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エピローグ

 グレードラゴンを倒した直後、3人の間で張りつめていた空気が緩む。シロノは特に緊張をしていたような様子もなく平常運転である。


「弓を使ったのは久々だったが、何とかなったか」

「あーあ、勿体ない…」


 しっかりと倒せたのを確認してから、ケイローンの弓を戻し悠司が呟く。それに対して残念そうな顔で塵すら残らなかった、グレードラゴンの飛んでいたあたりを眺めながら俊紀が呟く。視線の先では、光の残滓が消えて無くなったところだ。


「本気でやれと言ったのはお前だろう?」

「いや、まあ、確かに本気でやれって言ったけど…」


 ここで何かに気が付いたように言葉を切り、俊紀の動きが止まる。それにつられたのか、俊紀にお姫様抱っこをされたまま惚けた表情で俊紀の顔を眺めていたミーナが我に返り、顔を湯気でも出そうなくらいに真っ赤にして口を開く。


「とと、トシキさん。もう、降ろしてもらって、だ、大丈夫…です」

「あ、はい」


 ミーナを言われたとおりに降ろし、悠司と顔を合わせて何となく気まずい空気を感じていると、深呼吸をして落ちついた様子のミーナが真剣な表情で2人に話しかけてくる。


「…さっきやったことについて、聞いても良いですか?」

「…はい、答えられる範囲でお答えしましょう」


 ミーナの言葉に目線を悠司に向けるが、彼がゆっくりと首を振るのを見て観念した様子で了承する。それに少し驚いたような反応を見せたミーナだが、すぐに元の真剣な表情に戻し、恐る恐ると言った様子で口を開く。


「…で、貴方達は、さっき何をしたんですか?」

「………俺達の加減無しの攻撃をあのドラゴンにぶつけました」

「先ほど、拳王技、と言っていましたが、あれは?」


 1つ目の質問にすんなりと答え、2つ目の質問に対して、この質問に覚えていたか、と呟き額に手を当てて深いため息を1つ吐き、渋々口を開く俊紀。


「…以前のギルドで武術家だと言うのは知っていますよね」

「…はい」

「確かに俺は武術家です。が、はっきり言ってしまうと武術家の上位にあたる拳王のスキルを持っています」

「…それで、さっきのはそのスキルの一部である、と言うことですか?」

「はい」


 拳王。俊紀の本来の戦闘用に取ったサブスキルであり、武術家の上位スキル。言うなれば1つの境地であり、武術を極めたと言っても過言ではない実力が持つものが到達する場所である。ALOでいうならば武術家の派生進化形スキルの1つである。こちら側の世界であれば英雄と呼ばれてもいいのだが、悲しいことにALOでは上位スキルの到達者が多いのが残念なところだろう。俊紀と悠司からすれば当たり前の光景だったりする。


「拳王と言えばベルクム国の英雄でしか聞いたことがありませんでしたが…」

「俺達はそれとは関係ありません」


 ミーナの言ったベルクム国と言うのは英雄が拳王であったり剣王であったりしたために武芸が盛んな国である。この国に限らずどの英雄の話も国を超えるものであり、今俊紀達が居る場所とこのベルクム国と言うのは1000キロ単位で離れている。俊紀達の居たルーンロードが属する国はパラストという国であり、かつては賢者が居たと言う記録が残っている。


「と言うことはユウジさんも…」

「黙秘権を行使する」


 もしかしてと思いミーナが悠司に視線を向けると、悠司は目をそらし、黙秘権を使おうとする。何もしゃべらないつもりなのだろう。


 俊紀についてはここで明かしてしまうが、彼の上位スキルは拳王だけではなく、学者のその上位スキルに達している。学者の場合、戦闘に直接の関係は無いため、のびしろが広くいくつか上位スキルが存在するが、俊紀は学者の2つ上、賢人というスキルを持っている。これの下には知恵者と言うスキルもあるが正直言ってこの辺は学者とそこまで大差はない。


 ちなみに悠司のウェポンサモナーも上位職であることを忘れてはいけないのだが、扱いが微妙で認知度も低いため、そこまでの印象は与えらておらず、ミーナは悠司が自分のメインスキルを話した時の事を忘れている。


