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第二十一話

 悠司が動力球を調べている頃、俊紀はシロノを連れてギルドに来ていた。


「これだけの数、一体どうしたんですか?」

「大分前に遺跡探索をした時に大群に襲われたもので」

「そうですか」


 遺跡探索をした時に大量の機械のパーツを確保しておいたことを街から出る前に思い出した俊紀はパーツをギルドに売りつけに来ていたのだ。


 職員には相当な数を出されたように言われているが、数は精々50程で俊紀達の持っている数からすればほんの一部である。


 なお、ここで俊紀の取りだしたパーツとはこちらを察知するためのセンサーや脚部の駆動パーツだったりする。彼らが後々必要になるだろうと思った、魔力から燃料を生成する魔力変換装置やエンジンにあたるものは出していない。


 なお、俊紀がキープしている魔力変換装置やエンジンは壊れやすいため研究資材としての価値が高く、仮に売れば数か月どころか数年は普通に暮らせるくらいの資金が手に入る。


 ゲームの時も同様でかなりの金額が手に入るので売れば資金の問題が無くなることが分かっているが、動力球を手に入れたのでそのうち秘密裏に飛行船を造ってしまおうと考えている(実際に造るのは悠司だが)ため、売りたくても売れないのだ。


「では買い取り金額はこちらになります」

「……確認しました。ありがとうございました」


 数分をかけてギルド職員が査定をし、見あった金額を俊紀に渡す。一応冒険者にとってはかなりの金額で、普通なら引退を考えてしまうほどなのだがそのあたりの基準がこちらの世界の住人とずれている俊紀はそんなこと考えてすらいない。精々拠点が手に入れられるかな、程度である。


 なお、今回の換金のせいで一時的にギルド内で現金が足りなくなりかけたのだが、国の研究施設にパーツを提供したところ品質と傷の少なさから俊紀達に渡した金額の数十倍の金が動くことになったのだが、この時点では俊紀どころかギルド職員すらそれを知らなかった。


「シロノの普段着を何着か見ておこうか」

「……ん」


 予想外に早く、多くの資金を手に入れることの出来た俊紀は、悠司に服を造ってもらってからずっとそれを着たままのシロノを見てそんなことを呟く。それが聞こえたシロノも一応思うところは有るのか控えめに頷いてみせる。


 そのままシロノを連れて商店街に行く俊紀だった。





「パスワードは設定されていないのか。あの商人は動力球が調べられる時のことを考えていなかったのか?」


 俊紀が大金を受け取り、その金でシロノの服を買いながら食べ歩きをしている頃、悠司は飛行船に使われていた動力球のセキュリティの甘さに若干怒りの色を滲ませ作業をしていた。


 ALO内では飛行船の動力球のセキュリティはそこまで重要ではなかったうえ、今回もただ単に行き先が分かる程度でしかないためパスワードの設定の必要性はそこまでないのだが、悠司としては何か許せない物が有るらしい。


「同じ場所にばかり行ってるな。1回1回場所が指定されるんじゃなく最初に指定された場所に行っていたのか」


 動力球の運用履歴を見ながら呟く俊紀。数十回の飛行履歴があり飛行速度と時間に差は有るがその全てがほぼ同じ方向に進んでいる。


 どうせ持っているのだから取引先に行くとき以外に使ってもバチは当たらないのではないだろうかと考えながら、いつの間にか用意していた電卓で移動速度と時間から距離を割り出し、それをこれまたいつ取り出したのか分からないメモ帳に書き込んでいく。


「……終わったな。似たようなクエストはALOにも有ったが、動力球の解析が本番だったんだがなぁ」


 真顔で呟き、あっさり作業の終わったことに頭を抱え内心複雑になる悠司。難易度の低いクエストでさえ飛行船の関わってくる物は動力球のパスワード解析に10分はかかる。


 その上、移動先を分かり辛くするために複雑な航路を取り、飛行船から降りてから徒歩で移動しては再び飛行船を使用するのを繰り返したりするため場所の割り出しに非常に手間がかかるので動力球はパスワードを解いてからが本番だと言われたりしていたのだ。


