Depths6~中央-Exercise of the dies-~
無事、トレーラーの護衛を終了し中央基地に到着した面々。
そこで出会う新たな仲間達。
しかし最初に出会った者は、とても高圧的な男だった・・・
新日本軍中央基地、かなりの距離を歩き、辿り着いたのは埠頭に存在した基地の何倍、何十倍もの大きさの基地だった。
演習場では正宗やシュヴァルツによく似ている機体が射撃訓練を行っている。
周囲を見ながら、ゲートを通り、ドッグへと入る。
数人の兵士、と思われる人間が物珍しそうな目で歩いて入ってくる四機の機兵を見ていた。
「・・・何か、やたら俺達見られてない?」
「そりゃそうだ・・・だって、あれ見てみろよ。」
忠司が周囲を見渡すと、待機している機体は全て「正宗ではない」。
正宗の面影は所々に見えるが、正宗とは違う、また別の機体だ。
この基地では正宗を採用していないのだろう。
そして一際目立つ機体が、大人数で整備・改造されていた。
それもまた、正宗には似ているが、ベースはその周囲の「正宗をベースに作られたであろう機体」だ。
「・・・すげえ・・・」
「見た事も無い機体だな、これ・・・こいつも正宗に似てるけどコイツは・・・」
「・・・宗近、だ。まだ完成していない。正宗と同じにしてもらっては困る。尤もどこが違うか、貴様らには分からんだろうな」
赤茶色の長い髪を腰辺りまで伸ばし、白衣を着た男がメガネを上下に動かしながら正宗から降りた忠司達に話しかける。
目つきが鋭く、常に猫背に高圧的な話し方と第一印象があまり宜しくない。
「・・・テメエ」
「怜治さん、落ち着いて、所属していきなり暴れたら・・・」
「所属?・・・あぁ、貴様らか」
長髪の男は口元を笑わせる。
そして手振りで部下と思われる兵士に「宗近」と呼ばれた機体の改造を行わせる。
「・・・俺は「ユウ・ベルモンド・宮野」工兵少佐だ。まぁ貴様等とは嫌でも付き合うだろう。」
「ユウ・ベルモンド!?」
声を張り上げ、ハッチを開け、怜奈が飛び降りる。
その目はとても輝いていた。
逆にユウ、と名乗った男は不快そうだが。
「・・・俺はベルモンドという名が嫌いだ。ユウ、で良い。もしくは宮野だ。」
「は、はい、宮野少佐!」
「なぁ、怜奈、この人凄い人なの?・・・痛っ!!」
興味無さ気に問いかけた忠司の背を思い切り叩く。
姿勢を正させてから、正宗を指差す。
「この正宗の設計者だよ!?」
「・・・ご名答だ。」
「ええっ!?」
驚く忠司を見て、満足気なユウ。
髪を片手で弄りながらもう片手ではメガネを上下に動かしている。
おまけに不気味に声を出して笑っている。
「くっくっく・・・随分と脳が足りてない奴が来た。ここには書庫もある、少しは覚えておくといい。」
「怜治さん、この人殴りたいんだけど。」
「同感だ、こんな野郎が正宗を作ってた、と考えるとビックリだぜ」
「・・・随分と言うな、貴様。」
「ええ、言いますよ「ベルモンド」少佐」
「貴様・・・」
顔を歪ませ、ポケットから拳銃を取り出す。
そして、その拳銃を怜治へと突きつける。
だが・・・
「えーい」
「貴様ッ!何をする!?」
シュヴァルツから飛び降りると同時、リアが飛び蹴りを銃へと直撃させる。
蹴り飛ばされた拳銃は床に落ちると、まるで「プラスチック製の玩具」のようにスライドとレシーバーに分断された。
更に一部パーツが欠けている。
どうやら完全に「玩具」だったようだ。
「・・・」
その玩具銃を見て、全員が黙り込む。
一人声を殺し、笑っている者が居る。
怜治だ。
「・・・あの、宮野少佐」
「何だ」
「・・・拳銃を携帯しないのですか?」
沈黙を破ったのは忠司だ。
辛辣な質問を突きつける。
