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第二話

 集落での暮らしの話しを聞かされながら歩くこと約10分ほど。かなり入り組んだ道なき道を歩いていたにも関わらず、無事にエルフの集落に辿り着くことが出来た。


 ALO及びこの世界のエルフの集落は、一定の範囲内で最も年齢の高い木を中心に木と木をつなぐように橋を建て、橋をつなぐ間に出来る木と木の間に家を建てる、ある種典型的とも言える集落であると言える。


 なお、それぞれの家は基本的に円柱に三角錐を積み上げたような形をしており、多くても3部屋程度、玄関らしき所は無く基本的には下足のまま出入りし、入口を塞いでいるものは扉ではなく暖簾のような布である。それらを見た俊紀達はと言えば、見慣れた様子で集落を見渡しているだけである。


「この集落は最近出来たのか?」

「ん?ああ、良くわかったな。子供たちが攫われた時に襲われた集落の生き残りや、他の集落から建築や作物の栽培の為に来てもらっているのが住んでいるんだ。ここと似たような場所は後4カ所くらいあってな。どれもあの橋の結構近くでさっきの俺達と同じような警備をしている」

「なるほどな。聞いた話だと全員殺されたとか聞いたもんだが」

「そうなった場所もいくつかある。生き残りの中には子供たちの父親や母親も居るだろうな。…だが」


 そこまで言って口をつぐむ。俊紀もそれに首を振い、それ以上言わなくても良いと言うことを言葉に出さずに伝える。子供たちが近くに居る今の場所でこれ以上話すのは気が引けると言うものだ。


「そういえば名前を言っていなかったな。俺はフェルムだ」


 少し暗くなった空気を変えようとしたのか、唐突に話題を名前に変えるエルフの男性。フェルムと名乗った彼はついさっき俊紀達が森に入ってすぐのところで先頭に立ち警告を出していた人物である。


「俺は俊紀。さっきから何も話さない奴が悠司で、そいつにくっ付いているのがシロノだ」

「そうか、よろしく。さっきから何も話さないから気になっていたが、いつもこうなのか?実は相手から話してくれないと、なかなか話しづらい性分でな……」

「周りに他人が居ると口をほとんど開かなくなるな。あとは何かのスイッチが入ると結構喋る」


 仲良さそうに話していた俊紀とフェルムの後ろを半ば空気と化しながら黙々と着いてきていた悠司達は歓迎されていないのではなく、ただ単に何も話さなかったから最初に何を言って良いのか分からず話しかけそこなっていただけだったようだ。なお、一切口を開いていなかった悠司は言わずもがな他人と話すのが苦手なだけである。シロノは出会った当初から無口なのでそこは割り切るしかない。


「しかし、珍しいな。大分前に来た人間の冒険者は集落を見るなり遅れているだのみすぼらしいだの言ってくれたものだが」

「ああ、中にはそういう奴もいるだろうな。確かに人間の国の建築技術から見れば遅れているかもしれないが、俺達から言わせれば技術なんて関係ないんだ」

「良くわからんな」

「この森の中に煉瓦造りの家なんかが有ったら合わないだろ?森の中に家を建てるならこっちの方が見てて楽しいんだ」

「そういうものなのか」


 雑談を挟みつつ、全て木造の建築物を歩くフェルムを含めた俊紀達4人。他の警備のエルフは既に他の場所で宴会の準備に回っている。現在4人が居る場所は集落の中心であろう大木の周囲をなぞるように床が建築されている場所である。そして、その大木のすぐ近くにある集落の中でも比較的大きい家がフェルムが3人を案内したかった場所である。


「長老、失礼します」

「おう、待っておったぞ」


 そう言って入口の暖簾らしきものをくぐりながら中に入ると、家の中は綺麗と言うよりかは閑散としているという表現が似合うくらいに物が少なく、集落内では珍しく2階建てであり1階から2階の天井が見えていることがそれを助長していると言える。元々明るい色の木材で建てられている家なので飾り気がなければ質素に見えてしまうのは仕方がないだろう。