 ゲームの時でさえそれなのだから、露見すれば確実に手が後ろに回る類のかなり真っ黒なことをした貴族と、それに手慣れているらしい奴隷商人ともなれば相当手が込んだことをしていると思っていたため、悠司は拍子抜けどころか頭を抱えて唸っているのだ。


『俊紀、こっちは終わったぞ。そっちは?』

『こっちも終わってる。お前の方もやけに早かったな。何か有ったのか?』

『何かあったというか、無かったというか。今はどこに居るんだ?』

『商店街だ。遺跡の時に見つけたパーツ売ったら予想外の収入になってな。色々と買い足したりしてるところだ』

『分かった。今から行く』

『了解』


 通信機のようなものでやり取りをすると、動力球を容量無限の鞄に突っ込み出掛ける準備をする悠司。わずかな時間さえあればいつの間にかスキルを使用して物を造っているあたり、普通の冒険者などからすれば一体どれだけMPが余っているんだという話である。


 戦闘時における魔法使い及びその他魔法を使える人物というのはパーティー内でのメイン火力になる傾向が強い。よって移動時や野営時のMPの消費は極力抑えるべきであり、本来なら間違っても悠司のようにその時に必要になったからと言ってわざわざMPを消費してまで物を用意することはまずあり得ないということを念頭に置いておいてほしい。





「悠司、こっちだ」

「……買い足していると言っていたからその荷物については聞かないが、シロノが持っているその串の束は何だ?」


 悠司が俊紀から大体の現在位置を聞きながら商店街を歩いていると、先に俊紀が悠司の事を見つけたようで手を振りながら名前を呼ぶ。


 無事に合流をした悠司は事前の俊紀の報告が有ったので荷物に関しては特にこれと言って文句はなく、それよりも気になったのがシロノが何故か大事そうに持っている、何の変哲もない木製の、良く屋台で串焼きを売るときに使うときの串の束だ。その数は20本近くはあるだろうか。


「食べ歩きの後だ」

「何で持ったままなんだ?」

「……要る」


 あっけらかんと答えた俊紀の言葉に、悠司がシロノの手を指差しながら聞き返すとそれにシロノが答える。


「……使うなら良いが、怪我しないように先端は削ってから使うようにな」

「ん」


 シロノがどう使って遊ぶのかは知らないが、とりあえず怪我はしないように言っておく悠司。相変わらずほぼ単語で物を言うシロノではあるが、大体言いたいことは分かるので会話が成立している。


 なお、一番最初に遺跡で出会った時は古代の言葉では有ったがそれなりに喋っていたのでしっかりと現代語を教えれば単語で話すことは無くなるかもしれない。


「で、場所の特定は済んだんだよな?今から行くとしてどれくらいだ?」

「転移アイテムでブルネンに飛んでからなら夜には着く。場所は亜人の大陸内だが入国許可証もあるし普通に入れるな」


 悠司が自分達の移動速度と現在の時刻、それから移動距離を考えて大体のあたりをつける。


 当然のように言っているが、彼らが規格外の存在だと言うことを忘れてはいけない。転移アイテムを使うにしても、普通の人に夜には亜人の大陸まで行けると言ったところで鼻で笑われてお終いだ。


「じゃあ、これから行くか」

「お前らは食べ歩きをしたからともかく、俺はまだ朝食すら食べてないんだぞ。俺の飯が先だ」

「そうですか」


 この会話から約30分後、俊紀達は今回の依頼を達成すべく再びランゲンを出発するのだった。

予定より物凄く長くなっている第二章が漸く終わりそうです。

大体私が書きたいことを書いて行った結果、大幅に脱線したのが原因ですが(苦笑

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