死亡は何よりも優先される事態 ……玉宮が 死亡 し、これまで玉宮

に殺された 参加者 がいた場合、 死亡数が最大になるケースが選ばれます ……玉宮が殺

した 参加者 っていないけど……《流浪》で過去に戻ってる間は 能力の発動中 ……そし

て 《流浪》の発動者が死亡しない限り、古い過去は新しい過去の出来事に従い上書きされて

行き、事前に指定した発動時間が終わるまで上書きが続く ……発動時間を使い切らなくても

途中で発動を打ち切り、 発動前の時間と場所に帰還 する事が出来て、打ち切りの取り消し


は出来ないけど残り時間以降の光景を眺める事も可能……この時って《潜在》発動時の処理を

流用してたりします……で、過去にいる間に 死亡 すると《流浪》の発動は終了し、発動者

は元いた場所に 送還 ……傍から見れば《流浪》の発動直後に突然死したように見えるかな

……ちなみに 帰還 する際は、元の場所に戻るか現時点の位置を保持して戻るかが選べるよ

「この際だ、玉宮よ……ひとつ聞かせて貰おう。貴様は…… 何だ ? 玉宮明。貴様の 本

来の能力 ……それを、問おうではないか!」

 そろそろ先へ進もう。《分裂》が質問を浴びせると玉宮は答え、過去の玉宮がその後に続く

「見ての通り……《分裂》ですよ?」

「それを 1回分消費 して、こうなったんですよねー……んー、無駄使いだったかな……」

 このゲームって 参加者全員が全ての能力の内容を知ってる から、こんな風に 参加者の

本来の能力を暴く 事が重要だったりする…… 参加者が本来の姿 に戻れた場合、 本来の

能力 が使えるからね……《分裂》は発動回数の事情が変わるし、 本来の姿で使える能力は

その参加者特有 で ゲームの能力が一切使用不可の状態 ……さて、《分裂》が発言します

「戯言を……」

 そして《分裂》は言い放つ、玉宮がこうして過去に戻ってまで欲しかった、この情報を……

「 《分裂》は私 だ!!」

 《分裂》はそう叫び、拳銃の引き金を引く……次の瞬間どうなるかは、 さっき 見たよね


「な……に……?」

 呆然とした声で引き金を何度も引く《分裂》……でもその度に音がカチカチ出るだけで……

はい、見事に同じ光景になってます……拳銃は今朝《寄生》が ダミー と擦り替えてるので

弾は出ません……《流浪》の説明の続きでもしますか……《流浪》で過去に戻ると 発動した

時間より過去に戻れなくなる ……発動したのが ステージ3あかつき土曜 の11時頃の今回

だと、玉宮が無事に 帰還 を果たそうが発動した段階で既に ステージ3あかつき土曜11時

より過去に戻れなくなってます ……そして過去の改変に失敗し自分が不利な状況になっても

やり直しは出来ないから、 一発勝負 ……上書き方式なので 後から発動した参加者の結果

が優先されるけど、過去の自分と今の自分のどちらが死亡する結果となっても上書きされる 

んだよねー……過去を改変するなら相応のリスクを背負った方がいいなと思ってこうしました

……この世界の過去改変だけなら問題無いけど 参加者への記憶改変 が処理に含まれる事情

もあったし……私の マスターランク と 能力の処理に必要 という条件が重なってなけれ

ば 参加者全員の記憶を新しい過去に応じて順次上書き処理 だ何て所業、 許容 されない

ね…… 能力 にレアリティという格付けを当てはめてみると《流浪》は最高クラスで本当に

別格……だからゲーム内で使える 能力 になるよう頑張ったし、張り切ったよ……《寄生》

《分裂》はコモンで、《潜在》《操作》ならレア判定……じゃ、部屋の出来事の続きと行こう

「銃弾が2発あれば、1発目で本体を割り出して、2発目で本体を狙う事が出来る……」


「でも銃弾は、1発も無かったみたいですねー」

 過去の玉宮が袋を取り出し揺らす……中身はあさりの貝殻だけど、この状況なら事前に抜き

取られた弾丸同士が擦れる音だと思わせるには十分……それを《分裂》が睨み、一言だけ叫ぶ

「貴様……!!」