「・・・俺は研究室とドッグ以外には出ない。要するに、持つ必要性、理由が無い。」
「どーでもいいんだけどさ、さっさと案内してくれないかな?「少佐殿」」
退屈そうに壊れた玩具銃のレシーバー部を拾い、指で回転させながらリアが言う。
勿論皮肉めいた言い方だ。
随分と怒りを堪えているようで、表情には忠司をバカにしていたとき程の余裕が無い。
「チッ・・・付いて来い」
渡り廊下、巨大なビルのような建物を繋ぐ長い廊下だ。
その廊下を抜けると、更に廊下だ。
渡り廊下よりももっと長く、その先にある階段を登らなければならないようだ。
何故ここまで高い建物にしたのだろうか。
「・・・癪だな。貴様等のようなポンコツ共に機体を提供するのは」
「提供してくださるんですか!?」
唐突な一言。本来なら喜ぶ事だが・・・
大喜びしているのは怜奈だけだ。
他は少し驚いた表情をしている程度である。
「ああ、貴様等の正宗は随分と荒い使い方をしている。このままではあと3日、いや2日保たないだろう。特に貴様。」
怜治に対し指を差す。
かなり荒々しく、伍長に上がるまで使っていたようで何も言い返せない。
それに先日かなりの出力のブースターを使い、更にナイフで傷まで付けられている。
「ねーねーシュヴァルツはー?」
「構わんが、武装の追加だけだ。」
「・・・じゃあいらない。」
小さく舌打をすると、鞄からタブレット端末を取り出す。
そして何かに繋ぐと、空中にモニターが現れる。
そこには「正宗に似た機体」の設計図が描かれていた。
「・・・歩きながら見ろ。これが貴様等に「支給予定」の機体だ。」
正宗よりも装甲を厚くし、頭部パーツの大幅改修、コックピットの縮小・簡略。
脚部に武装取り付け用のアダプター、背部ブースターは3基。
踵にはキャタピラが取り付けられている機体。
全体的に正宗に比べ、角ばっていた各部位が少しだけ丸みを帯びている。
頭部パーツに限ってはほぼ別物だ。左右に角のようなブレードレドーム、正面に1機サブカメラを搭載している。
「この機体は「群雲」。この支部の一般兵共は大体この群雲を使う。」
「・・・キャタピラ展開によるブースター使用の移動時の直線機動力は高そうだけど小回りが利かない・・・それにカメラが多すぎてモニター使用が大変そうだな・・・」
小声で設計図を見ながら呟く忠司。
その姿を見て、ユウは笑みを浮かべ、黙って呟きの続きを聞く。
「ブースターを使用しての移動は燃費が悪い、というかまだ実戦投入できる段階じゃないはず・・・だとするとブースターは1基、踵にはスパイクのが良いかもな」
「くっくっく・・・ほう、バカだと思っていたが、俺の第一印象だけだったか。良い洞察力をしている。」
メガネを動かし、タブレットをしまいながらそう忠司へと話しかける。
「・・・確かに、その通りだ。だからこそ「己の目で見て合った改修案を考える。」そして俺や部下の改修班に頼め。」
「武装はそのまま使えるんですか?」
怜奈の問いかけに、頷く。
どうやら今までの武装は使えるようだ。
だが、ユウは溜息を吐きながら、口を開く。
「・・・貴様等の使っていた武装を使うのは流石に俺の作る機体に対する「侮辱」だ。」
「んだと・・・?」
今にも殴りかかりそうな怜治。
それをまた、忠司が宥める。
「・・・言い方が悪いな。「あまりにも非効率」だ。貴様等の武装は。銃口、レシーバー、マガジン、見ればすぐに分かる。」
「確かに機銃はたまに銃身が熱くなりすぎてまともに撃てなくなる事があったな・・・」
「だろう?連射力は良い。だが、あの重さの機銃でかなりの発射速度、廃熱機構の少なさ、銃口辺りとレシーバーの焦げ跡で察せる。」
「・・・少佐も凄い洞察力ですね」
「・・・フン、無様な機体が一機あったお陰だ。嫌でも目に入った。」
