第三話
「で、こういうときにこんな話をするのもあれですが、何か仕事って無いですか?」
「ん?何だ、もう働きたいのか?折角の奢りだ、もう少し楽しんだって良いんだぞ?」
「いえ、あまり金に余裕が無いもので、少しでも早めに動いておきたいんですよ。シロノにも人から物を頼まれるってことを経験させておかないといけないですし」
早速と言わんばかりにクエストを探しに行こうとする俊紀にジェイルが答える。今回のこの祝いの席はジェイルの奢りである。本人からすれば気を遣っている用にも取れるので、何となく複雑な気持ちでもある。しかし、新人特有の金銭的な問題となっては引き留めるのも少し憚られるのだ。
実際は大討伐、遺跡の探索とそこそこ稼いではいるもののこのまま流暢にしていては宿台すら払えなくなるのは目に見えている。本来、シロノと言うイレギュラーが入る予定も無かったので2人では3人分の宿台を払うのは色々と大変なものがあるのだ。シロノは攻撃面は問題は無いが防御面での不安が残るのでそのために装備を整える必要もあるのだ。
「確かに、人から感謝されることって言うのも養っておく必要はあるのか、まだまだガキだがなかなか考えているみたいだな」
「ダン、俺から見ればお前だってまだ若造だ。他人の事を評価するのはお前にはまだ早い」
「まあ、喧嘩はそこまでに、最近はどんな依頼が多いのか教えてもらえますか?」
再び口論になりそうな2人に割り込む俊紀。俊紀の質問が入ったことでダンに何かを言おうとしたジェイルだが、咳払いを1つすると俊紀達の方を向き、口を開く。
「あー、最近は討伐系の依頼は無いな。基本的に雑用とかだ。雑用はまあ討伐をこなすよりは遅いが一応ランクは上がるぞ。ダンも最初は討伐をやらずに雑用をやって町中走り回ってたしな」
「余計なことを言うな、ジェイル」
「本当の事だろう、それに俺は一応雑用だろうと一生懸命やってたお前を評価してるつもりだ」
「…」
ジェイルの言葉に突っかかってくるが、次の言葉を聞き黙り込むダン。当時の事を思い出しているのか、突然褒められたことに照れているのかは分からない。しかし、その表情はさっきまでとは違いどことなく微笑んでいるようにも見える。
「おっと、話がそれたな。雑用の依頼があるとはいえ、最近は大分減ってきているんだ」
「なぜだ?」
ジェイルの一言にそれまでいつもの理由によりぐったりしていた悠司が口を開く。シロノはそんなことは知らないとばかりに悠司の膝の上だ。その食いつきに少し首をひねりながらもジェイルが言葉を続ける。
「最近は子供が育ってきてな、冒険者に依頼を出すほど忙しい人って言うのが減って来てんだ。それに依頼を出すってことは報酬も出さないといけないからな。金銭的な理由もありそうだ」
「なるほどな」
ジェイルから理由を聞き、納得した様子の悠司。彼が何を気にしてこの質問をしたのかは定かではないが、何か思うところがあったのだろう。しかし、正確な理由は本人しか知らないのである。
「依頼が受注されてクエストとして発注されてるのは向こうだ。向こうのクエストボードに張り出してあるか、受付にでも行けば良いクエストを教えてくれるだろう」
続けてクエストボードのある方向を指さして教えてくれるジェイル。このように新人にクエストボードのある位置を教えるのは初めてではない。彼の隣に座っているダンも今の俊紀達を同じようにクエストボードの場所も教えてもらったりなどをしていたのだ。ダンはそのことを思い出したのか、懐かしむような目をしている。
「じゃあ、俺達は明日は朝からクエストを受けるつもりなので、お暇します」
「おう、もう行くのか。もう少し付き合ってくれてもいいと思うんだがな」
「俺達は酒を飲めないからな。どちらにせよ早くお開きになるだろうよ」
「おう、気をつけろ。ただし、セイラさんには手を出すなよ」
「興味無いな」
最後に少し言葉を交わしてからギルドを後にする俊紀達3人。ギルドに足を運んだ頃の黄金色の町は息を潜め、現在は街灯によって街の中がぽつぽつと照らされているのみだ。先ほどの様子とは打って変わってまた別の雰囲気を醸し出している。
そんな街中を歩き、宿をとりその日は早めに眠りに就くのだった。
翌朝、朝日で目を覚ました俊紀がベッドから起き上がり首を左右に傾けパキパキと音を鳴らしていると、ふらふらとした足取りでシロノが自分が寝ていたベッドではなく悠司の寝ているベッドに入り込むのを目撃する。恐らく花を摘みにでも行っていたのだろう。それを見て苦笑する俊紀。今は放っておこうと止めることも無く伸びをして起き出す。
日課のラジオ体操もどきと、柔軟運動をして顔を洗いに行く。顔を拭き終えると部屋に戻る。すると沈んだ様子の悠司がベッドに座っていた。
「どうした?」
