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第ニ話

「そこで止まれ」


 赤髪の男との距離が3メートルほどになったところで悠司が振りかえらずに男に声をかけるが、止まる様子は無い。それを見た俊紀が頭だけではなく、体全体で振り返り警戒する。悠司はシロノを自分の近くに引き寄せ、何が置きても良いように影縫い用の苦無を取り出している。と、2人が警戒心を高めていると、男が口を開く。


「お前ら、あの受付嬢…セイラさんに手を出すんじゃねぇぞ!」

「…はぁ?」


 突然男に言われたことに気の抜けた反応をする俊紀。しかし、誰であろうとこんなことを言われればこのような反応をしてしまうだろう。


「ダンさん、初対面の方に強く言うものではありませんよ」


 後ろから聞こえた声に俊紀が振り向くと、先ほどギルドカードの認証をしてくれた受付嬢が苦笑しながら男に話しかけている。目の前のダンと言う男の言っていることが正しければ、どうやら彼女がセイラと言うらしい。


「しかし、セイラさん。最近は変な男どもに絡まれて迷惑していると言う話を聞いてますが…」

「カウンターに立って対応しているんですもの、少しくらいは我慢しないといけません」


 どうやら、このダンと言う男は最近セイラに絡んでくる人を気にして俊紀達に強く当たったようだ。その様子を見聞きして悠司はくだらない、と言うような表情でため息を吐く。


「話の腰を折ってすまないが、新規の冒険者登録をしてもらいたいんだが?」

「あ、すいません、今すぐ準備しますね」


 悠司の言った一言で受付嬢が準備に取り掛かる。とは言っても彼女がするのはシロノのステータスを調べるだけなのだが。


「では、ご本人様にこの水晶の正面に立っていただけますか?」

「ほら、こっち来い」


 悠司に促されて水晶の正面に立つシロノ。それを何となく興味深そうにまじまじと見つめているように見える。すると、水晶が光りだし、受付嬢がシロノのステータスを読み上げながらカードに記入していく。


「…魔法を使えるようですね。魔力量も普通の魔術師よりも遥かに多いです。将来有望な子ですね」

「なるほどな。魔法特化と言ったところか」


 魔法の扱いに長けていると言われ、サーベルタイガーの時の事を思い出す悠司。果たして、本当に魔力の量が多いだけなのか疑問に思っているようだ。


 実際、ALOには魔力、MPの最大値を増やすだけでなく効率化と言うパッシブスキルにより消費量を抑えることもできる。悠司ですら、シロノがサーベルタイガーを倒した時用にあれだけの剣を出しては少なくとも4割ほどのMPを消費するだろう。いかにシロノが魔力量に優れていても、何かしらのサポートも無しにあれだけスキルを使用できるとは考えづらいのだ。


「では、試験の方も行ってしまいますね。試験官はギルド裏の訓練場に待機していますのでそちらへどうぞ」

「分かりました」

「俺も付いていくからな。お前らがセイラさんに絡まないとも限らない」

「面倒な奴だ」


 セイラに促されてギルド裏の訓練場に足を運ぶ。入口からさほど離れていないところに金髪のがっしりとした体形の男が立っているのが目に付く。彼が試験官だろう。武器の類は持っておらず、俊紀達の時のように実戦で実力を測るのではないのかもしれない。


「おう、お前らか?今回の冒険者志望って奴は」

「正しくはこの子ですけどね」

「ほう、セイラからチラっと聞いたが、本当に子供なのか。まあ、そこの黒髪の奴らも俺から見れば子供だがな。おっと、すまない。自己紹介が遅れたな。俺はこのギルドの試験官を務めさせて貰っている、ジェイルだ。」


