Depths4~挟撃前-Stupid rat-~
緊急招集の理由は「中国・虎神連合軍」の進軍であった。
その進軍された島ではある兵器の部品を製作していたらしく、それを狙われたようだ。
作戦を練る埠頭付近支部であったが、敵か味方か分からない「ある機兵」を発見してしまい、事態は急変する。
会議室、その緊急招集は休暇の只中、起きた。
支部内外の人間が何人も集まり、殺伐としている。
相当の自体なのだろう。
誰もが黙っていた中、支部で一番上の階級と思われるスキンヘッドの男が口を開く。
「・・・休暇中、突然の召集、すまない。この埠頭付近基地代表・沢村一輝大佐が詫びよう」
この支部のリーダーは沢村一輝大佐、と言う様だ。
今まで名乗る事も無かったので、一等兵等は皆、今知った。
「では本題だ・・・造船所長、前へ。」
「・・・はっ」
ツナギ姿の見慣れぬ顔の老人が前へと出る。
造船所長、という事は造船所を営んでいるのだろう。
その後ろに居るツナギ姿の男達も恐らくその関係者であろう。
「この埠頭より東部に存在する小島の造船所へと「中国軍」が進軍してきました。」
「お、おい!中国って・・・反対側じゃないか!!」
怜治が声を荒げる。
そうだ、この埠頭は列島の東側。
中国は真反対に位置する西側の大陸だ。こちら側に攻め入るには迂回する必要がある。
浮いている小さな島では尚更、だ。
「・・・ふむ、それでどうした?」
怜治の発言を気にもせず、銀輔が割って入る。
頭を下げると、所長は話を続ける。
「恐らくどこかの戦線を離脱してきた者達でしょう、数はそこまで多くはない。」
「・・・青森戦線、だろう。」
沢村大佐はそう答える。
青森戦線、現在様々な軍の艦船が入り乱れ、戦闘を行っている海域だ。
狙撃武装の機兵を扱い、敵の艦船を撃墜している戦線らしい。
幸い、相手側にも自国側にも昔の戦争で使われた、戦闘機を発進させる「空母」のような「機兵を海上発進させる艦船」は無い。
つまり、防衛側である此方が有利だ。相手はどう足掻こうと機兵を海上から機兵を運び込む事が出来ない。
しかしその程度の敵であれば、地上からの砲撃で一掃できるはずだろう、おまけに識別が出来ない船を発見した途端、様々な湾岸支部から集中砲火だ。
「今、造船所には何人居るんですか?」
怜奈の質問に、所長は顔を曇らせる
「・・・300人ほどです」
「300人!?それだけの人間を・・・」
「・・・待て、忠司一等兵」
驚きと、怒りを込めた発言をしようとした忠司を、銀輔が止める。
そして・・・
「がはっ!」
「何をしている!!平内少佐!!!」
思い切り腹部を殴る。
銀輔は怒っていた。忠司以上に。
「貴様!部下の命を見捨て助けを請いにきたか!?」
「ひぃっ!」
「落ち着くんだ、少佐」
「落ち着いてなどいられるか!・・・貴様はそれでも部下を束ねる人間か?いざとなれば身代わりの羊とし、捨てる。それが上司のする事か!?」
「少佐、落ち着いてください」
「そうだよおじいちゃん」
「・・・くっ」
忠司とリアに宥められ、拳を強く握り締め、席へと座った。
そして、話を続ける。数秒の沈黙の後、口を開いたのは沢村大佐だ。
「・・・その300人、今は何をしておられるか」
「お、恐らく・・・現状仕事場にある物を手に取り・・・」
「ここまではどのような運行手段で?」
「・・・か、隠れながら、キーの差し込まれたままの中国軍の艦を使い・・・」
「・・・よくやった、部下の数人、そして怜奈一等兵は二等兵達を纏め、その艦を調べろ、徹底的にだ!」
「了解!」
怜奈と造船所の所員達は走って会議室を出て行った。
「・・・所長!」
「は、はいっ!」
「・・・造船所と連絡を取りに、そこの兵士に通信室へと案内してもらってくれ」
一人の兵士が所長を通信室へと連れて行く
連れて行ったことを確認すると、咳払いをする。
「恐らく「フネ」を狙ってきたのだな、中国軍虎神連合め」
「・・・虎神連合?なんですかそれ」
