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Depths1~訓練-storm in quiet before a storm-~

初任務の後、休息を取ろうとした3人。

しかし、銀輔から「演習」の呼び出しが掛かる。

そこでは見通しの悪い夜間での戦闘演習が待っていた。

当然機兵を利用した夜間戦闘など新兵が行った事は無く・・・

 とてつもない衝撃が身体に伝わる。

コックピットから見える正面には機兵・正宗。

勿論乗っているのも正宗だが。

戦う相手も正宗。



「動きが鈍いな、ヒヨコ」



相手の正宗から、威厳のある声が響く。

そう、石田忠司一等兵は今、1VS1の演習の真っ只中だ。

勿論、相手は平内銀輔少佐。

仲間達との食事の後、急に呼び出しが掛かり、順番に銀輔少佐と1VS1をしている。

使う機兵は訓練用の正宗、一部の機能に制限を掛け、大破をしないレベルにまでリミッターを掛けた安全な機体だ。



「大体見えにくいんです!前!夜中だし。」

「どんな戦況にでも適応してみせろ!それが軍人、いや!侍だ!」

「それに歩き難いんですよ!廃墟だから!石っころだらけで・・・」

「だからどんな状況にでも立ち向かえ!それでこそ・・・」



これ以上聞く気にもならなければ、相手も聞いてくれなさそうだ。

とんでもない理論だ。

自分達は軍人だが、この方だけは侍のようだ。



「機銃も無ければ純粋な格闘戦で1VS1なんて夜中に行うんですか?」

「もし、貴様のいつも使っている機兵に備えた機銃を前の戦いで「壊した」状態で夜間に緊急出撃令が出たらどうする?」

「それでも相手は・・・」

「当然、相手は武器を持っている。・・・考えてみろ、忠司一等兵」



考える。

武器を持った相手に出来る、抵抗。

「もしも」今目の前に居る敵が銃器で無く、近接系の武器を持ち、突き刺しに掛かってきたならば

機兵の機動性を生かし「白刃取り」。

出来る訳が無い。逆に此方の手首を持っていかれる・・・

それならば



「思いつかなければ、交代してもらう!」

「これでッ!!」

「くっ、視界が!?」



咄嗟の判断で思いついた行動。

「投石」だ。

足元に大きめの石が転がっている事、それを拾えるだけ手に持ち、相手のコックピット目掛け、投げる。

視界はコックピットのある胸部付近のセンサーカメラから内部のモニターへと映す。

胸部目掛けてその石を「衝撃発生間接」を活用し、勢いを着けて投げつける。

砕けた石により、一時的にセンサーカメラに映る視界を遮る事が出来る。



「俺の勝ちです!」



左腕をすぐ様引き、構え。

渾身の左ストレートを至近距離で打ち込む

しかし・・・倒れない



「甘い」

「なっ・・・」



衝撃発生間接を利用した左ストレートを銀輔の機体は「左掌」を突き出し止めた。

相手もそれを読み、一瞬の内に予測をし、間接を使い掌を突き出したのだろうか。



「相手の視界を潰す、良い考えだ。だがな、機兵の視界回復速度を勉強し直すべきだ」

「うわっ!」



手をつかまれた状態からの蹴り。

再度走る強い衝撃。

何メートル吹き飛ばされただろう



「・・・ふむ、夜間演習はここまでにしておこう。3人全員を2周ほど相手したはずだ。」

「ちょっと待ってくれませんか?」



正宗から降りた後、怜治が降りた後の正宗へと近づく

そして忠司の頭を撫でてから、正宗のコックピットへと飛び乗る。



「俺と最後に一戦してくれませんか。ちょっと、今なら少佐を倒せそうな気がするんですよ」

「ほう?伍長が模擬戦でわしを打ち倒した事があったか?」

「無いっすねぇ、だけど今回ばっかりは、見えた。」

「面白い、一戦だ、一戦だけやってやろう」



ハッチを閉じ、構える怜治の乗った正宗。

それと対峙するのは仁王立ちする銀輔の正宗。

忠司と怜奈、二人は離れた場所から見ていた。



「兄さん、ホントに見えたのかな」

「何が見えたんだろ」

「さぁ?」



話している間にも、とても速い格闘戦が行われていた。

気を緩めれば、一撃が決まる。

打ち、避け、高速の繰り返し。

間接の機能を使わない、いや、「使えない」のが正しい。

構えるまでの動作の間に一撃を入れられれば連撃にねじ込まれる。

低威力だが、手数の戦いだ。



「よくついてこれるな」

「喋ってるっ・・・ヒマが!ありますかァ!?」

「それは貴様だ、怜治伍長」

「ぬわっ!」



足払いをかけられ、その場に倒れる怜治の正宗。

その上から足で踏み、立ち上がれないように固定し、腕の間接を機動させる。

一撃が入りそうなその瞬間。



「何をッ!?」



銀輔の機体が宙を舞う。

しっかり、目視が出来た。

怜治の機体が腕の関節機構を発動させ、逆立ちからの飛び蹴り。

間接をバネにした「弾丸のような蹴り」だ。



「まだまだ行く!!」

「おのれ!!」



すぐ様立ち上がった銀輔の正宗は拳を構え、走りこむ。

対する怜治も構えなおし、突撃をする。



「やっぱ・・・こうなるか」

「・・・フン、貴様など及ばん」



拳同士がぶつかり、双方、後ろへと飛びのく



「これ以上やっても無駄ではないか?」

「少佐殿」

「ぬ?」

「これは「夜間緊急発進(スクランブル)演習」であり「現地で武器を調達するのは、有りなんですよね」

