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第二十二話

「本当にこの辺なのか?」

「取引場所はな」


 夕方の亜人の大陸の広大な森の中。その森に入り暫く言ったところで大陸と大陸の間に流れる大河が見える辺りの場所にいかにも何か有りますと言わんばかりの開けた場所が有る。ここに飛行船を泊めていたのだろう。


「何だ、犯人の居場所が分かったわけじゃないのか?」

「当たり前だ。後ろめたいことをしているのにその取引場所に直接データが残るような方法で行く奴が居てたまるか」


 森の中なので少しは分かり辛い場所ではあるが、俊紀、悠司の2人からすればこんなところにこんな分かりやすく証拠を残すなと説教を含めて色々と言いたいことが有るが、自分達が犯罪に加担したいわけでは無いので犯人を捕まえたところで黙って引きずって行く事だろう。


「で、居場所は分かってるのか?」

「それをこれから探して、その上でそこに行くつもりだから夜になると言ったんだ」

「夜になると言ってたわりに着くのが早いと思ったらそうだったのか」

「ああ」


 双方の誤解を解いたところで今回の犯人、成り上がりの貴族が居るであろう建物を探す作業に入る俊紀。と言っても足を動かすわけではなく例のごとく探知系の魔法を使うだけなのだが。


 実際のことを言ってしまえば、この世界の魔法やマジックアイテムの技術で彼らに探知を実行されると逃れる術は無い。それは彼らが規格外だからというのも1つの要因ではあるが、こちらの世界のマジックアイテムを含む魔法系の探知妨害は上位の物になるほど妨害効果こそ高くはなるが、妨害自体の隠蔽は荒くなる。


 では、その隠蔽が荒くなるとどうなるのか、というと奴隷商人の屋敷の時のように人によっては見て分かるくらいには空間のひずみなどが発生する。上質紙と和紙くらいの違いではあるが、それでも彼らの探知能力からしてみれば普通に分かる違いである。


 なおこちらの世界でも探知妨害と妨害隠蔽両方に優れた結界を張れるマジックアイテムは存在する。しかし、貴重品であるためまず出回ることが無い。そのため、別の手段として探知妨害の結界に重ねて妨害隠蔽の結界を張るという手段が有る。


 基本的に後者が良く使われる手段であり、今回もこれが使われているのだが前者に比べるとその効果は薄い。だが、どちらの方法であれALOの生産メインの廃人プレイヤーでも無ければ彼らを誤魔化すことは出来ないのだが。


「よし、発見だ。少し遠いがお前の言った通り夜には着きそうだ」

「分かった、急ぐぞ」


 俊紀が探知範囲を半径50キロメートル程に拡大したあたりで探知妨害が施されている場所を見つける。方向に大体の当たりをつけると駆け出した俊紀を悠司がシロノを引っ張り追い掛ける形で森の中を走って行く。


 ちなみに悠司がシロノの手を引いて走っているのでその速さでシロノの足が浮き、風に吹かれる旗のようになっている。普通の人間なら肩が外れること間違いなしだが、そうならない辺りシロノも規格外の存在ということになるかもしれない。もっともシロノの肩が外れないのには悠司の絶妙な力加減と走る技術も関わってきているのだが。


 しかし1度きっかけのようなものが有ったとはいえ、こうも苦手なはずの子供に触れることが出来るようになっているのにはALOの時のステータスの影響もあるのだろう。


「しかし、何でこっちの世界は結界やらの隠蔽が下手なのかね?」

「今までこの程度で隠せていたなら、隠蔽する側が発展しなくてもおかしくは無いだろう。この世界の隠蔽技術が下手なのもあるが、それ以上に探知がお粗末なんだろう」

「そういうもんかなぁ……」


 走りながら何処か残念そうにつぶやく俊紀。ちなみに悠司の言ったことはそこまで間違っていない。


 こちらの世界の探知魔法が弱いのは妨害系の物によって封殺されていることに気が付いていないからだ。劣っていることに気がつかないのなら強くしようと言う気も沸き辛いだろう。