嫌味を言い、言われながら廊下を歩き続ける。
数分後、ユウが立ち止まる。
金装飾が付いた豪華な扉だ。
その扉にノックをし、扉を開ける。
執務室、その椅子には妖艶な、白い髪の女性が座っていた。
「あら、ユウ・ベルモンド・宮野少佐、どうしたの?」
「・・・新入りです。道案内を頼まれただけです。では。」
「ご苦労様」
ユウはすぐに立ち去り、扉を力強く閉めていく。
去った後、全員が深呼吸をし、姿勢を正す。
「・・・埠頭からわざわざご苦労様です。私は「シャイナ・シュミット」。ドイツ軍准将。現在訳あってこの中央基地を纏めています。」
「石田忠司、一等兵です。」
「霧島怜奈、同じく一等兵。」
「霧島怜治、伍長でございます。」
「・・・」
リアは黙っている。
シャイナに目を合わせようともしない。
「・・・リア・デュンヴァルト少尉」
「・・・!」
「お久しぶりね、元気にやってた?」
「・・・別に」
「・・・そう、相変わらずギンスケの言う事を聞いてるの?」
「ついこの間まで」
シャイナ、と名乗ったドイツ軍の准将は立ち上がり、リアの目の前まで歩く。
そして目線を合わせ、抱きしめながら撫でる。
「・・・貴方は悪くない、私は貴方の味方よ」
「兄・・・いえ、カルドの裏切りは私の責任・・・」
「・・・あれは「奴等」が悪いのよ、カルド・デュンヴァルトに戦う事を強制していた。」
「あの」
二人の話の途中に、忠司が割ってはいる。
シャイナは少し驚いた様子で、席へと戻る。
「どうしたのかしら」
「・・・裏切り、って、ここでも?」
「いえ、ドイツ軍ね。まあ連合だから、新日本での裏切り、と思ってもらっても構わないわ。まぁ・・・近日裏切りが此処でもあったのだけど」
「・・・まさか」
「そのまさか、脱走者が数名。機兵を盗んで行ったわ。」
ほぼ同日に裏切り者が出たようだ。
カルド、という男も気になるが、まずは裏切りの件の解決が先だろう。
「貴方達には、期待してるわよ。ギンスケのお墨付きらしいじゃないの」
「期待に応えられるよう、全力で任務に徹します!」
何時に無く、怜治が張り切っている。
その場の全員は、大体の予想が付いていた。
「部屋とか、機体、武装とか手配するからゆっくり休むも良し、支部内を探検しても良し、正宗での最後の演習しても良いわよ。」
「有難うございます!失礼します!」
礼をすると、4人は部屋から出る。
廊下、早速怜治が口を開く。
「・・・綺麗な上官じゃねーか、リア」
「・・・怜治伍長は騙されてるね。シャイナ上官はよんじゅう・・・」
「リア、聞こえてるわよ?」
「・・・な、なんでもないですっ」
言いかけた途端、ドアの向こう側から声が聞こえる。
溜息を吐くと、目を瞑って心を整える。
「・・・地獄耳なんだから・・・」
「・・・え、えっと・・・よんじゅ・・・」
「霧島伍長?何かおっしゃった?」
「いえ、何も!」
とんでもない地獄耳だ。
怒りが篭った声、というのはすぐに分かった。
全員が早足でドッグへと歩き出す
ドッグ、早速ユウが機兵の製作を指示しているようだ。
「・・・貴様等か。」
「おー、やってるねえ!」
「・・・伍長、だったか?貴様」
「何で知ってるんだよ・・・」
「・・・俺は貴様等の上に立つ訳だ。階級や情報程度把握しておかなければな」
癖なのか、メガネを上下に動かす。
そして長い髪を後ろで束ねる。
驚く事に束ねる為に使った物は「針金」だ。
「あ、あの、それ針金・・・危ないんじゃ」
「・・・・・・通りで硬い訳だ。」
怜奈の指摘で針金を髪から外すと、輪ゴムで髪を束ね、急いだ手つきで設計図を開く。
タブレットから表示されている設計図を見て、しかめっ面を浮かべて髪を弄るユウ。
