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第十五話

「冒険者のトシキとユウジ、シロノは居るか?」

「何か用ですか?」


 翌日、3人が朝食を摂っていると宿に1人の男性が訪ねてくる。3人を代表するような形で俊紀が返事をして、立ちあがり眠そうに男性のところへ歩いていく。


 現在の時刻は既に昼が近づいてきており、現在朝食を摂っているが起きてから1時間経っておらず3人とも寝坊気味だったのだ。それと言うのも昨晩俊紀が外に行っていたせいだろう。


「村長からお話しがあるそうだ。朝食が済んだら村長の家まで来ていただきたい」

「分かりました」


 男性は眠そうに対応する俊紀を見て特に気にすることもなく用件だけを伝え、俊紀の返事を聞くと忙しそうに宿から出て行ってしまった。人の下で働く人間はどこの世界でも忙しいのだろう。男性が行ったのを確認すると俊紀は元のテーブルに戻る。


「で、何だったんだ?」

「村長からの呼び出しだった」

「そうか」


 悠司が予想していたよりも大分早く戻ってきたことを少し疑問に思い、何を言われていたのかを俊紀に聞く。それに俊紀が軽く返すと興味を失ったかのように残りのパンに手を付け、そこで思いだしたかのように口を開く。


「ああ俊紀、お前の残りのパンはシロノが食ったぞ」

「えっ」

「……ごちそう、さま」


 驚きの声を上げ俊紀がシロノを見ると、口元にパンの欠片をくっつけたまますまし顔で手を拭いているところだった。どことなく満足そうにしているのが何とも言えない。


「止めようとは思わなかったのか?」


 別段食に固執しているわけではないのでパン1つくらいなら別に良いか、と思う俊紀だがこういうことに関しては悠司が何かしらシロノに言っていてもおかしくは無いと思い質問をする。


「気が付いたらもうお前のパンを齧っているところだった。手を伸ばしている時点で気が付いていたなら注意くらいはする」

「……そうか」


 悠司の言うとおり、気がついたときには俊紀の皿からは乗っていたはずのパンが消え、シロノが小動物のように齧っていたので待てと言う間すらなかったのだ。


 今回のパンのこともそうだが、少し目を話すと普段のシロノを見ていると思いもしない行動を起こしていることがあるのが若干の問題点だろうか。今のところ大きな問題を起こしていないのが救いだろう。


「それで、村長から呼び出しを受けたんだったな。支度をしたらすぐに行こうか」

「そうだった。それにしても結構早かったな」

「そうか?俺はそうでもないと思うが……」


 借りている部屋に戻り、支度をしながらALOの時と比べてどうだったかを雑談する2人。この話題になると相変わらずシロノが蚊帳の外になってしまっているが、本人がどう思っているかは分からない。


 十数分かけて荷物を纏め宿からでると、先ほどとは違う男性が俊紀達が宿の前に居るのに気が付くと駆けよってくる。


「村長が迎えに行って連れてきてほしい、とのことでしたのでお迎えにあがりました」

「ご丁寧にどうもありがとうございます」

「いえいえ、ではこちらにどうぞ」


 村長の家は俊紀も悠司も知っているがわざわざ迎えに来てくれた男性にお礼を言うと、それ程大したことでもないとばかりに返事をし3人に背を向けて歩きだす。その背中に素直についていく。


「ここ数日この村で過ごしてみていかがでしたか?」


 村長の家まではそこまで離れていないが、何も話さないと言うのも詰らないだろうと判断した男性が村の印象について聞いてくる。


「魔物も余り出ず、盗賊が襲ってくると言うことも無かったので過ごし易かったです。村の人たちは気さくな人が多かったので数日でしたがこの村にいて詰らないと思うことは無かったです」

「そうですか。そう言って頂けると嬉しいですね。冒険者の方の大半はこの村をただの中継地として使うだけで何日も過ごす人と言うのは珍しいもので」


 男性の言うとおり、村が亜人の国からさほど離れていないことから、移動の途中で日が暮れた時に宿をとって一晩を明かすだけと言うのは実際珍しくない。むしろこの村自体中継地点としての役割を目的として建てられたと言っても過言ではないので本来こちらの方が正しいといえる。


 しかし、住んでいる村人からして見れば栄えることもなく、ただ人が過ぎ去って行くだけの寂しい感じが抜けないのだ。人の通りが盛んだったころは旅の話を宿で聞かせる人物も居たそうだが、今ではめっきり居なくなってしまったとのこと。そんな中で俊紀達の3人は目的が入国許可証を手に入れるためとは言え数日を過ごし、村人と交流をしてくれたことに感謝をしているのだ。