 一瞬だけ大きな声が部屋に響き渡ると……突然、部屋の扉を何度か叩く音が聞こえて来ます

「ほら、あんまり騒ぐから、桂さんが来ちゃいましたよ……」

「ここは、 あの能力 で逃げましょうか……鶴木さんも、夜に備えて眠りたいですよね?」

「ここらが潮時か……命拾いしたな、玉宮よ」

 《分裂》がそう言うと《流浪》を発動し退室……再びノックの音が響き、過去の玉宮が呟く

「こちらこそ、ありがとうございました。《分裂》の鶴木駆[つるぎ かける]さん」

 そして過去の玉宮も《流浪》を発動……《分裂》は自分の部屋へ戻り、過去の玉宮は例の血

だらけの部屋に移動し待機……ここは誰も寄り付かないし、今いる部屋とも近かったりします

「玉宮さん。さっき大きな音が聞こえたんだけど……何かあったの?」

 大分前から扉の傍で部屋の状況を音で判断してた《寄生》が扉を開け入って来て、そう発言

「玉宮さんも朧月さんも、ぐっすり寝てる……じゃあさっきのは、私が寝ぼけていたんだね」

 玉宮と朧月瑠鳴が眠るベッドの様子を確認すると《寄生》はそう言って、今度は時刻を確認

「現在時刻は10時41分……部屋に戻って、もうひと眠りしておこうかな」


 桂眉子と呼ばない理由を説明すると、 《寄生》中は宿主の意識を任意で遮断出来る ……

《寄生》は ステージ3 に入ってから一度も桂眉子の意識を解放してない……だから桂眉子

の言動全てが《寄生》の行為って事だよ……そんな《寄生》が部屋の扉の前まで行った後……

「あ、そうそう玉宮さん。あさりのチーズリゾット、凄く美味しかったよ……ごちそうさま」

 扉を開く途中で急に振り返りそう言って部屋を去ると扉が閉まる音が静かに響く……玉宮が

起き上がって部屋を出て血だらけの部屋へ向かったのは、その後で……過去の玉宮と会話する

「お疲れさまです。過去のあたし」

「お疲れさまです。未来のあたし……この残り時間だと手短な反省会なら出来そうですねー」

「それなら大成功です。鶴木さんが《分裂》だって判ったし、あの状況なら朧月さんも夢だっ

たと思えちゃうから説明する必要が無くなりました……あたしの過去の方では、説明するとい

う約束を破る事になっちゃうけど……マスターに問い合わせた結果に甘えちゃったなぁ……」

「今では、その約束自体が無くなったんですよねー……鶴木さんの記憶もさっきの内容に上書

きされたし、一度切りですが凄い……さて時間ですね。過去のあたしは……消える感じかな」

「本当に大掛かりな 能力 です……相手が鶴木さんとはいえ、上手く行ってよかったなぁ」

 玉宮がそう言い終えた次の瞬間、過去の玉宮は消滅し、玉宮が残ります……もう《操作》っ

て呼び方に戻していいね……《操作》は部屋を後にし、朧月瑠鳴のいる部屋とベッドに戻りま

す……ここで《流浪》発動前に《操作》が私に問い合わせたメッセージの内容を公開しようか


「マスター。 強化 した《流浪》は過去に戻る事が出来ますが、過去で起きた出来事を改変

する事は出来ますか? その改変内容は 参加者 の記憶にも適用されますか?」

 《流浪》を 強化 した場合の説明内容って、こんな感じだったけど詳細省き過ぎだったね

「過去に移動可能。一度行った過去から先へは移動出来なくなりますが、回数制限が無いのは

変わりません……分からない事があれば遠慮せず質問してください」

 同じ過去へは二度と行けないから過去の改変は可能と解釈するだろう……振り返ってみれば

乱暴な考えだったなー……《操作》の質問の回答内容も公開……こっちは上手く説明出来たよ

「過去の出来事の改変は順次上書きされ、その結果は 参加者 の記憶にも適用されます。過

去での行動中にあなたが 死亡 した場合、元の時間と場所に移動処理され 死亡 します」

 見事、目的を達成し元の時間まで戻って来れた《操作》だけど、《流浪》で過去へ戻り改変

に挑めば、それがどんなに納得の行かない結果であろうと既に適用されてて、改変前より状況

が悪化し、不測の事態を招き 死亡 するリスクだってある……《流浪》は 行った事のある

