Depths2~戦線・感情-inside and the outside Heart-~
初の本格的任務に駆り出される3人。
3人とも別の分隊で戦いの駒を進める。
その前線に現れる黒く異様な機兵。
そしてその機兵の主と銀輔の関係、そして感情。
響き渡る爆音、崩れ往く廃墟
石田忠司一等兵は、戦場の真っ只中に居た。
前線ではなく、外れた道を平内銀輔少佐と二人で進んでいく。
勿論「正宗を駆り」だ。
事は数時間前に遡る。
本部・会議室
2日目、前日の訓練の疲れがあるが、大規模な任務の会議があるらしい。
この支部の一番偉い階級、と思われるスキンヘッドの男がモニターに地図を映している。
とても恐ろしそうな男だ。
当然、怜治、怜奈、銀輔も居る。
「ではまず、説明だ。少し距離がある所に新イタリア軍が今、駐屯しているとの連絡が本部より入った。どこの基地から仕掛けたかは不明。
だが、危険だ。少数であれ、彼奴らを野放しにしておく事は我々の軍機能の一部を奪われているのも同然である。
よって、奴等の臨時基地を叩く。部隊編成は平内少佐、任せる」
「御意、ではまず・・・」
と、いった具合に部隊は分けられた。
見事に全員バラバラだ。しかし、適材適所、それを見抜いている。
新兵である怜奈は弾薬や武器などの補充を行う支援部隊。伍長である怜治は突撃・兼陽動隊に組み込まれた。
しかし何故か、忠司は銀輔と二人だけだ
今の所敵機に発見されてもいないが、発見してもいない。
強襲部隊、との事だが・・・
「迂闊にその辺の装置を破壊するでないぞ」
「何故です?」
「わし等は強襲部隊、敵本陣に斬り込むときまで音を立てず、忍び寄る・・・良いな?」
「了解」
少しずつ、少しずつ進んでいく。
そして、ようやく本陣一歩手前だ
後は陽動を待つだけである
「そういえば、少佐の機体には銃器系の武装がありませんね・・・代わりに刀?・・・が2つ?」
銀輔の機体には全く、銃器が積載されていなかった。
あるのは腰に日本刀を機兵用にまでスケールアップさせた刀が2本。
「銃など必要が無い・・・一撃破壊を狙うならばこの武器が丁度良い」
「・・・その刀、少佐の機体以外見ませんよね」
「特注製だ。鉄工にムリを言って作ってもらった賜物だ。」
待っている間、他愛も無い会話をしながら周囲の物音を聞き、タイミングを計る
まだ合図である信号弾が放たれない。
その頃、突撃部隊は・・・
「撃て!撃て!とにかく撃て!!」
「弾効いてないんですけど」
「撃て撃て撃て撃てィ!」
「・・・銃声で無線すら聞こえないのか」
敵機兵に向かい、機銃を乱射し続ける陽動部隊の隊長と、その仲間。勿論怜治を含む
しかし、全く敵機兵には効いていない。
まるで中世甲冑のような見た目をした機兵、そんな屈強な見た目の機兵が更に機兵用ライオットシールドを持っている。
もう片手にはライフルだ。
「此方支援部隊、霧島怜奈、支援砲撃を行う!」
「撃て撃て撃て撃て!」
「あの・・・」
「怜奈か?この分隊長に何を言っても無駄だ!俺が仕切る、我々の拠点から2時方向に爆撃を頼む!」
「兄さん!?そっちは敵居ないんだけど!」
「一発でいい、一発だけ撃ってくれ!」
「分かった、2時方向に1発だけ砲撃を!」
爆発音が鳴り響く。