「そうだ。現在中国は二つの軍に分かれている。虎神連合、龍神連合と、思想の違い故に2つの軍、国が出来た、という感じだ。」
「・・・で、その連合が何故あんな小さい島の造船所に?」
「・・・我々が完成させなくてはならない兵器の一部を作っているから、だ。」
「それを狙って・・・」
話の途中に、ドアが思い切り開かれる
立っていたのは、所長だ。
「し、新日本軍の機体が、現在応戦しているようです!」
「何!?どういう事だ!?」
「・・・待つのだ少佐、本部に連絡を入れてみよう。」
本来、伝令がいかなければ他の支部の部隊は出ないはずだ。
唐突に所長達がこの埠頭支部へと来たのであり、他の支部に連絡は当然、まだ取っていない。
数分後、大佐が戻ってくる。
「・・・「部隊は愚か、機兵の出撃は前線に留めている。そのような余裕は無い」との事だ。」
「それにまだ機兵が海を渡る手段は無いのだろう?」
黙って頷く大佐。
溜息を吐くと、銀輔は展望区画へと確認へ行く。
「あの、大佐」
「何だね?忠司一等兵」
「・・・空、というのはムリですよね」
「・・・空、か・・・む・・・?待て・・・一度、一度だけ過去に大型戦闘機に機兵を攣る下げ、空挺した事例が・・・」
「それに、確か正宗に一基搭載されている背部ブースターは空挺の際、姿勢制御をする為に取り付けられた、というのを仕官学校で・・・」
「・・・それだ」
沢村大佐は立ち上がり、どこかへと電話を掛ける。
その間に怜治が戻ってくる
顔は酷く青ざめていた。
「・・・ありゃ、マジモンだ」
「本当に、正宗だったのか?」
「ああ・・・統制まで取れてやがる。だけど施設を守ってるのか、襲いにきたのか、行動が読めねえ」
「・・・そうだ、霧島怜治伍長」
銀輔は、怜治を手招きし、呼ぶ。
礼をしてから、怜治は銀輔の前へと立つ。
「・・・以前、貴様は演習で推進装置を使い、わしの乗っていた訓練用正宗を打ち倒したな?」
「倒しましたが・・・?」
「・・・大佐、飛行機は現在?」
「・・・2機、3機残っている。だが撃ち落されるのが見えている」
「それは無いと思うなぁ」
割ってはいるリア。
壁に寄りかかり、モニターに映された地図を指差す。
小島に存在する造船所、その近くの山の辺りだ。
「・・・その「ニセ新日本軍」は中国軍と戦いながら、その奪取目標に近づく、って私は思うなー」
そして次に指を差すのは滑走路。
小さいが、1機や2機なら飛びたてるだろう。
「2機にワイヤーを付けて機体を引っ張ってもらう、これで・・・」
「リスクが高すぎる。大体2機の戦闘機を同時に発進させ、同じ動きをさせなければ一瞬で機兵が落ちる」
「その作戦の必要はありませんよ」
そう言い、ドアを開け、入ってきたのは怜奈と数人の研究・開発科
全員で何か、巨大な部品を抱えている。
「・・・貴様等、何だそれは」
「中国軍船に入っていた巨大なブースターです。特殊な機兵用エンジンを搭載している為、短距離であれば水上を滑る事も可能です」
「しかし奴等が使っていた、となると粗悪な物では・・・」
「だからこそ、「短距離」なのです。短距離であれば、壊れる心配も無く、使い捨てで扱えます。」
「・・・・・・水上を滑る、か。初の試みではないか?少佐」
銀輔を見つめ、笑みを浮かべ呟く大佐。
それに対し銀輔は無言で頷く。
「・・・ムリに、とは言わん。怜治伍長。やれるか?」
「やりますとも。勿論、ご期待に沿う様に。オイ!お前等!俺の正宗にそのブースターを積んでくれ!!」
「了解!」
数人の白衣の男達がブースターを抱え、走っていった。
見えなくなると、怜治は残っていた一人の研究科の男に話しかける。
「なぁ」
「は、はい!」
「・・・「あの武器(盾付き機銃)」は出来たのか?」
「一応、試作段階で2丁・・・」
「そいつを、2丁とも貸してくれないか?勿論返すさ。」
「ま、まだ試作段階ですよ!?下手をすれば弾詰まり等の発射不良が・・・」
「データ採取、この名目で俺に貸してくれ、頼む」
「わ、分かりました・・・」
その研究科の男も走って行く。
「間に合うかな・・・兄さん」
