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第二十三話

「あっ」

「どうした?」

「地下通路に貫通した」


 掘り始めて数分すると俊紀が声を上げて地下通路らしき石造りの空間に掘り進んでいた穴が貫通したことを知らせる。地下通路と判断したのは部屋と考えるには狭すぎる幅に、空間が細長くのびていたからだ。


「生体反応は?」

「向こう側から近付いてくるのが1つ。反対側に攫われた人達がいるだろう」


 降りて来た悠司に俊紀が聞くと、伸びている空間の片方を向きながら答える。その反対側に攫われた人達であろう多数の生体反応が有るのを確認済みである。


「なら、犯人が来る前に先回りしよう」

「わかった、急ぐぞ」


 俊紀達は現在近付いてきている反応を元に地下を掘り進み、この屋敷に住む貴族であろう人物をその場で無力化しようと考えていたのだが、これはこれで良い状況だと言うことで近づいてくる反応から離れる形で攫われた人達の居る方向へと向かう。


 地下通路はそこまで長くなかったようで、数十秒ほど走ったところで通路と同じ石造りの扉が見えてくる。


「……入るのか?」

「いや、ここであちらさんを無力化する。その後に扉の奥にいる人達から話を聞いてみる」

「分かった」


 悠司は俊紀の提案に頷き、その場で待つこと約十数分。貴族にしては若く、格好こそそれらしい物のごろつきのような雰囲気を纏った男が息を切らせて向かってくる。この男が奴隷商人の言っていた成り上がりの貴族だろう。


「お前らどこから入った?俺は貴族だぞ、こんなことをして無事で済むと思っているのか?」

「違法な奴隷の取引、大量虐殺、誘拐……、これだけのことをしておいて噂も立たないとでも思っているのか?」

「知らんな」


 俊紀の言葉に自分はさも何もしていないと言う風に答える男。そんな様子の男に今度は悠司が口を開く。


「冒険者ギルドの依頼でお前を拘束しに来た。奴隷商人から全て聞いたし、こっちも被害を被っているからな」

「ん?……ほぅ?」


 男は悠司の言葉に不思議そうな顔で視線を動かすと、シロノが目に入ったところで卑下た笑みを浮かべる。そして、何か思いついたかのように口を開く。


「そうだ、そいつを置いて行ったらお前らのことは見逃してやろう」

「……それはお前が奴隷商人から子供を買ったと言うことで良いんだな?」

「話しても無駄だろう。強行手段だ」


 男の言葉に質問を返す俊紀だが、そんなことをしても意味はないだろうと判断した悠司が強行手段に出る。


「……」

「ふん。残念だったな。俺に攻撃は効かん。このマジックアイテムはいかなる攻撃も届く前に無力化するんだ。大人しくするならまだ見逃してやる。さあ、どうする?」


 悠司の投げた麻痺毒の塗られたナイフが男の正面で見えない壁に弾かれるように床に転がる。それを見て眉間にしわを寄せた悠司に嘲笑うように男が紫色の宝石のようなものを見せつけながら自慢げに説明をする。


「だ、そうだ俊紀」

「ふーん」


 悠司はそれを鼻で笑った後、俊紀に話をふる。予想とは全く違った反応に男は意味のわからなさそうな表情でそのやり取りを見ている。


「余裕ぶっている場合なのか?俺はこのマジックアイテムが有る限り―――うぐっ!?」

「まあ精々こんなもんだろうな」

「な、何で攻撃が、とお……」


 男が俊紀達など問題にならないと言う表情でマジックアイテムを再び見せつけ話し始めたところで俊紀が接近し、手を握って真っ直ぐに突き出すとガラスが割れるような音と共にマジックアイテムが砕け、男の鳩尾(みぞおち)のあたりに拳がめり込み気絶する。


 最後まで訳が分からなかったような顔で気絶した男だが、攻撃が通った理由は意外と簡単な話である。


 男が攻撃をあらゆる攻撃を無効化して自分を守ってくれると信じて疑わなかったものは、ダメージを肩代わりするだけのマジックアイテムであり肩代わり出来るダメージを超過すればその分のダメージはもちろん通る。それだけのことである。


 もちろん悠司にも作成可能だが、作るのにかかる時間のわりに効果が俊紀のパンチ1発すら無効化できない微妙なものであるため、大したメリットは無いと作っていない。また、複数個持っていても肩代わりするダメージが増えるわけでもなく、ダメージを受ければ同時に壊れる。


