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第二話

「…本当に何とかなるもんだな」

「まあこっちだからこその言い訳だな」


 ゲームで最初に誰もがお世話になる街、ルーンロード。その東門をくぐり、意外そうなことを言うこの国では珍しい黒髪黒目の多少子供っぽい感じが抜けきっていない少年と、ドヤ顔でこの世界に住人からすれば意味不明なことを返答する同じく黒髪黒目の背が高めの少年。もちろん、前者が悠司、後者が俊紀で間違いないのだが、その2人の前を先導するように歩いている金髪青眼のそこそこ良い装備をした冒険者の少女が歩いていることが2人からしたらいつもと違う点だと言えるだろう。


「あ、そういえば」

「何か?」

「自己紹介まだでしたね」

「そうですね」


 冷めた物言いになっているが、自分にとってごく普通の対応をした悠司。彼が普段このような反応をすることを分かっている俊紀ならともかく、彼女は多少不快に思ってしまったようで、若干眉間に皺を寄せている。

そんな状況をフォローするかのように俊紀が対応を変わる。


「えと、私はランクB冒険者のミーナ・クインツです」

「俺は 中島(ナカジマ) 俊紀(トシキ)です。ナカジマが姓でトシキが名です」

九重(ココノエ) 悠司(ユウジ)です。同じく、ココノエが姓でユウジが名です」

「変わった名前なんですね」

「そうですね、俺達の居たところだと普通なんですけどね」


 簡単な自己紹介を済ませる3人。こっちの世界で日本人のような姓名をしている人物は基本的にはこの辺には居ない。こっちの世界の住人が言う極東の島国にいる住民がこの2人と同じような姓名をしているのだが、冒険者がそんな辺境とも言えるような場所に行くことはまずないので、ミーナは悠司達のような名前の人物に会ったことは無い。よって、ミーナだけでなくこっちの世界の主にゲームに絡んできた部分に住んでいる人物のほとんどがこの2人の名前が珍しいと思うことだろう。


「ずっと冒険者ギルドまで歩いているだけって言うのもつまらないので、通りかかった場所の説明を少しさせてもらいますね」

「分かりました」


 言われるままにミーナについていく2人。周りからみた構図としては、冒険者、しかもBランクともなれば自然と名も知れ渡るものだ。そんな冒険者に質素な服を着た人間が2人ついていくところを見ると何か問題を起こした人間を連れていくように見えなくもないので、周りの目は少しばかり痛いところがある。といっても、3人とも気にすることなく進んでいくのだが。


「なあ、俊紀」

「どうした?」

「なんか、懐かしいな」

「…そうだな」


 冒頭でゲームでは最初に誰もがお世話になる、と言ったがそれはこの2人も例外ではない。しかし、ゲームで最初に入ることになる施設と言うのは必ずストーリーやレベルが高くなってくると店での売り物などの都合により必然的に来ることが無くなってしまう。2人が最後にこの街に入ったのも相当前になる。そんな街に立ち寄れば懐かしいと感じるのもおかしくはないだろう。


「トシキさん、ユウジさん」

「あ、何でしょう?」

「一応冒険者志望と言うことでしたら、何か防具を買っておかないとこのさき色々と厳しいですよ?」

「…そうですね」


 今一度、自分達の来ているものを確認して苦々しい表情になる2人。頭の片隅でゲームの時の装備がどうなったのか気になりつつもこの先装備をどうしようか考え始める。俊紀たちならばこの辺の魔物程度では防具になるものなど何もなくてもダメージが通ることはまずないので装備を整えなくても平気といえば平気なのだが、通常の人間から見た場合何の装備も無しに街の外に出るなど自殺行為以外の何者でもない。よって、装備は一応そろえておかなければ同業者どころか街の住民からも変な目で見られることは間違いない。


「でも金持ってないよな」

「ああ」

「なら私が少しくらい出しますよ」

「いや、安いものでも2人分となると結構高いですよ…」

「クエストの報酬は結構高いので問題ないですよ、それに、後輩の世話をするのは先輩の務めです!」

「…ならお言葉に甘えて」


 ミーナの自信満々に告げる様子に蹴落とされてしまう2人。俊紀、悠司共に金を出すのは構わないが、ないかを奢られたりするのは少しばかり気が引ける性格をしてるので気まずいのだが、そんなことお構いなしに歩を進めるミーナ。