「間に合わせるんだよ。何が何でも。」
数十分後、調整が終わったらしい。
未だ、小島の方では交戦中、まだ間に合う。
ドッグ、並んだ正宗の中、異様な背部の正宗が一機。
巨大な「煙突」を付けた正宗、その煙突に柱を付け、その下には小型艦船を取り付けている
両手には「盾」の付いた機銃。試作段階らしいが、二丁を装備していた。
「すげえ・・・」
「なぁ、怜治さん。」
「何だ?」
「・・・これ、飛べるのか?」
怜治は引き笑いをしながら頭をかく
その後、両手を横に広げ、「さぁ?」という手振りを見せる。
「やらなきゃいけねえんだろ?ならやるだけだ。それに・・・」
「それに?」
「飛ぶんじゃねえ、滑るんだ。」
「怜治伍長、コックピットへ。」
「へいよ。」
大佐に急かされ、コックピットへと飛び乗る。
ハッチが閉じると同時、背部ブースターから騒音が発される。
更に支柱に付いている小型艦船のスクリューが回転し、轟音がドッグ内へと響く。
「で、どう出りゃいいんですかね?大佐殿」
「まず前へと歩いてくれ、そして造船所のある島側を向くんだ」
「はいよ・・・っと!?」
慣れない背部の重さに、正宗が躓きそうになる。
相当な重さのようだ。
ゆっくりと前へと出る、そして何分か掛け、島の方角を向き、膝を曲げる。
「別に飛ぶ訳ではない、姿勢はいつもどおりで構わん、それとブースターの切り離しは此方が上陸と同時で遠隔で行う。」
「気分って奴ですよ・・・」
「・・・ふむ・・・?私自身このような作戦を行った事が無いからどうとも言えんが、慣れん事はしない方が良いのではないか」
「じゃ、いつも通りで」
曲げた膝を戻し、銃床を肩関節辺りで構え、ブースターを蒸かす。
「カウントとかは?」
「無い、いけるかね?」
「ええ、いつでもッ!!」
とてつもないスピードで怜治の乗った正宗は「前進」した。
通常とは比にならない、そんな正宗を唖然と、全員は見つめていた。
埠頭を飛び出し、海上へと出る。
誰もが「沈む」と思い、目を伏せたが見事に海上を「立って」いた。
直立しつつ、前へと進み続ける。背部ブースターに付いていた艦船のお陰で姿勢が安定する。
「見えたッ!」
小島まであと数百メートル、敵機、もとい中国軍虎神連合の戦車を捕捉する。
そして、引き金を引く。
切れのよい音と共に、何発か発射され、一発が命中し戦車を破壊する。
「試作段階にしちゃ、上出来だな・・・っと・・・無線無線・・・」
命令無く出撃した、と思われる交戦中の正宗の一機に無線を繋ぐ。
「此方埠頭付近の霧島怜治伍長、どこの支部の機体だ?アンタ等出撃令出てないだろ」
「・・・」
「・・・弱ったな」
無線は繋がれているようだが、黙っている。
相手が映像通信を切っているせいで顔は分からない。
「まずは・・・ッ!」
手当たり次第に機銃を乱射し、戦車や艦船を破壊していく。
そして上陸と同時に、背部についた巨大なブースターを切り離される。
ガコン、という金属音と共に地面へとブースターが落ちる。
「うおっ・・・」
残った戦車2台が砲弾を撃ち出す。
が、盾を使い防ぐ。
正宗は無傷だ。盾が少しへこみ、煙が付近に上がるだけで銃と正宗には一切の損傷が無い。
「ったく借り物なんだよこれ!」
借り物、と言いつつ盾で一台を潰し、そのまま引き金を引きもう1台を撃ち壊す
これで全滅だ。
「オイ、聞こえてんだろ、そっちの正宗」
「・・・助太刀感謝しよう、君も「此方」か?」
「は?此方?何を言っているん・・・」
威厳のある男の声で通信が入る、と同時
至近距離へと一気に踏み込まれる。
コックピット手前にはジャックナイフ型武装。
周囲に立っていた2機はサブマシンガンを構え、引き金に指を掛けている。
「・・・分からないならば良い、武器を地に置いてくれ。」
「おい、ちょっと待てよ、お前等新日本軍じゃ・・・ッ!?」
コックピットギリギリの位置をサブマシンガンの弾が掠める。
「・・・置いてくれ、私もあまり無駄な殺しはしたくないのでね。」
「本部に問い合わせは・・・」
