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一般ファンタジー小説

魔法使いになりたいドラゴン

作者: 藍上央理

 あるところに、小さなドラゴンがいた。

 どのくらい小さいかというと、かわいらしい三色スミレの花の陰に隠れてしまえるくらいに小さかった。

 だから、ドラゴンは魔法使いになって身体を大きくして、みんなに怖がられるようなドラゴンになりたいと思っていた。




 ドラゴンは二つに割った胡桃の殻のなかにとぐろを巻いて暮らしていた。雨が降れば、片方の殻を蓋にした。

 あまりに小さいのでミミズに間違えられてトカゲに食べられてしまうかもしれないし、小鳥についばまれてしまうかもしれない。大きな蟻がきてもきっと負けてしまうだろう。

 だから、たいていは胡桃の殻のなかにいて、外をじっとうかがっていた。

 



 雨がしとしと降るなか、ドラゴンが息を殺して殻のなかにいると、カタツムリが来た。虹色のドレープのきいたドレスを着て、頭に真ん丸いかわいい殻の帽子をかぶっている。

 かたつむりが、「こんちは」と声をかけてきた。

 ドラゴンは答えなかった。

 かたつむりはかまわず、「変わったかたつむりだねぇ、それとも君は貝かなにかなの」

 ドラゴンはむっつりとして、「ドラゴンだよ」と答えた。

 かたつむりは目を真ん丸くして笑った。

「ドラゴンがそんな小さな胡桃の殻に収まるわけないじゃない」

 ドラゴンはすっかり機嫌が悪くなってしまった。

「早く魔法使いになって魔法で身体を大きくしたいなぁ」

 それで、魔法使いの家に行くことにした。

 小さな胡桃の殻を背負って、魔法使いの家の扉をの前についた。

 とてつもなく大きな鉄の門。大きなライオンの顔が扉に浮き出ていて、低く「グルルルル」とうなっている。

 ドラゴンはライオンを見て一瞬ひるんだけれど、手も足もないからきっと襲って来れないだろうと、出来る限り大きな声をだして言った。

「魔法使いに会わせてくれ」

 あっさりライオンには無視された。

「おい、ライオン、魔法使いはどこだ」

 ライオンは知らん振りのままだ。

 ミミズかなにかだと思われているのだと思うと、ドラゴンは悔しくなったが、殻を背負ったまま、どこか入り口のようなところはないか探し回った。




 屋敷の外塀が少しかけて穴があいている。

 ドラゴンはむっつりとしたまますたすたと入っていった。

 屋敷のなかはいろんな花が咲いていて、さまざまな植物が茂っている。しかも、とてつもなく広い。

 ドラゴンは夜になったら殻のなかに入って寝て、朝になったら殻を背負って魔法使いを探しに出かけた。三日三晩歩きつづけたけれど、屋敷にたどり着けなかった。

 



 庭には危険な動物はいなかった。ドラゴンはいつのまにか胡桃の殻をほうって、庭を歩き回っていた。

 何度も沈む月と昇る太陽を見た。

 けれど、屋敷にたどり着くことは出来なかった。

 魔法使いは長い旅に出ているのか……それとも、ここは魔法使いの屋敷ではないのか……

 



 とうとう、ドラゴンはむっつりと、「俺は魔法使いになりたいんだぞ」とつぶやいた。

 すると、「そうです、あなたが魔法使いです」と回り中が答えた。

 ドラゴンはびっくりしたけれど、もう、あの胡桃はどこかになくなってしまっていたし、隠れることも出来なかった。

 ドラゴンの目には見えない屋敷は言った。

「魔法使いになりたいと願うものが、この屋敷に入ってその願いを言えば、その場で魔法使いになれるんです」

 ドラゴンは気をよくして、「じゃあ、もう俺は魔法使いなのか」と言った。

「そうですよ、なんでも唱えてごらんなさい」

 ドラゴンは大きくなりたいと唱えた。ズーンと轟音が響いて、ドラゴンは庭を埋め尽くすほどに大きくなった。そうして眺める世界はとても小さなものだった。

 ドラゴンは、「じゃあ、もうここを出て行くよ」というと、屋敷が言った。

「そうしたら、魔法使いじゃなくなります」

 ドラゴンは顔をしかめて、「屋敷のなかでないと魔法使いじゃないの」と言った。

「そうです」

 ドラゴンはさっさと胡桃のからを見つけ出し、もとの大きさに戻って、あの小さな穴から出て行った。




 ドラゴンは胡桃の殻のなかに丸まって憧れるように考えている。

「早く魔法使いになって大きくなりたいなぁ……」


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