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とある宇宙船にて

作者: UMIYA

初投稿です。大幅に手直しいたしました。

またダメ出しや、感想等お願いします。


 

 プリンアラモードが食べたい。


 あの艶やかな黄色の表面にかかった茶色の濃厚なカラメル。そんな美しいプリンの周りを彩るクラムの赤やフレミの黄色など、色とりどりのフルーツたち。白くさり気なく印象を主張しているホイップクリーム。あぁ、想像しただけで食べたくなってきてしまった。


「あー、プリンアラモード た べ た い!ねえ、シオン買ってきて、お願い」

  想像のスイーツについついよだれを垂らしてしまった私に、後輩のシオンは座っていたイスを回転させて振り向いた。いつもは冷静な雰囲気をかもし出しているその顔が、今に限っては呆れた表情を作っている。

「嫌ですよ。何で僕が先輩のために買ってこなきゃいけないんですか。そこまでの義理はありませんよ。それに、こんな宇宙のど真ん中で買いにいけるわけが無いですし……もう少し周りを見てから発言してくださいよ」

 そう、私たち二人は今、宇宙にいるのだ。宇宙開拓部隊・第三部隊に所属している私たちは宇宙船で様々な惑星に飛び回り、探索を続けている。彼の言う通り、すぐにプリンアラモードが食べられるというわけではないのだ。だけど、我慢ならない…


「思い立ったら即行動よ!今すぐ食べたいの。どこか近くに寄ることのできる星は無いの。もう、プリンアラモードさえ食べられるのであればサイクロンでも、マグレスでもどこでもいいわよ」

「ちょ、サイクロンもマグレスも、今は戦乱真っ只中じゃないですか。そんな命かけてまで飼う必要があるんですか。落ち着いてくださいよ」

「いいもんいいもん、シオンがそんなこというなら、今度本部へ戻ったときシオンの弟君に君の恥ずかしい話してやるもんねー」

 今までの呆れた顔から一変。両目を見開き、シオンはぎょっとした。

「先輩、個人的な情報を弟に流すの、止めてもらえませんかね。ただでさえ最近、弟の様子がおかしくなっているんですよ。はあ、プリンアラモードも買いますから、機嫌直してくださいよ」


 そして苦労性の可愛い後輩君は、ひとつため息をつくと宇宙船専用の通信機器を取り出し始めた。

「しばらく時間はかかりますけど、一応は頼んでみます。お店のほうは、テツさんのところでいいですか? 」

「もちのろんろん♪テツさんのプリンアラモードは宇宙一おいしいのよね。あ、当たり前のことだけど、金額はカシュー隊長持ちね」

「分かりました」


 こうやって隊長の借金が増えていくのだと感じながら、シオンがプリンアラモードを頼んでいる間私は自分の仕事を再開した。今の気分は、ものすごく良い。楽しく仕事をした性か、今日の分の探索がはかどった。


 さて、プリンアラモードが来るまでの間、持ち合わせのお菓子でも…ってあれ?小腹が空いた時のためにとって置いたプリンチョコが無くなっている。確かに昨日までは、プリンチョコが入っていたはずなのに。

 ガサゴソ、ガサゴソ

 引き出しの中には、なぜかお菓子の代わりにセミの抜け殻が入れられていた。ていうか、何でセミの抜け殻? お菓子は、お菓子は、私のお菓子はどこへ行ったの!

 私が嘆いていると、後ろからシオンが引き出しを覗き込んできた。その横顔は、いたずらが成功した少年のように楽しそうだ。犯人は、こいつだな。

「ああ、先輩の引き出しぐちゃぐちゃになっていたので整頓させてもらいました。もう少し整理整頓に気をつけてくださいよ。それから、中に入っていたプリンチョコは僕がおいしくいただきましたので。そのお礼に先日惑星・チキュウで買った、セミの抜け殻を……って、先輩、大丈夫ですか?」

 説明していくうちに私の表情が沈んでいくのを見て、シオンは心配そうに声をかけた。しかし、ショックで震えていた私はそれ所ではなかった。こいつ、なんてことをしてくれたんだ。私のお菓子を……ひそかに楽しみにしていたのに。

「うう、死ね、死ね、死んでしまええええっ」

「え、ちょっと先輩危ないじゃないですか。刃物は振り回してはいけませんってば。何処からそんなもの取り出したんですか!?」

「黙れ!!」

 たまたま近くにあったナイフを構える私に、シオンは驚く。いつもは真面目で冷静な彼が、今は自分の命が危機にさらされているせいか焦っている。ふふ、いい様だ。私のプリンチョコを食べた罪は重いのだ!


 私とシオンの攻防戦が続くこと数分後……


「毎度、お世話になっております。テツです。注文されていたプリンアラモードをお届けに参りました~」

 通信機器から、聞きなれた声が聞こえた。今なんて言った。プリンアラモードが来ただと。脳がその言葉に反応し、私の動きがピクンと止まった。ちっ、あと少しで仕留められたのに、運のいい奴め。

「はーい、今行きます。いつも通り宇宙船への転送をお願いします」

 寸での所で助かったシオンのほっとしている姿を尻目に、上機嫌でプリンアラモードを取りに転送機前に駆け寄った……そのときだった。


 ドーーーーーーーン


 宇宙船を轟かす地鳴り。金属と金属がぶつかり合う音。おそらく、どこかの馬鹿がぶつかったんだな。タイミング悪いな、ホント。やっと上機嫌になれたって言うのに、気分はまた急降下って……最悪。誰だよ、おい。もう一つの通信機で相手に連絡を取ると、そこからは陽気な声が聞こえてきた。

