新しい一日
感想、質問ありましたらよろしくお願いします。
俺が起きると時刻はお昼前になっていた。
昨夜は着替えずに寝たため、学校の制服のままだ。
目をこすりながら境内へ行くと、霊夢が箒で掃除をしていた。
「おはよう」
「おはよう。よく眠れた?」
「昼近くまでぐっすりと」
驚きがありすぎて眠れないなんていうことがよくあるが、
今回の俺は、驚きより強かった体の疲れが眠りにつかせてくれた。
まぁ、おまけとでも言うように夢の中で元凶に合うことも出来た。
学校を記にせず迎えられる朝は意外とスッキリしていた。
家族のことや、友達は心配だが、俺自身厄介な状況になっている。
元凶である零というおと男の言葉を信じるのであれば、
家族よりも自分を気にしないといけないのではないだろうか。
切り替えて、この幻想郷に慣れていくことにしようと思う。
「霊夢、俺の服はこれしか無いんだが、他はどうしたらいい?」
「ああ、そうね……確か、男物は押入れだったわね。
後で取りに行くから、今はお昼ご飯を作るわよ」
霊夢はそう言いながら箒を立てかけて神社の中に戻っていく。
簡単な設備の説明を受けながら、火をおこし、ご飯や味噌汁を作っていく。
かまどでごはんを炊く日が来るとは想わなかった。
まぁ、火付けは霊夢がやってくれたし、その後の調節も、教えてくれた。
「お手伝いさんなら料理は基本よ」とのこと。
「頑張るよ」
「ええ、よろしく頼むわね」
さてと、話は変わるが、これも霊夢のことだ。
男と一つ屋根の下に居ることになったというのに嫌だという素振りがない。
霊夢は年頃の女の子だし、普通なら見ず知らずの人間と暮らすのは嫌なはずだ。
でも、彼女は全くそれを気にしていない様子で少し意外だ。
それに、ほぼ初対面の人間なのに、普通にタメ口になっている。
昨日あったばかりだし、初対面といえど、少しはそういうものが有るはずだが、
霊夢と話す場合はなぜかそういうものが無いかのようにとても気が楽だ。
とても不思議なことだけれど、話しづらいのは嫌だからとてもありがたい。
霊夢には、人に偏見を持たない何か特別なものが有るのかもしれない。
さて、そんなことを考える内に味噌汁ができた。
「霊夢、出来たよ」
「わかったわ。じゃあ、器はそっちにあるから」
食事の食器を取りにに腰を上げる。
味噌汁の香りがふんわりと鼻に入ってきた。
女の子と二人で食べる昼食とは、緊張しそうだ。
****
案の定、女の子との昼食は緊張した。
なぜなのかわからないが、霊夢の食事の仕草が妙にエロく見える。
あれか、可愛い女の子と食事をするとエロく見えるとかあるのだろうか。
いや、今は気にしないでおこう。今は俺の服のことだ。
食事を終えると、霊夢は押入れの方から大きな木の箱を持ってきた。
木の箱のなかは男物の着物がたくさん入っていた。好きな様に使えとのこと。
七五三の時の記憶を引っ張りだして中を漁り、着物一式を選んだ。
おぼろげな記憶と、目の前の道具でなんとかかんとか形としては着ることが出来た。
「霊夢ー、これでいいのかなー?」
台所で食器の片付けをしていた霊夢に問いかける。
すぐに、台所からひょっこりと霊夢が顔をのぞかせて俺を見る。
「うん、大丈夫よ、いい感じに着流せてるわ」
「ありがとう」
感じとしてはなかなか良かったようだ。
少し満足感を感じながら台所へ移動する。
霊夢に一言断ってから、布巾を取り、洗った皿を拭いていく。
隣にいる霊夢は、俺と比べると肩くらいの背丈で、
どこか、年齢の近い妹と食器洗いしてるみたいで楽しい。
「あ、そうだ。この後人里の方に買い物に行くから」
洗う手を休めずに霊夢がそう言った。
俺の生活用品やなんやら、一式そろえに行くらしい。
俺は、少し楽しみに思いながらそれに返事をした。
****
「なぁ霊夢、ホントにできるかな?」
「夢であの変なのが空飛ぶのに使うって言ったんでしょ?
なら大丈夫よ、出来るわ。気合でやっちゃいなさい、バッと」
「う、うん」
足をボードに乗せ、落ちないように力を込めてしっかり紐で固定する。
スノボー用の固定器具でないのは、今のように草鞋だけとか、
足袋だけの時とかにでも利用できるように思ってのことだろう。
さて、足を結んだのはいい。が、この先がどうするのか全くわからない。
「どうしたの? 浮かばないの?」
「いや、浮かび方がわからないんだ」
正直に打ち明けると、霊夢は少し呆れ顔になった。
使えない板ねぇ、とでも言いたそうな顔だ。
「役に立たない板ねぇ」
言いたそうな顔から、そう言った顔になった。
どうするのか少し悩んでいると、置いてきた御札が飛んで来た。
俺の目の前で止まり、裏側をこちらに向けて目線まで降りてくる。
『この御札を使って飛んでくれよな☆』
「なんて?」
頭のなかから裏面に移行しても相変わらずうざい説明にしらけていると、
気になったのか、霊夢が俺の顔を覗きこんでそう聞いてきた。
「これ使うんだってさ」
俺はそう返事しながら御札を手に取る。
裏面の文字はまた書き代わり、違う文になる。
『風と、ボードを融合するんだぜ☆』
とのことらしい。対象を設定するため、ボードと、風を意識する。
『おっと、ボードはちゃんと固有名を使ってくれよ?』
……あの中二な名前を使わないといけないらしい。
目を閉じて、足元の玄翔と、周りを囲む風をイメージする。
すると、頭のなかに文字が浮かんできた。
『玄翔と風を融合するぜ☆』
目を開けてみてもボードには特に変化がない。
しかし、あの時と同じく、頭には使用方法が流れてきた。
『どんなふうに飛びたいか、それをイメージしてくれ。
自由自在に飛び回って、弾幕を避けきろう☆』
弾幕って何なんだろう。いや、それよりも。これで飛べるらしい。
試しに浮かび上がって見ようとする。
すると、俺を乗せたボードはふわりと、浮かんだ。
「おお、出来た」
「いいじゃない。じゃ、行きましょうか」
霊夢はそう言って、地面を蹴ると、そのまま中に浮き上がる。
道具を使わないと飛べない俺とはやっぱり違うようだ。
「すごいね」
「何言ってんのよ。幻想郷では結構当たり前のことよ」
そうか、俺のほうがあたりまえじゃない奴だったのか。
なにか不思議な劣等感にも似た変な感覚を持ちながら、霊夢の後を追った。
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「よう、おじゃましてるぜ!」
神社に帰ると、境内で金髪の女の子に挨拶された。
黒いとんがり帽子に白いエプロン付きの黒い服。
いわゆる魔女の女の子の衣装だ。
「魔理沙、来たんだ」
「おう、暇だったからな。で、そっちのは誰だ?」
魔理沙は俺の方を向いた。
「俺は、境統治。幻想郷の外から来たんだけど、
昨日からここでお手伝いさんをやらせてもらってるんだ」
「へーそうなのか。私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ」
魔女衣装の少女は、予想通り魔女だったようだ。