ふつかよい
希望の少ない話となっています。
起きたら頭が痛かった。
いつものスッキリしない目覚めとはまた別の、スッキリしない気持ち悪い目覚めだ。
時計を見た。頭が痛まないように優しくゆっくり、本当は横だけど頭上を見上げるように、枕元の時計を見た。
九時だ。いちよう、午前…。
なんか、嫌になる。
ホームセンター『サンデー』は、朝七時に店を開ける。何かあって今日が、という特別な事ではなく、きっと早起きなお年寄りや農家の人の為に毎日七時に店を開けるのだろう。ということは、店員は七時よりも前に出勤している。その為に、俺が酒の力を借りて寝静まったままの頃には起きて、働く支度をしている。もっと言えば、俺が鬱々とした思いを抱えて寝るに寝られず、「寝るってどうやるのだろう?」「今死んだら、どうなるかな?」とかバカなことを考えながらビール缶を手にした頃、しんどいくらいの疲労感を覚えていたり俺なんかが簡単に押し潰されるような現実の悩みを抱えていたりしながらも、「明日の為に」って眠りについている。
なんか、嫌になる。
この感情が妬みなのか憧れなのか、それともただの自己嫌悪なのか分からないけど、とりあえずなんか嫌だ。
――俺がすごく偉い人だったらサンデーで働く人みなさんを表彰します
――けど、俺がすごく偉くなることなんてないので、ごめんなさい
こんなバカな事でも、考えると頭が痛くなる。
とりあえず、水を飲もう。
頭が重い。
それはいつもの事だけど、今日は更に、ズキズキと割れるような痛みもある。
だから、割れる様に痛いから、試しに割ってみた。
ああ、これが脳みそか…。標本やテレビとかで見た事がある、白子の様に絡まった、脳。
俺のが特別こうなのか、触ったワケじゃないけどグチョグチョしているのが見ただけで分かったし、そもそも腐っているみたいだから触りたくもない。
この脳が、俺に命令を出している。
この脳が、俺の思うあれこれを考えている。
そう考えれば、腐っているのも当然のような気がした。
なんか、見て後悔したな。
臭いものに蓋をしよう。頭を閉じよう。
そうしたらとりあえず、こんなバカな妄想はやめにしよう。
自分に何が出来るのか、何をしなければいけないのか。
何もしないで妄想の世界に逃げ込んでいた俺は、一旦そこから戻って来て、もう何度も答えを求めたけど未だに握ったペンを動かすことすらできていない程の難問に、また挑む。
けど、前回の俺と今の俺で、何が違う?
今の俺は、寿命と言うタイムリミットが少し短くなっただけで、しかもそれで焦っているワケでもない。
つまり出てくる答えは、無回答。
またペンを放り投げ、無能の無力感を味わう。
無能じゃなく無脳なんじゃないか?脳が無いから、ダメなんじゃないか? いやいや、そんなことはない。さっき頭を割って汚い脳みそがあるのを見ただろ? って、あれは妄想だっつーの。
クスリとも笑えないバカみたいなことを考えた。
俺の人生が映画だったら…考えてみた。
今のこの場面は、どこかへの伏線として使われるシーンだろうか?それとも、クライマックス目前に一旦落ち着くためのシーンだろうか? どこかに無理矢理でも使わないと、こんな怠惰な日々、見られたものではない。
まあ、俺の映画なんて「何をテーマにして何を伝えたいのか、そもそもジャンルが何かも解らない。それに…」とたくさんの言葉をもって批判されるだろう。B…いや、C級以下は間違いない。評価に値しないかもしれないし、どこぞの家に眠っているホームビデオの方がよっぽど集客力がある気がする。
俺の人生を映画にするのは、つまらなそうだ。
というより、俺の人生の映画の主人公は、どうしたって俺なのだろ?
俺は、主役なんて柄じゃない。脇役も、主役の邪魔をしそうだ。
他の人の人生も映画だとして、俺は、誰かの映画のエキストラでいい。映画だ、きっとそれは劇的な物だろう。制作資金や環境、監督の意向など色々あるのだろうが、ハッピーエンドで終わるヒーロー物がいい。
そんな映画に、俺はエキストラとして出る。
そうすれば、縁も所縁もない誰かが、俺みたいなヤツでも助けてくれる。
――あなたの映画を輝かせるのに一役買うエキストラが、ここにいます
声に出さずに叫んだ。
なにバカな事を、そう思わないようにした。
二日酔いが、三日酔いになって、五日酔いに。
そんなバカな事を考えることで、俺は人生をやり過ごしている。
ちゃんと生きているか?
そう問い掛けられたら、答えはNOだ。
周りを見たら「何やってんだ、俺は?」と自己嫌悪に陥る毎日だし、子供の頃の俺が今の俺を見たら「何やってんだ、俺は」と未来に絶望するだろう。
正直に言うと、何回も「死にたい」って思った。
けど、なんとかまだ、今は未来を向いている。
――今はちょっとアレだけど、いつかはちゃんとなっている
まだ、無根拠の漠然としたイメージでだけどそう思える。
まだ、バカな事も考えられる。
――ふつかよいが、みっかよいになって、いつかよいになれば
いつか、よくなれば…。
そんなことを思いながらふつかよいで苦しむ、午後の俺。
二日酔いの馬鹿な妄想劇、そう思っていただければ幸いです。
暗い気持ちにはならないでください。