Depths5~機転-A weak dog barks-~
「良くも悪くもないニュースだ。」
その一言から、少年の決意と機動防衛戦は始まった。
ある場所を目指し走るトレーラー、それを守る忠司・怜奈・怜治・リア。
何もないと思われた道中、ある物を発見してしまう・・・
元首都高、その上を正宗が3機、シュヴァルツが1機走る。
正宗の内2機は前方を守り、その後ろには大型トレーラーと装甲車が数台、そして最後尾をシュヴァルツともう1機の正宗が守るように走っていく。
「こんなノロノロしてると追いつかれちゃうんじゃないかな?」
「だよねぇー」
無線通信でリアと忠司が会話をしている。
後方を守っている二人だ。
前方は怜奈と怜治が守っている。勿論、怜奈の正宗は片腕を壱式機人の物に取り替えている。
「仕方ねえだろ、トレーラーは最高速度がアレな上に曲がり難いんだ。」
「本心は?」
「・・・あー・・・突っ走りてえ」
「すまないな、作戦事情で」
「い、いえ!大佐、滅相も有りません・・・!」
怜治と怜奈の会話中、大佐が割って入る。
大佐は申し訳無さそうな顔をしているが、怜治は顔が真っ青だ。
何故こんな移動をしているか、それは数時間前へと至る。
数時間前、埠頭付近支部基地、ドッグ
「・・・本当に良くも悪くもないニュースだ。」
「何なんです?また作戦ですか?」
忠司の問いに対し、溜息を大きく吐く大佐。
何かあったのだろうか。
「我々、いや、私、沢村一輝大佐、そして平内銀輔少佐、及び君達4人は転勤だ」
「「「「転勤!?」」」」」
声を合わせ、驚く。
何故ならまだこの支部に配属されて「数日」だ。
怜治は兎も角、忠司、怜奈、リアは数日間だ。
「すまないな、急で。」
「何故ですか!」
「・・・ここに我々が居る理由が無くなったんだ。本来であれば一等兵である霧島怜奈及び石田忠司一等兵は防衛の為、ここに残ってもらうはずだった。」
「はぁ・・・」
「だが、平内少佐が「君達を優秀なヒヨコ」と呼び、賞賛していた事を思い出し輸送トレーラーの防衛と、転勤を頼もうと思い・・・」
「勿論引き受けます!」
「ちょっ、待てって!」
どこへの配属かも聞かず、怜奈が敬礼をし、受諾する。
忠司はまだ答えを出していない。
「ふむ、霧島怜奈一等兵はやってくれるか、では、石田一等兵。どうするかね?ここに残るも、他支部へ行くも君の自由だ。」
(・・・いきなり何故・・・転勤?まだ入って4日程度だ。確かに銀輔少佐と任務には何回か出た。だけど俺が評価されるほどの事は・・・)
「・・・考え中か?」
「・・・あっ!は、はい・・・」
「ゆっくり考えてくれたまえ、私は待とう。ただし、今私がここに居る間に答えを頼む」
腕を後ろで組み、立ちながら目を瞑る大佐。
その姿が逆に焦らせる。
(・・・確か3人くらいが裏切って、おまけにフネ、って言ってたかな?兵器のパーツも奪われた・・・まさか)
忠司の頭の中に一つの推測が出来上がる。
「この埠頭付近支部は「フネ」と呼ばれる兵器のパーツを作っていた造船所を守る為だけに作られた」
そしてその「フネ」という兵器のパーツが奪われた今、もうこの基地は存在意義が無い。
虎神連合が攻めてきた事と言い「まだパーツが奪われていない」と思っている他国軍をおびき出す為のオトリにする。
理由、つまりそういうことだろう。
「・・・引き受けます。」
「・・・有難う。各自、明日の日の出前には準備を済ませ、機兵の調整をせよ」
そして今、だ。
トレーラー、装甲車を守りながら走る。
向かうは「新日本軍中央基地」。元は「長野と山梨の境」だった所に存在する、大きな基地らしい。
「中央」という名はあるものの、本部ではないとの事だ。
しかし設備は本部にも劣らず、様々な出撃手段、防衛手段を備えているそうだ。
おまけにその軍基地の背後には今の時世には珍しい民間人が住む「都市」が存在している。
一部軍人は「警察」として巨大な都市の巡回任務に就かされるそうだ。
「そういえば、銀輔少佐は?」
「あぁ、少佐は1日2日残ってる奴等を守ってから来るらしい」
「ふーん」
「・・・ねぇ、兄さん、何か、何かおかしくない?」
「何がだよ?」
