霧雨魔法店
今回は前回と描き方を変えました。
前回のほうが良い、または、今回のほうが良いという方がいましたら、
メッセージや感想にて伝えてくださると嬉しいです。
魔理沙が住んでいるという魔法の森、空から一見したところ、人の居住区から少しという外の世界では珍しい距離で、鬱蒼とした森があるということ以外、特になにかすごいものが有るようには見えなかった。
魔理沙は眼下に広がる森に、霧雨魔法店というお店を開いて商売をやっているらしい。売上はボチボチと言っているし、そうなんだろう…たぶん。
しばらくして、魔理沙が高度を下げたので、それに合わせて俺も高度を下げた。
高度を下げる同時に、体中に纏わりつくような湿気と、何やら真っ黒い煙でも吸ったかのような気分の悪さが襲ってきた。少し、頭が重い気がしたのは気のせいではないはずだ。
一応気になったので魔理沙に聞いてみることにする。
「魔理沙、なんか少しふらつくんだけど?」
「ん? ああ、近くにヤバイ感じのキノコでも生えてたのかな?
ここらへんのは変なキノコがよく生えてるからな。気分が悪くなったのはそのせいだろ。慣れないと気分が悪くなるのも当然か。
私の家についたら直してやるし、それまで我慢してもらって大丈夫か?」
「あーうん、たぶん大丈夫」
俺の呼びかけに速度を落として並走し、俺の顔色を見てそういった魔理沙に、不確かな部分が多くありながらもそう返した。
ゆっくり行こうぜ。魔理沙はそう言って先程よりも遅い速度で先行した。ふらつく頭を気にすることができるので、ゆっくり進んでくれるのはありがたい。倒れてしまわないように気をつけながら、空を飛んで行く。
しばらく、ゆっくりと進んでいた。視界は、もう限界に近い。ゆらゆら、グラグラ、不安定で体がまっすぐ立っているのかもよくわからない。先行する魔理沙が二重に見えて、今にも意識が消えそうだ。
「ついたぜ、すぐ直してやるからな」
そういう魔理沙の声が聞こえると同時、俺の意識は揺れる視界に飲まれていった。
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「ふいーひとまずこれでいいだろ。
大丈夫って言った途端にぶっ倒れるとは思いもしなかったぜ」
ぼんやりとした視界が戻り、意識が覚醒していく。そんな中で聞こえた魔理沙の声からすると、倒れた俺はずいぶんとヤバイ状態だったようだ。
だが、大丈夫といった途端という台詞には違和感がある。あの後も俺は飛び続けた記憶があるし、すぐ倒れたというのはどういうことだろうか。
まだ少しぼやける思考を動かし、両手をついて上体を起こしてみる。ふらつくにはふらつくが、上空にいた頃に比べると、ただ寝ぼけているという感じだし、今度は確実に大丈夫だろう。
周囲を見て俺の状況を確認してみる。俺の現在いる部屋はそのまま魔理沙の家らしい。つまるところ、ワンルームの一戸建てという結構珍しい作り。
右手には外へ続くであろう扉があり、左手の方には風呂とすぐ分かる曇りガラスでできた扉が有る。玄関の直ぐ側にはキッチンがあり、鍋が紫色の煙を立てて煮られていた。
何やら雑多な物がごちゃごちゃと床から家具から、何か何にまで乗せられていて、すごく散らかっている。それはもうこれでもかというほど盛大に。
そんな中魔理沙はというと、散らかる道具の山に刺さっているのが見える。中でなにかやっているのか彼女の揺れる体に合わせて山も動いていて、ずいぶんと危なかっしい状態だ。
「魔理沙、起きたよ」
そう、揺れるスカートに向けて声をかけると、ビクリと一揺れし魔理沙の左手が現れた。手振りからなんとか察するに、体を抜くと山が崩れるらしく、体を引き抜けないらしい。
「それで、なんとかしてと?」
魔理沙にそう聞いてみると、腕は「そのとおり」とでも声が聞こえてきそうな程に元気よくサムズアップを向けてきた。
先ほどまで気を失っていた相手に何をさせるのかと文句でも言いたいところだが、治療もしてくれたようだし、正直このままほうっておくのはよくないだろう。
ふらつく体を移動させ考える。どうひっこ抜いたものか。
頭を抱えて悩んでいると、急に俺の懐から御札が飛び出してきた。背面に書かれている言葉がまた変わっている。
『足元の巾着と空間を融合するのだ☆』
これまたずいぶんと具体的な文面だ。ちょうど足元には魔理沙のものであろう朱色の巾着が転がっている。これと、周囲の空間を融合しろというらしい。
巾着を拾い上げ、それを思い浮かべて、そこで気づいた。空間ってどうやってイメージするのだろうか。まさか漫画のようにホイホイと空間操作がつかえるわけでもない。風などの実態は無くとも身に感じられるものならばともかく、空間のようなミニ感じ用もないものはどうしたら良いのだろうか。
いや、何事も挑戦しなければわからないだろう。まずは、ぐにゃぐにゃと曲がる透明なボールをイメージしてみる。これも頭には何も聞こえてこない。これは違ったようだ。
今度は空間というのだから方眼紙の絵柄を想像してみる。頭のなかには『惜しい』と聞こえてきた。これは惜しいらしい、似ているものということは網だろうか?