もう2発、次は頭部近くを弾が通り抜ける。
恐らく次は「無い」だろう。
「わ、分かった。置きます、置きますよー・・・っと」
「・・・武器はそれだけか?いや、腕の「間接」の電源を落としてくれ、念の為に。」
「ちょ、ちょっと待て、それじゃ俺は抵抗できない・・・」
「・・・抵抗?何を言っているんだ?君は。抵抗をすれば・・・」
「っ・・・!?」
ナイフ型武装が少しコックピットに触れる。
触れただけで「真っ直ぐに傷が付いた」
「・・・アンタ等な・・・新日本軍なんだろ・・・?」
「・・・見て分かるだろう」
渋々無線と衝撃発生間接の電源を落とし、両手を上に挙げ、正座の体制を取る。
その間に、後ろの二機がサブマシンガンを真横に着艦していた戦艦級、いやもっと大きい大きさの艦船に置く。
この艦船ならば機兵3機は余裕で運べるだろう。
正宗を所有している、という事は新日本軍の関係者である事に間違いは無い。
そして見た事もない艦船、かなり大きな支部の関係者だろう。
「・・・なぁ」
「何だね」
「・・・あの艦船は?」
「答える必要は無いだろう?」
「そうかい」
その間に、何か巨大な「機械」を2機の正宗が運んでいた。
見た目はブースター、に似ているが・・・横にも、縦にも広い。
それを艦船へと積み込む。
「・・・撤収だ。ご苦労だ。」
後ろの二機の正宗が敬礼をし、艦船の内側へと消えていく。
機兵用のエレベーターと格納庫でも付いているのだろうか?
そして指揮官、と思われる正面の正宗はナイフを未だに突きつける。
「・・・殺せよ」
「言っただろう、無駄な殺しはしたくないんでね。」
「そうか・・・」
「そろそろ時間だ、失礼しよう。」
後ろを向き、船へと乗ろうとした時
怜治の正宗の右ストレートが相手の正宗の右腕を吹き飛ばす。
地面に落ちたナイフを左手で取り、突きつける
「・・・何を・・・間接を切ったのでは」
「アンタに言われたとおり、電源は切ったぜ?「左腕だけ」な」
「小癪な!」
「動くな!アンタが軍関係者かどうか。身元を教えてもらわなきゃな。場合によっちゃ」
ナイフをコックピットへと突きつけ返す。
男は無線で溜息を吐く。
「・・・新日本軍「曙進少将・・・特任、だ。」
「・・・少将・・・?」
「・・・失礼しよう」
曙進少将、新日本軍では名の知れた男だ。
正宗の近接格闘術で何十機を相手に打ち勝った、という噂もある。
貰った勲章の数は数知れず、中央部の懐刀とも呼ばれている。
そんな人間が何故、ここに居るのだろうか?
気にしている内に、艦船に入り、姿は見えなくなった。
そしてその艦船もかなりの速度を出し、遠くへと消えていった・・・
「・・・」
怜治は考えていた。
少将クラスの者が小島の防衛へとわざわざ中央部から遠征に来るのだろうか?
そして「此方」という言葉が引っかかる。
巨大艦船、装置、味方軍への武装解除、様々な事が引っかかる。
そうこう考えている内に、巨大なゴムボートに電源の落ちた正宗と武器、相手が落としたナイフを載せ、ゆっくりと引かれていった。
会議室、全員が沈黙している
「・・・すみませんでした」
深々と頭を下げる怜治。
それに対し、肩を叩く銀輔
「貴様は良くやった。装置は持って行かれて、奴等も軍なのだろう?」
「・・・それが・・・」
小島であったことを全て話す。
「少将」の事。
巨大な機兵を運送する艦船の事。
そして「此方」という単語について。
「・・・味方に銃や剣を向ける、何たる者だ!」
「・・・ふむ、「本部」を指しているとも思われるな」
大佐がそう呟く。
呟いた後、無線を掛ける。恐らく本部だろう。
数分後、大佐の口からまず出たのは溜息だ。
「・・・曙進少将の姿が2日ほど、見えなかったそうだ。」
「まさか・・・」
「数人の兵士も居ない、反逆かもしれん。」
「質問です」
手を挙げ、言葉を発したのは忠司。
顔はとても真剣だ。
「・・・兵器、とは言いましたが、一体どのような物なのですか?反逆者数人で扱えるシロモノではないんでしょ?数人で担ぐから」