 彼に近づくと、向こうもこちらに気がついたのか、口を開く。彼の言葉にむっとする悠司だが、それに気がつかず自己紹介を終えるとダンに目を向ける。


「で、ダンは何をしに来たんだ?まだ昇格には遠いはずだぞ?」

「俺はこいつらがセイラさんに手を出さないか見張りに来たんだ」

「何だ、いつものか」


 ジェイルに話しかけられると、苛立ちを含めて言葉を返すダン。どうやら彼がセイラに手を出さないかどうか、と見張るのはいつも通りの事らしい。


「俺達は手を出そうなんて思っていませんけどね」

「まあ、そうだろうな。そのうち慣れるさ、こいつも信用する人間にはここまで煩くないしな」

「じゃあ、そろそろお願いします」

「分かった、お譲ちゃんは魔法が使えるそうだな。的を持ってくるから少し待っててくれ」


 気にするなと言うジェイルに頷き、本題に入ろうと俊紀が話を流す。準備のためにギルドへの入り口の方、俊紀達の後ろにある倉庫へと入って行く。


「1本で良いからな。この前みたいにあんなに出さなくていい」

「ん」


 サーベルタイガーを倒した時のようにあんなに剣を出してしまっては騒ぎになるだろうと感じた悠司がシロノに注意をする。彼女は分かっているのかどうなのか、無表情のまま頷く。正直、こういうときに無表情だったりすると理解しているのか、聞いていないのではないかと不安になるのだが、そんなことは知る由も無い。繰り返して言わないところを見ると悠司はシロノの事をそれなりに物わかりのいい人物だと思っているのだろう。


「悪いな、これから設置するところだからもう少し待っててくれよ」

「そういえばジェイル、セイラさんはどこに行ったんだ?こっちに来てるはずなんだが」

「ああ、それならな、試験の方はお願いしますねって言った後に書類が山積みだー、って言いながら自分の作業室に戻って行ったな」

「相変わらずあの人は書類面の仕事をやらないんだな…」


 ダンが訓練場の方に来たはずのセイラの姿が無いことを今更になって気にし始める。ジェイルから事情を聞くと呆れたような顔になってやれやれと首を振る。そんなやり取りをしているうちに設置が終わったようだ。


「待たせたな、じゃあ試験の説明をしようか。大体分かっていると思うが、この的に向かって魔法を撃ってくれればいい。この的が魔法の威力を測ってくれるから、それで合否を決める。わかったな?」

「なるほどな、随分簡単なものを選んだもんだなジェイル。俺の時なんかお前と本気の決闘だったじゃないか」

「ダン、お前と子供を比べるな。俺の攻撃をその子に当てたらどうなる?大怪我でもしたら大変だ」

「俺だって体中に打撲ができたぞ」

「そのあと回復させてやっただろう」

「回復薬を持ってきてくれたのはセイラさんだ」


 試験内容を聞いたダンが不満の声を上げる。それに対して言葉を返すが、ダンは納得いかないようで、そのまま口論へと発展してしまう。俊紀は悠司と顔を見合わせ、悠司がやれやれと首を振ると、1つ手を打ち鳴らす。その音にはっとなり、ダンは舌打ちをして顔をそらし、ジェイルは咳払いをする。


「あー、すまない。じゃあ早速始めようか」

「あの的を狙うんだ強すぎるのは使うな」

「ん」


 悠司の言葉に返事を返すと、シロノは手のひらの前に向け、そのまま手を突き出し意識を集中していく。魔法を使うことがメインの人間なら見えるが、シロノの突き出した手に魔力が集中していく。残念ながらジェイルとダンは見えていないが。


「スピアーナイフ」


 シロノが小さく呟くと、投げられることを前提にしているのか柄が極端に短く、切るよりは突く方面に特化している、刃の長く鋭いナイフがシロノの前方に生み出される。その直後シロノが短く息をするとそのナイフが真っ直ぐに飛んでゆき、的の中央を貫く。その後ナイフは直進するかと思われたが、途中で光の粒になって消える。的には中央に穴があいているだけである。


「…すごいな。ここまで正確にど真ん中を打ちぬいたのを見たのは久しぶりだ」


 ジェイルがシロノの撃ち抜いた的を見て感嘆の声をあげる。


「ふむ、よし。これなら合格だな。君はこれからEランク冒険者だ。おめでとう」

「…」


 顎に手を当て的を改めてみた後、1つ頷きシロノの方を向く。そして祝いの言葉を述べるジェイルだが、シロノは何のことかわかっていないような、下手をしたら自分に話しかけているのかどうかもわかっていないように無表情である。それを見て困ったように頭を掻くジェイル。そこに悠司が口を開く。


「気にするな、こいつは表情の変化が乏しくてな。顔を見ないで雰囲気を見たほうがわかりやすい」

「そ、そうなのか。まあいいか。じゃあこれからシロノが無事に冒険者になれたのを祝して少し騒ごうか」

「あんたは酒が飲みたいだけだろ」

「なんだ、ダン。居たのか」

「お前の眼は節穴か?」

「何だって?やるか?」

「良いだろう、ただし飲み比べだ」

「お前だって飲みたいんじゃないか」


 仲が良いのか悪いのかよくわからない2人のギルドに入って行く背中を見て呆れたように目を合わせ、首を振る俊紀と悠司だった。


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