それを4人は見ていた。
「ところで貴様等、何故脚部の「間接機構」を使わなかった?」
「脚部?あったんですか?」
「・・・説明書くらい読め。」
タブレットに表示された正宗の説明書を4人が凝視する。
確かに「足首の辺り」にも「衝撃発生間接」が埋め込まれている。
初期状態で掛けられていたロックを解除することにより、使用可能になるらしい。
しかし、これを使う場合、バランスが取り難くなる、との事だ。
「なるほど、じゃあ銀輔少佐が思い切り跳んだのも・・・」
「あぁ、タイラノウチの機体には「特別な機構」を積んでいる、この間接だけではあの機動は再現出来ん。」
「特別な・・・機構?」
「今の状態の正宗に付いている脚部の「衝撃発生間接」のレベルを1だとするならば、改造に改造を加え、奴の機体は3、4くらいだ。」
「じゃあ何であんな安定性を?」
イタリア軍を追い払う為に見せた「踏み込み」。
あれは尋常ではない速さで相手の背後に回っていた。
通常の正宗の扱い方であれば、すぐ横転しているだろう。
だが、銀輔の正宗は横転すること無く、直立していたのだ。
「純粋に奴の操縦技術だ。奴は頭の中で機兵の一部位一部位に掛かる重さ、負荷を計算しつくしている。」
「そういえば、リアのシュヴァルツも壁を蹴っ飛ばして跳んだりしてたよね?」
「それは逆関節・・・」
「はいメガネはずれー」
「メガ・・・何だと貴様?」
ユウの前に手を突き出し、喋るのを止めるリア。
相当ユウは頭にきているようで、余裕を持っていた口元を震えさせている。
「じゃあ何だというんだ。逆関節ならば壁ぐらい・・・」
「・・・普通の逆関節で垂直に跳んで機体と私が無事だと思うー?」
「・・・確かに・・・そうだな・・・・」
幾ら着地時の衝撃吸収力が強いと言えど、垂直だ。垂直に飛べば当然、頭部・胴部のパーツの重さで傾く。
傾いた機体は当然、脚が付かず、地を削りながら滑るだろう。
「私のシュヴァルツは特注製で上半身の装甲を薄めに作ってあるの。そうする事で跳んだ時、脚の方が重たいから・・・」
「傾くのは脚・・・だけどそれじゃあバランスが取れないんじゃない?」
「踵辺りを見てー」
言われて忠司はシュヴァルツの踵を見る。
鳥の脚のように、後ろに突き出た踵、だが、その踵の付け根には何か、関節が取り付けられていた。
「まさか・・・貴様」
「そう、そのまさか。可変スパイクだよー?好きな角度で立てるし、地面に突き刺してバランスを取る事も出来ちゃう」
「貴様が俺の装備増強提案を断ったのはそれが理由か。」
「うんうん。だってバランス悪く武装積んだりしたら、倒れちゃうしー?」
「独自の戦闘理論を持っているようだが、それでは分隊行動は・・・・・・」
言いかけた途端、ユウは振り向くと、任務から戻ってきたであろう「一機」の機兵へと走り寄る。
その機兵は周囲の群雲よりも、改造が施され、背部には大型のスナイパーライフル型武装がマウントされている。
トレーラー護衛中を見ていた機体、「薄緑」と呼ばれていた機体だ。
可変倍率頭部カメラ、肩部に取り付けられた索敵レドーム。そして機体色の土色の迷彩。
狙撃特化機だろう。
「貴様!どういうつもりだ!?倉敷大河!!降りて来い!」
先ほどまでの冷静な顔つきを変え、完全に鬼の形相で怒鳴っている。
それだけ怒鳴っていても、コックピットハッチが開かない。
開けようとしていないのだろう。
「貴様・・・何をしたか分かっているのか!?出てこい!!!」
コックピットハッチまで詰め寄るユウ。
その足音はとても響く。
忠司達の近くで作業をしていた作業員が忠司の肩を叩く。
そして、小声で話しかける。
「・・・驚いたか?新入りの・・・誰だっけ、自己紹介とかまだだしな。」