「ああ、ただし今回は訓練用正宗だ。だから銃は禁止だ。」

「・・・そうか」



怜治の正宗はしゃがみ、手を動かす。

まるで足元に「何か」が落ちていて「何か」を拾おうとする動きだ。



「・・・チィッ・・・さすがに正宗はカメラの位置が悪すぎる」



旋回し、後ろを向く

正宗の胸部カメラでは正面と左右が映る。

つまり瞬時に背面を見る事が不可能である。

その為、後ろを見る為には少し腰間接を回すか、後ろを向くしか無い。



「おや?終わりかね。」

「まだまだ!」



何かを見つけたのか走り出す

当然、銀輔は追う、が・・・



「追いつけん・・・!?」

「この手なら行けるぜ!」

「まさか・・・背部の・・・」



正宗には加速用に一機だけ背部の中央に「ブースター」を搭載している。

しかしこれを使うと二足歩行限定の正宗ではバランスが悪くなる為、ほぼ空中からの降下用でしか使われない。

その使うに難しいブースターを使い、怜治の正宗は走っていた。



「おおっと!」



倒れそうになるが、何かに手を着く。

鉄骨だ。



「コイツはいいねえ」



鉄骨を握ると、振り向く

銀輔の機体は間接機能を溜め、打ち砕く準備をしていた。



「剣の達人相手に剣術で挑むというのかね」

「・・・いいや、剣術ではありません・・・」



一気にブースターを使い、接近。

ブースター残量が低下している警告が出ているが、気にも留めない。

残量が切れても「走る」

そして一気に鉄骨を振り下ろす



「ふん・・・だから言っただろう、何時までたってもヒヨコだな、伍長」

「少佐?打ち砕けてませんよ!」

「何ィ・・・」



銀輔の正宗の横腹を鉄骨で思い切り打つ。

体勢が崩れたところで、「左掌」に鉄骨を乗せ、右肩を突く

間接機能と砕かれ、鋭くなった鉄骨を利用した、刺突攻撃だ。

銀輔の正宗のモニターに表示されている文字は「右腕、停止」

左手を挙げ、降参をする銀輔がハッチを開け、降りてきた。



「見事だな。怜治伍長。」

「お褒めに預かり光栄です、少佐」

「オイ、ヒヨコ共!!!」



ビクッ、と震え、忠司と怜奈は銀輔と怜治の居る場所へと走る。



「相手に背を向ける事、それは武士であらば、負けを意味する。だが、わしは侍だが、貴様等ヒヨコは、軍人のヒヨコだ」

「侍って自負あったんですね少さ」

「しっ」



怜治を黙らせる怜奈。

幸い、銀輔は聞いていないようだ。



「今の伍長の動きのように、臨機応変に動けるようになれ。それが生存への一歩だ。いいな?」

「「「了解!!!」」」



敬礼をし、銀輔の目を3人は見る。

心なしか、銀輔の目は笑っているような気がした。



「いいか、貴様等3人は決して同じ部隊に配属される、とは限らない。伍長なら分かるであろう。」

「はっ」

「偶然にも組んだ他のヒヨコに背を向けた行動を(わら)われ、愚弄されるかもしれん。だが、誇れ。もう昔の戦争とは違う。」

「昔・・・?」

「・・・ああ、わしの、わし等の先祖が起こした2度の過ちだ。其の頃は「敵前逃亡は死罪」だったらしい。だが今は違う」



咳払いをし、間を置く銀輔。



「誇れ。戦争(たたかい)が終わったならば戦場(そこ)に立っていることを。どんな手を使ってでも、生き延びろ。」

「正面向くだけが戦いじゃない、って事ですね」



忠司の発言に頷く。

そして敬礼をしてから、銀輔は去っていった。

その後・・・三人



「・・・がぁぁぁ・・・疲れた」

「シャワー浴びて寝たいわ・・・」

「・・・特に疲れたのは俺だ。あのブースター使うのは結構クるぞ。腰とか、肩とか」

「・・・どんな手を使ってでも、生き延びろ、か」

「確かにさっきみたいな武器も無い状況だったら、少し逃げてでも勝たなきゃ、殺されちゃう」

「全くだ。幸い、俺が伍長に上がるまでの間、緊急出撃(スクランブル)なんて無かったがな」



歩いて戻っていく3人

しかし、忠司が気づく

正宗だ



「・・・あのさ、少佐の使った正宗って・・・肩に鉄骨刺さったんだよね」

「・・・そうだな、刺さったな。というかブッ刺したな」

「この場合って・・・修理班?」

「金とか取るのかな、弁償」

「少佐・・・」

「よ、よーし!さっさと帰って整備整備!怜奈、戻ろう!」

「そ、そうね!」

「お、おい!お前等!先輩を無視するっていうのは・・・」



急いで逃げていく二人を追わず、深く溜息を吐く。

それは二人に対する呆れでも無ければ、怒りでもない。

ただ、考えていた



「銀輔少佐・・・アンタは、何を考えてあんなことを新兵2人に言ったんだ?」



[生き延びろ]

この一言が引っかかっていたのだ。

怜治が伍長に上がる前には、そんな事を演習後に言う事など無かった。

任務前に何人もの兵士の前で怒鳴り声で言う事はあったが、たかが3人の前で、冷静な声でそう言った事など、一度もない。



「・・・アンタは何を・・・・・・いや、考えてもしょうがないな。さーて、俺も戻っか。・・・の前に」



後ろを振り向く。

見事に傷だらけの機兵が二体。

片方は腕に大損傷だ。

訓練用とはいえ、機兵は高い。

また、大きく溜息を吐く怜治。

これも呆れでも怒りでもなければ、「落ち込み」だ。



「俺の給料で、足りるか・・・?」

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