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第三話

 集落に響く笛と打楽器の音。暫くの時間を潰し終えた3人は待ってましたとばかりに始まった宴会で、大木の切り株を利用して作られた壇上で村長の格式的な挨拶を受けていた。


 もちろん、エルフの格式など知らない3人は挨拶が有ると知った時に、そのことについて他の見知った面々に色々と聞いて回ったのだが、他の種族の人はこちらに合わせる必要は無く失礼にならないようにすればいいと言われただけである。


 よって、シロノを除く2人が取った行動は片膝をつき、頭を垂れるという分かりやすい恰好である。なお、シロノは丁度いい位置になった悠司の肩に座っている。


「では、人族の客人よ。今日は楽しんでくれ」

「お言葉に甘えて」


 そう締めくくられ、2人が立ち上がった次の瞬間には村長は大テーブルの上の皿に盛られた肉の山に突撃するところだった。そんな村長に苦笑を洩らしつつも自分たちも近くのテーブルに行く。


「しかし、宴会とは言えこの量の肉はどこから出てきたんだ?狩るにしてもこんなに取れば絶滅しそうだし」

「その辺はちゃんとわきまえているだろう。森の生態系を崩さないのも森の保護に繋がる。住処であり良き隣人である森をエルフが害することは無いだろうからな」


 自分たちも食べるだけの量を皿に盛ると、村長が突撃していったテーブルの肉の量について俊紀が疑問を放つ。それに対し、良くあるファンタジーのエルフの設定を持ちだして説明のようなものを始める悠司だが、実際ALOで使われている設定がそうなっているので間違っていない。


 なお、山のように盛られている肉については村の貯蔵庫から取り出した物や宴の準備をしている間に取って来たものなどであるが、それでも少々納得のいかないくらいの大量である。


「しかし、人が増えたな」

「他の集落からも来てるんじゃないか?これだけドンチャン騒いでれば近くの集落には聞こえるだろうし」


 宴の影響か、集落にたどり着いた時よりも賑やかになった広場の片隅に腰をおろし、皿に盛った肉と少量の野菜を口に運ぶ。


 俊紀と悠司は余り気が付いていないことだが、この世界に飛ばされてから今まで宿で出てくる料理やギルドの食堂、もしくは屋台で食事を済ませることが多かっただけに、こちらの世界で大量の肉を食べる機会は今回が初めてだったりする。それに気が付いていないのは元々頻繁に肉を食べると言う訳では無かったのが関係しているだろう。


 時折話しかけてくるエルフ達と他愛のない会話をしながら料理の盛られたテーブルを回る。最初に肉が運ばれてきたため、宴会では肉を主に食べるのかと思えば、時間が経つと同じテーブルでもスープ類や穀物の類が並んできている。


 初めに肉類にがっついてから時間が経って軽いものを食べると言うのがエルフ流の宴のようだ。とはいっても、他の集落でも同じかどうかは定かではない。


 なお、シロノはいつの間にか皿を空にしたと思ったら姿を消し、また何かを食べると言う状態を繰り返し、声をかけてくるエルフそっちのけで、既にその小さな体のどこに食べた物が収まっているのか不思議なほどに食べ続けている。


「色々と並び始めたな。最初を控えめにしたのは正解だったか?」

「こっちのスープうまいぞー」


 それぞれ満腹感を覚え始めると、宴が始まった時から絶えず音楽を奏でている一風変わった格好のエルフ達の近くへ行き音楽を聴きながら軽いものを食べていく。


 なお、肉はもちろんスープやその他様々な物に至るまで文明が発達していないと思われるような森の中とは思えないほど料理の味付けは繊細で深いものである。一部の身分の高い人間が催すようなパーティ等を除けば恐らくエルフの味付けの方が上回っていると言える。


 それと言うのも宴の度に酒を飲む者が多く、その都度色々な酒を飲むためこの料理はこの酒には合わない、この酒を飲むときはこういう味付けの方が良い、など色々と要望のような文句が飛び交ったため多彩な味付けが出来あがったのだ。