「所長に聞くとしよう、所ちょ・・・」
「ど、どうなってやがる・・・」
椅子に座っている所長、一見、寝ているように見える。
だが、項垂れている口元をよく見ると、赤い物、「血」だ。血が垂れている。
「毒か・・・?」
「の、ようですねぇ」
しゃがんでいたリアが指を突き出す。
粉が付いている。
全員が急ぎ、ドッグへと向かう。
誰かが正宗を使い、「裏切り」逃げたという可能性を考え・・・
ドッグ、案の定「3台の正宗」が無くなっている。ドッグに存在するのは忠司・怜奈・怜治・銀輔の正宗と、リアのシュヴァルツと数機の壱式機兵だけだ。
「遅かったか!」
「・・・俺の・・・せいだ」
怜治は顔を青白くし、俯いていた。
いつもとは全く違う怜治の表情に困惑する忠司と怜奈。
「俺が躊躇わず中将を殺していれば・・・」
「兄さん、兄さんは悪くな・・・」
「やめろ、俺のせいでしか無い・・・」
「怜治さん・・・っ!?」
横から銀輔の平手打ちが飛ぶ。
それに対し、リアが口笛を吹き、茶化す。
銀輔は一瞬リアを睨むが、目線を怜治へと移す
「貴様!悔やむ事しか出来んヒヨコに戻ったか!?」
「・・・はい」
「ヒヨコに戻ったならばニワトリになる努力ぐらいしろ!」
「・・・」
「貴様のせいではない、などと言えば嘘になる。大体は貴様のせいだ。通信を切り、武装も解除した貴様の責任だ」
「ちょっと、少佐・・・」
怜奈の抑止を振り切る。
そして怜治の首根っこを掴み上げる銀輔。
「だが、わし等の責任でもある、裏切り者を放置していた、という点、そして本部との情報共有が完璧でなかったという点でだ!」
「・・・」
「・・・だが、貴様は良くやった。「上官」と聞けばわし等軍人は縦社会。動けん。そんな中、最後に戦いを仕掛けたのだろう?」
「・・・何故それを・・・」
「・・・伍長、自分の機兵の手を見てみろ」
怜治は自分の正宗を見る。
ナイフを突きつけられた胸部装甲の傷、そして幾度の戦いの傷もある。
次に言われた通り手を見る。
まず左手には何も無い。・・・右手には、「大型のジャックナイフ型武装」が握られていた。
少将が使っていた物だ。
「この部類の武装はここではまずわしのように注文せねば支給されん。・・・少将から奪い取ったのであろう?」
「・・・はい」
「良くやった。裏切り者に一打、与えたではないか。」
珍しく、優しげな笑みを浮かべ、銀輔が笑う。
「怜治伍長、貴様がそんな面でどうする。貴様は後ろの忠司・怜奈一等兵、リア少尉、そして残されたこのヒヨコ共の頭領だろう?」
「・・・そう、かもしれねえ」
「ならば前を向け、明日には明日の風が吹く。わし等はこれから、2方向の敵と戦う事になる。伍長がその状態では、な」
手を振り上げると銀輔は去っていった。
去ったのを確認すると怜治は立ち上がる。
「・・・そうだな、俺がこんなんじゃ、忠司もシケるしな」
「お、おい!怜治さん!やめろ!」
強引に忠司の肩を組み、頭を撫でる
それに対し、忠司はもがく。
「良かったねぇ、元気になって」
リアは怜奈の横に立ち、笑顔で頭を撫でる
背伸びをしながら・・・
「・・・デュンヴァルト少尉」
「・・・少尉はダメ。「リア」でいいよん、ただし「デュンヴァルト」で呼ぶのはNGねー」
楽しそうにリアは怜奈と談話している。
絡まれている忠司が、ふと思い出す。
「そういえばさ、さっき、「二方向の敵」って少佐が言ってたよな」
そう、二方向の敵。
去りがてらに少佐が言い放った言葉だ。
「・・・多分、多分だぜ?あのハグレ新日本軍と、他国軍の事だろうよ・・・」
ふざけて誤魔化していた表情が、真面目になる。
怜治が握った拳はとても強く、爪が手に食い込んでいた。
「・・・これから二つを相手にする、となるとキツいな」
「ああ、だけど、俺等がやらなきゃいけねえんだ・・・それに・・・少将・・・いや、あの野郎を・・・」
「意気込んでいる所に悪いが、良くも悪くもないニュースだ。」
4人の前に現れたのは大佐だった。
何か、報告すべき事を持ってきたようだが・・・