『ハロー、先輩ちゃんにシオン君。二人とも元気そうだね』

 雲のように軽すぎるテンションに乗ったしゃべり方。私のことを、[先輩ちゃん]と呼ぶその声。そして、画面から覗く赤い髪。嫌な予感しかしない。返事をする気が失せ、沈黙を貫く私の代わりに、シオンが応えた。

「あ、こんにちは、隊長」

 予想的中。嬉しくないな。しかし返事をしないわけにもいかず、しょうがなく私も返事をした。もちろん笑顔なんて見せない。愛想笑いでさえ、この人に見せれば減ってしまう気がする。

「何ですか、バカシュー隊長」

 宇宙船にぶつかってきた相手は、私たちの(一応)上司だった。名前は、カシュー隊長。通称・バカシュー隊長。(命名・私)隊長になる前は、時計師の仕事をしていたらしいのだけど、どうやら軽いノリと不器用さが災いになってクビになり、今の職に就いたらしい。まあ、隊長らしいんじゃないかな。

『バ、バカはないでしょう!上司に向かって』

 30代ぐらいの容姿。優しそうな目尻に似つかわしい赤い髪の毛の男性。ああ、本物だ。年上なのに、部下に罵られただけで涙目になるとか……情けないったらないわ。ヘタレ予備軍だな。

「いえ、今私のテンションは、物凄く低いんです。誰かさんのせいで……」

『何かあったのかい? もしかして……シオン君、君、先輩ちゃんに何かしたの? 』

 はあ、なんでこの人が上司なのだろう。本部に連絡して上司変えてもらうことできないのかな。私って上司運ないのかな。もうすこし、察しが良くて冷静な上司の方が良かったな。

「あんたのせいだよ、馬鹿隊長。宇宙船の操縦ぐらい、もう少しうまくやってくださいよ。どうせ、今の衝突も貴方の操縦ミスなのでしょ。」

『ご明察。流石の名推理だね、先輩ちゃん。いや~、最近の宇宙船って細々としていて分かりにくいからな』

 自分の不器用さではなく、宇宙船の性にする隊長。反省する様子がまったくない。

 それにその位の事、私じゃなくてもそこらのサルでさえ分かるわ。貴方だけだよ、分かってないの。天然なのだか、馬鹿なのだかはっきりしてもらいたいね。

「私、今物凄くプリンアラモードが食べたくって、ついさっきやっと届いたんです。待ってましたと思ったのに……」

 愚痴っていくと、どんどんと怒りが湧き上がっていく。キッと上司を睨み付け、鋭く指を床に指した。そこには、衝撃で倒れてしまった哀れなプリンアラモードの姿が。

 柔らかいプリンは金属の床で形が崩れ、存在を大きく主張するカスタードクリームとホイップクリームは、床に広がり食べることが出来なくなってしまっている。カラフルなフルーツたちももう食べられないのだと思うと、ひどい、ひどすぎる。

 テンション駄々下がりで今にも泣きそうな私を、シオンと通信機器から覗くバカシュー隊長がおろおろと見ていた。そんな困った顔されても泣き止みませんよ!プリンアラモードの恨み!


 数分の沈黙…

「あの、実は、もう一つプリンアラモード持ってきたんですけど……まだ転送していなくて無事なので、どうでしょうか」

 沈黙を破ったのは、今まで、だんまりだったテツさん。彼はふと思い出したかのように、もうひとつプリンアラモードを取り出したではありませんか。嬉しい、嬉しすぎる!もう崇拝してもいいくらいだよ!

「え、いいんですか。頂けるのであればすごく欲しいです。ありがとうございます、ありがとうございます!」

 転送されてきたプリンアラモードを、慎重に震える手で受け取り私は食べ始めた。はい、もう涙を流しながら食べましたよ。プリンアラモード。やっぱりテツさんのお店のスイーツは絶品です!舌が蕩けそうです。

 ここのプリンアラモードって、他のお店とは違ってカスタードクリームが乗っているところとか、一つ一つのフルーツにこだわりがあること、テツさんのオリジナルプリンの味わいがいいんですよね!おまけにチョコレートものせられていて最高です。

「はあ~、おいしかった!ありがとうテツさん。生き返りましたよ」

 器を空にして満足した私は、今ならちょっとのことならすぐに許せそうです。だけど、許していいことと悪いこととあるんですよね。(特に、とある上司の行動とか)

「カシュー隊長。一度本部へ戻ってよろしいでしょうか。少しお話したいことがあるのですが、直接あって相談したいので」

「? 別にいいけど。分かった。じゃあまた後でね」

 そういって通信機を切った隊長は、気づいていなかった。しかし、傍らで会話を聞いていたシオンは、私の顔に黒い笑みが浮かんでいることに気がつき、震え上がったのだった。失礼ですね。別に起こってなんかいないのに、シオンに対しては。

 では、プリンアラモードを食べて、元気になったことで先ほどの宇宙船衝突の件について隊長と話し合いがてら、一発殴りに行きましょうか。もちろん、手加減はいたしません。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  キャラクターが活き活きとしてますね。 [気になる点]  ハイテンションを表現するのに感嘆符(!)や長音符(ー)は必ずしも必要ではなく、またその数も問題ではありません。キャラクターのテンシ…
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