「…他に何かありますか?」

「…いえ、もういいです」


 俊紀達の事を聞き、ミーナが黙り込んだところで俊紀が確認を取る。他に聞かれることが無いことに少しほっとしたような表情をする。


「さて、どうするか」


 ミーナと俊紀の会話が切れたのを見計らって悠司が口を開く。悠司の言葉に良くわからないと言う表情をミーナがするが、俊紀はその言葉の意味を理解しているのか、頭をかき、眉をひそめる。


「このまま行くしか無さそうだよな…」

「え?」

「ミーナさん、今日見たこと、起きたことをギルドマスターに報告しないってできますか?」

「…報告をしないだけなら大丈夫ですが、マスターは勘が鋭いので隠していることをすぐに見破られてしまいそうです」


 俊紀に聞かれたことに率直に答える。どこの世界でも人の上に立つ人間の大半は勘が良いと言うのは変わらないらしい。また、彼女自体も隠し事をするのが苦手なのも問題点だと言えるだろう。


「…そうですか、じゃあ街に戻ったら俺達は別の街に行こうかな。一応の目的は冒険ですし」

「え?」

「俺達のスキルの事が広まると色々と面倒だからな。それに巻き込まれる前に街を出るだけだ」

「なら、私も付いていきます!」

「ギルドマスターから許可が出たなら良いですよ。じゃあ、今日のところは山を降りて村で一泊しましょう。街に戻るには微妙な時間ですし」

「はい!」


 …若干の時間をかけて思考を巡らせた後、この後の予定を口に出す俊紀。それに驚き、悠司の言ったことを聞き逃すが、自分も同行したいと申し出ると、条件付きで俊紀が同行を許可する。それを聞き喜ぶミーナだが、見えない角度で俊紀と悠司が目を合わせて何かしらの合図を取っていたのには気づかなかった。


「やっぱり魔物がいませんね」

「今日はもう魔物に会いたくないですよ。俊紀さんたちは余裕そうで羨ましいです。私もドラゴンと戦うことになっても堂々としていたいです」


 麓の村への途中、現在降りている山の周囲を見渡しながら俊紀が呟く。それに対してミーナが疲れた表情で答える。悠司とシロノは黙って2人の後ろで歩いている。シロノは悠司にくっついたり離れたりを繰り返しているが、その度に悠司の顔が青くなったり元に戻ったりと忙しない。


「見えてきましたね」

「…数時間のはずなのになんだか懐かしいような気がします。無事に戻って来れて良かった…」


 日が暮れたころに麓までようやく辿り着き、村の明かりが見えてくると、ミーナがまるで数年ぶりに故郷に帰ってきたかのような目でその方向を見やる。電気などを使っていない自然のやわらかい光が尚更この気持ちを膨れ上がらせているのかもしれない。実際、彼女だけでなく、この世界に住む大半の人間からすればドラゴンに出会った時点でいかに生き残るかを考えるので当たり前であると言えるだろう。倒そうなどと考えるのは伝説上の英雄か、俊紀や悠司のような規格外の能力を持つ者だけだろう。






「では、依頼の達成を祝して乾杯です!」

「「乾杯」」


 村に入り宿をとると、時間も丁度いいと言うことで夕食を取ることにした4人。ついでに今回の依頼が無事達成できたことを祝しての打ち上げをすることになった。しかし、酒を頼んでいるのはミーナだけで他の3人は適当な飲み物を頼んでいる。また、夕食も宿ではなく、酒場のような場所で取っている。


「それにしてもお2人は本当にお酒飲まないんですね」

「故郷の名残みたいなものです。俺達の故郷では20を過ぎるまでは飲酒は禁止されてましたから」

「なんだか、堅苦しいんですね。人生の一部を損しているような気がしますよ。お酒は適量なら日ごろの鬱憤を発散できるので身体的にも精神的にも良いんですよ?それが駄目だと言うなら私たちくらいの歳の人たちは結構正確が荒んでそうです」