「え、えっと・・・石田忠司、一等兵です。え、ええ・・・凄い驚きました、あんな顔するんだ・・・あの人。」
「・・・あれが「鬼の工兵少佐」、いや。「正宗生みの親」の顔だ。んで、あの機体は「薄緑」っていう狙撃機だ。」
その薄緑のハッチまで登ると、軽くハッチを叩くユウ。
本気で叩いてはいないようで、本当に軽く叩いているようだ。
それを見ていた作業員が溜息を吐く
「今回ばっかりは特に「頭に来てる」みたいだ」
「・・・何でです?」
「あの薄緑って機体はな、テスト段階だったんだ。まぁ今中に居る、16の倉敷大河、っていうガキの物になる予定だったんだが」
「予定?」
「まだ完全にテストを終えてない状態での出撃、分かるな?・・・つまり、中途半端な状態で任務に臨んだ訳だ。それに」
「それに?」
「・・・少佐はな、生みの親だけあって、機兵に対してはとても感情的になるんだ」
傷を負っては居ないが、迷彩の上に泥が掛かっていたりはしている。
コックピットも無傷、そのコックピットハッチを開けようと努力するユウ。
怒鳴っていたが、大きく溜息を吐く。
「本来なら、軍法会議を通してから、だが。」
薄緑から飛び降りると、近くにあった群雲に乗ろうとする。
「お、おいテメエまさか!?」
「・・・俺のやり方だ。・・・本来俺は「薄緑」に傷を付けたくない。しかし奴が退かないならば」
「そうじゃねえ!人だよ!人!その薄緑に乗ってる人!」
「・・・・・・」
一瞬脚が止まる。
だが再度歩き出す。
「・・・同じ様な人間は多い、はずだ。」
「ざっけんな!」
怜治はユウの頬を思い切り打った。
ユウは手すりに腰を打ち、その場に座り込む。
「お前等工兵さんには分からなくてもな!?そのお前等の作ってくれた機兵に乗ったパイロットにも仲間や友達が居るんだよ!」
「・・・謀反者にも、か?」
「謀反?」
「あの中身は「俺の警告も聞かず、テストが終わっていない機体に乗り、任務へと臨んだ。」十分すぎるだろう」
「それはアンタだけの話だろ?それもアンタ、上に話は通して無いんだろ?」
「・・・」
「それに、裏切りじゃねえ。戻ってきてるじゃねえか。俺達、軍の仲間に出来る事。の一つ、仲間が無事ならそれでいい。違うか?」
「・・・チッ・・・好きにしろ!倉敷!貴様の処分は上に任せる。俺から見れば俺に対する謀反だが、上から見れば別だ、好きにしろ!」
ユウは怜治を押し退け、力強く足音を立てながらどこかへと向かって行った。
ユウが去った後、忠司は薄緑のコックピットハッチへと近づく。
すると、ハッチが開き、その中では涙目になっている茶髪を後ろで束ねた少年が震えていた。
「お、おい・・・大丈夫・・・?」
「ごめんなさいごめんなさい・・・」
「い、いや、俺はあの鬼畜メガネじゃないし」
「えっ」
目の前に居るのが忠司だと気づくと、深呼吸をする。
そしてコックピットから降りる。
「ど、ど、どうも・・・倉敷大河です・・・上等兵・・・です」
「上等兵!?石田忠司、一等兵です、ご無礼を・・・」
「そ、そんな敬語使われるほどの人間でも無い・・・です・・・だ、だから」
「い、いや一応上下・・・」
「い、いいんです」
溜息を吐きながら薄緑のハッチを閉める
「・・・僕、今度こそ軍法会議かなぁ・・・」
「どうしたんだよ」
「たまに、周りが見えなくなっちゃうんです。一応、狙撃・偵察を任されているので、近辺の野盗や謀反者を始末する役目なんです。だけど、この間群雲を壊しちゃって・・・」
「・・・で、緊急発進したらこれだったと」
薄緑に指を差す忠司。
それを見て頷く大河。涙目だ。
涙目の大河を必死に慰める忠司、それを見つめる他3人。
だが、一人は「薄緑」を見ていた。
リアだ。