「自分の持っているアイテムの効果も知らないでそれを信じきった挙句、慢心して何の変哲もないパンチ1発で沈められる奴ってどう思う?」

「RPGのボスだったらがっかりだな」





 男を簀巻きにしてから自分たちの後ろにある石造りの扉を開ける。扉の奥には連れてこられた時から体を洗ったり着替えたりしていないのか、薄汚れた格好で自分の体を抱き寄せて眠っていたり、すすり泣く少女の姿が飛びこんでくる。


 そんな状態でも誰1人としてやせ細っていたり病気にかかった様子は無い所を見ると食事と最低限の衛生は守られていたようだ。


「……おにいさんたち、誰?」

「冒険者だ。そこに転がっている貴族を捕まえに来たんだ」

「助けにきたの?」

「ああ」


 そんな状況の部屋の中に顔を顰めていた俊紀達だったが、比較的年齢の高そうなエルフの少女が話しかけてきたため、俊紀がそれに答える。体格的にはシロノと余り変わらず、人間なら年齢が2桁を越えたあたりだろうか。


 助けに来た、という言葉に目の前の少女は目を輝かせて喜びを露わにする。その周りに居た少女達からも喜びの声が上がる。なお悠司は俊紀の陰に回り目立たないようにしている。なんだかんだいってまだ子供は苦手なようだ。


「さて、外に運ぶのは簡単だが連れだしたとしてどうするんだ?全員ギルドに連れて行くのか?」

「……こいつを運ぶついでにそれでいいんじゃないか?」

「だが大半がエルフだぞ?」


 捕まっていた少女たちはほとんどがエルフであり、人間の子供はあまりいない。しかし、エルフの少女を集落に戻そうにもその集落は既に無人で荒れ果ててしまっている。


 かといって、いきなり人間の多い王都ランゲンに連れて行くのも少人数の暮らしを主としているエルフにとっては無駄なストレスを与えかねないのもまた事実である。


「この屋敷に住まわせるって言うのもアレだしな……」

「まあ出来ればこんな場所からとっとと出て行きたいだろう」

「えっと、あの……」


 少女たちを連れだした後のことを考え、行き詰ってしまった俊紀達に先ほどのエルフの少女が話しかけてくる。


「ん?どうした?」

「人が多いのは大丈夫です」

「気を使わなくても良いんだぞ」

「えっと、ここも人はたくさん居たから……」


 控えめに主張する少女に俊紀が対応するが、少女の反応から問題は無いだろうと判断する。


「それなら移動しよう。とりあえずこれで依頼も達成か?」

「そうだな。……そういえばギルドに飛び込んできたエルフの子供が居たな、何て名前だったっけ?」


 転移アイテムを取り出したところで俊紀が口を開く。彼ら自身忘れかけていたことだが、ギルドの依頼とは別にギルドに飛び込んできたエルフの少年からのお願いでもここに来ていたのだ。


 しかし、呆れたことに俊紀達はその少年の名前と、助けてほしいと言われたその少年の妹の名前すらも忘れてしまっている。


「……ん?どうした?」

「ユーヤと、ユーカ」

「……?」

「名前」


 首をかしげて名前を思いだそうとしている悠司の服の裾を引っ張り、シロノがギルドに飛び込んできたエルフの少年の名前と探してほしいと頼まれたその妹の名前を伝える。


「ユーヤ?」


 それを聞いていたのか、周りでここまでの会話を聞いていただけのエルフの少女のうちの1人が思わずと言った様子でその名前を口に出す。


「君がユーカ?」

「……うん」


 そのエルフの少女、ユーカに俊紀が目線を合わせて対応をする。


「君のお兄さんがね、君を探してきてくれってお願いしてきたんだ」

「本当?」

「ああ」


 シロノが教えなければ忘れていたというのにこの対応である。どことなく冷めたような表情で悠司が俊紀のことを見ているが、気にもしていない。


「さて、探し人も見つけたし、早く出ようぜ!」

「……ああ」


 何とも清々しい顔で言う俊紀に、悠司は色々と言いたいことが有りそうな顔で転移アイテムを起動し、20人を超える大人数でランゲンのギルド前まで移動をするのだった。

多少無理矢理感が有りますが、次回二章エピローグになります。

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