「起きたら目の前にコイツの顔があって、それに驚いてベッドから転げ落ちて全身打った。それから掛け布団ごとこいつが俺の腹にダイブしてきた」
「そ、そうか…」
これを聞いて、さっき起こせばよかっただろうかと思った俊紀だが、過ぎたことを考えても仕方が無いのでとりあえずこのことは考えないことにするのだった。
「じゃあ、早く顔洗って来い。今日は忙しくなる予定だからな」
「分かった」
「ん」
俊紀に短く返事をし、自分たちも顔を洗いに行く。数分後戻ってくると、朝食をとるために夜は酒場となっているカウンターのある部屋へと行く。この宿にもALOの時から来ている2人は迷うことなく来ることが出来るのだ。
「うん、ここの宿の飯も美味いな」
「分かってるくせに、何を言ってるんだか」
どれだけ冒険をしていても時たま足を運ぶほどには気に入っている宿のご飯をわざわざ声を大にして美味しいと言う俊紀に、悠司が苦笑する。そのあと、十数分ほどで朝食を済ませるとギルドへと向かうのだった。
「おはようございます、トシキさん、ユウジさん、シロノさん」
「おはようございます。セイラさん、でしたっけ?」
「はい、昨日はすみませんでした…」
「気にしなくても大丈夫ですよ。ところで、何かお勧めのクエストってありますか?3つ位は受けたいんですけど…」
「それでは、丁度あちらのクエストボードにクエストと張り出したところですので、そちらから選んでください」
と言って、クエストボードの方を指す。朝のギルドは人が少なく、この時間帯に居るのは大抵、夜にしか受けれないクエストをこなしてきたか、日を跨ぐような時間のかかるクエストを受けていた者だ。よって、昨日のように騒がしいと言うことも無い。そんなギルドの状況に目もくれず、3人はクエストボードを見る。そこに張り出されているのは、昨日ジェイルから聞いた通りほとんどが雑用系の依頼だった。とはいえ、今張り出されているクエストの数は20ほどである。
「どれにするか…」
「薬草の採取、配達と、最近聞こえる騒音の調査、それから家の外壁の修理だな」
「何で?」
「何となく、直感だ」
どれにしようかと迷っていた俊紀を横目に悠司が3つのクエストを手に取る。当然、疑問に思わないわけも無く質問をするのだが、曖昧な答えしか返ってこない。しかし、それを理由に反対することもしない。彼が曖昧な理由で何かしら提案するときは何かしらこの先起こることが俊紀には分かっているからである。もちろん、それはいいことばかりではないのも理解して、その上で引き留めないのだ。
「今回はどうなりそうだ?」
「…面倒なことになりそうだ」
「俺は面倒が嫌いなんだけどな…」
「俺もだ」
2人は顔を見合わせて苦笑する。この面倒が嫌いだ、というやり取りはこの2人の中では本音では無く、お約束のような要素が大半を占めている。2人ともそれなりに面倒なのは嫌いなのは事実ではあるが。そんな2人を見て、何もわからないと言った様子で寝ぐせのせいで1本だけ立っている、頭頂部の髪の毛をゆらゆらと揺らすシロノ。余談だが、この時の行動によって、ギルド内に居た冒険者達がシロノ達の顔を覚えたのだが、3人はそれに気付いた様子も無い。
「この3つのクエストでお願いします」
「分かりました。では、お気をつけてどうぞ」
クエスト受注の確認をしてから外にでる。そのまま街の外に向かおうとする悠司に俊紀が声をかける。
「悪いけど、お前で薬草のクエストやってくれるか?」
「それは構わないが、こいつはどうするんだ?どうやっても付いてきそうだが」
「連れて行けば良いだろう。何なら薬草の見分けかたを教えても良いだろうしな」
「…そうだな。行くぞ、逸れるなよ」
「ん」
俊紀は効率を上げるために二手に分かれることを提案する。その時にシロノをどうするか気にしたようだが、上手く俊紀が言いくるめる。しかし、実際場所にもよるが薬草がどれなのか分かるか分からないかで冒険の難易度は変わってくる。自分、または他人が怪我をした時などに薬草を見分けることが出来れば外でも傷をいやすことが出来るからだ。また、薬草は比較的安価なため、こちらの世界では常備薬として一般家庭で少なくとも3つは保管してあるものである。また、子供に薬草の見分け方を教える大人も少なくは無い。更に言えば、薬草は回復薬の原料としても用いられるため無くて困ることはあれど、多くて困ると言うことは無い。
「じゃあ、そっちの薬草の採集と配達は終わったらギルドに待機しててくれ」
「お前は1人で2つやるつもりなのか?」
「まあな、この街に関しては多分俺の方が詳しいだろうし」
「そうか。なら、任せたぞ」
「おう」
そう言って、街の外へ向かう悠司に手を振る俊紀だった。
最近暑くなってきましたね。
私は自分のPCが今年の夏も乗り越えてくれるか不安で仕方が無いです。