「・・・大型スナイパーライフル・・・この銃ならコックピットハッチ、ううん、背部まで貫けるはず」
「貴様等まだここに居たのか」
嫌味のように後ろからユウが現れる。
どこかへ行ったと思わせておいてこのドッグ内に居たようだ。
「・・・倉敷大河」
「は、はい!ごめんなさ・・・」
「・・・謝るな。元より薄緑は貴様の代替機の予定、多目に見てやる。破壊するようなマネをしていたら眉間を撃ち抜いていたがな」
涙目で頭を下げる大河を見て口元を笑わせるユウ。
相手に嫌がらせをして悦ぶタイプの人間なのだろう。
「一応データは取れたが・・・そうだな、格闘戦のデータが無い・・・一等兵、石田忠司、だったか?」
「あ、はい」
「ちょっと演習場へ出ろ」
演習場、薄緑と対峙する正宗。
武器は巨大な木を削って作られた刀だ。
威力は出ないが、訓練にはなるだろう
勿論薄緑を駆るのは大河、正宗には忠司だ。
「ルールは特に無い、俺がやめろ、と言ったらやめろ。俺が言わなければどちらかが降参するまで続けろ」
「「了解!」」
「では・・・開始だ」
合図と共に踏み込んだのは正宗だ。
胴部へと強い振りの一撃を叩き込もうとする。
それを薄緑は肩部のレドームを盾に防ぐ。
(本来であれば今の行動、自滅行為だ・・・が)
肩に直撃させたと同時、脚払いを掛ける
正宗が転びそうになるが、瞬時に体勢を整え、刀を打ち下ろす。
間接を利用した強撃、それをスライディングで回避する。
「早い・・・」
「まだまだ動けますっ」
「すばしっこい・・・!」
「・・・言い忘れていた、薄緑は群雲の改造機、本来ならば狙撃機だ。つまり、本体は軽い。」
「スペック差が有りすぎるんですよ!」
唐突のユウからの通信。
全く其の通りだ。
正宗と薄緑では2つ段階が空いている。
速度も違いがあれば、性能の差が様々なところに出ている。
「えいっ!」
(・・・待てよ、薄緑の動き、何か、法則が・・・)
攻撃を手に持った刀で弾く。
弾きながら考え始める。
(・・・さっきから凄い速度で移動して、四方から攻撃を仕掛けてきてるな・・・)
「足元!」
「危な・・・うわぁっ!?」
本来なら少し刀を避ける程度、跳ねる予定だったが・・・
何故かかなりの高さ、跳ぶ。
「そうだ、貴様の正宗の脚部間接のリミッターを外した状態だったな・・・ククク」
「少佐あんた・・・人の物をっ!」
思い切り脚を広げながらの着地、無慈悲にもそこへと薄緑が襲い掛かる。
振り下ろし、それを横払いで競り合う。
「つまり今なら銀輔少佐の動きを真似できるっ!」
「う、うわぁ!?」
脚を地へとめり込ませ、一気に蹴る。
その反動で薄緑を弾き飛ばすが、機体が軽いらしく、すぐに体勢を整え、正面へと突撃する。
「・・・チッ、埒が明かないな・・・これではいつまで経ってもデータが取れん・・・」
監視塔で小声で呟く。
そしてマイクのスイッチを入れる。
溜息を吐きながら、声を出す。
「・・・お前等、相手を殺すつもりで行け。許可する。」
「なっ・・・」
「何を言っているんですか・・・?み、宮野少佐・・・?」
「倉敷、貴様の薄緑の腕部パックを外せ。」
「で、でも!まだ色々未完成じゃ・・・」
「・・・外せ、分からないか?犬以下か?」
「・・・何で・・・」
ガシャン、という音と共に腕部装甲が開き、そこから小口径拳銃型の武装が現れる。
それを両手に持つ。持つと同時、拳銃のトリガーガード部からダガーナイフタイプの刃が飛び出す。
「・・・石田、此方の方が使い易いんじゃないか?どうだ?」
コンクリートの地面から、鞘に入った機兵規格の日本刀が鞘に入った現れる。
それを片手に取ると、先ほどまで使っていた木刀を監視塔へと投げ捨てる。
「・・・「殺せ」とは言っていない。万が一、相手を殺してしまっても「事故」として処理をする。やれ」