 そんな寂しさが見える家の中でフェルムの声に反応し立ち上がった長老と呼ばれたエルフの男性は人間で言うところの中年に差し掛かった辺りの外見で長命種のエルフの中ではかなり若いと言える。そんな彼が集落内で長老と呼ばれているのはまだ集落自体が新しい上に周囲の集落から人を引っ張ってきたからだろう。


「それで、だ。……フェルム、俺普通に話しても良いか?」

「……うん」


 いかにも威厳がありますと言わんばかりに立ちあがり、まさに長老と言うような話し方をしていた彼の厳格な顔つきがいきなりヘニャリと緩くなったことと、暖簾をくぐるときに敬語を使っていたフェルムのまるで犬が鳴くときのような声での返事に思わず吹き出しそうになる俊紀と悠司。どうやら、長老と呼ばれた男性の方はこちらの方が素のようだ。


「さて、ようこそ。我が同族を助けてくれたことを感謝する。俺はオルムだ。一応長老なんて言われてるが、森の中央の方の長老たちからすれば俺なんてまだ子供みたいなもんだ。気軽に接してくれ」

「……、はい」


 随分とフランクな長老に苦笑いを浮かべながら答える俊紀。ALOでも確かにNPCと仲良くなればそれなりに接してくれるようにはなったが、ここまでフランクな長老は攻略サイトなどでも聞いたことが無い。


「既に聞いていると思うが、今日はこれから宴会だ。見たところそこまで急いでいるようにも見えないし、今日くらいは付き合ってくれるよな?」

「ええ、まあ。ただ、酒は勘弁してください」

「分かった。もう少し時間がかかるだろうから適当に集落を回っててくれ。宴会は俺の家の正面の大木の前でやるから適当な時間にファルムを迎えに行かせる」

「分かりました。それでは失礼します」


 長老の言葉を後に今にも吹き出しそうな3人は早々に引き揚げて行くのだった。








「ふぅ~、危なかった……」

「俺はもう少しでせき込むところだった」


 長老の家から離れ、適当な場所に腰をおろして先ほどの長老の家でのことを話す2人。シロノは訳が分からなさそうに首をかしげている。


「しかし、この世界のエルフは宴会が好きなのか?そういうのはドワーフのイメージが有ったんだが」

「どうなんだろうな。まあエルフ達からして見れば攫われた同族が無事に戻ってきたんだから少しくらいどんちゃん騒ぎがしたいんだろうよ。元の世界だって誘拐されて無事に戻ってくる人って少ないだろ?」

「……ニュースや新聞は見ないからな」

「そうですか……」


 実のところ、この世界のエルフは宴会が特別に好きと言う訳ではない。しかし、何か事あるごとに騒ぎたいという集団がいるのもまた事実である。今回は同族が無事に戻ってきたことで周りが納得すると言うことで騒ぐのが好きな集団が宴会を設定したのだ。ちなみにこの集落の長老も騒ぎたい人の1人だったりする。


「まあ宴会までは時間が有るらしいし、とりあえずこの集落を見て回らないか?」

「俺は今回使った転移アイテムの補充をするからその後で頼む」

「あー、流石に人数が多かったからそこそこ使ったしなぁ……」


 悠司の答えを聞くよりも前に立ちあがり観光する気満々だった俊紀だったが、悠司が返答しながら袋の中から取り出された転移アイテムの数は全部で11個。3人で使うにしても数が中途半端な上、これから行く山に生息するある特定の魔物から逃げるとなると少々厳しい数であることを知り、渋い顔をしながら仕方がないとばかりにその場に再び座り込む。


「作業中は登山のルートでも考えておいてくれ」

「分かった」


 適当に拾った木の棒で地面に図を書き始め、頂上に行くのに最適なルートを考え始める俊紀だった。

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