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東方融合札  作者: 面無し
4/12

幻想郷というところ

「あなたは何?」


 今日は、俺には本当に厄介な事が起こるらしい。

目玉が無数に浮かぶ趣味の悪い空間で、絶世の美女に扇子を向けられる。

こんなゲームか何かにでもありそうな状況が、厄介でなくて何なのか。

 さて、目の前の美人さんの質問に答えねばなるまい。

 『何』と問われたのだから種族を答えるのが無難だろう。


「えーと、霊長目、ヒト化、ヒト族、ヒト……

学名ホモ・サピエンスと言われる動物の一個体です」


 生物授業で、何かのネタになるかもと覚えていてよかった。

まさかこんな問いかけの答えで使うとは思いもしなかったが。

 一応、何という問いにならば、この答え方でいいはずだ。


「嘘を言わないでちょうだい。あなたは何?」


 俺の答えは嘘と言われてしまった。

 美女は質問を繰り返して俺に扇子を押し付ける。

一見普通の女性。しかし、彼女から何かの圧力が感じられ、逆らえない。

 俺は頭を回転させてみた。『何』の答えなんて先程のもの以外に持ち合わせがない。

しかたない、ここは正直に、質問の意味を問うたほうがいいだろう。


「すいません。『人間』という答えしかありません。

この質問は同意味なのか教えてもらっていいですか?」


「あなたはどんな奴で、どんな力を使い、どんな手法でさっきの道に出たの?」


 ああ、なるほど、そういうことか。

目の前の美人は、俺がさっきの一本道に行った方法を聞きたいらしい。

 うむ、それならば、簡単だ。


「わかりません」


「ふざけてるの?」


 美人は急に笑顔になってそう問うてきた。

笑顔が怖いとはこういうことを指すのだと初めて理解できた。

おそらく、詳しく詳細を話さないと殺される。


「この変な御札を拾ったあと、変な黒ずくめの男に話しかけられて、

なんかむしゃくしゃしてこの御札を握りしめたら、一本道にいました!」


 御札を彼女の方に差し出し、早口言葉のように一気に喋った。

 美人は俺の差し出した御札と俺を交互に見て、

「借りるわね」と一度断ってから御札を手にとった。


「……これ、拾ったといったわね」


「あ、はい」


「あなたと私に両方に伝言がついていたわ。

あなたの言う黒ずくめの男、その本人から、私達に。

御札の裏面を見なさい、あなたへの伝言があるわよ」


 御札を裏返してみる。記憶にある裏は中二な文句があっただけ。

だが、今は…


『境統治、目の前に居る八雲紫についていけ』


 文章が全く別のものに変わっている。しかもずいぶん丁寧な字だ。

 文章によると、目の前の女の人は八雲紫というらしい。

この文章は胡散臭い、が、命拾いをした道具だし、

言うとおりにならぬ書くとおりに従うのが無難だろう。


「よくわからないかもしれないけど、そういうことよ。

あなたが迷い込んだここがどういうところなのか、それはついてからよ」


「わかった」


 俺が頷くのを確認して、目の前の美女こと紫さんが後ろを向く。

 彼女が扇子で目だらけの世界を縦に切ると、そこに割れ目が現れた。

大きさはちょうど一人が通れる程度の大きさで、彼女はそのまま歩いて外に出た。

 俺はというと、浮遊するだけだ。この空間には地面も何も感じられない。

目の前の割れ目をじっと見ていると、そこから紫さんの手が伸びてきた。

 手のひらが握って開いてしているところを見ると、握れということだろう。

 その手に従って、手を掴むと、そのまま割れ目から外に出された。

 先ほどまでなかった重力が不意に掛かり、倒れ込みそうになる。

それを、紫さんが少しだけ支えてくれた。


「大丈夫?」


「あ、ええ、大丈夫です。ありがとうございます」


「で、そいつがさっき言ってたやつ?」


 紫さんにお礼を言ったところで、少しぶっきらぼうな声が聞こえた。

前を向くと、そこにはお祓い棒を持ち、紅白と表現されそうな服装の少女がいた。

 その後ろには、お賽銭箱のよく目立つ神社が経っている。


「ええそうよ。生活費は私が出すから、

ここで手伝いとして居候させてちょうだい」


 紫さんがそう言うと、目の前の少女は俺の方によってきて俺を見回す。

 年は十五か十六位だろうか、学校の女と比べてかなり可愛い。

快晴のような明るく、スッキリした雰囲気をまとっている。


「いいわよ、給料の要らないお手伝いさんなんて便利だしね」


 俺を眺め回した彼女は紫さんに向かってそういった。

 いやまて、無休で無給のお手伝いさんになぜだかされている。

俺には一応帰る家があるし、親もいるし、明日も学校だ。


「待ってくれ、お手伝いさんってどういうことだ?