「簡単に言うな・・・!貴方が少佐だからって、部下の命を遊びに使う権利なんて・・・」
「遊び?フン、仕事だ。「データ採集」という、な。」
話をしていると、大河の駆る薄緑が射撃をしながらナイフを振り回す。
射撃を胴部へと受けるが、ナイフの斬撃は鞘で弾き返す。
おかしい、長短差があるが、ナイフは弾き返されても飛ばされず、手元に保たれ、次の一撃が入る。
「どういう細工だよ・・・!」
「・・・「EEnの振動」だ。そのナイフの刃には「EEn鋼、EEn鋼」を使っている。
EEn、数年前に発見され、解析されたエネルギー。
使用用途によって様々な「素子」「分子」へと変化する可能性を秘めている。
この場合、ナイフに仕込まれた何らかの素子・分子に反応し、高周波・超振動を発しているのだろう。
それにより、本来ならば一撃で吹き飛ばされるレベルの重撃を受けても、軽く流せる。
しかし、それを弾き返しても折れない刀にも何か、仕込まれているようだ。
「くっ」
「ご、ご、ご、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!!」
蹴りを受け、ふらついた所に銃を向ける薄緑。
覚悟をしたその時。
「カチッ」という音が響く。
薄緑は両手の拳銃を見ている、が・・・正宗はしゃがみ、鞘に付けられたロックを外す。
青色の煙を放つ鞘、それを使い、薄緑の脚部を払う。
正面で倒れる薄緑。
それに対し・・・
「はぁぁぁぁぁッ!」
全衝撃発生間接を同時に開き、踏み込みながらの居合い。
一瞬で物が焼ける音。
その音を発しながら、薄緑の胴体と下半身を真っ二つにする。
ガタン、とコックピット部のある胴体が地面へと落ちる。
正宗も左腕が停止したらしく、支えていた左腕が骨の折れた腕のように、肩辺りから垂れる。
「ふむ、もういいぞ」
メガネを動かし、監視塔から降りてくるユウ。
顔には笑みを浮かべている。
「アンタな!!」
刀をユウの歩くガラス張りの建物へと向ける。
その刀はよく見ると、普通の刀の刀身に「蒼い光の刃」を纏っている。
焼けた音の正体はこれであろう。
「仲間同士を殺し合わせて楽しいかよ!?少佐さん!」
「・・・楽しくは無いな。」
「なら何で!」
「・・・データ採集、「お仕事」だ。分かったか?」
「・・・クソッ・・・」
刀を納めようと、鞘を拾う。
鞘のロックを再度開け、そこに切っ先を触れさせると、蒼い光は消え、普通の刀として納刀された。
忠司はコックピットをすぐさま開け、上半身と下半身が離れた薄緑へと近づき、コックピットハッチを開けさせる。
そこにはエアバッグに包まれた大河が居た。
「あ・・・忠司・・・さん・・・でしたよね」
「そうだけど・・・さ、大丈夫かよ!?」
「え、ええ・・・テスト機なのでエアバッグを多めに搭載しているようです・・・お陰で打撲くらいです・・・あはは」
「良くやった、貴様等。」
ゆっくりとユウが近寄り、忠司と二人掛りで大河を立たせる。
特に大怪我も無いようで、普通に歩けるようだ。
「・・・アンタ・・・アンタな・・・」
「忠司さん、攻めないでください・・・えっと、その・・・きっと」
「きっと?」
「・・・すまないな、貴様・・・いや、忠司一等兵。一等兵の格闘適正を調べたく手荒な演習にしてしまった。」
「・・・そう・・・ですか」
腑に落ちないが、謝罪を受け取る。
恥ずかしがっているのが、メガネを過剰に動かしながら、薄緑の脚部へと歩いていき、調べ始めるユウ。
それを見送った忠司と大河は笑っていた。
しかし、残骸に近寄ったユウは不快そうな表情を浮かべていた。
「・・・データは取れた、が謎が増えたか・・・・・・」