「さて、着きました。数分程度で終わるでしょうが、村長なので失礼の内容お願いしますね」

「はい」


 最低限を注意事項を受けた後、扉をノックして許可が下りてから家の中に入る3人。


「お待ちしておりました」

「いえ、本日はお話しが有るとのことで足を運ばせて頂きましたが……」

「既に分かっているとは思いますが、ギルドから推薦が来ましての。入国許可証を発行したのでそれを渡そうと思いまして」

「そうでしたか」


 こういう場は相変わらず俊紀が話し、悠司とシロノは置物同然の状態になっている。悠司は適当に話を聞き流し、シロノは聞いているのかすら怪しいが、勝手に話しが進んでいく。


「では、こちらの書類にサインをお願いします」

「分かりました。悠司、シロノも早く」

「ん?ああ。シロノのサインは代筆でもいいですか?」

「構いません、文字を書けない人と言うのは珍しくないですから」


 差し出された書類に名前を記入すると、村長がそれを確認し仕舞うと代わりにカードを差し出してくる。


「これが入国許可証です。紛失した際は再びこの村に来てくだされば再発行いたしますので」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

「気軽にいつでもこの村に来てください。歓迎しますよ」


 男性に言われたとおり、数分で終わってしまったので何となく拍子抜けしてしまったが今日には村を出る予定だったので困ることではない。受け取った入国許可証をそれぞれ仕舞うと村の外へと向かう。












「それにしても、随分と腰の低い村長だったな」

「長だからと言って威張っていればいいと言う訳でもないだろ」


 村を出て昼が過ぎ、日が落ち始めたあたりで突然思いだしたように悠司が呟く。基本的に長と聞くと偉い人物でそれなりに大きな態度を取るというイメージが有りがちなのは仕方が無いことかもしれない。しかし、立場が上だからと言って尊大で有れば良いと言う訳ではないだろう。実際、権力を振りかざすなどの事をすれば反感を買い反乱がおきるなどそう珍しくもないことだ。


「こうやって歩いて移動するのは久しぶりな気がするな」

「実際そんな久しぶりでもないけどな。ダンジョンとか遺跡とかだと基本歩かないと罠踏みつけるし」

「……ゲーム始めたばかりのころを思いだそうとした俺が馬鹿だった」

「……悪い」


 時折雑談を交えながら歩くこと更に数時間。夕日の反対側に夜の帳が落ち始めたところで丁度良さそうな場所を見つけて野営の準備をする。しかし、大半は悠司がスキルを使用して道具を用意をするだけで済んでしまうのだが。


「火を起こすぞ、少し離れろ」


 そう言って悠司が取りだしたのは5センチほどの大きさの小瓶だ。中には油と衝撃を加えることで発火する作用のある鉱石の粉末が入っており、少しランクの高い冒険者なら誰もが持っている。これを地面に向けて投げることで火をおこし、枝や薪をくべることで簡単に火を焚くことが出来る。


「―――!伏せろっ!」


 が、まさに瓶を地面に投げようとしたとき、悠司の警戒スキルが反応する。周囲は突然真っ黒な煙に包まれ完全に視界が塞がれる。


「煙幕か!」

「霧払いだ、天狗扇!」


 悠司が紅葉を模した形をした扇を振うと強風が吹き煙が晴れる。特に攻撃などの跡は無かったが、風が止むや否や顔を隠した見るからに怪しい人間が3人剣を振りかぶって襲いかかってくる。


「遅い」

「技術が無いなー」


 襲いかかって来た者たちの剣を悠司が軽々とへし折りつつ、俊紀が1人に1発づつ拳を叩きこむ。拳を受けた者はその場に倒れ呻き声を上げる。


「くそ、こんなに強いなんて聞いてないぞ…」

「はいはい、簀巻き簀巻き」

「……シロノが居ない」


 襲撃者の3人を慣れた手つきで縛りあげながら悠司が辺りを見回すとシロノの姿が無い。天狗扇は一応人を吹き飛ばすほどの風を起こすことは可能だが今回は辺りの煙を払う程度の風しか起こしていないので吹き飛んでしまったとは考えにくい。


「となると、攫われたか?」

「こいつらは時間稼ぎのための捨て駒か」


 そう決めつけるには少しばかり無理があるかもしれないが、可能性としては有るだろうことを俊紀が呟くように言う。


「へっ、何とでも言いな。知っててやってんだ」

「にしても、ついてなかったぜ。ガキの癖に妙な道具を持ってるとはな」

「あー、これは報酬増やしてくれないとな」


 簀巻きにされているにも関わらず好き勝手に口を開く襲撃者達を見下ろしながら俊紀が黒い笑みを浮かべる。そんな様子の俊紀を見て悠司は、なるほどと言いたげな表情を浮かべ襲撃者に視線を落とす。


「まあいいか、こいつらに聞こう」

「ああ」


 夕陽の逆光に隠れた真っ黒な笑みを見たものはこの場には居なかった。

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