俺を家に返してくれるって言うようなことは無いのか?」


 ふと出た疑問をそのまま口にする。

 紫さんは、扇子を口に当てて、少し黙った後、


「そこも含めてすべて話すわ。

霊夢お手伝いさんの話は後よ、今は彼を優先するわ」


「えー」


「文句を言わないの、さ、ついていらっしゃい」


 俺に向かってそういうと、紫さんは神社を迂回するように歩いて行く。

 おとなしくその後ろをついていくと、そこには普通の引き戸があった。

 後ろには少女がついてきている。紫さんは確か霊夢と呼んでいた。

 神社には神主か巫女が居る。この襖は巫女さんか神主の居住スペースだろう。


「さ、あがって」


 紫さんは引き戸を開けて中に入ると、俺を促した。


「私の家だけどね」


 靴を脱いで入ろうとしているとという少女の小さな呟きが聞こえた。

が、反応すると何か又面倒なことになりそうだったので、スルーすることにした。


「こっちよ」


 紫さんに連れて来られや部屋にはちゃぶ台があった。おそらくは居間だ。

 紫さんはちゃぶ台の向こうに座ると、促すように俺を見た。

 促されるまま紫さんの反対側に座る。

 すると、彼女は居間の俺の状況をゆっくり説明し始めた。


     ****


「………ということよ」


 紫さんの二十分に渡る長い説明が終わった。

 頭のなかで反芻し、大事な部分だけを抜き出す。

一応の確認も兼ねて、紫さんに確かめたほうがいいだろう。


「大事な部分だけを羅列していくと、

一、ここは幻想郷という妖怪や、魔法や妖術があるところである。

 二、俺はこことは別の、言ってみれば外の世界の住人で、

その御札を作った奴によって、この世界に連れて来られた。

 三、普段ならば、本人が望む限りは外に帰すところだが、

先日現れた御札の造り主に自分たちは勝つことが出来ず、

帰そうとすると、御札の造り主に妨害されるので帰ることは不可。

 四、向こうの世界のことは造り主の方で何とかしてくれる手筈で、

もし帰った時に問題があれば、一生遊んで暮らせるお金が保証される。

 五、そこにいる女の子は博麗霊夢といって、この神社の巫女である。

 六、その巫女の仕事は幻想郷での大きな問題の解決であり、

俺はこの御札を使ってその手伝い、もしくは自力での解決をすることになる。

 七、それ以外の時は、居候としてこの神社のお手伝いをすること。

 八、休暇はないが、コキは使わない。給料は紫さんから出される。

 九、死亡した場合は、御札の造り主に蘇生が受けられる。

 十、ただし、ここまで聞いて拒否した場合、普通に死にます。

 ………ということで大丈夫でしょうか?」


「ええ、完璧よ。その十個覚えておけば問題ないわ」


 問題ありまくりである。正直突っ込みどころを端から捲し立てたい気分だ。

 が、おそらくは叫んでも意味は無いだろう。そんな気がする。

 俺には今の状況を受け入れるしか選択肢がないらしい。


「……分かりました。ここにいさせていただきます」


 ため息を吐いた後、紫さんにそう答える。

 紫さんは、頷くと、霊夢の方を向いた。


「わかったわ。じゃあ霊夢、よろしく頼むわね」


「はいはい、じゃあね」


 霊夢がそう返すと、紫さんは先程の割れ目を作ってその中に飛び込んでいった。

 靴がどうなったのか疑問だが、先からのことを見る限り、靴は回収済みだろう。


「さてと、自己紹介しなくちゃならないわね。

私は博麗霊夢。さっきもあったけど、この神社の巫女よ」


 彼女の雰囲気と同じ、はっきりと良く聞き取れる声だ。

とても、耳障りがよくてすぐに頭に入る、返す言葉もすぐに出た。


「俺は境統治、さっきもあったが、御札で連れて来られた一般人だ。

料理と戦闘はあまり期待しないでいてくれると助かるかな」


 そんな簡単な挨拶を交わして、俺は幻想郷での最初の夜を過ごした。


     ****


 夢を見た。目の前にはあの黒尽くめの男がいて、

さも友人に合ったかのように手を上げてこちらに挨拶をしてきた。


「やぁ少年。いや、名前は統治だったか。

初めまして、御札の造り主の神谷零っていうんだ」


 今度は何の用だろうか。もう厄介はゴメンだ。


「ああ、悪いな。今度は厄介じゃないから安心してくれ。

一応、これから君の役に立つであろう道具を持ってきたのさ」


 零は自分のそばに穴を開けると、その中に手を突っ込み何かを取り出した。

 取り出したそれは、黒いスノーボー用の板。足の留め具がある部分には、

何故か代わりに太めの紐が数本付いている。


「このボートは空を飛ぶ時に使ってくれ、

オプションとして、色々と攻撃機能もつけてるから」


 なんと危ない物品なのか。

というか、飛ぶなんてことがありえるのか?

……まぁあるんだろう、もう全てを受け入れるようにするのがいいだろう。


「じゃあ、頑張ってね」


 そう言いながら、零はぼやけて消えてしまった。

 その日の朝、寝ぼけ眼で枕元を見ると、

夢で見たあのスノーボードのいたが置いてあった。

 サンタのようなことをするものだと思いながら触れてみる。

 ハラリと一枚の紙が落ちてきた。

この板の名前、と題が書かれた紙にはこうあった。


『その黒い板、黒い板だと味気ないから名前つけたよ。

三分使って考えたんだからしっかり使ってくれよ?

玄翔げんしょう』です。いいのがあったら変えてもいいよ』


 ずいぶんと中二に入った名前だと思った。

が、正直これより格好良くて中二でない名前がなくこれになった。

 あの男、本当に何を考えてるのかわからない男である。

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