「・・・そこの右側、機兵・・・?倒れてない?それに傷が少ないし、まだ1日2日経ってないんじゃ」
「・・・マジだな。これ機兵だ、大佐!ストップ!」
数キロ走った所で、倒れている機兵を発見する。
トレーラーを止め、大佐と怜治が表へと出る。
倒れていた傷の少ない機兵へと近づく
止まった事が気になり、忠司も飛び降りる。
「・・・ふむ?・・・新しいが・・・コックピットに「何かが貫通した後」があるな」
「人間の頭くらいの大きさの穴ですね」
「しかし・・・どこの機体だ?コイツは。正宗でも無けりゃ壱式でもねえ、関節的にシュヴァルツでもない。」
「・・・壱式の改造型、恐らく野盗の盗んだ物だろう。」
少し見ただけで、大佐はその機体の改造元を当てる。
各所に壱式機兵のパーツが存在している。
怜奈の使っている左腕のパーツに、装甲を足したようだ。
コックピットに近づくと、大佐はハッチを開ける。
「・・・むう、君達は下がっていろ」
「何でです・・・うっ」
「・・・だから下がれと・・・焦げ・・・これは銃を使われた跡か。」
近づいて忠司が見た物、それは「頭が弾け飛んだ死体」だった。
首から上が無く、コックピット全体に肉片が飛び散っている。
更にコックピットの内部にかなりの熱が篭ったせいか、衣服の一部が焼け焦げている。
吐き気を抑え、怜治の後ろへと隠れる忠司。
「・・・おいおい、忠司、大丈夫かよ」
「だ、大丈夫・・・大丈夫だから・・・う、うっぷ・・・」
「しっかし、機兵のコックピット越しにピンポイントでキメるなんて、相当な奴だな。」
全くその通りだ。
どこに相手の頭があるか分からない、そんな状況で的確にコックピットを打ち抜き頭に直撃させる。
更に、頭と同じ大きさの弾丸をコックピット内部の相手の頭の中央ピッタリに命中させる技術。
コックピットシートの位置が分かっていても、透視があったとしても凡人では成す事が出来ない。
「い、今狙われてるんじゃ・・・」
「・・・その可能性は無い、かな?」
コックピットハッチを開け、怜奈がそう告げる。
「何故言い切れるんだ、怜奈?」
「銃で撃たれたんでしょ?なら、撃ち空、直撃した弾は?これだけ大きい奴なら見逃さないはず。」
その通りだ、撃ち殺されたならば撃ち空、銃弾が落ちているはずだ。
遠くからの狙撃ならば撃ち空は無いが、この機体を貫通した弾が残っている。
「・・・つまり、「弾を回収してどっか行っちゃった」って事。それに、武器もこの機体持ってないし。回収された後だと思う。」
「・・・ふむ、霧島怜奈一等兵、見事な洞察だ。・・・一応連絡を入れておこう。」
その推理現場を、遠くから見ている者が居た。
この場所から何キロか離れた小山、そこから狙撃用スコープ頭部パーツを装備した、正宗に似ている機体がうつ伏せで存在していた。
片手にはスナイパーライフルのような見た目をした「巨大な銃」
「・・・軍関係者、か。じゃ、じゃあ仕事外だよね。同業だし。」
少年のような声で呟きながら、起き上がると弾倉を抜き、地面へと捨てる。
そして背部へ銃をマウントさせる。
「・・・だけど、あの人、どっかで見た事あるかな・・・」
大佐の顔を見て、そう呟き、しゃがみながらどこかへ去っていった。
そして、首都高では、また護衛を続行し始めていた。
「おい、忠司、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だって、怜治さん・・・うっ・・・」
「・・・おいおい・・・ゲロったらコックピットがヤベえぞ」
「忠司・・・子供の遠足じゃないんだから・・・」
「あはは、楽しく行こうよ、楽しく」
「楽しく行くのは構わんが、気は抜くんじゃないぞ、良いな?」
コックピット内で片手で敬礼をする一同。
一名は顔色が優れないが。
「でも・・・うっぷ・・・襲うに・・・襲えませんよね」
「確かにねー、これだけ「軍のMR」がゾロゾロ歩いてたら怖くて誰も襲えないよ」
「MR?」
「MaschineRüstung(機械の甲冑)の略。こっちではこう呼んでるんだよー、敵側の米国とかはましん?とるぱー?だっけかな」