その方向へと数機の敵機が向かう、が、盾を構えていない為、真横から銃弾を受け、崩れていく。
わざと2時方向へと撃ったのは「陽動」だ。
「敵は逃げている!期を逃がすな!」
「・・・ここまでやったのは俺なんだけどなぁ・・・まぁいいか」
更に盾を持った機兵が何十機と押し寄せる。
窮地だ。
「無際限かよ!・・・爆撃は・・・いや、爆撃をすれば皆吹き飛ぶ・・・」
「はぁっ!!!」
考えている時、目の前に黒い「正宗ではない機兵」が跳ぶ。
瞬間的に目の前の機体を蹴り飛ばし、更に後ろの機体にも直撃させる。
全く、正宗とは別の見た目だ。
全長は6,7mほどで、胸部が鋭く尖っている。頭部は半透明の強化ガラスの丸い頭が上半分、下半分は黒い。
肩部はさほど正宗と大差が無い四角形だが、何か、変わった装甲が取り付けられている。
とにかく下半身、上半身ともに細い。
間接は人間の間接とは逆を向き、バッタのような足になっている。
先程の蹴りを見るに、伸ばせば普通の足なのだろう。
「今ので6機、あと4機かな」
怜治より、何歳か年下の女性の声で無線通信が入る。
「アンタ、何者だ?敵か?味方か?」
「味方かなぁ?敵かなぁ?」
「おい、ふざけるな!」
「おぉ、怖いなー!多分味方だよ!じゃ、退散ー」
地面を蹴り、更に廃墟の壁を蹴って空を飛ぶように逃げていった
だが、その行く先は忠司や銀輔の部隊の居る場所だ・・・
「何なんだよ、アイツは!まぁいい、突撃しましょう、隊長!」
「今しか無い!一気に此方に敵を寄せるぞ!数も恐らく本部を守っている数機しかおらん!」
黒い機体が飛んでから、忠司・銀輔の分隊・・・
その黒い機体がスタッ、と着地をする。
「・・・ご苦労だ、デュンヴァルト少尉。」
「はいはーい、どうもどうも、タイラノウチのおじいちゃん」
「・・・ぬぅ」
機嫌の悪そうな声を上げる銀輔
そして「デュンヴァルト」と呼ばれた女性
一体どのような関係なのだろうか。
忠司は考えていた。
「・・・この機体、日本のじゃありませんよね」
「ああ、こやつはリア・デュンヴァルト、ドイツの少尉だ。」
「宜しくね、えーっと」
「忠司、石田忠司。」
「うん、宜しく忠司。」
「・・・さて、挨拶が済んだなら、デュンヴァルト少尉、仕事を頼む
機兵で頷くと、両腕にある篭手のような物を上へと上げる。
すると、真っ直ぐに1mと数cmはあるチェーンソーが腕から出現し、回転する。
勿論腕から出てきたので、手は空いている。その手に背負ったライフルを持つ。
「じゃ、行ってきまーす」
「頼んだぞ」
リア・デュンヴァルトが走っていった後・・・
忠司は不安感に駆られていた。
一人で大丈夫なのだろうか。
装甲の薄い機体だが、対策はあるのか?
など
「・・・いくぞ、忠司一等兵」
「は、はい!」
機銃を撃ちながら、前方へと走る。
幸い敵を先程の黒い機体を駆る女性が引き付けているようで、数が少ない。
しかし、居る事に変わりは無い。4機の盾を持ったイタリア軍機兵が銃を構える。
その瞬間、とてつもない速さで銀輔の正宗が前へと跳ぶ。
「斬り捨て御免」
一瞬にして、相手の背後に回り、両手に持った刀型武装を鞘に仕舞う。
4機の内、2機を機能停止させる。
「今だ!」
銀輔の特攻に気を取られている残り2機、盾を構えることを忘れ、操縦者は唖然としているのだろうか?