「しかしまあ、これだけ騒いでよく魔物が寄って来ないものだ」

「さっき周辺の魔物を駆逐するのを兼ねて狩りをさせていたからな」


 皿に乗っていた最後の燻製肉の咀嚼を終えて呟いた悠司に言葉を返したのは多少酒臭くなった村長、オルムだ。


 彼がどれほど飲んでいるのかはわからないが、手に何も持たずに3人のところに来ているので絡み酒を食わせるわけではなさそうだ。


「一体どうしたんですか?わざわざ俺達のところまで来て……」

「さっきは余り話せなかったからな。仮にもここの村長だ。色々と話すこともある」


 顔を赤くして酔っているにも関わらず、真面目な顔で話し始めるオルムは話し易い人柄を前に出しつつも、集落内の指導者である厳格さを滲ませつつ静かに話を始める。


「ここに住んでいるエルフ達には言っていないことだが、お前たちが行こうとしている山の様子がおかしい。こんな場所からでは何となくの気配くらいしか察知することはできないが、最近はほぼ完全に生態系が安定していると言っていい中腹から頂上にかけて落ちつきが無い。分かりやすく言うなら何かに慌てているような気もする」

「……つまり?」

「何か大きなことが起ころうとしているか、その原因を野生の勘と言う奴で察知しているのかもしれない」


 基本的に山に居る魔物、種族は動物をモチーフにしたようなファンタジー的に言うなら獣人と言う種族が住んでいる。オルムも言っているようにもちろん人族の仲間に当たりながら本質に獣が入っている以上野性的な感覚は個々の種族で優れている者が有る。


 その中でも中腹を過ぎればその優れた能力は著しく特化されていることもあり何かしらの異常行動を示し始めているのは恐らくその一部の種族なのだろう。


 山からかなり離れた樹海の中から山の様子が何となくでも分かるオルムもオルムであるが、不確定的な物に対し敏感な反応を示すまだ見ぬ獣人たちもかなりのものであると言えるだろう。


「……確かにその可能性も高いな、こっちに何か近付いてきている」

「何ッ!?」


 悠司が何気なく言った異常事態にオルムが目を見開いて驚くが、俊紀と悠司、シロノの3人は至って平常運転だ。


 しかし、村長の大声に何人かのエルフが反応し悠司達の元へ近付いてきている。


「見えるか?」

「ああ。あれは……霊鳥の一種だろうな。ガルーダにも似てるが翼の形が違う。知能も低そうだし劣化種だろう。……お前の射程に入るまであと10秒程度だな」


 その言葉を聞いている間に悠司は迎撃用の弓を生成する。矢を生成した時点で周りのエルフ達が騒ぎ始めるが、オルムの黙って見ていろ、の一言で静かになる。


 造り出された大型の弓はALO内ではその長射程からの狙撃と弓の大きさに恥じない矢の射出強度にある。グレートドラゴンを倒した時の数倍は射程圏内であり、悠司が使用する弓のスペックならガルーダの劣化種程度なら射程ギリギリでも確殺圏内だ。


「サポートは頼んだ」

「了解。5……3、2、1」

「《エアロツイスター》」


 風の補助を受け、撃ちだされた矢は俊紀と悠司以外誰にも見られること無くこちらに高速で向かってきていた霊鳥を撃墜する。


 矢が当たったことを確認してから十数秒後、飛んできた勢いが止まることなく木々をなぎ倒してきた霊鳥は俊紀によって無理矢理止められたのだった。






「いつから気が付いていたんだ?」

「村長さんが話しかけてくる数分前から、ですかね」

「あの場所に居たのはつまり……」

「狙いやすい位置だったからだ」

「何とも規格外な……」


 本来ならこんな樹海になど何の用もないであろう下級霊鳥の解体が済み、新たな料理として出されたスモークチキンに舌鼓を打ちながらまるでなんてことは無いとでも言うかのような2人の態度に呆れながら樽を空にする村長であった。

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