「で、ここがその防具を買う場所なんですが、武器屋も兼ねていますし鍛冶場もついているのでオーダーもしてくれるんですよ」


 冒険者のほぼ全てが利用することになる武器屋や防具屋。生産を主としている者は利用することはないものの、鍛冶場を利用する目的でこの場所に来るので必然的にこの店兼鍛冶場は常に賑わっている。ゲームの時と比べ違う点と言えばプレイヤーが居ない分、鍛冶場が込んでいないことだろう。


 ゲームの時は戦闘職、攻略組と同じくらいに生産職も人数が居たために道具を作るための施設などがまだ持てないレベルの生産職プレイヤーは街にある施設で生産作業を行っていたので基本的にこの街には常にプレイヤーが1人は居た。しかし、これが現実の世界であるこちらでは鍛冶場の親方らしき人物をその子分のような人が数名居る程度でやはりゲームと比べるとさみしく感じてしまう。


「えっと…、じゃあお勧めの装備をミーナさんが選んでください」

「じゃあ初心者でも手入れとかがしやすい皮装備がいいですかね」

「それでお願いします…」


 と、干渉に浸り、話をほとんど聞いていなかったうえ、自分たちで選ぶのも何か気が引ける2人は防具の選択も他人に丸投げし本人が問題なく出せる金額の物を選んで貰い、商品を受け取ってから奥のスペースを借りて皮鎧と革製の手甲を装備するのだった。


「結構似合ってますね」

「そうですか?まあ、結構しっくりきますし、ここの職人の方がいい腕をしてるんだと思います」


 鎧と手甲、それからおまけに2つの皮装備と一緒に着て違和感のない衣服をつけてもらった2人。もともとゲーム内では冒険者だったこともあり、見事な鎧の着こなし具合である。本来の彼らからすれば装備レベルが低いどころの話ではないのだが、その辺の話を出してしまうと色々と怪しまれてしまうのでとりあえず職人の腕がいいと評価をすることで回避をする。


「じゃあ、次に行きましょうか」

「はい、宜しくお願いします」


 2人のやけに似合う鎧姿を若干不思議に思いつつも次の場所へと移動を始める。この街はこの世界の中でもなかなか大きな街に入るので人も多い。その上、王城が街のわりと近い場所にあるのでそれも1つの要因となっているだろう。上級区までなら誰でも出入りができるが、流石に王城まで入れると言うことはない。一般人が王城に入れる機会はそうそうあるものではない。しかし、他国からの貿易などで来る人間は王城に入ったりすることもある。もちろんそういう人物は身分が高いことが多いので宿も高級な物から一般人や冒険者でも利用できるくらいの手ごろな価格の所までたくさんある。


「さて、着きましたよ」

「ここは?」

「ここは宿屋ですよ、中も掃除がされてますし、朝と夜の食事がついてます。その上なかなか安い値段で済むのでお勧めです」

「そうですか、少し中を見たいんですが、時間は大丈夫ですか?」

「はい」


 ミーナに許可をもらってから中に入る2人。実は俊紀、悠司共にゲームの初期段階はこの宿を拠点にゲームをしていたので、どれくらい自分の知っているのと違いがあるかが気になったのだ。しかし、ミーナの言った通り床は綺麗だし、落ち着いた雰囲気で過ごしやすそうだ。


「ん、お客かい?」

「あ、今はそういうつもりではないんですよ」


 奥から1人の人物が出てくる。2人も知っている、と言うよりはゲームでお世話になっていたNPCにそっくりの人物である。この人物は宿の主人の妻という設定で接客や受付なんかはこの人物が行っているのだ。


「おや、ミーナかい。いつも御苦労だね、その2人は新人かい?」

「ええ、これからギルドのほうに申請を済ませにいくところです」

「へぇ。そうだね、2人ともミーナの紹介ってことで特別に少し安く泊めてやるけど、どうだい?」

「あー、じゃあお願いします」

「ふふ、ミーナが冒険者になりたての頃はここに住んでたからねぇ」

「そういうのは言わないでくださいよ」


 どうやら、ミーナと知り合いだったようでなんだかんだで一番自分たちにとって過ごしやすいであろう宿で更に料金も安くしてもらえると言う得をしている2人だった。また、ゲーム内でもこの宿は人気があったようで大半のプレイヤーが一度はここに泊まっているという情報もある。なぜそこまで人気があったのかと言うと、武器防具屋が近かったり、街から出る門が結構近くにあるという点からである。一般の宿屋は街の外から魔物が入って来たときに安全が優先されるようになっているため街の内側になることが多いのだ。しかし、そんな事情を2人が知るはずもなくただ安くて過ごしやすい宿としか認識していないのだった。


