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第十三話

「さて、一仕事しますかね」


 宿屋の裏の広場らしき場所。誰も居ないのを確認して伸びをしながら悠司が呟く。その口調はいつもより軽い、年相応と言ったような現代日本の高校生らしいものだ。シロノと初めて出会った時はトラウマを刺激されたために叫んだりもしていたが、こっちが素である。


 悠司は人と話すときは大抵軽い口調になるが、独りごとになるとどことなく硬い口調になる癖がある。それをALOの時ではロールプレイとして行動していたのだ。こちらの世界に来た後も硬い口調なのはやはりゲーム感覚が抜けずに自然と素が出せずにいるのだろう。


「消費アイテムをつくるのは簡単だし時間もかからないから良いんだけどな、装備アイテムだとどうしても時間がかかるし、正規の方法で作ったものよりも性能が落ちる…」


 ぶつぶつとスキルによるアイテムの作成のデメリットを呟きながら木の枝で地面に円形の魔法陣らしきものを描いていく。広さはそこまででもないが、大体人1人寝転がれるほどの直径はあるだろう。今地面に書いている魔法陣の効果としてMPの消費量を抑え、自然回復力を多少だが高める効果がある。いつもならこんなことはせずにそのままやってしまうのだが、消費アイテムと違って装備アイテムは繊細な部分がある。


 その繊細な部分を省略するために悠司のつくるアイテムは効果や性能が低いが、時間をかけ、集中することで多少精度を高めることが出来る。実物を見たことによってそれに似せて造られる贋作。その贋作を魔力によって造り出すことが出来るのが彼のスキル、アーツだ。


 彼が自分の事を説明する際に言っていたウェポンサモナーのスキル、アーツも似たようなもので当然使用可能だが、精度で言えばウェポンサモナーの方が高い。しかし、その職業名から分かるように武器限定である上、作り出せる武器の種類の数に限りがある。ただ、どちらにせよALOの職人プレイヤー泣かせなのは間違いない。


 さて、この贋作生成だが作成するアイテムの状態によっても条件が変わってくる。消費アイテムやその場限りで必要になるすぐに廃棄するような日用品など、すぐに無くなってしまうもの即座に作れるが、それなりの時間を経過しても残ったままで、更には普通のアイテムのように壊れたりしない限り残り続けるものなどは今回のように時間がかかる。


 もちろん、時間がかかればその分MPも必要になってくるので補助魔法を継続的に発動する魔法陣を使用している。ちなみに、この魔法陣は形や手順などを知っていれば誰でも使うことが出来るが、発動させるためにそれなりのMPが必要になってくる上、効果時間が異様に長いため冒険や探索を主にするプレイヤーではなく、ほとんど生産をメインとするプレイヤーしか使用者がおらず、さらに規模は自身の工房全域に張ったりする。つまり、非常に使いどころが限られているのだ。


 逆に言えば、この魔法陣を使うほど作業時間が長くなると言うことでもある。それほどまでに自分たちが世話になる装備品は丁寧に作るようにしているのだろう。


「次は空間隔離か…、見られたら不味いとは言えここまでやると流石に面倒だなぁ…」


 ぼやきながらも次の作業に入る。悠司の言った空間隔離とはその名の通り特定の範囲の空間をを周りと切り離す魔法で個人的に見られたくない時や、情報隠ぺいの時など重要な重要な会議にも使われる。こちらの世界では主に後者であり、国になると少なくとも1人は使える人物がいる。もちろん、破られてしまうこともあるが、まず隔離されている空間を認識できないためその心配は無いようなものだ。


 丁度魔法陣のサイズに合わせて悠司が空間を隔離すると、風の音や虫の鳴き声などの音が消える。空間が隔離されたことにより風や音が通らなくなったのだ。同時に魔法陣を起動させる。


「防御力が高く常に身につけていられるものが良いとなると、やっぱり普段着に出来るようなものが良いよな。サイズとかは…どうするか」


 物を作る前の段階でどのような装備が良いか頭の中で思い浮かべる。大体のあたりをつけると着用者の為に大きさを定める必要があるが、シロノにあれだけくっ付かれておきながら悠司は彼女の身長やら体型やらをほとんど見ていなかったので丁度好さそうなサイズの物を作るのが難しい。


「…」


 などと考えているうちに遺跡で一番最初に見た時の事を思い出す。あの時のシロノは何も来ていなかったため体型を見定めるには絶好の機会だったのかもしれないが、悠司にとっては色々な意味で苦い記憶となっている。しかし、それ以外に確実な物は他に思い浮かばなかったのも事実であり、精神にかかる負荷に耐えながら遺跡での事を思い出す。


 その他の細かい点は逸れないように手を握っていたり、いつの間にか膝の中におさまっていた時のことを思い出しながら作るもののサイズを決めて行く。生産なら型どりなどが必要なところだが、その辺を頭の中で思い浮かべ色々な工程を飛ばすことが出来るのが悠司のスキルにおける最大の利点だろう。

 

「はぁ…」


 作業は座禅を組むようにして行われている。両手を上に向け、その上に半径40センチほどの魔法陣が展開され、魔法陣に注ぎ込まれた魔力が物体の生成をするのだ。傍から見てその集中力はかなり話しかけづらいだろう。そんな中で1回息をつくと服の袖で汗を拭い、再び集中を始め作業を再開する。


 しかし、服を作り始めてから悠司の顔色は徐々に青くなっていく。40分もするころには汗が吹き出し始めているが、まだ全体の5分の1ほどしか完成していない上、物を生成している間、対象物は常に思い浮かべて置くほど精度が上がり性能も高くなるため気を抜くことが出来ない。


「う…」


 シロノの為の装備を生成しているうちに過去の出来事が思い起こされる。1匹の虫の死骸とそれを嬉々として弄りまわす子供達。それを信じられないような目で見ていると、他の子供が持ってきた、まだ生きている虫の足を徐に千切る。それに大して痙攣にもにた動きをする虫を見て再び楽しそうに笑う子供達。


 幼さゆえの残酷さを間近で見てしまった当時の悠司には相当厳しいものが有ったのだろう。自分が幼い時でさえそんな残酷なことはしたことが無かったのでなおさらその光景が目に焼き付いてしまったのだ。シロノが同じようなことをしないにしても一度子供に恐怖を抱いてしまった以上本能的に体が反応してしまい自然に接することが出来ない。それが現状だ。なお、子供が苦手なことと、シロノにくっ付かれることに一種の拒否反応のようなものを起こすのは別問題である。


 しかし、それはそれ、これはこれと割り切り、集中を作業に向ける。幸か不幸か、様々なことを思い出している内にどれくらいの時間が経ったのかが分からない代わり、作業は半分以上進んでいる。だが、悠司の唇にはが薄く紫色が浮かび、魔法陣を形成している手も多少震え始めなかなか危ない状態だ。


「…素材はオリハルコンの糸でエンチャントは自動翻訳と自然回復強化辺りが良いか?いやもう1つくらい何か付けても良いか…」


 作業も終盤に差し掛かり始めたころ、まだ不安定な状態の装備を安定させるために素材などを確定させていく。エンチャントに関しては専門ではないがそこそこ弄ることはできるので簡単なものを挙げて行く。


 この後もまだ1時間ほどの時間を有したが、アルカイックスマイルが浮き出始めたあたりで装備が完成したのだった。

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