第十八話
「アチチ……、酷い有様だな」
燃え盛る瓦礫を強烈な体当たりで吹き飛ばしてそのままの勢いで屋敷の中に転がり込む。ダメージこそ少ないものの熱さは軽減出来ないようで、服が燃えて露わになってしまった右肩を擦りながら呟く。
半壊している屋敷の中は見るも無残な状況でエントランスの中央には落ちてきたシャンデリアの残骸が転がり、2階へ続く階段は崩落している。その他いくつかの部屋の出入り口が瓦礫に埋まっており、先ほどの屋敷に突入した時のような無茶な手段を取らない限り先に進むことはできないだろう。
しかし、崩れた壁から瓦礫の奥が一部見え、その瓦礫の奥は特に破壊されたような痕跡が無いことから調べる必要はなさそうだと考え塞がった部屋はスルーして行く悠司。むしろ崩落度合いの大きい方へと向かっていく。
「地下があるのか……?」
屋敷の中を探索しているうちに元々は地下へと続いていた階段だったと思われる傾斜の付いた穴が見つかる。爆発は余程高温だったのか、残ったわずかな凹凸のみがその穴が階段だったのであろうことを物語っている。その周囲に瓦礫が集まっていることと内部から煙が出ていることから屋敷崩壊の原因となった爆発は地下から地上に向けて起きたのだろう。
見れば穴から一直線を描くように全ての天井を貫いて星のちりばめられた夜空が見える。
また、この爆発の原因も大体目星が付いている……、というよりそれをできるのがシロノ以外思い浮かばない以上、この奥にシロノが居ると当たりをつけどうやってこの穴を下ろうかと腕を組み考え始める。
(この先に行こうとしてもこれだけ内部が高温だとまともに歩けないな。冷やすにしても水だと文字通り焼け石に水だろうし、強力な冷却道具は俺は知らないから造れないしな……)
悠司のスキルの欠点の1つ、シンプルだがそれ故に致命的な物、知らない物は造れない。ALOでも物を熱する道具は数が多かったが、冷却用の道具は余り無かった。現実となっている今ならば存在はするのかもしれないがどちらにせよ見たことが無いので造ることはできない。
内部から流れてくる熱気は近寄るだけで息苦しくなるほどだ。通路付近は既に固まっているものの、爆発の中心部では地下室に使われている石材はまだ溶解したままだろう。その高温に加え、蒸発した石材を吸い込むことを考えれば人など短時間で命が危険にさらされる可能性が非常に高い。既に手遅れになっている可能性すらある。
(……考えている暇があったら、とっとと突っ込むべきだな)
穴の手前でうだうだと考えていた悠司だが、大きく息を吐くと自分の顔を叩き気を引き締め、口と鼻を覆うように布を巻くと穴の中へ走りだす。
超高温に触れた靴が一瞬で発火し悠司の足が炎に包まれるが、走る勢いで千切れ飛んで行ったため悠司いの足には火傷は見られない。しかし、熱した鉄板の上を進んでいるような状況には変化が無く、やはり熱いのか悠司は顔をしかめている。
走って10秒もすると、断続的に崩落音と爆発音が断続的に聞こえ同時に周囲が揺れていることを感じることが出来る。もっともそんなことは気にせず只管に走り続けている。揺れが大きくなり足をもつれさせると同時に通路は終わったようで扉の前を塞いでいたらしい瓦礫を吹き飛ばしながら盛大に転倒する。
「熱っつ!」
転倒して地面を転がった悠司だが、次の瞬間には熱さによって跳び起き足元に適当な熱耐性のある盾を造りそれを足場にする。崩落に注意しながらこの場に最適な靴を造りそれを履くと移動を開始する。もちろん向かうのは爆発と熱風のくる方向だ。
肌を撫でる熱風は火の粉を含みチリチリと肌を焼いて通り過ぎて行き、爆炎は天井を這うように迫りくる。それを先ほど足場にしていた盾で防ぎつつ何とか前進する。
「俺が言えたことじゃないかもしれないが、何と言う無茶苦茶な……。魔力は無尽蔵か?」
最低でも中級の魔法が礫を投げるかのように飛来する。それを避けながら呟く悠司だが顔からはいつもの何処か余裕をもった気取ったような感じが消え真剣そのものだ。