 俊紀達が酒を頼まないのに対して、残念そうに駄弁り始めるミーナ。酒が入っているからか、いつもより饒舌である。その様子に俊紀は苦笑し、悠司はシロノに正面から抱きつかれすぐ横に顔があるせいでいつもの青い顔に加えて小刻みに震えている。その様子は携帯のマナーモードを連想させる。


「それにしても、ホントに今ここでこうしているのが夢のようですよ、生きていることって幸せなんですね。魔物がいなければもっと楽に生きられると思うんですけど、どう思います?」

「魔物が居なかったら、この世界で冒険者の意義が無くなると思うんですが…」

「そんなこと無いですよ、多分。遺跡を調査するのだって冒険者の仕事の内の1つなんですから、魔物がいなくなったくらいでそんなに変わるとは思いませんよ、それに…」

「悠司、ミーナさんが止まらない」

「そそ、そのうち酔っ払って、ね、寝るだろう。そそそそうしたら部屋まで運んでやれれれ」

「お前はシロノに抱きつかれたくらいで震えすぎだ。あと限界ならキャラ作らなくても良いからな?」

「だ、大丈夫だ、もも、問題、無い」

「はあ…」


 酔いが回り、だんだんと哲学的なことを言い始めたミーナに、眼が完全に曇り、口だけ笑ったまま振えるユージ。そして、そんな物はお構いなしとばかりに悠司に抱きついたまま夢の世界に旅立ってしまったシロノ。少しずつ混沌とし始めた状況に俊紀が大きくため息を吐く。











 1時間は経っただろうか、空は漆のような黒さに染まり、酔っ払ってそのまま寝てしまったミーナと、シロノを悠司から引きはがしベッドに寝かせたところで俊紀と悠司も軽く睡眠をとる。そこから更に数時間後、空にはまだ太陽の姿は無く、ようやく空が明るくなり始めたころ。村の外には2人の姿があった。


「…本当に置いてきて良かったのかな?」

「何を今更言っている。そもそもこの案を出したのはお前だろう」


 山を降りる前での会話の途中、2人がアイコンタクトで話し合ったのは、ミーナとシロノをどうやって自分たちから離れさせ、別れるかだった。手段としては実際に2人が取ったように、日も昇らない時間に自分たちだけ起きて出発すると言うものである。提案したのは俊紀だが、やはりあれだけ自分たちと居て楽しそうにしている人物を何も伝えずにいなくなると言うのは少しばかり思うところがあるようだ。


 悠司もなにか普段とは違う、なんとなく物憂げな感情を浮かべたポーカーフェイスで村のほうを振り返っている。あれだけ懐かれていたのだ。シロノの事が気掛かりなのだろう。


「じゃあ、バレないうちにさっさと行きますか」

「…少し遅かったようだな」

「え?」


 前を向きいざ行こうと言う時に悠司が苦笑し、呟く。


「トシキさん!ひどいですよー!」


 思わず振り返った先には手を振りながら走ってくるミーナの姿があった。それを確認した瞬間、足を動かし、走りだす俊紀。


「ちょっと、置いていかないで下さーい!」

「ミーナさん、すみませーん!またどこかで会いましょう!ギルドマスターに宜しく伝えて下さーい!」


 俊紀が走り出したのを見て、悠司も走り出す。その後ろからミーナの声が聞こえてくると、それに俊紀が対応する。悠司が走りながら後ろを向くと、もう追ってきてはいないようだ。


「ここまで走れば平気だろう」


 村が完全に見えなくなり、街の横を通り過ぎそこから街道に出たところで俊紀が止まる。


「…」

「悠司、どうした?」

「…そんな馬鹿な」

「むぅ、意地悪」


 言葉を返してこない悠司の方を見ると、手で顔を塞ぎ呻く悠司と、その足にくっついて不満を漏らすシロノの姿があった。これには俊紀も何を返せばいいのか分からず、困惑するのみだった。

第一章、完!

ここまで読んでくださった方々、ブックマーク登録してくださっている皆様、

ありがとうございます。これからも頑張って更新していきますので、応援よろしくお願いします。


主人公たちの旅路は長いのです。

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