「MachineTrooper(機械の歩兵)と呼ばれているらしい。通称MTだ。我等は「機兵」だが。」
お国事情だ。言葉の。
今、全世界が導入している兵器「機兵」。
その呼び方にも差があるようだ。
昔であれば米国基準でマシントルーパー、MTで通っていただろう。
そんな他愛ない話で盛り上がっていると、数分後また、怜奈が何かを感じ取る。
「・・・左!」
ライフルを撃つ。
それに乗じ、全員が武器を構える。
「どうした!?」
「今、でっかい足音がした」
「怜治さん、先にトレーラーを護衛しつつ基地へ」
「・・・お前、吐き気は?」
「数分、話してたら紛れたから!」
「・・・ったく、気の抜ける。敵が居るかもしれねえんだぞ・・・っと」
昨日、少将から奪い取ったナイフを投げ渡す。
それを忠司の正宗が掴み、展開する。
片手にはライフル、片手にはナイフという武装で、周囲を警戒する。
「では向かお・・・う?」
「見つけたよーん!」
瞬間的にシュヴァルツが地を蹴り、巨大な岩を砕き、敵へと蹴りを命中させる。
そしてその倒れたところへと怜奈の正宗がライフルを向ける。
その機体は「正宗」だ。
「ワンダウン!」
「チッ・・・結局守備しながらの戦闘か・・・!?」
トレーラーの後ろ側から銃を放つもう1機
その弾を腕部装甲で受けながら、走って近づく忠司の正宗。
至近距離で、機銃を持っていた右腕をナイフで叩き落す。
更にもう片腕を右足で蹴り、横転させる。
「怜治さんはそのまま警護!」
「わーってる!」
前方のシュヴァルツがチェーンソー型武装で四肢のパーツを切落す。
そしてコックピットに向け、ちらつかせた後、一気に頭部パーツを落とし、コックピットのある胴体だけ残す。
後方の忠司の正宗は倒れた敵機の腕を踏み潰した後、脚部にライフルを至近距離で撃ち、歩行機能を停止させる。
更に倒れた敵の正宗のハッチを引きちぎり、内部を露見させる。
「・・・そんな」
内部に居たのは、元は仲間だった「新日本軍の兵士」だ。
両腕を挙げ、降参をしていると思い、ハッチを開けようとする。
「開けるな!忠司!」
「あ、ああ!」
その言葉と同時、両方の正宗の内部が爆発した。
忠司の正宗が相手していた方のパイロットは木っ端微塵だ。「人間だった」という証拠が無いレベルだ。
かなりの数の手榴弾を詰んでいたのだろう。
「・・・」
「・・・自決か。」
大佐が小声で呟く。
忠司は、無言で頷き、トレーラーの後ろへと戻る。
「・・・あと何機残ってるってんだ・・・裏切り者共・・・」
「兄さん・・・」
怜治は、唇を噛んでいた。
血が唇から顎へ、そして脚へと落ちる。
己が作り出し、裏切り者達に与えてしまった「裏切りの好機」を悔やみ。
目には決意と殺意。その裏切り者達を「殺す」事が自分に出来る償いだ、と言い聞かせる決意。
「・・・敵は?」
「・・・居ないみたい」
忠司の問いかけに小声でリアが返す。
大佐は本部へと連絡を取り、パーツを回収する部隊を呼ぶそうだ。
そして、連絡が終わると、全員に無線通信が入る。
「行くぞ。・・・ここは今から行く基地の部隊が片付ける。」
「・・・了解」
再度、中央基地を目指すトレーラーと機兵4体。
守備陣なんて物が無かったかのように、各自、バラバラに歩き始める。
そんな様子を、見ている者がまた居た。
付近の小山に、また同じ機兵。とその機兵の掌に座った、16、7歳くらいの長い茶髪を後ろで縛った少年が座っている
服装は同じ、新日本軍の軍服だ。
「・・・軍同士が・・・?何で・・・!?・・・通信・・・此方「倉敷」。・・・はい。了解しました。」
倉敷、という苗字の少年は溜息を吐くと無線機をポケットへと入れる。
そしてまた、掌に座る。
「・・・な、なるほど、ね。守らなきゃいけないんだ・・・あの機体と、あの機体、黒いのと、左手だけ違うの・・・この4機。うん。」
そう指を差し、震えながら頷く。
機体を覚えたのか、コックピットへ戻るとすぐに操縦桿を握る。
ハッチを閉めるとライフルを手に持ち、ボルトを引く。
「・・・「薄緑」行くよ。」
「薄緑」と呼ばれた正宗に似ているが、様々なパーツを改修した機体は、銃を腕に抱える。
そして、ゆっくりと歩き出した。