シロノはこちらに気が付いているのだろう。ただし、悠司として認識しているわけでは無く誘拐犯か何かとして見ている可能性が高い。十中八九あの奴隷商人と思わしき男が余計なことをしたに違いない。
「随分と厄介な……」
壁や天井を破壊しながら無数に飛んでくる魔法を避けながらじりじりと距離を詰めていた悠司だったが、突然飛来した的確に悠司の居る場所を狙った燃え盛る刀剣類に大きく横に転がって回避を試みるも、その行動すら見切ったかのように飛んできた電撃を纏った炎の槍が盾を貫き直撃する。
ダメージこそ少ないものの後ろに吹き飛ばされてしまった為、再び距離を詰めなければならない状態に愚痴でも言うかのように呟きが漏れる。耐久力を失った盾は光となって拡散し消えてなくなる。
破れて邪魔になった袖から先をちぎり取り、床に捨てる。音を立てて焼失した布には目もくれず、数分前とは違い的確に飛んでくる魔法を紙一重で避けながら前方へ駆け出す。
(見つけた……)
炎の壁を抜けると、周囲に数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの無数の魔法陣を展開しているシロノの姿が目に入る。見ればたった今抜けた炎の壁も魔法だったようだ。
先ほどまでいた燃え盛る地下と打って変わり、炎の壁の内側は平穏そのものだ。一瞬拍子抜けした悠司だがすぐに真剣な表情に戻ったのは無数の魔法陣の照準が自身へと向いたからだろう。
飛んでくる刀剣類を直撃コースの物のみ全く同じ武器、質、威力で相殺しながら、残りはかすり傷や切り傷を負いながらも前進を続ける。
「……」
シロノの前に到達すると攻撃が止む。悠司に顔を向けているシロノは気が動転しているのか怯えたように目の焦点が合わず小刻みに震えている。
「迎えに―――!」
「クリムゾン・エクスプロードカノン」
悠司が声をかけようとした瞬間、小さな白い手が悠司を捉え鈴のような声が呪文を唱える。
屋敷を半壊させた魔法と同等のレベルの物だろう。違う点と言えば本来爆発するために拡散するエネルギーをビーム状にして打ち出したことだろうか。紅蓮の炎は一瞬にして増幅を始め、前方へと放出される。シロノと悠司で身長差があるためやや上方へ撃ちだされた目が痛くなるほどの赤色をした魔法は天井を貫き、空を焼く。
真っ暗な外は一瞬夕方のように赤く染まり、放出が止まると何事も無かったかのようにまたその姿を月明かりが残るのみの闇へと戻す。
地下室は反動で嵐のような風が巻き起こり周りの炎を全て吹き飛ばすと瓦礫を粉砕しながら砂埃が舞い上がる。放出時間は1秒にも満たなかったが魔法の通った天井は蒸発し、大穴を開けている。それを確認すると目の前の目標を倒したと思い安心したのか、魔法を発動するために上げていた手を降ろし展開されたいた魔法陣が消える。
「……!!、エクス―――」
「俺が分かるか、シロノ」
しかし次の瞬間、砂埃の中から2本の腕が伸びシロノの両頬に手が添えられる。反射的に体を強張らせ前方に手を構え呪文を唱えようとする。が、聞きなれた声と自身の名前を呼ばれたことで途中で言葉が止まる。
砂埃が大体収まると、真っ直ぐにシロノを見つめる悠司の姿。自分の頬に添えられた両手の持ち主が悠司だと分かると、いつもは無表情の顔をくしゃりとさせ、大粒の涙をこぼしながら抱きつく。
「待たせたな、帰ろうか」
飛びついて来たシロノを優しく抱きかかえると、そう言ってシロノが魔法で開けた穴から飛び出す。
「―――と言うことがあったんだ」
「お前なんで生きてるの?」
「……」
「まあ、無事でよかった。あれを見た時は俺も肝を冷やしたからな」
男を縛って既に尋問を始めていた俊紀のところまで戻って屋敷内で何があったのかを大体話すと、何か気味の悪い物でも見るかのような顔で返され悲しくなった悠司だが、俊紀の安心したような顔での言葉にしたり顔で返すのだった。
あけましておめでとうございます。
新年早々遅くなってしまい、すみませんでした。言い訳をさせていただきますと作業中に2回PCの電源が突然が落ちたことが原因でしょうか。
そろそろ買い換えないと駄目なのかなぁ……。