ほぼ動かない機体に一気に接近し、忠司の機体は右ストレートをし、まず1機から武装を奪う。
機兵サイズのライオットシールドだ。それを奪うと、もう1機に叩きつけ、転倒させる。
倒れた機体の腕を踏み潰し、武器を使えない様にする、が・・・
「・・・斬り捨て御免」
「少佐!?」
無力化した敵機に対し、銀輔は刀を突きたて、コックピットを貫通させる。
当然、機能が停止する。
もう1機はコックピットを踏み潰し、破壊された。
「・・・甘い、甘すぎる。」
「い、今のは、無抵抗じゃ」
「それが甘い、無抵抗とは言え、敵は敵だ。わし等が倒さなければならん、もし彼奴等を生かしておけば、無線機や何かで増援を呼ばれる」
「・・・そう・・・ですね」
「覚えておけ、忠司一等兵。「戦地で敵に情けを掛ける事は寝返る事と同然」だ。」
「・・・了解。」
「捕虜だった場合は別だが、殲滅する場合は敵の頭だけを攫えばいい。行くぞ」
再度走り始め、廃墟と化した市街地の中にポツンと存在する、大型の建築物を発見する。
その建物を6機の機兵が守備していた。
どうやら駐屯地へと辿り着いたようだ。
「遅かったねぇ、おじいちゃん、忠司。」
「その呼び方はやめんか。貴様のような孫娘を持った覚えなどないわ」
すぐ真横にはリアの駆る黒い機体が壁に隠れ、ライフルを構えていた。
ライフルの下部にはグレネードランチャーが付いている。
「貴様、電動鋸は解除したのか?」
「解除?収納じゃなくてー?」
そう答えると、手首から手の甲に掛け、チェーンソーの刃が出現する。
そして、すぐにまた引っ込めた。
「・・・まぁ何でも良い。忠司一等兵、支援部隊に迫撃砲を要請しろ。建物の手前に、だ。」
「了解・・・」
「おやおやぁ?元気が無いねぇ?」
「戦地で元気が良いのは貴様くらいだ」
忠司は怜奈へと無線を繋ぎ、迫撃砲の準備をさせる。
その間に銀輔は怜治と通信を行い、突撃のタイミングを合わせる。
すぐ近くの小道で突撃部隊は構えているそうだ
「・・・怜奈、この位置に3発くらい頼む。」
「了解、この建物の手前辺り?」
「ああ」
「迫撃砲セット完了、射撃準備に入るね。」
その一言を告げると、無線を切り、迫撃砲へと弾を込め、撃ち出す。
数十分後、目の前で爆発が起き、機兵が構え、周囲を警戒している。
「突撃だ!」
「了解!」
ライオットシールドを敵から奪い、装備した突撃部隊が一気に前線へと出て、爆風を受けた機兵へと攻撃を開始する。
それと同時に、忠司・銀輔・リアの3人は内部への突入を開始した。
内部は格納庫のようになっていて、人は居ないが、ここに来る間に対峙した機兵が並んでいる。
「・・・オ・・・オラトリオ・・・?」
「ん、この機体の名前だね。イタリア軍製機兵Oratorio。騎士の甲冑を模したデザインと、とても強固な盾と装甲を持つ機兵。」
「説明している時間があるならば破壊するぞ」
「ちょい待ち!」
リアはチェーンソーを右手首から出すと、1機のオラトリオの頭部パーツを斬り落とし、回収する。
そして胴体、腕、足などはグレネードランチャーで吹き飛ばす。
それに合わせ、忠司も機銃を撃ち、動かないオラトリオを破壊する。
「本来あまりわしが使いたくない武器ではあるが・・・」
四角い何かをコックピットを開け、投げ捨てる銀輔。
その四角い何かは「遠隔爆弾」だ。
それを大量にバラ撒き、外へ出ると手招きをする。
その手招きを見た2人も外へと出る。
「まだ残ってたんだ~!」
リアは機体で壁を蹴り、チェーンソーを回転させながらライフルを逃げながら突撃部隊へと放つ敵機へと飛びかかる。
チェーンソーはコックピットハッチを貫通してから、上に振り上げられる。
胴体から頭部パーツまでが真っ二つだ。
その残骸を蹴り飛ばし、建物の中へと突き飛ばす。
逃げ腰の敵機を全て、その破壊方法で倒していくリア。
その戦い方は「無慈悲」。この一言で表せる。
元より戦争に慈悲など存在しないが、その無慈悲の更に上を行く無慈悲。
人間よりも大きなチェーンソーは一部を赤く染め、狂気の片鱗を醸し出している。
「よーし、吹き飛んじゃえー!」
全員が後ろへと下がったのを確認すると、リアはグレネードランチャーを構え、建物の内部へと撃ち込む
着弾と同時、誘爆し、建物を破壊する。