予想にそって網を想像してみたが、こんどは何も聞こえてこなかった。しかし、網からの連想で檻を想像してみたところ、今度は惜しいらしかった。
方眼と檻で惜しいということは、合わせてみたものが正しいのだろうか。いや、疑問に思うなら試すのがいいだろう。方眼紙のように縦棒と横棒で作られた檻を想像し、これでは囲むだけだからと、中の方にまで縦棒と横棒を通してみる。そこまで想像したところで、頭にいつものフレーズが聞こえてきた。
『巾着と空間を融合しますか?』
迷わずイエスと念じると、目の前の巾着に金色の縦線と横線の刺繍が入っていった。ひと通り刺繍が入ったところで頭に声が流れだす。
『巾着と空間の融合品の使い方。いくらでも入るので、好きなだけものを突っ込んでください。戦車だろうが戦艦だろうが思いのまま入ります。
ただし、整理しないと欲しいものは出しにくいよ☆」
今回もなんとまぁいい加減な説明だろうか。
いや、それはいい、これでここにあるものを仕舞いこんでいけばいいわけだ。
俺は魔理沙の埋まっている山に手をかけ、手に持った巾着に手当たり次第にものを詰め込んでいった。
巾着は俺の入れるものをなんでもしまっていった。入り口で物が小さくなるから、自分の口よりも大きい物まで入る。これはどうにも意外だった。
しばらく山を崩していくと、まりさの帽子の先が見えてきた。それを持って、巾着に当てがい、引き抜きながらそのまま巾着に放り込んだ。すると、帽子の先があったところにはちょうどいい穴が開いていた。
穴から顔をのぞかせ、魔理沙に声をかける。
「大丈夫か?」
「一応な。それより、帽子かってにとらないでくれよ」
「今返すよ」
返事からして元気なようだ。さてと、帽子に手を入れて、先ほど入れた帽子を取り出す。最後に入れたものだから上の方にあって助かった。
帽子を竪穴に入れた後は、作業を再開する。魔理沙の体まで少しというところで、魔理沙が自分から起き上がってくれた。
「ふいー助かったぜ」
魔理沙は服についた埃を叩きながらそういった。
「どうしてあんな状態になったかは聞かないとして、ずいぶんと物を貯めてる性分なんだな。捨てられないとか?」
散らかっている原因を現実にも有る捨てられない性分かと予想した俺に、魔理沙は首を振りながら答えた。
「いやいや、掃除はするし、ゴミはちゃんと捨てる方だ。
ここに散らかってるのは一応何かしらのマジックアイテムだ」
「マジック……魔法がかかってるってことか?」
「そうそう、中を勝手に煮込んでくれる鍋とかそういう物」
魔理沙は少し得意気にそう話した。ここにあるのは無意味なものはないらしい。
それを聞いて、俺は一つだけ思ったことを告げてみる。
「それはわかった。でも、整頓はできないんだな」
「あーうん、それはわかってるんだぜ。道具はどけながら掃除するんだけど、収納とか少ないからどうにも散らかっちゃてさ。
もう少し広い家がほしいけど、金とかないから増設とかは難しくって」
恥ずかしそうに頭を掻きながら魔理沙はそういった。
収納、と聞いて俺は手元の巾着を思い出した。これならずいぶんと高性能な収納になるんじゃないだろうか。
そう考えた俺は、魔理沙に巾着を差し出し、使い方を言いながらそこに物を入れていった。
魔理沙は、久々に信じられないとでも言うふうな顔で、自分が握っている巾着に入っていく物品を見ていた。そして、一山をしまいこんだところで、俺の手を握ると、すごい勢いで上下させながらお礼を行ってきた。そして、しばらく指摘が住んだかと思うと、「これ約束の品な!」と言って、黒いフレームの眼鏡と藍色のメガネケースを俺の手に乗せ。「おまけ」という言葉とともに、『基礎魔法全集』という本を寄越した。
「それに載ってる魔法はショボイけど、応用魔法とかも全部それを元にして作るんだ。躱したり、防いだりするやり方を考えるのに役立つと思うぜ」
とのこと、ありがたくもらっておくことにした。
そのあと、上機嫌の魔理沙は巾着に物を詰めて部屋を片付けだした。
俺はじゃまにならないように部屋の隅により、窓から外の景色を眺めていた。まぁ、見えたのは空から見た時の予想通り、普通の森が見えただけだったが。
ただ、人里の方には少しだけ赤い靄が薄くかかっていた。このままいけば、里は覆われてしまうだろう。試しに、メガネを掛けて靄を見てみると、紫色に輝いていた。そして、その紫は妙に毒々しく見える。
異変の解決が霊夢の手伝い以外にもあったはずだ。どこからを異変というのかは知らないが、できればこの霧は異変になってほしくない。紅ならまだしも血色なんて不吉以外の何でもない。
血色、俺の一番嫌いな色。そう、一番嫌いな……。
「統治、おやつにしないか?」
魔理沙のその言葉で我に返った。
軽く返事をしてテーブルに付くと、魔理沙がクッキーと紅茶を持って来てくれた。
久々に食べたクッキーと紅茶は美味しかった。