「じゃあ、後でこの宿まで戻ってきましょうか」

「はい」

「次は私も余り行ったことが無いので余り説明はできませんが、商業者用ギルドです」


 ゲーム内で生産職が主に利用する商業者ようギルド。このギルドに申請をしなければ自分の店や施設を持つことができない。また、自分の店を持つからには売れたものからある程度税金を商業者用ギルド納めなくてはいけない。しかし、悪い点ばかりではない。売り物が数多く売れればその分収める税金が増えるわけだが、その税金が一定額を超えた場合に色々と便利な道具が手に入ったりするのだ。例を出すなら道具屋で買える物の値段が一定額引かれるなどが一番手に入れやすいものだろう。


 しかもこの商業者用ギルド、冒険者ギルドを手を組んでいるので、商業者として登録をしていなくても何かしらの方法で一定以上の利益をこのギルドに出せば生産職と同じように便利アイテムが手に入ったりする。また、ミーナも例外ではなく利用をしてはいるが、自分の店を持っていたりするわけではないのであまりかかわっていないと言うのは本当のことである。


「商業者用ギルドは結構複雑だった覚えがありますからね」

「私も依頼している途中で手に入った素材とかを売りに来る時くらいしかここには来ませんから、でも何か売りたいものがあればここに来ることをお勧めしますよ」

「ありがとうございます」


 商業者用ギルドの中は入口から入って正面にカウンターがあり、その奥に従業者用の出入り口や事務室などがあるが、実際そこまで入るのことがあるのは店を持っているか、商人をしているか、また稀にだが、鍛冶屋や薬屋が道具生産の為に素材を大量発注した場合である。その他のことはカウンターで取引が済まされるのでこれと言って問題はない。


「さて、じゃあ次が重要なところですね」

「冒険者ギルドですか?」

「そうです。といっても商業者用ギルドの正面にある建物がそうなので移動に時間は要らないので中に入ってから説明しますね」


 ミーナに促されギルド内にはいる2人。この冒険者ギルドはゲーム内ではギルドに顔を出して依頼を受ければ自然とランクなどが設定されていたのだが、現実ではそんなことはない。なにしろ、死んでも大丈夫なゲームとは違い実際に命に関わってくる仕事なので厳重な規則の元運営が行われている。まず、身分を証明できるものが無ければ登録ができないという点がある。これは本人であることを確認したうえで本当に命に関わるような仕事してもいいのか、と言う証明が必要だからである。身分証明が出来るものが無い場合は即時発行で登録することができる。


 また、冒険者ギルドでは依頼の危険度からランク分けがされており、一番下はFランクから上は一応Aまでと言うことになっている。中には例外もいるがその場合は特別な扱いを受ける。ランク分けの理由は言わずもがな、中には危険な魔物が出来てきたり、予想外の事態が起きる、重要人物の護衛をするため信頼できる人物でなければいけないなど、色々な理由が存在している。また、ランクが高いと言うことは色々な責任を負うと言うことであり、高ランクの冒険者であれば一部の特別な区域に出入りすることもできる。その大半が環境が厳しく一般人ではまず耐えられないような環境であるエリアで大半が未知の領域とされている。そういう場所の調査をする人物の護衛をするのが高ランク冒険者だったりするのだ。


「まあ、大事なところはこんなところですかね」

「丁寧にありがとうございます。悠司もなんか言えよ」

「…丁寧な説明や案内、感謝する」

「はい、じゃあ時間も少し経っているので、何か食べましょうか」

「食堂でもあるんですか?」

「はい」


 2人が知っている点と一番違うところと言えばこれだろう。ゲームの時には無かったのだが、現実になったからこそ、野営に必要不可欠となるようなアイテムが売っているところがあったり、緊急時用の転送系アイテムなどが売っていたりする。また、格安で食事を済ませられる場所があるところもゲームではなかった点だ。そんなギルドの内装は、入口の正面にカウンターがあり、そこで依頼のリストの確認や、登録を行う。その奥に事務室などがあるのは商業者用ギルドと変わらないが、カウンターの両脇に階段があり、2階が食堂になっているところなんかは相違点だろう。また、ゲーム内でも2階は存在したものの未実装で入ることはできなかったために2人にしてみれば新鮮だろう。


「日替わりセット3つお願いします」

「はーい」


 街を歩き回って懐かしさを感じながらも席についてとりあえず一息つく2人だったのだった。

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