変な御札
こんにちは、初めての方は初めまして。
「東方兄妹記」を連載中の作者です。
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「なにこれ」
夏に入った日の朝方、俺は道端で御札を拾った。
中央と両端に円が描かれ、その三つを曲線がつないでいる。
どこかのファンタジー小説にでも出てきそうなヴィジュアルだ。
「使うと何でも壊せる御札とか……ばかみたいだな」
自分のつぶやきに対して、自分で返す。
友人が少ないせいで、最近は独り言が多くなってしまった。
友達もいないわけではないが、学校が違うし、中々会えない。
そこら辺はどうにもこうにもしかたがないだろう。
少々御札を眺めながら何を思うわけでもなく立ち止まる。
そして、学校に行かなければいけないことを思い出して歩き出した。
先ほど拾った御札を何故かポケットの中にしまいこんで。
学校を忍耐で乗り切り帰路についた途中、黒ずくめの男に話しかけられた。
男とは言っても、俺と同い年の十七か一つ下の十六位だろう。
黒いTシャツに黒いジーパン、その上に黒いコート。
どう考えても夏にその服装は熱いだろうという服装をしていて、
その男は汗ひとつかいていなかった。
おかしな男だとそう思った。
「ここに落ちていた御札。しりませんか?」
男は何やらよくわからない…掴み所が無いのではなく、
掴めない雰囲気を纏った彼は俺にそう聞いてきた。
俺は初めて感じる雰囲気を纏った男を珍しく思いながら、
ポケットを弄り、中に入っていた御札を取り出した。
「これか?」
「そうそれ、じゃああんたに決定だ」
何やら突然男はそんな一言を言い出した。
「俺に決定?」
「そう、あんたは今から厄介に巻き込まれる、
だから、その御札を駆使して、それを生き残ってくれ」
頭には疑問符しか浮かばない。この男は何を言っているのだろうか。
どう考えても、なにか変な妄想にでも浸っちゃった変な男にしか見えない。
が、変な男にしか見えないはずなのに、疑問符しか浮かばないのに、
男の言葉に嘘はないと、なぜか俺はそれを確信していた。
だからこそ、厄介なことに巻き込まれるなんてゴメンだ。
「遠慮したい、この御札は返すから、帰ってくれ」
「ん?」
男は俺と御札を見、そして指を鳴らした。
すると、次の瞬間には、彼の体が消え道には俺一人になった。
一瞬何が怒ったかわからなかった。が、すぐに頭が追いつき理解する。
要は、逃げられたわけだ。
「………っ」
札を持つ手に力が入った。札が握りつぶされ、皺が入る。
そして、これでもかというほどtからが入ったその瞬間、
視界が揺れ、目の前の風景が途切れ、ノイズがかったようになる。
そして、風景が鮮明に戻ると、そこにはただの変哲もない一本道。
いや、変わっているとすれば、先程まで都会にいたのに、
舗装されていない道が現れたことだろうか。
なんにせよ、厄介に巻き込まれた。
「マジ?」
俺は疑問符付きでそうつぶやいていた。
****
背景、お父さんお母さん、俺は今……死にそうです。
獣にのしかかられながら心の中で呟き、自分の身に起こったことを思い出す。
先程意気揚々と人を探し始めて少しすると、変な唸り声が出てきた。
「なんだ?」
そう言いながら当たりを見回すと、黒い影が目の前に出てきた。
後は押し倒されるままなされるまま、今の状況になった。
これは死んだ。そう確信した。だって生き残る手段がわからない。
獣が大口を開けて俺の頭に迫ってくる。
瞬間、産まれてから今までの記憶が次々と目の前を流れていく。
ご親切に走馬灯というものが流れていっているようだ。
目の前を記憶が流れていくその間、周りは妙にゆっくりだった。
一説には、走馬灯は今の状況を逃れる方法を探しているとか聞いたことがある。
ものすごい速度で頭が働くから、周りがその一瞬だけ限りなく遅く感じられるそうな。