 向上心が無いわけではないが、人間は人より劣っていると思った方が向上心は高いだろう。


 なお、探知魔法の発展に関しては今回の彼らの活躍と、ギルドへの報告で大きく前進することになるのは後々の話である。











 日が完全に落ちたころ、僅かに空間にズレが生じている場所で3人の足が止まる。そのままゆっくりとそのズレに逆らわないように内部へと侵入する。


 結界をくぐったところで周りの景色も空気も変わるわけではないが俊紀と悠司はどことなく真剣な顔になって正面に建つ屋敷へと進んでいく。シロノは無表情、と言うよりは何か興味深そうな顔で辺りを見回している。結界に興味を持っているのかもしれない。


「周りに罠は無いぞ」

「分かった。流石に何か用意していると思ったが、こっちの世界の犯罪者って言うのはどうにも爪が甘いと言うか何と言うか」

「まあそういうのは置いておこう。これから突入するのは当然として、どうする?」


 森の中に建っているにしてはやけに豪華になっている屋敷を指差しながら俊紀が悠司に聞く。彼の聞いているどうする、と言うのはどうやって突入するかなのだが、どう突入したところで自分達の勝利が確定しているため、2人して悪魔もびっくりな真っ黒な笑みを浮かべている。遊ぶ気満々である。


「周りに隔離結界を張った上で正面から突っ込むか」

「それは本当に正面から突っ込むって言えるのか?」

「細かいことは良いんだよ。最終的に捕まえればいいんだから」


 などと数分作戦会議のようなものを続けた結果、やりたいようにやると言う方針で固まったのだった。なお、作戦会議もどきが始まった時点で隔離結界は既に張られていた。


 そして、結局彼らがどのように突入して言ったのかと言うと、


「こんばんはー!殴りこみに来ましたー!メガインパクト!」


 俊紀が挨拶のようなものと共に武術家の中級アーツで玄関扉を鍵と扉強化用の防護壁ごと破壊したのである。


 扉とその周りの壁が粉砕され、ロビーにまで突っ込んで言った瓦礫は豪華そうな絨毯をズタズタに引き裂いている。


「悠司、中に生体反応は?」

「結構多いぞ。1つを除いて全て地下だが、その1つも地下に向かってるな」

「……急ごう。人質に取られでもしたら厄介だ」

「了解」


 俊紀が悠司に屋敷内の生体反応の状況を聞くと、よくありがちな答えが返ってくる。基本的にどこの世界に行っても奴隷は地下に閉じ込めるのがお約束か何かになっているらしい。


 さてお約束は置いておいて、数が数だけに人質に取られれば流石の俊紀達と言えども少しばかり面倒になる。具体的には攻撃の余波などが人質に及ばないように相手を無力化しなくてはならない点と、人質に取られる前に助けることが出来れば屋敷の崩壊による奴隷たちへの被害を防ぐことが出来る。


「地下への階段は見つからないのか?」

「今探してる。割と広めの屋敷だから1カ所だけってことは無いはずなんだが……」


 辺りを見回しても、奴隷商人の屋敷のようにあっさりとは地下に続く階段が発見できないことに焦りを感じ始める俊紀達。その間も地上にあった反応は確実に地下へと向かっており、かなりまずい状況で有ると言える。


 一応奴隷商人の屋敷も地下に行くための階段はこちらの世界にしてはかなり巧妙な手段で隠されていたのだが、シロノの魔法によって内側から壊されたためにあっさりと見つけることが出来たのだ。今回はそんなこともないため、自力で見つける必要がある。


「……地下までぶち抜くか」

「は?」

「時間も余りないことを考えると、成り上がりの貴族であろう地下に向かっている生体反応に向かって掘り進めば簡単に着くはずだ。と言う訳で頼んだ」

「……まあいいけどさ」


 先ほど盛大に玄関を破壊しておきながら俊紀は悠司の言葉に納得いかない顔で頷くと、初級アーツを絶妙な力のコントロールで、破壊範囲を前へと伸ばしながら掘り進む俊紀。その後を地面に杭で固定したロープを引きながら進んでいく悠司とシロノがついて行く。


 できれば屋敷の中にあるものを漁りながら進んで行きたかったと思いながら土にまみれて地下へと掘り進んでいく俊紀であった。

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