場所に移動出来る能力 だけど、そもそも知ってる場所って 時間が経てば知らない場所 だ

よね……安全な場所を求め以前安全だった場所へ移動しても 今も安全とは限らない し……

《流浪》は周囲の状況が確認出来ないような遠い場所でも瞬時に移動し、即座に再使用が出来

ない 能力 だけど…… 強化 しても、その本質は何も変わらない……使用回数は無制限、

ただし 無闇に使えば死亡のリスクが増える ……そんな 移動系能力 にアレンジしました



 その姿形は翼が上下2対の4枚で目も鼻も口も無く、まるでクラゲのように浮かんでた……


 九日目


 さて、 移動メッセージ も出たし ステージ1かみつき 九日目の話をするね……この日

は大型ストア内に かみつき を結構発生させた日曜日……今朝は朧月瑠鳴の意識に干渉して

《操作》と《潜在》が大型ストアに行くよう仕向けたんだけど……昨夜の出来事から話そうか

「さくちゃんすごい!! 一等賞だよ……一等賞」

 ヒナは《流浪》を連れてコンビニへ行き珍しい味のカップ麺を探すも収穫は無く、お気に入

りのカップ麺と《流浪》が目に止めてた飲み物をカゴに入れレジへ持って行くとキャンペーン

でクジが引けるようなので《流浪》に引かせた結果、何と一等賞……十日目の夜に開催される

人気歌手のライブチケットが当選したけど……実はこのクジ、 参加者 が引けば必ず当選す

るようになってます…… ステージ1はゲームの勝手を掴むチュートリアル ……ボスもいな

いから、 それっぽいイベント は露骨にでも用意したい……イベント会場に行くか決めるの

は 参加者 で 他の参加者 も来ると踏んで、あえて出向く選択肢だってある。八日目の話

してたけど、ここからは九日目の話……この日はヒナの意識に干渉して《流浪》を大型ストア


に行かせようとはしなかったんだよねー……その理由は……現在のヒナの様子を見てみようか

「明日はどんな服を着て行こうかなー……わたしはこの服でいいけど……さくちゃんは……」

 今日はヒナが通販で注文した洋服が届く日だから買い物に行かせるのは不自然だしサイズを

頼りに気に入ったものを次々と購入してたのが全部届いたからヒナは大忙し……自分の服装は

早々に決め、《流浪》をひたすら着せ替えしてます……次々と変わるその服装をいくつか紹介

「さくちゃんかわいいー!! ちょっと派手だけど色鮮やか!! 迷子になってもすぐ判る」

 南国テイストのオレンジを基調とした袖なしワンピースで、肩やスカート部分に水色、黄緑

そしてベースのオレンジの三重構造のフリルがあしらわれ、付属のコーラルのブレスレットは

赤の発色が強く、紫色だけど中央から延びる先端部分が黄色のハイビスカスを模した髪飾りも

付いてます……この服装なら夜の雑踏の中でもすぐ見付かる事、間違いなし。続きまして……

「ウサギさん? クマさん? ネコさん? あぁー!! どれもかわいい! ……かわいい」

 動物をモチーフにしたパーカーで、フード部分には各種の耳……ノースリーブと比べて露出

度が大幅にダウンするけど、夜は冷えるし防寒対策だって怠りたくない……では次の服装……

「迷彩服だったかな? でもこの色合いは珍しいし……可愛い。さくちゃんがワイルド!!」

 迷彩柄に則してるけど色は面積の多い順に紫、赤紫、緑、水色の長袖のシャツ……いずれも

灰色を混ぜたような鈍い色合い……と言うには緑だけ明るめ何だよね……同じ柄で色違いのス

カートもあったけど全体的に暗い水色の印象だったなー……こんな感じで着せ替えは続き……


「やっぱりライブの雰囲気に合わせたロックな服装とか……それならー……こうしよっか!」

 服装が決まったけど、もう夜だね……ヒナと《流浪》は大きなカップ麺を食べ、《流浪》は

デザートにコンビニの品揃えの中でもワンランク上のカップアイスを塩辛と一緒に食べた後、

仲良く就寝……あ、 ステージ2開始前 は 日本の塩辛大特集セット を仕込んでおくかな

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