俺の記憶に、今の状況を打破できたようなことはない。死亡確定である。
さよなら俺の人生。そう感じた時、ふと、目の前にある記憶が浮かぶ。
あの御札だ、なぜか、この記憶が目の前に浮かんで消えない。
打破できるものであるはずがないのに、なぜか、目から離れない。
それは一瞬だった。走馬灯が晴れ、大きな音とともに、
目の前に差し迫った獣の顎が、目の前から吹き飛んでいった。
慌てて上体を起こすと、底にあったのはあの変な御札。
何故なのかはわからない。が、何かに暗示でもされたように、
目の前のものが命をつなぎ状況を打破する方法だと理解した。
「何なんだよっ」
悪態をついて中に浮かぶ御札をつかむ。
すると、頭に何やら言葉が浮かぶ。
『融合の御札説明書☆』
星マークを出す当たりがどうにもふざけている。
が、絶賛混乱中の俺はそれを突っ込まずにスルーした。
融合の札、意味はその名の通りだろう。異なる二つのもの一のものにする。
単純な、そう、単純な効果の御札。
『この御札は、融合するための御札です。
使い方は簡単。んー、まぁ対象を決めてドーンするんだよ。
じゃあ、この幻想郷で生き残れるように頑張ってね☆』
なんと適当な説明書だろう。こんな説明書があったのかと驚くほどだ。
しかも肝心の融合を使用するときの事がよくわからない。ドーンってなんだ。
まぁ、どちらにしろ、俺が今生き残るにはこれしか頼みの綱がない。
意味不明なことが多くて頭は混乱しているが、落ち着け、全てが終わってから考えよう。
逃げられるとは思えない。俺の見たことのある四本足の獣で、
人間よりゆっくり動いてくれるやつなんて亀かナマケモノ位のものだ。
俺は覚悟を決め、御札を強く握って目の前の獣と対峙した。
が、ドーンて本当になんなんだ。
「ド、ドーン!」
わけもなく叫んでみる。何も起こらない。
いや、吹き飛ばされたことを警戒して、こちらを睨んだままの獣に吠えられた。
そうだ、そういえば対象を決めていない。始まるわけがなかったのか。
頭のなかで、なにか合わせれば有効そうなものを思い浮かべる。
この場にあるもので、なにか役に立つもの、刃物ならば、筆箱にカッターがある。
これに組み合わせるのであれば、地面……とか? いや、それは出来ないんじゃ……
『地面とカッターを融合するぜ☆』
頭に文字が浮かぶ。何故できる。どうして出来る。ドーンはどこに行った。
そんなツッコミに対する返事はなく、代わりに俺の鞄から光の玉が出てきて、
俺の手の中に刃のないカッターが収まった。
なんだこれ。
『「カッターグラウンド」使用方法☆』
ご丁寧な用で、融合したものの使い方を教えてくれるようだ。
なんという親切設計な説明書なんだろうか、星マークがこの上なくうざいが。
最初の肝心の融合のところがあまりにも適当だが。
『どこから出したいか、どんな風に出したいかをイメージして、
あとは、そのケースを振れば、君の好きなように刃が出てくるぜ。
因みに、刃の大きさ、数は自由だぜ』
単純な操作方法、そして強力な攻撃力。もう兵器じゃないか。
「が、仕方ないな」
俺はカッターを獣に向ける。
警戒している獣は少し下がったが、すぐに持ち直し前に出て、大きく吠えた。
が、パニックを過ぎてしまって、冷静な俺に、砕けたり引けたりする腰はなかった。
頭のなかで獣を囲むように出現した刃が、獣を刻むさまをイメージする。
「南無阿弥陀仏」
そして、始めて殺すという気持ちで攻撃する自分になにか怖いものを感じながら、
俺は念仏とともにカッターを獣に向け振り上げた。
振り上げるのと同時に四方八方の地面から刃が出現する。
一瞬で、目の前の黒い獣は刃たちに切り刻まれていた。
どこかに合った緊張の糸でも切れたのか、俺はへたり込んだ。
そして、そのまま大きなため息をひとつ。今日は厄介が多いらしい。
そして、地面を見ると、今度はそこに黒い割れ目があった。
「来なさい」
そんな声とともに、俺は暗闇に無数の目が蠢く空間に落ちていった。