破壊を確認すると、武器を納め、全部隊が後ろを向き、帰る。
任務は完了だ。
リアの機体だけは、片手にオラトリオの頭部を持ち、廃墟と化したビルの壁を蹴りながら、一番先に戻っていく。
その機体が見えなくなったのを確認すると、忠治は銀輔へと無線を繋ぐ。
「・・・少佐、あの黒い機体と、リア・デュンヴァルト少尉は一体何者なんですか?」
「気になるのか?」
「まぁ、少し」
忠司は気になっていた。
彼女の無邪気だが残酷な性格、戦い方、特徴的な機体。
そして「敵機の頭を持ち運ぶ」行為。
「奴は独軍の元少女兵だ。独軍内ではかなり有名な兵士だ。「DasAbwerbenRia(首狩りのリア)」と呼ばれている」
普段、カタカナや外語を極端に嫌う銀輔だが、流暢なドイツ語を話した。
「幼かったリアは見様見真似で敵を殺し、様々な殺し方を覚えた。・・・そして中でも得意とした殺しが・・・」
「首狩り、ですか?」
「・・・首狩りを含め、暗殺だ。突撃をせず、敵軍の首をナタで叩き落し続けた。それ以来、奴は首を落とし始めると止まらなくなった」
あまりにも衝撃的な話に、言葉を失う忠司。
機兵ならまだ頭を落とされても一部機能が止まるだけで問題は無いが、人間だ。
人間の頭を叩き斬る、つまり「即死」だ。
そんな行動を容易く行うリアに疑問さえも覚える。
「そして奴が機兵に乗った時・・・何歳だっただろうか、わしが操縦を教えた。」
「・・・少佐が独軍に?」
「いや、奴が連合基地に配属された事があってな。先程「戦場では情けを掛けるな」などと言ったが、あまりにも奴の行動はわしでも見てられんかった」
目を逸らし、そう小声で呟く銀輔。
深呼吸をすると、話を続ける
「だからわしが操縦を教えると同時に、「普通の人間」としての生き方も少しずつ、教えていった。」
「少佐が?」
「・・・笑うのを堪えているな、後で覚えておけ、一等兵。続きだ。生身の人間をナタで殺す、などという行為はしなくなった。だが代わりに」
「機兵の首、ですね」
無言で頷く銀輔。
その銀輔の表情は曇っていた
「・・・そうさせたのはわしだ。大体の機兵の頭部には様々な情報が入っている。奴の気を紛らわすと同時に、軍に貢献をさせた。」
「・・・で、首狩りのリア、と・・・」
「ああ、ただでさえ性格が歪んでいるが、昔はもっと酷かった。・・・次の質問は機体と戦い方だな」
「出来れば、でいいですよ」
「では話さん」
唐突に口元に笑みを浮かべ、そう答える。
当然忠司は不満だらけだ。
「何でですか!」
「・・・忠司一等兵、それは貴様が聞けば良い。そうだ・・・いや、聞いてやってくれ」
いつもならば、どんな事であれ軽く吐き捨てる銀輔だが、この事に関しては、真面目に語っていた。
事情が何かあるのはすぐに分かったが、上から目線、もとい上官命令を出す銀輔が少し下手に出る、よほどの事情なのだろう。
「・・・確かに、わしは奴にとって、祖父のような存在かもしれん」
「・・・はぁ」
「・・・せめて、忠司一等兵、いや、石田忠司。お前さんは兵士として、ではなく、奴の「友人」として接してやってくれんか?」
「らしくないですね、少佐、いやおじいちゃん」
「煩い!・・・フン、後で覚えておけ。忠司一等兵。」
「了解・・・だけど、頼みは聞きましたよ」
「・・・感謝する。霧島兄妹にも頼んでくれ。」
忠司が頷くと、安心したらしく、いつもの硬い表情へと戻る銀輔。
いつもの「少佐の顔」だ。
「・・・だが、「任務」と貴様への「頼み」は別だ。そこをはき違えるんじゃない」
「了解」
「さて・・・少し一服してから戻る、先に戻っていろ。報告を忘れるんじゃないぞ」
正宗で敬礼を行うと、忠司は先へと歩く、もとい前を行く他の仲間達においていかれないよう、走る。
忠司や、他の機兵が見えなくなると、タバコに火を付ける銀輔。
そしてコックピットのハッチを開く
「一寸、その程度でも人間らしさを取り戻せれば、わしも安心が出来る。奴と歳が近いヒヨコ共が多い軍で良かった。・・・いや良くは無い。本当であれば、皆、あの青年等は平穏の中で暮らしていたはずだった。」
独り言を呟き終わると、タバコを加え、夕日を見つめ、煙を吐く。
煙を吐いた後の表情は、どこか、哀しそうだった。